経営 と経済 第87巻 第1号 2007年6月
バイオ企業の経営戦略
‑ バイオコミュニケーシ ョンを中心 として ‑
81
鴫 野 武 志
Abstract
Thecompetitioninthebiomarket,forexample,medicineisgetting moreandmorefierceallovertheworld.Ⅰnthecircumstances,the relationshipwithsociety,namely,reliability,isanimportantfactor whichdecidestheadvantageofabiocompany.TheJapanesebio‑
comapaniesshouldmakeallpossibleeffortstostrengthenbiocommunト cationwithconsumers,aimingatWinnlngthebattleagainstforelgn biocomapanies.
Keywords:fiercecompetitioninthebiomarket,reliablebiocompanies, biocommunication
は じ め に
21世紀の我 が国に とって,生物の有する力を活用す る技術,いわゆ るバ イ オテクノロジー (BT)やそれを用いる産業 ,すなわちバ イオ産業が重要 だ,
と指摘 されるようになって しば らく経 つ。平成13年3月 に平成13‑17年度 を 対象期間 として閣議決定 された第2期科学技術基本計画 において重点分野 と
された4分野 にはライフサ イエンス分野が含 まれ,平成14年12月には,内閣 総理大 臣はか関係閣僚や学識経験者 か らなるBT戦略会議 において,バ イオ テクノロジー戦略大綱 がま とめ られ,それ以降,関係者 の総力を挙 げて,戟 が国バ イオ産業の国際競争力を強化 しようと,さまざまな取組 みが活発 に行
われて きている。また, 日々,国際競争が激 しさを増 している医薬品業界に おいては,大規模な業界再編が行われている。
しか しなが ら,現時点において,その全てが十分な効果を挙げていると言 えるか というと,必ず しもそ うとは言 えない と考 え られる。例 えば,積み残 されている課題の一つに,バ イオテクノロジーの専門研究者やバ イオ企業 と 社会の関係が挙げ られるのではないか。大変残念な ことなが ら,近年 ,企業 不祥事が後を絶たず,企業活動 に向け られる目が厳 しさを増 している と言 え るが,食品産業や医薬品産業な どバ イオ産業の中核 をなす産業 において も, 不祥事や国民の疑いを招 くような出来事が報道 されている。それ とも関連 し て,安全 ・安心を求めるニーズは 日々高ま りを見せている。そ もそもバ イオ テクノロジーは現代科学の先端を走 る技術の例 として取 り上げ られることが 多いが,先端技術は人類 に計 り知れない利益 をもた らす反面,取扱いを誤れ ば,容易 にぬ ぐうことの出来ないダメージを与 えることが少な くな く,先端 技術の研究開発やその利用 と社会 との関係 は緊張 をは らむ こ とが少な くな い。バ イオテクノロジーの分野で も,生命倫理の問題を惹起す るような技術 が多 く,時折,新聞紙面をにぎわせている。単に個人の選択で済む問題であ ればいざ しらず,社会 として受け入れるか否 かの決定を迫 られている例 も枚 挙 にい とまがない。
本稿では,まず,バ イオテクノロジー戦略大綱 に基づ き,我が国バ イオ産 業の直面する,主に政策的な課題 を概観する とともに,バ イオ産業の代表例 である医薬品産業の研究開発マネジメン トについての先行研究,さらに最近 注 目度を増 しているサイエンスコミュニケーシ ョンを紹介 した後,それ らを 踏 まえなが ら,バ イオテクノロジー と社会の関わ り,すなわちバ イオ コミュ ニケーシ ョン とその促進のための具体的な取組みの一つであるバ イオコミュ ニケーシ ョン研修事業 について論 じることにより,バ イオ企業の経営戦略 を 考 えてみたい。
バ イオ企業の経営戦略 ‑ バ イオコミュニケーシ ョンを中心 として ‑ 83
1.バ イオテクノロジ‑戦略大綱について
(1)バ イオテクノロジー戦略大綱策定の背景
平成14年7月,バ イオテクノロジーの 目覚 ましい成果 を実用化 ・産業化 し, 国民生活の向上 と産業競争力の強化 を図ることの重要性 が高 まっているこ と を踏 まえ,我 が国 としてバ イオテクノロジー戦略 を早急 に樹立 しその推進 を 図 るため,内閣総理大臣を始め とす る関係閣僚及び各方面の有識者 か らな る
「BT戦略会議」が設置 され,集中的な審議 を経 て,12月にバ イオテクノロ ジー戦略大綱 が とりま とめ られた。
その序による と,21世紀は生命科学,バ イオテクノロジーの世紀であ り, その進歩は人間生活の基本であ る 「生 きる」,「食 べる」,「暮 らす」の三場面 のあ り方を抜本的に変 えるインパ ク トを持ち得 る極めて大 きな技術革新 とさ れている。
