氏 名 両角 朗 博士の専攻分野の名称 博士(工学) 学 位 記 番 号 医工博甲第373号 学 位 授 与 年 月 日 平成28年3月23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1 項該当 専 攻 名 機能材料システム工学専攻 学 位 論 文 題 目 Sn-Sb はんだ接合部の熱的力学的疲労損傷に及ぼす 固体金属間生成物の影響に関する研究
(Effect of Solid-Sate Intermetallic Growth on Thermo-Mechanical Fatigue Damage in Sn-Sb Solder Joints for Power Conversion Devices) 論 文 審 査 委 員 主査 准教授 鍋 谷 暢 一 教 授 中 川 清 和 教 授 矢 野 浩 司 准教授 村 中 司 准教授 有 元 圭 介 准教授 小野島 紀 夫
学位論文内容の要旨
近年、世界的規模での取組みが成されている地球温暖化防止に貢献する技術領域として、 パワーエレクトロニクスが注目されている。パワーエレクトロニクスは、電気の直流・交 流あるいは周波数などの変換等を迅速に行う技術であり、従来からの電力工学に加え、近 年の半導体を基礎とした電子工学と制御工学が融合した学際的分野である。 パワーエレクトロニクス機器を構成する電力変換器用パワー半導体は、小型化と大容量 化のトレードオフの関係を損失低減と許容動作温度の拡大のための技術開発によって乗り 越えてきた。許容動作温度の拡大と高信頼性化の実現には、パワー半導体の実装技術が大 きく寄与しており、その中でも接合材料の高耐熱化や高強度化・高疲労強度化が重要な技 術として位置づけられている。パワー半導体用接合材料の研究においては、半導体工学、 物性物理学をはじめ、結晶学・材料組織学、破壊力学・塑性力学、金属物理化学、材料加 工学、粉末冶金学など多岐におよぶ学問分野が関わっている。 パワー半導体用接合材料としては、Sn-Ag 系合金が広く使用されているが、Sn-Ag 系合 金は熱劣化しやすい材料であるため、高耐熱・高強度特性の要求に十分対応できない状況になってきている。そこで、従来のSn-Ag 系合金の接合プロセスを適用しつつ高耐熱・高 強度化を図る方法として金属材料の強化機構の複合化に着目し、高温安定性に優れた固溶 強化型として知られている Sn-Sb 二元合金を選定し、アンチモンの挙動を明確化し、高耐 熱・高強度化の実現につなげることを考えた。Sn-Sb 二元合金をパワー半導体接合部に適 用した時の熱ストレス寿命について、アンチモン濃度と材料特性、結晶組織を関係付けて 調査・研究された報告はほとんどない。本研究では、Sn-Sb 二元合金をパワー半導体接合 部へ適用した際のアンチモン濃度の強度および疲労特性への影響について結晶組織を関係 付けて調査した。 第 1 章では、本研究の背景となるパワーエレクトロニクスと基幹部品であるパワー半導 体の技術発展・歴史について述べた後、パワー半導体の主流である IGBT の基本構造と動 作原理および実装技術を説明し、パワー半導体の小型・軽量化技術とその課題について纏 めた。 第 2 章では、高耐熱・高信頼性パワー半導体を実現する最先端接合技術の開発動向とし て、金属粒子焼結接合、液相拡散接合、金系硬ろう接合および高融点接合技術について述 べた。 第 3 章では、本研究の対象であるはんだ接合技術全般について述べる。従来用いられて いるSn-Ag 系合金の劣化メカニズムについて説明する。Sn-Ag 系合金の弱点は熱履歴によ り結晶組織が敏感に変化することによる熱劣化である。