Kobe Shoin Women’s University Repository
Title 芭蕉連句私解 「柳小折」の巻
Author(s) 大谷 篤蔵
Citation 文林(BUNRIN),No.16:29-51
Issue Date 1981
Resource Type Bulletin Paper / 紀要論文
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芭
蕉
連
句
私
解
﹁柳
小
折
﹂
の 巻大
谷
篤
蔵
こ こ に 採 り 上 げ た 作 品 は 、 芭 蕉 最 晩 年 の 一 巻 ﹁ 柳 小 折 ﹂ の 巻 。 芭 蕉 ・ 洒 堂 ・ 去 来 ・ 支 考 ・ 丈 草 . 素 牛 (惟 然 ) の 六 吟 歌 仙 で あ る 。 こ の 巻 は 元 禄 甲 戌 (七 年 ) 夏 の 自 序 の 備 わ る 洒 堂 撰 の ﹃ 市 の 庵 ﹄ の 巻 尾 に 出 て 、 そ れ に は ﹁ 閏 五 月 廿 二 日 落 柿 舎 乱 吟 ﹂ と 前 書 が あ る 。 こ の 巻 の 興 行 さ れ た 前 日 、 元 禄 七 年 閏 五 月 二 十 一 日 に は 、 芭 蕉 は 膳 所 の 曲 翠 亭 に 居 て 、 江 戸 へ の 書 状 を 認 め て い る 。 あ た か も こ の 月 の 二 十 日 過 に 、 膳 所 の 本 多 侯 の 参 府 が 予 定 さ れ て い て 、 そ の 供 の う ち に 江 戸 状 を 托 す る 便 宜 が あ っ た か ら で あ る 。 そ の 日 に 何 通 認 め た か わ か ら な い が 、 現 在 判 っ て い る の は 杉 風 ・ 曽 良 ・ 猪 兵 衛 に 宛 て た 三 通 で あ る 。 芭 蕉 が 膳 所 に 来 た の は 、 そ の 三 日 前 の 十 八 日 で あ っ た 。 こ の 年 五 月 十 一 日 、 江 戸 を 発 っ た 芭 蕉 は 、 二 十 八 日 に 伊 賀 着 、 久 振 り に 兄 の 半 左 衛 門 を は じ め 、 土 芳 ・ 猿 雌 ・ 半 残 ら の 肉 親 故 旧 と 日 夜 語 り 合 っ た が 、 盆 地 特 有 の 暑 さ の 上 に 、 蚤 蚊 の 多 い 伊 賀 の 夏 を 避 け て 、 大 津 へ 出 た の が 閏 五 月 の 十 七 日 。 大 津 で は 例 の ご と く 乙 州 宅 を 訪 ね た が 、 そ こ で 偶 然 に も 丈 草 ・ 支 考 と 出 遭 う こ と に な る 。 大 津 は ち ょ う ど 茶 時 で 、 荷 問 屋 を 営 む 乙 州 宅 は 繁 忙 を き わ め 、 そ れ を 慮 っ て 翌 十 八 日 は 膳 所 に 移 っ て 、 ま ず 正 秀 を 訪 ね る 。 来 訪 を 喜 ん だ 正 秀 は 、 持 ち 前 の 大 声 で 種 々 馳 走す る が 、 こ こ で も 茶 時 の 騒 が し さ が 煩 わ し く 、 曲 翠 亭 に 落 着 い た 。 曲 翠 に し て も 、 こ の 度 の 参 府 の 供 に は 加 わ ら な い も の の 、 数 日 後 の 殿 の 出 立 を 控 え て 忙 し い 筈 で あ る 。 即 日 芭 蕉 は 去 来 に 宛 て て 手 紙 を 書 い て い る 。 何 し ろ 芭 蕉 に と っ て は 、 去 る 元 禄 四 年 九 月 末 以 来 の 湖 南 で あ る 。 会 う 人 は 皆 懐 し い 人 ば か り 。 三 年 振 り に 見 聞 す る 誰 彼 の 消 息 を 、 杉 風 ・ 曽 良 に 、 か な り 詳 細 に 報 じ て い る 。 す な わ ち 曽 良 宛 書 簡 に は ⋮ ⋮ い ま だ 去 来 二 も 逢 不 レ 申 。 丈 草 大 津 二 被 レ 居 、 萬 子 ハ い せ 山 田 を し こ な し 、 庵 な ど も 結 候 而 、 長 官 一 家 の 洛 中 見 物 な ど 取 持 候 と て 、 大 津 へ 一 夜 泊 二 参 候 所 、 ひ し と あ ひ 候 而 両 夜 一 日 か た り 、 又 京 へ の ぼ り 申 候 。 孫 右 衛 門 い よ い よ 声 高 二 よ ろ こ び 、 馳 走 致 候 。 茶 時 分 や か ま し く 候 故 、 菅 沼 殿 二 逗 留 分 二 て 候 。 追 付 上 京 、 去 来 二 も 逢 可 レ 申 候 。 嵯 峨 の や し き ち い さ く 改 候 よ し 、 是 能 閑 地 に 候 間 、 夏 中 ハ こ れ に も 居 可 レ 申 候 。 ⋮ ⋮ と あ る 。 ﹁ 萬 子 ﹂ と あ る は 盤 子 、 支 考 の こ と 。 孫 右 衛 門 は 正 秀 、 菅 沼 殿 は 曲 翠 で あ る 。 中 で も 支 考 に 関 す る 記 事 が 最 も 詳 し い 。 こ の 一 両 年 前 か ら の 支 考 の 動 静 が 不 明 で 、 支 考 と 伊 勢 と の か か わ り が 判 然 と し な い が 、 い ず れ に し て も 僅 か 一 両 年 来 の 関 係 、 そ れ も べ っ た り と 伊 勢 に 常 住 し た と も 思 え な い が 、 さ す が に 支 考 で あ る 。 伊 勢 山 田 で 一 か ど の 地 歩 を 得 て 、 庵 も 建 て 、 神 宮 の 長 官 一 家 に 取 り 入 っ て そ の 京 見 物 の 斡 旋 を す る と い う の だ か ら 、 見 事 な ﹁ し こ な し ﹂ 振 り で あ る 。 こ の ﹁ し こ な し ﹂ の 語 に 、 支 考 の 世 才 に 対 す る 芭 蕉 の 驚 異 と 評 価 を 読 み と れ る 様 に 思 わ れ る 。 と こ ろ で 、 こ の 月 十 七 日 の 乙 州 宅 で の 支 考 ら と の 出 会 は 、 い さ さ か 劇 的 な も の で あ っ た ら し い 。 芭 蕉 の 支 考 に 対 す る 親 近 感 、 翅 遁 の 喜 び が 、 ﹁ ひ し と あ ひ 候 而 ﹂ と い う 文 言 に 汲 取 れ る よ う で あ る 。 支 考 の 方 で も 同 様 で あ る 。 支 考 は 芭 蕉 が こ の 五 月 江 戸 を 発 つ と い う こ と を 、 大 坂 あ た り で 聞 い た ら し い 。 後 に 回 想 す る 所 に よ れ ば 、 そ の 後 日 数 も 経 て 、 芭 蕉 の 消 息 も ゆ か し く 、 支 考 の 不 在 中 に 伊 勢 に 立 寄 る の で は な い か と 案 じ な が ら 大 一30一
津 の 乙 州 宅 に 立 寄 っ た 。 大 津 で は 、 こ の 日 は 一 日 雨 が 降 っ て い た ら し い 。 そ の 日 も 暮 れ 方 、 丈 草 ・ 智 月 ら と 話 し て い る 所 へ 、 思 ひ も か け ず ﹁ 菅 蓑 に 渋 笠 う ち 着 つ つ 、 ふ と 入 き 給 ひ ぬ 。 是 ハ と さ ハ ギ お ど ろ き 、 ⋮ ⋮ 其 夜 ハ 伊 勢 の 物 語 な ど 申 侍 り し に ﹂ ( ﹃ 芭 蕉 翁 追 善 日 記 ﹄ ) と あ る 。 芭 蕉 は 支 考 の 伊 勢 で の ﹁ し こ な し ﹂ の 実 態 を 知 り た か っ た し 、 支 考 も ま た 、 誰 よ り も 芭 蕉 に 聞 い て 貰 い た か っ た で あ ろ う 。 前 引 書 簡 に ﹁ 両 夜 一 日 か た り ﹂ と あ る か ら 、 十 七 日 夜 か ら 翌 十 八 日 も 、 膳 所 ま で 師 に 随 侍 し て そ の 夜 も 語 合 い 、 お そ ら く 十 九 日 の 朝 に 、 京 で の 再 会 を 約 し て 上 洛 し た の で あ ろ う 。 京 の 去 来 も 芭 蕉 に と っ て は 、 一 日 も 早 く 会 い た い 一 人 で あ る 。 前 引 書 簡 に ま ず ﹁ い ま だ 去 来 に も 逢 不 レ 申 ﹂ と 書 送 っ て い る 所 か ら も 、 西 上 の 芭 蕉 が 第 一 に 会 う べ き 人 物 と し て 、 去 来 を 自 他 共 に 考 え て い た こ と が わ か る 。 十 七 日 に 乙 州 宅 で も 、 去 来 の 起 居 を 尋 ね て い る し 、 翌 日 膳 所 に 落 着 く と 即 日 、 去 来 宛 に 書 簡 を 書 い て い る 。 そ の 文 に よ れ ば 、 去 来 の 方 か ら も 湖 南 に 芭 蕉 を 訪 ね る と の 申 出 で が あ っ た ら し い 。 此 方 智 月 宅 も 茶 時 、 正 秀 も 其 通 取 込 、 定 而 曲 水 も 殿 御 立 ま で は 隙 入 可 レ 申 候 間 、 此 方 へ 御 見 舞 、 廿 日 過 ま で 御 延 引 可 レ 被 レ 成 候 。 廿 四 五 日 之 頃 、 或 は 廿 二 三 、 拙 者 上 京 可 レ 致 候 。 尤 貴 宅 へ 御 案 内 可 レ 申 候 。 少 々 貴 様 へ 用 之 事 も 御 座 候 間 、 暫 時 逗 留 も 致 度 候 。 御 宿 御 遠 慮 が ま も し し く 候 。 若 元 子 方 な ど 御 か り 被 レ 成 候 事 も 成 申 ま じ く 候 哉 。 其 段 い つ 方 に て も か ま ひ 無 二 御 座 }候 間 、 御 才 覚 被 レ 成 可 レ 被 レ 下 候 。 ⋮ ⋮ 早 々 御 報 御 下 シ 可 レ被 レ 成 候 。 武 府 門 人 、 い が 門 弟 共 無 一一異 儀 一候 。 ( 閏 五 月 十 八 日 付 去 来 宛 ) と あ る の で 、 二 十 二 ∼ 二 十 五 日 の 上 京 が 予 定 さ れ て い た こ と 、 京 で の 宿 所 は ま だ 未 定 で 、 元 子 -去 来 の 兄 向 井 元 端 か 1 宅 を 借 り ら れ な い か な ど と 言 っ て い る こ と が わ か る 。 と こ ろ が 、 三 日 後 の 二 十 一 日 の 時 点 で は 、 嵯 峨 の 落 柿 舎 に 宿 所 を き め て い る の で あ る 。 ﹁ 夏 中 は 膳 所 、 折 々 京 へ 出 候 而 去 来 と か た り 、 若 は 嵯 峨 去 来 屋 敷 に 休 足 致 事 も