併せて,バ イオテクノロジーは,人類 に とってその基本をなす 「生命」 に ついての科学的知 見の革新的進歩 か ら生 まれて くる技術的成果であ るため に,そ こか ら世界中の誰 もが予想 もしていない ような新 しい技術,新 しい産 業 が創 出され る可能性が極めて強 く,また,既存の産業の技術基盤 も巨大な 影響を受けるであろ う, とされている。それ故 に こそ世界各 国はバ イオテク ノロジーへの取組みを大幅 に強化 している一方,我が国はかな り遅 れてい る 面 が多い と言 わざるを得ず,今か ら総力を挙げてバ イオテクノロジーへの取 組 みを国家 レベルで強化 しなければ, この21世紀最大の科学技術の進歩 に取
り残 される危険があ る, とい う問題意識が大前提 となってい る。
以上の ように,バ イオテクノロジーを巡 る国家間競争の激化 は,バ イオテ クノロジー戦略大綱策定 の大 きな要因 とな ってお り,「第 2章 BTを巡 る 国際的状況は どうな っているか」では,
1.研究開発状況 2.人材供給状況
3.バ イオベンチ ャー企業の現状
に分けて,我が国が特 に欧米先進 国に どの程度遅れを とっているかについて 分析を行 った上で,後 に述べるような三つの戦略を提案 している。
経済産業省による と,中国,イン ド,韓国,シンガポールな どアジア ・オ セアニア諸国において も,バ イオテクノロジーへの取組みが強化 されてお り, 例 えば,中国については,2000年 ,バ イオテクノロジーに関す る特許 出願数
が対前年比4倍 にな り,欧州 と我が国を上回って世界第2位 に浮上,さらに 研究開発及びその産業化 に向けた取組.みが進め られている, とされてお り, バ イオテクノロジーを巡 る国家間競争はより激化する方向に向かっている と 考 えられ る。
図 1 国内バイオ関連産業の市場規模 (2003年度)
(単位 :百万 円)
食品 :.医療用化成品鼻
を
R外ロニクス拭料.・故
鹿茶棚水産関連珊横車根滞サ 器
韓賂樗その他ー 孟
拭耗ビ 旦 備
漣ス ′′(出典 :METIバ イオ産業創造基礎調査報告書)
バ イオ企業の経営戦略 ‑ バ イオ コ ミュニ ケーシ ョンを中心 として 一
図2 各国のバイオ政策の動向
米国題臣≡
1999年に構造ゲノムイニシアチブを策 定。
国をあげてBTの開発 および産業化を推進 中。
t qiIl
;‑‑I.‑T:
保健福祉省 24】037百 万ドル (主にNIH) 農務 省 1,469百万 ドル
国防省 862百万 ドル エネル ギー省 346百一万 ドル その他 1,959百万 ドル
673百万 ドル ≒ 3兆 円 (2003)
(出典 :経済産業省資料)
図3 バイオテクノロジー基幹技術の出願人国籍別出願件数の推移と構成
(件)
7000
60
0 0
5000
4000
3000
2000
1080
0
E = = ≡ 亘 ー 日 本 E 3 米
⊂ こ こ コ 欧 州
‑ 〇 ‑ 全 世 界
/
‑iJB '<;消+ 諺
:
衣l′ 鼓喜 窒 I六19こミ?)十mG:ilr/ 輔班 萱∴∴鼓賢p詐覧‑し. 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 (年)
注 :●世界各国に出願 された全ての培許出磨貞の内、日本 、米国、欧州 それぞれの出願人による出願 を分析 したもの。
+出版年が1990年〜1998年 を対象にVVPJNDEX (STN)で検索o
(出典 :特許庁 「バ イオテクノロジー基幹技術 に関す る技術動 向調査 一特許 か らみた研究開発の 現状 と課題‑」)
(2)バ イオテクノロジー戦略大綱 における三 つの戦略
バ イオテクノロジー戦略大綱 では,「第3葺 大 きな跳躍 を 目指 した三 つ の戦略」 において,
戦略 1 研究開発の圧倒的充実
いつ も世界の一歩先の研究 に力を尽 くす 戦略2 産業化 プロセスの抜本的強化
BTの成果 を国民全体 が享受す るために産業化 のプロセスを 確固た るものにす る
戦略 3 国民理解の徹底的浸透
国民が適切 に判断 し,選択で きるシステムを作 る が提案 されている。
この うち,「戦略 3 国民理解 の徹底的浸透」 においては, 1.情報の開示 と提供の充実
2.安全 ・倫理 に対する政府の強固な姿勢 を国民 に提示
3.学校教育 ,社会教育等の充実
の三 つが挙げ られてい るが,「2.安全 ・倫理 に対 す る政府の強固な姿勢 を 国民に提示」の中に次の ような記述が見受 け られる。
「(中略)BT製品の安全審査や安全管理 に関す る大規模な組織 を整備 し, 抜本的に強化す るこ とが必要であ る。現状では,米国FDA (食品医薬品局) な どの例 を見て も, この面で,我 が国は大 き く欧米 に遅れてい る。安全性 に 関す る透 明な審査機構の確立は,行政 の重要 な役割であ ることを改めて認識
し,対応 を強化すべ きであ る。」
