におい・かおり環境学会誌 48巻 2 号 平成29年 114
― 特 集 ―
最近のトイレ事情熊本地震における被災地のトイレ状況および悪臭の調査
佐藤 博,重岡 久美子
熊本地震における被災地のトイレ状況および悪臭の調査を実施した1).屋外の仮設トイレのにおいレベル は清掃に依存しており,水洗式であれば和式・洋式を問わず臭気強度 2 程度と低かった.一方ドライ式は, し尿を溜めるタンクに仕切り弁がないと悪臭が発生しやすい状況であった.便器の種類では,和式は汚れ易 く清掃者の負担になっており,洋式は汚れにくいが男女別2)にするなど工夫が必要である. 災害時のトイレ対策がますます重要になってきており3), 4),今後の被災地における悪臭低減に向けて提案 を行った.1. はじめに
平成 28 年 4 月 14 日夜および 16 日未明に発生した熊 本地震による被災地においては,トイレの使用状況,ト イレから発生する悪臭が懸念されていた. そこで,環境省の依頼により,九州地方環境事務所協 力のもと,公益社団法人におい・かおり環境協会 技術 課の重岡久美子氏と現地のトイレ調査1)を実施した.2. 被災地での悪臭の状況把握および対策の助言
2.1 派遣場所,派遣日時 熊本県益城町 平成 28 年 4 月 14 日午後 9 時 26 分頃(前震)と 4 月 16 日午前 1 時 25 分頃(本震)に発生した「平成 28 年熊本 地震」で二度とも震度 7 を観測した地区 平成 28 年 5 月 3 日,4 日 5 月 3 日時点の情報 ・ 建物の損壊:益城町内で 3581 戸は全壊状態,要注意 2750 戸,調査済み 2763 戸 ・避難者:12 箇所の避難所に約 5000 人が避難 2.2 屋外の仮設トイレの臭気についての原因と対策 2.2.1 地震発生後の状況 5 月 3 日の調査時点の益城町では,低圧の簡易水道は 使用できるが,町内の約半数の地区で断水されていた. また下水処理場の 3 系統のうち 2 系統が被災し,1 系統 を応急的に復旧させていた. 町内の仮設トイレは,地震発生後すぐに町役場の備蓄 分として 167 箇所に約 2 基ずつ設置されたが不足してお り,国と民間から追加で設置されたが,個数や形式は不 明であった. なお,現地での関係者へのヒアリング調査や西日本新 聞の記事による地震発生後の仮設トイレの設置や管理に ついて表−1 にまとめた. また,5 月 2 日時点では上下水道が半数の地域で普及 したとの情報もあったが,避難所においては仮設トイレ が主に使用されていた. なお,仮設トイレには,洋式と和式,そして各々水洗 式とドライ式の計 4 タイプの種類がある.町が設置した ものは水洗式の和式タイプが多く,国が設置したものは ドライ式の和式が多かった.国では追加で,水洗式の洋 式タイプを手配しているとのことであった(5/3 時点の 情報). 今回現地を調査し,臭気の程度を 6 段階臭気強度表示 法(表−2)にて判定し,今後の悪臭の改善策について, アドバイスを行った. 2.2.2 総合体育館の現地調査 はじめに,益城町の避難所の中でも特に避難所の収容 人数が多い総合体育館へ行った. 図−2 に示すように,3 箇所に仮設トイレが設置され ていた. ・駐車場に設置された仮設トイレ 約 25 基程度で,水洗式の洋式・和式タイプが混在し ていた.清掃は 1 日 3 回実施されており,内部は清潔な 状況であった.また,水洗ということもあり,し尿は臭 気強度 2 程度と低く,芳香剤のにおいが強度 2.5 程度感 じられた. 水洗式ではあるが水量は少なかったため,詰まりを防 * ** 佐藤 博(さとう ひろし)*,重岡 久美子(しげおか くみこ)** 長崎国際大学薬学部 〒859-3298 長崎県佐世保市ハウステンボス町 2825-7 E-mail : [email protected] 公益社団法人 におい・かおり環境協会 〒169-0075 東京都新宿区高田馬場 2-14-2 新陽ビル 1106 号J. Japan Association on Odor Environment Vol. 48 No. 2 2017 115 ぐためにトイレットペーパーは中に流さず,脇に吊って いる黒いゴミ袋に入れることになっていた6).