長崎県方言概観
長崎県方言概観
西
ま え が き 島
宏
長崎県内に行なわれる方言について︑従来各地方・小地域を対象とし
た方言書は多いが︑その大部分は単語を採集したにとどまり︑音韻・語
法にまで説き及んだものは数冊に過ぎない︒また長崎県全体を対象にし
た方言概観がないため︑各地域方言相互の関係がはっきりしないという
うらみもあった︒
この小論はその欠を補うことを意図したものである︒方言区画
長崎県下の方言区画を示したものは従来の研究の中に見当らないよう
であるが︑私は後に述べる一遍韻・アクセγト・語法・語彙などの相違と
旧藩時代の行政区画を参考して︑次のように分けたいと思う︒
北から南へ順に対馬方言・壱岐方言・平戸方言︵佐世保方言を含む︶
・大村方言・諫早方言・島原方言・長崎︵市︶方言・五島方言以上の八
方言区画に分けるのが妥当であろう︒
これらはアクセントの面から︑
一乙種アクセγト︵東京式アクセγト︶1−対馬方言・壱岐方言
一一型アクセγト 一−i−1 平戸方言・五島方言
一甲種アクセγトー大村方言・諌早方言・島原方言・長崎方言
に分けられ︑さらに方言系統から︑ 一豊日方言系−対馬方言1肥筑方言系1 三四
一佐賀方言系−i諫早方言・︵佐世保方言︶
一壱岐方言・平戸方言
−長崎方言・大村方言・島原方言
一五島方言
に分けることができる︒
対馬方言厳原を中心に上県郡・下県郡がこれに含まれる︒対馬方言
の飛地として佐賀県三養基郡基山・田代・基里・鳥栖・麓地区があるこ
とは注目してよい︒この地区は慶長年間以来対馬藩に属していたため︑
周囲と異なる方言が行なわれてきた︒
壱岐方言 郷ノ浦︵旧武生水︶を中心とする壱岐郡がこれに当る︒
平戸方言 平戸を中心に現在の平戸市・松浦市・北松浦郡︵五島列島
北部の小値嘉島を含む︶佐世保市がその地域である︒松浦氏の旧城下町
平戸には武家言葉が僅かに残っている︒
大村方言
島部を除く︶
残っている︒ 大村を中心に現在の大村市・東彼杵郡・西彼杵郡︵野母半北高来郡古賀がこれに含まれる︒なお大村にも武家言葉が
諌早方言 諌早を中心に諌早市・北高来郡・西彼杵郡矢上・戸石・雨
女津のほか︑佐賀県藤津郡大浦・多良が含まれる︒
島原方言 島原を中心に島原市および南高来郡全域がこれに当る︒な
お島原には松平氏の旧城下町として︑周囲の方言と著しく異なる東国系
の武家言葉が残っている︒また島原半島北部の神代・大正地区は佐賀の
支藩であったたの佐賀方言系のことばが使われている︒
長崎方言 現在の長崎市は旧幕府領であったため一つの方言区を形造
った︒ ︵ただし旧大村藩に属した式見・福田地区および旧佐賀領の深堀
地区を除く︶
五島方言 福江を中心に福江市・南松浦郡全域がこれに含まれる︒た
だし浜ノ浦は旧平戸領で平戸方言系である︒また北松浦郡宇久町は五島
方言系である︒
以上述べたように長崎県は旧藩時代の区画が入り乱れて複雑なため方
言も同じく肥筑方言の系統に属しながらも地域的変化に富んでいる︒こ
の点︑熊本・佐賀など大藩であって県内の変化が少ない地方と異なった
点がある︒
ニ アクセ γト
