2020 年,173∼185
原
著
小学生の跳び箱運動における
かかえ込み跳びを構成する動作の困難度の検討
佐 野
孝
∗,國 土
将
平
∗∗Investigation of Difficulty of Movements Constructing Squat Vault in Vaulting Box Exercises of Elementary School Children
Takashi Sano∗and Shohei Kokudo∗∗
The aim of this study was to understand the movement difficulty in squat vault to examine the order and content of instructions given for the technique. Participants comprised of 241 children (116 boys and 125 girls) from 5th and 6th grades. Each participant performed squat vaults while their movements were observed and recorded from the left and front side. The movements were assessed using the observation cri-terion while the difficulty parameters and ability estimates were obtained by applying the partial credit model of Item Response Theory. From this data, the relation between ability estimation value and achievement of the technique, and order of the instruction contents were examined. The research conclusions were as follows:
1)The evaluation based on the observational evaluation criteria reflects the difference in the degree of achievement of the skill.
2)Considering the movement difficulty in squat vault, we can teach the skill in the fol-lowing order: “weight transfer by arm support,” “hip rise by bouncing crossing,” “throw-ing arms forward and crouch“throw-ing forward,” “majestic jump“throw-ing and stable land“throw-ing,” and “turning back to backward rotation.”
Key words: Achievement of Technique, Order of Instruction Contents, Observational Evaluation, Item Response Theory, Partial Credit Model
キーワード:技の達成度,指導内容の順序性,観察的評価,項目反応理論,部分得点モ デル 1. 緒 言 小学校の新学習指導要領解説体育編(文部科学省, 2017)において器械運動は,「様々な動きに取り組ん ∗和歌山県かつらぎ町立渋田小学校 (Katsuragi Shibuta Elementary School)
連絡先:〒649–7151 和歌山県伊都郡かつらぎ町東渋田 151–1
E-mail:[email protected]
∗∗神戸大学大学院人間発達環境学研究科
(Graduate School of Human Development and Envi-ronment Department of Human Development, Kobe University) 連絡先:〒657–8501 兵庫県神戸市 区鶴甲 3–11 だり,自己の能力に適した技や発展技に挑戦したりし て技を身に付けたときに楽しさや喜びを味わうことの できる運動」であるとされ,その内容は,マット運動, 鉄棒運動,跳び箱運動で構成されている.そのうち跳 び箱運動には,踏み切りで生み出した前方への回転を 着手により後方への回転に切り返す「切り返し系の技 (開脚跳び,かかえ込み跳び等)」と着手により回転の 方向を変えず前方への回転を続ける「回転系の技(台 上前転等)」の2つの技グループがある.切り返し系 の技では,今回の改訂では,以前の指導要領(文部科 学省,2008)で目標技となっていた「安定した開脚跳 び」や「大きな開脚跳び」などの記述がなくなり,第 3,4学年では基本的な技の「開脚跳び」と発展技の 「かかえ込み跳び」が,第5,6学年では「かかえ込み