可 レ 有 一御 座 一。 L ( 閏 五 月 二 十 一 日 付 杉 風 宛 ) と か 、 ﹁ 嵯 峨 の や し き ち い さ く 致 候 よ し 、 是 能 閑 地 に 候 間 、 夏 中 は こ れ に も 居 可 レ 申 候 ﹂ (同 日 付 曽 良 宛 ) な ど の 文 言 が そ れ を 示 し て い る 。 こ れ は 前 引 の 去 来 宛 書 簡 に 、 ﹁ 早 々 御 報 御 下 シ 可 レ 被 レ 成 候 ﹂ と あ る の に 対 す る 去 来 の 返 事 が 十 九 ・ 廿 日 の う ち に 届 き 、 そ れ に 落 柿 舎 の 改 築 を 報 じ 、 芭 蕉 の 逗 留 を 奨 め た の で あ ろ う 。 か く し て 芭 蕉 は 、 閏 五 月 二 十 二 日 以 後 、 六 月 十 五 日 再 び 膳 所 に 帰 る ま で の 二 十 四 日 間 の 長 期 に 亘 っ て 、 嵯 峨 落 柿 舎 に 逗 留 す る こ と に な る の で あ る 。 芭 蕉 が 、 会 っ て そ の 後 の 消 息 を 聞 き た い 人 が も う 一 人 い る 。 洒 堂 で あ る 。 そ の 洒 堂 は 、 元 禄 五 年 九 月 東 下 、 芭 蕉 庵 に 寄 寓 し て 江 戸 蕉 門 の 俳 席 に 列 な り 、 六 年 一 月 江 戸 を 去 っ て 西 帰 し た 。 そ れ 以 来 の 再 会 で あ る 。 そ の 間 に 前 年 夏 膳 所 か ら 大 坂 に 居 を 移 し た 洒 堂 は 、 馴 れ ぬ 大 坂 の 地 の 不 満 や 苦 労 を 江 戸 の 芭 蕉 に 通 じ て い た ら し い 。 大 坂 蕉 門 の 之 道 と の 確 執 が 主 な る も の で あ る 。 そ れ に 対 し 芭 蕉 は 、 怒 誰 に 宛 て て 一 書 を 裁 し (元 禄 六 年 霜 月 八 日 付 ) 、 ま た 洒 堂 自 身 に は 湖 水 の 磯 を 這 出 た る 田 螺 一 疋 、 芦 間 の 蟹 の は さ み を お そ れ よ 。 牛 に も 馬 に も 踏 る ∼ 事 な か れ 難 波 津 や 田 螺 の 蓋 も 冬 ご も り の 句 文 を 与 え て 、 そ の 隠 忍 を 求 め た 。 そ の 洒 堂 で あ る 。 是 非 と も 面 曙 直 話 の 機 を 得 た い と 思 っ て い た に 違 い な い 。 と こ ろ で 、 前 に 引 い た 曽 良 宛 書 簡 に 、 ﹁ 追 付 上 京 、 去 来 に も 逢 可 レ 申 候 ﹂ と あ る 所 か ら 見 れ ば 、 こ の 書 簡 を 認 め た 二 十 一 日 に は 、 ま だ 上 洛 の 日 次 は 確 定 し て い な か っ た と 考 え ら れ る 。 と こ ろ が 、 翌 日 二 十 二 日 に は 、 芭 蕉 は 嵯 峨 落 柿 舎 に い て 、 こ の 歌 仙 を 巻 い て い る の で あ る 。 と す れ ば 、 芭 蕉 の 落 柿 舎 行 は そ の 後 知 り 得 た 何 ら か の 新 事 実 に よ っ て 決 意 し た 結 果 と 推 測 さ れ る 。 お そ ら く そ れ は 、 洒 堂 の 落 柿 舎 来 訪 の 報 を 得 て 、 急 遽 翌 日 の 嵯 峨 行 を き め た も の と 思 わ れ る 。 か く し て 、 在 京 の 支 考 、 大 津 の 丈 草 、 こ の 年 ﹃藤 の 実 ﹄ ( 元 禄 甲 戌 五 月 上 洗 跡 ) を 撰 し た ぱ 一32一
か り の 素 牛 と 、 連 中 一 堂 に 会 し て 芭 蕉 を 迎 え る こ と に な っ た の で あ る 。 ﹁ 柳 小 折 ﹂ の 巻 に 、 酒 堂 が 脇 を つ け て お り 、 ま た 六 月 三 日 付 の 杉 風 宛 書 簡 に 、 芭 蕉 が こ の 巻 を ﹁ 珍 夕 再 仙 ﹂ と よ び 、 六 月 十 六 日 付 許 六 宛 書 簡 に は 、 ﹁ 洒 堂 参 候 寄 仙 興 行 に ﹂ と あ っ て ﹁ 柳 小 折 ﹂ の 発 句 を 報 せ て い る こ と か ら も 、 こ の 興 行 に お け る 洒 堂 の 意 義 を 知 る こ と が で き る 。 更 に 、 こ の 歌 仙 が 、 大 坂 移 住 の 記 念 集 と も い う べ き ﹃ 市 の 庵 ﹄ の 巻 尾 を 飾 っ て い る 事 実 か ら 見 て 、 こ の 巻 は 洒 堂 を 引 立 て る た め の 芭 蕉 ら の 配 慮 か ら の 催 し と 考 え ら れ る 節 が 多 い 。 か く し て 芭 蕉 は 、 お そ ら く は 閏 五 月 二 十 二 日 の 早 朝 に 膳 所 を 発 っ た の で あ ろ う 。 膳 所 か ら 大 津 、 逢 坂 山 を 越 え て 京 、 お そ ら く は 三 条 通 り を 西 へ 抜 け て 下 嵯 峨 街 道 に よ っ た も の で あ ろ う か 。 と に か く 大 津 か ら 京 へ 三 里 、 三 条 大 橋 か ら 嵯 峨 へ 二 里 と し て も 、 膳 所 か ら は 約 六 里 の 道 の り で あ る 。 午 前 中 に 落 柿 舎 に つ く の は 、 五 十 一 歳 の 芭 蕉 に と っ て は 、 か な り の 強 行 軍 で あ っ た 筈 で あ る 。 他 の 連 衆 の 面 々 の 動 静 が は っ き り し な い が 、 芭 蕉 が 懐 し い 人 々 と 再 会 を 喜 び 合 い 久 潤 を 叙 し た の は 、 早 く て も 同 日 の 午 も や や 過 ぎ た 頃 で あ っ た と 思 わ れ る 。 席 定 っ て 、 芭 蕉 が 、 途 中 の 囑 目 で あ ろ う か 、 ﹁ 柳 小 折 片 荷 は 涼 し 初 真 瓜 ﹂ の 発 句 を 出 す 。 つ づ い て 洒 堂 が ﹁ 間 引 捨 た る 道 中 の 稗 ﹂ と 脇 を つ け 、 以 下 乱 吟 の 付 合 が は じ ま る 。 そ れ で は こ の 歌 仙 の 満 尾 す る の は 、 い つ 頃 か 。 そ の 時 刻 を う か が わ せ る 資 料 と し て 、 翌 二 十 三 日 付 支 考 宛 の 芭 蕉 書 簡 が あ る 。 こ れ は 支 考 の ﹃ 笈 日 記 ﹄ 上 、 京 都 の 部 に ﹁ 文 通 ﹂ と し て 、 ﹁ そ の 比 支 考 は 下 京 に 侍 り て 、 文 つ か は し け る 返 事 に ﹂ と 注 し て 載 せ る も の で 、 煙 草 嫌 い の 去 来 の ﹁ き せ る の 掃 除 ﹂ を ﹁ 壬 五 月 と 季 を 定 め る ﹂ と い う 、 芭 蕉 の ユ ー モ ア 、 支 考 ・ 去 来 へ の 親 密 を 示 す 有 名 な 一 通 で あ る 。 文 中 冒 頭 に コ 一種 被 レ 懸 二 御 芳 情 一 、 旅 店 之 ] 徳 、 珍 重 不 レ 浅 賞 翫 申 候 。 ﹂ と あ る 。 支 考 か ら の 使 を 待 た せ て 、 即 刻 に 認 め た も の で あ ろ う 。 そ の 時 刻 は 不 明 で あ る が 、 書 中 末 尾 に ﹁ 晩 方 御 入 来 ﹂ 云 々 と あ る 所 か ら 、