長崎県内のアクセγトは平山輝男氏の調査によると︑
ω 第二種︵東京式アクセント︶に属するものとして対馬・壱岐両地域
があがっており︑さらにそのうち対馬下県郡および壱岐の南部は東京ア
クセγトに準ずるものであり︑対馬上県郡および壱岐北部は東京アクセ
γトと共通性があるが︑かなりの特殊なものとしておられる︒
ω 一型式アクセγトに属するものとして平戸および五島があり︑いず
れも﹁アクセγト基﹂のない崩壊一型︑主として曖味化現象により型が
崩壊したものとしておられる︒
㈲ 第三種︵京阪式アクセント︶に属するものとして︑大村・諌早・島
原・長崎の各地域がこれにあたるが︑これはいずれも京阪アクセγトに
類似するが︑系統的には東京式アクセγトから派生したものである︒ したがって長崎県内は東京・京阪・一型の各アクセγト型をもつのは
福岡県・愛媛県・福井県など全国でも僅か下県にすぎない︒
なお九州地方では東京式アクセγトに属するのは福岡県東部︵旧豊前
長崎県方言概観 国︶・中部︵旧筑前国︶・大分県︵旧豊後国︶がこれに属し︑一型アクセγトに属するものは佐賀県北部・福岡県南部︵旧筑後国︶ ・熊本県東北部︵菊池郡・阿蘇郡ほか︶・宮崎県がこれに当だる︒京阪式アクセγト地帯は佐賀県南部・熊本県西南部︵天草島を含む︶・鹿児島県︵屋久島・種子島・奄美大島を含む︶である︒
三 昔
韻
長崎県内の音韻体系は次表の通りである︒
モーラ体系
= O
O
げ口 げO げ9 げ①
σQ
禔@ σQO σQ9 σQO閃電 閃O 閃9 閃Φ
Nβ NO Ng N①
ω⊆
O⊆ωO 傷︒
什Ooo
X畠9
げρ
Oρω① α① げ①
Hd﹇ 目O H9 目①
﹈Pβ ﹈PO b﹇ρ 昌①
5P二 bPO 昌P㊤ 営P①
σ自 ぴ○ げ9 び①
μ
三
σQ一
江
N一
ω一
︒一
H同
⇒一 ヨ一
σ帥
℃ロ ℃O ℃鉾 ℃Φ で日
︺β
ど自αq﹈自
閃甘N﹈自
テ。。
︒甘占g
三百且q
げ旨コ︒
︵︶ Uoど︒σQ」
Z
五〇蕊︒
ω』
宣
ど9
αq
Z五9N旨
ω届
(」
@︶ 毒9
σQ
ム9閃芝9
︵NU①︶
︵ヨ①︶
o﹄o o宣 ︵εΦ︶
コ○ 占9
三〇 ヨ9日δ且ρ
亙○び宣
℃」
潤飼h
内は特殊のもの
特に目立つ音声的特徴
三五
長崎県方言概観
母 音 U←i 語によりUが一と発音される︒イオ︵うお︶イゴク︵動く︶
o←u 佐賀方言系の地域諫早などに多い︒アスブ︵遊ぶ︶スラゴ
ツ︵室言︶また対馬でもフツクラ︵ふところ︶など使う︒ a←o 語によりa←oと転換する︒タトム︵畳む︶
e←i 語中語尾のeが一と発音される︒コリ︵これ︶ダリ︵誰︶
ノーヂ︵飲んで︶
長母音・連母音.飢←胆県下全般に多い︒デァーク︵大工︶ヤーラシカ︵あいらしい︶
しかし対馬は豊日方言系で.飢←aになる︒データ︵大工︶ナゲー︵長い︶
セメー︵狭い︶
.m←・町 対馬でサミー︵寒い︶ヒキー︵低い︶
.飢 .釧は県下一般に使われる︒ヘイタイ︵兵隊︶エイゴ︵英語︶
︒01←鋭 対馬でシレー︵白い︶など言う︒
q←m 佐賀系の地方でウーカゼ︵大風︶クーヤ︵紺屋︶と使う︒