跳び」とその発展技としての「屈身跳び」がそれぞれ 例示されており,それぞれの技を安定して行うことを 目指しながらも,基本技で身につけた技能をもとに発 展技に取り組むという指導の構成となっている.こう した指導要領の下では,学習及び指導の系統性が重要 である. 開脚跳びは,跳び箱運動の初歩的な技として,多く の小学校で取り組まれている.開脚跳びを対象とした 研究としては,開脚跳びの動作分析や達成度に関する 研究が多く行われ,跳び越しや技の動作の熟達度にか かわる要因や練習課題の有効性が検討されている(花 井・前野,2014;久本・後藤・ 野,1986;細越・中 村・米村・高橋,2001;佐野・國土・近藤・上田・川 勝,2019).また,向山(1982)は,腕を支点とした 前方への体重移動を習得すれば,開脚跳びで容易に跳 び箱を跳び越すことができるとしている. 一方,かかえ込み跳びは開脚跳びに比べて難度が高 く,学習において跳び越しの達成まで至らない児童も 多い.かかえ込み跳びは,閉脚の姿勢で全身が跳び箱 の上を通過するため,技術的な難しさだけでなく,「頭 から落ちそう」や「足が引っ掛かりそう」といったこ とに恐怖心を感じやすい課題である(仲宗根,2014). しかし,金子(1987)は,切り返し系の技の習熟過程に おいては,かかえ込みのポーズは不可欠であるとして おり,かかえ込み跳びは切り返し系の技の体系のなか で発展性の大きい技であるといえる.そのため,小学 校段階でかかえ込み跳びの技能を身につけることは, 中学校以降の学習を見据えた場合にも重要である. かかえ込み跳びを扱った研究としては,藤巻・太田 (1992)が,跳び箱に跳び乗るという練習課題の工夫に より跳び箱への身体接触部位を減少させ,手の突き放 しへと習熟が見られることを報告している.また,伊 藤・山神(1992)は,着手局面の突き放し動作に着目 して児童のかかえ込み跳びの技能レベルを4つに分類 し,授業の経過による技能レベルの変化を検討するな かで,踏み切り時の腕の振り上げ技術や踏み切り技術 の習得が重要であることや恐怖心などの理由により十 分な踏み切りや腕の投げ出しが行われていないことを 推察している.そのため,かかえ込み跳びの指導にお いては,学習者の恐怖心にも配慮しながら,段階的に 技能を高める指導が重要である.また,佐伯(2009) も,器械運動の特性に関して,易から難へ順序よく学 ばなければ,危険でもあり技能の向上も期待できない とし,器械運動における段階的指導の重要性について 述べている.段階的な指導には,習得する技の動作を 細分化し,スモールステップで指導を組み立てること が重要である.細分化した動作の難しさ(困難度)が 把握できれば,技能レベルに応じた練習課題の設定が 可能になる.しかし,かかえ込み跳びを構成する動作 について困難度を明らかにした研究は見られない. 本研究では,かかえ込み跳びを構成する動作のス テップ困難度を明らかにするために,項目反応理論を 用いた項目特性分析を行う.これまで幼児や児童の行 う運動種目を対象として,項目反応理論を用いた研究 が行われてきた.そのなかでは,合否が判定可能な複 数の課題の通過率から運動技能や動作を評価したもの (青柳,2007a;青柳,2008;桑原・見汐・中山・風間・ 浅井・西嶋,2012)や,対象の運動動作について観察 的評価基準を作成し,その評価項目をもとに運動者の 動作を評価したもの(Čepička,2003;青柳,2006;青 柳,2007b;中野・春日・村瀬,2013;小野・徐・大山 卞・西嶋,2015;國土,2015)がある.特に,動作の 観察的評価基準は,対象の動作を細分化することで, 評価項目が設定され,各項目の動作内容が言葉で記述 されており,動作の評価だけでなく指導にも活用でき るものである.本研究で対象とするかかえ込み跳びに ついても,観察的評価基準を作成し,項目反応理論に より各項目の困難度を推定することで,段階的指導や 指導内容の順序性を検討するための有効な資料になる と考えられる. そこで本研究では,技の指導内容の順序性を検討す るため,項目反応理論を用いて,かかえ込み跳びを 構成する動作の困難度を明らかにすることを目的と した. 2. 方 法 2.1. 対象・期間・倫理事項 対象は,兵庫県内の小学校3校に在籍する5,6年 生241名(男子116名,女子125名)であった.調査 期間は,2016年9月から2017年11月の間,対象ク ラスで跳び箱運動を実施する時期とした.対象校の学 校長と授業担当者に研究内容を説明し,対象児童の保 護者に研究目的,方法,調査の安全及び倫理的配慮に 関する説明文書を配布し,同意を得た上で調査を行っ た.なお,本研究は「K大学大学院人間発達環境学研 究科における人を直接対象とする研究に関する規程」 に基づき研究倫理審査会の承認のもとで実施した.
