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全身運動と精緻運動が一体化した書家の描画スキル

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Academic year: 2021

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(1)Japanese Journal of Ecological Psychology 2021, Vol. 13, No. 1, 53 - 55. 生態心理学会第 8 回大会 オープンフォーラム. 全身運動と精緻運動が一体化した書家の描画スキル Gross Motor Skill Incorporates Fine Handwriting: Dynamical Postural Transition of an Expert Calligrapher 野澤 光(東京大学)1. 本研究は,文字をかく書家の描画姿勢を,全身協調という観点から検証した.プロの書家 1 名が,漢字を臨書 する過程の筆尖・頭部・体幹軌道の相互結合の度合いを,相互相関関数を用いて評価した.その結果,書家の身 体が,筆尖と体幹の運動を強く結合させていること,また,この結合度合いが,字画の特定の描画局面に応じて 変化することが示された.筆尖と体幹の 2 変数は,とりわけ「点」の収筆動作や「払い」動作において,強く結 合していた.この結果は,書家の身体が,字画を描画する場面に応じて協調パターンを変化させる,全身を使っ た描画姿勢を獲得していたことを示している. Keywords: 書道, 精緻運動, 姿勢制御, ベルンシュタイン. 1. 背景と目的 本研究は,書家の描画姿勢を,全身協調という観点から. 検証する.本研究の目的は,書家の体幹・頭部・筆管が, 文字描画中,いかに共変して描画姿勢を形成しているのか を,明らかにすることである. 情報処理アプローチにおいて,文字をかく動作は,手運 動の精緻な制御を要求する,運動制御課題とされてきた. 運動学習では伝統的に,出力器とは独立的に保存された運 動表象(Generalized Motor Program)が出力される過程とし て,書字動作を捉えてきた(Schmidt & Lee, 2014;Wing, 2000). このアプローチに立ったとき,書字動作は,まず中枢にお ける表象というレベルから研究されることになり,筆や紙 や墨を用いて文字をかく,環境における身体というレベル は,二次的な問題とならざるを得ない.. Figure 1. 実験風景. 一方,書家の書字技能を,周囲の環境と身体がむすぶ関. 1. 係から記述した研究も複数ある(Nonaka, 2013;野澤, 2021).. の研究は,中枢の表象からではなく,環境と身体との関係. たとえば,四肢麻痺をもつ書道熟達者の運動協調を,非制. の安定性という観点から,身体運動の諸変数を補償的に組. 御 多 様 体 解 析 (Un Controlled Manufold Analysis)(Scholz,. み合わせる能力として,熟達した書家の書字技能を記述す. 1998)で評価した研究(Nonaka, 2013)は,書家の描画動作が,. ることに成功している.. 筆圧・筆の角度・頭位の直立,という 3 つのタスク変数の. 以上の背景から,本研究は,文字をかく書家の描画姿勢. 機能的な出力の安定性を確保しながら,この安定性に影響. を,全身協調という観点から検証した.仮に,書家の書字. しないかぎりでの,関節配置の変動性を可能とするような. 技能が,周囲の環境と身体とがむすぶ関係と切り離せない. 仕方で,協調関係を形成していたことを明らかにした.こ. ならば,Nonaka(2013)と同じく,書家の身体運動は,周囲. Hikaru NOZAWA(The University of Tokyo): [email protected]. Copyright © 2021, The Japanese Society for Ecological Psychology.

(2) 54. Hikaru NOZAWA. の環境の制約に対して適応的なかたちで,スキル化されて. が類似している一方,頭部の周波数には,見本と臨書の文. いると推測される.. 字を小刻みに観察する,動作成分が含まれていたことを示. 2. 方法. している (Figure 2 左下).. 2.1. 課題と機材. 実験では,プロの書家 1 名が古典を臨書する過程の,運 動データを記録した(Figure 1).北魏の碑文『鄭羲下碑』の 17 文字「父官子寵才徳相承海内敬其榮也先假公」を「形臨 (外形に忠実な臨書)」するよう指示した.実験中の運動デ ータは VICON SYSTEM(60Hz)で計測した.. 次に,これら 3 変数の結合度合いを,相互相関関数を用 いて評価した.相互相関関数は,幅 60,最大遅れ値 60, ステップ 1 の窓を使用し,字画描画時間内で窓を移動させ て,相互相関係数と遅れ値を算出した.頭部×筆管,筆管 ×体幹の相互相関係数を正規化し,平均値と SD を検討し た結果,筆尖×体幹の組み合わせにおいて,遅れ値 0 付近 に,平均 0.2 以上の強い結合関係が見られた(Figure 3 上段 左右).このため,筆尖×体幹の相互相関係数について,全 16 試行の描画時間を正規化して,全試行での等高線図を 作成した.その結果,筆尖と体幹は,字画描画の特定の局 面で,強結合する振る舞いを示していた(Figure 3 下段).. Figure 2 典型例 1 試行目「父」での筆尖・体幹・頭 部の 3 次元軌道.左上: 筆尖. 右上: 体幹. 右下: 頭部. 左下: 各軌道の周波数ヒストグラム.. モーションマーカーは筆管 3 点, 頭部 3 点,両肩峰 2 点に 添付した.マーカーの位置座標時系列は,3 次スプライン 補完で欠損値を補完し,バターワースローパスフィルタ (カットオフ領域 = 2.25Hz, 次数 = 5) を用いて平滑化処 理をおこなった. 2.2. 結果. 分析では,書家のかいた 17 文字のうち,1文字目「父」 のみを解析した.筆尖・頭部・体幹の軌道を,3D モーシ ョンキャプチャの位置座表示時系列から再構成した.体幹 の指標として使用したのは,両肩峰のマーカーの中点であ る (Figure 2 左上, 右上, 右下). 字画描画時間中の各軌道の周波数分布を検討した結果, 頭部軌道が 0.5Hz, 1.5Hz 付近に極大値を示す二峰性である のに対し,筆尖,体幹軌道は 0.5Hz 付近に極大値を示す一 峰性を示していた.この結果は,筆尖と体幹の周波数成分. Figure 3 上段: 筆尖×頭部, 筆尖×体幹の相互相関 係数の平均値と SD.筆尖×体幹の遅れ値 0 に 0.2 以上 の結合関係が見られる.下段: 筆尖×体幹の相互相関 係数の時間変化.全試行での平均値の等高線を,描画 の進行に沿って示した.特定の描画局面(白色部分) に,0.75~1 の強い結合関係が見られる..