子 音
力行・ガ行 高年層にクワ・グワが残っている︒クワガタ︵科学︶グ アワイコク︵外国︶クォは単独には存在しないが︑会話の中でクワシ バ
クォーゴタル︵菓子を食いたい︶のように使われる︒
ガ行は語中・語尾でもに鼻かからない︒
サ行 セ・ゼが口蓋化してシェ・ジェになる傾向は一般に多い︒シェ
γシェイ︵先生︶またシ←ヒの傾向も強い︒ヒチヤ︵質屋︶キョーヒツ
︵教室︶特に五島でこの傾向多くメヒ︵飯︶ウヒ︵牛︶ムカビ︵昔︶な
ど言う︒ 乱行 西彼杵郡黒崎付近でイッチェ︵行って︶ミチエ︵見て︶と言う︒
ダ行d←rの傾向が島原地方にみられるジローシャ︵自動車︶さらに 三六ザ行のジからりになるものもみられる︒リγリキシ々︵人力車︶ ナ褥 二・ヌ・ノがンになる例が多い︒イン︵犬︶ゼン︵銭︶アγヒト︵あの人︶ ハ行 ビル︵蛭︶を使う地方がある︒ マ行 ミ←γ︒諌早でゴン︵ごみ︶五島でミγ︵耳︶など使っている︒ ヤ行 一部にイェが残っている︒ ︑ ラ行 r←dの傾向が大村・諫早・島原地方にみられる︒デγコγ
︵蓮根︶ドーソク︵ろうそく︶ダイネγ︵来年︶ダγプ︵ラγプ︶ダッ.ハ︵ラッパ︶ヂコーモン︵利口者︶また佐賀系の諌早・佐世保地方にr
音の脱落現象がみられる︒マイ︵まり︶クイ︵栗︶ケイヨー︵蹴りヨル
ー−蹴っている︶ 促音化現象
語中語尾の促音化の傾向は強く︑カキクチツリルなど︑それぞれタッ
カ︵高ヵ11高い︶マツガミ︵巻紙︶コッゴ︵国語︶モツツキ︵餅つき︶
テツドー︵鉄道︶スラゴツ︵室言︶チットリ︵塵取り︶クッカ︵来るか︶
などのように言う︒また五島の促音化現象は︑五島方言を小薩摩と呼ん
でいることでも分るように鹿児島に似て特に著しい︒ トッ ︵鳥︶ハッ
︵針︶モッ︵餅︶ウェッ︵植木︶オッ︵帯︶など︒擾音化現象
県下の方言では擬音化の傾向も目立ち︑特にガゼニヌネノマ︑ミルなど
に︑それぞれナγカ︵長力長い︶タγネル︵尋ねる︶ナγカ︵何か︶
キγイト︵絹糸︶センバ︵せねば︶オレントづ︵俺の所︶カγボコ︵か
まぼこ︶カγブク官︵紙袋︶ヒγネ︵昼寝︶などのように言っている︒
しかし一方︑共通語で促音化している﹁買って・食って﹂などは︑コ
ーチ・クーテと長音化しており︑また共通語で擾音化している﹁飛んで
・飲んで﹂などは︑
もある︒ トーデ・ノーデとこれまた長音化しているなどの壁
塗 濁共通語形にくらべて連濁の傾向が少なく︑ジγ訓一列︵神杜︶イリ引
︵入口︶ケンキューショ︵研究所︶などいずれも清音で発音する︒
四 語
法
代名詞
自称の代名詞はオレ︵対馬︶オリ︵壱岐︶オイ︵平戸・佐世保・大村
・諌早・長崎︶オドγ︵島原︶オツ︵五島︶と呼ぶ︒女性は県一般にウ
チが多い︒これに対し対称は待遇による表現の違いがあるがオマエ︵対
馬︶オシ︵壱岐︶ワガ︵平戸・佐世保・大村︶ワイ︵諌早・長崎︶アタ
ン︵島原︶アガ︵五島︶が普通である︒その他ヌシ︵西彼杵︶コチチ
︵小浜︶がある︒女性の対称代名詞はアγタが一般的で︑ほかにアタン
︵島原︶ウγ︵五島︶オサγ︵諫早︶などがある︒
なお人の名を呼ぶ時︑下に付ける語はサγ・チャγが一般的だが︑シ