この記述は,言 うまで もな く,安全審査 ・管理 に関す る行政機構のあ り方 の問題 を取 り上 げてお り,他の先進 国では行政 による安全審査 ・管理 が信頼 され,その結果バ イオテクノロジーの研究開発やその成果の産業化が進む一 方 ,仮 に我が国では安全審査 ・管理が国民 に信頼 されず,その結果,バ イオ テクノロジーの研究開発な どが阻害 されれば,非常 に由々しき問題である,
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とい う意味で,極めて当然の ことを述べているが,これは,安全性 に関す る 対応 も国際的比較の対象になる,さらに言 えば,バイオテクノロジーに関す る産業競争力の優位性を決する要素た り得 る, ということを示唆 している。
2.バイオ産業,特に製薬産業の研究開発マネジメン ト論
我が国においてバ イオ産業 に対する注 目が高まったのは比較的最近の こと であ り,バ イオ産業 におけるマネジメン トについては,まだ十分な研究が行 われていない ように見受け られる (これは,戦後の我が国経済の発展 におい てバ イオ産業がそ う大 きな役割を果た していなかった ことと関係があると推 察 される。)。ただ,最近は徐 々にバ イオ産業,特 に製薬産業 に関する研究が 進み,注 目すべ き成果 も現れている。
ここでは,桑嶋 (2006)に示 されている製薬産業の研究開発マネジメン ト 論 を概観する。
医薬品開発 については,一般 にハ イリスク ・ハ イリターン とのイメージが 強いが,現実q)医薬品の研究開発プロセスを見る と,
① 新薬の もととなる化合物 を創製 ・発見する 「探索段階」 (上流)
② その有用性を確認 して製品へ と仕上げてい く 「開発段階」 (下流) の二つに分け られ,前者 については偶然や運 ,個人研究者の能力に依存す る
ものの,後者 については,研究開発活動は組織的かつ体系的に行われてお り, しかもこの後者 において膨大なコス トを要 していることか ら, この開発段階 のマネジメン トや能力差 こそが製薬産業の研究開発成果や競争優位 に決定的 な差を もた らす とし,具体的には 「goornO‑goの判断能力」 と 「プロ トコ ル ・デザイン能力」の二つの組織能力に注 目しているが,本稿では紙幅の制 約 か ら前者 について取 り上げる。
「goorno‑goの判断能力」 については,開発 プロセスの途 中か ら新薬の
「設計変更」ができな くなるという医薬品開発の特性か ら,その重要性 に注
目している。つま り,そもそ も医薬品開発は10年,20年 とい う長期の開発期 間を要す る上 に,仮 に臨床試験段階 (開発段階) に至って化合物 に不具合が 発見 され,化合物修正 (設計変更)を行 う場合,さらに開発期間が長期化 し て しまう。然 るに,今 日の新薬開発競争は激烈であ り,世界中の製薬企業や ベンチ ャー企業が新薬開発 にしのぎを削っている中で,そもそ も長い開発期 間がさらに長期化す ることは致命的な影響を もた らすか らこそ,当該開発プ ロジ ェク トを先 に進 め るか (go),進 めないか (nO‑go)の判断能 力が重 要である と指摘 している。
そ して,この製薬産業の研究開発マネジメン ト論 を踏 まえつつ,我が国製 薬産業の今後の経営戦略 としては,研究開発 に関する投資負担 に耐えるため
に,一定規模の追求の必要性を認めなが らも,
① 選択 と集中
② 学習を視野に入れた戦略的提携の活用
③ オペ レーシ ョン能力の強化
の重要性 を説 くことによ り
,
「経営の質」を高めることの必要性を強調 して いる。表 1 探索段階 と開発段階の特徴 の違い
個人 組織
≡...読.;ii…才)...チ.yラ:..
極めて高い 低 い
準‑響
顔 ゴミ箱モデル的 より合理 的
(出典 :桑嶋 (2006))
3.サイエンスコミュニケーション(科学技術コミュニケーシ ョン)
昨年3月28日,平成18‑22年度 を対象 とす る第 3期科学技術基本計画が閣 議決定 されたが, この中に近年注 目度 を増 しているサイエンスコミュニケ‑
バ イオ企業の経営戦略 ‑ バ イオ コミュニケーシ ョンを中心 として ‑ 89
シ ョンに関連する重要な記述が相当数見 られるので,バ イオ コミュニケーシ ョンを諭ずる前に概観す ることとする。
(1)社会 ・国民に支持 され,成果を還元する科学技術
第 3期科学技術基本計画においては,その基本姿勢 として,「社会 ・国民 に支持 され,成果を還元する科学技術」が 「人材育成 と競争的環境の重視」
と並んで,基本姿勢 として位置付け られている。
具体的には,科学技術政策は,国民の理解 と支持を得て初めて効果的な実 施が可能 となるとし,研究開発投資の戦略的運用の強化 により一層効果的 に 行 うこと,絶 え間な く科学の発展を図 り知的 ・文化的価値 を創出する ととも に,研究開発の成果をイノベーシ ョンを通 じて,社会 ・国民 に還元する努力 を強化すること,科学技術政策やその成果を分か りやす く説 明するな ど説 明 責任を強化す ること,が挙げ られている。
近年 , どの ような政策 にしろ,説明責任が強調 されることが多いので,当 然 と言 えば当然か もしれないが,「科学技術政策やその成果を分か りやす く 説 明するな ど説明責任を強化すること」が重視 されている点 に留意が必要で あろう。
