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妊婦の温泉浴の安全性の検討

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特別報告

妊婦の温泉浴の安全性の検討

岩永 成晃

1)*

,宮田 昌明

2)

,早坂 信哉

3) 抄 録  平成 26 年の温泉法の改正によって,温泉入浴の禁忌から妊婦が削除されたが,一般へ の認知は十分ではない.本邦においては,妊婦の温泉浴の安全性について検証した報告は 少なく,日本温泉気候物理医学会として妊婦の温泉浴の安全性について共同研究を行い, その結果を学会から発信するとともに,一般への啓発が必要であると考え,本学会におい て検討を行った.  妊娠初期から分娩までの期間,温泉地(別府市,指宿市)に居住する妊産婦へ自記式調 査票にて以下の調査を行った.1)年齢(妊娠終了時),2)過去の出産回数,3)温泉入浴 の状況:妊娠時期(初期・中期・後期)別に日常的な温泉入浴の有無と利用の頻度,内湯 温泉や自宅外の温泉施設の利用の有無,4)妊娠中のトラブルの有無:流産(妊娠 12 週未 満の早期流産は除外),早産,切迫早産,妊娠中毒症・妊娠高血圧症(浮腫,高血圧)等 について調査した.  回収数は 1,721 例(回収率 86%)であり,平均年齢は 30.8 歳(17 ~ 49 歳),初妊婦 643 例(37.6%),経妊婦 1,078 例(62.4%)であった.年齢と出産回数は,産科的トラブルと は関連なかった.妊娠の初期と中期において,産科的トラブルは,週 1 回以上の日常的な 温泉入浴者と週 1 回未満の温泉入浴者の間に有意な差を認めなかった.妊娠後期において は,週 1 回以上の日常的な温泉入浴者は週 1 回未満の温泉入浴者に比べ,むしろ産科的ト ラブルが有意に少なかった(20.3% vs 25.9%,p = 0.028).また,里帰り妊婦に絞ってみ ても,妊娠の初期と中期においては,産科的トラブルの頻度は温泉入浴群と非温泉入浴群 の間に有意差を認めなかった.一方,妊娠後期においては,温泉入浴群は非温泉入浴群と 比較し,産科的トラブルが有意に少なかった(温泉入浴群 13.0% vs 非温泉入浴群 24.5%, p = 0.028).  日常的に温泉浴をする妊婦において,そうでない妊婦とくらべて,産科的トラブルが増 加することはないことが確認できた.温泉の禁忌症から“妊婦”の項目が削除されたこと は適正なことであったといえる. キーワード:妊婦,温泉浴,産科合併症,安全性,里帰り出産

I は じ め に

 昭和 57 年の環境庁自然保護局長通知では,「温泉の禁 忌症及び入浴又は飲用上の注意決定基準」において,温 泉の一般的禁忌症(浴用)として,“妊娠中(とくに初 期と末期)”が含まれていた. しかし,平成 26 年 7 月 1 日付けの環境省自然環境局長通知によって,温泉の一 般的禁忌症(浴用)から,“妊娠中(とくに初期と末期)” が削除された.これは,最新の医学的見地から,“妊娠 中(とくに初期と末期)”を,温泉浴の禁忌症とする科 学的根拠が認められないとされたことによる.  しかし,現時点においても,温泉の一般的禁忌症(浴 (投稿受付日:2020 年 8 月 19 日,掲載決定日:2020 年 9 月 3 日) 1)医療法人コラソン 岩永レディスクリニック  〒 874-0932 大分県別府市野口中町 4-23  *連絡先(岩永成晃):TEL:0977-23-3471,FAX:0977-26-3578 2)鹿児島大学医学部保健学科 3)東京都市大学人間科学部

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用)から“妊娠中(とくに初期と末期)”が削除された ことは,いまだに一般への認知は十分ではない.そこ で,日本温泉気候物理医学会では,学会として妊婦の温 泉浴の安全性について共同研究を行い,その結果を学会 から発信するとともに一般への啓発を行うこととした.