2.2. 試技 試技は,準備運動–練習2回–本番1回とした.使用 した跳び箱は,文部科学省規格の小型跳び箱であった. 跳び箱の高さは,授業でかかえ込み跳びに取り組む際 の高さを授業担当者に確認した上で,4段(60 cm)と 5段(70 cm)から児童本人が跳ぶ高さを選択する形と した.練習試技の前に調査者から児童に対して,「助 走は自分に合ったスピードと距離で行うこと」,「跳び 越せなくても,跳び箱の上に乗るなど,できるところ まで試技を行うこと」,「着地までできる人はきちんと 止まること」の指示を行った. 図1は,撮影時の設定である.助走位置は踏み切り 板手前から6 mとし,跳躍方向から,跳び箱の前方・ 左側方7.5 mの位置からビデオ撮影を行った(毎秒 60コマ,シャッタースピード1/500秒).なお,撮影 時に,踏み切り板の手前で止まってしまう,開脚跳び を実施してしまうなど,かかえ込み跳びを実施できな かった児童がみられた.これらの児童については,調 査者が確認したところ,かかえ込み跳びを習得できて おらず,技能レベルの面で課題があったと考えられ, 分析から除くこととした.最終的な分析対象者は215 名(男子98名,女子117名)となった. 2.3. 評価方法 まず,技の動作評価基準を次の手順により作成した. (1) 技に関する先行文献(浜田,1966;久本他,1986; 金子,1987;佐野他,2019)から,かかえ込み跳 びの動きのポイントとして書かれた記述を,技 の習得において重要な動作観点として抽出し, それらを技の7つの運動局面(助走,予備踏み 切り,踏み切り,第一空中局面,着手,第二空 中局面,着地)に整理した. 図 1. 撮影時の設定 (2) K大学の教員志望学生及び体操競技部学生33 名(男子15名,女子18名)と撮影した小学生 215名の動作を確認し,観察的に評価可能な観 点を絞り込み,評価段階を設定した. 表1は,作成されたかかえ込み跳びの観察的動作評 価基準である.評価基準を活用し,観察的評価を実施 した先行研究の手法(油野・尾縣・関岡・永井・清水, 1995;國土,2012)に基づき,小学生215名の動作を 通常・スロー・コマ送り再生により評価した.助走距 離とスピードの個人差を考慮し,踏切3歩前から着地 までを評価範囲とした.また,かかえ込み跳びの達成 度を5段階(⃝1跳び箱に膝で乗る,⃝2跳び箱に足で乗 る,⃝3跳び箱に足が触れて跳び越す,⃝4跳び越す,⃝5 着地まで安定して跳び越す)で評価した. なお,本研究における評価は,観察者A(筆者)と 観察者Bによる2名での評価を行い,評価結果が異 なる場合や判断が難しい場合には合議した上で評価を 行なった.観察者Aは,小学校教員専修免許の取得可 能な修士課程に在籍する大学院生であり,TAとして 授業での学生への器械運動の指導経験があり,幼児か ら小・中学生までの走運動及び投運動の観察的動作評 価の経験がある.一方,観察者Bは,小学校教員一種 免許の取得可能な学士課程に在籍する大学生であり, 体操競技歴や子どもの運動の動作評価の経験はなかっ た.観察者Bを選定した理由は,器械運動の専門性や 動作評価の経験が少ない場合でも児童の動作を適切に 評価できることが,実際の指導に活用できる評価基準 として重要であると考えたためである. 2.4. データ分析 2.4.1. 項目の精選 項目反応理論の実行にあたり,かかえ込み跳びの動 作を的確に評価できる項目を精選するため,項目分析 を行った.まず,各項目の得点分布を算出し,最も高 い評価段階の分布が90%以上の項目と,最も低い評 価段階の分布が90%以上の項目を除外した.次に, 主成分分析を行い,第1主成分への負荷量が0.4以上 であった評価項目を分析対象とした. 2.4.2. 項目反応理論を用いた困難度の推定 項目反応理論において,測定する尺度が局所独立性 及び一次元性を有することが重要な前提となる.運動 動作を対象とした先行研究においては,評価基準の作 成段階で項目間の独立性を満たすように評価項目を構 成すること(桑原他,2012;小野他,2015)や項目群の
表 1. かかえ込み跳びの観察的動作評価基準 一次元性を確認すること(青柳,2004;青柳,2007a; 青柳,2007b)により,局所独立性の検討が行われてい る.そこで,本研究においても,技に関する文献の記 述及び技の動作映像にもとづく評価観点の抽出におい て,それぞれが独立した評価項目として扱えるよう, 必要に応じて評価段階を追加するなどして評価基準を 作成した.そして,ポリコリック相関係数を用いたカ テゴリカル因子分析(1因子解,重み付き最小二乗法) を行い,抽出された因子の寄与率をもとに,分析対象 となった項目の一次元性を確認した. 次に,項目反応理論を適用し,各項目の困難度パラ メタを推定するとともに,対象児童の能力値(θ)を推 定した.本研究で用いる動作評価基準は,2段階の評 価得点だけでなく,3以上の評価段階からなる項目も 含まれているが,多値データを扱う項目反応理論のモ デルとして,段階反応モデル及び部分得点モデルがあ げられる.青柳(2004)は,モデルに対応した標本数 の目安として,3パラメタでは1000名程度,2パラメ
タでは500名程度,1パラメタでは100–200名程度を 示した上で,運動能力の測定では多くの標本を集める のが難しく,より少ないパラメタのモデルの採用が実 用的であると述べている.本研究の分析対象者が215 名であることから,安定した推定を行う上で,1パラ メタのモデルによる推定を行うことが望ましいと考え られる.よって,段階反応モデル及び部分得点モデル ともに,識別力パラメタが1つの値になるよう制表2. 各項目の得点分布及びI-T相関係数約を置いた上で推 定を行い,対数尤度及び情報量基準(AIC,BIC)の 値をもとに,モデルの選択を行った. 2.4.3. 技の達成度ごとにみた能力値の比較 推定されたかかえ込み跳び動作の能力値が,技の達 成度を反映したものであるかを検討した.