(2)社会のニーズに応 える人材の育成
「知 の活用や社会還元 を担 う多様 な人材の養成」の中で,「科学技術 コミ ュニケーターの養成」の必要性が取 り上げ られている。
具体的には,科学技術 を一般国民に分か りやす く伝 え,あるいは社会の問 題意識 を研究者 ・技術者の側 にフィー ドバ ックす るな ど,研究者 ・技術者 と 社会 との問の コミュニケーシ ョンを促進す る役割を担 う人材 の養成や活躍
を,地域 レベルを含め推進することとし,科学技術 コミュニケーターを養成 し,研究者のアウ トリーチ活動の推進,科学館における展示企画者や解説者 等の活躍の促進,国や公的研究機関の研究費や研究開発プロジ ェク トにおけ
る科学技術 コミュニケーシ ョン活動のための支出の確保等によ り,職業 とし て も活躍できる場を創 出 ・拡大す る, こととされている。
ここで詳細を述べ る余裕はないが,既にい くつかの大学 において,国の強 力な支援の下,科学技術 コミュニケー ターの養成が具体的に行われているほ か,そのほかの多数の大学で も科学技術 コミュニケーターの養成のためのプ ログラムが実施 されてお り,少な くとも当分の間はそうした動 きが継続す る と見 られ る。
(3)社会 ・国民に支持 される科学技術
第3期科学技術基本計画は全5章 か ら構成 されているが,その中に 「第 4 章 社会 ・国民 に支持 される科学技術」が置 かれてお り,科学技術 と社会 ・ 国民 との関わ りを重視する姿勢が強 く打ち出されている。
具体的には,
1.科学技術が及ぼす倫理的 ・法的 ・社会的課題への責任ある取組 2.科学技術に関する説明責任 と情報発信の強化
3.科学技術 に関する国民意識の醸成
4.国民の科学技術への主体的な参加の促進 について記述 されている。
1.においては,科学技術の急速な発展 により,ヒ トに関するクローン技 術等の生命倫理問題,遺伝子組換 え食品に対する不安,個人情報の悪用に対 す る懸念,実験デー タの控道等の研究者の倫理問題な ど,科学技術は法や倫 理 を含む社会的な側面 に大 きな影響を与えるようになっていることか ら,料 学技術の社会的信頼 を獲得するために,国及び研究者 コミュニテ ィ等は,社 会 に開かれたプロセスによ り国際的な動向も踏 まえた上でルールを作成 し, 科学技術 を担 う者が こうしたルールにのっとって活動するよう促 してい く, としつつ,特 に,社会 と深 く関わ りつつ急速 に発展 して きた生命倫理 に関す る諸課題への対応を強化する, こととしている。
バ イオ企業の経営戦略 ‑ バ イオコミュニケーシ ョソを*JLとして ‑ n
また,科学技術の成果を社会 に還元する際 に必要な リスク管理を合理的に 行 うため, リスク評価のための科学技術活動の重要性を指摘 しつつ,国民の 安心を得 るために,科学的な リスク評価結果 に基づいた社会合意形成活動の 重要性 を述べている。
2.においては,研究機関 ・研究者等は研究活動を社会 ・国民に出来 る限 り開示 し,研究内容や成果を社会 に対 して分 か りやす く説明す ることをその 基本的責務 と位置付け,研究者等 と国民が互いに対話 しなが ら国民のニーズ を研究者等が共有す るための双方 向 コミュニケーシ ョン活動 であ るアウ ト
リーチ活動を推進する, こととしている。
さらに4.においては,科学技術への国民の理解 と支持を高めるために, 科学技術か ら国民への働 きかけのみな らず,国民の方か ら科学技術 に積極的 に参加 して もらうことの重要性 を指摘 してお り,政府関係機関が社会的な影 響や国民の関心の大 きな研究開発プロジ ェク トを実施す る際,その基本計画, 研究内容及び進捗状況を積極的 に公開 し,それに対する意見等 を研究開発プ
ロジ ェク トに反映させるための取組を進める, という考 え方を示 している。
4.バイオコミュニケーシ ョン
(1)バ イオ コミュニケーシ ョンの必要性
大変残念な ことであるが,近年,我が国ではいわゆる企業不祥事事件が多 発 してお り,国民の企業に対す る信頼が揺 らいでいる。営利団体たる企業は, 利潤の獲得を 目的 として設立 されるが,利潤 を獲得するためには製品 ・サー
ビスが市場 に受け入れ らなければな らず,そのためには製品 ・サービスが消 費者の信頼に足 るものでなければな らない。
ところが,製品 ・サービスの信頼性は消費者が一 目見て判断できるもので はない ことが多 く,結局,生産者たる企業が信頼 に足 るかどうか, とい うこ とで判断せざるを得ない。特 に,バ イオテクノロジーは 「生命」についての
科学的知見の革命的進歩か ら生 まれて くる技術的成果であるため,安全性の 問題に とどま らず, より複雑な倫理上の問題 を投げかけることも多い。
BT戦略会議の岸本忠三座長は,「BT戦略大綱 について」の中で,
