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カレツキアン・モデルを用いた日本における環境対策の経済影響に関する実証分析

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(1)カレツキアン・モデルを用いた 日本における環境対策の経済影響に関する実証分析 大 熊 一 寛. 1.はじめに. 現在までを一貫性を持って分析することも,検 討すべき課題と考えられる.. 環境対策の経済成長への影響については,環. モデルを用いた環境対策の研究としては,地. 境対策をコストと見て悪影響を懸念する考え方. 球温暖化問題 の 顕在化以降,エ ネ ル ギーの 価. がある一方,需要の源泉や技術革新の契機とし. 格と消費量等に着目してモデルに組み込む形. てプラスの影響を期待する考え方もある.特に. で様々な研究が重ねられてきている.我が国. 後者については, 世界同時不況の中で, 「グリー. で は,例 え ば,地球温暖化対策 の 中期目標 や. ン成長」等の概念とともに注目が集まってい. ロード マップ の 検討 と 関連 し た 政策的研究 が. る.これら両面を考慮した総合的な影響を理論. あり,CGE モデルをベースにした研究(武田. 的に説明すること,及びその説明に基づき現実. 他,2010;伴,2010 等)の 他,ケ イ ン ズ 型 の. 経済を実証分析することは,経済研究の重要な. 計量経済モデルをベースにした研究(猿山他,. 課題と言える.. 2010)も行われている.また国際的にも,温室. 環境対策は,投資,輸出入,生産性等様々な. 効果ガス削減の様々なシナリオについて,異な. 経路を通じて経済に影響を与える.こうした. る形式や仮定を持つ様々なモデルによりシミュ. 様々な影響の総合的効果を理解するためには,. レーションが行われており(レビューとして,. 何らかのモデルを用いた分析が有用である.そ. Stern( 2007),Barker, Qureshi, et al.( 2006). うした分析には様々なアプローチがあり,それ. がある. ) ,その中には需要主導の状態を表す. ぞれに利点と限界とを有するところ,分析の目. モデルによる分析もある(Barker, Pan, et al.,. 的に応じたアプローチを選択することが重要と. 2006) .これらは,大規模なモデルに基づく詳. なる.. 細なシミュレーション結果を提供し,政策立案. ここで,上記のような経済成長への正負両面. の場でも参照されるなど,重要な成果を上げて. の影響を考慮した分析のためには,費用と需要. いる.一方,これらの多くは需要の役割を十分. の関係を明確に表現しうるモデルを用いること. 反映するものではなく,一部に需要主導の状態. が重要 と 考 え ら れ る.また, 「グリーン成長」. を反映できるモデルもあるものの,上記の問題. 等に関する議論等において,かつて日本の公害. 意識に照らせば,費用と需要の関係を明確に示. 対策が経済にプラスの効果を与えたとの経験が. すことは,なお課題であると言える.また,こ. しばしば参照されることも踏まえれば,公害対. れらモデルは,いずれもエネルギー消費に着目. 策を含め環境対策全体を対象として,過去から. したものであり,公害対策を含む環境対策全体.

(2) 116 (770). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). について,長期的な変化を分析するという問題. に用いられてきており,日本経済に関する分析. 意識には対応しにくい.. も 行 わ れ て い る(Bowls and Boyer, 1990;植. 本研究は,環境対策一般を対象として経済成. 村,2000;畔津他,2010;西,2010).ただし,. 長との関係を単純化して分析するための一つの. 産業公害対策が経済に一定の影響を与えたと考. アプローチとして,カレツキアン・モデルに着. えられる時期を含め,環境対策を考慮した研究. 目し,環境対策を組み込んだモデルを設定し. は行われていない.本研究の実証分析は,これ. て,1970 年代以降の日本における公害対策を. らの実証研究の成果を参考として,環境に関す. 含む環境対策について実証分析を行うものであ. る要素を組み込んだ実証分析を試みるものでも. る.カレツキアン・モデルは,分配と需要の. ある.. 関係の分析に利点を持つ,ポスト・ケインズ. 本論文の構成は次の通りである.第 2 節にお. 派の代表的な成長モデルの一つであり,特に,. いて,環境対策費用の定式化から出発して,環. Rowthorn(1982)がこのモデルで示した,費. 境対策費用を組み込んだカレツキアン・モデル. 用の増加が需要増を通じて利潤率と成長率を上. を提示する.次に,第 3 節において,日本の産. 昇させるという「費用の逆説」の概念は,上記. 業公害対策の時代から今日までを対象として,. のような環境対策による「費用増加への懸念」. 環境対策費用を推計し,これを用いて各方程式. と「需要増加等への期待」との関係を理論的に. の計量分析を行うことで,このモデルに基づく. 分析する上で有用と考えられる.また,このモ. 実証分析を行う.これにより,かつての産業公. デルにより,費用と利潤率等との関係の状態を. 害対策は経済にどのような影響を及ぼしたの. 「高揚論」 , 「停滞論」等のレジームとして識別. か,また,今日の経済環境において環境対策は. するという分析方法(例えば,Blecker(2002). 経済にどのような影響を持ちうるのか等が考察. に体系的に整理されている. )は,過去から現. される.第 4 節で結論をまとめる.. 在までの時間軸の中での構造の変化を分析する. 本 研 究 で 示 す モ デ ル は,Okuma. 上で有用と考えられる.. (forthcoming)において提示したモデルを基礎. このモデルに,費用の一つとして公害対策を. としている.本論文の第 2 節は,その概要を紹. 含む環境対策の費用を組み込むことによって,. 介しつつ,実証分析に応用する上で必要な変更. 環境対策による需要増加を含む経済への総合的. 及び改善を加えているものである.. 影響について理論的説明を行うとともに,実証 的な分析を行うことが可能である.. 2.環境を組み込んだカレツキアン・モデルの検討. ポスト・ケインズ派においては,エコロジー. 2. 1 経済の連関の中での環境対策費用の定義. 経済学 と の 理論的 な 架橋 が 試 み ら れ て お り. 環境対策費用を主要な変数の一つとしてカレ. ( Holt, et al., 2009;Kronenberg, 2010) ,ポ ス. ツキアン・モデルに組み込む.環境対策費用は. ト・ケインズ派理論を基礎に環境を扱うマクロ. 各産業部門の他の費用の中に分散して含まれる. 経済理論を構築することへの期待も示されてい. ため,これを補足する方法を,環境・経済統合. るが,これまで,カレツキアン・モデルなど基. 勘定(SEEA)における環境保護支出勘定の推. 本的な成長モデルに環境対策を組み込む研究は. 計方法を基礎として検討する(United Nations. 行われていない.本研究は,この方向において. 1) et al., 2003, pp. 169─213) .自然環境 が 劣化 す. のポスト・ケインズ派における環境問題の研究 の進展に寄与することを目指すものと位置付け ることができる.また,カレツキアン・モデル は経済構造の時間的・空間的な変化の実証分析. . 1)環境・経済統合勘定 で は,環境保護支出 を 含む経済活動の勘定と環境負荷の物量勘定とを併 記するハイブリッド型統合勘定が提案されている.

