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相続税法の改正 課税については より広い範囲に課税していくという方向でそのあり方を検討していくことが必要 ( 少子高齢化との関連 ) と記述され これらを踏まえ 相続税の課税ベースについては 一時の地価水準の高さなどに配慮した現在の課税最低限の水準は見直していく余地があると考えられます とされました

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はじめに

 相続税については、昭和63年の税制改正以来、 平成 4 年、 6 年、15年と累次に渡り、基礎控除の 引上げや最高税率の引下げを含む税率構造の緩和 が行われてきました。  こうした改正については、昭和63年の政府税制 調査会の「税制改革についての中間答申」(昭和 63年 4 月)において、「個人財産の増加及び地価 の上昇、特に最近における東京を中心とした異常 な地価高騰等を反映」し、相続税の課税割合や一 件当たりの相続税の負担が急速に増大しているこ とから、「負担の軽減を図るため、課税最低限の 引上げ、税率構造の緩和を行う」という趣旨が記 述されていました。  一方で、地価については、平成 3 年をピーク (公示地価)に急速に下落し、足元までその傾向 が続いてきた結果、相続税の課税割合(課税件 数)や負担割合(納税者の負担水準)も急速に低 下してきています。  こうした状況の中、平成10年から12年にかけて の政府税制調査会の答申において、相続税につい ては、所得税の補完税としての役割もあることか ら、個人所得課税の負担軽減や累進構造のフラッ ト化が進んできている状況を踏まえ、「今後、個 人所得課税の抜本的見直しとの関連において、税 率構造や課税ベース等について幅広く検討を行っ ていくことが適当」(平成10年12月「平成11年度 の税制改正に関する答申」)とされてきました。  また、平成12年の政府税制調査会の答申「わが 国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加 と選択-」においては、「相続課税の課題」とし て、 ① 個人所得課税の累進構造が相当程度フラッ ト化し、消費税が税体系で重要な役割を果た すようになってきたことは、「税制全体の再 分配機能を弱める方向に働いてきたとの指 摘」があり、相続課税が納税をする者の勤労 意欲に直接に影響を及ぼさないという意味で、 経済に与える歪みが少ない税であるという点 に十分に留意し、相続課税の対象範囲につい ては、「そのあり方を見直していく余地があ る」(税制改正の流れとの関連) ② 家計部門の資産残高が、戦後から高度経済 成長期を経て急速に増大していること、実物 財産(土地、建物など)よりも金融資産(預 貯金、保険、有価証券など)の割合が高まっ ていること、高齢者層に相当部分が集中して いること、等から、相続税の「担税力を有す る層が広がってきている」(経済のストック 化の進展との関係) ③ 相続による財産取得時期が相続人のライフ サイクルのより後半にシフトしており、相続 財産が相続人の経済的な基盤を形成するとい う意味合いは相対的に薄れつつあり、また、 少子化の進展は、経済のストック化と相まっ て、相続人世代にとって、平均的には相続に よる財産の取得額を拡大することから、相続 目    次 一 相続税の基礎控除の引下げ……… 566 二 相続税・贈与税の税率構造の見直し… 569 三 相続時精算課税制度の改正……… 571 四 未成年者控除等の引上げ……… 573 五 相続税及び贈与税の納税義務の見直し 575 六 特別障害者に対する贈与税の非課税の 改正 ……… 577 七 相続税の物納制度の改正……… 579

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課税については、「より広い範囲に課税して いくという方向でそのあり方を検討していく ことが必要」(少子高齢化との関連) と記述され、これらを踏まえ、相続税の課税ベー スについては、「一時の地価水準の高さなどに配 慮した現在の課税最低限の水準は見直していく余 地があると考えられます。」とされました。  その後、平成15年度税制改正において、所得税 との最高税率との差等を勘案し、相続税について は最高税率の引下げを含む税率構造の見直し等が 行われました(課税ベースの見直しは行われず、 基礎控除は据え置かれました。)。  平成19年には、「抜本的な税制改革に向けた基 本的考え方」(平成19年11月 税制調査会答申) において、平成12年答申の 3 点(上記①~③)に 加えて、「今日では公的な社会保障制度が充実し、 老後の扶養を社会的に支えているが、このことが 高齢者の資産の維持に寄与することとなっている。 そこで、被相続人が生涯にわたり社会から受けた 給付に対応する負担を、死亡時に清算するという 考え方に立てば、相続税は、遺産が相続される時 にその一部を社会に還元することによって、給付 と負担の調整に貢献できると考えられる。」とい った、いわゆる「老後扶養の社会化」の進展も踏 まえ、相続税の基礎控除については引き下げるこ と、最高税率を含む税率構造のあり方についても、 格差固定化防止の観点から検討する必要がある、 とされました。  こうした累次にわたる議論を経た上で、平成21 年 3 月に成立した「所得税法等の一部を改正する 法律」附則第104条において、「資産課税について は、格差の固定化の防止、老後における扶養の社 会化の進展への対処等の観点から、相続税の課税 ベース、税率構造等を見直し、負担の適正化を検 討すること。」と規定されることになりました。  そして、平成23年度税制改正大綱(平成22年12 月閣議決定)において、「相続税は格差是正・富 の再分配の観点から、重要な税です。相続税の基 礎控除は、バブル期の地価急騰による相続財産の 価格上昇に対応した負担調整を行うために引き上 げられてきました。しかしながら、その後、地価 は下落を続けているにもかかわらず、基礎控除の 水準は据え置かれてきました。そのため、相続税 は、亡くなられた方の数に対する課税件数の割合 が 4 %程度に低下しており、最高税率の引下げを 含む税率構造の緩和も行われてきた結果、相続税 の再分配機能が低下しています。地価動向等を踏 まえた基礎控除の水準調整をはじめとする課税ベ ースの拡大を図るとともに、税率構造について見 直しを図ることにより、相続税の再分配機能を回 復し、格差の固定化を防止する必要があります。」 との基本的な考え方の下に、平成23年 1 月に相続 税の基礎控除の引下げと最高税率の引上げを含む 税率構造の見直し等が盛り込まれた税制改正法案 が国会提出されました。  しかし、国会での審議の結果、これらの見直し については見送られることとなり、その後の平成 24年度税制改正大綱においては、相続税の見直し については、「税制抜本改革における実現を目指 します」とされることとなりました。  そして、平成24年 3 月に「社会保障の安定財源 の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための 消費税法等の一部を改正する等の法律案」(税制 抜本改革法案)が国会提出され、その中で、同様 の改正内容が盛り込まれることとなりましたが、 同年 6 月の国会等の審議や与野党による協議に基 づき、相続税等の見直し部分は法案から削除され、 附則第21条において、「資産課税については、格 差の固定化の防止、老後における扶養の社会化の 進展への対処等の観点からの相続税の課税ベース、 税率構造等の見直し及び高齢者が保有する資産の 若年世代への早期移転を促し、消費拡大を通じた 経済活性化を図る観点からの贈与税の見直しにつ いて検討を加え、その結果に基づき、平成24年度 中に必要な法制上の措置を講ずる。」との規定が 盛り込まれることとなりました。  こうした一連の経過を経た上で、平成25年度税 制改正においては、小規模宅地の特例の見直し等 の一定の措置を講じた上で、改めて相続税の基礎 控除の引下げと最高税率の引上げを含む税率構造