II 対 象 と 方 法

 2016 年 9 月から 2018 年 12 月にかけて,妊娠初期か ら分娩までの期間,温泉地(別府市,指宿市)に居住す る妊産婦に対して,自記式調査票にて以下の調査を行っ た.  1.調 査 項 目  1)年齢(妊娠終了時),2)過去の出産回数,3)温泉 入浴の状況:妊娠時期(初期 12 ~ 15 週・中期 16 ~ 27 週・後期 28 ~ 40 週)別に日常的な温泉入浴の有無,内 湯温泉や自宅外の温泉施設の利用の有無,4)妊娠中の トラブルの有無:流産(妊娠 12 週未満の早期流産は除 外),早産,切迫早産,妊娠中毒症・妊娠高血圧症(浮 腫,高血圧)(Table 1),さらに里帰り出産の有無につ いて調査した.  2.調 査 施 設  大分県産婦人科医会の協力のもと,大分県別府市の 4 施設(あおい産婦人科・岩永レディスクリニック・松岡 産婦人科医院・国立病院機構別府医療センター)及び国 立病院機構指宿医療センター(鹿児島県指宿市)にて実 施した.  3.被験者の選定方針  産婦人科施設を受診し,妊娠分娩経過を診る妊婦に研 究への参加を依頼した.  4.倫   理  この臨床研究内容は,公正な立場に立った日本温泉気 候物理医学会の倫理・COI 委員会で審議を受け,医学 的,倫理的に適切であり,かつ研究対象者の人権が守ら れていることが承認された.さらに,被験者において は,本研究の内容について十分な説明を受け,ご理解い ただいたうえで,本研究に参加することを,同意書に署 名及び捺印を受けた.  5.統 計 解 析  統計処理には統計解析ソフト IBM SPSS statistics ver 26.0(IBM,日本)を用い,統計学的有意水準を 5% とした.

III 結     果

 回収数は,1,721 例(回収率 86%)であり,その内訳 は,あおい産婦人科(別府市)639 例,岩永レディスク リニック(別府市)578 例,松岡産婦人科医院(別府市) 133 例,国立病院機構別府医療センター(別府市)175 例,国立病院機構指宿医療センター(指宿市)196 例で あった.有効回答数は 1,463 例(85%),無効回答数 258 例 は(15%) で あ っ た. 平 均 年 齢 は 30.8 歳(17 ~ 49 歳),初妊婦 643 例(37.6%),経妊婦 1,078 例(62.4%) であった.  妊娠時期については,妊娠初期:妊娠 12 週~妊娠 15 週,妊娠中期:妊娠 16 週~妊娠 27 週,妊娠後期:妊娠 28 週~妊娠 40 週とした.なお,妊娠初期に関しては, 自然流産が高頻度に発生しその原因の殆どが染色体異常

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に起因する1),2)妊娠 12 週未満の早期流産を除外した.  1.妊娠時期別の温泉浴の状況(Table 2)  妊娠初期・妊娠中期・妊娠後期別に検討した.温泉浴 をするものが約 80%,週 1 回以上の温泉浴をするもの は 20% であった.週 1 回以上の温泉浴をするものでは, 妊娠後期に温泉浴をするものが最も多かった.また入浴 回数では週 6 回以上の温泉浴をするものが最も多く,こ れは妊娠後期において最も多かった.  2.妊娠中の産科的トラブル(Table 3)  回答者全体でみると,有効回答数 1463 例の妊婦のう ち,産科的トラブルはないと回答した妊婦は 1,021 例 (69.8%),産科的トラブルがあったと回答した妊婦は 442 例(30.2%)であった.産科的トラブルの内容は, 切迫流早産に関して医師の指示を受けたものが最も多 く,切迫流早産の入院管理と浮腫の外来管理が次に多 かった.“その他”については,妊娠 11 週以前の切迫流

Table 2 Frequency of hot spring bath in pregnancy stages.

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産,つわり,貧血の指摘,尿糖や血糖の指摘,たちくら み,子宮筋腫など器質性疾患,その他の回答があった.  3. 各妊娠時期における温泉入浴と産科的トラブルの 検討(Table 4)  初期,中期,後期の妊娠時期において,週 1 回以上の 日常的な温泉入浴者(温泉入浴群)と週 1 回未満の温泉 入浴者(非温泉入浴群)に分けて,産科的トラブルの頻 度を検討した.妊娠の初期と中期においては,産科的ト ラブルの頻度は温泉入浴群と非温泉入浴群の間に有意差 を認めなかった.一方,妊娠後期においては,温泉入浴 群は非温泉入浴群と比較し,産科的トラブルが有意に少 なかった(温泉入浴群 20.3% vs 非温泉入浴群 25.9%,p = 0.028).  [ オ ッ ズ 比 0.731(95% 信 頼 区 間:0.554-0.966,p = 0.028)]  4. 妊婦年齢・過去の出産回数と温泉入浴の妊産科的 トラブルに対する多変量解析(Table 5)  妊婦の年齢,過去出産回数を調整因子として用いたロ ジスティック回帰分析による多変量解析を行ったが,妊 娠前期と中期の週 1 回以上の日常的温泉入浴と年齢や過 去出産回数については,特に温泉と産科的トラブルは関 連がなかった.しかし,妊娠後期における日常的な温泉