(3) カレツキアン・モデルを用いた日本における環境対策の経済影響に関する実証分析(大熊) (771) 117. 表 1 投入産出構造における環境資源代替財・サービス 中間消費 中間投入. 生産部門 生産部門. -. 最終需要. ESGS 部門. 計. (垂直統合) -. 消費. 投資. 輸出. 合計. 計. pCp. pIp. pEXp. pY. pY. 輸入 付加価値. ESGS 部門. peXep. -. peXep. peCe ≈ 0. peIe ≈ 0. peEXe ≈ 0. ≈0. peE ≈ peXep. 計. peXep. -. peXep. pCp. pIp. pEXp. pY. pY + peE. 地代相当分. ρNmp. ρNme. ρNm. その他輸入. pMp. pMe. pM. 賃金. wLp. wLe. wL. 利潤. rpKp. rpKe. rpK. 地代. ρNdp. ρNde. ρNd. 産 出(輸 入 ・ 付 加 pY–peXpe 価値計). peE. pY. 合計. peE. pY+peE. pY. 注:賃金率,利潤率,地代率が部門を通じて等しいと仮定している.. ると,生産システムは,制度的調整を通じ,自. ビ ス の 中間消費 と し て 把握 す る こ と が で き. 然の機能を代替するための財・サービスの生産. る 3).ESGS の 生産・消費活動 を 環境対策 と 理. を強いられることになる.例えば,代替エネル. 解し,ESGS に対する支出を環境対策費用と定. ギー(化石燃料を代替)や,廃棄物処理サービ. 義する.ESGS の生産活動に焦点を当てると,. ス(自然 の 吸収機能 を 代替)で あ る.こ れ を. 経済 の 相互連関 を,「環境資源代替財・サービ. 「環境資源代替財・サービ ス(Environmental. ス部門(ESGS 部門)」とそれ以外の「生産部門」. resources goods and services: ESGS) 」と 呼 ぶ. との 2 部門からなる投入産出モデルを用いて表. 2). こととする .汚染防止のために行われる企業. すことができる(表 1)4).. 内部での設備や労働の投入も,他の活動から切. このモデルでは,ESGS 部門はそこへの中間. り分けることで,当該企業による汚染防止サー. 投入物を生産する活動を含むものとして定義さ. . ほか,環境劣化の評価手法も検討されている.本 論文では,環境対策の経済影響をモデルにより分 析する観点から,環境対策のために実際に支出さ れた費用に焦点を当てて分析を行っている. 2) 環 境・ 経 済 統 合 勘 定 で は「環 境 生 産 物 (environmental products)」と い う 概念 が 用 い ら れており,環境に関する生産物との定義の下で, 概念の外延としては自然資源の開発を含みうると しつつ,研究の蓄積がある環境保護対策に焦点を 当てて分析が行われている(United Nations et al., 2003, pp. 173─81).これに対して,本論文では、「環 境資源代替財・サービ ス」と い う 概念 に よ り,環 境資源を代替する財・サービスという定義の下で, 省エネルギー対策や代替エネルギーも重要な要素 として含めて分析を行う.これは,本論文が,日 本の公害対策と省エネ対策の経験を合わせて分析 することを通じて今後の地球温暖化対策について の考察につなげることを意図しているためである.. れ て い る た め,生産部門 か ら ESGS 部門 へ の 中間投入を示す欄は空欄となっている5).また, . 3)環 境・経 済 統 合 勘 定 に お い て,付 随 的 活 動(ancillary activities)を特定し,分離すること の重要性が指摘され,その方法が検討されている (United Nations et al., 2003, pp. 183─84) . 4)環境・経済統合勘定では,各種の環境生産物 を記載した供給使用表を整備することにより環境 保護支出を推計する方法が検討されている(United Nations et al., 2003, pp. 189─94) .こ れ を 踏 ま え つ つ,本論文は,1部門のモデルに組み込みうる形 で環境対策費用を把握する観点から,単純化した 2部門の産業連関として整理している. 5)垂直的統合の概念を参照してこの定義を用 い て い る(Pasinetti, 1973) .た だ し,実証的 に 追 跡可能なモデルとするため,投資は,毎年の中間 投入に変換しておらず,したがって垂直統合して いない..

(4) 118 (772). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 各部門は単一の生産物を持つ統合された過程と. w: 貨 幣 賃 金 率; ρ: 貨 幣 地 代 率10);p: 価. して認識されているため,対角欄も空欄となっ. 格;pe:ESGS の 価 格11);Kp,Lp,Np,Mp:各. ている6).さらに,次節において資源輸入国を. 生産要素のうち生産部門で用いられる部分(そ. 分析するため,輸入を地代相当分(天然資源輸. れぞれ「生産資本」,「生産労働」,「生産資源」,. 入の一部と仮定する. )とその他輸入に分け,. 「生産輸入」と 呼 ぶ);u:稼働率(産出 の 完全. これらを付加価値とともに産出の要素として定. 稼働における産出に対する比として定義され. 7). 義している .. る);vp =. このモデルにおいて,ESGS 部門から生産部. λp = Y/Lp:生産労働生産性;εp = Y/Np:生. 門 へ の 中間投入 の 価額(peXep)を,生産 シ ス. 産資源生産性;μp:産出・生産輸入比率;e =. テムにおける環境対策費用として理解すること. peE/pY: 環境対策費用シェア.. ができる8).以上の整理により,環境対策費用. 自然環境の側面を重視すると,生産活動は,. を経済理論と整合的に把握し,一部門のモデル. 資本,労働とともに環境資源の投入により行わ. に組み込むことが可能となる.. れ,生産物は,利潤,賃金,地代の間で分配さ. /Kp:潜 在 産 出・生 産 資 本 比 率;. れると考えることができる.従って,生産シス 2. 2 環境を含む分配の定式化. テムは三次元の分配の等式(粗ベース)として,. 本節で用いられる主な記号の意味は次の通り. 次のように表せる.. である.Y:産出(前節の定義による) ;K:本 pY = rpK+wL+ρN. ス トック;L:労 働 投 入;N= Nd + Nm:環 境. ⑴ . 9). 資源消費 ;M:環境資源以外 の 輸入( 「そ の 他輸入」と呼ぶ) ;E:ESGS 消費;r:利潤率;. ⑴式 に つ い て,2. 1 節 の 表 1 の 整理 に 従っ て,輸入 を 組 み 込 む と と も に,各生産要素 を. . 6)Georgescu-Roegen(1971, pp. 253─62) は, 産業連関の分析において,各部門は単一の生産物 を持つ統合された過程として認識されるべきであ り,し た がって,部門内部 の 中間投入 の 欄 は,本 来は空欄とされるべきであるとの考え方を示して いる. 7)この定義は,資源を含む輸入を生産システ ムにとっての費用として捉えることを意味する. Taylor(2004)においても,需要全体を分析する 上で利点があるとして,輸入を産出に含める社会 会計行列が用いられている. 8)消費その他の最終需要における費用は捨象 しているが,これは,これまで消費性向全体を変 化させるほどの大幅な費用増加は起こっていない との認識による.ただし,家庭からの環境負荷の 重要性及び政府の政策手段の発展の可能性に鑑み, 最終需要における費用に関し,更なる研究が必要 である. 9)生産システムで消費される自然のソース機 能とシンク機能の量を表す.これをどのように測 定するかは環境研究の重要な主題であり,エコロ ジカル・フットプリント,物質フロー勘定などい くつかの指標が提案されているが,正確な測定方 法は確立されていない.. ESGS 部門で用いられるものとその他の生産部 門で用いられるものとに分割すると,次式を得 る. pY = rpKp+wLp+ρNp+pMp+peE. ⑵ . ただし, peE = rpKe+wLe+ρNe+pMe. . ⑶ . 10)地代率 は,地代 を 環境資源消費総量(N) で除した値として定義される. 11)ESGS とその他の生産物との相対価格につ いて簡単に考察しておく.両部門の間で各生産要 素が同じ比率で使用される(すなわち Kp:Lp:Np = Ke:Le:Ne)と 仮定 す る と,pe/p = Y/(Y+E) となる.ここで,現状の経済においては,E ≪ Y であるため,pe/p ≈ 1 が成り立つ.右理解の下で, 一部門モデルによる分析を進める..

