平成14年4月1日
当院にて最近経験した腫瘍最大径15mm以下の
末梢型肺癌手術例
国立療養所富士病院 呼吸器外科
榊原賢士 緒方孝治 平野竜史 西海昇 堤正夫 石原重樹 並河尚二
要旨 ‘98年HRCT導入以後、末梢型小型肺癌の手術例が増加傾向を示しており、その検討を行った。‘98 年1月から‘01年9月までの間、原発性肺癌手術例は133例。pt1症例は48例、そのうち腫瘍最 大径15㎜以下の症例は9例(18.7%)であった。平均年齢は65.3才、性別:男性6例女性3例、 組織型:腺癌7例扁平上皮癌1例小細胞癌1例であった。9例中8例は術前診断がつかず、開胸 またはVATSでの摘出標本の迅速病理検査で肺癌と診断された。 Key words:peripheral small lung cancer, early lung cancer,1imited operation はじめに 最近CTの性能が向上し、いままで単純レントゲンで写らないような病変が発見されることが多く なってきている。当院での最近5年間の傾向をみると、‘96年から‘98年までの間、腫瘍径15㎜ 以下の切除例はみとめなかった。‘98年HRCT導入以後、末梢型小型肺癌の手術例が増加してきた ので、今回その検討を行った。 症例 当院で‘98年1月から‘01年9月までの間、原発性肺癌手術例は133例であった。pt 1症例は48 例、そのうち腫瘍最大径15mm以下の症例は9例(18,7%)であった(表1)。9例のうちわけは 平均年齢65.3才、性別:男性6例女性3例であった。術前、肺癌と診断がついたのは1例のみ (気管支鏡)であり、残りの症例は開胸またはVATSでの摘出標本の迅速病理検査で肺癌と診断さ れた。組織型のうちわけは、腺癌7例、扁平上皮癌1例、小細胞癌1例であった。術式は、おも に葉切除+リンパ節郭清および術中縦隔リンパ節迅速病理検査をおこなった。合併症のある症例 (間質性肺炎、緑膿菌感染による肺炎)では肺部分切除のみおこない、リンパ節郭清は行わなか った。術後再発は認めていない。(観察期間2ヶ月から12ヶ月)表1 腫瘍最大径15mm以下の末梢型肺癌手術例(‘98.1−‘01.9)
症例齢・性 発見理由 X* 診断方法 術式 郭清組織 腫瘍径LN転移合併症
1
52F
背部痛でCT撮影 なしVATS
VATS+右S6区域切除 ND1 ad6mm
nO2
66M
胸部打撲でXp撮影 写 ope材 左下葉部分切除 NDO small 15mm IIP3
69M
肺炎でCT撮影 なしoe材
右上葉部分,中葉切除 NDO ad6mm
肺炎4
58M
検診 写VATS
VATS+左上葉切除 ND1 ad9mm
nO5
57M
検診 写 BFS 左上葉切除 ND1 ad 14mm nO6
73F
咳、疲 写oe材
左中葉切除 ND1 ad 15mm nO 769F
検診 写VATS
VATS+右上葉切除 ND1 ad 15mm nO8
67M
検診(他部位) なしVATS
VATS+左上葉切除 ND2a ad 14mm,5mm nO9
76M
検診 写VATS
VATS+左上葉部分切除 NDO Sq15mm IIP *写:陰影がXpで確認できたもの なし:陰影がXpで確認できなかったもの 腫瘍径10mm以下の症例2例(症例1,3)と小細胞癌の1例(症例2)を提示する(表1)。
症例1:52才女性
、現病歴:平成12年12月右背部違和感を自覚し近医受診。胸部CTで右S6に腫瘤影を認め、精査治 療目的で当院紹介となった。 喫煙歴:なし 入院時現症:呼吸音正常 血算生化学検査:正常範囲 腫瘍マーカー:CEA O.6ng/ml SLX 28.8U/ml CYFRA 1.2ng/ml ProGRP 25.2pg/m1 胸部単純レントゲン:異常陰影を認めず。(図1) 胸部CT:右S6に大きさ7mm大の円形腫瘤が存在し、血管の流入像をみとめた(図2)。 切除標本:大きさ6x5x5mmの境界不明瞭な腫瘤であった。組織は肺胞壁にそって核の大きな異型 上皮細胞が増生していた。野口分類typeBと診断した(図3)。症例2:66才男性
現病歴:平成12年12月に転倒し胸部打撲、近医で胸部レントゲンを撮影したところ左中肺野に 異常陰影指摘され、精査治療目的で当院紹介となった。 既往歴:右自然気胸(ブラ切除(当院))、間質性肺炎、肺気腫 喫煙歴:25本/日×48年 B.1.=1200 入院時現症:両背部にfine crackles聴取 血算生化学検査:LDH 1611U/L KL−65271U/L 腫瘍マーカー:〔〔SLX 30.6U/ml CYFRA 1.Ong/m1 胸部単純レントゲン:左中肺野に大きさ10mmの腫瘤をみとめた(図4)。平成14年4月1日
胸部CT:左S6に15mmの円形腫瘤をみとめ、両肺野にわたって気腫性変化が著しい(図5)。 手術標本:割面像では境界明瞭な15x15x14mmの腫瘍だった。組織像は、一部rosetteを形成し、 小型な腫瘍細胞がみられる中間型の肺小細胞癌であった(図6)。症例3、69才男性
