研究ノート
異文化理解を深めるアクティブラーニングの試み
武 田 礼 子
1. はじめに
国内の多くの大学では他国の大学との交換留学を含む国際交流が盛んに行われ ており、留学に興味を持つ、あるいは実際に留学受入校が決まり出発を控えてい る学生対象の講座を開講することで留学準備の対応をしている。講座の期間や内 容も千差万別で、出発直前に行われる短期語学講座もあれば、渡航先の文化や風 習を紹介する講座もある。いずれも受講者が異文化においてコミュニケーション をとることを前提に構成されることが多い。一般的に異文化コミュニケーション に必要な予備知識は幅広く、渡航先の国特有の知識・文化を学び、その国の言 語を習得し、異文化能力(コンピテンシー)開発などが重視する指導法がある
(Jackson, 2014)。異文化コミュニケーショントレーニングの場合、背景にある理
論の説明が必ずしもあるとは限らない。さらに渡航先固有の行動様式や技能の習 得を目的とするため、認知レベルが高い活動とは言い難い (Fleming, 2009)。一方 で、異文化コミュニケーション教育では、理論に焦点を当てながら、知識を得て 理解し、新しい環境で応用のみならず、分析や評価などの高次の認知活動が伴う(Bloom, 1956)。
異文化コミュニケーションの指導法で、大学において最も多く活用されてい るのが The Classroom Model(教室モデル)だと言われる (Chen & Starosta, 1998)。
このモデルでは文化的差異を経験する時に伴う違和感なく、講義、映画、文献を 通して特定の文化の習慣、価値観や人々に対する理解を深めることを目的として いる。しかし教室という環境で身につける知識と、異文化の中で実際に身につ ける知識の差を埋めるには不充分だという問題点もある。そこで中村 (2011) は
Chen & Starosta (1998) が挙げる他のモデル、すなわち異文化に類似した生活環境
を経験する
The Simulation Model(シミュレーションモデル)、及び異文化の人々
との相互行為を通して外国文化での生活や就労が抵抗感なくできることを前提と したThe Interaction Model(相互行為モデル)と The Classroom Model
の併用を提 唱している。2017
年 度 に 本 学 で 始 動 し た 成 城 国 際 教 育 プ ロ グ ラ ム(Seijo InternationalEducation Program、以下 S
シエップIEP)の必修科目『留学準備演習』では、中村 (2011)
が提唱するモデルを併用して授業を行ってきた。本稿では、日本語とアメリカ英 語における謝罪の文化的差異の指導の実践報告をする。通常、英語科目で取り上 げられる同様の指導を『留学準備演習』では2
回の授業にわたり日本語で行い、アクティブラーニングを試みた。本調査は、授業終了後の受講者の振り返り、及 び定期試験の記述内容を通して、異文化理解を深めるためにアクティブラーニン グが持つ可能性を探ることを目的とする。
2. 語用論的能力と謝罪
日本では高度成長期に外国との貿易が盛んになるにつれ文化摩擦が生じ、それ が国際理解やコミュニケーション指導のニーズに拍車をかけた (Yamada, 2015)。
長年にわたる、文法中心の英語教育にも限界があり、それに代わる外国語の意味 を文字通りに理解することを超えた、話し手や書き手の意図、前提、目的などを 理解する語用論的能力も注目されるようになった (石原
, 2015; Yule, 1996)。
語用論の分野において最も盛んに研究されている発話行為 (speech acts) とは
「ことばによって遂行される社会的機能」(石原
, 2015) であり、Thank you
は感謝 を、I’m sorryは謝罪を意味する、などが英語による発話行為の表現の一例として 挙げられる。普遍的と思われる謝罪にも、文化的差異が見られる。アメリカ英語の謝罪には
【詫びる
→
過失の内容と理由の説明→
修復と相互の良好な関係を維持する】役 割を果たす (石原, 2015; 鈴木 , 2012)。一方、他者に与えた不利益に対し負った
負債を償おうとする日本語の謝罪の表現には、直接的な遂行系、許しを求める命 令系、過失を認める描写系、心情を告白する表出系がある (山岡・牧原・小野,
2010)。自分の立場を説明するよりも謝罪する相手に合わせる日本人は (Barnlund
& Yoshioka, 1990) アメリカ人から見ると必要ないことにまで過度な謝罪をすると
