奈良教育大学学術リポジトリNEAR
英語コミュニケーション能力を規定する態度要因の 心理学的検討
著者 酒井 雅子
発行年 2010‑03‑25
URL http://hdl.handle.net/10105/2835
平成21年度修士論文
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英語コミュニケーション能力を規定する
態度要因の心理学的検討
豊田弘司 教官
藤田 正 教官
出口拓彦 教官
奈良教育大学大学院教育学研究科 学校教育専攻 教育心理学専修
071201 酒 井 雅 子
目 次
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1 問題と目的‑‑・・一一・‑‑‑‥・一一1
1. 1.はじめに
1. 2.外国語教授法の変遷
1. 3.日本における英語教育の実状と方向性 1. 4.研究の日的
2 研究I一・一一一‑・一・一一・‑・‑‑15
2. 1.日的 2. 2.方法
3.結果と考察
3 研究Ⅱ‑・‑一一‑一一・一一‑一一・24
3. 1.日的 3. 2.方法
3. 3.結果と考察
4 研究Ⅲ一一一一‑一一一一・‑‑・‑・29
1.日的 4. 2.方法
4. 3.結果と考察
5 おわりに 一一一・・‑一一一一‑‑‑・36
6 要約 一一・一一一一一‑‑一一‑‑・38
7 引用文献・‑‑・‑‑‑‑‑一一一一・39
1.問題と目的 1. 1.はじめに
小学校に英語学習が導入されることになり,コミュニケーションツー ルとしての英語の役割は大きくなっている。このような現状を考慮して, 英語学習の教育現場において,コミュニケーションという視点から授業 や学習方法を検討することは必要である。
本論文は,英語学習におけるコミュニケーションの役割を中心に,坐 徒がもつ英語学習に対する態度がどのように英語学習成績に反映し,そ れがコミュニケーション技能の向上に反映されているのかを検討し,さ らに英語学習における新しい方法論を提供することを目的とする試みで ある。
1. 2.外国語教授法の変遷
グローバル化された現代において,英語は共通語としての地位を確 実なものとしている。そのため,政治・経済・学問などのいずれの分 野においても,その主たる言語と して英語が用いられているo Lかし, 500年ほど前までは,現在の英語と同規模で一般的に用いられていた
言語は存在しなかった。その頃の西洋社会,とりわけ,ヨーロッパに おいて,教育,貿易,宗教,政治など多くの分野における主要言語は, ラテン語であった。 16憧紀になると,ヨーロッパ社会の政治的変化 に伴い,フランス語,イタリア語,英語などの言語がしだいにその重 要性を増し,それらの言語がラテン語に代わって国家間のコミュニケ ーションに用いられるようになってきた。同時に人々の意識も変化
し,ラテン語はヨーロッパにおける最重要言語としての地位を失って いったのであるO しかし,その後にも,教養語としてのラテン語の地
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位は維持され,高次の教養育成には欠かせない学習事項として,学校 (特にイングランドのグラマースクール)のカリキュラムには継続し て組み込まれてきたo それ以来18世紀頃までの長きに渡り,精神的 鍛錬や知性育成のため不可欠な履修内容としてヨーロッパにおける 学校教育の中核を担ったのであるo このように,教育現場におけるラ テン語の重要性が高まったことで,その指導に関する効果的な教授法 研究が進められることとなったQ その結果,数々の試行錯誤の末に形 成されたラテン語教授法は,外国語教授法の基本モデルとして後の英 語教授法にも強い影響を及ぼすものとなった。
ラテン語教授法は,例文による文法,格変化・動詞の活用,翻訳の 指導,及びそれぞれの知識の定着を図るための練習が学習の中心であ った。そして,このラテン語教授法は, 18世紀になって学校のカリ キュラムに導入されたラテン語以外の言語にも適用されてきた。その 後, 19世紀頃までは,ラテン語教授法が,学校教育における外国語 指導の王道として一般的に用いられたのである。歴史上,様々な観点 から多くの教授法が開発されてきたが, 21世紀の現在においても, ラテン語教授法に基づいた外国語指導法を用いている教育現場は少 なくないのである。
ラテン語教授法における学習目標は,学習対象言語で書かれた文 (内容)を理解すること,及び学習によって得られる精神的鍛錬と知 的発達にあるo そのため,学習はReadingとWritingを中心として 進められ,口頭練習は最小限に抑えられているO この教授法を応用し た代表的なモデルにGrammar Translation Method (GTM)があ る GTMは,ロシアの教授法と してアメリカに紹介されたのがその
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始まりである(Kelly, 1969) 。 GTMでは,文法や語貴の暗記に学 習の主眼が置かれており,英語の4技能のなかでもReading能力と Writing能力の育成が重視されている。したがって Listening能 力及びSpeaking能力の向上に関しては特に求められない。このよう なGTMの特徴から,現代においても,文学研究や文法学習などのよ
うに Listerling能力及びSpeaking能力の育成を目標としない現 場では,この教授法が主として用いられることになるのである。
しかし, 19世紀後半になると,ヨーロッパにおける国家間コミュ ニケーションの増大に伴い,次第にGTMに対する批判が高まってき た。その主なものは, GTMで行われているReadingとWritingを 重視した指導方法に対する批判であった。当時のヨーロッパでは,国 家間コミュニケーションの重要性が増すにつれ Reading能力や Writing能力の育成よりも Listening能力やSpeaking能力の育
成に強い関心が向けられるようになっていた。そこで Listening 能力及びSpeaking能力の育成を目標とした教授法の開発が求めら れるようになってきたのである。例えば C. Marcel,
T. Prendergast, F. Gouin らは,子どもの言語習得過程に注目し た教授法研究を行ったo 彼らは,第2言語(外国語)の獲得は,第1 言語(母国語)獲得と同様の過程で生じると考え,その考えに基づい た教授法の開発に取り組んだのである。そして,語嚢や文法事項に制 限を加え,学習対象言語のみを用いた行動やジェスチャーによる指導 方法を考案した。こうして考案された教授法が,後のSituational Language Teaching(SLT)やTotal Physical Response(TPR)
‑と発展する。その後, SLTやTPRなどの教授法から L.Sauveur
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らによる the Natural Method やMaximilian Berlitz らによる the Direct Methodなど,学習に用いられる言語を学習対象言語の みに限定した数多くの教授法が開発された。上記のような学習対象言 語のみによるListening及びSpeakingを中心とした指導法は,先 に述べたGTMのような文法や請負の暗記によるReading及び Writingを中心とした指導法に比べると Listening能力及び Speaking能力の育成には有効であるといえよう。