まず,達成 度ごとの能力値の平均値及び標準偏差を算出した.次 に,かかえ込み跳びの達成度について能力値に差があ るかを調べるため,一元配置分散分析を行い,事後検 定として多重比較(ボンフェローニ補正)を行った. 2.4.4. 統計処理ソフト 統計処理ソフトはR version3.6.1を使用した.主成 分分析にはpsychパッケージ(Revelle,2018)の prin-cipal関数,カテゴリカル因子分析には,fa関数を用い た.項目反応理論には,ltmパッケージ(Rizopoulos, 2018)を使用し,段階反応モデルにはgrm関数,部 分得点モデルにはgpcm関数を用いた.なお,本研究 における有意水準は5%とした. 3. 結 果 3.1. 項目の精選 表2は,各項目の得点分布及びI-T相関係数の値 を示している.得点分布を算出した結果,助走局面の 「2. スピード」,着手局面の「18. 両手の え」の2項 目で,最も高い評価得点への分布が90%以上であっ たため,分析から除外した.また,予備踏み切り局面 の「7.腕の後方への引き」の項目では,最も低い評価 得点への分布が90%以上であったため分析から除外 した.表3は,残った30項目について行った主成分 分析の主成分行列を示している.結果より,第1主成 分への負荷量が0.4以上であった17項目を分析対象 とした. 3.2. 推定された動作項目の困難度 17項目について,ポリコリック相関係数を用いた 表 2. 各項目の得点分布及び I-T 相関係数 カテゴリカル因子分析(1因子解,重み付き最小二乗 法)を行った結果,第1因子の固有値は8.02(寄与率: 47.2%),第2因子の固有値0.51(3.0%),第3因子の 固有値は0.26(1.5%)であり,第1因子の固有値は, 第2因子以降と比較して著しく大であり,選定した項 目は等質性が高く,一次元性を有すると判断した. 表4は,識別力を1つの値になるように制約を置い た段階反応モデル及び部分得点モデルにより推定した 際の対数尤度,情報量基準(AIC,BIC)の値を示し
表 3. 主成分分析の結果 表 4. モデル選択 ている.これらの結果より,本研究では部分得点モデ ルの推定結果を用いて,動作項目の困難度を検討する こととした. 部分得点モデルによる推定を行なった結果,識別力 は,全項目において2.541(標準誤差:0.145)となっ た.表5は,各項目の困難度を推定した結果である. 部分得点モデルにおいては,困難度パラメタ(b)は, あるカテゴリと次のカテゴリとに含まれる確率がそれ ぞれ50%になる点として,「ステップ困難度」と表現 される(青柳,2008).予備踏み切り局面から踏み切 り局面の動作項目は,「5. 自由脚の屈曲調整」,「11. 上体の軸づくり」,「13. 足部の接地先取り」,「15. リ バウンドジャンプ」の4項目である.ステップ困難度 は,0.087から1.746の範囲で分布していた.第一空 中局面の動作項目は,「16.腕の投げ出し」と「17. 腰 の上昇」の2項目であり,ステップ困難度は,0.225 から1.746の範囲で分布していた.着手局面の動作項 目は,「20. 手の突き放し」,「21. 肩の起こし」,「29. 前方へのかかえ込み」の3項目である.ステップ困難 度は,0.048から1.591の範囲で分布していた.第二 空中局面の動作項目は,「22. 後方回転」,「23. 目線」, 「32. 両脚のコントロール」,「24. 膝のゆるみ」,「25. 腕の上昇」の5項目であった.ステップ困難度は,最 低評価の1点を除くと0.493から2.512の範囲で分布 していた.着地局面の動作項目は,「26. 腕の振り下 ろし」,「27. 腰・膝の屈曲」,「28. 静止姿勢」の3項 目であった.項目のステップ困難度は,最低評価の1 点を除くと,0.238から2.142の範囲で分布していた. 最もステップ困難度の低い動作項目は,「21. 肩の 起こし」で,着手後に肩を前方へ移動させる動作で あった(b21-2= 0.048).最もステップ困難度が高い 動作は,「25.腕の上昇」で,離手後に腕を体の前方に 上げ,着地時の振り下ろしの準備をする動作であった (b25-3= 2.512).第二空中局面以降の動作について, 最低評価である1点の評価段階についてもステップ困 難度が推定されているが,これは跳び箱の上に乗って 動作が中断し,以降の動作が出現せず0点評価になっ た児童がおり,評価段階が1つ追加されたためであ る.着地局面の「27. 腰・膝の屈曲」において,1点 評価のステップ困難度(b27-1= 0.547)が2点評価の ステップ困難度(b27-2= 0.238)を上回り,単調増加 を示していない.これは,跳び越しが成功して着地局 面まで到達した場合に,大半の児童が膝の屈曲を伴う 着地動作を行うことができることを示している.かか え込み跳びは,両脚を屈曲させて跳び越すために,膝 の屈曲を伴う着地が容易であったと考えられる. 図2は,推定されたかかえ込み跳び動作の能力値の 分布を示している.対象児童の能力値はθ =−1.14 からθ = 1.96までの範囲に分布しており,点線で示 した部分から左側が「跳び箱の跳び越しができないグ ループ」,右側が「跳び箱の跳び越しができるグルー プ」であった.テスト情報関数(図3)では,θ = 0.50 付近で情報量が最大値を示した.
