ニワトリ腰髄後角における cyclooxygenase-2 陽性細胞に
存在する mu opioid receptor 抑制系
青 木 航 洋
1),川 手 豊 子
2),坂 本 宏 史
3),
山 田 明 香
1),浜 田 良 機
1),熱 海 佐保子
2),
1)山梨大学大学院医学工学総合研究部整形外科学講座, 2)同・解剖学講座第 2 教室,3)健康科学大学理学療法学科 要 旨:脊髄後角表層での炎症性疼痛の発生や修飾に関係する cyclooxygenase-2(COX-2) 含有細 胞と,内因性疼痛抑制に関与する mu opioid receptor(MOR) を持つ細胞との関係について検討 した。complete Freund’s adjuvant(CFA) を足蹠に注射し,炎症を生じさせたニワトリ脊髄後角 表層のⅠ,ⅡおよびⅣ層の COX-2 陽性細胞と MOR 陽性細胞についての経時的な細胞数の変化は, COX-2 陽性細胞ならびに MOR 陽性細胞とも CFA 注射後時間経過とともに漸増したが,18 時間後 では MOR 陽性細胞数は一時的に減少した。COX-2 および MOR 共存細胞数は,12 時間後から増加 し,36 時間後が最高だった。いずれの層でも 18 時間後には一時的に減少していた。non-steroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs)の投与が COX-2 含有細胞を抑制し,また,MOR が substance P の放出を抑制するという事実から,この研究で COX-2 および MOR が共存する細胞の存在を証明 したことで,MOR を介した炎症抑制系が同一部位に存在する可能性が示唆された。 キーワード シクロオキシゲナーゼ-2,ミューオピオイドレセプター,後角,炎症,抑制 緒 言 急性および慢性の末梢の炎症では脊髄後角表 層の cyclooxygenase-2(COX-2)含有細胞が増 加し,prostaglandins(PGs)の合成および放 出を増加させる。このメカニズムは,炎症性疼 痛や痛覚過敏を引きおこす主要な要素である。 また,mu opioid receptor(MOR)アゴニスト が 末 梢 の 刺 激 や 炎 症 に よ り 放 出 さ れ る sub-stance P(SP)(侵害情報の transmitter あるい は modulator)を抑制する1)ことや, non-steroidal anti-inflammatory drugs(NSAIDs)の 投与が COX-2 含有細胞を抑制する2)ことが疼 痛の抑制性の経路に関わっている(図 1)。 疼痛にはさまざまな修飾やオピオイドなどに 〒 409-3898 山梨県中巨摩郡玉穂町下河東 1110 受付: 2005 年 6 月 24 日 受理: 2005 年 8 月 18 日原 著
図 1. 炎症性疼痛の刺激伝達および抑制における COX-2 と MOR の関連よる抑制のメカニズムが証明あるいは考えられ ている。炎症性疼痛に関わる COX-2 ならびに MOR について,細胞レベルでの存在や炎症後 の経時的な動態については,両者別々に報告は されているが,これらを同時に観察し,共存を 証明した報告はない。そこでこの研究では,侵 害情報伝達経路である PGs を合成する COX-2 含有細胞が,同一細胞内で MOR による抑制を 受けるメカニズムが存在するのではないかと仮 定した。つまり,炎症誘発後の脊髄後角表層の COX-2 免疫染色あるいは MOR 免疫染色が陽性 となる細胞の動態を経時的に観察し,これらが 同時に陽性となる細胞の存在を証明すること で,侵害情報伝達経路である細胞が内因性に MOR を介して抑制を受ける可能性を考察す る。 材料および方法 1.炎症の誘発 成熟したニワトリ(1,000–2,000 gm)を用い て 左 足 蹠 皮 下 に complete Freund’s adjuvant (CFA)(SIGMA Chemical Company, St Louis,
MO, U.S.A.)を 0.2 ml 注射した。 2.組織の準備
