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長時間作用性局所麻酔薬を用いた伝達麻酔の口腔外科小手術後の疼痛管理における有用性について

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(1)

学位論文〕松本歯学

37:108-118,2011

長時間作用性局所麻酔薬 を用いた伝達麻酔の

口腔外科小手術後の疼痛管理における有用性について

實藤信之

大学 院歯学独 立研 究科 顎 口腔機 能制御学講座 ( 主指導教員澁:谷徹教授) 絵本歯科大学大学院歯学独立研究科博士 (臨床歯学)学位申請論文

Usefulness of conduction anesthesia with a long acting local anesthetic hetic i n t h e p a i n c o n t r o l a f t e r m i n o r o r a l s u r g e r y NOBUYUKl SANEFUJI

DepartmentoFOralandMaxillofTacialBiology,GraduateSchoolof'OralMedicine, MatsumotoDentalUniversity

( C h i e F A c a d e T n i c A d u i s o r : P r o f e s s o r T o h r u S h i b u t a n i )

ThethesissubmittedtotheGraduateSchoolofOralMedicine

,

MatsumotoDentalUniversity,forthedegreePh.D.(inClinicalDentistry)

要 旨 術後の痔痛管理 として,術前か らの消炎鎮痛薬 投与,全身麻酔時の麻薬性鎮痛薬投与や局所麻酔 法の併用 などが行われている.局所麻酔下での外 科手術 において も,局所麻酔により術 中の痛みを 取 るだけではな く,長時間作用性局所麻酔薬を用 いた伝達麻酔を併用することで,よ り長時間の局 所麻酔効果を得 ることがで き,術後痔痛 を少な く 出来る可能性がある.そこで本研究では,口腔外 科小手術 に際 して伝達麻酔 を併用す るにあた り, 中時間作用性の局所麻酔薬 と長時間作用性の もの とで,術後の痔痛発現,鎮痛薬の服用時間,術後 痔痛の強 さ,麻酔奏効中の不快症状 などに違いが あるか どうかを比較検討 した. 口腔 外 科 小 手術 が 予 定 され たASA分 類PS (PhysicalStatus) 1- 2の外 来患 者80名 を対 象 とした.下顎埋伏智歯抜去 (半埋伏歯抜去 を含 む)予定の患者40名 と,上顎前歯部埋伏歯抜去 ま たは嚢胞摘出術 (歯根端切除術 を含む)予定の患 者40名を,伝達麻酔に使用する局所麻酔薬により 無作為 に20名ずつ2群 に分 けた.局所麻酔薬 に は1/80,000ア ドレ ナ リ ン添 加

2%

リ ドカ イ ン

(

2%L)

または

0

.

7

5

%

ロ ビバ カイ ン

(

0

.

7

5

%R)

を用い,下顎孔伝達麻酔 と限高下孔伝達麻酔 を実 施 した.術後痔痛の発現時間,痔痛の程度 (Face PainRatingScale;以下FPRS),鎮痛薬の服用 時間,麻酔奏効中の不快症状 について調査 した. (2011年2月10日受付)

(2)