「(中略)クローン技術の応用 は一方では多 くの面で有用なテクノロジー を提供する。例 えば,農業,畜産業に画期的な変革をもた らすであろう。 ク ローンの概念を応用 したES細胞 (腫性幹細胞 ;どんな組織,臓器にで もな り得 る細胞)の確立 は再生医療,移植医療の世界 に画期的な進歩を もた らす ことが期待 されている。反面,クローン人間の誕生は,我 々に大 きな倫理上 の問題を投げかけている。 ヒ トのゲノムの解読 も画期的な医薬の開発 につな が り,病気の診断や発病予測,個人の体質 に応 じた医療等大 きな進展が期待 される反面,個人のプライバシー,出生前診断,デザイナーベ イビー等,重 要な倫理問題 を投げかけている。」と述べている。
誤解を恐れずに言 えば,安全性の問題に とどま らず,複雑な倫理上の問題 をは らむバイオテクノロジーの研究開発 とその成果の産業化を円滑に進め, 国民生活の向上 と我が国の関連産業の国際競争力を強化するためには,研究 開発やその成果の産業化を行 う者が社会か らの信頼 を得ていることが不可欠 の条件である。我が国においては,遺伝子組換 え農作物 を巡 り社会的な議論 が度 々生 じているが,その際にも,研究開発 を行 う者が社会か ら信頼 されて いるか,社会 と良好な関係を保 っているか,円滑 なコミュニケーシ ョンを維 持 しているか,が重要な問題 となっている場合が多い。
現時点においては,バ イオテクノロジーの研究開発は大学等高等研究機関 において限定的に行われている場合が多い とも言 えるが,今後 はその成果の 実用化 ・産業化が活発化することが予想され,その主役は企業が担 うことと なろう。 そうなれば,バイオテクノロジー関連の予算 ・人材を含む研究開発 能力,経営管理能力な どに加え,社会 と良好な関係を保 つ,つま り円滑な コ
ミュニケーシ ョンを維持することによって社会か ら信頼 される能力 も,バ イ オテクノロジー関連企業の競争優位性 を決す る重要なフ ァクターにな る,
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と言 うことがで きる。 こうした問題意識 に基づ き,筆者 を含め,問題意識 を 共有す る実務 関係者及び学識経験者 が参加 して, これ までバ イオ コミュニ ケーシ ョンに取 り組 んで きたNPO法人 くらしとバ イオプラザ21が,経済産 業省の支援の下,平成18年 に試行的にバ イオコミュニケーシ ョン研修事業を 実施することとなった。
(本研修事業の詳細 については,参考文献 に掲げた報告書を参照 されたい。
また,以下の部分について も,同報告書に多 くを負っている。)
(2)平成18年度のバ イオ コミュニケーシ ョン研修事業の概要
① メディア戦略 をテーマ とした趣 旨
バ イオ コミュニケーシ ョンについては,以上に述べた ように
,
「生命」に関する科学的知見の革命的進歩に関わる企業が社会 との良好な関係を 保つためのコミュニケーシ ョン, と位置付け られてお り,その意味で, 本研修事業を,単にメデ ィア とどう付 き合 うべ きか, とい うようなノウ ハ ウを提供する場 として位置付けているわけでは決 してないが,以下の 理 由によ り,今回は 「メデ ィア戦略」をテーマ として実施 した。
○近年のインターネ ットに代表 されるIT技術の発展 により,情報伝達 に おけるメデ ィアの役割が以前に比べて低下 していることに異論はない と 考 えられ るが,依然 として,メデ ィアの社会的影響力は大 きく,社会 と の良好な関係を保 とうとす る場合,メデ ィア との接触は不可欠である。
また,メデ ィアは,社会や消費者の感覚に関する情報 を豊富 に有 して いることか ら,まず手始めにメデ ィア との関係に関する戦略を考 えるこ
とが有意義である。
○また,受講生の立場に立 った場合,抽象的,一般的なコミュニケーシ ョ ンを検討するよ りも,メデ ィア という現実の存在 を対象 とした コミュニ ケーシ ョンを考 える場 を設定 した方が,短期間の研修 とい う制約条件の 下で, よ り大 きな効果が期待 される。
② 講師の選定
「メデ ィア戦略」をテーマ とした上で,講師陣については,次の2グ ループに分けて選定 した。
○ メデ ィア関係者
メデ ィア戦略をテーマ とする以上,実際にメディアの第一線で活躍 し ている講師を選定することが不可欠である。
このため,3人のメデ ィア関係者を選定 した。
○学識経験者
先 に述べたように,バ イオコミュニケーシ ョン研修事業は,本来的 に は,単にメデ ィア との接 し方 に関するノウハ ウを提供する場ではな く, バ イオテクノロジーの研究開発やその成果の産業化 を行 う企業 と社会の 関わ りを考 える場 として位置付け られているため,関連す る分野の専 門 的研究者 を講師 として選定 した。
今回は以下の三つの分野 に分けて選定 した。
・ノレ‑ノレ
BT戦略大綱の中にもあるように,バ イオテクノロジーの研究開発 と その成果の産業化を進めるためには,適切なルールの設定 ・見直 しが不 可欠である。適切なルールの設定 ・見直 しがなされていない ところで, 社会や消費者が生産者たる企業を信頼す るはずがないか らである。