動物実験のガイドラインは US National Insti-tutes of Health Guide for the Care and Use of Laboratory Animals に 基 づ い た 山 梨 大 学 Ani-mal Care and Use Committee による。CFA 注 射後 12,18,24,36 および 72 時間後のニワト リおよびコントロールのニワトリを sodium pentobarbital(60 mg/kg)で筋肉内注射を用 い深麻酔をかけ,左心室から少量の生理食塩水 の 後 , 固 定 液 を 注 入 し た 。 固 定 液 は 0.1 M phosphate buffer(PB)4 % paraformaldehyde (pH 7.4)。潅流固定の詳細は以前述べられた方 法である3)。潅流後 L4 および L5 に相当する腰 膨大をすばやく摘出し,6 時間固定液に浸し, 5 % sucrose 含有 PB(pH 7.4)に 4°C にて一晩 インキュベートした。次に,組織をマイクロス ライサーにて 50µm に横断面に薄切した。 3.免疫組織化学 切片を,脱ホルムアルデヒド目的で 0.1 % NaHBO4により処理し,Blocking Kit(SP-2001, Vector Laboratories, Inc, Burlingame, CA, U . S . A . ) を 用 い 内 因 性 ビ オ チ ン の 除 去 後 , 0.3 % Triton X-100 入り 0.1 M phosphate-buffe-red saline(PBS)入りの 3 % goat serum で 30 分プレインキュベートを行い,一次抗体として rabbit anti-COX-2 antibody ( 1: 500; Santa Cruz BIOTECHNOLOGY, INC, Santa Cruz, CA, U.S.A.)および Guinea Pig anti-MOR antibody (1:1,000; Neuromics, Northfield, MU, U.S.A.)
を混合して用い,4°C で一晩インキュベートし た。一次抗体の後,COX-2 は Cy3-conjugated goat anti-rabbit IgG ( 1:200, Amersham Life Science, Amersham, UK)で赤に染色し,MOR は biotinylated anti-Guinea Pig IgG を用いて 1 時間処理後 FluoroLink Cy2 labeled streptavidin (1:1,000, Amersham)で緑に染色した。どの ステップの後も,10 分間 3 回の PBS 洗浄を行 った。
4.解析
免疫染色後,切片をスライドガラス上に Flu-oroguard( Bio-Rad, Hercules, CA, U.S.A.) で 包 埋 し , 共 焦 点 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 ( T C S4D , Leica, Germany)を用いて観察した。 コントロールのニワトリおよび足蹠に炎症を 生じさせたニワトリの脊髄後角表層(Ⅰ,Ⅱ, Ⅳ層)について,COX-2 陽性細胞および MOR 陽性細胞の局在を観察し,細胞数計測を行っ た。 用いたニワトリは 12 羽,225 対の切片につ い て 23,038 細 胞 を 計 測 し た 。 画 像 処 理 は , Adobe Photoshop(CS, Adobe Systems Inc Sac Jose, CA, U.S.A.)を使用した。
統計処理には Mann-Whitney’s U test を用い た。
結 果 1.COX-2 および MOR 共存細胞の局在 ニワトリ脊髄後角の層構造については他の脊 椎動物同様Ⅰ∼Ⅹ層で構成されているが,後角 表 層 の 細 胞 は 大 き さ に よ っ て , Ⅰ 層 は 小 型 (5 × 12µm),中型(12–15 × 30–40µm)と大 型 ( 1 2 – 1 5 × 7 0 – 8 0µm ) に , Ⅱ 層 は 小 型 (6–8 × 15–20µm)と非常にまれに大型(長径 30–50µm),そしてⅣ層は小型(8 × 18µm) と大型(40 × 60µm)の細胞に分類される4)。 COX-2 および MOR 免疫染色がともに陽性とな る細胞はコントロールでも存在し,脊髄後角表 層(Ⅰ,Ⅱ,Ⅳ層)の上記の細胞の大きさに関 わらず共存が観察された(図 2 ∼ 4)。 2.