しかし 1920年代には早く も the Direct Methodによる言語 学習指導の限界が,イギリスの応用言語学者Henry Sweetによって 指摘された。彼は the Direct Methodのように学習対象言語のみ による教授法では,基礎的な学習が中心となり,言語習得に必要な他 の学習が不十分になるという問題点を指摘した。続く1920年 1930 年代には,アメリカにおけるAudiolingualism (Audioligual Method) そして,イギリスにおけるthe Oral Approachや Situational Language Teaching (the Situational Method)な
どの教授法が,応用言語学者によって捷案されることとなった。しか し,その後も個々の教授法に関する問堰点が次々と指摘され,その度 にまた新たな教授法が開発された。なかでも,多種多様な教授法が開 発された1950年代から1980年代は,正に言語教育の活動期である
といえよう。
1990年代には,これまでとは異なった観点からの外国語教授法開 発が幾つかなされているoその一つは, 「教え方(インプットの方法)」
ではなく「学習の結果生じるもの(アウトプット) 」に注目した Competency‑Based Instruction やContent‑Based
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Instruction, Task‑Based Language Teachingなどの教授法で あるo また,別の観点からは一般教育の分野で開発されてきた Collaborative Learning, Whole Language Approachや Multiple Intelligences などの教授法を外国語教授法に応用した 新たな指導法の開発がなされた。その中でも特に注目したい教授法 に,協同学習(Collaborative Learning)の考えに基づいた
Cooperative Language Learning(CLL)がある CLLでは,ペア 及びグループによる学習を中心とした学習活動が行われ,学習者は他 者との良好な相互関係のもとで学習を進める。すなわち,この教授法 は,学習過程における他者の介入に注目した指導法であると捉えるこ
とができよう。
CLLの代表的な提唱者であるOlsen.RとS.Kaganはその論文中 で,次のように協同学習を定義している。
"Cooperative Learning is group learning activity
organized so that learning is dependent on the socially
structured exchange of information between learners in
groups andin which eachlearneris held accountable for his
or her ownlearning andis motivated toincrease thelearning
of others. (Olsen & Kagan, 1992:8)
(協同学習では,各グループにおける学習者間の友好的に組織され た情報交換により,学習が進められる。そして,それぞれのグループ では,個々の学習者が自己の学習に責任を持ち,他の学習者の学習を 促すよう動機づけられている。 )
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●
この定義に示されたように,グループ活動における学習者間の円滑 な情報交換が学習の成立に深く関与することがCLLの特徴となって いる。したがって,これまでの外国語教授法研究における「教員がど のように教えるか」というティーチングスキルに注目した教授法(イ ンプット重視)とは異なり, 「学習者が他者との関わりの中でどのよ うに学習するか」という学習者の学習過程(インテイク) ,及び,学 習者と他者との関係性に注目しているという点で,非常に特徴的なの である。
上述してきたように,ラテン語教授法が開発されて以来,これまで に様々な外国語教授法が開発され,時代の流れに伴い,個々の教授法 は新たな問題点が指摘され,それを解消するために新しい教授法を生 み出すという循環を繰り返してきた。今日においても,同じように, 言語教育の現場では,既存の教授法から目的に適した様々な教授法が 選択され,それらが学習者の特徴に応じて柔軟に運用されている。我 が国の英語を中心とした外国語教育においても上記の状況は例外で はなく,教育現場ではより効果的な教授法開発のため多くの読みがな されている。このような教授法の柔軟な選択と運用のためには,英語 教育を通して育成されるべき能力を明確にする必要があるo そこで, 次項では,我が国における英語教育の現状を紹介しながら,今後の英 語教育を通して育成が求められる能力とその能力育成に有効な教授
法の特徴について述べることとする。
‑ 6 ‑
1. 3.日本における英語教育の実状と方向性
前項では,外国語教授法に関する歴史的変遷をみてきたが,ここで は,我が国における高等学校・英語教育の現状を紹介する。文部科学 省「英語教育改善実施状況調査(平成18年度) 」 (前回は平成17 年度)には,全国の公立高等学校(全日制)の英語授業に関する調査 報告が,以下のように掲載されている。
『英語の授業における教員の英語使用状況は,国際関係学科では,
「半数以上」あるいは「大半は英語を用いて行っている」は,オーラ ル・コミュニケーショ ンIで78.0% (前回78.4%) オーラル・コ ミュニケーションⅢで80.2% (前回83.1%)であった。これに対し て,その他の学科では,オーラル・コミュニケーションIで 53.3%
(前回54.8%) オーラル・コミュニケーションⅡで 53.5% (前 回54.4%)であった。また,生徒の英語使用状況は,オーラル・コ
ミュニケーションIにおいて, 「英語で生徒同士が対話する」につい て「毎回行う」は,国際関係学科では 68.3% その他の学科では, 44.0%であった。更に ALT (外国語指導助手)の授業‑の参加割
合は,国際関係学科で 30.8%(前回27.9%)その他の学科で13.9%
(前回14.1%)であった。 』 (文部科学省ホームページ 2006 「英 語教育改善実施状況調査(平成18年度)」主な結果概要一高等学校) 以上の結果は,英語のSpeaking能力及びListening能力育成に主 眼を置いたオーラル・コミュニケーショ ンの授業における調査結果で ある。したがって SpeakingやListening力育成をそれほど重視 しないその他の科目(例えば英語 n リーディング,ライティン グなど)における英語の使用率は,教員・生徒ともに更に低いことが
I 7 ‑
推測される。
この調査結果から判断すると,公立高等学校における英語の授業 は,英語によるインプットやアウトプットを中心としたものではな く,教員を中心とした母国語(日本語)によるものが主流であるとい えよう。すなわち,先に述べたGrammar Translation Method
(GTM)形式による授業が優勢であり,英語授業のほとんどが,語臭 や文法の暗記と教科書本文の訳読に費やされている可能性が高いの である。このような指導形態では ListeningやSpeaking活動は 付加的活動と見なされ,教科書の内容とは関連のない投げ込み教材や 受験用問題集などによる授業のWarming‑upまたは受験対策的活動 として用いられることが多くなる。それ故,これまでにListening 能力やSpeaking能力など,アウトプット能力の育成を目指す教授法 が多く開発されたにもかかわらず,日本の英語教育現場では,依然と
して,語嚢や文法事項の練習と暗記によるReading力及びWriting 力育成を目標とした指導が行われる傾向にある。極端な場合には, Reading力育成のみを目標とした授業が行われている可能性も義