ャγ︵壱岐・平戸・大村・諌早・・島原・長崎・五島︶やヤン︵大村・
島原諌早︶ドγ︵諌早・島原︶バー︵野母︶があり︑特殊なものに平戸
・大時・島原の旧武家町に残るバー︑長崎市で少女の名の下に添えるチ
ーがある︒ ︑
事物を指す代名詞は一般にコイ︑対馬でコレ︑壱岐でコリ︑五島でコ
ツ︒近・中・遠・不定称はコソアドの体系になっていることは場所・方
角を示すものも同様である︒
場所を指すのは一般にココ・ソコ・アスコ・ドコ・︒方角はアッチで
あるが︑平戸・対馬にアッチベタがある︒
またこれらの代名詞はつケー︵ここへ︶アッチャγ︵あちらへ︶ソッ
長崎県方言概観 チサγ︵そちらへ︶など助詞を融合した形で使われることが多い︒ 動 詞 現在︑長崎県内の諸方言では文語動詞と口語動詞の混用が目立っている︒旅行ワ延ブカ延バγカワカラγ・旅行ワ延ビルヵ延ビγカワカランなど同一方言地域の中で両様の言い方が行われている︒ 県下の方言で活用の点から見た場合1 共通語で五段活用となる語は方言も五段に活用している︒音便はトーデ︵飛んでHバ行︶ノーデ︵飲んで1ーマ行︶など共通語の綴音便がウ音便となるものや︑オモーテ︵思ってHワ行︶のように共通語の促音便をウ音便にするものがある一方︑丈語形五段動詞﹁借る﹂の場合のように連用形の音便がカッテ︵借りて︶と促音便になるものがある︒ラ行に促音便が生じる︒2上二段活用・下二段活用は元来丈語動詞にあったもので共通語ではそれぞれ上一段・下一段に吸収されてしまっている︒ところが方言では根強く残っており︑上二段活用はカ・ガ・タ・ダ・バ・マ・ヤ・ラ・ワ行に︑下二段活用は各行に残っている︒しかし活用形は丈語そのままでなく︑ 落ツルは︑チ︵未然︶チ︵連用︶ツル︵終止︶ツル︵連体︶ツレ︵仮定︶チ官またはチレ︵命令︶のように終止形.は連体形と同形となる︒また命令形が落チレ・起キレとなる地域も多い︒下二段活用の場合も︑ 受クルはケ︵未然︶ケ︵連用︶クル ︵終止︶ クル ︵連体︶ クソ︵仮定︶ケロまたはケレ︵命令︶のように終止・命令固形に同異がある︒3 上一段活用・下一段活用のうち︑上一段は文語上一段と同様の活用形であるが︑しかし︑着ル・似ル・見ルなどは未然形が着ラγ・似ラγ
三七
長崎県方言概観
・見ラγとなり︑さらに命令形が着レ・似レ・見レとなるため︑着ラ・
着・着ル・着ル・着レ・着レと変則的な五段活活用となっている︒
このことは下一段活用の蹴ルの場合も同様である︒しかし口語の下一
段活用である考エル・教エルは︑口語下一段活用の形でエ・エ・エル・エル・エレ・エロとなるが︑一方︑エ・エ・ユル・ユル・ユレ・エロ
︵エレ︶と丈会下二段の活用形をとるものが混用されている︒
4 力変 来ルの活用はつ・キ・クル・クル・クレ・づイとなるが︑命
令形はキー︵対馬︶ケー︵壱岐︶やキテγロ︵平戸︶キテロ︵大村︶キ
テミレ︵諌早・島原︶などいろいろの形が行われている︒また終止・連
体形クルはクッケン︵来るから︶クットキャ︵来る時は︶など促音化す
ることが多い︒意味上は君ン所二来ッケγ︵行くから︶待ットカγネな