炎症誘発後の COX-2 ならびに MOR 陽性細 胞数の経時的変化 Ⅰ,ⅡおよびⅣ層に存在する処置側および非 処置側間の COX-2 陽性細胞ならびに MOR 陽 性細胞数については,今回の結果では両群間に 有意差(p < 0.01)はみられなかった。(図 5a) そのため,以下の解析は処置側および非処置側 を含めたものである。 COX-2 陽性細胞ならびに MOR 陽性細胞の切 片あたりの細胞数は,12 時間経過後から時間 経過とともに漸増していたが,MOR 陽性細胞 数は 18 時間経過後のみ一時的に有意(p < 0.01)に減少していた(図 5b)。 層毎の細胞数の変化をみると,Ⅰ,Ⅱおよび Ⅳ層に存在する COX-2 陽性細胞ならびに MOR 陽性細胞とも 12 時間経過後から時間経過とと もに増加する傾向にあったが,Ⅱ層の MOR 陽 性細胞数は 18 時間経過後のみ一時的に有意 (p < 0.01)に減少していた(図 5c,d)。 3.COX-2 および MOR 共存細胞の経時的変化 COX-2 および MOR 免疫染色がともに陽性と
図 2. CFA 注射 12 時間後のニワトリ腰髄の抗 COX-2 抗体および抗 MOR 抗体による免疫染色標本(炎症側): Ⅰ層 Scale bars = 20µm
矢印=中型細胞 矢頭=大型細胞 いずれも COX-2 および MOR が共存している細胞 a )MOR(Cy-2:緑),b)COX-2(Cy-3:赤),c)merged image
図 3. CFA 注射 12 時間後のニワトリ腰髄の抗 COX-2 抗体および抗 MOR 抗体による免疫染色標本(炎症側): Ⅱ層 Scale bars = 20µm
矢印=小型細胞 矢頭=大型細胞 いずれも COX-2 および MOR が共存している細胞 a )MOR(Cy-2:緑),b)COX-2(Cy-3:赤),c)merged image
d)MOR(Cy-2:緑),e)COX-2(Cy-3:赤),f)merged image
図 4. CFA 注射 12 時間後のニワトリ腰髄の抗 COX-2 抗体および抗 MOR 抗体による免疫染色標本(炎症側): Ⅳ層 Scale bars = 20µm
矢印=小型細胞 矢頭=大型細胞 いずれも COX-2 および MOR が共存している細胞 a )MOR(Cy-2:緑),b)COX-2(Cy-3:赤),c)merged image
なる細胞数については,処置側および非処置側 の両群間に有意差(p < 0.01)はみられなかっ た(図 5e)。そのため,以下の解析は処置側お よび非処置側を含めたものである。 経時的な変化をみると,Ⅰ,ⅡおよびⅣ層を 合計したものならびにそれぞれの層別のものに ついて,いずれも 12 時間経過後から増加がみ られたが,18 時間経過後に一時的に有意(p < 0.01)に減少した。その後,再び増加し 36 時 間経過後に最高になり,72 時間経過後には増 加はみられなかった(図 5f)。 細胞の大きさを分類して経時的な変化をみる と,小型のものよりも大型の細胞で COX-2 お よび MOR の共存がみられる傾向がみられた。 大型の細胞は炎症の有無に関わらず 94.4 ∼ 100 %と高率に共存し,小型の細胞では非炎症 時から共存する細胞が 51.0 ∼ 68.2 %存在し, さらに経時的に増加し 36 時間経過後以降では 91 %以上となった(図 5g)。 考 察 PG 受容体が脊髄後角表層に存在することが 明らかにされている5)が,NSAIDs の髄腔内投 与により鎮痛効果が見られる6,7)。つまり,脊 髄における侵害情報の修飾に PGs が関わり, 図 5. COX-2 ならびに MOR 陽性細胞数の経時的変化 結果は平均値±標準偏差 n = 450(切片数) * p < 0.01 :各層の 12 hr に対して a)処置側ならびに非処置側における片側切片あたりの細胞数 b)片側切片あたりの細胞数 c)層別 COX-2 陽性細胞数 d)層別 MOR 陽性細胞数
e)処置側ならびに非処置側における COX-2 陽性細胞と共存する MOR 陽性細胞の割合 f)層別 COX-2 陽性細胞と共存する MOR 陽性細胞の割合