Sn-Ag 系合金の弱点を克服するた めに高温安定性に優れ、代表的な固溶強化型合金である Sn-Sb 二元合金に着目し、金属材 料の強化機構の複合化の検討について述べた。 第4 章では、各種アンチモン濃度(2~15wt.%)の Sn-Sb 合金を用いたデバイス接合構造体 を作製し、冷熱サイクル試験による接合部の疲労寿命についてアンチモン濃度の影響を調 査した結果を述べる。冷熱サイクル寿命は、アンチモン濃度の上昇とともに長寿命化する 傾向にあることを確認した。また、アンチモン濃度が10wt.%を超えた組成では長寿命化が 顕著であることを明らかにした。 第5 章は、第 4 章で得られたデバイス接合部の冷熱サイクル寿命とアンチモン濃度の関 係を検証するため、各種アンチモン濃度組成の材料の引張特性を調査した結果を述べる。 引張試験の結果、アンチモン濃度の上昇にともない引張強度(降伏強度)は上昇する傾向が確 認された。得られたアンチモン濃度と材料強度との関係は、デバイス接合部の冷熱サイク ル寿命と一致することを明らかにした。一方、結晶組織の観察より、アンチモン濃度が 10wt.%を超えた組成ではβ-Sn マトリクス中に正六面体形状の SbSn 化合物の晶出を確認 し、SbSn 化合物の物性値として硬さと弾性率を明らかにした。
アンチモン濃度と引張特性の関係について金属材料の強化理論を用いた考察を行い、ア ンチモン濃度が固溶限界以下ではSb の固溶強化とβ-Sn の結晶粒微細化強化が作用してい る。これに対して、アンチモン濃度が固溶限界を超えた組成では固溶強化と結晶粒微細化 強化に加えてSbSn 化合物の析出強化が作用することを明らかにした。 第6 章は、引張特性と冷熱サイクル特性に優れた過飽和型 Sn-13wt.% Sb 合金を用いて作 製したデバイス接合構造体について、凝固速度(結晶組織)と冷熱サイクル寿命との関係につ いて調査した結果を述べる。冷熱サイクル寿命は、凝固速度が遅いほど長寿命化する傾向 にあることが明らかになった。接合部き裂進展挙動は、凝固速度が遅い場合き裂は粗大化 したSbSn 化合物に進路を遮られ蛇行している。これに対して、凝固速度が速い場合、き裂 はほぼ直線的に進展している。β-Sn マトリクス中に晶出する SbSn 化合物の結晶構造につ いて微小部X 線回折により同定を行い、菱面対晶(六方格子)の結晶系であることを明らかに した。 第7 章は、過飽和型 Sn-13wt.% Sb 合金の引張特性と疲労特性に対する凝固速度(結晶組 織)の影響についての調査結果を述べる。第 6 章で明らかになったデバイス接合部の冷熱サ イクル寿命と凝固速度の関係の妥当性を検証するため、材料の引張特性と低サイクル疲労 特性を調査した。疲労特性は負荷される塑性ひずみ振幅の値によって凝固速度と寿命の位 置関係が変わることを確認した。塑性ひずみ振幅が閾値以上では凝固速度が遅いほうが長 寿命となり、閾値以下では凝固速度が速いほう長寿命となる。 過飽和型Sn-13wt.% Sb 合金における強度と凝固速度の関係は、SbSn 化合物の分散強化 とβ-Sn の結晶粒微細化強化が作用している。これに対して、低サイクル疲労特性と凝固速 度の関係は、SbSn 化合物が微視的に作用する領域では分散強化・結晶粒微細化強化または 析出強化機構に従うが、化合物が巨視的に作用する領域においては、合金の強化機構のほ かに粒子分散強化型複合材料の強化機構が作用するものと考えられる。 第8 章は、本研究論文を総括した。本研究の成果の一部として、PHEV(Plug-in Hybrid
Electric Vehicle)モータ駆動用 IGBT および太陽光発電パワーコンディショニング用 SiC モ ジュールの小型化と高信頼性化の実現に貢献した。
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論文審査結果の要旨