思われる (Condon, 1984)。その一方で日本人から見たアメリカ人は滅多に自分の 非を認めず、また自分の行動の説明をするだけで、他人の気持ちを顧みることが ないと思われるため、期待される謝罪がない場合、日本人はアメリカ人をぶっき らぼうで恩知らずと見做すこともある (Yamada, 1997)。文化的差異の指導も行われる語学科目では、学習者の語用論的能力が向上させ るために、Brown & Levinson (1987) が提唱する丁寧さの度合いを示す以下の
3
つ の要素を考慮しながら、発話行為の表現を調整できるように練習することも有効 である (石原, 2015) 。
(1)
話し手及び聞き手の上下関係など社会的立場 (S=Status)(2)
社会的・心理的距離 (D=Distance)(3)
ことの重大さ・負荷の大きさ (I=Imposition)つまり相手との関係性や親しさの度合いのみならず、出来事の重大さなども考慮 した上で、発話行為を適切に使い分けながら表現できることが必要となる。
3. 本学『留学準備演習』おける指導
筆者は
2017
年度前期より、S
シエップIEP
の必修科目である『留学準備演習』(半期科目)を担当し、異文化間コミュニケーションの概念の指導している。本稿では
2018
年度前期の授業において、日本語とアメリカ英語における謝罪の文化的差異の理 解を目的とするアクティブラーニングの試み、そしてそれが受講者の異文化理解 を深める可能性を探る。近年、語学教育でも学習者中心の授業の進め方としてアクティブラーニングが 注目を集めている。アクティブラーニングは「一方的な知識伝達型講義を聴くと いう(受動的な)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のことを指す。
能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる 認知プロセスの外化を伴う」(溝上
, 2014, p.7)と定義される。中央審議会 (2015)
でも、深い、対話的、そして主体的な学びを目指すアクティブラーニングを重視している。本調査で扱った授業では、松下 (2015) が挙げるアクティブラーニン グの特徴である以下の
6
項目に沿って、受講者の異文化理解が深まるよう計画し た。(a)
学生は、授業を聴く以上の関わりをしていること(b)
情報の伝達より学生のスキルの育成に重きが置かれていること(c)
学生は高次の思考(分析、総合、評価)に関わっていること(d)
学生は活動(例:読む、議論する、書く)に関与していること(e)
学生が自分自身の態度や価値観を探求することに重きが置かれていること(f)
認知プロセスの外化を伴うこと3.1 参加者および指導内容
本調査は
2018
年度前期に『留学準備演習』に履修登録し、参加に同意した学 部生の受講者を対象に行われた。表1
では本講座の15
週間の授業内容を、また 表2
では学部別受講者数の内訳が示されている。本講座では、主に抽象的な異文 化間コミュニケーションの概念を講義やグループ・ディスカッション、演習等を 通して紹介することで、外国で経験すると思われる問題解決に役立つ知識も含め、学生の異文化理解を深めることを目的とする (成城大学国際センター
, 2018)。
1 週目 受講者選抜の課題実施 9 週目 異文化能力 2 週目 コミュニケーション 10 週目 異文化対人関係
3 週目 文化 11 週目 元交換留学生ゲストスピーカー
4 週目 非言語コミュニケーション 12 週目 カルチャー・ショック 5 週目 発話行為 (1) 13 週目 国際語としての英語 6 週目 発話行為 (2) 14 週目 日本について英語で語る 7 週目 文化と認識 15 週目 まとめ
8 週目 外国人留学生ゲストスピーカー
3.1.1 2 週目から 4 週目授業内容の概要
5
週目と6
週目で謝罪を例に挙げた発話行為の授業を行う前に、2週目から4
週目にわたり、以下のようにコミュニケーションと文化の基本概念を紹介した。● ラテン語で共通項を意味するコミュニケーションには、言語以外にもメッ セージがある
● コミュニケーションとは文脈の中で相互行為を通して構築され、また文化 の影響を受けている
● 文化とは有形物に限らず、思考や価値観なども含む
● 文化は個人的であり、相対的でもある
● 非言語コミュニケーションは、言語を使わなくても意味が伝わるコミュニ ケーションの方法である
