英語動詞の命題補部について
㻌A Note on the Comparative Analysis of the Propositional Complements of Verbs
藤内響子
Kyoko Fujiuchi
1.はじめに
本研究ノートは、①を前提となる命題として定義 し、それから派生した②~⑥を命題補部と定義す る。それを踏まえて、英語の動詞がその補部に命 題を選択する場合の、伝統文法および各文法理論 における統語的事実の記述と分析を比較すること を目的とする。 ① 単文[Israel destroyed the Gaza Strip]. ② that 節
The news said [that Israel destroyed the Gaza Strip]. ③ to 不定詞
It is not good [for Israel to destroy the Gaza Strip]. ④ 動名詞
The U.S. does not like [Israel's destroying the Gaza Strip].
⑤ 派生名詞句
Palestine protested [the destruction of the Gaza Strip by Israel].
⑥ 小節
Palestine did not expect [Israel destroy the Gaza Strip]. 2.伝統文法および各文法理論における単文の分 析手法 伝統文法 伝統文法は、その成り立ちを元々ラテン文法に依 っているが、文は主部と述部の組み合わせで構成 され、述部には述語動詞が含まれていることが共 通して認識されている。特筆すべきはJespersen が ネクサスという特徴的な概念を提案していること である。ネクサスとは修飾関係を記述する三階位 説を単文の記述に当てはめたものである。通常の 修飾・被修飾関係である Junction については、他 の文法学者も並行する考察を展開しているが、そ れを主述の関係に適応したネクサスは、Jespersen のみが主張している。 直接構成素分析(構造主義言語学) 文をパラフレイズ可能な直接構成素に分け、二分 法によって記述する。その際、分離動詞 (cf. He looked the word up in a dictionary.) にみられるよう な不連続構成素は記述できず、He kissed the girl at the cafeteria.のような多義的な文の構造を一つに 決定できなかった。 生成文法・標準理論 ・句構造規則 S' → COMP S S → NP (Aux) VP 生成文法の初期は、有限個の句構造規則を循環適 用して単文構造を生成し、それに語彙を挿入した。 その中から、句構造を精緻化して構造を決定する 句構造文法が生まれたが、生成文法では生成した 構造に語彙挿入する際にその意味により下位範疇 化する必要があったため、単文を直接生成する句 構造規則を捨て、範疇の最大投射までを生成する X-bar 理論を導入した。 生成文法・原理と媒介変項のアプローチ ・X-bar 理論 任意の範疇の主要部が補部とともに構成した局所 領域をX'投射、X'投射が指定部と構成する局所領 域をX''投射、もしくは最大投射範疇という。この 研究ノート
理論ではすべての構造は内心構造となり、文も精 緻化された屈折要素の範疇、I の最大投射、IP と 分析されている。 ・θ 理論および格理論 原理と媒介変項のアプローチの段階では、単文の 述語動詞は主語や目的語に格を付与し、またθ 役 割を与えると仮定されている。命題形式が並行し て見えるのは、動詞句やその派生形式が同じθ 枠 を共有するためである。 生成文法・極小主義
・Bare Phrase Structure (最小句構造規則)
極小主義およびBare Phrase Structure では、構造に 必要最小限の構成素のみが投入されることを前提 としているため、原理と媒介変項のアプローチの 頃のような空範疇を駆使した構造を仮定すること をしない。しかしながら、命題形式を記述するの に必要な範疇とその構造分析は、原理と媒介変項 のアプローチの頃のX-bar 理論の形式を踏襲した ものである。大幅に異なるのは演算形式である。 従って、古い原理と媒介変項のアプローチで動詞 の命題補部の分析を行い、その成果を現行の極小 主義によって再分析しても、真偽が入れ替わるほ ど解釈が変わることはない。最小句構造規則では、 構成素a と b が併合し、どちらかの範疇を名辞と して投射することで、[a,[a, b]] が出来上がるとい うX-bar 理論の根幹のみを残し、節点が主要部で あるか補部や指定部であるかの区別をしていない。 範疇記号が節点や名辞となることもない。形式的 な投射の機構を構築することで、主要部・補部媒 介変項の存在も不要としている。
3.伝統文法および各文法理論における