ど﹁行く﹂の意味で使われる場合も多い︒
5 サ変 セ・シ・スル・スル・スレ・セー︵またはセレ︶と活用する︒仮定形スレば﹁すれば﹂が融合してスリャーとなることが多い︒サ
変の場合も力変と同じく終止形・連体形が促音化する︒またハヨ スー
デ︵早くしょうよ11長崎︶のように意志形がスーとなる地域とシューと
なる地域がある︒平戸はシュイという︒
6 ナ変 ナ変は一部で五段化しているが︑一方︑終止・連体両形が死
ヌル・往ヌルと丈語形に近い形で行われている︒また五濃化した形の場
合の連体形は死ン人モオレバ⁝⁝とヌよりγと擾音化する例が多い︵対
馬・平戸・島原・長崎など︶︒
以上︑県一般の動詞の活用相を記したが︑
次第に高年令層に移りつつある︒ 上二段活用・下二段活用は
形容詞
県内一般に形容詞は力語尾︑つまりヨカ・ワルカなど終止形︵連体形
も︶がカで終る︒活用はカロー︵未然形︶ク︵連用形︶カ︵終止形︶カ 三八
︵連体形︶カレ︵仮定形︶である︒
連用形ではタづ一︵高く︶シロー︵白く︶とウ音硬化する形がある︒
対馬方言は黒日方言系であるため力語尾にならない︒シレー︵白い︶
アケー︵赤い︶等︒県下方言の形容詞と形容動詞はともに力語尾で区別
がない︒綺麗力・丈夫力などのように言う︒この力語尾は勢力が強くキ
ナカ︵黄いろい︶茶色ヵ・変ナカ・スマートカ︵スマートな︶など︑名
詞・形容動詞的なものをも形容詞化するカをもっている︒力語尾形容詞の仮定形は前述のカレを使う場合とブトカナイバ︵太ければ︶のように
ナイバを付ける形も行われている︒
形容詞の打消の言い方はヨーナカ︵よくない︶正シューナカである︒
また﹁ございます﹂に続く形はヒロτゴザイマス・新シューゴザイマス
のようになる︒形容詞の語幹だけ用いるアイタ︵あ︑痛︶アツツ︵お︑
熱︶の形もあるが︑感動を表わす時は︑安サー・高サーとサーを語幹に
付けるのが多い︒
助動詞
県内の方言の助動詞は︑動詞と同じく文語形が残っているのが目立
つ︒受身のルル・ラルル︑可能のルル・ラルル︑使役のスル・サスル︑尊敬のル・ラルなどがそれであるが︑そのほか肥筑方言地域に共通なも
ので共通語形にない可能のキル︑使役のラスル︑尊敬のラス・ナス・ナ
ル︑推量のゴタル︑様態のゴタル︑進行形を表現するヨル︑完了を表す
トルなどがある︒また可能のユルも独特な形である︒
これらの助動詞の中にはゴタルのように丈語の﹁如あり﹂の言い方を
とどめるもの︑ス︑サスのように文語の尊敬助動詞の形を残すものなど
総じて古い形を保つか︑あるいは古形の転誰と考えられるものが少なく
ない︒長崎方言に限らず︑肥筑方言に共通する特徴と言ってよいであろ
う︒
て 使役の助動詞 スル・サスル・ラスル︒スルは動詞五段・ナ変に恥
く︒字バ書カスル︒活用はセ・セ・スル・スル・スレ・セロ︒このうち
スルは促音便でスッとなることが多い︒紙臨書カスット耳掛︒
サスルは動詞下二段︒力変に接続する︒火バ付ケサスル︒コッチニ来
サスル︒ また右のスルに接続する動詞には文語の上二段が変則五段化したもの
から落チラスル︑また文語上一段が五段化したものから見ラスルなどと