(5) カレツキアン・モデルを用いた日本における環境対策の経済影響に関する実証分析(大熊) (773) 119. ⑵式を,資本の稼働率を考慮しつつ産出で標. 析によってπの変化がこれらにどのような影. 準化すると,次式を得る.. 響を与えるかが分析される. このモデルに環境対策を組み込むことによ. 1 = r/uvp+w/pλp+ρ/pεp+1/μp+e. ⑷ . り,u と r の水準に e の変化がどのような影響 を与えるかを分析するモデルを構築する.まず,. ここで,このモデルでは E の増加は Y を直接. 環境対策費用を⑸式の分配の要素として表す.. には増加させないので,vp,λp,μp は e との. 前節の⑷式を参照すると,⑸式は次のように変. 関係において一定である.一方,E により Np. 形できる.. が代替されるので,εp は e の増加に伴い上昇 r =(1–Ws–Rs–Ms–e)uvp. する.. (5─1). 2. 3 環境の側面を含むカレツキアン・モデル. ここで,Ws = w/pλp:生産労働に係る賃金シェ. 前節の分配の等式を基礎として,カレツキア. ア;Rs = ρ/pϵp:生産資源に係る地代シェア;. ン・モデルに環境の要素を組み込むことによっ. Ms = 1/μp:生産輸入・産出比率.. て,環境対策の総合的影響を分析しうるモデル. ここで,Ms は e に関して一定である.また,. が得られる12).. 単純化のために,実質賃金は制度的調整によっ. Lavoie(1992;2010) と Blecker(2002) を. て決定されると考え,Ws も e に関して一定と. 参照すると,閉鎖経済の基本的なカレツキア. 仮定 す る13).一方,Rs は e の 増加 に 伴 い,εp. ン・モデルは,次の 3 つの等式によって表すこ. の上昇を経由して減少する.単純化のため線形. とができる.. で表すと,次式を得る14). r = πuv. ⑸ . gs = srr. ⑹ . g = γ0+γuu+γrπv. ⑺ . i. Rs = Rs0–ϕe. ⑻ . こ こ で,ϕ は,環境対策 に よ る 地代減少分 の こ こ で, π = 1–w/pλ: 利 潤 シェア;v: 潜. 環境対策費用に対する比率,又は環境対策の費. 在産出・資本 ス トック 比率;gs,gi:そ れ ぞ. 用回収率を表す.. れ 資本 ス トック で 標準化 さ れ た 貯蓄,投資;. ⑻式を(5─1)式に代入して変形すると,次. sr:利潤 か ら の 貯蓄性向.投資 に つ い て は,. 式を得る.. Marglin and Bhaduri(1991)の 主張 を 踏 ま え た Blecker(2002)の定式化に倣い,稼働率(u). r = [π0–(1–ϕ)e]uvp. (5─2). と完全稼働での利潤率(πv)により決まると 仮定している.以上の 3 式と投資貯蓄の均衡条 件により u と r の水準が決定され,比較静学分 . 12)この,分配の等式とカレツキ成長モデルを 統合するアプローチは,分配における変化は剰余 の量そのものに影響を与え,したがって古典派の 伝統にある剰余アプローチとケインズ及びカレツ キの伝統にある有効需要原理とは統合可能である, と の 認識 に 基 づ い て い る(Bortis, 1996; 植村他, 2007).. . 13)この仮定は,1970 年代の日本において,企 業の公害防止支出は,価格の引き上げよりも,利 潤の圧縮とその他の費用削減によって賄われたと いう実証的事実によって,支持されている (環境庁, 1992) . 14)限界削減費用逓増等を考慮すれば正確には 線形とはならないが,e の水準の限界的変化による 影響を分析する本モデルでは,単純化のため線形 で表現することが可能である..

(6) 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 120 (774). こ こ で,π0 = 1–Ws–Rs0–Ms は e と の 関係 に お. 加させるので,mu の符号は正である.環境対. いて定数である.以下,πp = π0–(1–ϕ)e と表. 策は資源生産性を改善し海外流出する地代を削. 記する.. 減するので,me の符号は正である.高い利潤. 次に貯蓄については,公共財を除く全ての自. シェアは,賃金等の費用が低いことを意味する. 然資源が輸入されると仮定すると,地代からの. と考え,xπ の符号は正と仮定する.完全な資. 貯蓄は捨象される.賃金からの貯蓄を考慮する. 源輸入国においては,資源節約による地代の変. と,. 化と輸入の変化が対応するので,me = ϕuvp が 成り立つ. S = srrpK+swwL. (6─1). この経済についての投資貯蓄の均衡条件は次 式で表される16).. こ こ で,S:粗 貯 蓄;rpK:粗 利 潤;wL:賃 gs = gi+x–m. 金;sw:賃金からの貯蓄性向.. ⑾ . 資本 ス トック で 標準化 し,各生産要素 が ESGS 部門と生産部門との間で同じ比率で用い. (5─2) ,(6─2),(7─1),⑼,⑽,⑾の各式により,. られると仮定して変形すれば,次式を得る15).. 資源輸入国 に お け る e の 変化 の u と r へ の 影 響を分析することができる.. gs = srr+swWsuvp. (6─2). u - r 平面におけるグラフ表示を用いると, (6─2)式は Lavoie(1992)が価格費用曲線(PC. また,投資を表す⑺式は次のようになる.. 曲線)と呼んだものを表す(図 1).e が増加す ると,傾きが小さくなり曲線が下に移動する.. i. g = γ0+γuu+γrπpvp. (7─1). 次 に,(6─2),(7─1),⑼及 び ⑽式 を ⑾式 に 代 入し,次式を得る.. 貿易の定式化については多様な方法があり得 る.ここでは,輸入と輸出それぞれについて単 純な線形方程式を用いることとし,輸入につい ては稼働率とともに環境対策費用シェアを,輸 出については利潤率を明示的な変数とし,他の. γu–mu–swWsvp u r = sr   –(γrvp+xπ)(1–ϕ)e+mee+c + sr. ⑿ . 要素 (例えば為替レートや世界の貿易の規模等) を定数項に含めて考えると,次のように示すこ. ここで,c = γ0+x0–m0+γrπ0vp は e との関係に. とができる.. おいて定数である. これは,Lavoie(1992)が有効需要曲線(ED m = m0+muu–mee. ⑼ . curve)と呼んだものを表す(図 1).ここで,. x = x0+xππp. ⑽ . ED 曲線の傾きは,ケインジアン安定条件. ここで,m,x:それぞれ資本ストックで標準 化された輸入,輸出.稼働率の上昇は輸入を増 . 15)資本ストックで標準化された賃金は,次の よ う に 変形 さ れ る.wL/pK = wLp/pKp = WspY/ pKp = Wsuvp. srπpvp–(γu–mu–swWsvp)>  . ⒀ . 16)投資貯蓄バランスをより正確に表すために は,右辺に政府の財政赤字を加えることが必要で あるが,財政赤字は,e,u,r 等の本モデルの変数 の関数としてではなく,政策的要因により決定さ れると仮定することにより,これを捨象している..

(7) カレツキアン・モデルを用いた日本における環境対策の経済影響に関する実証分析(大熊) (775) 121. 図 1 モデルの図による表示. 図 2 モデルの図による表示(ED 曲線の傾きが負の場合). を 前提 す れ ば PC 曲線 の 傾 き よ り も 小 さ く. レ ジーム」に 相当 す る(Blecker,2002).ED. (Lavoie,1992) ,輸入及び賃金からの貯蓄の稼. 曲線への第二の効果を考慮すると,e の上昇は. 働率に対する感応度が高ければ(すなわち mu. mee を増加させ,ED 曲線を上方に移動させる.. 及び swWsvp が大きければ)負となる可能性も. これは,図 1 及び図 2 において C 点への移動. ある(図 2) .. として示される.この効果は,通常の「費用の. E の増加は,ED 曲線に二種類の効果を及ぼ. 逆説」が成立しない場合であっても,e の上昇. す.第一に,[–(γrvp+xπ)(1–ϕ)e] に表される. が r を増加させる可能性を高める.本論文では,. 投資と輸出の減少を通じて, 切片を減少させる.. このように,環境対策固有の効果によって e の. これは,賃金の増加の影響を検討する場合と共. 上昇が r を増加させる場合を「環境対策の費用. 通の効果である.第二に,mee に表される環境. の逆説」と呼ぶこととする.. 資源の輸入の減少を通じて, 切片を増加させる.. Lavoie(1992,p. 336)の 方法 を 参照 し,e. それらの結果,ED 曲線は下方にも上方にも移. の上昇が u と r を増加させるための条件を示. 動する可能性がある.. す.まず,u への効果について検討する.PC. 稼働率と利潤率は,PC 曲線と ED 曲線の交. 方程式(6─2)及 び ED 方程式⒀ を e に つ い て. 点で決定される.ED 曲線への第二の効果を除. 偏微分すると,次の二式を得る.. けば,環境対策費用は,基本的に,通常のカレ ∂rPC/∂e = –(1–ϕ)uvp. ツキアン・モデルにおける賃金の場合と類似の 効果を持つ.e の上昇は,これら曲線の傾きと 移動に応じて,u と r を増加あるいは減少させ. ⒁ . ED.  ∂r /∂e = [–(γr vp+xπ)(1–ϕ)+me]/sr ⒂ . る.こ れ は,図 1 及 び 図 2 に お い て,A 点 か. 図 1 及び図 2 から明らかなように,e の上昇. ら B 点への移動として示される.u と r を増加. に伴い u が上昇するためには,ED 曲線の傾き. させる場合は,Rowthorn(1982)が言うとこ. が正の場合,負の場合とも,ED 曲線が PC 曲. ろの「費用の逆説」に相当し,近年のカレツキ. 線に比べ正の方向により大きく(すなわち負の. アン・モデルに関する分類によれば「協力的. 方向により小さく) 移動することが必要である.. 停滞論レジーム」に相当する.一方,u を上昇. ⒁,⒂式より,この条件は次の不等式で表され. させるが r を減少させる場合は「対立的停滞論. る..