いo その背景には,高等学校教員や生徒が大学入試を重視し, GTM による授業を,限られた時間で最大の成果が得られる効率的な教授法 であると信じている可能性がある。
平成15年度に発表された『英語が使える日本人』 (平成14年作 成)の育成のための戦略構想」は,上記の状況に苦慮した文部科学省
が,平成20年度を目指した英語教育改善の目標や方向性を示し,そ の実現のため国として取り組むべき施策を反映させたものである。そ して,先に示された「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構
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想」の中で述べられたように,平成14年度から, 「Super English Language High School(SELHi)」事業(平成20年まで)が, 「英 語教育の先進事例となるような学校づく りを推進するため,英語教育 を重点的に行う高等学校を指定し,英語教育を重視したカリキュラム の開発,大学や中学校等との効果的な連携方策等について実践研究を 実施する。 」ことを趣旨とし,全国の高等学校を対象に展開されたの であるO この研究指定を受けた高等学校は, 「英語が使える日本人」
の育成を目指し,数々の研究成果を報告したが, SELHi研究が英語 の授業改善を主たる目的としていたために,そこで行われた研究の多
くは,英語の4技能(Reading, Writing, Listening, Speaking) の向上に関する指導法の開発(方法論) ,つまり,教授スキルに関す るものであった。そして,これらの研究成果と してGTMによる授業 形態からの脱却を目指す教材開発や授業展開,カリキュラム開発等, 従来の授業に対する見直しと見直しに基づく改善策を軸とした様々 な提案がなされたのである。
ところで, 「 『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」で 揺,高等学校卒業段階で国が求める英語力の水準が, 「日常会話がで きる程度」と示されている。また,平成25年度から施行される「新 学習指導要領・外国語」の目標は, 「外国語を通じて,言語や文化に 対する理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度 の育成を図り,情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりす るコミュニケーション能力を養う。 」 (第8節 外国語 第1款) とされている。概して,国が目標とする高校卒業段階での英語力の水 準は,英語によるコミュニケーションが可能な水準であると捉えるこ
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とができる。新学習指導要領では,この目標達成のため,英語科の科 目に次のような変更が行われている。すなわち, 「英語I」や「英語
Ⅱ」が「コミュニケーション英語I」 「コミュニケーション英語Ⅱ」
に, 「オーラル・コミュニケーション」が「英語会話」に,また「英 語表現」 「コミュニケーション英語Ⅲ」が新設され,現行の指導要領 では「読む」 「書く」能力育成のために設けられていた「ReadingJ
「Writing」が姿を消したことである。したがって,今日,英語教育 の現場に求められていることは,これまでのような授業者を中心とし た訳読式の授業形態から,学習者を中心としたコミュニケーション活 動‑繋がる授業形態‑の転換なのである。
では, 「コミュニケーション能力」の育成には,従来行ってきたよ うな英語の4技能に関する指導の充実だけで充分だと言えるであろ うかo 先に述べたように SELHiを始めこれまでの英語教授法研究 では,主として英語の4技能の育成に関する研究が行われてきた。言 い換えれば,コミュニケーション場面での英語力,つまりスキル面に 関する指導方法についての研究であったといえよう。そして,そこで は,コミュンケ‑シヨン場面で必要とされる別の要因についてはほと んど注目されてこなかったのである。しかし,実際のコミュニケーシ
ョン場面では,英語力以外の要因,例えば,他者との関わり方がコミ ュニケーションの成功を規定するうえで重要な要因となる。したがっ て,円滑なコミュニケーションを規定する要因として他者との関わり 方,つまり「態度」という要因について検討し,それらの要因に関す
る指導を英語指導の現場に取り入れていく ことが重要なのである。
それでは, 「コミュニケーションを図ろうとする態度」に関与する
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要因には,どのようなものが考えられるのであろうか。その要因につ いて,先に述べた協同学習(Collaborative Learning: CDに基づ いた教授法,つまり Cooperative Language Learning (CLL) から多くの示唆を得ることができる。この教授法は,学習者中心の教 授法(learner‑ centered approach)であり,学習活動はペア及び グループで行われ,他者との関わりの中で決められた目標を達成する
という過程が中心である。したがって, CLLにおける最大の特徴は, 単にペアやグループによる活動という従来から用いられているペア 学習やグループ学習ではなく,学習者間の相互関係(interaction) に注目していることにある。例えば,他者との学習活動を通して,敬 室に積極的で友好的な雰囲気を作ること,学習者の随伴経験(学習者 の学習努力が,一定の成果をもたらす経験)を増加させるように学習 が仕組まれていること,学習者のストレスを減少させ動機づけを高め ること等,学習者と他者とのコミュニケーションを基点に学習活動が 進められている。
上述したような学習活動が円滑に行われるためにCLL では,以下 の4つの基本原則が示されている 1)PositiveInterdependence
(互恵的相互依存:学習者が互いの学習の促進に関わること) ,
2)Individual Accountability (個人の責任:個々の学習者がペア またはグループ学習において何をすべきかが,学習者自身及び他の学 習者にも明確であること 3)Equal Participation (平等な参加
:全ての学習者が学習活動に均等に取り組めること) ,
4)Simultaneous Participation (活動の同時性:ある学習活動に 参加している学習者の割合が高いこと)である。これらの基本原則か
‑ ll ‑
ら,円滑なコミュニケーションの成立に関わる英語力以外の要因,つ まり他者との良好なコミュニケーションに関与する可能性の高い要 因に関する示唆を得ることができる。それは,態度及び学習者の心情 に関わるものである。
具体的には, 「互恵的相互依存」及び「平等な参加」という基本原 則からは,個々の学習者が互いに他者を信頼し尊重する態度の必要性 が考えられ, 「個人の責任」という基本原則からは,個々の学習者が 与えられた学習活動に責任を持ち,求められた学習に対して積極的に 取り組もうとする態度の必要性が考えられる,また, 「活動の同時性」
という基本原則からは,多くの学習活動に対して,忍耐強く,持続し た学習を行おうとする態度の必要性が考えられる。このように CLL で挙げられている基本原則には,それぞれ,他者を信頼し尊重する態 度,学習に対する責任と意欲,学習を持続させる心的安定などの要因 が考えられる。これらは,いずれも「コミュニケーションを図ろうと する態度」の育成に関与する可能性が高く,これらについて検討する ことは,円滑なコミュニケーションのために必要な態度の要因を抽出 することに繋がるといえよう。