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の見直し、資産の世代間の移転を促すための贈与 税の見直し等が改正内容に盛り込まれ、国会での 審議や与野党による協議等を経て、平成25年 3 月 29日に「所得税法等の一部を改正する法律」とし て可決・成立し、同月30日に平成25年法律第 5 号 として公布されています。  また、以下の関係政省令もそれぞれ公布・制定 されています。 ・相続税法施行令の一部を改正する政令(平成25 年政令第113号) ・相続税法施行規則の一部を改正する省令(平成 25年財務省令第18号) ・相続税法施行規則の一部を改正する省令(平成 25年財務省令第36号)

一 相続税の基礎控除の引下げ

1  改正前の制度の概要

 相続税は、被相続人の遺産の総額が一定の金額 以上でなければ課税されません。この金額が相続 税の課税最低限である基礎控除で、5,000万円と 1,000万円に法定相続人の数(注 1 )を乗じた金額 との合計額とされていました(旧相法15①)。  つまり、同一の被相続人から相続又は遺贈(死 因贈与を含みます。以下同じです。)により財産 を取得したすべての者に係る相続税の課税価格 (注 2 )の合計額が、5,000万円と1,000万円に法定 相続人の数を乗じた金額との合計額に満たない場 合には、相続税は課税されないこととなります。 (注 1 ) 民法第 5 編第 2 章の規定による相続人(相 続の放棄があった場合には、その放棄がな かったものとした場合における相続人)の 数をいい、法定相続人の中に被相続人の養 子がいる場合には、法定相続人の数に算入 する養子の数は、①被相続人に実子がいる 場合には 1 人、②被相続人に実子がいない 場合には 2 人までとされています。 (注 2 ) 相続又は遺贈により取得した財産の価額 の合計額から被相続人に係る債務等を控除 し、相続時精算課税の適用を受けた財産の 価額及び相続開始前 3 年以内の暦年課税の 受贈財産の価額を加算した金額をいいます。  このように、相続税の基礎控除は、財産を取得 した個々の人ごとに決まるのではなく、同一の被 相続人から相続又は遺贈により財産を取得したす べての者について、その被相続人の法定相続人の 数に応じて決まるという方式がとられています。  また、各相続人の相続税額は、被相続人から相 続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係 る相続税の総額を計算し、その総額を実際に相続 した割合によって按分し、それぞれ財産を取得し た者に係る相続税額を算出します。  相続税の総額は、同一の被相続人から相続又は 遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続 税の課税価格の合計額から、遺産に係る基礎控除 額を控除した残額を、相続税法に規定する法定相 続人の全員が民法の法定相続分の割合によって取 得したものと仮定した場合におけるその各取得金 額について、それぞれ超過累進税率を適用して算 出した金額を合計した額となります。  つまり、相続税の総額は、遺産の分割がどのよ うに行われるかにかかわらず遺産額や相続人の構 成によって一律に算出される仕組みとなっていま す。  各相続人が実際に納付する相続税額は、相続税 の総額を実際に相続した割合に応じて按分し、算 出した税額から配偶者、未成年者又は障害者等の 税額控除等をして算出します。  この相続税の仕組みを図示すると次のとおりと なります。

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×【改正前】6 万円(特別障害者:12万円) 【改正後】10万円(特別障害者:20万円)」を控除 相続税の仕組み 相続税の総額の計算 各人の納付税額の計算 課税遺産 総額 基礎控除 【改正前】 5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人数 債務控除 非課税財産等 法定相続分で按分 【改正後】 (注)改正後の制度は、平成27年 1 月 1 日以後の相続・遺贈に適用 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数 配偶者 (1 / 2) 子 (1 / 4) 子 (1 / 4) 各法定相続人の 法定相続分相当額 超過累進税率の適用 相続税の総額 税率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55% 課税価格 【改正前】 ∼1,000万円 ∼3,000万円 ∼5,000万円 ∼ 1 億円 ∼ 3 億円 −   3 億円∼ −   【改正後】 同 左 同 左 同 左 同 左  ∼ 2 億円  ∼ 3 億円  ∼ 6 億円  6 億円∼ 実際の相続割合で按分 配偶者 子 子 税額控除︵配偶者控除等︶ 納付 納付 ○ 配偶者控除  配偶者の法定相続分又は 1 億 6 千万円のいずれか 大きい金額に対応する税額を控除 ○ 未成年者控除  「20歳に達するまでの年数 ×【改正前】6 万円 【改正後】10万円」を控除 ○ 障害者控除  「85歳に達するまでの年数 等

2  相続税の基礎控除の引下げの趣旨

 相続税の基礎控除は、昭和63年以降、主にバブ ル期の地価高騰等を背景に、累次にわたり引き上 げられてきました。  その後、地価が下落し、バブル期以前の水準に 戻ったにもかかわらず基礎控除等の水準が据え置 かれたままになっているため、相続税の負担はバ ブル期以前の水準に比べ大幅に軽減されていまし た。  その結果、バブル期はもちろんバブル期以前に 比べても課税割合(課税件数)や負担割合(納税 者の負担水準)が低下しており、相続税の有する 資産の再分配機能は低下している状況が続いてい ました。  こうした状況を踏まえ、平成25年度税制改正に おいては、相続税の再分配機能の回復、格差の固 定化の防止等の観点から、相続税の基礎控除の引 下げが行われました。引下げ後の基礎控除の水準 については、物価・地価が現在と同等であった昭 和50年代後半の水準を参考に、この時期に適用さ れていた水準まで引き下げることとし、具体的に は、昭和50年から62年まで適用されていた水準 (定額部分2,000万円、比例部分400万円)を当時 からの物価・地価の変化率で現在価値に修正し、 定額部分3,000万円、比例部分600万円とされまし た。 (注) 相続税の基礎控除額の定額部分と比例部分 の比率( 5 : 1 )については、現行課税方式 となった昭和33年以降、ごく一時期(昭和37 ~38年)を除き、この比率が維持されてきた 経緯を踏まえ、今回の改正においても維持す ることとされました。