表 5. 推定されたステップ困難度及び標準誤差 図 2. 対象児童の能力値の分布 3.3. 技の達成度ごとにみた能力値の比較 かかえ込み跳びの 達成度ごとの能 力 値の平 均 値 を算出した結果(図 4),「⃝1跳び箱に膝で乗る」で θ = −0.92±0.33,「⃝2跳 び 箱 に 足 で 乗 る 」で θ = −0.58±0.42,「⃝3跳び箱に足が触れて跳び越す」で θ = 0.74±0.26,「⃝4跳び越す」でθ = 0.84±0.26,「⃝5 着地まで安定して跳び越す」でθ = 1.12±0.38となっ た.部分得点モデルにより推定された能力値が,かか え込み跳びの達成度を反映するものであるかを調べる 図 3. テスト情報量曲線 ため,かかえ込み跳びの達成度ごとの能力値について 一元配置分散分析を行い,多重比較を行った.その結 果(表6),かかえ込み跳びの達成度別の能力値に有意 差が認められた(p < 0.01,η2= 0.84).多重比較の 結果,「⃝3跳び箱に足が触れて跳び越す」と「⃝4跳び越 す」の組み合わせを除く全てで有意差が認められた.
図 4. 技の達成度ごとにみた能力値 表 6. 分散分析及び多重比較の結果 4. 考 察 4.1. 項目の精選と動作項目の困難度 項目を選定した結果,33項目から17項目が分析対 象となった.除外された項目について,助走局面の動 作はほとんどの児童がスムーズな助走を達成できてい た.踏み切りの手前で歩幅を合わせたり,減速せずに 予備踏み切りに入ったりする動作は,本研究で対象と なった5,6年生の高学年児童にとって,特に簡単な動 作であったと考えられる.また,踏み切り時の腕の振 り上げ動作に関わる項目7,項目10,項目12は大半 の児童が最低評価となった.評価基準の作成段階で, 体操競技部学生の動作では腕の振り上げ動作が確認で きたが,小学生の動作では腕の振り上げはほとんど見 られず,体操競技など特殊な学習経験が必要となる動 作とも考えられた. 主成分分析の結果より,第2主成分以降に着目する と,第2主成分では踏み切り局面の動作に関わる項目 の負荷量が高い.項目5,項目11,項目13について は,第1主成分への負荷量も高かったが,「6. 踏込脚 の追いつき」や「14. 接地タイミングの同期」といっ た両足を えて踏み切る動作に関与する項目は,第1 主成分への負荷量が0.4を下回っていた.第3主成 分では,かかえ込み動作において両脚を える動作に 関わる項目の負荷量が高かった.これらの動作もかか え込み跳び動作をあらゆる観点から総合的に評価する 上で重要である.しかし,項目選定の段階では,切り 返し系の技の中核的な技能である「踏み切りにより生 み出した前方への左右軸回転を着手により後方回転へ との切り返す動作」(白石,1985;金子,1987;進藤, 1988,三上・熊谷,2016)の評価に関わる項目に焦点 をあてることとした.第1主成分への負荷量が高かっ た17項目をみると,予備踏み切り・踏み切り局面か ら第一空中局面における前方への左右軸回転を生み出 す動作に関わる項目,着手局面から第二空中局面にお いて前方回転を後方回転へと切り返す動作に関わる項 目,技の終末局面である着地局面の動作項目が含まれ ており,第1主成分は上述したかかえ込み跳びの中核 的な技能を示すものであると解釈した.また,カテゴ リカル因子分析の結果より,17項目は一連の動作にお ける技の基礎技能を一次元的に評価できる項目である と判断した. 部分得点モデルにより各項目のステップ困難度を推 定した結果,17の動作項目の評価段階に対応したス テップ困難度は,およそ0.00から2.50の範囲に分布 していた.対象児童の能力値の分布を考慮すると,本 研究で作成された評価項目は,跳び越しの成否が分か れる部分の能力値(θ = 0.20付近)の対象者及び跳び 越しができるグループの対象者の評価において有効な 項目が多かったと考えられる.一方で,最も人数の多 かったθ =−1.00以下の対象者については,その能力 値を詳細に評価できる項目が不足していると考えられ る.そのため,かかえ込み跳び動作の能力をより広く 評価するためには,跳び箱を跳び越すことのできない 児童にとっても,ある程度達成が可能である簡単な評 価項目の設定が必要となる. テスト情報関数についても,θ =−1.00以下の部 分における情報量は少なく,θ = −1.00付近から