1. 4.研究の目的
前項で述べたように, 「コミュニケーションを図ろうとする態度」
の育成には,英語力(4技能)の指導に加えて「態度」に関する指導 が求められている CLLでは,他者との関わりが重視されており, 学習者の学習意欲(モティベーション)を高める工夫もなされている
(例えば,インフォーメーション・ギャップ課層を行う過程では,全
‑ 12 ‑
ての学習者に他者に貢献できる機会を提供し,その成功経験を通して モティベーションを高める工夫がなされている) a
CLLで重視されている他者との関わりに関する研究として,
SELHi校指定を受けた奈良市立一条高校における実践研究(平成17 年度〜19年度)は,注目すべきものである。一条高校のSELHi研 究では,円滑なコミュニケーションには「態度」が重要であるという 視点から, 「態度」の育成が英語によるコミュニケーション能力を高 める可能性が検討された。そこで設定された「態度」の要因は, 「知 的好奇心」 「多面的に物事を捉えること(多面的思考) 」及び「他者 を尊重する態度(他者の尊重) 」という 3要因である SELHiの研 究報告書によれば, 「知的好奇心」の水準が,英語コミュニケーショ ン能力の向上に関与すること(一条高校SELHi,2005) 「他人を 尊重する態度」の水準が Listening力と関連することが示されて いる(一条高校SELHi,2006) 。これらの結果は,英語によるコミ ュニケーション能力と「態度」との関連性を示しており,上述の新指 導要額で求められる「 (英語で)積極的にコミュニケーションを図ろ
うとする態度」の育成には, 「態度」に関する指導が有効である可能 性を示唆している。したがって,コミュニケーション能力に関与する
「態度」の要因を検討し,その態度要因を測定するための尺度を作成 することは,コミュニケーション能力の育成のために重要である。そ こで,本研究の第1の目的は,上述したような「態度」を客観的に測 定するために,高校生用「英語に対する態度」測定尺度を作成するこ とである。
どのような「態度」においても,その背景には,個人の情動が関与
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している。言い換えれば, 「態度」とは,その背景にある情動に対す る処理の仕方の個人差なのである。すなわち,自分の感情を統制する 力や,他人の感情を理解する力等が態度の土台となって存在してい る。そこで,このような力を測定する尺度を開発することは,今後の 英語教育における態度育成において重要な役割を果たすと考えられ る。このような力に最も近い概念は,近年,盛んに研究されている情 動知能(emotional intelligence)である Mayer&
Salovey(1998)によれば,情動知能とは,自分の情動の認識,他者 の情動の理解,自分の情動の統制等の側面から構成されるものであ る。情動知能を測定する尺度は多く開発されてきたが(Mayer,
Caruso&Salovey,2000;Wong&Law,2002) , Tak邑ic(2002)
による ESCQは,上記の定義を継承した最も標準的なものとみるこ とができる。そして,このESCQの日本版が豊田・森田・金敷・清 水(2005)によるJ‑ESCQである。このトESCQは28項目である が,因子を構成する項目数のばらつきがあるので,簡易版として24 項目(J‑ESCQ)が作成されている(Toyota,Morita,&Tak邑ic, 2007) また,この尺度の中学生版も作成され,その信頼性も確認さ れている(豊田・桜井 2007) このように情動知能を測定する尺 度としてのトESCQは信頼性が高い。
そこで,本研究の第2の目的は,高校生用情動知能尺度の作成であ る。青年期のほぼ中間に位置する高校生時代は,情動面の統制が中学 生よりもできるようになるものの,不安定である場合が多いO 受験等 のライフイベントをかかえ,ストレス要因が多く,それに伴う情動の 統制が課題となっている。したがって,高校生用情動知能尺度は,午
‑ I‑ ‑
齢的には,中学生用と成人用の中間に位置するものの,独自の因子構 造になる可能性もある。それ故,高校生用尺度を作成することは上述 したような態度育成との関連からだけでなく,心理尺度の充実という 観点からも意義がある。
さらに,上述した2つの目的で客観的に測定された態度と情動知能 の関連性を統計的な手法を用いて明らかにすることは重要である。と いうのは,情動が態度の背景にあるとはいうものの,その実証的デー タは明確になっていないからである。そこで,本研究の第3の目的は,
「英語に対する態度」と「情動知能」との関連を検討し,その構造を 示すことである。
以上の3つの目的に対応する検討から, 「態度」と「情動」を統合 した英語コミュニケーション能力育成の具体的観点を示したい。
2.研 究I 2. 1.日的
研究1の目的は,高校生用「英語に対する態度」測定尺度の作成で ある。
2. 2.方法
2. 2. 1.実施計画
予備調査を実施し,得られた結果に因子分析を施し, 「英語に対す る態度」要因を抽出する。そして,それぞれの要因に含まれる態度項 目を用いた測定尺度を作成する。
2. 2. 2.調査対象
予備調査は,県内の高等学校1年生及び2年生132名の内,欠損
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データを除く121名であった。また,本調査は,県内の高等学校1
‑3年生1,080名の内,欠損データを除く 979名(男子384名,女 子595名)であった。
2. 2. 3.調査材料
2. 2. 3. 1.予備調査用紙
英語によるコミュニケーション能力に関与すると思われる態度要因 を「知的好奇'L> (英語に対する知的好奇心) 」 「多面的思考(多面的 に物事を考える姿勢) 」 「他者の尊重(他人を尊重する態度) 」とい う 3つの観点とし,それぞれの目標を達成する際に伴う学習活動を, 高等学校の教員14名に対して,自由に記述してもらうよう依頼した。
具体的には, 「知的好奇心」については, 『 「知的好奇心」は,生徒 のどのような行動に表れると思いますか。 』と尋ね,思いっいた項目 を箇条書きで10項目挙げてもらった。 「多面的思考」 「他者の尊重」
の項目にっても同様に尋ね,それぞれ10項目を挙げてもらった。こ のようにして集められた自由記述の内容を検討し,内容の類似したも のをまとめ,高校生にわかりやすい表現に修正し,予備調査項目を作 成したO 予備萌査に用いた調査項目は, 20項目からなり, B4の用紙 に印刷された。回答の方法は, (非常にそうではない,かなりそうで はない,少しそうではない,少しそうである,かなりそうである,罪 常にそうである)の6件法を用いた Table lは予備調査で用いら れた質問項目である。
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Table l 予備調査質問項目
(1)相手の話を理解して相槌を打ちながら聞く。
<2)」^tfiw‑」iS別En召H田口L^田aiia
(3)外国の文化や慣習に臭味を持ち,相手の文化を理解しようとする。
(4)高度な内容についてのディスカッションでも好きである。
(5)異なる年代や文化圏の人の意見を知りたいと思う。
(6)自分にあった学習目標を決め,それに向かって学習を織ける。
(7)集団の中で意見がまとまらない場合にも,最もよい解決策が見つかると信じてい る。
(8)先生やクラスメートの話に興味を持ち.その内容を理解しようとする。
(9)ディベートの際に. 「賛成」と「反対」の両面から考えて意見を述べることができる.