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(参考 1 ) 地価公示価格指数と相続税の基礎控除額の推移 350 300 250 200 150 141.8 199.3 336.8 302.2 83.3 69.6 190.2 164.4 202.1 230.3 100 基礎控除 50 2,000万円 + 400万円 × 法定相続人数 4,000万円 + 800万円 × 法定相続人数 5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人数 4,800万円 + 950 万円 × 法定相続人数 58 59 60 61 62 63 元 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 (年) (基礎控除(定額部分):万円) 基礎控除 公示地価(三大圏商業地) 公示地価(全国・全用途) (地価公示価格の指数) 5,000 4,400 3,800 3,200 2,600 2,000 1,400 (参考 2 ) 相続税の課税割合、負担割合及び税収の推移 58 59 60 61 62 63 元 2 3 4 5 6 7 8 相続税収 負担割合(納付税額/合計課税価格) 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 (年) 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 5.3 7.9 6.8 6.0 4.2 12,504 11.2 14,950 17,791 17.4 25,830 22.2 16.6 29,377 7,861 14.3 (億円) (%) 24 20 16 12 8 4 0 (注 1)相続税収は各年度の税収であり、贈与税収を含む(平成23年度以前は決算額、平成24年度は補正後予算額、 平成25年度は予算額)。 (注 2)課税件数、納付税額及び合計課税価格は「国税庁統計年報書」により、死亡者数は「人口動態統計」(厚生労 働省)による。 課税割合(年間課税件数/年間死亡者数)

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(参考 3 ) 相続税の基礎控除額の水準 改正年 (定額部分)基礎控除 ⓐ 資産価値の変動 ⓐ×ⓑ 100 改正当時 足 元 (地価:H24、物価:H23) 平均ⓑ 昭和50年 (参考) 昭和59年 地価 100 82.4 98.7 3,000万円 物価 100 115.0 2,000万円 地価 100 126.5 152.3 物価 100 178.0 (注) 地価は「地価公示」(国土交通省)の全国・全用途に係る値により、物価は「消費者物価指数」(総務省) の総合指数による。

3  改正の内容

 相続税の基礎控除が次のとおり引き下げられま した(相法15①)。 改正前 改正後 定額控除 5,000万円 3,000万円 法定相続人 比例控除 1,000万円 × 法定相続人の数 600万円 × 法定相続人の数

4  適用関係

 平成27年 1 月 1 日以後に相続又は遺贈により取 得する財産に係る相続税について適用され、同日 前に相続又は遺贈により取得した財産に係る相続 税については従前どおりとされています(改正法 附則 1 五ロ、10①)。

二 相続税・贈与税の税率構造の見直し

1  改正前の制度の概要

 相続税の税率は、同一の被相続人から相続又は 遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続 税の課税価格の合計額から遺産に係る基礎控除を 控除した残額を相続税法に規定する法定相続人の 全員が民法の法定相続分の割合によって取得した ものと仮定した場合における各取得金額に対して、 以下の税率が適用されていました(旧相法16)。 各法定相続人の取得金額 税率 1,000万円以下の部分 10% 3,000万円 〃    15% 5,000万円 〃    20% 1 億円 〃    30% 3 億円 〃    40% 3 億円超の部分  50%  また、暦年課税の贈与税の税率は、贈与税の課 税価格(基礎控除及び配偶者控除後のもの)に対 して、以下の税率が適用されていました(旧相法 21の 7 )。 課税価格 税率 200万円以下の部分 10% 300万円 〃    15% 400万円 〃    20% 600万円 〃    30% 1,000万円 〃    40% 1,000万円超の部分  50%

2  税率構造の見直しの趣旨

 相続税の税率構造については、昭和63年以降、

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基礎控除の引上げと同様に、主にバブル期の地価 高騰等による税負担の増加に対処するとともに、 所得税や諸外国の事例も踏まえ、大幅な緩和(ブ ラケット幅の拡大、ブラケット数の縮小、最高税 率の引下げ)が行われてきました。しかしながら、 地価が下落した現在においては、こうした税率構 造の緩和が相続税の有する資産再分配機能を低下 させている一因となっていました。そこで、平成 25年度税制改正においては、相続税が所得税の補 完税であることに鑑み、今般、住民税と合わせて 55%に引き上げられる所得税の最高税率を踏まえ、 最高税率を55%に引き上げること、また、高課税 価格帯である40%、50%の税率区分について、そ の一部を一割程度引き上げることで、より高い遺 産額の場合を中心に再分配機能の回復を図るとの 考え方に基づいて相続税の税率構造の見直しを行 うこととされました。  また、贈与税の税率構造についても、贈与税は 相続税の補完税であることを踏まえ、相続税の見 直しに準じて、その税率構造の見直しを行うこと とされました(後掲「租税特別措置法等(相続 税・贈与税関係)の改正」の「一 Ⅱ  2  直系 尊属から贈与を受けた場合の贈与税の税率の特例 の創設」を参照)。 (注 1 ) 贈与税については、この改正に併せて、 高齢者層が保有する資産をより早期に現役 世代に移転させる観点から、20歳以上の者 が直系尊属から受ける贈与(死因贈与を除 きます。以下同じです。)について税率構造 を緩和する措置を租税特別措置法において 講ずることとされました。 (注 2 ) 相続時精算課税に係る贈与税の税率(20 %)の改正は行われていません。

3  改正の内容

 相続税及び贈与税の税率構造について、次のと おり見直しが行われました(相法16、21の 7 )。 ⑴ 相続税の税率構造 税率 各法定相続人の取得金額 改正前 改正後 10% 1,000万円以下の部分 1,000万円以下の部分 15% 3,000万円 〃    3,000万円 〃    20% 5,000万円 〃    5,000万円 〃    30% 1 億円 〃    1 億円 〃    40% 3 億円 〃    2 億円 〃    45% ― 3 億円 〃    50% 3 億円超の部分  6 億円 〃    55% ― 6 億円超の部分  ⑵ 贈与税の税率構造 税率 課税価格 改正前 改正後 10% 200万円以下の部分 200万円以下の部分 15% 300万円 〃    300万円 〃    20% 400万円 〃    400万円 〃    30% 600万円 〃    600万円 〃    40% 1,000万円 〃    1,000万円 〃    45% ― 1,500万円 〃    50% 1,000万円超の部分  3,000万円 〃    55% ― 3,000万円超の部分 

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4  適用関係

 平成27年 1 月 1 日以後に相続若しくは遺贈又は 贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税 について適用され、同日前に相続若しくは遺贈又 は贈与により取得した財産に係る相続税又は贈与 税については従前どおりとされています(改正法 附則 1 五ロ、10①②)。