3.1.2 5 週目授業内容の概要
発話行為を扱う
2
回の授業のうち、1回目(5週目)では動画を視聴し、さら にエピソードを共有しながら発話行為としての謝罪を紹介し、6週目のアクティ ブラーニングに必要な背景知識を身に着けた。● 担当教員である筆者のかつての失敗談も交え、外国語で話した内容が相手 に伝わらなかったエピソードを学生が共有し、母語を外国語に直訳しても 必ずしも伝わらないことを理解した
● 謝罪にもジェンダーの差がある事例として、アメリカのシャンプーのコ
表2 2018 年度前期 『留学準備演習』 学部別受講者数
経済 法 文芸 社会イノベーション
男子 女子 男子 女子 男子 女子 男子 女子
1年生 7 4 0 3 0 1 4 10
2年生 1 0 0 0 3 0 0 0
3年生 0 0 0 0 0 1 0 2
4年生 1 0 0 0 0 0 0 0
合計 9 4 0 3 3 2 4 12
マーシャル (Cause Marketing, 2017) で出演女性が
I’m sorry
を繰り返す動画 を視聴した● 謝罪の丁寧さの度合いを示す Status (S), Distance (D), Imposition (I) を講義 したのち、謝罪する相手の立場や親しさ、そして謝罪する内容の重大さ次 第で、表現も変える必要があるとの説明も含め、関連する先行研究や事例 を紹介した
● 英語の謝罪の表現である
I’m sorry 以外に、より重みや負荷が大きい I apologize をぺアワークで練習した
● 受講者に英字新聞のコラム (Elwood, 2013) を配布した(6週目の事前課題 として読む)
3.2 6 週目授業内容の概要
事前課題として配布した英字新聞のコラムでは、日本在住のアメリカ人女性が 経験した日米間の謝罪の文化的差異の事例を取り上げている (図
1)。
コラムの内容に基づき、当日の出席者全員で寸劇のパフォーマンスを、以下の 手順で行った。
図 1 英字新聞コラム抄訳(Elwood, 2013; 武田 試訳)
日本が好きなアグネスは長年日本に住んでおり、日本企業に勤務している。夏休み を取るために4か月前より上司に申請をした。日本人男性の同僚、キクチさんも夏 季休暇を申請し承認されたが、数日間アグネスの休暇と重なった。2 人とも休暇中 で不在の時、予期せずにちょっとしたことが発生した。通常であれば、2 人のうち の1人が対応するところ、別の社員が対応し、事なきを得た。休暇中に2人ともそ の出来事について、特に問題にならなかったとの報告を受けた。休暇先からキクチ さんは長文メールを複数の同僚に送信し、アグネスにもCC を入れた。休暇中でも キクチさんは申し訳なく思い、同僚に迷惑をかけたと謝罪のメールを書き綴った。
そのメールを読んだアグネスも謝罪メールを送ることを思いついたものの、自分は 何もしていないのに何に対して謝るのか理解できず、送るのを迷った。キクチさん のメールを読みプレッシャーに感じたアグネスは、同僚に助けてもらったことに感 謝を表すメール文の最後に、しぶしぶ謝罪も付け加えた。
● 授業の参加者
4
人ずつでグループを作り、4
人で担当する配役(アグネス役、キクチ役、ナレーター役、上司と同僚の一人二役)を決めた
● コラムの内容を元に、日本語で脚本を書き、パフォーマンスを行った 英語で書かれたコラムを英語ではなく、敢えて日本語でパフォーマンスを行っ た理由は、『留学準備演習』が英語科目の授業でないこと、また母語である日本 語を使うことで受講者の理解を深めるためである。
4. 分析
本調査では
6
週目の授業で振り返りの課題を提出し、且つ定期試験において関 連する問題を選択し回答した受講者 15人の記述内容を分析した。4.1 指導後の振り返り(原文のまま)
6
週目の授業実施後、受講者は以下の振り返りの課題に対し、自由に記述した。「なぜキクチさんは謝ったのか?なぜアグネスは謝る必要はないと考えたの か?」
上記の自由記述課題では、授業を聴く以上のかかわりを持てる、寸劇を通して活 動に関与しながら、受講者が自分と異なる母語話者が持つ考え方や価値観に対し 理解を示すことを意図した。表
3
は振り返りの記述内容のうち、キーワードより 作成したカテゴリーを提示したものである。表 3 キーワードのカテゴリー (振り返りより)
カテゴリー 回数
アグネスの謝罪 19
アグネスの感謝 7
アグネス謝罪不要 5 アグネスのプレッシャー 21
アグネスの関係悪化 15 キクチの謝罪 17 キクチのプレッシャー 13 キクチの思いやり 16