Table 4 Hot spring bath and pregnancy complications in pregnancy stages.

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利用者では有意に産科的トラブルが少なくオッズ比は 0.536(95%信頼区間 0.355 ~ 0.808)だった.  5.流産及び早産について(Table 6)  温泉入浴群と非温泉入浴群の産科的トラブルの詳細に ついて検討した.  1) 治療を要した切迫流産及び切迫早産(Table 6-1, 6-2)  妊娠初期と中期において,外来治療を必要とした切迫 流早産は,温泉入浴群と非温泉入浴群の間に有意差を認 めなかった.一方,妊娠後期においては,温泉入浴群は 非温泉入浴群と比較し,外来治療を必要とした切迫流早 産が有意に少なかった(温泉入浴群 7.4% vs 非温泉入 浴群 11.9%,p = 0.014).  入院治療を必要とした切迫流産及び切迫早産に関して は,妊娠初期では温泉入浴群と非温泉入浴群の間に有意 差を認めなかった.しかし,妊娠中期と後期において は,温泉入浴群は非温泉入浴群と比較し,入院治療を必 要とした切迫流早産が有意に少なかった(妊娠中期:温 泉入浴群 2.8% vs 非温泉入浴群 5.6%,p = 0.049,妊娠 後期:温泉入浴群 2.2% vs 非温泉入浴群 6.1%,p = 0.002).

Table 6-1 Treatment at outpatient clinic for threatened abortion or threatened premature delivery in pregnancy stages.

Table 6-2 Treatment at hospitalization for threatened abortion or threatened premature delivery in pregnancy stages.

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 2)流産と早産について(Table 6-3,6-4)  流産及び早産については,妊娠初期と妊娠中期及び妊 娠後期において,温泉入浴群と非温泉入浴群の間に有意 差を認めなかった.  6.浮腫について  1)浮腫に対する外来管理(Table 7-1)  妊娠初期において,浮腫のため外来管理を受けたもの は,温泉入浴群は非温泉入浴群と比較し有意に多かった (温泉入浴群 7.7% vs 非温泉入浴群 4.6%,p = 0.027). 一方,妊娠中期及び妊娠後期では,浮腫のため外来管理 を受けたものの割合は,温泉入浴群と非温泉入浴群の間 に有意差を認めなかった.  2)浮腫に対する入院管理(Table 7-2)  妊娠初期,妊娠中期及び妊娠後期において,浮腫に対 する入院管理を必要としたものは少なく,温泉入浴群と 非温泉入浴群の間に有意差を認めなかった.  7.高血圧について  1)高血圧に対する外来管理(Table 8-1)  高血圧に対する外来管理に関しては,妊娠初期,妊娠 中期及び妊娠後期において温泉入浴群と非温泉入浴群の 間に有意差を認めなかった.  2)高血圧に対する入院管理(Table 8-2)  高血圧に対する入院管理に関しては,妊娠初期及び妊 娠中期において温泉入浴群と非温泉入浴群の間に有意差 を認めなかった.しかし,妊娠後期においては,入院治 療を必要とした高血圧患者が有意に少なかった(温泉入 浴群 0.0% vs 非温泉入浴群 1.2%,p = 0.031).

Table 6-3 Abortion in pregnancy stages.

(7)

Table 7-1 Treatment at outpatient clinic for edema in pregnancy stages.

Table 7-2 Treatment at hospitalization for edema in pregnancy stages.

(8)

 8.里帰り妊婦の温泉入浴と産科的トラブル(Table 9)  里帰り妊婦に絞って,各妊娠時期の産科的トラブルを 検討した結果,妊娠の初期と中期においては,産科的ト ラブルの頻度は温泉入浴群と非温泉入浴群の間に有意差 を認めなかった.一方,妊娠後期においては,温泉入浴 群は非温泉入浴群と比較し,産科的トラブルが有意に少 なかった(温泉入浴群 13.0% vs 非温泉入浴群 24.5%,p = 0.028).