(10)難しい間懐やテ‑マに自ら取り組む。
(ll)外国人と積種的に辞すようにしている.
(12)琵甥は締め切りまでに必ずやりとげようとする。
(13)クラスメートを自ら進んで助け,授業や作業の進行に協力する。
(14)異なる意見を持つ相手に対しても決して感情的にならない。
(15)資格試験やスピーチ・エッセイなどのコンテストに参加したいと思う。
(16)自分の考えをまとめ,わかりやすい括ができる。
(17)新開をよく読み,様々な出来事に対して自分なりの意見を持っている。
(18)ディスカッションやディベート・エッセイ等において自分の意見を表現することが好 きである。
(19)テレビ・ラジオなどの英韓番組や洋画等を視聴するのが好きである。
(20)与えられた情報を100%信じるのではなく,問題点を考えてみることが多い.
2. 2. 3. 1.高校生用「態度」尺度用紙(本訴査用用紙)
予備調査の結果に,因子分析を施し,予備調査の20項目から14 項目を「態度」測定尺度要因として抽出した。抽出された14項目は, 注釈の付加等,再度検討を加え,高校生によりわかりやすい表現に修 正された。例えば,ディスカッションには「議論」 ,ディベートには
「討論」 ,エッセイには「作文・小論文」という日本語の注釈を本文 中に加えた。このようにして作成された質問項目は, B5の用紙に印 刷されたo 回答の方法は予備調査と同様に, 6件法であったO
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2. 2. 4.調査手続 2. 2. 4. 1.予備調査
実験者は被調査者に予備調査用紙(B4)を配布し,学年,級,也 席番号,氏名を記入するように指示した。その後,次の教示を与えた。
『この調査は,あなたの英語に対する態度を調査するためのもので す。英語の成績には全く関係ありませんので,正直に答えてください。
1番から20番までの全ての質問に順に答えてください。回答は, 「非 常にそうではない」から「非常にそうである」の6段階から最も当て はまると思われるものに,○印をつける方法で行ってください。私が, 1番から順に質問を読み上げますので,皆さんは,一つ一つ順番に質 問に対する答えを6段階の中から選んでください。 』この指示の後, 実験者は,被験者が指示内容を理解していることを確認し, 1番から 20番まで,質問を順に読み上げ,被験者に回答を求めた。回答時間
は15分であった。
2. 2. 4. 2.本調査
実験者は被調査者に高校生用「態度」尺度用紙(B5,本調査用) を配布し,学年,級,出席番号及び氏名を記入するように指示した。
その後,次の教示を与えた。 『この調査は,英語に対する態度を調査 するためのものです。あなたの英語の成績には全く関係ありませんの
で,正直に答えてください。 1番から14番までの全ての質問に答え てください。回答は, 「非常にそうではない」から「非常にそうであ る」の6段階から最も当てはまると思われるものに, ○印をつける方 法で行ってください。私が, 1番から順に質問を読み上げますので, 皆さんは,一つ一つの質問に対する答えを6段階の中から選んでくだ
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さいo 』実験者は,被調査者が指示の内容を理解していることを確認 した後に, 1番から14番まで順に質問を読み上げ,被験者に回答を 求めた。回答時間は10分であった0
3.結果と考察
2. 3. 1.予備調査結果
予備調査を実施した被調査者132名のうち,欠損値の認められたも のを除く と, 121名のデータが得られたO この結果に対して主因子法 による因子分析を行い,バリマックス回転を施した。その結果, 3つ の観点から設定した「知的好奇心」 「多面的思考」 「他者の尊重」と いう因子間の相関は 40‑.50であり, 3つの因子はある程度関連のあ る構造であることが明らかになった。そのため,再度プロマックス回 転を施した。その結果が Table2に示されている。また,各因子に おける反応の一貫性を確かめるために,因子ごとにクロンバックのα 係数を算出した。その結果 78 57の範囲であり,一定の信頼 性を持っている値であった。以上の結果から,各因子の質問項目を以 下の14項目とし,それぞれの因子の項目をランダムに配列し, 「態
度」測定尺度を作成した。
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●
Table 2 「態度」測定尺度予備調査における因子構造 (プロマックス回転)
項 目 也?aff* &mm FI F2 F3 M SD 知的好奇心 (α=.78)
(3)外国の文化や習慣に興味を持ち.相手の文化 .75 .08 ‑.09 4.25 1.25 を理解しようとする。
(19)テレビ・ラジオなどの英語番組や洋画等を視聴 .63 ‑.04 ‑.12 4.28 1.50 するのが好きである。
(5)異なる年代や文化圏の人の意見を知りたいと .63 .08 ‑.02 4.17 1.30 思う。
(2)英字新聞・英語の雑龍.原書等をよく読む .59 ‑.07 .08 2.21 1.16
(10)難しい間規やテーマに自ら取り組む。 ,49 .13 .12 2.69 1.12
(ll)外国人と積権的に括すようにしている. .44 .04 .20 3.71 1.32
多面的息考 (α=.75)
(20)与えられた情報を100%債じるのではなく,間 .05 .64 ‑.08 3.64 1.28 旭点を考えてみることが多い.