お そ ら く は 二 十 三 日 の 午 頃 で で も あ ろ う か 。 と す れ ば 支 考 は 前 日 中 に 、 下 京 の 宿 に 帰 っ て い て 、 翌 早 朝 音 物 二 種 に 手 紙 を 添 え て 落 柿 舎 に 持 た せ た も の と 考 え ら れ る 。 そ し て そ の 支 考 は 、 前 夜 の ﹁ 柳 小 折 ﹂ の 巻 の 名 残 の 裏 五 句 目 を 付 け て い る 。 と す れ ば 支 考 の 辞 去 し た の は 、 日 脚 の 永 い 季 節 で あ る こ と を 考 え て も 、 五 ツ か 五 ツ 半 時 。 更 に 会 後 の 寛 宴 な ど を 考 慮 す れ ば 、 満 尾 は 六 ツ 時 か ら 六 ッ 半 時 と い う こ と に な る 。 か か る 臆 測 を あ え て 試 み る の は 、 こ の 歌 仙 の 場 合 、 興 行 の 所 要 時 間 を か な り は っ き り 限 定 で き る 例 と 考 え る か ら で あ る 。 い ま 仮 り に 八 ツ 時 (午 后 二 時 頃 ) か ら の 興 行 と し て 、 三 、 四 時 間 で 満 尾 し た こ と に な る 。 こ れ は 他 の 場 合 は 比 較 し て 、 短 い の で は な か ろ う か 。 ﹃ お く の ほ そ 道 ﹄ 道 中 の 連 句 は 、 ﹃ 曽 良 旅 日 記 ﹄ に 徴 し て 、 興 行 時 間 が 推 定 で き る 例 も あ る が 、 二 一二 例 を 摘 記 す れ ば 一 、 〇 十 日 ( 六 月 ) ⋮ ⋮ 申 ノ 刻 鶴 ケ 岡 長 山 五 良 右 衛 門 宅 二 至 ル 。 粥 ヲ 望 。 終 テ 眠 休 シ テ 夜 二 入 テ 発 句 出 テ 一 巡 終 ル 。 〇 十 一 日 絶 ス 。 。 十 二 日 折 々 村 雨 ス 。 俳 有 。 翁 持 病 不 快 故 昼 程 中 朝 ノ 間 村 雨 ス 、 昼 晴 。 俳 嵜 仙 終 ル 。 ( ﹁ め づ ら し や ﹂ の 巻 翁 ・ 重 行 ・ 曽 良 ・ 露 丸 ) 一 、 〇 十 九 日 ( 六 月 ) 快 晴 。 三 吟 始 。 明 廿 日 、 寺 嶋 彦 助 江 戸 へ 被 レ 趣 二 因 テ 状 認 。 ⋮ ⋮ o 廿 日 快 晴 。 三 吟 。 ・ 廿 一 日 快 晴 。 夕 方 曇 。 夜 二 入 村 雨 シ テ 止 。 三 吟 終 。 ( ﹁ 温 海 山 や ﹂ の 巻 芭 蕉 ・ 不 玉 ・ 曽 良 ) な ど 、 持 病 不 快 と か 書 通 を 認 め る と か の 事 由 は あ る に し て も 、 二 、 三 日 が か り の 例 が 多 い 。 も っ と も 、 六 月 一 日 、 新 庄 の 風 流 亭 に 一 泊 し た 場 合 の ご と く 二 日 昼 過 迄 九 良 兵 衛 へ 被 レ 招 。 彼 是 晋 仙 一 巻 有 。 ⋮ ⋮ と あ っ て 翌 三 日 に は 新 庄 を 発 っ て い る か ら 、 こ の 歌 仙 ( ﹁ 御 尋 に ﹂ の 巻 、 風 流 ・ 芭 蕉 ・ 孤 松 ・ m 日良 ・ 柳 風 ・ 如 柳 ・ 木 端 )
は 、 二 日 の 昼 過 ぎ か ら 巻 き 初 め 、 そ の 日 の う ち に 満 尾 し た わ け で あ る 。 更 に 、 加 賀 小 松 で は 一 、 廿 六 日 ( 七 月 ) 朝 止 テ 巳 ノ 刻 ヨ リ 風 雨 甚 シ 。 今 日 ハ 歓 生 亭 へ 被 レ 招 。 申 ノ 刻 ヨ リ 晴 。 夜 二 入 テ 俳 五 十 句 、 終 テ 帰 ル 。 庚 申 也 。 と あ っ て 、 夜 に 入 っ て か ら 五 十 句 (﹁ ぬ れ て 行 や ﹂ の 五 十 韻 ) の 例 も あ る 。 た だ し ﹁ 庚 申 也 ﹂ と 断 書 き が あ る の で 、 こ の 晩 は 特 に 長 時 間 の 興 行 で あ っ た と 考 え ら れ る 。 長 い 道 中 の 事 、 初 対 面 の 連 衆 と の 付 合 で も あ り 、 特 殊 の 事 情 で は あ る が 、 ﹃ 曽 良 旅 日 記 ﹄ に 見 る 限 り 、 到 着 の 第 一 日 は 一 巡 、 一 折 な ど で 止 め 、 次 の 日 に 満 尾 す る 例 が 多 い 。 と す れ ば 、 こ の ﹁ 柳 小 折 ﹂ の 巻 の 場 合 は 、 朝 か ら 六 里 の 道 . を 歩 い て 来 た 後 の 興 行 と し て 、 昼 過 ぎ か ら 始 め て 夜 も 更 け ぬ 間 に 満 尾 と い う の は 、 や は り 異 例 の 速 さ と 考 え る べ き で あ ろ う 。 上 来 述 べ 来 っ た よ う に 、 芭 蕉 と し て も 二 年 半 振 り の 京 ・ 湖 南 の 連 中 と の 一 座 。 去 来 ・ 丈 草 ・ 洒 堂 ・ 支 考 ・ 惟 然 に し て も 、 久 振 り の 翁 の 捌 き に 、 両 方 と も に は り 切 っ た 気 分 で 迎 え た 会 席 で あ っ た と 考 え ら れ る 。 連 衆 そ れ ぞ れ 手 だ れ の 作 者 揃 い 、 そ の 上 ﹁ 出 勝 ち ﹂ の 付 合 で あ り 、 快 適 な テ ン ポ で 進 め ら れ た こ と と 推 測 さ れ 、 ﹃ 市 の 庵 ﹄ の 前 書 に わ ぎ わ ざ ﹁ 乱 吟 ﹂ と 書 き 加 え た の も 、 そ の 辺 の 事 情 を 暗 に 示 し た も の か と 考 え ら れ る 。 閏 五 月 廿 二 日 落 柿 舎 乱 吟 や な ぎ コ リ か た に は つ ま く は 柳 小 折 片 荷 は 涼 し 初 真 瓜 芭 蕉 夏 (初 真 瓜 ) 。 こ の 句 に つ い て 、 支 考 の ﹃ 東 西 夜 話 ﹄ 上 、 大 聖 寺 厚 為 亭 の 条 に 、 つ ぎ の ご と く あ る 。 夜 話 コ リ 今 宵 理 屈 の 論 あ り 。 先 師 、 柳 固 片 荷 は 涼 し 初 真 瓜 と い へ る は 、 初 真 瓜 の 大 切 な れ ば 片 荷 と い へ る か 。 法 師 が
日 。 し か ら ず 。 な に が し 実 相 院 な ど い へ る 山 伏 の 、 旦 那 も ど り の さ ま な り と 見 て 置 べ し 。 次 の 夜 あ る 人 の と ふ 。 風 雅 の 理 屈 と い ふ は い か に 。 法 師 日 。 風 雅 に 理 屈 な し 。 理 屈 は お の れ く が 心 の 理 屈 な り 。 た と へ ば 理 屈 あ る も の は 、 柳 固 の 句 を 理 屈 に 見 な し 、 理 屈 な き も の は た だ 其 ま ま に 見 て 置 な り 。 は い か い は 心 を ま な ぶ べ し 。 人 の 句 を ま な ぶ べ か ら ず 。 連 衆 の 一 人 と し て 、 こ の 会 席 に 同 座 し た 支 考 の こ の 言 は 、 こ の 発 句 を 解 す る に 当 っ て 参 考 と す る に 足 る 。 ﹁ 夜 話 ﹂ に 語 る 所 、 句 の 題 で あ る 初 真 瓜 を 重 視 強 調 す る が 故 に ﹁ 柳 小 折 ﹂ に 対 す る ﹁ 片 荷 ﹂ と 言 っ た の か 、 と い う 問 に 対 し て 、 そ の 解 は 、 ﹁ 心 に 理 屈 あ る も の ﹂ の 解 で あ っ て 、 そ う い う ﹁ は か ら い ﹂ を 退 け 、 囑 目 の 景 、 実 見 の 姿 を 直 叙 し た も の と 見 る べ き だ と い う 。 と こ ろ で ﹁ 何 が し 実 相 院 な ど い へ る 山 伏 ﹂ と い う 人 物 設 定 は 、 支 考 が こ の 句 か ら 得 た 印 象 に 基 づ く も の で あ ろ う か 、 あ る い は 興 行 の 席 に お け る 芭 蕉 の 、 自 句 に 対 す る 説 明 に 拠 る 所 が あ る の か 、 そ の 辺 の 所 は 判 ら な い 。 実 相 院 の 号 は 、 山 伏 に 多 い 通 名 と し て 用 い た に 過 ぎ な い で あ ろ う 。 と に か く 、 こ の 句 か ら 山 伏 を 想 到 す る と す れ ば 、 句 中 に 山 伏 を 暗 示 す る も の は 何 で あ る か 。 ﹁ 柳 小 折 ﹂ で あ ろ う か 、 そ れ と も 旦 那 の 百 姓 、 小 地 主 な ど か ら の 布 施 物 と し て の ﹁ 初 真 瓜 ﹂ が 山 伏 に 思 い 至 ら せ る の で あ ろ う か 。 も と よ り こ の 句 は ﹁ 初 真 瓜 ﹂ の 句 で あ る が 、 ﹁ 柳 小 折 ﹂ を 上 五 に 置 い た 句 作 り か ら 見 る と ﹁ 柳 小 折 ﹂ に 特 別 の 意 味 を 読 み と る べ き か と も 考 え ら れ る 。 と す れ ば 、 ﹁ 柳 小 折 ﹂ に 山 伏 を 連 想 さ せ る も の が あ る の か 。 山 伏 と い っ て も 、 事 々 し く 笈 を 背 負 っ た 修 験 の 行 者 と い う で も な い 。 寄 り つ き の な き 女 房 の 貝 重 き 野 水 夜 す が ら 濡 ら す 山 伏 の 髪 芭 蕉 (元 禄 六 年 、 ﹁ い ざ よ ひ は ﹂ の 巻 ) 又 こ の 春 も 済 ぬ 牢 人 野 披 法 印 の 湯 治 を 送 る 花 ざ か り 芭 蕉 ( 元 禄 七 年 ﹁ む め が か に ﹂ の 巻 ) 一36一