・(社会)心理学
社会や消費者 との良好な関係を保つためには,(社会)心理学 におけ るこれまでの蓄積の活用が有用であることは論 をまたない。
特 に,近年, リスクコミュニケーシ ョンが注 目されていること,先端 的なバ イオテクノロジーの研究開発には程度の差はあれ リスクが伴 うこ
と等を踏 まえ, リスクコミュニケーシ ョンの講義を設けることとした。
・科学論 ・文化論
バ イオテクノロジー と社会の関わ りを考 える際, 日本人の科学観や 日
バ イオ企業の経営戦略 ‑ バイオコミュニケーシ ョンを中心 として ‑ 95
本社会の文化が重要なファクター となることも論をまたない ところでめ ろう。
また,最近, 日本人の理科離れを懸念する声が強いが, これ も無視 し 得ない要因であ り,こうした最近の事情 にも通 じている専門家を講師 と
して選定 した。
・危機管理 ・コミュニケーシ ョン
より慎重なコミュニケーシ ョンが求め られ る危機管理の専門家,多種 多様 なコミュニケーシ ョンに関わっている専門家を選定 し,受講者がバ イオ コミュニケーシ ョンを よ り幅広 い視野で考 え られ るように配慮 し
た 。
・ま とめ (企業経営)
ま とめにおいて,バ イオコミュニケーシ ョンを企業経営の立場 か らど う考 えるべ きか,について議論 した。
(3) インプ リケーシ ョン
本研修事業実施の背景を踏 まえ, ここではい くつかの留意点,さ らには企 業関係者 に対するインプ リケーシ ョンを述べ る。
① メデ ィアの特質を踏 まえた対応の必要性
い くつかの講義において,メデ ィアのビヘ イビアについて詳細な紹介 がなされたため,受講者 も普通では知 り得ない情報 に触れることがで き, 受講者作成の レポー トを見て も,相当の研修効果が認め られた と考 え ら れ る。
留意を要する点は多 々あるが,敢 えて一つだけあげる とする と,メデ ィア関係者は締切 り等の極めて厳 しい時間的制約の下で行動す るため, 動 きが早い。企業サ イ ドとして適切な対応を行 うためには,何か起 こっ てか ら対応するのでは間に合わない危険性が強 く,その意味で, 日頃か
らの体制整備が極めて重要である。
また,大企業では,広報部門,消費者対応部門,生産部門,そ して研 究開発部門は通常分かれてお り, 日頃十分な連携を行 っている企業ばか
りとは限 らない。
こうした企業のバ イオテクノロジー関連の研究開発や製品について何 か問題が起 こった時,事実確認に時間を要 した り,部門によって説明内 容が異なった りすれば,外部 に対 して混乱を もた らし,ひいては社会的 信頼 を喪失する可能性が高いことは容易 に想像がつ く。
こうした事態 を避けるためには, 日頃か ら関係部門間で十分な情報共 有を行 った り,突発的事態 に対応するための組織的整備を検討すること が必要ではないか。新 しいポス トを創設することが直ちに問題の解決 に つながるわけではないが,縦割 り的対応 を防止する観点か ら,対外的対 応を統括するCC0 (ChiefCommunicationOfficer)とい うポス トを考
えてみるの も一案ではないか。
なお,様 々な事情を考慮 し,まず業界団体 レベルでの対応を強化すべ き, との見解 もあるが,問題意識の醸成や体制整備のプロセス としては いざ しらず,特定の企業のみが問題に直面するケース も多 々考 え られる ため,最終的には,各企業 ご とに検討すべ き課題ではないか と考 え られ る。
② 政策決定プロセスへの理解
何度 も繰 り返 し述べ るように,バ イオテクノロジーは 「生命」 につい ての科学的知見の革命的進歩か ら生まれて くる技術的成果であ り,その 研究開発 の過程 ,さ らには実用化 ・産業化の過程 において,「生命」そ の ものを扱 う場合が少な くな く, より複雑な倫理的問題 を惹起す る例は 枚挙 にい とまがない。
このため,研究開発の段階で社会的論争を引 き起 こす ことも決 して少 な くないが,実用化 ・産業化段階 に至れば,ほぼ間違 いな く社会 として その技術 を受け入れるか否か,つま りどの ようなルールを設定するのか,
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という政策決定 プロセスにおける議論が生 じる。
政策決定プロセスにおいては,憲法を含む法に定め られた検討や議論 が行われ るが,バ イオテクノロジー関連企業 も重要な関係者 として,そ のプロセスに積極的に関わることが期待 され よう。
(我が国では,企業が政策決定プロセスに関与することについては,当 該企業の利害に沿 って議論 が誘導 された り歪 曲された りす る危険性が指 摘 され 必ず しも好まし く受け取 られないことが多いが,多 くのケース において,バ イオテクノロジーの実用化 ・産業化によって当該企業以外 に もベネフィッ トを享受する利害関係者が存在することを考 えれば,企 業が積極的に政策決定 プロセスに関与す ることを直ちに否定するべ きで はないのではないか。)