松本歯学 37(2)・(3) 2011 また,術後痔痛 を自覚 した時 の

FPRS

値 を もと に,術後1時間後か ら10時間後 までの,痔痛の有 無 と痔痛の強さを比較検討 した. 下顎孔伝達麻酔 を行 った2%L群では,術後痔 痛発現時間は平均1.5時間後で,鎮痛薬 は20名全 員 が服 用 し,服 用 時 間 は平均2.1時 間後 で あ っ た.一万,0.75%R群では術後痔痛発現時間は平 均5.9時間後で,鎮痛薬 は20名 中12名が服用 し, 服用時間は平均5.7時間後であった.桁 後 l- 7 時間後では痛みのない被験者数は, 2%L群 より も0.75%R群の方が有意に多かった. 眼高下孔伝達麻酔を行 った2%L群では,術後 痔痛発現時間は平均2.5時間後 で,鎮痛薬は20名 全員が服用 し,服用時間は平均2.5時間後であっ た.一万,0.75%R群 で は痔痛発現 時 間は平均 7.3時間後で鎮痛薬は20名 中14名が服用 し,服用 時間は平均6.7時間後であった.術後2- 8時間 後 で は痛 み のない被験 者数 は, 2%L群 よ りも 0.75%R群の方が有意に多かった. 術後の不快症状 は,下顎孔伝達麻酔,限南下孔 伝達麻酔のいずれにおいて も,痔れ感の長時間残 存が0.75%R群に多かったが,それ以外の合併症 や副作用は認めなかった. 以上のことか ら,長時間作用性局所麻酔薬を用 いた伝達麻酔は,口腔外科小手術において術後痔 痛管理の点か ら有用であると思われる. 緒 言 歯科外来では,埋伏智歯の抜去や歯根嚢胞摘出 術,インプラン ト埋入術 など,比較的侵襲の大 き な口腔外科小手術が行われることも少 な くない. 術 中の痔痛刺激 を遮断す るための麻酔法 として は,浸潤麻酔や伝達麻酔などの局所麻酔法が用い られることが多 く,術後痔痛に対する管理方法 と しては,消炎鎮痛薬の経口投与が一般的に行われ ている.一方,全身麻酔時には術後痔痛管理 を目 的として,麻薬性鎮痛薬投与や局所麻酔法の併用 が行われている.局所麻酔下での外科手術におい て も,局所麻酔により術中の痛みを取 るだけでは な く,長時間作用性局所麻酔薬 を用いた伝達麻酔 を併用することで,より長時間の局所麻酔効果 を 得ることがで き,術後痔痛 を少 なく出来る可能性 がある. 長時間作用性局所麻酔薬のうち,現在わが国で 109 伝達麻酔 に使用可能なもの としてはブピバカイン とロビバ カインがある.ロビバ カイ ンの化学構造 はブピバ カインに類似 してお り,いずれ も不斉炭 素 を有す ることか ら鏡像異性体が存在する.ブピ バ カインはR (+)体 とS(-)体 を同等量含む ラセ ミ体 であるの に対 して,ロ ビバ カイ ンはS (-)体 のみで構成 され,ブピバ カインよりも安 全域が広 く,心臓循環符系や中枢神経系 に対する 毒性が低い卜3).一方,局所麻酔作用 については, 効力 はブ ピバ カインよりも弱いが,持続時間はほ ぼ同等であるとされている1). ロビバ カインを下顎孔伝達麻酔に用いた際の麻 酔効果について,ボランティアを対象 としてア ド レナ リン添加 リ ドカインと比較検討 した報告はあ るが4-5),実際に口腔外科処置を行った場合の術後 痔痛管理 における有用性 についての報告 はほ とん どな く,明 らかにはされていない.そこで本研究 では,口腔外科小手術 に際 して伝達麻酔法を併用 するにあた り, 日常の歯科診療で最 も頻用 されて いる中時間作用性局所麻酔薬のア ドレナ リン含有 2% リ ドカイ ンと,長時間作用性 局所麻 酔薬 の 0.75%ロビバカイ ンを用いて下顎孔伝達麻酔 また は限南下孔伝達麻酔 を施行 し,術後の痔痛発現時 間,痔痛の程度,術後鎮痛薬の服用,麻酔奏効中 の不快症状 について比較 を行い,0.75%ロビバ カ インによる伝達麻酔の術後痔痛管理 における有用 性 について検討 した. 方 法 本研究は,松本歯科大学倫理審査委員会の承認 (許可番号第92号) を待て実施 した. 1.対象 口腔 外 科 小 手 術 が 予 定 され た

AS

A

分 類

PS

(

ph

y

s

i

c

a

l

S

t

a

t

us

)

1- 2の 外 来 患 者 (年 齢17 -59歳)のうち,本研究の 目的,方法,趣 旨を十 分に理解 し,研究に参加することに同意 した80名 を対象 とした.手術内容の内訳 は,下顎埋伏智歯 抜去術 を予定 した患者が40名,上顎前歯部埋伏歯 挽去柵,または歯根端切除術 を含む上顎前歯部嚢 胞摘出術 を予定 した患者が40名で,それぞれを伝 達麻酔 に使用する局所麻酔薬によりランダムに各 20名ずつの2群に分 けた. 各群の平均年齢,性別,手術内容の内訳 を表1

(3)

110 安藤 :長時間作用性局所麻酔薬 を用いた伝達麻酔の口腔外科小手術後の痔痛管理 における有用性 について 表1:症例内訳 下顎孔伝達麻酔 男/女 (名) 年齢 (読) 処置内容 症例数(名) 20/oL 9/ll 29.6±11.2 完全埋伏智歯抜去術半埋 伏智歯抜去術 1100 0.75%R ll/9 29.7± 7.3 完全埋伏智歯抜去術半埋 伏智歯抜去術 182 眼寓下孔伝達麻酔 男/女 (名) 年齢 (読) 処置 内容 症例数(名) 2%L 12/8 35.1±14.6歯根端切 除術 または抜歯術上顎前歯部埋伏歯抜去術嚢胞摘 出術 + 1100 0.75%L ll/9 35.9±12.9歯根端切 除術 または抜歯術上顎前歯部埋伏歯抜去術嚢胞摘 出術 + 173 (mean+sD) に示す.下顎処置,上顎処置 を行 った2群間で, 男女比,平均年齢 に有意差はなかった. なお,すべ ての症例 において,処置 に要 した時 間は30分∼ 1時間で,粘膜骨膜弁の剥離 を伴 い, 下顎処置では骨削除 を行 った.処置時間が1時間 を超 えた症例 ,下顎孔伝達麻酔の奏効が不十分 と 思 われ局所麻酔薬 を追加投与 した症例, また翌 日 に来院出来ず に聞 き取 り調査が行 えなかった症例 は対象か ら除外 した.