抑制に NSAIDs が関わっている。また,Opioid 遺伝子発現の up regulation が実験的な末梢神 経の損傷や炎症によっても起こることが知られ ている8,9)。しかし,COX-2 あるいは PGs と MOR との直接的な相関は明らかにされていな い。そこで,これらの細胞レベルでの内在的な 関係を考察した。 層構造によるニューロンの特徴として,Ⅰ, ⅣおよびⅤ層に分布する大型ニューロンの大部 分は弱い刺激に対しても強い刺激に対しても反 応する wide dynamic range を持ち,C 線維を通 して入力される刺激の情報を受容し,上位中枢 に そ の 情 報 を 伝 え る 投 射 ニ ュ ー ロ ン で あ る10,11)。また,Ⅱ層を分布するニューロンは小 型の神経細胞で,これらは抑制的な介在ニュー ロンであることが知られている12)が,MOR-1 は興奮性ニューロンにあることが示唆されてい る13)。Ⅳ層を形成する小型の細胞からなるニ ューロンの多くは脊髄内で局所的な回路を形成 していると考えられ14),脊髄視床路を形成し ている大型ニューロンはⅡ層の介在ニューロン に よ っ て 抑 制 を 受 け る こ と が 推 測 さ れ て い る15)。今回の研究では,小型のものよりも大型 の細胞で COX-2 および MOR の共存がみられ る傾向にあった。また,大型の細胞は炎症の有 無に関わらず共存し,小型の細胞でも非炎症時 から共存する細胞が約半数存在し,さらに炎症 後経時的に増加する傾向にあったことより,炎 症時の疼痛抑制には小型の細胞の活動がより強 く関与していることが示唆された。 脊髄後角表層のⅠ,ⅡおよびⅣ層の COX-2 陽性細胞ならびに MOR 陽性細胞について経時 的に細胞数の変化を考察したところ,脊髄後角 表層では COX-2 陽性細胞および MOR 陽性細 胞とも CFA 注射後時間経過とともに漸増して おり,注射後 18 時間では MOR 陽性細胞数は 一時減少していた。経時的変化についての報告 では,COX-2 陽性細胞数は炎症誘発後 8 時間 で増加し,24 時間経過後に一時減少した後に 96 時間経過後再度増加する19)ことや,後根神 経節では,MOR 陽性細胞数は炎症誘発後 1 日 では増加し 3 日経過後では減少する20)とされ ている。時間経過によるこれらの動態には,今 回の研究結果と異なる部分があるが,ラットや マウスを用いた研究であるための動物種の違い による影響を考える必要があるかもしれない。 また,アジュバント刺激による末梢神経の炎 症では 6 時間経過後から 3 日経過後まで COX-2 mRNA の発現がみられる16,17)ことや,末梢神 経の炎症により後根神経節では 1-2 時間経過後 および 96 時間経過後に二相性に MOR mRNA の up-regulation が起こる18)ことが報告されて いる。COX-2 および MOR 共存細胞数は,12 時間経過後から増加し,36 時間経過後が最高 となっていた。いずれの層でも 18 時間経過後 には一時的に減少しており二相性がみられた。 過去に,MOR の mRNA の動向について脊髄レ ベルでは証明されていないが,mRNA の動態 と関係がある可能性が示唆された。 小型の細胞であるⅡ層の細胞はインターニュ ーロンとしての役割を担っており,その際に炎 症性疼痛の抑制に強く関わっていることが考え られる。また,COX-2 および MOR 共存細胞が 二相性に増加しているのは,上記 mRNA の動 態のほかインターニューロンにおいて神経栄養 因子が産生またはその抑制などによる神経の可 塑性,つまり侵害情報の修飾がおこることが関 係しているためだと考えられ,病態生理学的に は急性疼痛から慢性疼痛への時間的経過として 考えることができるかもしれない。しかし,こ の機序についての詳細は現在わかっていない。 モルヒネの投与が PGE2を抑制すること21,22) や,NSAIDs の投与が COX-2 陽性細胞を抑制す ること,さらに,MOR が SP の放出を抑制す るという事実を考えると,COX-2 免疫染色お よび MOR 免疫染色が同時に陽性となる共存細 胞が存在することを証明し経時的変化を検討し た結果,脊髄後角表層細胞では炎症性疼痛にお ける COX-2 を介した侵害情報伝達経路ととも に MOR を介した抑制性の経路が共存すること が示唆された。また,特に小型のニューロンに 抑制性のメカニズムがある可能性が考えられ
た。
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