現病歴:以前より中葉の肺炎を繰り返し、高CEAためフォローされていた。平成12年11月中葉 無気肺が改善しないため入院となった。 既往歴:胃潰瘍(ope) 術後イレウス 家族歴:兄弟2人肺癌(兄:扁平上皮癌,弟:腺癌) 喫煙歴:20本/日×49年 B.1,=980血算生化学検査:WBC5840/μ1一
腫瘍マーカー: SLX 37.9U/ml CYFRA 1.Ong/ml ProGRP 13.8pg/m1 喀疾培養:緑膿菌、MSSA 胸部単純レントゲン:右中葉の無気肺像をみとめた(図7)。 胸部CT:右slに径7mmの結節影が存在した(図8)。 手術標本:手術は、肺炎(無気肺)を繰り返すため右中葉切除と上葉部分切除をおこなった。割 面像(右上葉)では白色で境界不明瞭、大きさ6mm大であった。組織像では肺胞置 換型に増殖する腺癌であった。中心部に癩痕をともなっていた(図9)。 考察 CTの性能の向上により、単純レントゲンでは確認できないような腫瘤が偶然撮影したCTで指摘 されることが多くなっている。今回の症例中3例がレントゲンで確認できず、CTによってはじめ て指摘された。今後このような症例が増加してくると思われる。最近の報告例でも、小型肺癌の 手術件数が増加傾向にある。上記のような小型陰影に対する低侵襲の診断法という点では、気管 支鏡が第一選択と考えられる。しかし小型陰影は透視で確認が難しく、診断率が低い。当院の症 例では気管支鏡を行った7例中1例のみ肺癌と診断が可能であった。遠藤ら1)によると気管支鏡 による10㎜以下の診断率は44%であり、CTガイド下生検など他の診断方法も考慮すべきと報告 している。CTガイド下生検では、合併症として20%程度の頻度で気胸があり、約5%でドレナ ージが必要であったと報告されている1)が、レントゲンに写らない小型陰影も確認できるため正 診率があがる。しかし、病変の位置、距離等によっては病変への到達が困難で偽陰性になる可能 性もある。画像上悪性が疑われるならば、当院では、VATSでの診断につとめている。今回の術式 に関しては、合併症を伴った症例(間質性肺炎2例、緑膿菌による肺炎1例)は部分切除とし、 術後新たな合併症を予防している。術後経過は3例とも良好であった。迅速病理診断で肺癌と診 断がっいた場合は当院の方針として主として肺葉切除およびリンパ節郭清を行っている。部分切除の場合は術中転移の可能性が高い縦隔リンパ節の迅速病理検査もおこなっている。縮小手術に 適応に関してだが、2・cm以下の末梢型扁平上皮癌はリンパ節転移がなく予後100%2)とあり縮小手 術の適応になると考えられる。野口分類typeA, Bに相当する小型腺癌はリンパ節転移がなく、予 後も良好3)で、術前のCTで画像より診断可能4)5)の報告もある。しかし画像のみでは、野口分類 の診断を誤る可能性もあるということ6)、手術中の迅速病理検査で、確実に野口の分類を診断する のことは、経験上難しい。15㎜以下の腫瘍径の症例でも7%7)、16%8)のリンパ節転移陽性例、10% の縦隔リンパ節転移例が存在したと報告されている9)。以上のことを考慮すると、末梢部小型腺癌 の縮小手術は、慎重にならなければならないと思われた。
文献
1)遠藤正浩、高田佳木、大林加代子ほか:2cm以下の末梢肺癌に対する経気管支診断と病理診断に 関する考察肺癌 39:821−827, 1999 2)平井利和、上吉原光宏、川島修ほか:腫瘍径2cm以下末梢部小型肺癌切除例の検討.肺癌 35:263−269,1995 3)Noguchi M, Morikawa A, Kawasaki K et a1:Small adenocarcinoma of the lung. Hisyologic characteristics and prognosis. Cancer 75:2844−2852,1995 4)清水邦彦、山田耕三、尾下文浩ほか:微小肺腺癌の診断と進展におけるHigh−resolution CT画 像と肺血管の関連性.肺癌 40:743−749,2000 5)瀬戸眞由美、栗山啓子、木戸尚冶ほか:小型腺癌のthirsection CTと野口らの病理組織学的 分類との比較検討,肺癌 37:841−848,1997 6)鈴木健司、浅村尚生、近藤晴彦ほか:高分解能CTですりガラス濃度(GGA)を伴う肺野末梢小型 肺癌は早期肺癌か?,日呼外会誌 14:338,2000 7)杉和郎、金田好和、宮下洋ほか:画像上腫瘍径15mm以下、 c−NO肺癌に対する外科治療.日呼外 会誌 14:3−8,2000 8)小池輝明、寺島雅範、滝沢恒世ほか:肺野末梢微小肺癌一診断と治療の展開一肺野末梢微小肺癌 の病態と治療.気管支学 21:573−575,1999 9) Nishiumi N, Maitani F, Kaga K et al:Is it permissible to omit mediastinal dissection for pCripheral non−smal1−cell lung cancers with tumor diqmeters less than 1.5c㎜?. Tokai Exp Clin Med 25:33−37,2000平成14年4月1日