ただ し,その場合には,当然の ことなが ら,企業関係者 が我が国にお ける政策決定プロセスを規律する基本的な考 え方を理解 してお くことが 不可欠である。
○民主主義 と自由主義
言 うまで もな く,我が国は民主主義を採用 しているが,民主主義 とは 最終的には多数決をもって結論を出すシステムである。
他方,人類の歴史において,多数派が少数派の権利を不当に弾圧す る 不幸な事件が少な くなかった ことを踏 まえ,少数派の権利 を守 るための
自由主義 も採用 されている。
民主主義 と自由主義は時に深刻な対立 を引 き起 こすため,その調整 に 困難を生 じる場合 もあるが,一つの調整手法が科学的知見である。 した が って,企業はバ イオテクノロジーの研究開発の過程 において科学的知 見の蓄積 に意を用い,それを一般市民を含む政策決定プロセスの参加者 が理解 し得 る形で説明する責務を有するのではないか。
○代表制民主主義 におけるメデ ィアの役割
先に述べた ように, IT技術の発達に伴い,近年,メデ ィアの社会的 影響力は以前に比べ相対的に低下 しているが,依然 としてその影響力は
大 きい。
加 えて,メデ ィアが報道の 自由を享受 しているのは,我が国を含む先 進各国が採用 している代表制民主主義においては,主権者たる国民に判 断の基礎 となる情報を提供 しつつ,国民の疑問や意見を政策決定 プロセ スに反映する機能を有する機関の存在が不可欠だか らである。
メディアのそ うした役割 に特 に留意 し,誠実な対応を行 うことが期待 され るのはあ らためて言 うまで もない。
○専門性の増大による行政や専門家の役割の増大
現代においては,各方面 において著 し く専門性が増大 したため,議会 で政策を決定す る前に行政機関や専門家 による専門的な検討が行われる
ことが多い。
特 に,バ イオテクノロジーの研究開発やその成果の実用化 ・産業化 に 関わる政策決定は専門的な ものになることが多いことか ら,科学的知見 を含む専門的知見を有する企業の積極的な貢献が期待 される。
○国 と地方の関係
近年,我が国では,中央集権的行政への批判,地方分権の必要性な ど が強 く主張 されているが,そ もそ も我が国憲法は地方 自治を重要な制度
として保障 している。
(憲法の教科書では,地方 自治は民主主義の学校,な どと記述 されてい ることが多い。)
もちろん国 と地方公共団体が別個の規制ルールを有する場合な どにお いては,被規制者は様 々な困難 に直面す るため,国による統一的規制 を 希望することは十分理解 し得 るが,地方 ご とに事情の違 いがある場合な
ど,地方独 自の規制を否定することは必ず しも適切ではない。
要するに,規制主体が規制の必要性を十分 に説明する責任を果たす こ とによって,い かなる規制 を行 うことが国家 ・地域社会に とって必要な のか,を十分に議論す ることこそが肝要だ と考 えられる。
バ イオ企業の経営戦略 ‑ バ イオコミュニケーシ ョンを中心 として ‑ 鍋
政策決定プロセス全般を通 じて重要なことは,いたず らに結論のみを ぶつけあい,対立を先鋭化 させるのではな く,意見を異 にする者がそれ ぞれの論拠 を明 らかにした上で,あ くまで も国家 ・地域社会全体に とっ て適切な結論を求めること,である点に留意が必要であ り,実は,それ
こそが民主主義の 目指す ところではないだろうか。
③ リスクコミュニケーシ ョン とサイエンスコミュニケーシ ョン
ともに近年著 し く研究が進展 してい る分野であ り,バ イオ コミュニ ケーシ ョンを考 える上で示唆に富む分野である。
(4)今後改善を検討すべ きポイン ト
今回のバ イオコミュニケーシ ョン研修事業はあ くまで も トライアル として 実施されてお り,今回得 られた試行結果を元に,平成19年度以降,随時改善
を図ってい くことが極めて重要である。
① カ リキ ュラム編成上の工夫
新たに導入を検討すべ き関連分野 として比較文化論な どが考 えられ る ほか,欧米先進 国のバ イオテクノロジー関連企業 の社会 との コミュニ ケーシ ョンのあ り方 をフ ォローすることが有益であろう。
また,原子力等社会 との関わ りが重要な位置付けを占める他分野の関 係者を講師 として招 くことも一案である。
(ヨ コースの多様化
○エグゼ クティブ ・コース
バ イオ コミュニケーシ ョンを社会 と良好な関係を保 つための コミュニ ケーシ ョン と位置付ける場合,研究開発戦略,マーケテ ィング戦略,あ るいは組織戦略等 々企業戦略の根幹 に関わるもの として考 える必要があ
り,現 に受講生 からもそ ういう指摘があった。
そのため,研修期間を短縮するな どして,各種戦略の企画立案 ・決定 に関わるエグゼ クテ ィブ向けのコースの検討が必要である。
○バ イオコミュニケーシ ョン専門家 コース (ケーススタデ ィ中心)
リスクコミュニケーシ ョン,サ イエンスコミュニケーシ ョンな どを含 め,コミュニケーシ ョンに関する研究が進展 していることを踏まえ,戟 略の企画立案をサポー トしつつ,バ イオ コミュニケーシ ョンを実践す る 専門家を育成す る専門家 コースの創設 について も検討が必要であ る0