(8) 122 (776). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). Fu(1–ϕ)+me>0. ⒃ . これが負であるが ϕ 及び me を加味して式全 体が正になる場合に満たされる.前者が「費用 の逆説」に,後者が前述の「環境対策の費用の. ただし,. 逆説」に該当する. Fr の値は,(γu–mu–swWsvp)及び(γrvp+xπ). Fu = sr uvp–γrvp–xπ. の値に依存する.前者は,稼働率の上昇が,投. Fu は,費用増加が分配面の変化を通じて貯. 資を誘発し需要を増やす加速度効果と,輸入及. 蓄投資バランスに影響を与えるという,各種. び貯蓄の増加により需要を減らす漏出効果との. 費用に共通的な効果を表し, (1–ϕ)と me は,. 差として理解できる.後者は,生産コストの増. 環境対策が資源節約を通じて費用と輸入を削減. 加が投資と輸出を減少させる効果として理解で. するという,環境対策に特有の効果を表してい. きる.一方,ϕ 及び me は環境対策による資源. る.以下では,前者を「費用分配効果」と,後. 節約効果を表す.. 者を「資源節約効果」と呼ぶ.. 例えば,比較的閉鎖的な経済において顕著な. 次に,r への効果について検討する.PC 方. 加速度効果がある場合には,環境対策による資. 程式(6─2)及び ED 方程式⒀を r の方程式に変. 源の節約が全くない場合でも,条件は満たされ. 形して e について偏微分すると,次の二式を得. る.他方,投資が資金制約の下で利潤率に強く. る.. 反応し,グローバル化の中で輸出入が景気や価. ∂uPC/∂e = (1–ϕ)r/vpπp2. ⒄ . ED. ∂u /∂e =[(γu vp+xπ)(1–ϕ)–me]/(γu–mu–swWsvp) ⒅ . 格に反応しやすい場合には,環境対策は,利潤 率を増加させるには,大きな資源節約効果を持 つ必要があることになる. 完全な資源輸入国の場合には,ϕ∈ (0,1)の 仮定の下,⒆式を変形して次式が得られる.. 図 1 及び図 2 から明らかなように,e の上昇 に伴い r が増加するためには,PC 曲線は ED. ϕ/(1–ϕ)>–Fr/uvp. ⒇ . 曲線に比べ,ED 曲線の傾きが正の場合には正 の方向により大きく(図 1) ,また,ED 曲線の. この式を用いて,γu,γr,sw,mu,xπ 等の. 傾きが負の場合には正の方向により小さく(図. 係数に表される所与の経済的条件の下で,ϕ. 2),移動する必要がある.これらの条件は,次. に表される費用回収率がどの程度であれば環境. の一つの不等式で表される.. 対策は利潤率を上昇させる効果を持つかを推計 することができる.. Fr(1–ϕ)+me>0. ⒆ . さらに,以上で示したモデルに,広く歴史的 事実として認識されているが,その動学的性質. ただし,. のため比較静学では分析できない,二つの追加 的な要素を組み込むことを試みる.その第一は,. Fr = (γu–mu–swWsvp)u/πp–(γrvp+xπ). 環境対策の急速な増加が,そのための投資を増 加 さ せ る 効果 で あ る.こ の 効果 は,産業構造. Fr は各種費用に共通的な効果を表し(Fu と. 変化と関係し,稼働率に表れる有効需要全体の. 同様に「費用分配効果」と呼ぶ. ) , (1–ϕ)と me. 効果とは区別されるものである.これは,1970. は環境対策に特有の「資源節約効果」を表す.. 年代の日本において,環境汚染対策の急速な強. この条件は,Fr の値が正である場合か,または,. 化が,公害防止設備への投資を増加させた現象.

(9) カレツキアン・モデルを用いた日本における環境対策の経済影響に関する実証分析(大熊) (777) 123. として,実際に観察されている17).この効果を. て,xeT/K は中長期的な効果と考えられる.. 組み込むと,投資関数(7─1)は次のように変. これらの追加的な要素を分析するために,(7. 形できる.. ─2)式と(10─1)式を相当する式の代わりに用. いると,ED 曲線を表す⑿式は次のように変形 ・. gi = γ0+γuu+γrπpvp+γeE/K ・. (7─2). される.. ・. ここで,E=Et–Et-1 は E の増加分である.E/K は,E が増加している間は正の値を示すが,E ・. が安定するとゼロになる.したがって,γeE/K は,直ちに働くが長期間は続かない,短期の効. r=. γu–mu–swWsvp u sr. ・. –(γrvp+xπ)(1–ϕ)e+mee+γeE/K+xeT/K+c + sr. (12─1). 果である. 第二の要素は,環境技術による輸出競争力上. e 及びその背後にある E の増加が r に及ぼす. 昇の効果である.技術進歩には多様な要因があ. 効果を,図 1 及び図 2 を用いて検討する.e の. るが,ここでは,環境対策の効果を分析する観. 増加は,前述のように,ED 曲線の切片の分子. 点 か ら, 「ラーニ ン グ・バ イ・ドゥーイ ン グ」. を [–(γrvp+xπ)(1–ϕ)+me]e だ け 増加 さ せ る.. の効果に焦点を当てる.これについても,例え. 加 え て,短期 でγeE/K だ け,中長期 で xeT/K. ば,1970 年代から 80 年代の日本の自動車産業. だけ増加させ,ED 曲線を,異なるタイミング. において,公害規制への対応が技術力の強化に. で,上方に移動させる.これらの効果が順次働. つながったことが定説となっている(環境庁,. いて,中期的に継続的に ED 曲線を移動させる. 1992).この効果を上記のモデルに組み込む一. 可能性もある.これらの効果は,e の増加が r. つの方法として,輸出関数⑽は,次のように変. の増加をもたらす可能性を高める.すなわち,. 形できる.. 前述の「環境対策の費用の逆説」の追加的な要. ・. 因となる. x = x0+xππ+xeT/K. (10─1). これらの効果は動学的な性質を持っており, 比較静学に基づく分析である不等式 ⒆ に直接. こ こ で,T は 環境対策 の 経験 の 蓄積 を 表 す.. 的に組み込むことはできない.しかし,各期に. 恒久棚卸法 を 用 い る 研究開発 ス トック の 推計. おける ED 曲線の移動の大きさは,γeE/K と. 方法 を 考慮 す る と,定式化 の 一方法 と し て,. xeT/K を mee と比較することにより評価でき. Tt=Et-1+(1–δ)Tt-1(こ こ で,δ は 技術的知識. る.したがって,効果が働く時期に関して慎重. の 減耗率.)が 考 え ら れ る.E が 増加 す る と,. に解釈する限りにおいては,不等式⒆において. T/K は,一定の期間が経過し環境対策の経験. [(γeE/K+xeT/K)/e] を me に加えることによっ. が蓄積した後に,高い水準に達する.したがっ. て,これらの効果を評価することが可能である.. ・. ・. 以上で検討したモデルの主要な式をまとめる . 17)日本の民間設備投資は石油危機にもかかわ らず 1970 年代を通じて概ね一定であった.この間, 公害防止投資 が 急増 し,1975 年頃 に 設備投資総額 に占める比率で 20%近くまでに達しており,これ が投資総額の水準を支えたと考えられる.マクロ 経済モデルによる研究によれば,公害防止対策は 1975 年において民間総投資額の 7.4%の増加をもた らしたと推計されている(環境庁,1992).. と,表 2 のとおりである.このモデルは,単純 ではあるが,環境対策から経済への影響の経路 と構造を理解する上で役立つとともに,特定の 経済を対象とした定量的な実証分析に用いるこ とも可能である.これを用いて,次節において, 日本を対象とした実証分析を行う..