接続するものがある︒下一段からも同様に蹴ラスルと接続する︒相談ス
ルなどのサ変の場合は相談サスルのようになる︒
ラスルはコッチニ来テスールと力変に接続する︒県一般はラスルを使う
例が多く︑来サスル系は少い︒
2 受身の助動詞県一般にルル・ラルルを使っている︒ガラルル︵叱ら
れる︶︒活用形はルルはレ・レ・ルル・ルル・ルレ・レとなるが仮定形
は引矧バよりルリャー・ルット・ルッギーなどが使われる︒ルルは五段
・ナ変に接続する︒ラルルはその他の動詞につく︒変則的に五段活用す
る動詞寝ル・見ルなどにはルルがつく︒
3 可能の助動詞 ルル・ラルル︑キル・エル︵ユル︶が一般に使われる︒対馬Hキル・エル︑壱岐Hルル・ユル︑立⊥戸Hルル・キル・ユル︑
大村Hルル・キル・ユル︑諌早ーーキル・︵ウル︶︑島原Hキル・ユル︑
長崎ーールル・キル・ユル・エル︑五島1ーキル・ユルと各地とも混用がめ
だつ︒ この他︑佐世保・西彼杵・島原・五島で可能動詞形の読ムルの言い方 も へがある︒またユルに続く場合︑普通一般は読ミユルと連用形から続く も もが︑島原の串山・有家・国見・心逸・五島の奈留・岩瀬浦で読マユルと
未然形から接続している︒ 活用はキラ・キリ︵キツ︶・キル・キル・キレ︑エ・エ・エル・エル
・エレである︒
長崎県方言概観 ルル・ラルルは自発の意味を表わす時も使うα 前記の読ミュルと読マユルの意味上の区別は小野志真男氏の説明のよ
ヘ ヘ へ も
うに︑読ミュルは﹁読む能力がある﹂︑読マユルは﹁読むことが可能である﹂の違いが長崎方言の場合も認められる︒4 尊敬の助動詞ス・ラス・マス・ルル・ラルルがある︒スは五段・ナ変に︑ラスはそれ以外につく︒ラスは何モ知ラγト来ラシタのように時に軽い嘲りを含む意味で使われることもある︒ マスはハヨーオイデ々ッセの例のように命令形はマッセになる︒ルルの連用形レは︑アソビー行ヵイタとイ音使になる︒デスは主として形容詞について指定の意味にさらに丁寧さを加える場合がある︒高カデスネー︒また打消を添えて︑アγタ 知ランデスカのように使われる︒5 打消の助動詞 ほとんどγを使う︒しかし形容詞に接続して打消す形には狭モLナカ・狭モーナカレバなどとナカが使われる︒ ンの活用は○・○・γ・γ・γ︵ニャ︶となり︑仮定形は早ヨセγバ遅ルッヨのようにγ形が多く使われる︒セニャは少ない︒γの中止形は文語のズが使われる︒6推量の助動詞ウを使う︒未来・意志も主としてウを使う︒ウがすべての動詞につく︒﹁よう﹂を使わない︒ ﹁見よう・しよう﹂もミュー・シュー︵スー︶になる︒ 推量の意味を表わすには︑未然形からウに続く場合のほか︑動詞・形容詞の終止形にジャロー・ヤローを附けた言い方も用いる︒またゴタル︵ゴトアル︶も使われる︒これらの県下の分布はジャローH対馬・壱岐
・平戸・島原・五島︑ヤローH佐世保・大村・諌早・長崎・五島︑ゴタ
ルH壱岐・佐世保︑ゴトアルH大村となっている︒
推量の﹁らしい﹂はうシカの形で県下一般に使われる︒
7 希望の助動詞 タカが使われる︒動詞の各活用形に附く︒活用形は
○・ク︵トー︶・カ・カ・カレバとなる︒連用形トーは見トーナカ︵見