IV 考     察

 1.妊婦の温泉入浴の禁忌症について  「温泉法第 13 条の運用について(昭和 57 年 5 月 25 日 環境庁自然保護局長)」では,温泉の一般的禁忌症(浴 用)として,急性疾患(特に熱のある場合)・活動性の 結核・悪性腫瘍・重い心臓病・呼吸不全・腎不全・出血 性疾患・高度の貧血・その他一般に病勢進行中の疾患・ 妊娠中(とくに初期と末期)と定められていた.  温泉法において,「禁忌症は,1 回の温泉入浴でも有 害事象を生ずる危険性がる病気・病態」とされるが, “妊娠中(とくに初期と末期)”が,他の重症の疾患と同 等に浴用の禁忌とされた根拠については明確ではない. これについて,環境省においても「記録が残っておらず 定かではない」としていた.  厚労省においては,平成 26 年 7 月 1 日,最新の医学 的知見及び科学的根拠をにもとづき,「温泉法第 18 条第 1 項の規定に基づく禁忌症及び入浴又は飲用上の注意の

Table 8-2 Treatment at hospitalization for hypertension in pregnancy stages.

(9)

掲示等の基準」及び「鉱泉分析法指針(平成 26 年改訂)」 (環自総発第 1407012 号)において,「温泉の一般的禁忌 症(浴用):病気の活動期(特に熱のあるとき),活動性 の結核,進行した悪性腫瘍又は高度の貧血など身体衰弱 の著しい場合,少し動くと息苦しくなるような重い心臓 又は肺の病気,むくみのあるような重い腎臓の病気,消 化管出血・目に見える出血があるとき,慢性の病気の急 性増悪期」として,「妊娠中(とくに初期と末期)」につ いては温泉法における禁忌症(浴用)から削除した3)  しかし,最近の産婦人科の日常の臨床においても, 「妊婦が温泉に入ってもいいのでしょうか?」との質問 がよくなされる.平成 28 年に実施された,温泉地別府 市における妊婦への調査において,「温泉浴の禁忌症に 妊婦があるので,妊婦は温泉に入れないと思っていた」 「親から妊婦は温泉に入らないほうがいいと言われてい る」という認識が多くあり,さらに平成 26 年に温泉浴 の禁忌症から“妊婦”が削除されたことを認識していな いものも多くいたことが報告されている4)  2.これまでの主な報告  山際らは,温泉浴による妊娠分娩への影響について, 切迫流産率・切迫早産率・早産率等に悪影響はなかっ た5),胎児・胎盤に悪影響を及ぼさなかった6)・出生児 の新生児仮死への影響は認めなかった7)と報告をして いる.また,温泉旅行後の妊婦において,膣内細菌叢に 変化はなく,切迫流産徴候も認めなかったとの報告もあ る8),9).最近では,ごく少数例での検証ではあるが,入 浴中の母体の心拍数と脈拍に異常を認めず,また入浴中 の胎児心拍数モニターから胎児の心拍数パターンに異常 を認めなかったとの報告もある10),11)  3.本研究結果のまとめ  週 1 回以上の日常的な温泉入浴は,妊娠の初期と中期 と後期の全ての時期において,産科的トラブルと関連し ておらず,妊娠後期の温泉入浴はむしろ産科的トラブル が少ないことと関連があった.また,年齢や出産回数に ついても日常的な温泉入浴は産科的トラブルとは関連は なかった.さらに,産科的トラブルの詳細に関して検討 した結果は,妊娠中の温泉入浴は,初期・中期・後期に おいて流産,早産,切迫流産,切迫早産との有意な関連 はなかった.一方,妊娠中期の日常的な温泉入浴は切迫 流早産入院管理のリスク減と関連があった.さらに,妊 娠後期の日常的な温泉入浴は,切迫流早産の外来管理及 び入院管理が少ないことと関連があった.  里帰り出産の妊婦においても検討したが,日常的な温 泉入浴は産科的トラブルとは関連はなく,むしろ妊娠後 期では産科的トラブルが少ないことと関連があった.  4.今回の結果からの考察  今回の調査では,回答した妊婦の約 3 分の 2 が自宅の 温泉を利用しており,約 10% の妊婦がほぼ毎日温泉浴 をしていることがわかった.有数の温泉地である大分県 別府市と鹿児島県指宿市での調査であったことで,日常 生活の中での温泉との関わりが大きいことが表れてい た.  今回の調査した妊娠中の産科的トラブルの発生頻度 は,一般妊婦におけるトラブルの発生頻度1),2)を超えて いるものはなかった.また,全体に若干低率となってい たがその理由は不明である.流産については,妊娠 12 週以降の後期流産を対象としたために,低率となってい る.  本研究の結果からは,週 1 回以上の日常的な温泉入浴 が,妊娠のいずれの時期においても流産や早産などの産 科的トラブルを増加させることはなく,むしろ妊娠後期 では温泉入浴群が有意に産科的トラブルとの関連が少な い結果であった.また,このことは里帰り出産の妊婦に おいても同様な結果であった.これら,妊娠後期におい て温泉入浴群が有意に産科的トラブルとの関連が少ない 理由については不明であり,今後の検討が必要である.  また,高血圧に関して,妊娠後期において,日常的な 温泉入浴群が非温泉群に比べて高血圧の入院管理がな かったことは,温熱作用による血管拡張作用が高血圧を 予防した可能性も考えられる12).一方,浮腫に関して は,妊娠の全ての時期において入院管理の必要な浮腫と 温泉入浴との関連は認めなかったものの,妊娠初期にお いて,温泉入浴により外来管理の必要な浮腫が増加して おり,今後の検討が必要である.  5.本研究の限界  本研究は,観察研究であり,無作為に温泉入浴群と非 温泉入浴群に割り付けた前向き研究ではないため,温泉 入浴の産科的トラブルへの因果を明らかにすることはで きない.また,妊娠後期には,日常的な温泉入浴が妊娠 トラブルとの関連が少なかったもののその明確な根拠は 不明であり,トラブルがなかったから温泉浴をする妊婦 が増えたであろうという因果の逆転の可能性もあり,研 究デザイン上の限界と考える.しかし,本研究は 1721 名という比較的大規模かつ回収率も 86%と比較的高い 横断研究であり,その結果からは,週 1 回以上の日常的 な温泉入浴が産科的トラブルを増大させることは示され なかった.