(10) 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 124 (778). 表 2 モデルの概要 主な方程式 r = [π0–(1–ϕ)e]uvp. (e:環境対策費用シェア;ϕ:環境対策の費用回収率; ̅/Kp:潜在産出・生産資本比率;u:稼働率) vp = Y. gs = srr+sw Wsuvp. (Ws:生産労働に係る賃金シェア) ・. ・. gi = γ0+γuu+γrπpvp+γeE/K. (πpvp:完全稼働利潤率;E:環境対策費用;E =Et ― Et-1). m = m0+muu ― mee. (m:資本で標準化した輸入). x = x0+xππp+xeT/K. (x:資本で標準化した輸出; Tt = Et-1+(1–δ)Tt-1:環境対策経験のストック). gs = gi+x ― m 環境対策費用の影響の分析 ⑴ 比較静学の範囲での分析 ①稼働率上昇の条件: Fu(1–ϕ)+me>0 ここで Fu = sr uvp–γuvp–xπ ②利潤率上昇の条件: Fr(1–ϕ)+me>0 ここで Fr = (γu–mu–swWsvp)u/πp–(γrvp+xπ) 注:完全な資源輸入国では,次式により,利潤率上昇の条件を満たす ϕ の水準を推計できる. ϕ/(1–ϕ)>–Fr/uvp (ϕ∈(0,1) を仮定) ⑵ 動学的要素を含む考察 ・. [(γeE/K+xeT/K)/e] を⑴の me に加算することで一定の評価が可能. (ただし,効果が働く時期に関し慎重に解釈することが前提.). 3.日本を対象とした実証分析. を 視野 に 入 れ る 観点 か ら 環境関係研究開発費 用を対象に加えていることが,本稿の推計の特. 3. 1 環境対策費用等の推計. 徴となっている.各分野の推計におけるデータ. 日本の 1960 年代以降を対象として,環境対. 出所と計算方法の概要を本稿末尾に記載してい. 策費用と地代の推移について,一定の仮定の下. る.. で推計を行った.. なお,これら以外にも様々な環境対策費用が. 環境対策費用については,環境・経済統合勘. あるが,額の大きなものを対象とする観点と,. 定の推計を日本について行った日本総合研究所. 補足可能性の観点から,捨象している.なお,2.. (2004)の方法を参考として,生産システムに. 1 節の産業連関の整理に則って,一つの統合さ. おける主要な環境対策費用(2. 1 節の peXep に. れた部門としての ESGS 部門の認識に従い環. 相当する. ) の 1960 年代以降の推移を推計した.. 境対策費用を推計するためには,正確には,そ. 対象項目として,内部公害防止費用,内部省エ. れぞれの環境対策の間での中間投入を把握し,. ネルギー費用,廃棄物処理費用,環境研究開発. これを控除することが必要となるが,その額は. 費用の 4 つの類型を取り上げている. 環境対. 小さいと考えられるため,捨象し,単純に合算. 策費用産出比率(環境対策費用シェア)の形で 推計した結果の概要を図 3 に示す. 日本総合研究所(2004)と比較すると,長期 にわたる連続的な推計を行っていること,その ために対象分野を一部捨象する一方18),2. 1 節 の環境資源代替の概念に基づき省エネルギー対 策費用を,また,技術開発と輸出競争力の側面. . 18)日本総合研究所(2004)では,下水道等の政 府サービスとリサイクル物品についても推計が行わ れているが,長期データの入手が困難であることに 加え,本研究は企業の生産活動に焦点を当てている こと,また,リサイクルについてはその相当部分が 廃棄物処理に含まれていると考えられることから, 本研究においては捨象している..

(11) カレツキアン・モデルを用いた日本における環境対策の経済影響に関する実証分析(大熊) (779) 125. 図 3 環境対策費用産出比の推移(環境対策費用シェア). 図 4 地代産出比の推移(地代シェア) (天然資源輸入産出比として推計). している.. る.天然資源輸入価額の産出に対する比率とし. 地代については,日本のような資源輸入国で. て算出した結果を図 4 に示す.. は,ほとんどの部分は輸入に含まれると考えら れ,上記の整理に従い,輸入の中で地代相当部. 3. 2 各方程式の係数の推定. 分(2. 1 節のρNm に相当する. )を捕捉する必. 2. 3 節のモデルの各方程式について,3. 1 節. 要がある.正確には,様々な財・サービスの中. の推計により得られた環境対策費用及び地代と. にも地代相当部分が含まれると考えられるが,. しての天然資源輸入価額のデータ,並びに賃金,. 捕捉可能性の観点から,天然資源の輸入価額を. 利潤,稼働率等の推計値(データ出所と加工方. 持って地代相当部分として把握することとす. 法の概要を本稿末尾に記載している. )を用い.

(12) 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 126 (780). 表 3 推定に用いた方程式 S = s0+srrpK+swwL ・. gi = γ0+γuu(–1)+γrπpvp(–1)+γeE/K Rs = Rs0+Rs0p(oilp)–ϕe m = m0+m0p(oilp)+muu–mee x = x0+x0w(wldtd)+x0c(exchrt)+xππp(–1)+xeT/K 注:1.γu,γr,xπについては,期待形成の時間及び多重共線性の可能性を考慮して, ラグを置いて推定した. 2.oilp:石油等価格(指数);wldtd:世界貿易額(資本ストックで標準化); exchrt:為替レート(100 円/ドル).これらは,モデル上は定数項に含まれて いる要素を抽出して推定したものである.. て,重回帰分析を行うことによって,係数を推. 間について分析し考察することとした.なお,. 定した.. 前者については,隣接する 1971 年から 1974 年. 時期の区分については,まず,高度成長が確. まで及び 1983 年から 1987 年までについても補. 立した 1963 年から推計を開始してバブル景気. 助的に区分して推定し,一体的に評価した.. の崩壊で区切ることにより,63 年~91 年と 92 年以降とに区分した上で,それぞれの方程式 について CUSUM テスト及びステップワイズ・. 3. 3 75 年から 82 年までを中心とする時期の 分析. チャウテストにより構造変化の可能性が高いと. 75 年から 82 年までの期間は,高度成長期の. 考えられる時期を基本として区分した.. 成長 レ ジーム の 危機 か ら 輸出主導型 の 成長 レ. 推定に用いた方程式を表 3 に,推定の結果を. ジームが確立するまでの時期ととらえることが. 表 4 に示す.. できる.これに先立つ 71 年からの期間と,こ. この重回帰分析の推定結果及びその他の変数. れに続く 87 年までの期間は,この期間と投資. の推定結果を,2. 3 節に示した条件式に当ては. 関数等において同じ構造を示している20).前者. めることにより,経済成長と環境対策費用の関. は,60 年代の高度成長期の成長レジームが限. 係を分析することができる19).. 界に達してから石油危機までの時期として,ま. 各方程式の推定において,構造変化を考慮し. た後者は,成長レジームが確立してから経済の. て時期区分を行った結果を踏まえ,また,特に. バブル化が本格化するまでの時期として捉える. 環境に関する係数の効果を評価する観点から,. ことができる.. 1975 年から 1982 年までを中心とする時期と,. 71 年から 87 年までの期間を通じて,ケイン. 2001 年から 2008 年までの時期との,2 つの期. ジアン安定条件は満たされている.. . 19)表4の推計結果において,t 値が2以下の係 数については,推計された値がもっともらしく,か つ,絶対値が過大ではなく評価に攪乱をもたらすお それが少ないことを確認の上で,判断基準の計算に 組み入れた.また,Ws,π,u,vp については,各 期間の平均値を用いた(データ出所と加工方法は本 稿末尾) .. これを踏まえ,まず比較静学の範囲における . 20)投資関数等が,環境費用に関する変数を組 み込むことによって,成長レジームが限界に達した とされる 70 年以降,石油危機を跨ぐ期間について, 決定係数の高い形で推計されているが,このことは, 環境の側面を考慮することで成長レジームをより正 確に分析できる可能性を示唆している..