喰 か ね ぬ 智 も 舅 も 口 き い て 芭 蕉 何 ぞ の 時 は 山 伏 に な る 曲 翠 ( 元 禄 七 年 、 ﹁ 夏 の 夜 や ﹂ 相 撲 に ま け て 言 事 も な し 猿 錐 山 か げ は 山 伏 村 の 一 か ま へ 翁 ( 元 禄 七 年 、 ﹁ 荒 く て ﹂ 野 に 麦 を し て こ か す 俵 物 土 芳 山 臥 に つ い な つ て 来 て 札 賦 る 苔 蘇 ( 元 禄 七 年 、 ﹁ 残 る 蚊 に ﹂ の 巻 ) の 巻 ) の 巻 ) な ど の 山 伏 。 実 相 院 何 が し 法 印 な ど と 名 の み 厳 め し く 、 実 態 は 民 衆 土 俗 に と け 込 ん で 、 旦 那 先 を 廻 っ て は 加 持 祈 禧 を 業 と す る 祈 禧 山 伏 。 柳 行 李 は そ う い う 山 伏 の よ く 携 え た も の な の か 、 私 に は わ か ら な い 。 柳 行 李 と い う の も 大 き な も の で は あ る ま い 。 法 具 や 法 衣 を い れ る だ け の 小 さ な も の 。 そ れ を 大 兵 の 山 伏 が 、 杖 の 先 に ぶ ら さ げ る か 、 振 分 け に し て 、 一 方 の 片 荷 に は 檀 家 で 礼 物 に 貰 っ た 初 物 の 真 瓜 を 五 六 個 ぶ ら さ げ て 、 大 股 に ス タ ス タ 歩 い て い る と い う 恰 好 で あ る 。 そ の 姿 に ユ ー モ ア も 感 じ ら れ る 。 真 瓜 も 、 こ の 閏 五 月 下 旬 頃 が 、 ま さ し く 初 物 の 季 節 で あ る 。 江 戸 時 代 に は 、 野 菜 物 の 初 物 の 禁 令 が 度 々 出 さ れ る が 、 例 え ば 貞 享 三 寅 年 五 月 の そ れ に は ﹁ 野 菜 物 之 儀 、 節 に 入 候 日 よ り 売 出 之 事 ﹂ と あ っ て そ れ ぞ れ の 品 目 を 列 記 す る 中 に 、 コ 、 真 桑 瓜 六 月 節 6 ﹂ と あ る の も 参 考 に な ろ う ( ﹃徳 川 禁 令 考 ﹂ ) 。 そ の 初 物 の 、 ま だ 畑 の 露 に 濡 れ た よ う な 真 桑 瓜 に 、 清 涼 の 気 味 を 見 出 し た 所 が こ の 句 の 眼 目 。 あ え て 推 測 す れ ば 、 こ の 日 落 柿 舎 に 至 る 道 中 で の 囑 目 の 景 を 発 句 と し て 、 挨 拶 と し た も の で あ ろ う 。 更 に い う な ら ば 、 上 述 の こ の 巻 興 行 の 意 義 か ら 見 て 、 新 し く 難 波 の 地 で 門 戸 を ひ ら く 洒 堂 を 、 初 真 瓜 の 清 新 に 托 し て の 祝 意 を 寓 す る と も 解 す べ き で あ る 。 ま び き す て み ち な か ひ え 間 引 捨 た る 道 中 の 稗 洒 堂 夏 (稗 間 引 ) 。 洒 堂 が 脇 句 を 付 け て い る 事 情 に つ い て は 上
述 し た 。 ﹁ 間 引 捨 た る ﹂ 稗 と い い う の で 、 田 草 取 を 意 味 す る 所 か ら 、 夏 の 句 と な る 。 ﹁ 道 中 ﹂ は ﹁ ミ チ ナ カ ﹂ と 訓 み 、 路 上 の 意 。 既 に 伸 び て 青 や い だ 田 か ら 引 抜 い た 稗 が 、 田 間 の 小 径 の あ ち こ ち に 捨 て ら れ て あ る 。 稗 は 水 田 に 偶 生 し て 勢 強 く 、 稲 を 害 す る こ と 甚 だ し い 。 ﹃ 農 業 全 書 ﹄ (宮 崎 安 貞 著 、 元 禄 十 年 ) 巻 二 、 稗 の 項 に ﹁ そ の 実 お つ れ ば 、 次 の 年 稲 を つ く る に 蕎 と な っ て 、 は な は だ 妨 と な る も の な り ﹂ と あ る 。 た め に 田 草 取 の 作 業 中 、 稗 を 余 さ ず 抜 き 取 る こ と が 最 も 肝 要 と さ れ る 。 こ れ も ま た 途 上 囑 目 の 田 園 風 景 を も っ て 発 句 に 応 じ 、 そ の 人 物 の 通 り 行 く 足 許 を 付 け も の で あ る が 、 挨 拶 の 意 を 含 め て 解 す れ ば 、 酒 堂 自 身 を 無 用 の 雑 草 に 比 し て 、 謙 退 ー 当 時 の 洒 堂 と す れ ば む し ろ 自 虐 1 の 意 を 寓 し た と も 考 え ら れ る 。 む ら ず ず め 村 雀 里 よ り 岡 に 出 あ り き て 去 来 雑 。 村 雀 は 群 雀 。 村 里 に 下 り て 道 中 の 稗 を 啄 ば み な ど し て い た 一 群 の 雀 が 、 天 空 高 く 舞 上 っ て 、 岡 の 辺 の あ た り ま で 弧 を 描 き 、 ま た 里 の 方 へ 舞 戻 る 。 ﹁ 出 あ り き て ﹂ と い う 表 現 も 軽 く 、 遥 か 岡 の 辺 の あ た り を 一 巡 す る 群 雀 の 動 き を 彷 彿 さ せ て 巧 み で あ る 。 村 雀 は 前 句 の 稗 か ら の 連 想 に よ る が 、 地 上 か ら 空 へ 、 更 に 動 き を 描 い て 第 三 の 転 を 果 し て い る 。 へ い て ま へ 塀 か け 渡 す 手 前 石 が き 支 考 雑 。 ﹁ 手 前 石 が き ﹂ は 手 前 普 請 の 石 垣 で 、 自 家 の 費 用 で 築 い た 石 垣 を い う 。 ﹁ 塀 か け 渡 す ﹂ と い う は 、 石 垣 の 上 に 長 々 と 塀 を め ぐ ら し て あ る 豪 家 の 外 観 。 里 よ り 岡 に 出 あ り く 村 雀 を 追 っ て 、 視 線 を 岡 の 辺 に 移 す と 、 岡 を 背 に し て 石 垣 の 上 に 塀 を 列 ね た 庄 屋 屋 敷 な ど の 構 え が 見 え る 。 名 主 、 庄 屋 な ど の 屋 敷 は 、 村 里 を 離 れ た 岡 の あ た り に 一 構 え を な し て い る こ と が 多 い 。 四 句 目 振 り の 軽 い 付 。 一38一
か は み つ ふ ね は た 月 残 る 河 水 ふ く む 船 の 端 丈 艸 秋 (月 ) 月 の 定 座 。 ﹁ 河 水 ふ く む ﹂ は 河 の 水 を 口 に ふ く む 、 口 嚇 ぐ の 意 。 有 明 月 の 空 に 残 る 早 朝 、 川 手 水 を 使 う 情 景 。 前 句 を 、 川 沿 い の 問 屋 か あ る い は 蔵 屋 敷 と 見 て 、 人 夫 ・ 水 夫 な ど が 雁 木 の 段 を 下 り て 繋 が れ た 船 の 傍 で 口 噺 ぐ 河 岸 風 景 を 付 け た 。 叙 景 句 の 続 く 中 に 、 人 物 を 点 出 し た 所 、 働 き が あ る 。 参 考 、 ﹁ 短 夜 や 同 心 衆 の 川 手 水 蕪 村 。 ﹂ こ い わ し う く 小 鰯 か れ て 砂 に 照 り 付 素 牛 秋 (鰯 ) 。 陸 揚 げ の 際 に こ ぼ れ 落 ち た 小 鰯 が 、 照 り つ け る 陽 に 、 砂 上 に 干 か ら び て い る 。 河 岸 の 昼 過 ぎ 頃 で あ ろ う か 。 ウ 上 琴 を 着 き て そ こ ら を 誘 ミ ふ 墓 幾 参 藷 り 堂 秋 (墓 参 ) 。 初 折 の 裏 に 移 っ て 、 早 速 釈 教 の 句 を 出 し た 。 ﹁ 上 ﹂ は 肩 衣 と も い い 、 捺 の 社 に 当 る 。 一 向 宗 門 徒 の 、 寺 参 り な ど 廉 あ る 時 に 着 物 の 上 に 襲 い 、 下 端 を 帯 に は さ む 。 寺 の 世 話 役 や 一 家 の 主 人 な ど 、 重 立 っ た 人 が 格 式 と し て 用 い る 。 ﹃ 好 色 五 人 女 ﹄ ニ ノ 三 に ﹁ 津 村 の 御 堂 ま い り と て か た ぎ ぬ は 持 せ 出 し が 、 直 に 朝 ご み に 行 よ し 見 へ け る ﹂ と あ る 肩 衣 で あ る 。 ﹁ そ こ ら ﹂ と は 近 所 。 お そ ら く 近 所 に 住 む 分 家 ・ 別 家 ら 一 族 で あ ろ う 。 隠 居 の 老 人 な ど 、 一 門 を 促 し て 盆 の 墓 参 り に 出 か け る 様 。 前 句 に 去 り や ら ぬ 残 暑 を 見 込 ん で の 付 。 て を け い と ほ り 手 桶 を 入 る ㌧ お 通 の あ と 蕉 雑 。 石 号 の ﹃ 芭 蕉 翁 附 合 集 評 註 ﹄ 下 に ﹁ 町 す じ の や う す 見 る が 如 し 、 上 下 の 上 ば か り 着 て 、 近 所 の 人 の 墓 参 り を さ そ ひ つ る 玉 な り 。 後 句 も そ こ ら の 場 所 に て 、 け ふ は 何 が し 殿 の 御 通 り に て 、 家 々 に 手 桶 を 出 し た る が 、 後 に て