(4)高度な内容についてのディスカッションでも.好 .19 .56 .09 2.91 1.40 きである。
(18)ディスカッションやディベート・エッセイ等にお .04 .55 .19 2.92 1.31 いて自分の意見を表現することが好きである。
(17)新聞をよく捷み.様々な出来事に対して自分な .31 .47 ‑.01 2.91 1.35 りの意見を持っている。
他者の尊重 (α=.57)
(7)集団の中で意見がまとまらない場合にも,最も ‑.12 ‑.08 .68 4.23 I.24 よい解決策が見つかると信じている。
(1)相手のt舌を理解して相槌を打ちながら聞く ‑.04 .08 .44 4.17 1.09
(8)先生やクラスメートの話に興味を持ち,その内 .22 ‑.16 .43 4.50 1.ll 容を理解しようとする。
(13)クラスメートを自ら進んで助け,授業や作業の .07 ‑.03 .41 3.94 1.01 進行に協力する。
‑ 20‑
2. 3. 2.本訴査結果
予備調査で用いた20項目から「態度」に関する3因子( 「知的好 奇心」 「多面的思考」 「他者の尊重」 )の測定に適する14項目を用 いて「態度」測定尺度を作成した。新たに作成された「態度」測定尺 度を用いて,高校生1,080名に対し, 「態度」測定調査を実施した。
未回答・誤回答等の含まれたデータを除いたところ, 979名のデータ が有効であった。そして,その有効データに対して因子分析を行い, バリマックス回転を施したO その結果,予備調査と同様に「知的好奇 心」 「多面的思考」 「他者の尊重」という 3因子間に.40‑.58の高 い相関関係が認められたため,再度,プロマックス回転を施した。そ の結果,予備調査において抽出された「知的好奇心」 「多面的思考」
「他者の尊重」という 3因子構造が本調査においても示された。その 結果がTable3に示されている。ただし,予備調査で「知的好奇心」
因子の項目であった「難しい問題やテーマに自ら取り組むO 」という項 目が,今回の調査では「多面的思考」因子に含まれるという結果が得ら れた。そのため,この項目は「知的好奇心」の測定には不適切であり,
「多面的思考」測定に適した項目である可能性が高いと考えられた。そ こで,本調査では「難しい問題やテーマに自ら取り組む. 」という項目 を, 「多面的思考」因子の下位項目として分析を行った。また,各因子 における内的一貫性を確かめるために,因子ごとにクロンバックのα 係数を算出した。その結果,いずれも.79‑.66の範囲であり満足で きる値であった。したがって,それぞれの項目は, 「知的好奇心」 「多 面的思考」 「他者の尊重」という 3因子を評定するために信頼できる 項目であることが示されたのである。
I 2l ‑
Table 3 「態度」測定尺度における因子構造(プロマックス回転)
項 目 凶****
FI F2 F3 M SD 知的好奇心(α=.79)
(3)外国語の文化や習慣に興味を持ち.相手の文化 .72 .01 .10 3.81 1・27 を理解しようとする。
(9)外国人と棟種的に話すようにしている. .64 ‑.02 .06 2.89 1.43 (2)英字新聞・英語の雑乾・原書等をよく読む .59 .15 ・15 I.83 1.ll (13)テレビ・ラジオなどの英語番組や洋画等を視聴 .58 ‑.08 .04 3.87 1.50
するのが好きである。
(5)異なる年代や文化圏の人の意見を知りたいと思 .55 .ll .14 3.98 1.27 う.
多面的息考(α=.76)
(4)高度な内容についてのディスカッション(議 論)でも,好きである。
*(8)難しい問題やテーマに自ら取り組む。
(12)ディスカッションやディベート・エッセイ (作文.小輸文)等において自分の意見を 表現することが好きである。
(ll)新聞をよく読み,様々な出来事に対して自 分なりの意見を持っている。
^ ^ E f c ^
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る
.07 .71 ‑.09 2.89 1.44
‑.07 .63 .20 2.84 I.12
.09 .62 ‑.01 2.97 1.35
10 .50 ‑.04 3.08 1.26
‑.08 .49 .06 3.79 1.12
他者の尊重(α=.66)
(7)先生やクラスメートの鰭に興味を持ち.そ の内容を理解しようとする。
(6)集団の中で意見がまとまらない場合にも.