図 5. 動作項目のステップ困難度からみた能力値の境界値 θ = 0.50付近まで情報量が急激に増加しピークに達 したのち,θ = 3.00付近まで緩やかに減少傾向を示し た.これは,まずθ = 0.50付近で跳び箱を跳び越せな いグループと跳び箱を跳び越せるグループとを明確に 弁別し,θ = 0.50からθ = 2.00付近までの区間にお いて,跳び越せるグループの中でより安定した雄大な 動作や着地が安定しない動作などの技の出来映えを弁 別できる尺度であることが示されていると解釈した. 4.2. 技の達成度からみた能力値の比較 かかえ込み跳びを実施した際の外見的に捉えられる 技の達成度を5つ設定し(⃝1跳び箱に膝で乗る,⃝2跳 び箱に足で乗る,⃝3跳び箱に足が触れて跳び越す,⃝4 跳び越す,⃝5着地まで安定して跳び越す),評価を行っ た.本研究で扱った技の達成度は,跳び箱運動に専門 性を有していない者にとっても明らかに判断できるも のであった.技の達成度ごとに項目反応理論で推定さ れた能力値を比較した結果,「⃝3跳び箱に足が触れて 跳び越す」と「⃝4跳び越す」との間には有意差が認め られなかったものの,その他の全ての組み合わせで能 力値に有意な差があることが明らかとなった.このこ とから,分析に用いた17項目から推定される能力値 は,外見的に捉えられるかかえ込み跳びの達成度を概 ね反映するものであると判断した.なお,跳び越す際 に跳び箱に足が触れる動作を行った場合は,跳び箱を 跳び越せる動作と技能的な差はほとんどなく,この2 つの動作を弁別するためには,踏み切りや着手の位置 関係を含めた尺度を構成する必要があると考える. 4.3. 構成動作の困難度に基づく指導順序の検討 図5は,17の動作項目について,推定されたステッ プ困難度に基づき,1点から2点への困難度の低い順 に配列したものである.ここで示された構成動作のス テップ困難度をもとに,以下に,かかえ込み跳びの段 階的指導の参考となる指導内容の順序性を検討する. 易から難へと動作の指導をするにあたり,17の項目 ごとに練習課題を位置付けるのは現実的ではない.そ のため,配列された動作項目を概観し,かかえ込み跳 びの能力値が向上するにつれて,技動作にどのような 質的変化が見られるかを同じ運動局面にある動作項目 のまとまり等を参考に,5つの段階に区切ることとし た.その5つは,「腕支持による前方への体重移動」, 「弾むような踏み切りと腰の上昇」,「腕の投げ出しと 前方へのかかえ込み」,「雄大な踏み切りと安定した着
図 6. 前方への体重移動 地姿勢」,「明確な回転の切り返し」である.これら5 つの段階は,別々の技能としてではなく,一次元的に 表現されるかかえ込み跳びの能力値の変化により,外 見的に表出する動きの変化を示したものである.その ため,これらは技の習得段階を直接示すものではない が,指導の際には,能力値に応じてそのときに目指す 動きのイメージを表した資料になると考えられる. 4.3.1. 腕支持による前方への体重移動 まず,かかえ込み跳びの学習を始めるにあたり,閉 脚かかえ込みの状態をつくり,それを腕で支えて前方 に体重移動する動作(図6)の習得を目指していくこ とが重要となる.該当する項目を踏まえ,以下のよう な動作の習得が目指される. •着手後に後方への送り動作が見られる(「20.手の 突き放し」の段階2〈b20-2= 0.067〉) •着手位置より肩を前方に出す(「21. 肩の起こし」 の段階2〈b21-2= 0.048〉) この2項目は他の動作に比べて困難度が低く,取り 組みやすい課題であるといえる. 4.3.2. 弾むような踏み切りと腰の上昇 次に,弾むような踏み切り動作の習得を目指してい くことが重要となる.具体的な上半身が極端に前かが みになり,踵から踏み切り板に接地し膝の深く曲がっ たジャンプから,接地前に上体の軸を作り,前足部に 体重を乗せ弾むようなジャンプができるようになるこ とが課題となる(図7).この段階では,以下のような 動作の習得が目指される. •接地時に前足部に体重が乗っている(「13. 足部 の接地先取り」の段階2〈b13-2= 0.087〉) •腰がおよそ水平まで上がっている(「17. 腰の上 昇」段階2〈b17-2= 0.225〉) •上体を起こして踏み切りに入れている(「11. 上 体の軸作り」の段階2〈b11-2= 0.272〉) •踏み切り前に足部が膝よりも前に出ていない(「5. 自由脚の屈曲調整」の段階2〈b5-2= 0.480〉) •膝を深く曲げずにジャンプできている(「15. リ バウンドジャンプ」の段階2〈b15-2= 0.480〉) 図 7. 弾むような踏み切り この時点で,第二空中局面の動作が出現し,跳び箱 の跳び越しが成功する場合が見られ始める.