入 る 玉 さ ま な り L と あ る 。 江 戸 の 例 を い え ぱ 、 将 軍 様 の 御 成 は も と よ り 、 公 家 衆 、 朝 鮮 修 交 使 な ど の 通 り 筋 に 当 る 所 に は 、 火 の 用 心 の た め 手 桶 に 水 を 張 っ て 門 口 に 出 す べ く 令 せ ら れ た 。 手 近 の ﹃ 正 宝 事 録 ﹄ よ り 一 例 を あ げ れ ば 、 次 の ご と く で あ る 。 一 、 明 十 八 日 上 野 江 被 レ 為 レ 成 候 間 、 町 中 火 之 用 心 之 儀 、 家 持 は 不 レ 及 レ 申 、 借 屋 店 か り 等 迄 成 程 入 念 可 二 申 付 一 候 。 一 、 御 成 筋 之 町 々 は 、 只 今 よ り 海 道 之 掃 除 寄 麗 二 仕 、 土 蔵 二 階 等 之 窓 立 、 屋 根 之 上 二 何 二 而 も 一 切 置 申 間 敷 候 。 附 、 表 之 間 数 二 応 じ 、 手 桶 二 水 を 入 出 し 置 可 レ 申 候 。 尤 其 町 々 名 主 行 事 ハ 、 前 後 之 木 戸 に 付 居 、 喧 嘩 口 論 万 事 物 さ わ が し き 事 無 レ之 様 二 堅 可 二 申 付 一 候 。 少 も 油 断 有 間 敷 候 。 以 上 六 月 十 七 日 町 年 寄 三 人 (延 宝 八 年 、 五 八 四 ) と あ る 通 り 、 通 り 筋 に 当 る 家 持 な ど は 、 掃 除 は も と よ り 、 出 火 は 勿 論 、 喧 嘩 口 論 な ど 椿 事 出 来 の な い 様 に と の 、 気 遣 い は 一 方 な ら ぬ も の が あ っ た と 思 わ れ る 。 句 の ﹁ お 通 り ﹂ も 、 盆 の 御 墓 参 で あ ろ う 。 表 通 り の 大 店 の 主 人 な ど 、 お 通 り も 無 事 済 み 、 や れ や れ 、 さ あ こ れ か ら と 、 一 家 揃 っ て の 墓 参 り を 誘 い 合 う と い う 所 。 瘡 葦 に" も 食 芒 は い つ も の と く に て 来 雑 。 瘡 は マ ラ リ ア な ど の 間 欺 熱 。 隔 日 又 は 周 期 的 に 悪 寒 高 熱 を 発 す る が 、 熱 の 上 ら ぬ 日 は 忘 れ た よ う に な る 。 疲 を 煩 っ て は い る が 、 食 欲 も 衰 え ず , 衰 弱 も 見 せ ず に 平 生 と 変 ら ぬ と い う 意 。 病 中 の こ と と て 、 仕 事 も せ ず に い る ま ま 、 お 通 り の 後 の 手 桶 を 片 付 け る の で あ る 。 無 事 お 通 り の す ん だ 後 の 緊 張 の ほ ぐ れ た 安 心 感 と 、 ﹁ 休 み 日 ﹂ の マ ラ リ ア 患 者 の ケ ロ ッ と し た 感 じ と 気 味 通 ず る も の が あ り 、 そ こ が 作 者 去 来 の 狙 所 と も 考 え ら れ る が 、 こ の 年 次 に し て は 余 り に も 図 式 的 で 、 重 く れ た 付 合 の 感 を 免 が れ な い 。 一40一
参 考 遊 行 の 輿 を お が む 尊 さ 休 み 日 も 瘡 ふ る ひ の 顔 よ は く (元 禄 四 年 、 だ い く じ や ま の こ ぎ り 大 工 の 邪 魔 に 鋸 を か る 芭 蕉 路 通 ﹁ 牛 部 屋 に ﹂ の 巻 ) 考 雑 。 手 細 工 を し よ う と 、 仕 事 に 来 て い る 大 工 の 鋸 を 借 る 。 そ れ が 大 工 の 仕 事 の 妨 げ と な り 邪 魔 が ら れ る 、 と い う だ け の 事 で あ る が 、 句 全 体 と し て ユ ー モ ラ ス な 感 じ を 与 え る 所 に 、 句 作 り の 巧 み さ が あ る 。 前 句 ﹁ 食 は い つ も の ご と く に て ﹂ と あ る に 、 頑 健 達 者 な 人 物 を 見 込 み 、 熱 が 下 が れ ば じ っ と し て お れ ず 、 大 工 仕 事 な ど に 、 い ら ぬ 手 を 出 す 人 物 を 付 け た 。 れ け ど ひ み つ く み く り さ き 竹 樋 の 水 汲 か く る 庫 裏 の 先 牛 雑 。 竹 樋 を 庫 裡 の 先 ま で 導 い て 、 庫 裡 か ら す ぐ に 水 を 汲 め る よ う な 仕 掛 に な っ て い る と の 意 。 お そ ら く 、 と く と く と お ち る 山 水 を 竹 樋 で 受 け て い る の で あ ろ う 。 寺 の 役 僧 な ど が 、 樋 の 具 合 を な お そ う と 、 折 か ら 寺 の 普 請 に 来 て い る 大 工 の 鋸 を 借 る 。 寺 を 出 し て 転 じ た 所 が 手 柄 。 た よ り す ど く り 便 を ま ち て 酢 徳 利 を や る 堂 雑 。 便 宜 の あ る 折 を 待 っ て 、 人 伝 て に 酢 を 届 け さ せ る 。 前 句 を 、 平 常 人 も 通 わ ぬ 不 便 な 山 寺 の 景 と し た 。 酢 は 精 進 料 理 に 欠 か せ ぬ も の 、 し か も 自 家 で 製 す る こ と 得 難 い も の で あ る 。 ふ り だ 降 出 し も 忘 る 玉 雨 の じ た ぐ と 艸 雑 。 幾 日 前 に 降 出 し た と も 覚 え ぬ 程 の 森 雨 。 毎 日 々 々 じ と じ と と 降 り 続 く 。 前 句 の 酢 徳 利 を 届 け る 先 は 、 出 水 で 交 通 も 杜 絶 し た 不 便 な 所 。 酢 の 匂 い と 、 長 雨 に 物 皆 湿 る
徽 の 宿 と 、 う つ り が 感 じ ら れ る 。 参 考 暖 ふ な り て も あ け ぬ 北 の 窓 徳 利 匂 ふ て 酢 を 買 に ゆ く ( 元 禄 七 年 、 そ う せ ん そ く 惣 く や め に し た る 洗 足 野 披 芭 蕉 ﹁ 五 人 ぶ ち ﹂ の 巻 ) 来 雑 。 ﹁ 惣 く ﹂ は ﹁ 勿 々 ﹂ 。 連 日 の 雨 の 中 を 、 今 日 も 一 日 歩 い て や っ と 宿 に 着 く 。 洗 足 欄 に 足 を 入 れ た も の の 、 疲 れ も 甚 だ し く 、 物 皆 濡 れ て 湿 り を 含 ん だ 宿 、 足 先 き も 冷 え て う そ 寒 く ま で 感 じ ら れ 、 勿 々 に し て 足 を 拭 く 。 軽 い 付 句 で は あ る が 実 感 が こ も り 、 ﹁ 冷 え ﹂ ﹁ 寒 さ ﹂ な ど の 語 を 用 い ず に 感 覚 的 な も の を 出 し た 所 を と る べ き か 。 物 。 脆 は 腐 り が 早 く 、 た め に 魚 篇 に 危 と 書 く と い う 俗 説 が あ る 。 洗 足 も 勿 々 に と の 前 句 に 、 は や る 気 持 を 見 込 ん で 、 川 狩 か ら 帰 っ て 、 沢 山 と れ た 脆 を 焼 物 に せ ん か 鰭 に し よ う か と 、 獲 物 料 理 の あ ら ま し に 、 心 も 空 な る 情 を 以 て 応 じ た 。 脆 は 稚 魚 は 春 季 ( 柳 脆 ) 。 成 魚 の 漁 期 は 晩 夏 か ら 秋 。 こ の 句 夏 の 句 と も 見 れ る が 、 元 禄 の 頃 は 脆 が 夏 の 季 語 と し て 定 着 し て い た か ど う か 審 か し く 、 な お 雑 の 句 と す る 。 参 考 ﹃笈 日 記 ﹄ に ﹁ な ま ぐ さ し 小 な ぎ が 上 の 脆 の 膓 ﹂ の 芭 蕉 の 句 を あ げ 、 支 考 が こ の 句 に 、 残 暑 の 感 を 聞 き と っ て 、 芭 蕉 の 嘉 賞 を 得 た 旨 の 記 事 が あ る 。 か し 黒 み て た か き 樫 の 木 の 森 牛 一42一 う ち は え や お な ま す 打 脆 を 焼 と 贈 と 両 方 に 堂 雑 。 打 脆 と は 網 を 打 っ て 獲 っ た 鰭 を い う か 。 ﹁ 焼 ﹂ は 焼 雑 。 前 句 の 鰭 に 網 打 ち し あ た り 、 川 沿 い の 樫 の 大 本 の 群 。 前 句 の 漁 を 夕 暮 と 見 て ﹁ 黒 み て た か き ﹂ と 夕 景 で 応 じ た 。