(13) カレツキアン・モデルを用いた日本における環境対策の経済影響に関する実証分析(大熊) (781) 127. 表 4 各方程式の回帰分析の結果 63―74 ‒10970. 期間 s0 S. 75―82 31794. (2.31). ‒(20.86). (0.55). (14.16). (2.26). (7.72). (3.10). (11.82). (0.65). (7.64). (0.10). 0.424. 0.365. sw 補正 R2 D.W. 比 期間. 1.00 1.51. 88―91 ‒0.159. 92―97 ‒0.217. ‒(0.99). ‒(0.98). ‒(7.67). ‒(3.01). (1.55). (2.11). (6.63). (3.51). (13.76). (0.58). (3.39). (3.28). 0.68 3.15. 0.98 2.96. 0.81 2.05. 0.149. 11.253. 補正 R D.W. 比 期間. 75―82 0.210. RS0. mu me 補正 R2 D.W. 比 期間 x0 x0w x0c xπ xe 補正 R2 D.W. 比. 82―91 0.074. 0.287. 0.100. 0.286. 0.337. -. -. 92―08 0.009. (6.13). (2.07). (3.02). (7.16). (15.29). (92.49). (4.79). (2.20). (2.07). 0.025. 16.344. φ. m0p. 0.99 1.86. 0.018. RS0p. m0. -. (6.08). 2. x. 0.265. 0.364. 補正 R2 D.W. 比 期間. 0.026. 0.82 1.38 98―08 ‒0.066. γe. m. 1.00 1.91. 0.037. γr. 0.588. 0.420. 0.97 2.31 71―87 ‒0.018. γu. Rs. 0.654. 0.126. γ0. gi. 01―08 24370. ‒(7.40). 0.695. sr. 83―91 ‒45867. 63―74 0.029. 6.225. 0.88 1.89. 75―91 0.185. 0.99 2.61. 0.019. 0.409. 1.00 1.46 96―08 ‒0.124. (1.30). (7.65). ‒(4.57). (6.22). (12.16). (17.26). (1.80). (2.83). (5.84). 0.043. 0.016. 0.042. 0.085. -. 0.77 1.83. 18.459. (17.05). 71―91 ‒0.030. 0.97 2.57. 0.015 0.186 -. 0.99 1.31 92―08 ‒0.010. ‒(1.67). ‒(0.74). (3.74). (28.85). (5.60). ‒(0.50). (1.12). (3.76). 0.031 0.020 0.035 0.740. (5.67). 0.94 2.64. 0.035. ‒0.002 0.152 -. 0.98 2.07. 注:1. ( )内は,t 値を示す. 2.e 又は E に関する係数は,環境対策費用に大きな変化がない時期には有意な値を示していな いため,この間は経済諸変数への明確な効果は表れなかったと解し,除外して推定した. 3.S について,92─00 年の間では有効な値が得られなかった..

(14) 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 128 (782). 分析を行う.Fu の値を求めると,75 年から 82. 83 年から 87 年についても,同様に大きな正の. 年の期間については,. 値を示している. 従って,石油危機後の 75 年以降は,省エネル. Fu = sr uvp–γuvp–xπ = –0.028 . ギー対策による大きな「資源節約効果」によっ て,環境対策は,稼働率と利潤率とを上昇させ, 「環境対策の費用の逆説」が成立したと評価す. であり,符号は負であるが絶対値は小さい.な. ることができる.. お,71 年 か ら 74 年 は 0.200 を,83 年 か ら 87. 次に,投資及び輸出の増加という動学的効果. 年は 0.116 を示し,符号は正を示している.. について検討する.71 年から 87 年までを通じ,. Fr の値を求めると,75 年から 82 年の期間に. 環境対策の増加が投資を増加させる効果を示す. ついては,. γe と,環境対策の経験の蓄積が輸出を増加さ せる効果を示す xτは,いずれも顕著に有意な. Fr = (γu–mu–swWsvp)u/πp–(γrvp+xπ) = –0.652 . 値を示している.これは,この間の環境対策が, 投資を増加させ,また技術革新を通じて輸出を 増加させたとする定説と,整合的な結果である ・. であり,負の値を示している.なお,71 年から. と言える.各年について [(γeE/K+xeT/K)/e]. 74 年は(‒0.802)を,83 年から 87 年は(‒0.901). の値を求めると,71 年から 87 年頃にかけて概. を示し,いずれも負である.. ね 4 前後の値を示している(図 5).当初は投. 従って, この時期は,各種費用に共通的な 「費. 資増加の効果が現れ,次いで,それが減少する. 用分配効果」のみによっては,環境対策は,利. のを補完するように輸出増加の効果が現れ,結. 潤率を低下させることはもとより,稼働率も低. 果として,両者を合算した効果が継続的に発揮. 下させる可能性の高い状態であったと評価でき. されている.r 増加の条件式⒆において,me =. る(高揚論レジーム,又は高揚論レジームに近. ϕ = 0 を仮定して,75 年から 82 年について,. 接する対立的停滞論レジームに相当すると言え. この値の平均値を合算すると,. 21). る ). 次に,ϕ,me を含む条件式全体について見. ・. Fr+(γeE/K+xeT/K)/e = 3.407. ると,74 年以前にはこれら係数は有意な値を 示さないが,75 年以降には大きな値を示し,. であり,大きな正の値を示す.また,71 年か. 75 年から 82 年については,. ら 74 年は,4.021,83 年から 87 年は 2.721 と, 同様に大きな正の値を示す.したがって,「資. Fu(1–ϕ)+me = 18.891. 源節約効果」のない公害対策等についても,71. Fr(1–ϕ)+me = 28.459. 年以降の期間について, 「環境対策の費用の逆 説」が成立していたと考えられる.. と, いずれも正の大きな値を示している.なお,. 最後に,以上の動学的効果を捨象した場合, どの程度の水準の資源節約効果があれば r を増. . 21)環境対策費用は直接には貯蓄されないため, 賃金とは効果の現れ方が異なり,賃金と利潤の関係 の分析によるレジームの判定とは必ずしも同じ結果 とならないことに留意が必要である.. 加させたのかを検討する.⒇式について計算す る と,75 年 か ら 82 年 で は,ϕ/(1–ϕ)>0.936 より ϕ>0.48 となる.すなわち,資源節約によ る 費用回収率 が 50% 程度以上 の 対策 パッケー.

(15) カレツキアン・モデルを用いた日本における環境対策の経済影響に関する実証分析(大熊) (783) 129. x(T/K) /e e ・. γ(E /K) /e e. 図 5 動学的効果の規模と推移. ジであれば,投資と輸出の増加の効果を捨象し. であり,負の値を示す.. ても,利潤率を増加させたことになる.この値. 従って,各種費用に共通的な「費用分配効果」. は,3. 4 節において,2000 年代の状況との比較. のみによっては,環境対策は,利潤率を低下さ. において参照される.. せることはもとより,稼働率も低下させる可能 性の高い状態であったと評価できる(対立的停. 3. 4 2001 年から 2008 年までの時期の分析. 滞論レジームに近接する高揚論レジームに相当. 2001 年から 2008 年までの期間は,不良債権に. すると言える).. よる金融危機を脱し景気回復過程に入る頃から,. 次に,ϕ,me を含む式全体について見ると,. リーマン・ショックに端を発する世界金融危機 に至るまでの時期として捉えることができる.. Fu(1–ϕ)+me = –0.034. この期間のケインジアン安定条件は満たされ. Fr(1–ϕ)+me = –0.362. ている. Fu の値を求めると,. 従って,この時期には,顕著な「資源節約効果」 は現れておらず,これを考慮しても,環境対策. Fu = sr uvp–γuvp–xπ= –0.057. は利潤率を低下させる効果を示しており,「環 境対策の費用の逆説」は成立していなかったと. であり,負であるが絶対値は小さい.. 評価できる.. Fr の値を求めると,. 次 に,ど の よ う な 水準 の 資源節約効果 が あ る環境対策であれば r を増加させたかを検討す. Fr = (γu–mu–swWsvp)u/π–(γrvp+xπ) = –0.613 . る.⒇式について計算すると,ϕ/(1–ϕ)>1.328 より ϕ>0.57 となる.従って,費用回収率が約 60% 程度以上の対策パッケージなら,r を増加.