頻出度が高いカテゴリーには、アグネスの謝罪(19回)そしてアグネスが感 じたと思われるプレッシャー (21回
) がある。前者の内容はアグネスが謝罪のメー
ルを送るべき理由、そして後者はアグネスが謝罪しないことを考えるに対する批 判に関する記述である。まず、アグネスが謝罪のメールを送るべき理由として以 下の記述がある。・ 「アグネスが日本の方に来ているので、日本の文化や考え方を取り入れて いく必要があると思います。よく考えたら、謝罪する理由は不本意かもし れないけど、こえが日本人の考え方であるので、礼儀として普通のことな のかな、と思います」(社会イノベーション学部
1
年女子)
・ 「この謝罪のメールはアグネスが会社で仕事をしやすくするためのコミュ ニケーションの1つだと考えれば必要であると考えます」(法学部
1
年女 子)
・ 「アメリカ人にとっての謝罪が重い意味を持っていることも確かなので、
キクチさんまでではなくとも、何かしらのメールを送るべきであると思う」
(
経済学部4
年男子)
・ 「自分がいないことに対してあやまるのではなく、自分がいないことでもっ と問題が1人の人への負担になってしまったということに対してあやまる べきだと思う」(社会イノベーション学部
1
年女子)
次に謝罪のメールを送らないと考えるアグネスに対し、次のような批判も書か れている。
・ 「キクチさんが謝罪のメールを送った状況で彼女だけが謝罪のメールを送 らなかったら、同僚のアグネスに対する評価するは下がるか、相対的にキ クチさんの評価が上がるでしょう」(法学部
1
年女子)
・ 「休暇中の出来事だから自分とは関係ない、という態度を取ることは良い ことではないと思います」(文芸学部
3
年女子)
・ 「いくら休暇をとっていたからとはいえ、知っていればさけることのでき た事件だと思うので、内心はどう思っていようと謝るべきではあると」(社 会イノベーション学部
1
年女子)
アグネスが感じたと思われるプレッシャーに関連する記述は以下の通りであ
る。
・ 「アグネスは日本で働いているが、自らの価値観を貫きとおすだけではな く “郷に入っては郷にしたがう
” という心も必要なのでは、と思った」(
経 済学部1
年男子)
・ 「自分が楽しんでいる間に頑張って問題を解決してくれた人がいるという のは正当な休みであっても、申し分けなく感じるし、仕事仲間からは冷た い目で見られてしまうかもしれないという不安も大きい」(社会イノベー ション学部
1
年女子)
・ 「日本の会社に勤めているのであれば、“異文化理解
”
よりも “会社のマナー
” の方が優先順位が高いと考えます」(
経済学部1
年女子)
キクチに関連する頻出度が高いカテゴリーの記述にはキクチの謝罪 (17回
) で
あり、キクチの思いやり(16
回)
と重複する記述もある。・ 「キクチさんは謝ることが当然であるという考えを持っていたため、自分 の考えに従い精神的負担を感じずに謝罪することができた」(文芸学部
3
年女子)
・ 「キクチさんは自分が前もって伝えてあった旅行とはいえ、自分の留守中 に起こった不祥事にひどくかしゃくを覚え、同僚たちに謝罪のメールを 送った」
(
経済学部2
年男子)
・ 「キクチさんの場合、周りの人に対して多大な迷惑をかけてしまったのは、
いくら休暇を承認されたからだとしても、自分のせいであると、周りの人 に対して丁ちょうなメールをした」(社会イノベーション学部
1
年女子)
4.2 定期試験の記述(原文のまま)
定期試験は出題された
5
問のうち、受講者は2
問を選択し小論文を書く形式で ある。以下の問いを選択した15
人の受講者は、Status (S), Distance (D), Imposition(I) に言及する回答を記述した。
「発話行為を理解する上で必要な
3
つの要素である S-D-I にについて述べ、次にキクチさんとアグネスさんのメールにおける言語行為の S-D-I について 説明しましょう。」
出題意図は、丁寧さの度合いを示す
Status (S), Distance (D), Imposition (I) の枠
組みを通して、日本語とアメリカ英語における謝罪の文化的差異の理解の確認で ある。振り返りの記述内容と比較すると、Imposition (22回) に焦点を当てること
で、より客観的にアグネスとキクチの謝罪の文化的差異を認識しているようであ る。・ 「謝罪する重要度は個人差があるということである。自分にとっては小さ いものでも、相手にとってみれば、とても重大なことかもしれない」(文 芸学部