(3) 全身運動と精緻運動が一体化した書家の描画スキル. 3. 議論 Bernstein & Popova (Kay et al., 2003)は,コンサートピア. ニストのオクターブ打鍵動作を,手首,肘,肩の位置座標 時系列から検討した先駆的研究において,オクターブ打鍵 が腕の自重を利用して受動的に手を落下させることで生 成されるという,当時の音楽教育の通説に反して,実際に. 55. York: W.W. Norton & Company, Inc. 仙田満 (2018). こどもを育む環境蝕む環境. 朝日新聞出 版 pp.4-29. Sporrel, K., Caljouw, S., & Withagen, R. (2017). Children prefer a nonstandardized to a standardized jumping stone configuration: Playing time and judgments. Journal of Environmental Psychology, 53, 131-137.. は,どの強度とテンポにおいても,つねに打鍵に能動的な 力が参加していることを明らかにした.Bernstein らの計測 では,手首,肘の運動は,遅いテンポでは相互に分節化さ れているが,より中程度のテンポになると,ひとつの連続 したインパルスの生起パターンに結合された. 本研究においても,書家は,字画の形態という制約に対 して,全身の動作パターンを能動的に変化させていた.書 家の身体は,筆尖と体幹の運動周期を強く結合させており, かつ,この結合関係は,字画の描画局面によって異なって いた.筆尖と体幹の軌道は,1, 2 画目「点」の収筆動作, 3,4 画目の「払い」動作に近づくと,結合パターンを連続 的に遷移させ,強結合する振る舞いを示していた.この結 果は,Bernstein らがピアノ打鍵に見出したのと同じよう に,書家の全身の協調パターンが,環境の文字の形態とい う外的制約に対して,適応的,かつ能動的に変化していた ことを示している.総括すれば,書家は,外的制約に対し て適応的なかたちで,筆尖の精緻な描画動作を,全身の姿 勢協調に埋め込んでいた. 4. 今後の課題 本稿は,書家の関節の結合パターンを 16 試行での平均. で示したが,試行を通じた縦断的変化は扱わなかった.し かし,本研究の目的は,環境と身体行為の関係という観点 から,書道熟達者の作品制作のダイナミクスを明らかにす ることにある.したがって,書家の協調パターンの縦断的 変から,外的制約に対する適応のプロセスを,より詳細に 明らかにする必要がある.また,本稿では各試行の字画描 画時間を 100 分率で正規化したが,Dynamic Time Warping など,時空間情報を軌道の局面ごとに分節化する手法が望 まれる. 引用文献 Kay, B. A., Turvey, M. T., & Meijer, O. G. (2003). An early oscillator model: studies on the biodynamics of the piano strike (Bernstein & Popova, 1930). MOTOR CONTROLCHAMPAIGN, 7(1), 1-45. Nonaka, T. (2013). Motor variability but functional specificity: The case of a C4 tetraplegic mouth calligrapher. Ecological Psychology, 25(2), 131–154. 無藤隆(1996).トポスにおける発達(10). 幼児の教育,10, 34-41. Pate, R., Pfeiffer, K., Trost, S., Ziegler, P., & Dowda, M. (2004). Physical activity among children attending preschools. Pediatrics, 114(5), 1258-1263. Piaget, J. (1962). Play, dreams, and imitation in childhood. New. Copyright © 2021, The Japanese Society for Ecological Psychology.

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Figure 1   実験風景  の研究は,中枢の表象からではなく,環境と身体との関係 の安定性という観点から,身体運動の諸変数を補償的に組 み合わせる能力として,熟達した書家の書字技能を記述す ることに成功している. 以上の背景から,本研究は,文字をかく書家の描画姿勢 を,全身協調という観点から検証した.仮に,書家の書字 技能が,周囲の環境と身体とがむすぶ関係と切り離せない ならば, Nonaka(2013) と同じく,書家の身体運動は,周囲

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