三九
長崎県方言概観
たくない︶見トーゴザイマスなどの場合使われる︒また仮定形は一般に
ケリャーでなく見タカレバの形が多い︒
8 過去・完了の助動詞 共通語と同じである︒
9 様態の助動詞 ゴ下アル・ゴタルを使う︒アノ人ワ丈夫カゴトアッ
タ︒また特殊な用法として︑このゴタルは希望の助動詞として菓子バ食
オーゴタル︵食いたい︶のように使われる︒
10@伝聞の助動詞 ラシカを使う︒アスコワ 暑カラシカ︒
11 意志の助動詞 共通語と同じくマイを使う︒またこのマイは打消・推量の意味を表わす︒マイは方言形でミヤーとなる︒今日ワ行クミャー︒
コノ話ワ 誰モ 知ルミャー︒
12 比況の助動詞 ゴタル︵ゴトアル︶を使う︒活用は○・ゴタッ・ゴタル・ゴタル・ゴタレバとなる︒連用形は音楽ノ流ルルゴ下聞エテクル
とゴトになることがある︒砂糖γゴッ甘力︒
13 指定の助動詞 ダ・デス・ジャを使う︒
14@進行形を表す助動詞 ヨルが一般に使われる雨γ降りヨルのように
現在もなおその状態が続いていることを示す︒
活用はラ・リ︵ッ︶・ル・ル・レバ・レとなる︒佐世保・諌早地方は
ラ行のr音が弱くマリバ蹴イヨーのようになる︒
15@完了の助動詞 トルは室γ曇ットルのように現在もその状態が継続
していることも表わす︒対馬方言はチョルを使う︒
助 詞1格助詞ノは主格をあらわす︒鳥ノ飛ビヨル︒γとなることが多
い︒雪γ降ットル︒ガは連体格でオイが品物など言う︒連体格のかと紛
わしいものに︑主格のががある︒主格ガはワガガヨカゴトセレ︵お前が も もいいようにしろ︶のような場合と︑人称代名詞そのものに含まれてワガ
ヨカゴトせレのようになる場合がある︒対絡はバを用いる︒鳥バツヵマ 四〇
エタ︒目的格は二・エ︒ただし上に来る語によって︑長崎イ行ク︒クマ
モテ︵熊本へ︶出カケラシタのように︑変化するか融合形をとる︒なお
独特なものにサγがある︒アッチサγ行ケと言う場合はアッチイ行ケよ
り意味が強調される︒並立格はトの他チ・テ・テチを使う︒
2 副助詞 比較にはヨカが広く使われる︒柿ヨカ梨ガヨカ︒ヨカはヨッカ・ヨリカ・ヨリカモといった形と地威で入り交っている︒ヨリH対
馬・壱岐︑ヨッカH佐世保・五島・大村外海︑ヨリカー1佐世保・大村・島原・五島︑ヨカーH長崎︑ ヨリカモー1佐世保・長崎︑ほかにヨリャ
︵大村︶ヨルカ︵島原︶などがある︒場所をさすにはジを使うドづジ待
ツトローカ︒時間を限るジ︒一時間ジ出来ル︒材料を示して筆ジ書ク︒
限度を示すにはシづを使う︒づゲシづ拾玉出︵これだけ拾った︶限度や
程度を示すガタは︑百円ガタ下サイ︒アノ寿司ワ高カガタウマカッタの
ように使われる︒彼此程度に順応することを言ウダケ損するのように
ダケで表す︒添加はシャガを使う︒オイシャガ︵俺でも︶融和γトニ・:
⁝︒強く指示するのはバシを使う︒ソγゲγ︵そんな︶事バシ言ウゴト
トγデモナカ︒ 並列を示すのはヤラ・デン・テロγ・チャが使われる︒柿ヤラ栗ヤラ
⁝︒柿テロγ栗テロγ⁝柿ツチャ栗ツチャ⁝と比較するとこれらはいず
れも何でもと包含する意味がある︒ナットは湯ナット水ナット持ッテコ