that 節 の分析手法
伝統文法 名詞節として記述するのみで、名詞相当語句の一 部と定義されている。一方ネクサスでは、I believe [that he is an honest man].だけでなく、I believe [him honest].にもネクサスの構造を定義している。この 洞察もJespersen にしかないものである。 直接構成素分析(構造主義言語学) 普通どおりに構造を切り分ける。そこに主述の関 係がある事実について、直接構成素分析は記述の 対象としない。 生成文法・標準理論 ・句構造規則 S' → COMP S の句構造規則で記述する。S の内容は単文と同じ である。理論が進んでCOMP が投射を持つように なり、CP として分析されることとなった。CP は 代表的な固有障壁であるので、その外側からの影 響をthat 節は受けない。 生成文法・原理と媒介変項のアプローチ ・θ 理論および格理論 補文は構造とは別に意味役割をもつ。名詞節とし て働く場合はProposition という主題役割を与えら れる。逆にProposition という θ 役割が与えられて も、内部構造はCP である以外不明である。修飾 語である関係節はこの役割を持たず、主節の命題 論理構造にも影響を与えない。4.伝統文法および各文法理論における
to
不定詞の分析手法
伝統文法 伝統文法では、to 不定詞が命題形式であるとは認 識していない。to は前置詞と分析されているか、 分析が与えられず、付加詞としての機能が与えら れる場合もある。 直接構成素分析 (構造主義言語学) 直接構成素分析では、to 不定詞が他動詞である場 合、他動詞と目的語を分割する前にto と不定詞に 切り分けられる。 生成文法・標準理論 ・句構造規則理論ではすべての構造は内心構造となり、文も精 緻化された屈折要素の範疇、I の最大投射、IP と 分析されている。 ・θ 理論および格理論 原理と媒介変項のアプローチの段階では、単文の 述語動詞は主語や目的語に格を付与し、またθ 役 割を与えると仮定されている。命題形式が並行し て見えるのは、動詞句やその派生形式が同じθ 枠 を共有するためである。 生成文法・極小主義
・Bare Phrase Structure (最小句構造規則)
極小主義およびBare Phrase Structure では、構造に 必要最小限の構成素のみが投入されることを前提 としているため、原理と媒介変項のアプローチの 頃のような空範疇を駆使した構造を仮定すること をしない。しかしながら、命題形式を記述するの に必要な範疇とその構造分析は、原理と媒介変項 のアプローチの頃のX-bar 理論の形式を踏襲した ものである。大幅に異なるのは演算形式である。 従って、古い原理と媒介変項のアプローチで動詞 の命題補部の分析を行い、その成果を現行の極小 主義によって再分析しても、真偽が入れ替わるほ ど解釈が変わることはない。最小句構造規則では、 構成素a と b が併合し、どちらかの範疇を名辞と して投射することで、[a,[a, b]] が出来上がるとい うX-bar 理論の根幹のみを残し、節点が主要部で あるか補部や指定部であるかの区別をしていない。 範疇記号が節点や名辞となることもない。形式的 な投射の機構を構築することで、主要部・補部媒 介変項の存在も不要としている。
3.伝統文法および各文法理論における
that 節 の分析手法
伝統文法 名詞節として記述するのみで、名詞相当語句の一 部と定義されている。一方ネクサスでは、I believe [that he is an honest man].だけでなく、I believe [him honest].にもネクサスの構造を定義している。この 洞察もJespersen にしかないものである。 直接構成素分析(構造主義言語学) 普通どおりに構造を切り分ける。そこに主述の関 係がある事実について、直接構成素分析は記述の 対象としない。 生成文法・標準理論 ・句構造規則 S' → COMP S の句構造規則で記述する。S の内容は単文と同じ である。理論が進んでCOMP が投射を持つように なり、CP として分析されることとなった。CP は 代表的な固有障壁であるので、その外側からの影 響をthat 節は受けない。 生成文法・原理と媒介変項のアプローチ ・θ 理論および格理論 補文は構造とは別に意味役割をもつ。名詞節とし て働く場合はProposition という主題役割を与えら れる。逆にProposition という θ 役割が与えられて も、内部構造はCP である以外不明である。修飾 語である関係節はこの役割を持たず、主節の命題 論理構造にも影響を与えない。4.伝統文法および各文法理論における
to
不定詞の分析手法