しかし, 強い踏み切りを行う際,着手技能が体を支えて前方へ 体重移動する動作であった場合は,踏み切りと着手の バランスが崩れた過度な前のめり姿勢による転落・転 倒が起きる危険性もあるため(金子,1987;佐野他, 2019),安全な練習の場の設定が必要になる. 4.3.3. 腕の投げ出しと前方へのかかえ込み 次に課題となるのは,踏み切り後の腕の前方への投 げ出しである.それまでは,弾むような踏み切りが達 成されたとしても踏み切り離地前に跳び箱に着手して しまう場合が見られるが,踏み切り脚の伸展後に着手 し,第一空中局面を明確に生み出す動作を身につけら れるようにする.この段階では,以下のような動作の 習得が目指される. •かかえ込みで跳び箱を跳び越す際に,膝下の振り 出しが抑えられている.(「32. 両脚のコントロー ル」の段階2〈b32-2= 0.801〉) •踏み切り完了後に着手する(「16. 腕の投げ出し」 の段階2〈b16-2= 0.877〉) •両脚を上方向でなく,前方にかかえ込む(「29. 前 方へのかかえ込み」の段階2〈b29-2= 0.941〉) 踏み切り後に腕を投げ出す動作の習得においては, 仲宗根(2014)の指摘する恐怖心の影響も考えられる ため,心理的にも取り組みやすい練習課題やセーフ ティマット及び調整板などの教具を工夫することが重 要となる.また,かかえ込み動作についても,踏み切 り後に両膝を胸まで上方向に引きつける動作から,後 方から前方向へと一気に両脚をかかえ込み,第二空中 局面での膝下の振り出しを抑えた安定した跳び越しを 目指していくことが重要である. 4.3.4. 雄大な踏み切りと安定した着地 跳び箱の跳び越しが達成された次の段階として,雄 大な踏み切りと安定した着地を両立させた動作の習得 が課題となる(図8).この段階では,以下のような動 作の習得が目指される.まず,踏み切りからの前方回 転に関わる項目として, •踏み切り完了後に大きく前方に腕を投げ出す(「16.
図 8. 手の突き放しと安定した着地 腕の投げ出し」の段階3〈b16-3= 1.282〉) •接地と同時に膝を伸展させ弾むように踏み切る (「15. リバウンドジャンプ」の段階3〈b15-3 = 1.399〉) •腰が肩より上に上がる(「17. 腰の上昇」の段階3 〈b17-3= 1.591〉) •前足部で踏みつけるように接地する(「13. 足部 の接地先取り」の段階3〈b13-3= 1.746〉) 着手による後方回転から着地までの動作項目として, •着地時に静止姿勢をつくることができる(「28.静 止姿勢」の段階2〈b28-2= 1.160〉) •着手時に突き放し動作が見られる(「20. 手の突 き放し」の段階3〈b20-3= 1.271〉) •着地時に腕を振り上げてバランスをとる(「26.腕 の振り下ろし」の段階2〈b26-2= 1.457〉) •着地時に,腰や膝を屈曲させてバランスをとる (「27. 腰・膝の屈曲」の段階3〈b27-3= 1.466〉) •跳び越しの際に,目線で着地位置を先取りしてい る(「23. 目線」の段階2〈b23-2= 1.533〉) 特に,着地の安定は,その技の出来映えを最も表す ものであり,安全面を考えても,安定した着地を実現 する動作の習得は重要である.また,白石(1985)は, 安全な着地における着手局面の重要性を指摘してお り,弾むような踏み切りから着手局面の手の突き放し 動作,第二空中局面の安定した姿勢をつくる動作の習 得も望まれる.この段階になると,跳び箱の跳び越し は達成されており,技の安定性や雄大さといった出来 映えが主な評価対象となると考えられる. 4.3.5. 明確な回転の切り返し 最後の段階として,前方回転から後方回転への回転 の切り返しをよりはっきりとダイナミックに行うこと を目指していくことが課題となる(図 9).この段階 では,以下のような動作の習得が目指される. •離手後に肩が上方に上がる(「21. 肩の起こし」の 段階3〈b21-3= 1.923〉) •着地時に腕を振り下ろしてバランスをとる(「26. 腕の振り下ろし」の段階3〈b26-3= 2.142〉) 図 9. 回転の切り返し •第二空中局面で後方への回転の切り返しがみとめ られる(「22. 後方回転」の段階2〈b22-2= 2.159〉) •第二空中局面で腕が前方へと上がる(「25. 腕の 上昇」の段階3〈b25-3= 2.512〉) 明確な切り返しを実現させることで,着手後に上方 に浮き上がるような動きが表出し,両脚をコンパクト にかかえ込む必要性が下がる.