2.

局所麻酔薬 局所 麻 酔 薬 には,1/80,000ア ドレナ リ ン含 有 2%リ ドカイ ン (キ シロカイ ン⑧デ ンツプ ライ三 金社製 ;以下2%Lと略す) と0.75%ロビバ カイ ン (0.75%アナペ イ ン⑧ァス トラゼ ネカ社 製 ;以 下0.750/oRと略す) を使用 し,いずれか一方 を用 いて下顎孔伝 達麻 酔 または限南下孔伝 達麻 酔 を 行 った.局所麻酔薬使用量は,下顎孔伝達麻酔で は1.8ml,限 高 下 孔 伝 達 麻 酔 で は1.Omlと し た. また,全症例 において浸潤麻酔 と して2%L を5.4ml使用 した. 3.局所麻酔方法 下顎処置 については下顎孔伝達麻酔,上顎処置 については限高下孔伝達麻酔 を行 い,その後にそ れぞれの処置部位 に浸潤麻酔 を行 った. 下顎孔伝達麻酔では直達法 を用 いた.内斜線 と 翼突下顎縫線 との 中央 で下顎岐合 平面 よ り約10 mmの高 さに刺入 点 を とり,反対 側 の下顎犬 歯 と第一小 臼歯 の方 向か ら岐合平面 と平行 に約20 mm刺入 し,吸引 テス トを した後 に局所 麻 酔 薬 1.8mlを約1分 か けて注入 した.限高 下孔伝 達 麻 酔 は,限高 下縁 の ほぼ中央 で約8mm下 の限 宿下孔 を触 知 し,その約10mm内下方 を刺 人点 とし,骨 に沿わせ なが ら孔手前で吸引テス トをし た後,局所麻酔薬1.Omlを約1分 か けて注 入 し た.今回の研究では,神経損傷の防止のため,注 射針 は眼高下孔内には刺入 しなかった. 注射器 と注射針 は,0.75%Rを使用 した伝達麻 酔 で は,27G 25mm針 (テルモ社 製注 射針NN -275R)を2.5mlのデ イスポーザルシリンジ (チ ル モ社 製 シ リ ンジSS-02SZ)に付 けて使 用 し た.2%Lを使用 した伝達麻酔では,デ ンツプラ イ注射針30G 25mmを付 けたYDMカー トリッ ジシリンジ (伝達麻酔用) を使用 した.すべ ての 症例 において,下顎孔伝達麻酔,眼南下孔伝達麻 酔お よび浸潤麻酔 を同一の術者が行 った. 4.調査項 目と調査方法 術後痔痛の発現時間,痔痛の程度,鎮痛薬の服 用時間,麻酔奏効中の不快症状の有無を術後 アン ケー トと聞 き取 りにて調査 した.イ ンフォー ム ド ・コンセ ン ト時にアンケー ト記入用紙 を渡 し, 処置終了後 に自宅で患者本人が記載 し,翌 日の来 院時 に持参す る ように指示 した.痔痛 の程 度 は FacePainRatingScale(図1',以 下FPRSと略 す) を用いて評価 した.患者 にはアンケー ト記入 用紙 に術後1時間後か ら10時間後 まで痔痛の程度 を,FPRSの数値 として 0か ら5までの6段 階で 記入 させ,術後 に痛みが出現 した時間に○印を, 鎮痛薬 を服用時間には◎ を付 けて もらった. 患 者 が痛 み を 自覚 した 時 のFPRS値 を も と に,各時間帯の痛みの有無 と程度 を評価 した.す なわち,痛 み を 自覚 した時 よ りもFPRSが低値 の時間帯 を 「痛みな し」,同 じ数値の時間帯 を 「痛

(4)

松本歯学

3

7

(

2

)

(

3

)2

0

1

1

図1:FacePainRatingScale

o:痛みが全 くない 5:耐え られないほ どの強い痛みがある みあ り」,より高値の時間帯 を 「よ り強い痛み」 とし,異なる局所麻酔薬を使用 した2群間の痔痛 発現時間ならびに痔痛の有無 と程度を比較 した. また,術後翌 日の診察時に,痛み以外の不快症 状や神経麻痔などの副作用につ き聴 き取 り調査を 行った.