なお,こ のゴミ袋からの臭気は強い臭気ではなかった. 仮設トイレ内部は,強制的な換気設備はなく,夏場の 気温上昇時にはにおいがこもる可能性があった.また, 各個室にはスプレータイプや置き型などのいろいろな種 類の消臭剤・芳香剤などの製品が置かれていた. 水洗式は貯留タンクとの間に弁がついており,糞尿が 直視できないようになっている.また,弁の上に洗浄水 が溜まることで水封として臭気漏えいに役立っている. トイレ裏側に設置されている洗浄用の水タンクはメー カーにもよるがおおよそ 70 L 程度であり,約 200 回使 用ごとに給水が必要である. ・テント村(総合運動公園) 総合運動公園にアルピニスト野口健氏が設置したテン ト村があり,グラウンド内に約 100 張りのテントが設置 されていた.ここで生活される方向けの仮設トイレは, グラウンドを囲むように 6 箇所に各 2 基,計 12 基程度 設置されており,主にドライ式の洋式・和式タイプで あった.このテント村に設置されている仮設トイレはド ライ式が多いため,数日前までは悪臭問題が挙がってい たが,調査前に仮設トイレ用の消臭剤を貯留タンクに添 加したところ,かなり糞尿臭が軽減されており,水洗式 と同程度のにおい(臭気強度 1.5 程度)であった. 2.2.3 益城町役場の仮設トイレ 益城町役場には,入口駐車場近くに置かれた一般用仮 設トイレ(5 基)と職員用の庁舎裏側に置かれたもの(5 基)があった. 図−1 出典:公益社団法人助けあいジャパン 表−1 地震発生後の益城町における仮設トイレの設置・管理状況 日付 仮設トイレに関する状況 4/17 ・仮設トイレが不足しているとの要望が,町を通して国に伝えられる. ・体育館のトイレは断水のため使えない. ・ 1000~1500 人が避難所生活をしているが,仮設トイレは 50 基で, その 1/4 が詰まっている. ・清掃グループを結成し,清掃作業を開始. ・くみ取り業者も介入. ・高齢者が多かったため,洋式の希望あり. 4/19 ・ 民間団体が仮設トイレを設置.くみ取り作業は町がすることになる か協議. 5/2 ・1 万 1000 戸のうち,半数の 6370 戸に給水が再開. 表−2 6 段階臭気強度表示法 0: 無臭 1: やっと分かる 2: 何のにおいか分かる 3: 楽に分かる 4: 強いにおい 5: 強烈なにおい
におい・かおり環境学会誌 48巻 2 号 平成29年 116 どちらも同じ和式水洗タイプであったが,一般用は日 向にありアンモニア臭が強く臭気強度 4 程度であった. 一方,職員用は建物の日影になっていたことからアンモ ニア臭は臭気強度 2.5 程度と低めであった. 2.2.4 その他の仮設トイレ 総合体育館の避難所に設置された仮設トイレは,水洗 式が多くし尿を溜めるタンクに仕切り弁と水封があり, また管理が行き届いていて比較的し尿臭は少なかった (臭気強度 2 程度). しかし,道路端に設置されたものや車中泊の方向けの トイレの中には臭気が強いものがあった(臭気強度 4 程 度).このにおいの発生に差が生じた原因としては,清 掃からの経過時間の差や便器外側の汚れ具合が影響して いる.総合体育館では 1 日 2~3 回清掃はされているも のの,道路端や避難所以外の仮設トイレでは管理が不明 で,清掃が行き届いていない様子であった. また,和式タイプは比較的汚れやすく,便器の外側の 清掃は作業者の負担が大きい. 2.2.5 まとめ 益城町の屋外に設置された仮設トイレをタイプ別に, 悪臭対策の面から見た留意点をまとめると,表−3 のと おりである.