手法 としては,ケーススタデ ィ中心の コースになるもの と考 えられる。
○バ イオコミュニケーシ ョン基礎 コース (講義中心)
これは新入社員な ど初心者 向けのコースであ り,バ イオテクノロジー 関連企業の社員 としての基本的な素養 について講義するもの として検討 する必要がある。
(5)所 感
① トソプマネジメン トのコミットメン ト
あ らためて言 うまで もな く,バ イオコミュニケーシ ョンは企業の対外 的対応能力に関わるものであるが故に, トソプマネジメン トのコミッ ト
メン トがなければ,なかなか進 まないであろう。
また,やや大げさに言 えば,バ イオテクノロジー関連企業の命運に関 わるもので もあることを踏 まえれば, トソプマネジメン トがコミットす るりが当然であ り,その結果 として,社 内の問題意識 も醸成 され得 るの ではないか。
② 想像力
最近の企業不祥事の中には,社会な り消費者な り情報の受け手が どの ように感 じるか, とい う点に想像力を働 かせていないのではないか, と 思われるような ものが少なか らず見受け られる。
バ イオ コミュニケーシ ョンの成否は,まさし くその点にかかっている のではないか。
③ 人材育成
いわゆるバブル崩壊後の長期間にわたる経済の停滞の後,人材育成の
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重要性が強 く叫ばれ るようになって きたが,バ イオテクノロジーを巡 っ ては今後 ますます国際競争が激 しさを増すであろうことを踏まえれば, バ イオコミュニケーシ ョンに関する人材育成 は一刻 も無駄 にはで きない 重要な課題である。
バ イオ コミュニケーシ ョンは,まさしくコミュニケーシ ョンであるが 故 に,実践的な人材育成が不可欠であるが,他方,関連分野における様
々な理論的発展をなおざ りにすることもで きない。
したがって,実務家 と専門的研究者のコンビネーシ ョンによ り,理論 的発展 に裏付け られた実践的人材育成 とい う,我が国ではこれまでの と
ころあま り成功例を見ていない人材育成システムを確立することが急務 であろう。
5.最 後 に
サイエンスコミュニケーシ ョンは多数の専門領域が関わる分野 とされてい るが,バイオ コミュニケーシ ョンはさらに経営戦略論や経営組織論 まで関わ ることから,本稿では特 に注 目すべ き点を中心に表面をなでるのが精一杯で あった。
また,純粋 に学術的議論 を行 うのであれば,国内外のバ イオ企業のバ イオ コミュニケーシ ョンの現状を詳細に調査 しつつ,理論的に整理 を要する点が 少なか らずあるが,それにはかな りの時間を要す る一方,バ イオテクノロジー やバ イオ産業 を巡 る国際競争は,今後中国等の本格的参戦 も予想され,い よ いよ待 ったな し,の様相を呈 していることか ら,我が国バ イオ企業のバ イオ コミュニケーシ ョンについての危機意識を共有する産業界関係者を始め とす る実務家 と学識経験者により,まず開始 したのがバ イオコミュニケーシ ョン 研修事業であ り,平成19年度 もNPO法人 くらしとバ イオプラザ21により実 施される予定である。
CSRについての議論が活発 になって しば らく経つが,様 々な見解 が主張
されている。バ イオ コミュニケーシ ョン とCSRの関係を どう整理するのか, ということも非常に重要であるが,いずれにせ よ,我が国製薬産業の経営戦略 として,規模の追及 も一定の範囲で必要なが ら,「経営の質」 を高め ること が何 よりも大事である,との指摘 を踏まえれば,バ イオ産業が 「経営の質」を 高めるためには,バ イオコミュニケーシ ョンの考 え方を積極的に取 り入れ,具 体的な企業活動 に反映させてい くことの重要性を指摘 して,本稿を閉 じたい。
図4 バイオコミュニケーションとは (時間軸)
シース
索 究
発同探 ‑ 研
‑開用̲応商上市
重 く弘 とJ叫オフラヴ27
(出典 :参考文献1) 参 考 文 献
1.NPO法人 くらし とバ イオプ ラザ21(2007)平成18年度経済産 業 省委 託事業 平成18
年度環境 対応技 術 開発 等 (バ イオ事 業化 に伴 う生命倫理 問題等 に関す る研究 (バ イオ テ クノロジーの産業化 に伴 う諸 問題 についての国民理解促進 に関す る研究 の実施)) に関 す る委託事業報告 書。
本報告書の閲覧 を希望 す る場合は、 同法人 (http://www.life‑bio.or.jp/〉) に申 し込 まれたい。
2.黒 田玲 子 (2002)『科学 を育む』 中公新書。
3.桑嶋健一 (2006)『不確実性 のマネ ジ メン ト』 日経BP社。
4.佐 々義子 (2006)「遺伝子組換 え作物栽培 をめ く中る 自治体 の動 き」『遺伝』 3月号。 エ ヌ ・テ ィー ・エス。
5.谷本寛 治 (2005)『CSR経営』 中央経済社。
6.日経 ビジネス (2007)「特集 す くむ経営」5月21日号。