5.

統計処理 術後痔痛発現時間と内服薬服用時間の比較には

Ma

nn-

W

h i

t

ne

y

検定を,各群の

FPRS

と術後痔 痛の程度の経時的変化 は

Fr

ie

d

ma

n

検定 とWi1 -coxonの符号付順位検定 を用いて統計的分析 を 行った.また,術後痔痛の有無 と程度,鎮痛薬服 用割合の群間比較 については

Fi

s

he

r

の直接確率 計算法を用いて分析を行い,いずれ も危険率

5%

未満を有意差あ りとした. 結 果 1.術後痔痛発現時間 各群の術後痔痛発現時間の分布を図2, 3に, 平均痔痛発現時間を表2に示す.

i

l

l

i

l

1

)下顎孔伝達麻酔

2%L

群では,術後痔痛発現は

1

時間後が最 も 多 く,平均

1

.

5

時間後であった.

0

.

7

5

%R

群では, 痛みを自覚 した時間にばらつ きがあ り,術後痔痛 発現 は6時 間後 が最 も多 く,平均5.8時 間後 で あった.術後痔痛発現の平均時間は

2%L

群に比 べて

0

.

7

5

%R

群で有意に遅かった. 2)限高下孔伝達麻酔

2%L

群は,術後痔痛発現は

2

時間後が最 も多 く

,4

時間後までにすべての症例で痛みを訴えて お り,平 均

2

.

2

時 間後 で あ っ た.

0

.

7

5

%R

群 で は,術後痔痛発現は

3

時間後か ら

1

0

時間後 までば らつ きがあるが, 8時間後 に最 も多 く,平均

7

.

1

時間後であった.術後痔痛発現の平均時間は

2%

L

群に比べて

0

.

7

5

%R

群で有意に遅かった. 2.術後痔痛の程度 術後

FPRS

の経時的変化を図

4,5

に示す. 1)下顎孔伝達麻酔 両群 とも時間経過 とともに

FPRS

値 は有意 に 上昇 した.

2%L

群では,術後

1

時間後か ら

3

時 間後 まで

FPRS

は平均

1

.

7

か ら

3

.

1

まで急 速 に上 昇 し

,3

時間後か ら

1

0

時間後 までは

3

.

0

前後でほ ぼ一定に推移 した.

0

.

7

5

%R

群では,術後

1

時間 後3時間後 までは有意な変化はなく,その後は術 後9時間後 までゆっ くりと上昇 し,平均2.2に達 した. 2)眼南下孔伝達麻酔 両群 とも時間経過 とともに

FPRS

借 は有意 に 上昇 した.

2%L

群では,術後

1

時間後か ら

3

時 間後 まで

FPRS

は平均

1

.

2

か ら

2

.

2

まで急速 に上 □2%L 田0.75%R

1

2 3 4 5 6 術後経過時間 7 8 9 10 図2:下顎孔伝達麻酔施行症例の術後痔痛発現時間

(5)

112 賓藤 :長時間作用性局所麻酔薬 を用いた伝達麻酔の口腔外科小手術後の痔痛管理 における有用性 について 1 2 3 4 5 6 術後経過時間 7 8 9 10 図3:限高下孔伝達麻酔施行症例の術後痔痛発現時間 表2:平均痔痛発現時間 下顎孔伝達麻酔 痔痛発現時間 (時 間) 2%L 1.5+0.6 0.75%L 5.8+2.4' 眼高下孔伝達麻酔 痔痛発現時間 (時 間) 2%L 2.2+0.8 (mean±SD) 'p<0.05V.S.2%L Mann-Whitney検定 昇 したが,その後 は術後 9時間後 までほぼ一定 に 推移 し,10時 間後 には平均2.7にな った.0.75% R群では,術後1時間後か ら5時間後 までは有意 な変化 はな く,その後ゆっ くりと上昇 し,10時間 後 には平均2.2となった. 3.術後痔痛 の程度 術 後 に痛 み を 自覚 した時 の