最もよい解決策が見つかると借じている。
(10)クラスメートを自ら進んで助け,授業や作 業の進行に協力する。
(1 )相手の話を理解して相槌を打ちながら開く。
.00 .00 .68 4.31 .92
.01 ‑.04 .57 3.93 1.ll
.07 .03 .53 3.47 1.04
.02 .06 .41 4,41 1.04
‑ 22 ‑
2. 3. 3.考察
本研究の第1の目的は,高校生用「英語に対する態度」測定尺度の 作成であった。予備調査から, 「知的好奇心」 「多面的思考」 「他者 の尊重」という 3因子が抽出された。そして,本調査においても同様 の3因子構造になった。この3因子は,いずれの調査においても‥40 58 という相関が示され,各因子が互いに関連する因子構造である ことがわかる。予備調査及び本調査において,同じ3因子構造を得た こと,及び第3因子のα係数が,66と幾分低い値であったものの,全 体としては.79‑.66 という信頼できる内的一貫性を示した値であっ た。これらの結果から, 「知的好奇心」 「多面的思考」 「他者の尊重」
という 3つの尺度は,高校生の英語に対する「態度」の下位尺度とし て適切であると考えられる。したがって,本研究の第1の目的である 高校生用「英語に対する態度」測定尺度は, Table3に示された項目
と した。
‑ 23 ‑
3.研 究 Ⅱ 3. 1.日的
研究2の目的は,高校生用「情動知能」測定尺度(J‑ESCQ for High School Students)の作成である。
3. 2.方法
3. 2. 1.実施計画
県内に在籍する高校生に, J‑ESCQを実施し,因子構造を明らかに する。そしてそれぞれの要因を測定できる項目を用いた測定尺度を作 成する。
3. 2. 2.調査対象
県内に在籍する高校生1‑3年生1,080名の内,欠損データを除く 961名(男子370名,女子591名)のデータが有効であった。
3. 2. 3.調査材料
Toyota,Morita, & Tak邑ic (2007)による成人用J‑ESCQの24 項目から各因子に対応する項目を6項目ずつ,計18項目抽出し,高 校生が理解できる表現に修正したものを,高校生用J‑ESCQとして 用いた。それぞれの項目の評定には,成人用J‑ESCQと同様に5段 階(1決してそうでない, 2めったにそうでない, 3時々そうである, 4だいたいそうである,5いつもそうである)の評定尺度法を用いた。
この調査用紙はB5版に印刷された。
3. 2. 4.調査手続
実験者は被調査者に高校生用J‑ESCQ用紙(B5)を配布し,学年, 級,出席番号及び氏名を記入するように指示した。その後,次の教示
を与えた。 『この調査は,あなたの今の状態に関する調査です。あな
‑ 24 ‑
たの成績や評価には全く関係ありませんので,正直に答えてくださ い。1番から18番までの全ての質問に答えてください。回答は, 「決
してそうではない」から「いつもそうである」の5段階から最も当て はまると思われるものに,○印をつける方法で行ってください。私が, 1番から質問を読み上げますので,皆さんは,一つ一つ順に,質閣に 対する答えを5段階から選んでください。 』実験者は,被験者が指示 された内容を理解したことを確認した後に, 1番から18番まで順に 質問を読み上げ,被験者に回答を求めた。回答時間は15分程度であ
麗i3!
3. 3.結果と考察
3. 3. 1.結果:高校生用J‑ESCQにおける因子構造
調査を実施した1,080名のうち,未回答や誤回答等のデータを除 くと 961名のデータが有効であった。この有効データに対して因チ 分析を行い,バリマックス回転を施した。しかし,中学生用トESCQ
(豊田・桜井 2007)と同じく,下位項目間の相関が.34‑.39と比 較的高く,再度因子分析を行い,プロマックス回転を施した。その結 果がTable4に示されているO その結果,先行研究(豊田ら, 2005
;豊田・桜井 2007; Toyota,Morita, & Tak菖ic, 2007)と同じく 3つの因子が抽出され,それぞれの因子は6項目から構成されていたo 抽出因子の順序には違いがあるが,各因子に含まれる項目は,先行研 究(豊田ら 2005 豊田・桜井 2007;Toyota,Morita,& Tak菖ic, 2007)と一致するので,高校生用J‑ESCQにおいても,大人用 J‑ESCQ及び中学生用J‑ESCQと同様の因子名を採用した。それぞ れの因子名に関しては,次の通りである。第1因子は「情動の表現と
‑ 25 ‑
命名」とされ,自分の情動が表現できるか否かに関わる項目から構成 されている。また,第2因子は「情動の認識と理解」とされ,他者の 情動が理解できるか否かに関わる項目から構成されている。そして, 第3因子は「情動の制御と調整」とされ,自己の肯定的な情動の喚起 やそのコントロールが可能かどうかに関わる項目から構成されてい る。いずれの因子についても, α係数は 92‑.71の範囲にあり,内 的一貫性に関して満足できる値であったo
また, 3つの下位尺度得点の相関は, 「情緒の表現と命名」と「情 緒の認識と理解」間の相関係数が.41, 「情緒の表現と命名」と「情 緒の制御と調整」間の相関係数が.30 「情緒の認識と理解」と「情 緒の制御と調整」間の相関係数が.29,であった。さらに,高校生用 J‑ESCQ尺度全体との相関係数は, 「情緒の表現と命名」が 79 「情
緒の認識と理解」が.72, 「情緒の制御と調整」が.71,であった。
‑ 26 ‑
Table4 高校生用J‑ESCQにおける因子構造(プロマックス回転) 因子負荷量 男
項 目 FI F2 F3 M SD
女 全体
M SD SD 惰動の表現と命名(α=.92)
15 今、自分が感じている感 情をうまく表現できる.
12 日分の感情をうまく表現
^^m
18 日分の気持ちや感情をす aa ri声ES3閑7
7 今の気持ちをうまく青葉に することができる.
4 日分の気持ちを表す青葉を XJB朋EM*1日サZォ 2 日分がどのように感じてい
るかを表現することができる
.88 .04 ‑.03
.88 ‑.05 .04
.84 .05 .00
.80 ‑.03 ,03
.74 ‑.02 .01
.65 .03 .04
3.1 .84
3.1 87
3.06 .86
3.1 .93
3.18 .87
3.33 .86
3.15 .89
3.16 ,91
3.08 .86
3.16 .92
3.1 .90
3.34 ,86
3.1 .87
3.15 ,89
3.07 .87
3,16 .93
3.16 .89
3.34 ,86
情動の理解と誌輸(α=.85)
6 誰かが本当の気持ちを随そ ‑.02 .80 ‑.05 うとしていても、それに気づ
く。
1誰かが嫌な気持ちを醸そう ‑.13 .80 .01 としていても、それに気づく
10 維かの気分が落ち込んで いる時には、それに気づく。
8 誰かが罪悪感を感じている 時には、それに気づく。
13 誰かと一緒にいる時の様 子をみると、その人の感情 を正確に見きわめられる.
16 表情をみれば.その人の 気持ちがわかり、それを言 葉にすることができる。
00 .69 .08
00 .62 .02
.62 ‑.01
,27 .53 ‑.02
3.25 .77
3.44 77
3,50 .78
3.20 .79
3.05 .82
2,86 .84
3.34 .74
3.52 .68
3.62 ,70
3.28 78
3.11 ,81
2.92 .82
3.31 .75
3.48 .71
3.57 .74
3.25 .78
3.08 .82
2.90 .83
惰動の車軸と績節(α=.71) 11気分のよい時には、どん
な同題でも解決できるように 思う.