(16) 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 130 (784). 表 5 環境対策費用の増加が利潤率等に与える影響(計量結果の期間毎の評価) 費用一般に共通の効果. 環境対策費用に特有の効果を加味. 費用分配効果. +資源節約効果. +投資誘発・輸出増効果 (※動学的効果の検討) ・. Fu. Fr. Fr(1‒ϕ)+me. Fr+(γeE/K+xeT/K)/e. 1971‒74. 0.20. ‒0.80. ‒0.80. 4.02*. 1975‒1982. ‒0.03. ‒0.65. 28.46. 3.41*. 1983‒87. 0.12. ‒0.90. 23.17. 2.72*. 解釈. 利潤率を低下,稼働率も低下の可能性→「費用の逆 省エネ対策開始以降,資源 説」成立せず. 節約効果により利潤率を上 ( 「高揚論レジーム」ないし「対立的停滞論レジーム」 昇. に相当) →「環境対策の費用の逆説」 成立.. 2001‒2008 解釈. ‒0.06. ‒0.61. 投資誘発・輸出増効果によ り,資源節約効果なしでも, 利潤率を上昇. →「環境対策の費用の逆説」 成立.. ‒0.36. ‒0.61. 稼働率,利潤率とも低下→「費用の逆説」成立せず. 利潤率を低下. (ただし対策 利潤率を低下. (ただし対策 ( 「高揚論レジーム」に相当) 強化の場合の効果は不明. ) 強化の場合の効果は不明. ). *実績データに基づく各年の値の平均で評価している.. させたことになる22).これは,3. 3 節で検討し. い.これは,この期間において,環境対策費用. た 50% 程度以上という条件と比較し,高い水. に顕著な増加がなかったためである可能性があ. 準の費用回収効果が必要となっていることを意. る.環境対策の急速な強化があった場合には,. 味している.本モデルの簡素な性質に鑑み,こ. γe,xe が有意な値を示す可能性があり,その. れらの数値は,利潤率を増加させる環境対策の. 場合には,短期的な投資増加の効果と中長期的. 具体的条件を示す正確な値として理解されるべ. な輸出増加の効果により,需要を増加させ,資. きではないが,70 年代と 2000 年代での条件の. 源節約効果が上記の値より低くても,利潤率を. 変化は明確に観察できる.. 上昇させる可能性がある.ただし,輸出増加の. これは,主として,輸入が稼働率の,輸出が. 効果がどの程度現れるかは,環境対策による技. 利潤シェアの影響を受けて変動しやすくなって. 術革新の程度や,国際的な環境対策の動向に依. いること(グローバル経済化を反映している. ). 存する.. 等によって, 「環境対策の費用の逆説」が成立. 以上 の 3. 3 及 び 3. 4 節 の 各期間 の 分析結果. するための条件が,より厳しくなっているもの. の概要を整理すると,表 5 のようになる.. と考えることができる. 最後に,投資と輸出増加という動学的効果を 検討すると,γe,xe は有意な値を示していな. 4.結 論 本研究では,環境対策費用をカレツキアン・ モデルに組み込むことにより,①環境対策費用. . 22)この時期において,貯蓄方程式の賃金の係数 (通常の意味での貯蓄率とは性格が異なる. )の推計 結果は,有意ではなく,値も極めて小さい.これは, 2008 年に利潤と貯蓄が同時に大きく低下した影響で ある可能性がある.仮にこの係数がより大きい値で あるとすると,利潤率を上昇させるための費用回収 率の条件もより大きくなるが,この場合でも本稿の 主な結論は影響されない.. は,各種費用一般と同様に,分配の変化を通じ た需要増加により「費用の逆説」の効果を持つ 可能性があり,②加えて,資源節約による費用 減少と輸入減少の効果を持ち,③さらに,短期 的には投資誘発効果を,中長期的に技術力を通 じた輸出増加効果を持ちうる,というメカニズ ムを表す理論モデルを提示した..

(17) カレツキアン・モデルを用いた日本における環境対策の経済影響に関する実証分析(大熊) (785) 131. そして,日本の 1970 年代以降今日までにつ. 状況の中で,環境対策が利潤率を上昇させる. いて実証分析を行うことにより,このモデルの. 効果を発揮するためには,直接的な需要増加. 有効性が支持された.. の効果のみならず,資源節約の効果や技術競. 実証分析の結果,以下のような事実が示され. 争力による輸出増加の効果が発揮されること. た.. が重要となると考えられる.これはグリーン. 1)70 年代前半 か ら 80 年代後半 ま で の 時期 に. 成長の政策を考える上で留意されるべき点で. おいて,一般的な「費用の逆説」が成立する. あると言える.. 経済環境 で は な かった も の の,環境対策 は,. 本稿のモデルにより,環境対策と経済成長の. 省エネによる高い資源節約効果によって,利. 間の基本的関係について,環境対策の費用とし. 潤の上昇に貢献したことが示された.. ての側面と需要等の要因となる側面とに焦点を. 2)この期間の環境対策が投資を増加させる効. 当てた明確な形で示すとともに,実証的な分析. 果及び技術革新による輸出増加の効果を示し. を行うことができた.ただし,1 部門のモデル. たとの定説と整合的な結果が得られた.この. であることから,産業構造の変化を明示的に分. うち前者は短期的に,後者は中長期的に現れ,. 析することはできていない.また,稼働率の調. 全体として継続的に効果が発揮されたことが. 整により経済調整される中期を想定したモデル. 示された.これら効果により,資源節約効果. であり,長期において,完全稼働,完全雇用と. のない環境対策のみを抽出しても,中期的に. なって生産能力が限界に達し,経済が需要より. 利潤を上昇させる効果を持っていたことが示. も供給に制約される局面を分析することはでき. された.. ていない.これらについて分析できるモデルの. 3)従って,この時期において,公害対策及び. 検討が課題として残されている.. 省エネ対策を含む環境対策は,高度成長期の 成長レジームの危機から次の輸出主導型の成 長レジームの確立までの円滑な移行の実現に 寄与したと考えることができる.. 【付録】統計データの出所と加工の方法 ○内部公害防止費用. 4)2001 年 か ら 2008 年 ま で の 時期 も,一般的. 日本総合研究所(2004)における公害防止. な「費用の逆説」が成立する経済環境ではな. 費用の推計方法にならい,公害防止施設の累. く,環境対策が利潤上昇の効果を持つために. 積投資額 か ら そ の 維持管理費用 を 推計 し た. は,一定以上の資源節約効果又は投資や輸出. (具体的には,公害防止施設の 20 年間累積投. を増加させる効果が必要となる.しかし,こ. 資額により現在設置されている公害防止施設. の時期には環境対策費用には大きな増加はな. の取得価額を推計し,これに 0.1 を乗じて維. く,それによる資源節約,投資増加,又は輸. 持管理費用を推計している.).ただし,公害. 出増加の顕著な効果は確認できなかった. 5)この時期において,資源節約効果によって. 防止施設 の 投資額 は, 『設備投資動向調査』 (経済産業省)の 投資目的別構成比 に お け る. 利潤率を上昇させるための条件を検討すると,. 「公害防止」(途中から「環境保全」に変更さ. 70 年代と比べ,より高い費用回収率が必要と. れ た.)の 比率 を,JIP データ ベース に お け. なっていることが分かった.これは,主とし. る右調査の対象産業部門の投資額に乗じるこ. て,輸出入が価格条件や景気動向に反応しや. とにより求めた.なお,右データが存在しな. すくなっていること(グローバル経済化によ. い 1977 年以前については,『公害防止設備投. るものと考えられる. )を反映している.. 資調査』(通商産業省)のデータに基づく同. 6)したがって,グローバル経済化という経済. 様の推計等によって延長した..