FPRS

値 を もとに 評価 した

,

「痛 み な し」

,

「痛 みあ り」お よび 「よ り強い痛み」 の各時間における症例数 を図6, 7 に示す. 1)下顎孔伝達麻酔 2%L群,0.75%R群いずれにおいて も,時間 経過 とともに痛みな しの割合が少 な くな り, よ り 強い痛みの割合が多 くなった.2群問で比較す る と,術後 1- 7時間後では,痛みな しの被験者の 割合 は0.75%R群 の方が有意 に多かった. 2)眼南下孔伝達麻酔 2%L群,0.75%R群いずれにおいて も,時間 経過 とともに痛みな しの割合が少 な くな り, よ り 強い痛みの割合が多 くなった.2群間で比較する と,術後 2- 8時間後では,痛みな しの被験者の 割合 は0.75%R群の方が有意に多かった. 4.術後の鎮痛薬服用 術 後 の鎮痛薬服用 割合 と服 用 時 間 を表 3に示 す. 1)下顎孔伝達麻酔 2%L群 で は20名全 員 が鎮 痛 薬 を服 用 してお り,平均服用時 間は2.1時 間後で あった.0.75% R群では20名中12名が鎮痛薬 を服用 し,平均服用 時間は5.7時間後であ った.鎮痛薬の服用割合 は 0.75%R群 の方 が有 意 に少 な く,服用 時 間 も遅 かった. 2)限高下孔伝達麻酔 2%L群 で は20名全 員 が鎮痛 薬 を服用 してお り,平均服用時 間は2.5時 間後 であ った.0.75% R群 で は20名 中14名 が服 用 し,平均 服用 時 間 は 6.8時間後であった.鎮痛薬の服用割合 は0.75% R群の方が有意 に少 な く,服用時間 も遅かった. 5.術後の不快症状 (表4) 下顎孔伝達麻酔の 2%L群では,口唇攻傷が 1 例,0.75%R群では,痔れ感の長時間残存が 5例 にみ られた.眼高下孔伝達麻酔の 2%L群で は, 頼れ感の長時間残存が 2例,0.75%R群では,痔 れ感の長時間残存が8例,口唇岐傷が1例にみ ら れた. 下 顎 孔 伝 達 麻 酔,限 南 下 孔 伝 達 麻 酔 と もに 0.75%R群 に痔れ感の長時間残存が多 くみ られた が,その他 の副作用 や合 併症 な どは認 め られ な

(6)

松本歯学 37(2)・(3) 2011 a 一e O S B u !I t2∝ u !t2 d a O e j 4 3 2 a le D S B u !1 t2 ∝ u !e d a U e j 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 術後 経 過 時 間 (時間) 1 2

3 4

5

6 7

8 9 10

術後経過時間

図4:下顎孔伝 達麻酔施行症例の術後FPRSの経時的変化 上段 :0.75%R (n-20) 下段 :2%L (n-20) かった. 考 察 ロビバ カインはスウェーデ ンで開発合成された アミド型の長時間作用性局所麻酔薬で,本邦では 2001年4月に輸入が承認 され,同年8月から臨床 応用 されている.本研究で使用 したロビバカイン とリ ドカイン,およびブピバ カインの物理化学的 特性 を表56・7)に示す.ロビバ カインの解離係数は リ ドカインよりも高 く,ブピバ カインとほぼ同 じ である.ロビバ カインの脂溶性はリ ドカインより も高いが,ブピバカインよりも低い.蛋 白結合力 は,ロビバ カインとブピバカインはいずれもリ ド カインに比べて極めて高い.以上のことから,ロ ビバ カインの作用発現はブピバ カインと同様で リ (時間) 113 (mean±SD) *p<0.05 Wilcoxonの符号付順位検定 ドカインよりは遅 く,効力 はブピバ カイ ンよりは 弱いが リ ドカインよりも強 く,作用持続時間はブ ピバ カインと同等でリ ドカインよりも長いことが 推測 され る.一方,局所血流へ の影響 につ いて は, リ ドカイ ンとブ ピバ カイ ンは血管 を拡張 さ せ,組織血流量 を増加 させ るのに対 して, ロビバ カイ ンには弱い血管収縮作用が ある とされてい る6). ロビバ カインは,医科領域 においては全身麻酔 と併用 した硬膜外麻酔8-10),術後硬膜外鎮痛11・12), 伝達麻酔13・14),ペ イ ンクリニ ック15)な どで多 く使 用 されてお り,その有用性 について報告 されてい る. また近年,歯科領域での使用 について も検討 がなされ,浸潤麻酔に用いた場合 には,十分な麻 酔効果は得 られない という報告が多い4・16・17)

(7)