伝統文法 伝統文法では、to 不定詞が命題形式であるとは認 識していない。to は前置詞と分析されているか、 分析が与えられず、付加詞としての機能が与えら れる場合もある。 直接構成素分析 (構造主義言語学) 直接構成素分析では、to 不定詞が他動詞である場 合、他動詞と目的語を分割する前にto と不定詞に 切り分けられる。 生成文法・標準理論 ・句構造規則 to不定詞のtoは時制の一種として分析されている。 その後のX-bar 理論においても、to は屈折要素の 範疇I の主要部として分析される。 生成文法・原理と媒介変項のアプローチ ・コントロール理論 to 不定詞の to が時制で、不定詞が動詞であるなら ば、当然主語が必要である。その位置は動詞によ っても時制によっても統率がなされない位置であ り、PRO というゼロ形式を置いて分析する。PRO は代名詞の役割を果たし、先行詞のことをコント ローラーと呼ぶ。5.伝統文法および各文法理論における動
名詞の分析手法
伝統文法 Jespersen は、動名詞を実詞(Substantive)として分析 している。動名詞の補部に同じく実詞がある場合、 Jespersen はそこにネクサスを主張している。 直接構成素分析 (構造主義言語学) ただ単に動名詞と補部の間で構造を区別する。 生成文法・標準理論 ・句構造規則 -ing という N 範疇を仮定し、その補部に VP を置 く。VP 主要部が-ing に繰り上がって動名詞が派生 するが、動詞句補部の処理は通常のVP のものと 同じである。 生成文法・原理と媒介変項のアプローチ ・X-bar 理論 動名詞を当初からN 範疇に基底生成するか、上記 の句構造規則の分析をなぞる。 ・θ 理論および格理論 動名詞句と動詞句は同じθ 枠を共有する。格の付 与は、所有格の主語に関しては統一がなされてい ない。6.伝統文法および各文法理論の派生名詞
句の分析手法
伝統文法 ただ単に実詞 (Substantive) として記述する。 Jespersen はネクサスを主張している。 直接構成素分析 ただ単に名詞と補部の間で構造を区別する。 生成文法・標準理論 ・句構造規則 NP を展開する規則には、派生名詞句が命題であ ることを表示する方法がない。それはX-bar 理論 でも同じである。 生成文法・原理と媒介変項のアプローチ ・θ 理論および格理論 派生名詞句と動詞句は同じθ 枠を共有する。格の 付与は、やはり所有格の主語に関しては統一がな されていない。 ・DP 分析 名詞句の本当の正体は、決定詞(Determiner)の最大 投射であるDP であるとする分析で、現在名詞句 はこの方法で記述されている。その場合、所有格 の 's が D の主要部となる。7.伝統文法および各文法理論の小節の分
析手法
伝統文法I believe [him honest]. のような形式は、現在の理論 言語学では小節(Small Clause)として分析される。 小節は伝統文法では基本文型や後置修飾として分 析するのが一般であるが、Jespersen は him を一位 語、honest を二位語とするネクサス分析を主張し ている。この分析において、ネクサス二位語は必 ずしも一位語を後置修飾する形容詞とは限らず、 動詞が選択されることもあり、分析は形式的な統 一を果たしていない。
直接構成素分析 (構造主義言語学) ただ単に意味的主語と意味的述語を分割する。そ の間に主述の関係があることを記述する方法はな い。 生成文法・標準理論 ・句構造規則 VP 節点の展開条件は、V を含むことだけであっ た。従ってVP を展開する句構造規則は小節を姉 妹節点として記述したが、叙述関係を記述するこ とは出来なかった。 生成文法・原理と媒介変項のアプローチ ・X-bar 理論 X-Bar 理論では、チョムスキー付加する場合を含 んで、構造は必ず二枝分かれにならなければなら ず、小節の各節点は姉妹関係であり得なくなった ため、意味的述語の統語的事実を記述することに 困難があった。そのため、二重目的語構文と同じ ように、構造記述の精緻化が試みられた。二重目 的語構文はVP シェル構造、それに続いて vP 分析 が提案され一定の成果が上がったが、小節の構造 記述は混迷していた。 ・vP 分析による小節(Small Clause)分析 二重目的語構文のVP シェル構造を記述するため に仮定された vP が、小節のゼロ形式の述語とし ても働くと仮定すれば、分析を統一できる可能性 がある。 生成文法・極小主義
・Bare Phrase Structure (最小句構造規則)
極小主義で句構造を記述する最小句構造規則では、 小節はそれを構成するどちらかの範疇の投射とな る。これは、小節は構成素であるという分析であ るが、小節は節ではないという分析でもある。 注 *本研究はJSPS 科研費 26580089 の助成を受け たものです。
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