三 相続時精算課税制度の改正

1  改正前の制度の概要

 贈与により財産を取得した受贈者は、その選択に より、暦年課税方式の贈与税の課税に代えて、相 続時精算課税制度の適用を受けることができます。  この相続時精算課税制度は、贈与時に贈与者か らの贈与により取得した財産に対する相続時精算 課税に係る贈与税を支払い、その贈与者の相続開 始の時に相続時精算課税制度に係る受贈財産と相 続又は遺贈により取得した財産とを合計した価額 を基に計算した相続税額から、既に支払った相続 時精算課税制度に係る贈与税に相当する金額を控 除することにより贈与税・相続税を通じた納税を することができるものです。 ⑴ 適用対象者(旧相法21の 9 ①) ① 贈与者  贈与をした年の 1 月 1 日において65歳以上 の者 ② 受贈者  ①の贈与者の推定相続人である直系卑属で ある者のうち、贈与を受けた年の 1 月 1 日に おいて20歳以上である者 ⑵ 贈与税額の計算 ① 相続時精算課税制度に係る贈与税の課税価 格(相法21の10)  相続時精算課税適用者がその相続時精算課 税制度に係る贈与者(以下「特定贈与者」と いいます。)から贈与により取得した財産に ついては、特定贈与者ごとにその年中におい て贈与により取得した財産の価額を合計し、 それぞれの合計額をもって相続時精算課税制 度に係る贈与税の課税価格とされます。 ② 相続時精算課税制度に係る贈与税の特別控 除(相法21の12)  相続時精算課税適用者がその年中において 特定贈与者からの贈与により取得した財産に 係るその年分の贈与税については、特定贈与 者ごとの相続時精算課税制度に係る贈与税の 課税価格からそれぞれ次に掲げる金額のうち いずれか低い金額を控除することができます (相法21の12①)。 イ 2,500万円(既にこの相続時精算課税制 度に係る特別控除により控除した金額があ る場合には、その金額の合計額を控除した 残額) ロ 特定贈与者ごとの相続時精算課税制度に 係る贈与税の課税価格 ③ 相続時精算課税制度に係る贈与税の税率 (相法21の13)  相続時精算課税適用者がその年中において 特定贈与者からの贈与により取得した財産に 係るその年分の贈与税の額は、特定贈与者ご との上記①の相続時精算課税制度に係る贈与 税の課税価格(上記②の相続時精算課税制度 に係る贈与税の特別控除の適用がある場合に は、その特別控除額を控除した金額)にそれ ぞれ20%の税率を乗じて計算した金額となり ます。 ⑶ 相続税額の計算  特定贈与者から相続又は遺贈により財産を取 得した者及びその特定贈与者に係る相続時精算 課税適用者の相続税の計算については、相続時 精算課税制度を選択した年分以後の年にその特

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定贈与者からの贈与を受けた財産の贈与時にお ける価額と相続財産の価額を合計した価額(相 続時に財産を取得しない場合には、贈与を受け た財産の贈与時における価額を合計した価額) を相続税の課税価格として計算した相続税額か ら、相続時精算課税制度に係る贈与税の税額に 相当する金額を控除することにより、納付すべ き相続税額を算出することとなります(相法21 の14~21の16)。

2  改正の趣旨

 現在、わが国の家計資産の 6 割は世帯主が60歳 以上の家計が保有しており、資産の多くを高齢者 が保有している状況にあります。そうした中、被 相続人の高齢化が進み、相続又は遺贈による若年 世代への資産移転が進みにくい状況ともなってい ます。このような状況を踏まえ、平成25年度税制 改正においては、高齢者層が保有する資産をより 早期に現役世代に移転させ、消費拡大や経済活性 化を図る観点から、相続税の見直しと併せて贈与 税について見直しを行うこととされました。  相続時精算課税制度の見直しについては、本制 度は、被相続人が行った生前贈与について、最終 的に相続時に相続税として精算するものであり、 これにより、①資産移転の時期をより柔軟に選択 できることとなること、②相続税の課税対象とな らない層(相続発生件数の96%程度)にとっては、 実質的に税負担なく生前贈与が行えることといっ た意義があり、もともと世代間の資産移転を促進 することに寄与する制度ではありますが、今般、 本制度について、制度導入後の運用状況を踏まえ、 若年世代への資産の早期移転を促進する観点から、 ①贈与者の対象年齢を65歳から60歳に引下げ、② 受贈者に孫を追加(租税特別措置法における措 置)といった制度の対象範囲の拡大を行こととさ れました。

3  改正の内容

 相続時精算課税制度の適用対象となる贈与に係 る贈与者の年齢要件が贈与をした年の 1 月 1 日に おいて60歳以上(改正前65歳以上)に引き下げら れました(相法21の 9 ①)。

4  適用関係

 平成27年 1 月 1 日以後に贈与により取得する財 産に係る贈与税について適用され、同日前に贈与 により取得した財産に係る贈与税については従前 どおりとされています(改正法附則 1 五ロ、10②)。 (参考 1 ) 世帯主の年齢階級別資産残高の分布の推移 元年 (注)総務省「全国消費実態調査」(2 人以上の世帯)により作成。 金融資産 資産総額(純資産) 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上 30歳未満 30歳未満 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上 21年 元年 21年 1.5% 0.5% 6.3%13.1% 21.5% 33.9% 24.8% 12.8% 1.5% 10.9% 0.6% 5.8%12.5% 21.9% 33.5% 25.7% 23.3% 29.3% 24.9% 10.3% 25.9% 27.8% 22.9% 9.0%

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(参考 2 ) 相続税の申告からみた被相続人の年齢の構成比 〈構成比〉 (%) 平元 59歳以下 子の年齢は、 20歳代以下が想定される 子の年齢は、30歳代が想定される 子の年齢は、40歳代が想定される 子の年齢は、50歳代以上が想定される 被相続人の 死亡時の年齢 80歳以上 60歳∼69歳 70歳∼79歳 平10 平 22 70 60 50 40 30 20 10 11.5 8.3 4.7 平元 平10 平 22 平元 平10 平 22 平元 平10 平 22 18.7 15.0 8.7 30.2 29.8 21.0 38.9 46.5 65.6 0

四 未成年者控除等の引上げ

1  未成年者控除の引上げ

⑴ 改正前の制度の概要  未成年者控除は、相続又は遺贈により財産を 取得した者が、その相続又は遺贈に係る被相続 人の相続人(相続の放棄があった場合には、そ の放棄がなかったものとした場合における相続 人)に該当し、かつ、20歳未満の者である場合 に、その者の相続税額からその者が20歳に達す るまでの年数( 1 年未満の端数は 1 年としま す。)に 6 万円を乗じた金額を控除することと されていました(旧相法19の 3 ①)。  また、その控除を受けることができる金額が 未成年者の相続税額を上回る場合の控除不足額 は、その未成年者の扶養義務者の税額から控除 をすることができます(相法19の 3 ②)。  さらに、未成年者控除の適用を受ける者が他 の相続において、すでに未成年者控除を受けた ことがある者である場合には、その控除を受け ることができる金額は、既に控除を受けた金額 の合計額が前回の相続時の控除可能額( 2 回以 上控除を受けた場合には、 1 回目の相続時の控 除可能額)に満たなかった部分の金額の範囲に 限られています(相法19の 3 ③)。 ⑵ 改正の趣旨及び内容  未成年者控除は、未成年である相続人が成年 に達するまでの養育費等を控除する趣旨から、 昭和25年のシャウプ勧告に基づき創設されたも のですが、昭和33年度改正において、相続税の 課税方式が現行の課税方式に改められた際に、 課税価格からの控除から現行の税額控除方式 (控除額 1 万円)に改正されました。その後、 控除額は、昭和48年度改正において 2 万円、昭