3 ずっとよい気分でいようとL arav
5 気分のよい時には、なかな かその気分は沈まない。
17 気分が良くて幸せな時は
、勉尊がはかどり.頭にもよ く入る。
9 不快な感情をおさえて.良 い感情を強めようとしている
14 誰かにはめられると、より 熱心に頑張るようになる。
04 .01 .57
.01 ‑.09 .56
.05 .00 .54
.01 .06 .51
‑.10 .03 .51
05 .06 .49
3.20 1.17
3.53 .94
3.44 .98
3.42 1.12
3.17 .98
3.76 1.02
3.23 1.14
3.45 .95
3.43 .02
3.33 1.13
3.20 .95
3.99 .92
3.22 1.15
3.48 .94
3.43 1.01
3.37 1.12
3.19 .96
3.91 .96
‑ 27 ‑
3. 3. 2.考察
本研究の第2の目的は,高校生用情動知能尺度(高校生用J‑ESCQ) を作成することであった Toyota,Morita,& Tak菖ic (2007)や豊 田(2005)によって作成された大人用J‑ESCQより,各因子から6 項目を抽出し,合計18項目で調査を行った。その結果,先行研究と 同様の3因子構造がみられた。そして,各因子のα係数は,.71‑.92 の範囲にあり,先行研究の 65 91とほぼ同様の値であった。また, 3因子(下位尺度)間の相関係数は .29 41の範囲にあり,大人 用J‑ESCQとはぼ同様の値を示している。更に,尺度全体と各下位 尺度との相関は 71 79であり比較的高い値を示した。この点も, 先行研究と一致しているo これらの結果は,本研究で作成された高校 生用J‑ESCQは,先行研究との一致点が非常に多いことから,高校 生の情動測定尺度として信頼性の高いことを示している。したがっ て,本研究の第2の目的である高校生用J‑ESCQ尺度作成に関して, Table 4に示された項目を高校生用J‑ESCQとした。
しかしながら,先行研究と本研究において第1因子と第2因子と が逆転している。これは Tak菖ic (2002)の原版及びそれに基づ いて作成された日本版トESCQ(2005)のいずれとも異なる結果であ った。この原因として,本研究において日本版J‑ESCQで用いられ た28項目を更に整理して,18項目とした点が結果に反映された可能 性が考えられる。また,高校生という他者の反応に対して非常に敏感
な年齢が,他の年齢層と異なる傾向を示した可能性も考えられる。し たがって,今後の課題は,本研究で作成された高校生用トESCQ尺 度を用いた追加研究により,上述の可能性を検討することである。
‑ 28 ‑
4.研 究 Ⅲ 4. 1.日的
本研究の第3の目的は, 「英語に対する態度」と「情動知能」との 関連を検討し,その構造を示すことであった。
4. 2.方法
4. 2. 1.実施計画
県内の高校生に, 「英語に対する態度」測定尺度(研究1で作成さ れた測定尺度)及び高校生用J‑ESCQ (研究2で作成された測定尺 痩)を実施し,両者の関連を検討する0
4. 2. 1.調査対象
県内に在籍する高校生 1,080名の内, 「英語に対する態度」測定 尺度及び高校生用J‑ESCQの双方に回答した被験者から,欠損値を 含むデータを除いた917名(男子347名,女子570名)のデータで あった。
4. 2. 2.調査材料
4. 2. 2. 1. 「英語に対する態度」測定尺度
本研究Iで作成された14の下位項目からなる「英語に対する態度」
調査用紙。測定尺度には, 6件法(非常にそうではない,かなりそう ではない,少しそうではない,少しそうである,かなりそうである, 非常にそうである)の評定尺度法が用いられたQ 質問項目はB5の用 紙に印刷された。
4. 2. 2. 2.高校生用J‑ESCQ
本研究Ⅱで作成された18の下位項目からなる情動に関する調査用 紙。測定尺度には, 5件法(1決してそうでない, 2めったにそうで
‑ 29 ‑
●
ない, 3時々そうである, 4だいたいそうである, 5いっもそうであ る)の評定尺度法が用いられた。質問項目はB5の用紙に印刷された。
4. 2. 3.調査手続
本研究I及びⅡと同様に,被験者1,080名に対して,実験者が質 問項目を読み上げる方法で実施された。調査は,全ての被験者に対し て2週間以内に,まず,高校生用J‑ESCQが,続いて「英語に対す る態度」測定尺度の調査が実施された。
4. 3.結果と考察 4. 3. 1.結果
調査を実施した1,080名のうち, 「英語に対する態度」測定尺度 及び高校生用J‑ESCQの調査を実施した被験者から未回答や誤回答 のあったものを除く と, 917名(男子347名,女子570名)のデー タが有効であった。この有効データについて, 「英語に対する態度」
(3要因)と高校生用J‑ESCQ (3要因)との相関を求めたO その結 果がTable 5に示されている Table 5に示されている通り,英語 に対する態度の第1因子「知的好奇心」と情動の第2因子「情緒の認 識と理解」との間に,全体及び男子について中程度の相関(r= .31
と.32)が認められた。また,英語に対する態度の第2因子「多面的 思考」と情動の第1因子「情動の表現と命名」との間に,全体及び女 子について中程度の相関(r ‑ .32 と.37)が,また,英語に対する 態度の第2因子「多面的思考」と情動の第2因子「情動の認識と理 解」との間に,全体,及び男女に中程度の相関(r‑.35, .32 と.38)
がそれぞれ認められた。更に,英語に対する態度の第3因子「他者の 尊重」と情動の全ての因子に中から高程度の相関が認められた。それ
‑ 30 ‑
らは, 「他者の尊重」と「情緒の表現と命名」では (r‑.33‑.38) と中程度の相関, 「情緒の認識と理解」では (r ‑ .43‑ .44)と 高い相関,そして「情緒の制御と調節」では (r‑ .33‑ .44)と 中程度から高い相関であった。
このように, 「英語に対する態度」の各下位尺度と「情動知能」の 各下位尺度との間には,関連性が認められた。そして特に, 「英語に 対する態度」の第3因子「他者の尊重」と「情動」の3つの因子と には,強い関連性のあることが示された。また Table6には, 「英 語に対する態度」の因子間の相関が示されている Table6に示され る通り, 「知的好奇心」と「多面的思考」及び「他者の尊重」との間 には高い相関が認められ,それぞれの因子は互いに関連して存在する ことが示されている (r ‑ .38 ‑.53)また Fig.1には, 「英語 に対する態度」の下位因子と「情動知能」の下位因子との相関が示さ れている。