このような動作は,以 降に学習する「屈身跳び」や「伸身跳び」などの難度 の高い発展技の習得につながるものである.しかし, 困難度を見ると,小学校段階ではこれらの動作を習得 できる児童はごく少数であり,体育の授業において, どの程度の技能の習得を目標とするのかについては, 児童の実態に合わせて検討することが必要となる. 4.4. 本研究の限界と今後の課題 本研究の限界としては,まず項目反応理論の適用に あたり,かかえ込み跳びの動作評価基準にある33の 動作項目のうち,17項目のみを用いて能力値及び困難 度の推定を行った点があげられる.切り返し系の技に おいて中核的な技能である「前方回転から後方回転へ の切り返し」に関わる項目を用いたが,かかえ込み跳 びを複数の能力の組み合わせと捉え,因子分析や認知 診断モデル等により多次元的に評価した場合に,本研 究で除外された16項目の情報も加味した結果が得ら れる可能性がある. もう一つの点としては,本研究で提示している指導 順序は,技の構成動作を項目反応理論の部分得点モデ ルにより推定された困難度の低いものから配列し,そ の配列から運動局面の動作のまとまりをもとに設定し たものであり,指導段階を断定するものではない.実 際に指導に活用する場合には,複数の項目のどのよう にまとめ,どのような練習課題をもって一つ一つの動 作の習得に取り組むかの検討も必要となる.今後は, 実際の指導場面を想定した評価方法及び指導方法につ いても検討を行いたい. 最後に,本研究で作成した評価基準は,その作成段
階において評価対象とした児童と同一の映像を使用し ており,評価項目の設定が対象となった児童の動作に 最適化されたものになっている可能性がある.そのた め,本研究で作成した評価基準が,一般的な小学5・6 年生のかかえ込み跳び動作をある程度適切に評価しう るものであるかの検証を行うことが重要となる.そこ で,今後は本研究とは別の児童を対象に,評価基準に もとづく追試を行う必要がある. 5. ま と め 本研究の目的は,技の指導内容の順序性を検討する ため,かかえ込み跳びを構成する動作の困難度を明ら かにすることであった.かかえ込み跳びの観察的動作 評価基準をもとに小学生の動作を評価し,項目反応理 論部分得点モデルにより,かかえ込み跳びの各動作項 目の困難度を分析した. 結果から,以下の結論が得られた. 1. かかえ込み跳びの動作項目の評価は,外見的に 把握可能なかかえ込み跳びの達成度の違いを反 映するものである. 2. かかえ込み跳びの構成動作の困難度を踏まえる と,「腕支持による前方への体重移動」,「弾むよ うな踏み切りによる腰の上昇」,「腕の投げ出し と前方へのかかえ込み」,「雄大な踏み切りと安 定した着地」,「明確な回転の切り返し」を,習 得を目指すべき動作として段階的に指導するこ とができる. 謝 辞 本研究を実施するにあたり,ご協力くださった対象 小学校3校の先生方,そして調査実施にご快諾いただ いた児童ならびに保護者の皆様に心より感謝申し上げ ます. 参 考 文 献 油野利博・尾縣貢・関岡康雄・永井純・清水茂幸 (1995). 成 人女性の投運動の観察的評価法に関する研究. スポー ツ教育学研究, 15, 1, 15–24, doi: 10.7219/jjses.15. 15. 青柳領 (2004). 合否判定型運動能力テストへの項目応 答理論の応用. 体育学研究, 49, 507–518, doi:10. 5432/jjpehss.KJ00003391027. 青柳領 (2006). 項目応答理論による幼児の投動作フォー ムの主観的評価法. 体育測定評価研究, 6, 1–9. 青柳領 (2007a). 成功回数によるスキルテストへの項目 応答理論の適用:バスケットボールシュートへの事 例. 体育学研究, 52, 259–271, doi: https://doi.org/ 10.5432/jjpehss.0452. 青柳領 (2007b). 項目応答理論を用いた 2 段階テストによ る幼児の立幅跳のフォームの主観的評価法. 行動計 量学, 34, 2, 155–170, doi: 10.2333/jbhmk.34.155. 青 柳 領 (2008). ス キ ル テ ス ト へ の 項 目 応 答 理 論 の 適 用(2)—Rasch 系モデルによる幼児の運動技能の 推定—. 体育学研究, 53, 409–421, doi: 10.5432/ jjpehss.a5302_409.
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