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和50年度改正において 3 万円、昭和63年度改正 において 6 万円に引き上げられてきました。  平成25年度改正においては、20年以上据え置 かれてきた控除額について、昭和63年以降の物 価上昇率、今般の相続税の見直しによる負担増 等を勘案し、10万円に引き上げることとされま した(相法19の 3 ①)。 改正前 改正後 20歳までの 1 年につき 6 万円 20歳までの 1 年につき10万円 ⑶ 適用関係  平成27年 1 月 1 日以後に相続又は遺贈により 取得する財産に係る相続税について適用され、 同日前に相続又は遺贈により取得した財産に係 る相続税については従前どおりとされています (改正法附則 1 五ロ、10①)。  なお、既にこの控除を受けたことがある場合 には、次の相続の際に控除できる金額は、前回 の控除不足額の範囲内に限られますが(相法19 の 3 ③)、この特例として経過措置(過去に控 除額が引き上げられた時の経過措置と同様のも の)が設けられています(改正法附則12)。  すなわち、未成年者が、その者又は扶養義務 者の平成27年 1 月 1 日前に相続又は遺贈により 取得した財産に係る相続税について旧法による 未成年者控除の適用を受けたことがある者であ る場合には、未成年者控除額は当初の相続時 ( 2 回以上未成年者控除の適用を受けている場 合には、最初の相続時)における未成年者の20 歳に達するまでの年数に改正後の10万円を乗じ て計算した金額から既に控除を受けた金額を控 除した残額の範囲内の金額とすることとされて います。

2  障害者控除の引上げ

⑴ 改正前の制度の概要  障害者控除は、相続又は遺贈により財産を取 得した者がその相続又は遺贈に係る被相続人の 相続人(相続の放棄があった場合には、その放 棄がなかったものとした場合における相続人) に該当し、かつ、障害者である場合には、その 者の相続税額から 6 万円(その者が特別障害者 である場合には、12万円)にその者が85歳に達 するまでの年数(その年数に 1 年未満の端数が あるときは、これを 1 年とします。)を乗じた 金額を控除することとされていました(旧相法 19の 4 ①)。  なお、控除不足額等の取扱いは、未成年者控 除と同様とされています(相法19の 4 ③)。 (注 1 ) 障害者とは、精神上の障害により事理を 弁識する能力を欠く常況にある者、失明者 その他の精神又は身体に障害がある者で次 に掲げるものをいいます。 ① 児童相談所、知的障害者更生相談所、 精神保健福祉センター又は精神保健指定 医の判定により知的障害者とされた者 ② ①のほか、精神障害者保健福祉手帳の 交付を受けている者 ③ 身体障害者手帳に身体上の障害がある 者として記載されている者 ④ ①~③のほか、戦傷病者手帳の交付を 受けている者 ⑤ ③、④のほか、原子爆弾被爆者に対す る援護に関する法律第11条第 1 項の規定 による厚生労働大臣の認定を受けている 者 ⑥ 上記のほか、常に就床を要し、複雑な 介護を要する者のうち、その障害の程度 が①又は③に掲げる者に準ずるものとし て市町村長又は特別区の区長(社会福祉 法に定める福祉に関する事務所が老人福 祉法第 5 条の 4 第 2 項各号に掲げる業務 を行っている場合には、その福祉に関す る事務所の長。(注 2 )までにおいて「市 町村長等」といいます。)の認定を受けて いる者 ⑦ 上記のほか、精神又は身体に障害のあ る年齢65歳以上の者で、その障害の程度 が①又は③に掲げる者に準ずるものとし

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て市町村長等の認定を受けている者 (注 2 ) 特別障害者とは、障害者のうち精神又は 身体に重度の障害がある者で、次に掲げる ものをいいます。 ① (注 1 )①に掲げる者のうち、精神上の 障害により事理を弁識する能力を欠く常 況にある者又は児童相談所、知的障害者 更生相談所、精神保健福祉センター若し くは精神保健指定医の判定により重度の 知的障害者とされた者 ② (注 1 )②に掲げる者のうち、精神障害 者保健福祉手帳に障害等級が 1 級である 者として記載されている者 ③ (注 1 )③に掲げる者のうち、身体障害 者手帳に身体上の障害の程度が 1 級又は 2 級である者として記載されている者 ④ (注 1 )④に掲げる者のうち、恩給法別 表第 1 号表の 2 の特別項症から第 3 項症 までである者として記載されている者 ⑤ 原子爆弾被爆者に対する援護に関する 法律第11条第 1 項の規定による厚生労働 大臣の認定を受けている者 ⑥ (注 1 )⑥に掲げる者のうち、その障害 の程度が①又は③に掲げる者に準ずるも のとして市町村長等の認定を受けている 者 ⑦ (注 1 )⑦に掲げる者のうち、その障害 の程度が①又は③に掲げる者に準ずるも のとして市町村長等の認定を受けている者 ⑵ 改正の趣旨及び内容  障害者控除は、被相続人の死後に残された障 害者の生活の安定に資する見地から障害者であ るがゆえに余分に生活経費等がかかることを考 慮して昭和47年度改正において創設されたもの であり、その控除額は未成年者控除と同様に引 き上げられてきました。平成25年度改正におい ては、未成年者控除と同様に、20年以上据え置 かれてきた控除額について、昭和63年以降の物 価上昇率、今般の相続税の見直しによる負担増 等を勘案し、10万円に引き上げることとされま した(相法19の 4 ①)。 改正前 改正後 85歳までの 1 年につき 6 万円 (特別障害者については、 12万円) 85歳までの 1 年につき 10万円 (特別障害者については、 20万円) ⑶ 適用関係  平成27年 1 月 1 日以後に相続又は遺贈により 取得する財産に係る相続税について適用され、 同日前に相続又は遺贈により取得した財産に係 る相続税については従前どおりとされています (改正法附則 1 五ロ、10①)。  なお、未成年者控除と同様に、既にこの控除 を受けたことがある場合の所要の経過措置が設 けられています(改正法附則13)。