3. 今後の被災地における悪臭低減に向けて
今回,熊本県益城町の被災地における悪臭発生源を調 査した結果,町内や避難所居室内,震災がれきの仮置き 場においては問題となる悪臭は発生していなかった.し かし,屋外に設置された仮設トイレにおいては,悪臭が 図−2 出典:Factory.com 表−3 屋外仮設トイレにおけるタイプ別の悪臭対策アドバイス 和式 洋式 水洗式 ○水洗式なので悪臭は比較的少ない ▲汚れやすいため,清掃をこまめに する必要がある ○水洗式なので悪臭は比較的少ない ▲便座に接するのを避けるため,男 女別にしたり,便座用ウェットシー トを配備したり配慮が必要 ドライ式 ▲し尿を溜めるタンクに仕切り弁が ないと,悪臭が発生しやすい ▲汚れやすいため,清掃をこまめに する必要がある ▲し尿を溜めるタンクに仕切り弁が ないと,悪臭が発生しやすい ▲便座に接するのを避けるため,男 女別にしたり,便座用ウェットシー トを配備したり配慮が必要 ○:有利点 ▲:注意を要する点J. Japan Association on Odor Environment Vol. 48 No. 2 2017 117 発生しているものもあった. そこで今後の参考として,被災地における悪臭低減に 関し,主に仮設トイレを対象としたアドバイスを以下の 通り,まとめた. ・ 水洗式仮設トイレは,水封によってにおいの漏洩を防 いでいる為,水を切らさないように補充に注意する. ・ 臭気対策の最重要ポイントは清掃であり,清掃者が作 業しやすいよう利用頻度の少ない和式トイレの個数を 減らす事も有効5)である. ・ 清掃の時間帯は,朝食後や昼食後など利用のピークが 終わってから行うのが良い. ・ 和式タイプより洋式タイプの方が汚れにくいが,便座 に触れることに抵抗がある方の為に,男女別2)とし便 座用のウェットシートを個々に整備し,自ら掃除しや すいようにする事も一法である. ・ し尿を溜めるタンクに直射日光が当たると腐敗が促進 され,悪臭がし易くなるため注意を要する. ・ 下水道への負荷を減らす為に,引き続きトイレット ペーパーなどは屑入れに入れる. ・ ドライ式仮設トイレ用の消臭剤の試験的導入は 12 基 と少ない為,現在は問題ないが,今後他の仮設トイレ にも普及する際には,念の為この後,し尿処理場にて 行われる微生物処理の活性を阻害しない事を確認して から用いるべきである.
4. 最後に
本稿をまとめるにあたって,派遣直後の環境省請負業 務である被災地の悪臭対策アドバイザー業務報告書を参 考にした.キーワード
:トイレ,仮設トイレ,悪臭,臭気強度参考文献
1 )公益社団法人 におい・かおり環境協会:(2016),“平 成 28 年度環境省請負業務 被災地の悪臭対策アドバイザー 業務報告書”. 2 )特定非営利活動法人日本トイレ研究所:(2011),“日本 トイレ研究所アニュアルレポート ’11”,p16-65. 3 )日本トイレ協会:(2015),災害とトイレ,“トイレ学大 辞典”,p276-292,柏書房株式会社. 4 ) 特定非営利活動法人日本トイレ研究所,東日本大震災 3.11 のトイレ─現場の声から学ぶ─. 5 )上 幸雄:(2015),3.災害時トイレ対策での改善と提案, “トイレのチカラ”,p100-112,近代文藝社. 6 )特定非営利活動法人日本トイレ研究所:(2010),“日本 トイレ研究所アニュアルレポート ’10”,p48-61.Research on toilet situation/malodor in the affected areas
at the time of Kumamoto earthquake
Hiroshi SATO*, Kumiko SIGEOKA** * Faculty of Pharmaceutical Sciences, Nagasaki International University, Huis Ten Bosch-Cho 2825-7, Sasebo, Nagasaki 859-3298, Japan ** Japan Association on Odor Environment Shinyou-building 11F, 2-14-2 Takadanobaba Shinjuku-ku Tokyo, 169-0075, Japan Abstract We conducted a research on the toilet situation/malodor in the affected areas at the time of the Kumamoto earthquake. The odor level around outdoor temporary toilets depends on the cleanliness, but in general, it was low or an odor intensity of approximately 2 for flush toilets regardless of toilets being Japanese or Western style. On the other hand, malodor easily occurred with dry toilets when there was no gate valve in the storage tank for human waste. The Japanese type of toilet bowl easily becomes dirty and imposes a burden on cleaning workers, whereas the Western type becomes less dirty but must be defined for gender. Because toilet preparation at the time of disaster has become increasingly more important, we proposed a method of reducing toilet malodor for affected areas in the future.