114 安藤 :長時間作用性局所麻酔薬を用いた伝達麻酔の口腔外科小手術後の痔痛管理における有用性について a lt2 9 S B u !1 e ∝ u !t2 d a D e j 4 3 2 9 [t2 9 S B u !I t2∝ u !t2 d a D e j 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 術 後 経 過 時 間 (時間) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 術 後 経 過 時 間 図5:限南下孔伝達麻酔施行症例の術後FPRSの経時的変化 上段 :0.75%R(n-20) 下段 :2%L(n-20) 一方,下顎孔伝達麻酔に用いた場合の有効性 に ついてはい くつかの報告がある.Ernbergら4)は 0.2%,0.5%および0.75%のロビバ カイン1.8ml を用いて下顎孔伝達麻酔を行い,0.75%でのみ下 顎歯髄神経に対 して有効な麻酔効果が得 られ,麻 酔効果発現 は10分以内で,その効果持続時間は約 6時間に及ぶ としている.また,中村 ら5)は0.5% と1.0%のロビバ カイ ン1.8mlと1/80,000ア ドレ ナ リン含有2%リ ドカイ ン1.8mlの下顎孔伝達 麻酔における有用性 について検討 している.麻酔 効果発現の早 さには各群間に差はな く,1/80,000 ア ドレナ リン含 有2%リ ドカイ ンで は2時 間程 皮,0.5%ロ ビバ カイ ンでは4時間10分∼ 4時 間 40分, 1%ロビバ カイ ンでは5時間10分∼ 6時間 40分で麻酔効果が消失 し始めたと報告 している. (時間) (mean士SD) *p<0.05 Wilcoxonの符号付順位検定 以上 の ことか ら,0.75%R 1.8ml用いた下顎孔 伝達麻酔では,お よそ5-6時間程度の麻酔持続 時間が得 られると思われる. しか しなが ら,これ らの報告はいずれ もボランティアを対象 として局 所麻酔効果を検討 したものであ り,実際の外科処 置に使用 した ものではない. 歯科領域での術後の痔痛管理に関するロビバ カ インの有用性 を検討 した報告 としては,小倉 ら18) の報告が唯一の ものである.インプラン ト手術時 の下 顎 孔 伝 達 麻 酔 に0.75%ロ ビバ カ イ ン と

1

/

80.000ア ドレナ リン含有2%リ ドカインをそれぞ れ3.0ml使用 して比較 を行 ってい る.下顎孔伝 達麻酔での麻酔効果持続時間は0.75%ロビバ カイ ン群で平均10時間52分 と,ア ドレナ リン添加2% リ ドカインの約2倍で有意に長 く,鎮痛薬の服用

(8)

松本歯学 37(2)・(3) 2011

1

2 3 4 5 8 7 8 9 10 術後経過時間 図6:下顎孔伝達麻酔施行症例の術後痔痛の有無 と程度 上段 :0.75%R 下段:2%L 回数が少なく,服用時間も遅かったと報告 してい る.ただし,この研究は静脈内鎮静法を併用 した インプラント体の塩入手術であ り,局所麻酔薬注 入量が3.Omlと,通常使用 される量 よ りもはる かに多い.下顎の埋伏智歯抜去,嚢胞摘出や歯根 端切除など,歯科外来診療の場でより一般的に行 われる,比較的侵襲の大 きな口腔外科処置に使用 した場合の有効性 については明 らかにされていな い. また,眼南下孔伝達麻酔に応用 した場合の有 効性はこれまで報告されていない. 今 回,下顎孔伝達麻酔 と眼南下孔伝達麻酔 に 2%Lまたは0.75%Rを使用 した時の,術後の痔 痛発現時間を比較すると,下顎,上顎いずれの場 合 も小倉 ら18)の報告 と同様に,0.75%R群の方が 有意に痔痛発現時間が遅かった. 痔痛の程度 を数倍化 して評価す る指標 として は,Visualanaloguescale (VAS),Numerical ratingscale (NRS),Facepainratingscale (時間) 115 *p<0.05V.S.2%L Fisherの直接確 率計節法 (FPRS,Facescale)な どが あ る19). FPRSは小 児や高齢者にもわか りやす く,短時間で評価で き ることか ら,本研究では 0- 5の6段階のFPRS を用いた.本来,FPRSの 「0」 は全 く痛みが な く,「1」以上は様 々な程度の痛みがあるはずで あるが,本研究で被験者が術後に痔痛 を自覚 した 時 のFPRS倍 をみ る と,合 計80名 中 「1」が6 名のみで,「2」が