五 相続税及び贈与税の納税義務の見直し

1  改正前の制度の概要

 相続税の納税義務者と納税義務の範囲は以下の とおりとされていました(旧相法 1 の 3 )。 ⑴ 無制限納税義務者  相続又は遺贈により取得した財産のすべてに ついて納税義務を負う者で次に掲げる者をいい ます。 ① 相続又は遺贈により財産を取得した個人で その財産を取得した時において日本国内に住 所を有している者 ② 相続又は遺贈により財産を取得した個人で その財産を取得した時において日本国籍を有 している者のうち日本国内に住所を有しない もの(その者又はその相続若しくは遺贈に係

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る被相続人が相続開始前 5 年以内に日本国内 に住所を有したことがある場合に限ります。) ⑵ 制限納税義務者  相続又は遺贈により財産を取得した個人でそ の財産を取得した時において日本国内に住所を 有していない者(上記⑴②に掲げる者を除きま す。)については、その相続又は遺贈により取 得した財産のうち日本国内にある財産のみに対 して相続税を納める義務があるものとされてい ます。 ⑶ 特定納税義務者  被相続人から相続又は遺贈により財産を取得 しなかった者のうち、相続税法第21条の16第 1 項の規定により相続時精算課税の適用を受ける 財産をその被相続人から相続又は遺贈により取 得したものとみなされるものをいいます。 (注) 上記⑶を除き、贈与税の納税義務について も相続税の納税義務と同様です(旧相法 1 の 4 )。

2  改正の趣旨

 相続税及び贈与税の納税義務については、平成 12年度税制改正において経済のグローバル化等と いった経済社会状況の変化への対応、課税の公平 確保・租税回避行為の防止等の観点から上記 1 ⑴ ②の者について、従来は相続若しくは遺贈又は贈 与により取得した財産で日本国内にあるものが相 続税又は贈与税の課税対象とされていたところ、 日本国外にある財産についても相続税又は贈与税 の課税対象とすることとされました。この改正に より日本国外の居住者についても一定の範囲で国 外に所在する財産の取得に対する課税が行われる ようになりましたが、近年では、例えば、海外で 生まれた孫等で、日本国籍を取得しなかった者に 国外に所在する財産の贈与等をすることによって、 贈与税の課税を回避するなどこの平成12年度税制 改正後の制度によっても対応できない租税回避行 為も見受けられるようになってきました。そこで、 平成25年度税制改正においては、こうした租税回 避に対応するため、日本国籍を有しない国外居住 者についても一定の範囲で相続若しくは遺贈又は 贈与により取得した国外財産について相続税又は 贈与税の課税対象とすることとされました。 (参考) アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス においては、被相続人又は贈与者が国内居 住者であれば、相続人若しくは受遺者又は 受贈者が国外居住で外国籍の者であっても、 相続若しくは遺贈又は贈与により取得した 国外財産について相続税又は贈与税を課税 することとされています。

3  改正の内容

 相続若しくは遺贈又は贈与により相続税法の施 行地外にある財産を取得した個人でその財産を取 得した時において同法の施行地に住所を有しない 相続人若しくは受遺者又は受贈者のうち日本国籍 を有しない者(その相続若しくは遺贈又は贈与に 係る被相続人又は贈与者が、相続開始又は贈与の 時において同法の施行地に住所を有していた場合 に限る。)は、相続税又は贈与税を納める義務が あるものとされました(相法 1 の 3 、 1 の 4 )。

4  適用関係

 平成25年 4 月 1 日以後に相続若しくは遺贈又は 贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税 について適用し、同日前に相続若しく遺贈又は贈 与により取得した財産に係る相続税又は贈与税に ついては従前どおりとされています(改正法附則 11)。

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六 特別障害者に対する贈与税の非課税の改正

1  改正前の制度の概要

 特別障害者が、その特別障害者を受益者とする 特別障害者扶養信託契約に基づいてその信託契約 に係る財産の信託がされることにより信託受益権 を有することとなる場合において、その信託の際、 その信託受益権について障害者非課税信託申告書 を納税地の所轄税務署長に提出したときは、その 信託受益権の価額のうち6,000万円までの金額に 相当する部分の価額については、贈与税が非課税 とされていました(旧相法21の 4 ①)。  特例の対象となる特別障害者扶養信託契約とは、 個人(委託者)が受託者たる信託会社と締結した 特定の財産の信託に関する契約で、次の要件を満 たすものをいいます(旧相法21の 4 ②、旧相令 4 の11)。 ① 特別障害者を信託受益権の全部について受 益者とするものであること ② 信託の受益者である特別障害者の死亡後 6 カ月を経過する日に終了されることとされて いること ③ 取消し又は解除をすることができず、かつ、 その信託の期間及びその契約に係る①の受益 者は変更することができない旨の定めがある こと ④ 特別障害者への信託財産の交付に係る金銭 (収益の分配を含みます。)の支払いは、その 特別障害者の生活又は療養の需要に応じるた め、定期に、かつ、その実際の必要に応じて 適切に行われることとされていること ⑤ 信託財産の運用は、安定した収益の確保を 目的として適正に行われることとされている 国 内 財 産 国 外 財 産 と も に 課 税 国 内 財 産 の み に 課 税 (注)上図の破線内は、米英独仏等においては国外財産にも 課税。 国外に居住する相続人等に対する相続税・贈与税の課税の適正化 ○ 相続人等が国外に居住している場合において、その相続人等が日本国籍を有するときは、国外財 産についても課税される一方で、日本国籍を有しないときは課税されない。 ○ 子や孫等に外国籍を取得させることにより、国外財産への課税を免れるような租税回避事例が生 じていることから、相続税・贈与税の納税義務の範囲について見直しを行う。 国  内 国  外 父 相続・贈与 相続・贈与 国外財産 国外財産 課税 課税なし 【改正後】 課 税 子 日本国籍 孫 外国籍 ↑ 外国で出生 日本国籍 取得せず 【平成23年度 国籍喪失者・取得者数】 国籍喪失者 国籍取得者 880人 1,207人 (注)「国籍喪失者」には、外国で出生し外国籍を取得した日本 国民で国籍留保しなかった者が含まれ、「国籍取得者」には、 この者が日本国籍を取得した場合が含まれている。 (出典)法務省 HP より。 【相続税・贈与税の納税義務の範囲(改正前)】 相続人 受贈者 被相続人 贈 与 者 国内に居住 国外に居住 5 年以内に国 内 に 住 所 あ り 5 年以内に 国 内 に 住 所 あ り 上 記 以 外 国内に居住 国外に居住 日本国籍あり 日 本 国 籍 な し 左記以外 国 内 財 産 国 外 財 産 と も に 課 税 国 内 財 産 の み に 課 税 ︻改正後︼ 国外財産も課税対象に。