月 花 に 小 さ き 門 允 を 出・ ツ 入 ぢ ツ 蕉 春 (花 ) 。 こ の 巻 は 、 初 折 の 裏 、 雑 の 句 が 続 き 、 月 が こ ぼ れ て 、 こ こ 花 の 定 座 に 至 っ た 。 し か も 花 前 の 句 が ら か ら 、 甚 だ 付 難 い 所 で あ る 。 ﹃ 去 来 抄 ﹄ に 、 前 く ろ み て 高 き 樫 木 の 森 咲 花 に 小 き 門 を 出 つ 入 つ は せ を 此 前 句 出 け る 時 、 去 来 日 、 前 句 全 体 樫 の 森 の 事 を い へ り 。 そ の 気 色 を 失 な ハ ず 花 を 付 け ん 事 、 む つ か し か る べ し と 先 師 の 付 句 を 乞 け れ バ 、 か く 付 て 見 せ た ま ひ け り 。 と あ る 。 こ の 巻 は 乱 吟 で あ る が 、 芭 蕉 の 付 句 は 初 折 裏 の 二 句 目 以 後 な く 、 こ こ 十 一 句 目 に 至 っ て は じ め て 出 て い る 。 月 の 零 れ は 連 衆 の 誰 も が 意 識 し て い た で あ ろ う し 、 芭 蕉 も 期 す る 所 が あ っ た の か 、 気 づ き な が ら も 連 衆 の 快 調 な 付 合 に ま か せ て い た の で あ ろ う 。 そ し て ﹃ 去 来 抄 ﹄ に 伝 え る ご と く 、 こ こ に 至 っ て 付 句 を 乞 わ れ た の で あ ろ う 。 と こ ろ で 、 ﹃ 去 来 抄 ﹄ に 、 付 句 上 五 が ﹁ 咲 花 に ﹂ と あ る の は 去 来 の 記 憶 違 い か と 考 え ら れ る 。 ﹃ 去 来 抄 ﹄ の 執 筆 時 、 去 来 に は 芭 蕉 の 付 合 の 妙 手 に 感 銘 を う け た 記 憶 の み が あ っ て 、 こ の 場 合 に 、 月 花 を 詠 込 ん で 見 事 に 処 理 し た 、 具 体 的 事 実 を 失 念 し て い た の で あ ろ う 。 更 に は 、 こ の 条 の 直 前 の 、 同 じ く 芭 蕉 に 付 句 を 所 望 し た 場 合 の 付 句 ﹁ 咲 花 に か き 出 す 橡 の か た ぶ き て ﹂ の 句 の 上 五 に ひ か れ て 誤 っ た も の か 。 談 林 の 付 合 に は 、 月 を 零 し て 月 花 の 句 を 花 の 定 座 に 付 け る こ と 、 そ の 例 は 多 い が 、 蕉 風 に は , 稀 で 、 ﹃炭 俵 ﹄ の ﹁ 振 売 の ﹂ の 巻 、 ﹃ 続 猿 蓑 ﹄ の ﹁ 八 九 間 ﹂ の 巻 な ど 、 晩 年 の 巻 に 見 え 、 い ず れ も 芭 蕉 自 身 が 付 け て い る こ と 、 注 意 す べ き で あ る 。 さ て こ の 付 句 、 句 意 は 、 月 を 賞 す る に も 花 を 眺 め る に も 、 こ の 小 さ い 門 を 出 つ 入 り つ す る 事 よ 、 と い う 程 の 意 で あ る が 、 前 句 の 樫 の 木 の 森 は 門 の 傍 の 木 立 ち な る べ く 、 ﹁ 小 さ き 門 ﹂ が 利 い て い る 。 住 む 人 の 風 雅 を 思 わ せ 、 ま た 前 句 の コ 局 き ﹂ と
あ る に 応 じ て 、 せ る 。 黒 々 と 葺 え る 樫 の 木 立 ち と 対 照 の 妙 を 見 す ち こ の ぼ こ し い た 巣 お ろ す 児 の 登 る 腰 板 堂 春 (鳥 の 巣 ) 。 前 句 の ﹁ 小 さ き 門 ﹂ を 、 塀 重 門 又 は 長 屋 門 な ど の 脇 門 と し た 。 そ れ に 続 く 築 地 塀 な ど で あ ろ う か 、 腰 板 に 登 っ て 屋 根 裏 の 鳥 の 巣 を 下 ろ す 子 供 の 悪 戯 。 折 端 の 句 が ら 軽 い お だ や か な 付 で あ る 。 名 か り ろ ふ ね む け づ き と も 陽 炎 に 眠 気 付 た る 医 者 の 供 艸 春 ( 陽 炎 ) 。 ﹁ 医 者 の 供 ﹂ は 、 薬 箱 を 持 っ て 往 診 の 供 を し 、 病 室 に 侍 し て 先 生 の 処 方 に 従 っ て 調 剤 す る 代 脈 書 生 で は な く 、 患 家 の 供 待 ち に 、 長 尻 の 先 生 の お 出 ま し を 待 ち わ び て い る 下 僕 。 こ れ が 医 者 の 、 ま た 門 構 え の 患 家 の 格 式 を あ ら わ し て い る 。 庭 先 に は 陽 炎 が 燃 え る う ら ら か さ 。 向 う の 壁 の 腰 板 に 上 っ て 小 鳥 の 巣 を 取 ろ う と す る 子 供 の い た ず ら を 見 て い る う ち に 、 覚 え ず う と う と す る 、 騎 蕩 け た る 春 昼 の 気 だ る さ 。 し ん ち や 新 茶 の か ざ の ほ つ と し て 来 る 蕉 夏 (新 茶 ) 。 ど こ か ら と も な く 、 か ぐ わ し い 新 茶 の 薫 り が 漂 っ て き て 、 一 瞬 鼻 を 掠 め る 。 ﹁ ほ つ と ﹂ は ﹁ ぼ つ と ﹂ と も よ め る が 、 ﹁ ほ つ と ﹂ を 採 る 。 そ の 方 が 瞬 時 の と き め き を 感 じ さ せ る か ら で あ る 。 も ち ろ ん 、 往 診 の 医 者 へ 俺 れ る 新 茶 で あ り 、 そ こ か ら 発 想 さ れ た 付 句 で あ る が 、 前 句 の 、 陽 炎 燃 え る 春 昼 の 瀬 さ を ﹁ 新 茶 の か ざ ﹂ の ほ の か な 感 覚 で 受 け と め て 、 し か も 三 句 続 い た 春 季 か ら 夏 へ の 季 移 り も 実 に 自 然 。 さ す が に 芭 蕉 な ら で は の 妙 手 で あ る 。 か た く ち た ま り さ 片 口 の 溜 を そ つ と 指 し 出 し て 堂 一44一
雑 。 片 口 は 一 方 に 注 ぎ 口 の あ る 、 酢 ・ 醤 油 な ど を 容 れ る 器 。 早 く ﹃ 日 葡 辞 書 ﹄ に も 見 え る 。 溜 は 醤 油 。 ま た 一 種 、 常 の 醤 油 よ り 甘 味 の 多 い も の を 特 に ﹁ た ま り 醤 油 ﹂ と い う ( ﹃万 金 産 業 袋 ﹂ 六 ) 。 煮 物 な ど の 味 付 に 用 い ( ﹃料 理 物 語 ﹂ 、 だ し た ま り ) 、 ま た 香 の 物 な ど に 直 接 か け て 用 い る ( ﹃ 好 色 五 人 女 ﹄ ニ ノ ニ ) 。 ﹁ 指 し 出 し て ﹂ は 、 ﹁ 注 し 出 し て ﹂ 。 味 加 減 を 見 な が ら 、 片 口 の 注 ぎ 口 か ら 少 し ず っ 注 す の で あ る 。 前 句 座 敷 の 客 に 出 す 新 茶 か ら 、 台 所 の 料 理 人 の 、 客 も て な し の 饗 膳 の 用 意 を 付 け た 。 ﹁ そ つ と ﹂ と あ る は 、 前 句 の ﹁ ほ つ と ﹂ の う つ り 。 む か へ あ す わ か れ ば 迎 を た の む 明 日 の 別 端 来 雑 。 恋 (別 端 ) 。 前 句 の ﹁ 位 ﹂ か ら 町 家 の 奉 公 人 同 士 の 恋 と 解 す る 。 あ れ こ れ と 手 だ て を め ぐ ら し た 末 、 や っ と 叶 え ら れ た 今 晩 の 逢 瀬 で あ ろ う 。 そ っ と 主 家 を 抜 け 出 し て 、 さ て 明 朝 の 別 れ に 、 仲 に 立 っ て 取 持 っ て く れ た 傍 輩 に 迎 を 頼 ん で 、 主 家 の 首 尾 を し ら せ て 貰 う な ど の 女 心 。 前 句 の 料 理 人 を 相 手 の 男 と し た 。 前 句 の ﹁ そ つ と ﹂ に 、 ﹁ 忍 ぶ 恋 ﹂ を 呼 出 す 気 味 が あ る 。 う す ゆ き い つ ぺ ん ふ り わ た 薄 雪 の ] 遍 庭 に 降 渡 り 考 冬 (雪 ) 。 コ 遍 ﹂ は 一 通 り 、 一 面 に 、 を 気 違 う 気 味 を 見 込 ん で 付 け た 。 お ま へ つ き で え が く 御 前 は し ん と 次 の 田 楽 の 意 。 前 句 に 天 気 蕉 雑 。 ﹁ 御 前 ﹂ は 神 の 御 前 、 社 前 の 広 場 。 句 は 由 緒 あ る 宮 お ん ま つ り の 祭 礼 の 場 。 お そ ら く は 春 日 若 宮 の 御 祭 の 情 景 を 頭 に 描 い て の 句 で あ ろ う 。 祭 礼 の 次 第 は ﹃ 日 次 紀 事 ﹄ 十 一 月 廿 六 日 ・ 廿 七 日 の 条 に 詳 し い 。 す な わ ち 、 廿 六 日 、 南 都 春 ヤ ニ リ 日 若 宮 祭 夜 宮 の 条 に 、 ﹁ 興 福 寺 寺 僧 頭 屋 有 二 田 楽 一⋮ ⋮ 入 け 夜 . 亥 , 刻 許 , 神 幸 。 於 ﹂若 宮 拝 殿 ∼有 コ 神 楽 一。 其 , 後 滅 二 燈