イのように選択する意味が強い︒包含する意味と選択する意味の違いはあるが︑県下の方言ではナット・デγは県一般に使われる︒対馬はナ
リ︑壱岐テ︑平戸チャ︑諫早ヤイロ︑島原テロγ︑長崎チャ︑五島ヤ
レがそれぞれ使われている︒なお包含の意味には︑ 一般に入レ物ゴト持ッテ来ルのゴトが使われるが︑ほかに対馬ゴツ・グシ︑壱岐ナガル︑平 カ も戸ナガラ︑大村ナガラ・ゴテー︑島原ゴチ・ゴシ・トメ︵共にの意か︶
・サラ︵これは武家言葉であった︶長崎マγマ︑五島ゴシがある︒3接続助詞
仮定の条件にはテγ︵雨が降ッテγ行ク︶パッテγ︵雨ノ降レバヨカ
バッテγ⁝⁝︶が使われるまたトニ︵雨ノ降ソバヨカト丁:︶は反意の
意味で使われる︒
バッテンは県一般に使われるが︑対馬・壱岐はパッテが行われる︒ま
たパッテγの意味で大村地方ではジ︒γがよく使われる︒また島原国見
にナγジャンがある︒パッテγは仮定・確定両方に使われる︒
理由を示すには県一般にケγが使われる︒豆⊥円のみセγを使う︒また
﹁⁝と︑そうすると﹂の意味には︑普通は十二時ニナルト出藍ケルのよ
うにトだが︑ギ︵島原・佐世保︶ギリ︵島原︶ギット︵諌早︶ギγ︵大
村・佐世保︶ギγタ︵佐世保︶などの言い方もある︒4終助詞 終助詞も変化に富むが︑ここでは一応︑地方ごとにまとめておく︒
対馬 ゲナ・ザイ・チャガ・バイ︒バデ・デ・ケ︵例︶俺ニモ読メル
ザイ︑⁝遊ンデシマッタチャガ︑コノ梨ワニ十円バデ︒
士宮岐 ヵイ・タ・・サ・ザγ・タイ・ターナτ・ターエ・テーデー・
トγ・ナ・ナイ・ナーエバイ・バナ・ヤ
︵例︶始ミューカイ・何シヨルトタ・知ラγザγ・ヨカ嫁サγターナー
・私が行キマステー・私ワヨカト思ウトγ・待ッチ.一キーナ・行力γ
バナ 平戸 ヵ・カイ・ザイ・サ・ジャγ・ゾ・タイ・チャー・テ・ト・ト
ナ・ナ・ナイ・バ・バイ・バナ・バヨ・ヤ・︵例︶ソレデヨカサ・俗四ガ
シタトジャγ・蚊二刺サレタトチャー・行クセンナ・一緒二行力γナイ
・早ヨ行力γバ・シタトバヨ
大村 力・カイ・カエ・ケー・ゲナ・サ・ザイ・タ・タイロー・テヤ
・デ・ナ・ナヤ・ニャ・ネ・ノ・バイ・バイマイ・バナー・バヨ・︵例︶
ヨヵタオロー・ソギャγテヤ・行づーデ・ドケ行クトナヤ・ソギャγ
ニ ャ ・ モ・1八此吋バノ・マノ﹁
長崎県方言概観 諫早 力・カイ・ヵγ兜サ・ザイ・ジャ・ゾ・タイ・テ・ドγ・ナ・ナイ・ナタ・ニャ・ノ・ノマイ・バイ・バ・ヤ︵例︶知ラγカγ・良カジヤ・行クタγナイ・行クタγナタ・面白カノマイ・読マγバγ 島原
力・カイ・カナイ・カナーシ・カン・キャ・タイ.タγ・ナ.
ナイ・ニャーネ・ノ・バイ・バγ・ナイへ・︵例︶行力γカナーシ・私
ニクレナイへ
長崎 力・カイ・サ・タイ・ナニネ・バイ・へ・ヤ・ヨ・︵例︶ウチ
ニソレバクレγへ
五島 力・ヵナ・ガネ・サ・ゾ・タイ・タイロー・ナ・ネ・ヤ・ヤナ
︵例︶行クガネ・飲モーヤナ
以上︑長崎県内の方言について︑その大略を記述した︒
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