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こと ⑥ 信託受益権について、その譲渡に係る契約 を締結し、又はこれを担保に供することがで きない旨の定めがあること  また、特別障害者扶養信託契約に基づいて信託 することができる財産は、次のものに限られてい ます(旧相令 4 の10)。 ① 金銭 ② 有価証券 ③ 金銭債権 ④ 立木及びその林地 ⑤ 継続的に相当の対価を得て他人に使用させ る賃貸不動産 ⑥ ①~⑤に掲げるいずれかの財産とともに信 託される特別障害者の居住用不動産  なお、本制度の適用を受けることができる特別 障害者とは、相続税の障害者控除の対象となる特 別障害者と同じであり、障害者のうち精神又は身 体に重度の障害がある者(「四 未成年者控除等 の引上げ」の 2 ⑴(注 2 )を参照)で国内に居住 する者をいいます(旧相法21の 4 ①)。

2  改正の趣旨及び内容

 本制度は、生活能力に乏しい重度の障害者の親 などの扶養者の死亡後の生活の安定に資するため、 昭和50年度改正において創設されたもので、その 後昭和63年に非課税限度額が6,000万円(改正前 3,000万円)に引き上げられています。  近年、障害者を取り巻く環境は、障害者自立支 援法(現:障害者の日常生活及び社会生活を総合 的に支援するための法律)の施行等により、知的 障害者・精神障害者をはじめとする障害者につい て、入院医療から地域生活への移行が進む一方で、 障害者の高齢化・独居化も進行していて、障害者 が自立して生活できるような支援が求められてい るところです。こうした障害者の地域移行の拡大 を踏まえ、同法の改正等により障害者の「親亡き 後」を支援するための対策も講じられています。  このような状況を踏まえ、財産管理の手法であ る信託を活用した本制度の適用対象となる障害者 について、中軽度の知的障害や精神障害のある者 にまで拡充することとされました。

3  改正の内容

 適用対象となる障害者について、次に掲げる者 が追加され、これらの者に係る非課税限度額は 3,000万円とされました(相法21の 4 ①、相令 4 の 8 )。 ① 精神上の障害により事理を弁識する能力を 欠く常況にある者又は児童相談所、知的障害 者更生相談所、精神保健福祉センター又は精 神保健指定医の判定により知的障害者とされ た者 ② ①のほか、精神障害者保健福祉手帳の交付 を受けている者 ③ 精神又は身体に障害のある者で、その障害 の程度が①に掲げる者に準ずるものとして市 町村長等の認定を受けている者  また、対象となる障害者の範囲が拡充されたこ とに伴い、本制度の名称及び本制度の適用対象と なる信託契約の名称に用いられている「特別障害 者」という用語は、「特定障害者」に改められま した。  なお、本制度の適用対象となる契約の終了の日 は、特別障害者の死亡後 6 カ月を経過する日とさ れていましたが、これが特定障害者の死亡の日と されています。 (注) 平成18年の改正前の旧信託法では、「信託の 終了」が「信託の清算」までを意味するもの と解されていました。このため、相続税法に おいて、信託の清算事務に必要な期間を設け る必要があり、信託終了日(=清算結了日) を特別障害者の死亡後 6 カ月とされていまし た。  平成18年の信託法改正により、「信託の終 了」に加え、「信託の清算」という概念が明確 化されたことにより(信託法175)、相続税法 において信託の清算事務に必要な期間を別途 規定する必要がなくなったことから、今般、 適用対象となる障害者の範囲の見直しと併せ

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て改正されることになりました。この改正に より、特別障害者の死亡の日から信託終了日 までの間は、帰属権利者が設定されている場 合でも、一時的に相続人に受益権が相続され ることなく、特別障害者の死亡の日を信託終 了日とすることで、帰属権利者への円滑な権 利移転を図ることが可能となります。

4  適用関係

 平成25年 4 月 1 日以後にされる特定障害者扶養 信託契約に基づく信託について適用され、同日前 にされた特別障害者扶養信託契約に基づく信託に ついては従前どおりとされています(改正法附則 14)。

七 相続税の物納制度の改正

1  改正前の制度の概要

 相続税については、金銭で納付困難な金額を限 度として、相続税を年賦で納めることができる延 納の制度がありますが、延納によっても金銭で納 付することを困難とする事由があるときは、その 困難とする金額を限度として一定の相続財産によ る物納を行うことができる制度が設けられていま す(相法41①)。  物納の許可を申請しようとする者は相続税の納 期限までに、又は納付すべき日に物納の申請書に 物納手続関係書類を添付して申請しなければなら ないこととされています(相法42①)。  この物納制度においては、抵当権が設定されて いる等、国において管理又は処分することが不適 格な財産については、「管理処分不適格財産」と して、物納することができないこととなっていま す(相法41②)。  この管理処分不適格財産としては、「暴力団員 による不当な行為の防止等に関する法律(平成 3 年法律第77号)」に規定する暴力団の事務所その 他これに類するものの用に供されている不動産 ( 相 令 第18条 第 1 号 ル、 相 規 第21条 第 8 項 第 2 号)や、法令上必要な書類を提出する見込みがな い株式(相令第18条第 2 号)等が定められていま す。 (参考) 管理処分不適格財産 (不動産) 1 .抵当権の目的となっている不動産、差 押えがされている不動産 2 .権利の帰属について争いのある不動産 (所有権の存否又は帰属について争いがあ るもの等) 3 .境界が明らかでない不動産 4 .隣地に越境している建物がある土地等で、 隣接する不動産の所有者等と争訟となる 蓋然性が高い不動産 5 .囲繞地で通行権が明確でないもの 6 .借主が不明の貸地 7 .通常、他の財産と一体で管理処分され る財産で、単独で処分することが不適当 なもの 8 .耐用年数を経過した建物 9 .敷金返還等の債務を国が負担すること となる貸地等で、その財産の収納により 国が債務を負うことになるもの 10.土壌汚染地等で、国が管理処分するた めの費用が収納価額と比して過大となる と見込まれるもの 11.性風俗営業等の用に供されている不動 産 12.廃棄物が処分されていないこと等、通常、 物件の引渡しに際して行われる行為がさ れていない不動産 (株式) 1 .物納された株式を一般競争入札により 売却する場合に、金融商品取引法上必要 な書類を提出する見込がないもの 2 .譲渡制限株式 3 .質権その他担保権の目的となっている

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株式 4 .権利の帰属について争いがある株式 5 .共有の株式 (その他の財産)  上記の不動産及び株式に準ずるものとして 税務署長が認めるもの