パワーエレクトロニクスは、電力工学だけではなく半導体を利用した電子工学と制御工 学が融合した分野である。近年特に注目されている電力変換器用パワー半導体は、小型化
と大容量化のトレードオフの関係を損失低減と許容動作温度の拡大のための技術開発によ って乗り越えてきた。その中でも接合材料の高耐熱化や高強度化・高疲労強度化が重要な 技術として位置づけられている。パワー半導体用接合材料の研究には、多岐におよぶ学問 分野が関わっている。 従来からパワー半導体用接合材料としては、Sn-Ag 系合金が広く使用されているが、熱 劣化しやすい材料であるため、これからの高耐熱・高強度特性の向上が不可欠である。そ こで本研究では、従来からのSn-Ag 系合金の接合プロセスを適用しつつ高耐熱・高強度化 を図る方法として金属材料の強化機構の複合化にSn-Sb 二元合金を選定した。本研究では、 Sn-Sb 二元合金をパワー半導体接合部へ適用した際のアンチモン濃度の強度および疲労特 性への影響について結晶組織を関係付けて研究した。以下に各章で述べてある成果と意義 を記述する。 第1 章では、パワー半導体の主流である IGBT の基本構造と動作原理および実装技術を 説明し、小型・軽量化技術とその課題を述べている。 第 2 章では、パワー半導体の高耐熱化および高信頼性を実現させる最先端接合技術とし て、金属粒子焼結接合、液相拡散接合、金系硬ろう接合および高融点接合技術について述 べている。 第3 章では、はんだ接合技術全般について述べている。従来の Sn-Ag 系合金の劣化メカ ニズムについて説明し、本研究で取り上げた固溶強化型合金であるSn-Sb 二元合金に着目 した理由および金属材料の強化機構の複合化の検討について述べている。 第4 章では、アンチモン濃度(2~15wt.%)の異なる Sn-Sb 合金を用いたデバイス接合構造 体を作製し、冷熱サイクル試験によって疲労寿命のアンチモン濃度の影響を調査した結果 を述べている。その結果、冷熱サイクル寿命は、アンチモン濃度の上昇とともに長寿命化 する傾向にあることを確認した。また、アンチモン濃度が10wt.%を超えた組成では長寿命 化が顕著であることを明らかにしている。 第 5 章は、各種アンチモン濃度組成の材料の引張特性を調査した結果を述べている。引 張試験の結果、アンチモン濃度の上昇にともない引張強度(降伏強度)は上昇する傾向が確認 され、冷熱サイクル寿命と一致することを明らかにした。さらに、結晶構造の観察を行い、 アンチモン濃度が10wt.%を超えた組成ではβ-Sn マトリクス中に正六面体形状の SbSn 化 合物の晶出を確認し、SbSn 化合物の物性値として硬さと弾性率を明らかにしている。これ に対して、アンチモン濃度が固溶限界を超えた組成では固溶強化と結晶粒微細化強化に加 えてSbSn 化合物の析出強化が作用することを明らかにしている。 第6 章は、引張特性と冷熱サイクル特性に優れた過飽和型 Sn-13wt.% Sb 合金を用いて作
製したデバイス接合構造体を作製した。冷熱サイクル寿命は、凝固速度が遅いほど長寿命 化する傾向にあることが明らかにしている。X 線回折の結果から晶出する SbSn 化合物は菱 面対晶(六方格子)の結晶系であることを明らかにしている。 第7 章は、過飽和型 Sn-13wt.% Sb 合金の引張特性と疲労特性に対する凝固速度(結晶組 織)の影響について調査した。 以上のように、本論文では、パワー半導体の技術動向を根威嚇に把握し、高温耐性パッ ケージングに必要な要素技術を明らかにしてはんだに関する有効性を実証している。これ らの成果は今後のさらなるパワーデバイスの発展に貢献するものであり、博士論文の価値 は十分にあるものと認められた。