6

1

,

「3以上」が11名であっ た.また,痛みのない時間帯で も 「1」 と評価 し た被験者は62名いた.FPRSは模式的に措かれた 顔の表情をみて痛みの強さを判断することか ら, 痛みだけでなく,その時の心理状態や痔れなど他 の症状 も示 していたものと考えられる. 今 回の研究における術後のFPRSの変化 をみ ると,下顎孔伝達麻酔 と眼南下孔伝達麻酔のいず れにおいても, 2%L群では術後 1- 3時間後 に かけてFPRS値 は急速 に上昇 し,短時間で痛 み が強 くなっていたことがわかる.一方,0.75%R

(9)

116 斉藤 :長時 間作 用性 局所 麻酔薬 を用 いた伝 達麻 酔の口腔外科小手術 後の痔痛管理 にお ける有用性 について 1 2 3 4 5 8 7 8 9 10 術後軽過時間 図7:限南下孔伝達麻酔施行症例の術後痔痛の有無 と程度 上段 :0.75%R 下段:2%L 表3:術後の鎮痛薬服用割合 と服用時間 下顎孔伝 達麻 酔 服 用 割合 (%) 平均服 用 時 間 (時 間) 2%L 20/20(100) 2.1+0.7 0.75%R 12/20(60)★ 5.7+2.8● 限高 下孔伝 達麻 酔 服 用 割合 (%) 平均服 用 時 間 (時 間) 2%L 20/20(100) 2.5+0.8 (mean±SD) ●p<0.05V.S.2%L Mann-Wh itney検定 ★p<0.05V.S.2%L Fisherの直接 確 率 計算 法 群で も時間の経過 とともにFPRS倍 は上昇 した が,その程度は競やかで,術後痔痛の程度が少な *p<0.05V.S.2%L Fisherの直接確率計算法 表4:術後の不快症状 下顎孔伝 達 麻酔 不快 症状 症例 数 (例 ) 2%L 口唇 岐傷 1 0.75%R 痔 れ感長 時 間残存 5 限高 下孔 伝 達麻 酔 不快 症状 症例 数 (例 ) 2%L 痔 れ感長 時 間残存 2 0.75%R 痔 れ感長 時 間残存 8 表5:局所麻酔薬の物理化学的特性 pKa 脂溶性 蛋 白結合率 (% ) リ ドカイ ン 7.9 2.9 65 ブ ピバ カイ ン 8.1 6.1 94 い時間帯が長かった.また,被験者が痔痛を自覚 した時 のFPRS値 を も とに評 価 した 「痛 み な 0.75%R群の方が有意に多かった.また,眼南下 し」

,

「痛みあ り」お よび 「より強い痛み」の経時 孔伝達麻酔で も術後2-8時間後 において

,

「痛 的変化 をみると,下顎孔伝達麻酔では術後

1-7

みなし」の被験者の割合は0.75%R群の方が有意 時間後において

,

「痛みなし」の被験者の割合 は に多かった.

(10)