2  改正の趣旨

 このように暴力団事務所の用途に使用されてい る不動産は、管理処分不適格財産とされています が、暴力団事務所に使用されていなければ、暴力 団員等( 3 ⑴①イに掲げる者をいいます。以下同 じです。)が地上権、永小作権、賃借権等の、何 らかの使用・収益を目的とする権利を設定してい る不動産であったとしても、物納に充てることが できることとなっていました。  また、株式についても、暴力団員等と関係を有 する法人の株式であっても、改正前の管理処分不 適格財産に該当しなければ、物納に充てることが できることとなっていました。  しかし、例えば、暴力団員等が借地権を有する 土地や暴力団員等を役員とする法人の株式を国が 収納した場合には、一般競争入札等により売却す ることが困難であり、物納財産を早期に換価処分 することができないこととなります。  また、最近では、暴力団員による不当な行為の 防止等に関する法律の一部を改正する法律(平成 24年法律第53号)により、国の事務・事業に対す る暴力団員等による不当な行為の防止・不当な影 響の排除が国の責務として定められるなどの流れ がある中で、これらの財産が物納されると、国自 体が、暴力団員等と賃借等の契約関係を締結する ことや暴力団員等と何らかの関係を有する法人の 株主となることで、不当な影響を受けることも考 えられます。  こうしたことを踏まえ、今般、暴力団員等が何 らかの使用・収益を目的とする権利を設定してい る不動産や暴力団員等を役員とする法人の株式に ついては、管理処分不適格財産として管理するこ ととし、物納に充てることができないこととされ ました。

3  改正の内容

⑴ 管理処分不適格財産として、以下の 2 つが追 加されました(相令18一ワ、二へ)。 ① 地上権、永小作権、賃借権その他の使用及 び収益を目的とする権利が設定されている不 動産で、次に掲げる者がその権利を有してい るもの イ 暴力団員による不当な行為の防止等に関 する法律第 2 条第 6 号に規定する暴力団員 又は暴力団員でなくなった日から 5 年を経 過しない者 ロ 暴力団員等によりその事業活動を支配さ れている者 ハ 法人で暴力団員等を役員等(取締役、執 行役、会計参与、監査役、理事及び監事並 びにこれら以外の者で当該法人の経営に従 事している者並びに支配人をいいます。) とするもの ② 暴力団員等によりその事業活動を支配され ている株式会社又は暴力団員等を役員(取締 役、会計参与、監査役及び執行役をいいま す。)とする株式会社が発行した株式 (参考) 暴力団員による不当な行為の防止等に関 する法律(抄)(平成 3 年法律第77号) (定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げ る用語の意義は、それぞれ当該各号に定め るところによる。 一 暴力的不法行為等 別表に掲げる罪の うち国家公安委員会規則で定めるものに 当たる違法な行為をいう。 二 暴力団 その団体の構成員(その団体 の構成団体の構成員を含む。)が集団的に 又は常習的に暴力的不法行為等を行うこ とを助長するおそれがある団体をいう。 三 指定暴力団 次条の規定により指定さ れた暴力団をいう。 四 指定暴力団連合 第四条の規定により

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指定された暴力団をいう。 五 指定暴力団等 指定暴力団又は指定暴 力団連合をいう。 六 暴力団員 暴力団の構成員をいう。 七 暴力的要求行為 第九条の規定に違反 する行為をいう。 八 準暴力的要求行為 一の指定暴力団等 の暴力団員以外の者が当該指定暴力団等 又はその第九条に規定する系列上位指定 暴力団等の威力を示して同条各号に掲げ る行為をすることをいう。 ⑵ また、管理処分不適格財産が追加されたこと に伴い、物納手続関係書類に次の書類が追加さ れました(相規22②~④)。 ① 物納に充てようとする財産が土地である場 合において、その土地に土地使用収益権が設 定されているとき又は設定されることとなる とき(その土地に土地使用収益権を設定し、 物納の許可の申請をする者が土地使用収益権 者となる場合を除きます。)  土地使用収益権者(金融商品取引所におい て上場されている法人を除きます。)が上記 ⑴①イからハまでに掲げる者に該当しないこ とをその土地使用収益権者が誓約する書面 (その土地使用収益権者が法人である場合に あっては、その法人が上記⑴①ロ又はハに掲 げる者に該当しないことをその法人の代表者 が誓約する書面並びにその法人の上記⑴①ハ の役員等の名簿でその役員等の氏名、生年月 日、住所又は居所及び性別の記載があるも の) (注) 土地使用収益権とは、地上権、永小作権、 賃借権その他の土地の使用及び収益を目的 とする権利をいい、土地使用収益権者とは、 土地使用収益権を有する者をいいます。 ② 物納に充てようとする財産が建物である場 合(その建物に賃借権を設定し、物納の許可 の申請をする者が賃借人となる場合を除きま す。)  建物の賃借人(金融商品取引所において上 場されている法人を除きます。)が上記⑴① イからハまでに掲げる者に該当しないことを その建物の賃借人が誓約する書面(その建物 の賃借人が法人である場合にあっては、その 法人が上記⑴①ロ又はハに掲げる者に該当し ないことをその法人の代表者が誓約する書面 並びにその法人の上記⑴①ハに規定する役員 等の名簿でその役員等の氏名、生年月日、住 所又は居所及び性別の記載があるもの) ③ 物納に充てようとする財産が非上場株式 (金融商品取引所において上場されている法 人が発行する株式(金融商品取引所に上場さ れている法人に類する法人が発行する株式を 含みます。)以外の株式をいいます。)である 場合 イ 非上場株式に係る法人の上記⑴②の役員 の名簿でその役員の氏名、生年月日、住所 又は居所及び性別の記載があるもの ロ 非上場株式に係る法人が上記⑴②の株式 会社に該当しないことをその法人の代表者 が誓約する書面

4  適用関係

 平成25年 4 月 1 日以後に相続又は遺贈により取 得する財産に係る相続税について適用され、同日 前に相続又は遺贈により取得した財産に係る相続 税については従前どおりとされています(改正令 附則 3 )。

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 アメリカの FATCA の制度を受けてヨーロッパ5ヵ国が,その対応につ いてアメリカと合意したことを契機として, OECD

基準の電力は,原則として次のいずれかを基準として決定するも

一︑意見の自由は︑公務員に保障される︒ ントを受けたことまたはそれを拒絶したこと

  支払の完了していない株式についての配当はその買手にとって非課税とされるべ きである。

夫婦間のこれらの関係の破綻状態とに比例したかたちで分担額

・毎回、色々なことを考えて改善していくこめっこスタッフのみなさん本当にありがとうございます。続けていくことに意味

 筆記試験は与えられた課題に対して、時間 内に回答 しなければなりません。時間内に答 え を出すことは働 くことと 同様です。 だから分からな い問題は後回しでもいいので

大村 その場合に、なぜ成り立たなくなったのか ということ、つまりあの図式でいうと基本的には S1 という 場