燭 ↓ 社 家 各 ミ 擁 二 護 ス 神 体 ↓ ⋮ ⋮ 奉 レ 遷 ⊃ 旅 所 ∼ 。 於 " 弦 .張 四 燈 . 燈 レ 火 , 音 楽 相 撲 等 次 第 . 修 陥 之 , 。 諸 人 参 詣 恰 . 如 二 白 昼 ご と あ り 、 廿 七 日 南 都 春 日 若 宮 祭 礼 当 日 の 条 に ﹁ ⋮ ⋮ 巫 女 及 . 伶 人 田 楽 猿 楽 供 奉 . 僧 於 コ 松 , 下 鳥 居 , 南 方 一 視 階 之 , 。 奉 ー ウ へ 行 職 , 人 亦 在 レ 藪 。 。 楽 人 上 越 後 守 騎 レ 馬 一供 奉 。 是 . 為 二 関 白 代 ↓ 。 於 け 眩 .有 ﹂ 陪 従 , 楽 一。 田 楽 施 コ 芸 術 ↓ 猿 楽 唱 二 開 闊 ↓ 。 是 , 謂 コ 松 , 下 開 闘 ↓ ⋮ ⋮ ﹂ と あ る 。 句 の 田 楽 は 両 日 ど ち ら の 田 楽 と も と れ る が 、 宵 宮 の 場 合 、 お 旅 所 に お い て 田 楽 の 演 ぜ ら れ る の は 、 深 更 も す ぎ た 頃 で あ る 。 薄 雪 が 一 面 に 地 上 を 覆 い 清 め た 浄 域 。 社 前 の 群 衆 し わ ぶ き 一 つ せ ず 、 次 の 田 楽 を 待 つ 。 寒 気 身 う ち を 徹 し 、 や が て 展 開 す る 演 能 を 期 待 す る 緊 張 感 。 す べ て ﹁ し ん と ﹂ の 一 語 に 凝 集 さ れ て い る 。 芭 蕉 は 元 禄 二 年 、 春 日 若 宮 祭 礼 に 列 し て い る 。 お ひ こ み つ な 追 込 の 綱 を 鼠 の な ら す 音 堂 雑 。 迫 込 は 淺 敷 な ど を 設 け ず 、 定 員 な し に 観 客 を 入 れ る 席 。 綱 は そ の 追 込 場 を 区 切 る 綱 で あ る 。 野 鼠 が そ の 綱 を 渡 っ て 鳴 ら す の で あ る 。 農 村 の 神 事 能 な ど 思 い や ら れ る 。 前 句 の ﹁ し ん と ﹂ に 静 か さ を 見 込 ん で 付 け た 。 と な り あ き や ふ く な り 隣 の 明 屋 あ ら し 吹 也 牛 雑 。 前 句 を 荒 涼 た る 貧 村 の 景 と 見 て 、 人 も 住 捨 て て 空 家 と な っ た 隣 家 に 、 強 風 が 吹 き す さ ぶ と し た 。 前 句 の ﹁ 追 込 ﹂ は 付 句 で は 捨 て ら れ て い る 。 こ の 語 に 拘 わ る と 演 能 の 世 界 を 離 れ 難 く ﹁ 三 句 が ら み ﹂ と な る か ら で あ る 。 さ う れ い き や う だ う し ゐ ぱ う 葬 礼 の あ と で 経 よ む 道 心 坊 来 雑 。 道 心 坊 と い う の は 、 寺 も 持 た ず 、 鉢 坊 主 と し て 托 鉢 な ど に 出 る 僧 の こ と で 、 墓 地 の 傍 の 小 屋 な ど に 起 居 し て 墓 守 を す る 例 も 多 い 。 野 辺 の 送 り も 終 り 、 会 葬 者 も 散 果 て た 葬 礼 の あ と 、 荒 涼 た る 三 昧 堂 な ど で 、 道 心 坊 が 回 一46一
馬 向 の 読 経 を す る 。 付 近 の 空 家 に 吹 く 嵐 の 音 が 、 凄 涼 の 気 を 加 え る 。 て れ ぐ ひ ぬ い 手 拭 脱 で お ろ す 牛 の 荷 考 一 層 悲 痛 付 ﹂ 。 向 う 岸 に 上 っ て ま ず 手 拭 を と っ て 濡 れ を 拭 う 。 荷 を お ろ す の は ﹁ 荷 を し か へ た る さ ま ﹂ ( ﹃ 附 A ロ 集 評 註 ﹄ ) ヘ ヘ へ で あ ろ う 。 ﹁ 川 ひ と つ ﹂ と い う 表 現 に 、 寒 い 冬 の 朝 川 を 渉 る 辛 さ を い と う 情 が う か が わ れ る 。 雑 。 手 拭 脱 ぐ と は 、 鉢 巻 ま た は 頬 被 り の 手 拭 を と る 。 現 代 な ら ば 帽 子 を 脱 ぐ と い う 所 か 。 葬 礼 場 は 墓 地 、 焼 き 場 で 、 村 か ら 少 し 離 れ た 所 に あ る 場 合 が 多 い 。 そ こ を 見 渡 せ る 農 家 の 庭 先 き な ど か 。 一 人 で 回 向 す る 道 心 坊 の 姿 に 、 思 わ ず 手 拭 を 脱 い で 一 礼 し 、 さ て 畑 か ら 牛 の 背 に 積 ん で 来 た 荷 を 下 ろ す 。 前 句 の 景 に 情 を 点 じ た 付 。 わ に り あ り あ け 川 ひ と つ 渡 て 寒 き 有 明 に 蕉 冬 (寒 さ ) 。 月 (有 明 ) 。 前 句 の 手 拭 を 、 川 風 を 防 ぐ た め の 頬 被 り と し て 、 有 明 月 の 残 る 早 朝 、 川 を か ち 渡 っ て 荷 を 運 ぶ と し た 。 時 間 的 に は 前 句 に 返 っ て 解 す べ き ﹁ て に は タ ナ ガ ミ い ほ 岩 に の せ た る 田 上 の 庵 艸 雑 。 田 上 は 江 州 栗 太 郡 田 上 山 。 ﹁ 幻 住 庵 記 ﹂ に 見 え る 田 上 山 で 、 岩 山 の 上 に 太 神 山 不 動 寺 が あ り 、 ﹃ 近 江 国 名 所 図 絵 ﹄ の 挿 画 に よ っ て も 、 峨 々 た る 巌 に 懸 作 り の 不 動 堂 が あ る 。 ﹁ 岩 に の せ た る ﹂ の 語 、 表 し 得 て 妙 。 た だ し 句 の ﹁ 庵 ﹂ は 、 不 動 寺 の 庵 で は な く 、 田 上 山 に 隠 棲 す る 風 雅 人 の 草 庵 。 麓 を 、 伊 賀 境 に 源 を 発 し 瀬 田 川 に 合 流 す る 田 上 川 が 流 れ る 。 ま た 歌 人 猿 丸 太 夫 の 遺 跡 と さ れ 、 麓 の 曽 束 と い う 所 に は そ の 墓 が あ る と さ れ る 。 長 明 の ﹃ 方 丈 記 ﹄ に は 、 ﹁ も し は ま た 、 粟 津 の 原 を 分 け つ つ 、 蝉 歌 の 翁 が あ と を と ぶ ら ひ 、 田 上 河 を わ た り て 、 猿 丸 太 夫 が 墓
を た つ ぬ L と あ り 、 深 草 の 元 政 に ﹁ 尋 猿 丸 旧 跡 記 ﹂ の 一 文 が あ る 。 前 句 の ﹁ 川 ひ と つ 渡 ﹂ る か ら ﹃ 方 丈 記 ﹄ を 通 じ て 、 田 上 山 に 庵 を 結 ぶ 風 雅 人 を 付 け た 。 や れ ば ﹂ と 応 じ た 。 種 藷 漬 言 に く る と 玉 の み 名 曾 代 餐 来 名 ウ は つ か す ぎ 正 月 も い に や れ ば 淋 し 廿 日 過 堂 春 (三 月 ) 。 正 月 二 十 日 は 、 民 間 二 十 日 正 月 と い っ て 赤 小 豆 団 子 を 祝 う 。 ﹃ 日 次 記 事 ﹄ 同 日 の 条 に ﹁ 今 日 地 下 . 諸 人 各 ミ 遽 遊 、 謂 コ ニ 十 日 正 月 ↓ 。食 コ 団 子 づ 。 是 , 称 ユ ニ 十 日 団 子 ↓ ﹂ と あ り 、 ﹃ 日 本 歳 時 記 ﹄ に は ﹁ 今 日 女 人 の 鏡 台 の 祝 と て 、 そ れ に 供 へ た り し 鏡 餅 を 煮 食 ふ 事 あ り ﹂ と も あ る 。 ま た 正 月 料 理 の 塩 鰍 の ア ラ に 野 菜 酒 粕 な ど を 加 え 煮 て 食 う 故 に ﹁ 骨 正 月 ﹂ と も い う 。 正 月 の 最 後 の 行 事 の 日 で あ る 。 平 素 人 の 訪 ね る こ と も な い 田 上 の 庵 も 、 正 月 に は さ す が に 訪 ね る 人 も あ っ た が 、 二 十 日 正 月 も 過 ぎ れ ば 、 い よ い よ 正 月 も 終 り 、 一 入 淋 し く 感 じ ら れ る 。 前 句 の ﹁ 岩 に の せ た る ﹂ と い う 表 現 に 応 じ て 、 正 月 を 擬 人 化 し て ﹁ い に 春 (種 漬 ) 。 種 漬 は 苗 代 に 蒔 く 前 に 、 籾 を 水 に 浸 す こ と を い う 。 ﹃ 日 次 紀 事 ﹄ 二 月 、 初 午 の 条 に ﹁ 凡 .当 月 土 用 . 中 択 ユ 吉 日 づ 、 農 民 浸 コ 旧 穀 之 種 , 於 水 田 ∼ 。 若 .初 午 在 ⊃ バ土 用 . 中 .}為 〃 幸 ト 而 漬 .之 ﹂ と あ り 、 ﹃ 和 漢 三 才 国 会 ﹄ に は ﹁ 凡 . モ ミ 作 匝 二 田 , 彼 岸 , 前 十 日 .漬 -穀 , 於 水 一 、 彼 岸 . 後 十 日 . . テ 取 出 .下 協 田 ご と あ る 。 ま た ﹃農 業 全 書 ﹄ に よ れ ば 、 ﹁ 早 稲 た ね は 二 十 四 五 日 、 中 田 は 二 十 日 、 晩 田 は 十 七 八 日 ほ ど 種 子 い け 池 に 漬 お き 、 日 数 に な り て 取 上 ﹂ げ て 、 晴 天 に 二 三 日 工 -し 、 そ れ を 自 然 に も や し ﹁ 芽 二 分 ば か り 出 る を 待 っ て 苗 代 に 蒔 べ し ﹂ と あ る 。 ﹃ 日 次 紀 事 ﹄ に ﹁ 択 二 吉 日 一﹂ と あ る よ う に 、 種 漬 は 農 家 に と っ て 大 切 な 行 事 で 、 そ の 日 は 晴 れ の 日 。 地 形 、 水 温 な ど 種 漬 に 適 し た 共 同 の 種 子 池 が 、 部 落 に き め て あ る 。 そ こ へ 父 親 の 名 代 と し て 、 子 供 一48一