V 結     語

 今回の調査からは,妊婦が日常的に温泉浴をすること において,そうでない妊婦とくらべて,産科的トラブル が増加することはないことが確認できた.温泉法におけ る禁忌症(浴用)から“妊婦”の項目が削除されたこと は適正なことであったといえる. 謝辞  本研究に同意をしていただいた妊婦さんと,アンケー ト調査に丁寧にご協力いただいた,あおい産婦人科・岩 永レディスクリニック・松岡産婦人科医院・国立病院機 構別府医療センター・国立病院機構指宿医療センター,

(10)

大分県における調査を全面的に支援していただいた大分 県産婦人科医会のご協力に対し,心より感謝申し上げま す. 利益相反開示  日本温泉気候物理医学会の研究として実施され,その 他に開示すべき事実はない.

引 用 文 献

1)「温泉法第 18 条第 1 項の規定に基づく禁忌症及び入浴 又は飲用上の注意の掲示等の基準」及び「温泉泉分析法 指針(平成 26 年改訂)」について.環境省自然環境局長 通知,平成 26 年 7 月 1 日,2014. 2)藤井知行(編):周産期の異常.プリンシプル産科婦 人科学 2 第 3 版.メジカルビュー社,東京,2014; p290-606. 3)藤井知行(編):妊娠期の異常とその管理.産婦人科 臨床シリーズ 2 妊娠期の正常と異常.中山書店,東京, 2020; p46-55. 4)松井咲樹,梅野貴恵,樋口 幸:妊産婦の温泉入浴に ついての禁忌事項認知と利用頻度に関する実態調査.母 性衛生 2017; 58(3): 271. 5)山際三郎,城田知訓,山内希美,他:温泉浴による妊 娠,分娩への影響.日温気物医誌 2004; 67: 173-178. 6)山際三郎,城田知訓,山内希美,他:温泉浴による妊 娠,分娩への影響─第 2 報─.日温気物医誌 2005; 68: 223-230. 7)山際三郎,城田知訓,山内希美,他:温泉浴による妊 娠,分娩への影響─第 3 報─.日温気物医誌 2006; 69: 245-250. 8)須賀田元彦,稲坂織恵,瀬永八州子,他 : 妊娠中の温 泉入浴について腟培養検査から見た温泉入浴の是非.日 温気物医誌 2001; 65: 53. 9)山本英子,須賀田元彦:妊婦の入浴は切迫早産の危険 因子か ? 温泉入浴の是非.臨床研究報告書 2001; 161-163. 10)佐藤喜根子,坂田あゆみ,佐藤 恵,他:妊婦に対す る温泉浴の効果の検証.日本健康開発財団 研究年報 2015; 36: 7-16. 11)佐藤喜根子,坂田あゆみ,佐藤 恵,他:妊婦に対す る温泉浴の安全性の検証─妊娠初・中・末期別と温泉泉 質別─.日本健康開発財団 研究年報 2016; 37: 23-34. 12)田中信之:温泉入浴と循環機能.新温泉医学(日本温 泉気候物理医学会編),JTB 印刷,東京,2004; p171-177.