松本歯学 37(2)・(3) 2011 さらに,術後の鎮痛薬服用割合や服用時間を比 較 した結果,下顎孔伝達麻酔 と限南下孔伝達麻酔 のいずれにおいて も, 2%L群 よりも0.75%R群 の方が鎮痛薬服用割合が低 く,服用 した時間も遅 かった. 以上の結果か ら,長時間作用性局所麻酔薬の 0.75%Rを用いて伝達麻酔を行 うことは,中時間 作用性局所麻酔薬の 2%Lを使用 したときと比べ て,より長時間の術後鎮痛状態を得ることが可能 であ り,術後の痔痛管理の点から有用であると考 えられる. 歯科臨床で最 も使用頻度の高い局所麻酔薬 は 2%リ ドカインであるが,一般的には麻酔効果の 増強と,持続時間の延長のために,血管収縮薬 と してア ドレナ リンが添加 された ものが使用 され る.このア ドレナリンが毛細血管内に吸収される と,血圧上昇や頻脈の原因とな り,高血圧症,動 脈硬化症などではその使用は原則禁忌 とされてい る.一方,ロビバカインは血管収縮薬を添加せず とも,下顎孔伝達麻酔においては1/80,000ア ドレ ナリン含有 2% リドカインとほぼ同等の麻酔効力 が得 られ,持続時間が よ り長い5)ことか ら,循環 器系疾患を有する患者など,ア ドレナリンが添加 された局所麻酔薬の使用は避けた方が望 ましいと 考えられる患者において も,安全に使用すること が可能である. 現在わが国で市販 されている長時間作用性局所 麻酔薬には,ロビバカインとブピバカイン以外に レポブピバカインがある.レポブピバカインはロ ビバカインと同様に S (-)体のみで構成 され, ブピバカインに比べて毒性が低い. レポブピバカ インの脂溶性はロビバカインよりも高 く,蛋白結 合力がやや強いことか ら,ロビバカインよりも効 力が強 く,持続時間も長いと考えられる20).ただ し,現時点では硬膜外麻酔 と術後硬膜外鎮痛の適 応 しかないために歯科臨床では使用で きない.今 後,伝達麻酔の適応が追加 されれば, レポブピバ カインを用いることで,より長時間の伝達麻酔効 果が期待で き,より長時間の術後鎮痛を得ること が可能 となるかもしれない. 結 語 口腔外科小手術に際 し,下顎孔伝達麻酔 と眼南 下孔伝達麻酔に用いる局所麻酔薬 として 2%L と 117 0.75%Rを用いた際の術後痔痛の発現時間,痔痛 の程度,鎮痛薬服用時間,麻酔奏効中の不快症状 について比較検討 した. 1)術後痔痛発現時間は下顎孔伝達麻酔,限南下 孔伝達麻酔 ともに0.75%Rの方が遅延 してい た. 2)術後に痛みがなかった被験者の割合は,下顎 孔伝達麻酔,眼南下孔伝達麻酔 ともに0.75% R群の方が多かった. 3)鎮痛薬服用時間は下顎孔伝達麻酔,限南下孔 伝達麻酔 ともに0.75%Rの方が遅かった. ま た,鎮痛薬を服用 しなかった症例の割合 も多 かった. 4)不快 症状 と して,術 後 長 時 間 の痔 れ感 は 0.75%Rに多 くみられたが,重篤な合併症や 副作用 などは認められなかった. 以上の結果か ら,口腔外科小手術施行時に下顎 孔伝達麻酔 または限南下孔伝達麻酔を併用するに あた り,中時間作用性局所麻酔薬である 2%Lよ りも長時間作用性局所麻酔薬である0.75%Rを用 いた方が, より長時間の術後鎮痛を得ることが可 能で,術後の痔痛管理において有効であると思わ れる. 謝 辞 稿 を終えるにあた り,本研究において,終始御 指導 と御鞭接を賜 りました松本歯科大学大学院歯 学独立研究科顎口腔機能制御学講座教授泣谷徹先 生に心 より感謝 と敬意の意を申し上げます. また研究の円滑な進展 と論文作成に御協力頂い た松本歯科大学歯科麻酔学講座の皆 さまに深 く御 礼申し上げます. 参 考 文 献 1)足立健彦 (1988)新 しい局所麻酔薬ロビバカイ ン.麻酔 47 (増刊):S109-12.

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(11)

118 安藤 :長時間作用性局所麻酔薬を用いた伝達麻酔の口腔外科小手術後の痔痛管理における有用性について (2004)下顎孔伝達麻酔 におけるロビバ カイ ン の有効性に関する研究. 臼歯麻誌 33:34-42. 6)北島敏光 (2008)レポブ ピバ カイ ン.臨床麻酔 32:1355-60. 7)古屋英毅,金子 議,海野雅浩,池本晴海,福島 和 昭,城 茂治 編 著 (2003)歯科 麻 酔学,第 6版,171-7,医歯薬出版,東京.

8)crosbyE,SandlerA,FinucaneB,WriterD,

ReidD,McKennaa,FriedlanderM,MillerA,

0'Callagh an -EnrightS,MuirH,ShuklaR (1998)Comparisonofepiduralanaesthesia withroplVaCaine0.5%andBupivacaine0.5% fbrcaesareansection.Can∫Anaesth45:1066 -71. 9)猪俣厚子,嶋 武,村上意考,千乗聡子,加藤 正人 (2002)全 身麻酔時 ロビバ カイ ンの硬膜外 併用投与量の検討.臨床麻酔 26:1504-6. 10)横 山正 尚 (2007)硬膜外麻酔 に用 いる局所麻酔 薬の特徴. 日臨麻会誌 27:445-55. ll)越後谷雄一,詫 間 滋 (2002)婦人科 開腹手術 における術後硬膜外 ロビバ カイ ンの有用性.臨 床麻酔 26:149ト4. 12)川島信吾,内崎紗貴子,足立裕史,鈴木かつみ, 小幡 由佳子,佐藤重仁 (2010)ロビバ カイ ン単 独投与による硬膜外術後鎮痛. 日臨麻会誌 30: 52-7.

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15)田追 豊,石井康多,秋山泰子,加藤里任,井関 雅子,宮崎東洋 (2003)トリガーポイ ン ト注射 におけるロビバ カイ ンと塩酸 ジブカイ ン配合薬 の比較.ペインクリニ ック24:423-4.

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