が 種 子 を 持 っ て 来 る と い う の で あ る 。 特 別 に 種 漬 の 行 事 に 子 供 の 参 加 す る 民 俗 が あ る の か 、 そ れ は 知 ら な い が 、 晴 れ の 行 事 に 父 親 の 代 理 を 勤 め る 子 供 の 殊 勝 げ な 顔 が 浮 ぷ 。 前 句 の 正 月 二 十 日 過 ぎ か ら 二 月 の 種 漬 と 、 時 候 の 順 序 に 従 っ た 付 で あ る が 、 ﹁ 正 月 の い に や れ ば ﹂ と い う 前 句 に 、 全 国 各 地 に み ら れ る ﹁ お 正 月 さ ん が こ ぎ っ た ﹂ 式 の わ ら べ 唄 の 口 調 を 見 込 ん で 、 子 供 を 出 し た 。 さ く は な か た か つ を 咲 花 の 片 べ ら 残 . し ほ 鰹 牛 春 (咲 花 ) 。 名 残 の 花 の 句 。 ﹁ 咲 花 の 片 べ ら ﹂ と は 、 ﹁ 咲 花 の た め の 片 べ ら ﹂ で 、 花 見 の 時 の 用 意 。 し ほ 鰹 は 塩 引 き の 鰹 。 夏 の 魚 で あ る 鰹 を 塩 物 に し て 貯 蔵 し 、 冬 、 あ る い は 塩 鮭 の よ う に 正 月 用 に あ て る 。 種 漬 の 日 に 祝 っ た 塩 鰹 の 片 身 を 、 や が て 来 る 花 時 の 食 べ 料 と し て 残 し て お く 。 つ ま し い 農 家 の 生 活 。 前 句 を 、 種 漬 の 水 も な く 、 不 自 由 な 山 田 か ら 里 の 種 子 池 ま で 漬 け に 来 る と 解 し て 、 水 も 乏 し く 塩 物 も 容 易 に 得 が た い 、 付 け た 。 ひ が ん ひ ま 彼 岸 を か け て お 隙 さ X や く 山 奥 の 農 家 の 暮 ら し を 艸 春 (彼 岸 ) 。 も う す ぐ 来 る 彼 岸 に は 、 お 休 み を い た だ き た い と 、 た ま の 休 日 の 思 わ く を 互 に 胸 に 描 き な が ら さ さ や き 合 う 。 職 人 の 徒 弟 な ど 。 前 句 を つ ま し い 小 者 な ど の 生 活 と し て の 付 で あ る が 、 前 句 に 咲 花 に 対 す る 期 待 の 情 を 見 込 ん だ も の 。 お し ろ い し た ち 白 粉 を ぬ れ ど も 下 地 く ろ い 顔 考 雑 。 恋 (百 粉 ) 。 前 句 を 下 女 な ど 女 奉 公 人 と し た 。 白 粉 を 塗 り た く っ て も 、 下 地 の く ろ さ が す け て 見 え る 。 彼 岸 の お 隙 を 貰 っ て 、 い ざ 出 立 た ん と す る 化 粧 。
﹂ き れ た き も の 役 者 も や う の 衣 の 薫 来 雑 。 恋 (薫 ) 。 ﹁ 役 者 も や う ﹂ は 人 気 役 者 好 み の 模 様 。 ﹃ 去 来 抄 ﹄ 修 行 教 に 見 え る ﹁ 前 句 の 位 を 知 っ て 附 る ﹂ 付 方 の 例 と し て 、 芭 蕉 の 教 え た 数 例 の 恋 の 句 の 中 に 挙 げ ら れ て 有 名 な 付 合 。 ﹃去 来 抄 ﹄ に は ﹁ 前 句 今 様 ば し や ら の 女 と も 見 ゆ ﹂ と あ る 。 ﹃ 去 来 抄 ﹄ に 下 五 ﹁ 袖 の 薫 ﹂ と あ る は 記 憶 違 い か 。 下 地 の 黒 さ を 隠 さ ん と 塗 り た く る 前 句 の 女 に 、 流 行 を 追 う 派 手 好 み の 、 蓮 葉 な 当 世 女 の 像 を 見 込 ん で 付 け た 。 従 っ て 前 句 か ら 結 ば れ る 女 の 実 像 は 、 役 者 好 み の 小 袖 に 匂 袋 を 懐 に す る と い っ た 程 度 で あ ろ う が 、 ﹁ 衣 ﹂ ・ ﹁ 薫 ﹂ と わ ざ と 上 品 に 古 め か し て 句 に し た 所 、 椰 楡 的 な お か し み を ね ら っ た も の と 考 え る が い か が 。 名 残 の 花 が 裏 の 三 句 目 に 上 っ た の で 、 異 色 の 挙 句 と な っ た 。 前 述 し た よ う に 、 こ の 巻 は 時 間 的 な 制 約 も あ り 、 後 日 の 芭 蕉 の 添 削 を 経 て い な い 様 に 思 わ れ る 。 そ の 点 ﹃ 猿 蓑 ﹄ の 冬 ・ 夏 ・ 秋 の 三 歌 仙 な ど と は 同 日 の 論 で は な い 。 し か し さ す が に 手 練 の 作 者 揃 、 付 運 び が い か に も 軽 や か ヘ へ で 、 句 も そ れ ぞ れ に つ ぼ を の が さ ず 、 晩 年 の 作 品 中 の 佳 作 と 考 え る 。 芭 蕉 の 付 句 の 光 っ て い る こ と は も と よ り 。 去 来 ・ 丈 草 も 、 こ の 期 の 軽 み を 心 得 て 調 子 を 合 わ せ て い る が 、 軽 さ に お い て は 、 な お 酒 堂 ・ 支 考 に 一 箒 を 輸 す る 所 が あ る と 見 る の は 、 注 者 の 僻 目 か 。 ( 付 言 ) 筆 者 は か ね が ね 、 芭 蕉 連 句 の 注 解 が 、 ﹃ 俳 諸 七 部 集 ﹄ 中 の 作 品 に 集 申 し て い る こ と に 、 廉 ら ぬ も の を 感 じ て い る 。 ﹃ 七 部 集 ﹄ は も と よ り 蕉 風 俳 階 の 基 準 的 撰 集 で あ り 、 そ の 中 に 含 ま れ る 連 句 作 品 も 、 そ れ ぞ れ 優 れ た も の で あ る こ と に 異 論 は な い が 、 そ れ に し て も 七 部 集 連 句 ( そ れ も 芭 蕉 一 座 の 連 句 ) に 対 す る 注 解 は 汗 牛 充 棟 の 感 あ る に 対 し 、 偶 然 の 結 果 と し て 七 部 集 に 洩 れ た 作 品 に 対 一50一
す る 注 解 作 業 は 蓼 々 た る 現 状 で あ る 。 こ こ に こ の 巻 の 注 解 を 試 み た の も 、 そ の 微 意 の あ ら わ れ で あ る 。 こ の 巻 は 、 ず っ と 以 前 に 故 杉 浦 正 一 郎 氏 を 囲 む 輪 読 会 で 読 ん だ こ と が あ る 。 そ れ は 、 大 し た 準 備 も せ ず に 一 晩 に 一 巻 ず つ 挙 げ る と い う 卒 読 、 ご く ざ っ と し た 気 軽 な も の で あ っ た が 、 当 時 の メ モ に よ る と 、 昭 和 二 十 八 年 九 月 十 三 日 の 事 で あ っ た 。 そ の 後 多 年 打 捨 て て お い た の を 、 近 頃 芭 蕉 晩 年 の 連 句 に 興 味 を ひ か れ る ま ま に メ モ を 取 出 し て 見 た 。 も と よ り 当 時 の 解 と 見 を 異 に す る 所 も あ り 、 思 立 っ て こ ん な 形 に 纒 め て み た ま で で あ る 。 連 句 の 注 解 は 難 し い 。 巻 中 の 芭 蕉 の ﹁ 御 前 は し ん と 次 の 田 楽 ﹂ の 付 合 を ﹃ 芭 蕉 翁 附 合 集 評 註 ﹄ に は 、 次 の ご と く あ る 。 う す 雪 の 降 り わ た り た る 夕 方 、 御 前 に は 釜 な ど か X り て し ん と し た る に 、 御 次 に は 田 楽 や き て 酒 の む ら む か 。 こ う 解 し て は 前 句 の は だ れ 雪 の 覆 う 庭 の 景 も 、 ﹁ し ん と ﹂ の 一 語 も 活 き て こ な い 。 他 の 蕉 句 の 解 に 、 よ く 蕉 風 付 合 の 機 微 を と ら え て 、 概 ね 妥 当 な 解 を 示 し て い る 同 書 で あ る こ と を 思 え ば 、 こ の 句 の 解 に つ い て は 著 者 石 分 (篤 老 ) が 、 神 事 芸 能 の 田 楽 に 思 及 ば な か っ た 結 果 で あ ろ う 。 こ れ 程 の 思 違 い で は な く と も 、 前 句 か ら 触 発 さ れ た 付 句 作 者 の 感 触 、 前 句 を ど う 読 ん で い る か を 余 す 所 な く 、 正 し く 受 け と め な く て は 正 し い 注 に は な ら な い 。 そ の た め に は , 注 解 者 に 、 当 時 の 人 の あ ら ゆ る 事 物 に 関 す る 生 活 感 情 を 過 不 足 な く 感 じ と る だ け の 素 地 が な け れ ば な ら な い 。 別 に 連 句 に 限 っ た こ と で は な い と も い え る が 、 特 に 連 句 の 注 解 に お い て こ の 事 実 を 感 じ さ せ ら れ る 。 要 は 句 を 細 か く 丁 寧 に 読 む こ と で あ る と 心 得 る 。 こ の 意 味 に お い て 、 拙 解 も と ん で も な い 誤 解 を し て い る 所 が 多 く あ る 筈 で あ る 。 大 方 の 御 教 示 を い た だ け れ ば 幸 で あ る 。 な お 、 全 巻 を 通 じ て の 唯 一 の 注 ﹃ 校 本 芭 蕉 全 集 ﹄ (連 句 篇 下 ) の 頭 注 を 参 照 さ せ て い た だ い た 。