(11)

A Study on the Safety of Hot Spring Bathing for Pregnant Women

Shigeaki IWANAGA

1)*

, Masaaki MIYATA

2)

, Shinya HAYASAKA

3) Abstract

 Pregnancy has been removed from the list of contraindications for hot spring bathing. Therefore, The Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine has considered that it is necessary to conduct a joint research on the safety of hot spring bathing for pregnant women, publish the results extensively, and enlighten the public about this matter. Considering that only a small number of reports have been published in Japan about the safety of hot spring bathing for pregnant women, the Society has decided to study this subject.

 Expectant and nursing mothers living in hot spring towns, such as Beppu and Ibusuki City, have responded to questions about the period between the early stages of pregnancy and delivery via a self-administered questionnaire; The questions included: 1) age when the pregnancy ended, 2) number of previous deliveries, 3) details of hot spring bathing habits (whether they bathed in hot springs on a daily basis, how often they bathed during the different [early, middle, and late] stages of pregnancy, and whether they used hot spring baths attached to their homes or hot spring facilities away from their homes), and 4) whether they had pregnancy complications such as miscarriages (excluding those occurring in the early stages of pregnancy), premature delivery, threatened premature delivery, or toxemia of pregnancy/pregnancy-induced hypertension (edema, hypertension).

 Total 1,721 responses were collected (86% reply rate). The mean participant age was 30.8 years. Importantly, there were 643 (37.6%) primigravid and 1,078 (62.4%) parous women. Age and gravidity were not associated with pregnancy complications. In the early and middle stages of pregnancy, there were no significant differences in the incidence of pregnancy complications between individuals who bathed ≥ once per week [hot spring bath (+)] group and those who bathed < once per week [hot spring bath (−)] group. In the late stages of pregnancy, the number of pregnancy complications were fewer in the hot spring bath (+) group (20.3%) than that in the hot spring bath (−) group (25.9%) (p = 0.028). In addition, there were no significant differences in the pregnancy complications between hot spring bathing (+) and hot spring bath (−) groups in the early and middle stages of pregnancy even if we focused on the homecoming pregnant women. Whereas, in the late stages of pregnancy, the number of pregnancy complications were fewer in the hot spring bath (+) group (13.0%) compared with the hot spring bath (−) group (24.5%) (p = 0.028) in the homecoming pregnant women.

 This study has confirmed that daily hot spring bathing during pregnancy does not increase the incidence of pregnancy complications. Furthermore, it can be stated that the removal of “pregnancy” from the contraindications of hot spring bathing was appropriate.

Key words: pregnant women, hot spring bath, pregnancy complication, safety, delivery at hometown

1) Iwanaga Ladies-Clinic

4-23, Noghchi-nakamachi, Beppu, Oita 874-0932, Japan

Corresponding author (S. IWANAGA): TEL: +81-977-23-4371, FAX: +81-977-26-3578

2) School of Health Sciences, Faculty of Medicine, Kagoshima University 3) Faculty of Human Life Sciences, Tokyo City University

Table 3 Pregnancy complications.
Table 5 Multivariable analysis using Logistic regression analysis for pregnancy complications.
Table 6-2 Treatment at hospitalization for threatened abortion or threatened premature delivery in  pregnancy stages.
Table 6-4 Premature delivery in pregnancy stages.
+3

参照

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