(18) 132 (786). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). ○内部省エネルギー費用. れが個人企業についても妥当すると仮定し. 日本総合研究所(2004)における公害防止. て,企業全体の賃金と純利潤を推計した.た. 費用の推計方法にならい,省エネルギー設備. だし,利子については,法人企業と個人企業. の累積投資額からその維持管理費用を推計し. の双方の利潤を含むので,二重計算を避ける. た (具体的方法は上記に同じ. ) . 省エネルギー. ため,分配比率の推計においては含めず,企. 設備の投資額は, 『設備投資動向調査』 (経済. 業全体の純利潤を産出する段階で加算した.. 産業省)の投資目的別構成比における「省エ. その上で,純利潤に,SNA の「固定資本減耗」. ネルギー」 (途中から「省エネ・代エネ」等. 中の「民間企業設備」を加算し,粗利潤を推. に 変更 さ れ た. )の 比率 を,JIP データ ベー. 計した.具体的には以下の式による.. スにおける右調査の対象産業部門の投資額に. (法人企業賃金)=「雇用者報酬」─(調整係数). 乗じることにより求めた.なお,右データが.  ×「個人企業企業所得」. 存在しない 1984 年以前については, 『設備投.   ─ 「官公庁給与所得」. 資動向調査』 (日本開発銀行)の データ に 基. ただし, (調整計数)は『個人企業経済調査』. づく同様の推計又は『設備投資動向調査』 (経. から産出した人件費と営業利益の比率, 「官公. 済産業省)の「合理化」の比率と同様のトレ. 庁給与所得」は『国税統計年報』の データ,. ンドを仮定した推計により延長した.. 特に記載のないものは SNA による(以下同. ○廃棄物処理費用. じ. ) .. JIP データ ベース の 産業連関表 に お け る,. (法人企業純利潤)=「民間法人企業企業所得」. 廃棄物処理部門から他の産業部門への中間投.   +(「家計所得」中「配当」). 入額を用いた.ただし,右データが存在しな. (個人企業賃金)=「個人企業企業所得」. い 1969 年以前 に つ い て,内部公害防止費用.  ×[1+(調整計数)]. と同様のトレンドを仮定して延長したほか,.  ×(法人企業賃金分配比率). 他の一部期間を線形補間した.. (個人企業純利潤)=「個人企業企業所得」. ○環境研究開発費用.  ×[1+(調整計数)]. 『科学技術研究調査』 (総務省)に お け る,.  ×(法人企業純利潤分配比率). 環境保護を目的とした社内使用研究費のデー. (賃金)=(法人企業賃金). タを用いた..   + (個人企業賃金). ○天然資源輸入. (粗利潤)=(法人企業純利潤). 貿易統計における各品目の輸入価額を用い.   + (個人企業純利潤). た..   + (「家計所得」中「利子」). ○稼働率 JIP データベースの稼働率指数のデータを.   + (「固定資本減耗」中「民間企業設備」) ○産出. 用いて,政府部門等を除く産業部門の稼働率. 以上の方法により求めた賃金及び粗利潤に. 指数を求めた.1969 年以前及び 2005 年以降. 輸入を加算して「産出」とした.環境対策費. 等の右データが存在しない期間については,. 用シェア,天然資源輸入シェア等は,これに. 『鉱工業生産指数』の 稼働率指数 の データ と 同様のトレンドを仮定して延長した. ○賃金及び利潤 吉川(1994)の方法を基本として法人企業 について賃金と純利潤の分配比率を求め,こ. 対する比率として求めた. ○貯蓄 SNA の「貯蓄」に「固定資本減耗」を加えて, 粗貯蓄を推計した. ○資本ストック.

(19) カレツキアン・モデルを用いた日本における環境対策の経済影響に関する実証分析(大熊) (787) 133. 「民間企業資本ストック」のデータを用い た. ○生産資本,生産労働に係る賃金,生産資本に 係る利潤 上記方法 に よ る 公害防止設備 と 省 エ ネ ル ギー設備の投資額より環境対策資本ストック を推計し(7% 定率償却で推計) ,資本ストッ クからこれを控除して生産資本ストックを推 計した. また, 賃金に 1 から環境対策費用シェ アを控除した値を乗じて「生産労働に係る賃 金」を推計した.生産資本に係る利潤につい ても同様である.. 参考文献 畔津憲司,小葉武史,中谷武「カレツキアン蓄積 分配モデルの実証分析」『季刊経済理論 47─1, 2010 年,pp. 56─65. 伴金美「経済モデルによる環境政策の影響評価」 『季 刊 環 境 研 究』161 号,2010 年,pp. 135─ 140. Barker, T., Qureshi, M. S., and Köhler, J., “The costs of greenhouse-gas mitigation with induced technological change: A metaanalysis of estimates in the literature”, Tyndall Centre Working Paper 89, Norwich, UK, 2006. Barker, T., Pan, H., Köhler, J., Warren, R. and Winne, S., “Decarbonizing the global economy with induced technological change: scenarios to 2100 using E3MG”, The Energy Journal, Endogenous Technological Change and the Economics of Atmospheric Stabilization Special Issue, 2006, pp. 241─58. Blecker, R. A., “Distribution, demand and growth in neo-Kaleckian macro models,” in M. Setterfield(ed)The Economics of Demandled Growth: Challenging the Supply-side Vision of the Long Run, Edward Elgar, Northampton, 2002, pp. 129─52. Bortis, H., “Notes on the surplus approach in political economy,” in P. Arestis, G. Harcourt and M. Sawyer(eds)Capital Controversy, Post-Keynesian Economics and the History of Economic Thought, Routlege, London, 1997, pp. 11─23. Bowls, S., Boyer, R., “Wage, aggregate demand, and employment in an open economy: an. empirical investigation,” in Epstain, G. A., Gintis, H. M.(eds)Macroeconomic policy after the conservative era, Cambridge University Press, Cambridge, 1990, pp. 143─71. 中央環境審議会『中長期の温室効果ガス削減目標 を実現するための対策・施策の具体的な姿 (中長期 ロード マップ) (中間整理)』 , http:// www.challenge25.go.jp/roadmap/, 2010 年. Georgescu-Roegen, N., The Entropy Law and the Economic Process, Harvard University Press, Cambridge, Mass, 1971. Holt, R. P. F., Pressman, S. and Spash, C. L.(eds) , Post-Keynesian and Ecological Economics, Edward Elgar, Northampton, 2009. 環 境 庁『平 成 4 年 版 環 境 白 書』大 蔵 省 印 刷 局, 1992 年. Kronenberg, T., “Finding common ground between ecological economics and postKeynesian economics,” Ecological Economics 69, 2010, pp. 1488─94. Lavoie, M., Foundations of Post-Keynesian Economic Analysis, Edward Elgar, Aldershot, 1992. “Surveying short-run and long-run stability issues with the Kalickian model of growth”, in M. Setterfirld(ed)Handbook of Alternative Theories of Economic Growth, Edward Elger, Northampton, 2010, pp. 132─56. Marglin, S. A. and Bhaduri, A., “Profit squeeze and Keynesian theory”, in E. J. Nell and W. Semmler (eds) Nicholas Kaldor and Mainstream Economics: Confrontation or Convergence? Macmillan, London, 1991, pp. 123─63. 西洋「VAR モ デ ル を 用 い た 日本経済 の 所得分 配と需要形成パターンについての実証分析」 『季刊経済理論』47─3, 2010 年,pp. 67─78. 日本総合研究所『 SEEA の 改定 に と も な う 環境 経済勘定の再構築に関する研究報告書』日本 総合研究所,2004 年. Okuma, K., “An analytical framework for the relationship between environmental measures and economic growth based on the régulation theory: Key concepts and a simple model,” Evolutionary and Institutional Economics Review, forthcoming. Pasinetti, L. L., “The notion of vertical integration in economic analysis,” Metroeconomica 25, 1973, pp. 1─29. Rowthorn, R “Demand, real wages and economic growth,” Sutudi Economici No. 18, 1982,(所 収)ローソン『構造変化と資本主義経済の調 整』 (横川,野口,植村訳) ,学文社,1994 年, pp. 1─46..

(20) 134 (788). 横浜国際社会科学研究 第 17 巻第 6 号(2013 年 2 月). 猿 山 純 夫,蓮 見 亮,佐倉環「JCER 環境経済 マ ク ロ モ デ ル に よ る 炭素税課税効果 の 分析」 JCER Discussion Paper No. 127,日 本 経 済 研 究センター,2010. Stern, N., The Economics of Climate Change: The Stern Review, Cambridge University Press, 2007. 武田史郎,川崎泰史,落合勝昭,伴金美「日本経 済研究センター CGE モデルによる CO2 削減 中期目標 の 分析」『環境経済・政策研究』3, 2010, pp. 31─42. Taylor, L., Reconstructing Macroeconomics, Harvard University Press, Cambridge, Mass., 2004. Uemura, H., “Growth, distribution and structural change in the post-war japanese economy”, in Boyer, R. and Yamada,T.,(eds)Japanese. Capitalism in Crisis: A regulationist interpretation, Routledge, London, 2000, pp. 138─61. 植村博恭「社会経済 シ ス テ ム の 再生産 と 所得分 配 の 不平等」『季刊経済理論』43─4,2007, pp. 5─15. United Nations, European Commission, IMF, OECD and World Bank, Handbook of National Accounting: Integrated Environmental and Economic Accounting 2003, http://unstats. un.org/unsd/envaccounting/pubs.asp, 2003. 吉川洋「労働分配率と日本経済の成長・循環」石 川経夫編『日本の所得と富の分配』東京大学 出版会,1994,pp. 107─40. [おおくま かずひろ 横浜国立大学大学院国際 社会科学研究科博士課程後期].

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表 4 各方程式の回帰分析の結果 S 期間 63―74 75―82 83―91 01―08s0‒1097031794‒45867 24370 ‒(7.40)(2.31)‒(20.86)(0.55)sr0.6950.4240.6540.588 (14.16)(2.26)(7.72)(3.10) s w 0.365 0.126 0.420 0.026  (11.82) (0.65) (7.64) (0.10) 補正 R 2 D.W

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