2
年男子)
・ 「キクチさんの謝罪のメールは SDI の要素から見ると Status は同じぐらい だが、Dの点で少し他人行儀で、Iの責任の重さを小さいものとしてはと らえていないことが分かる」(法学部
1
年女子)
・ 「考えのちがいはあり、キクチは申し分けなさをすぐ伝えたのに対して、
アグネスは自分の休暇を正当化した。自分の置かれている
S-D-I
の重要度 を推し測るものさしが違うことで、同じS-D-I
の状態でも起こす行動が異 なってくるのだろう」(社会イノベーション学部1
年女子)
・ 「キクチさんとアグネスさんの謝罪の違いに関連するのは、S-D-Iの
I
であ る。キクチさんは、その内容をかなり重大なこととして、ひたすらに謝罪 文を送ったが、それとは逆にアグネスさんは、あまり重大なこととせず、謝罪というより感謝の文を送った。国や文化によって、SDIの感じ方も異 なっているのだろう」(経済学部
1
年男子)
5. 考察
筆者はこれまで英語科目の授業で発話行為の指導を実践してきたことは あるが、学習者が応え方を記述しながら練習する談話完成タスク (Discourse
Completion Task) 以外に学習者の自己評価など、語用論的能力の定量的な評価法
に関する課題もある (石原, 2015)。そこで語学科目ではない『留学準備演習』では、
英語における語用論の運用能力の指導ではなく、日本語とアメリカ英語における 発話行為(謝罪)の文化的差異を理解できることを目的としてアクティブラーニ
ングを試みた。その結果、受講者の学びで達成できた部分もあるが、課題も見え てきた。松下 (2015) のアクティブラーニングの特徴に沿って達成できた部分を 提示し、さらに受講生の記述内容より今後の課題を考察する。
まず本講座は受講希望者の選抜を行う演習である。15週間の授業では、受講 者がグループ・ディスカッションやその結果を発表することは定期的に行い、ゲ ストスピーカーを迎え、また動画を視聴することで異文化理解を高めるなど、講 義以外の方法を念頭に置いてきた。その点、松下 (2015) が挙げるように受講者 は聴く以上の関わりを持ち、高次の思考である分析や評価も経験し、議論を通し て自分の価値観や考えを表現できることを行ってきた。2017年度前期及び後期 でも受講者に同じ英字新聞のコラムを配布し、謝罪に文化的差異がある事例とし て紹介した。しかし授業内容を見直す中で、2018年度は受講者の認知プロセス の外化 (溝上
, 2014) に重点を置き、コラムが執筆されている英語ではなく、理
解を確認するために日本語で寸劇を行った。寸劇の台詞作りや最終的なパフォー マンス内容を観察する限り、受講者は深く、対話的で主体的な学びが達成できた と評価できる。試みではあるが、本講座においてアクティブラーニングは受講者 の学びの可能性を拡げるために有効であることを示している。一方で受講者の記述内容(振り返り及び定期試験の回答)を通して、異文化理 解を深めることの達成においては課題も垣間見える。授業終了後の振り返りの多 くには、キクチに賛同し、アグネスを批判し、さらに日本文化への適応を当然と することが異文化理解と見做すような内容が見受けられた。他のグループのアグ ネス役のパフォーマンスを観た受講者が「謝るときの態度(大へいさ)もいくら
謝っても
nonverbal communication
として相手に伝わるので大切」(社会イノベーション学部1年女子
) と書いた内容には、謝罪を躊躇することを横柄な態度と解
釈し、そのアグネスが非言語的に取る態度さえも誤解されやすいとの見解もある。あくまでも一人の学生の感想とは言え、ネガティブなステレオタイプを助長し、
異文化理解で必要とされる文化の相対性 (Bennett, 1986) とは異なるメッセージが 伝わる可能性もある。その一方で、次のように振り返る受講生の記述は、異文化 理解も達成可能であることを示唆している。
「この記事を読み、アグネスさんのような考え方もあるのか、と視野が広がっ
た気がした。アグネスさんの行動や意見は何も間違っていない。だから我々も彼 女のように感謝の言葉を述べた方が、互いにポジティブな気持ちになるのかもし れないし、そうするべきなのかもしれない。」(経済学部
1
年男子)
上記のコメントは、アクティブラーニングが奏功しているのか、判断は難しい。
しかし取る立場に違いがあっても、かつてのように配布したコラムを読み、議論 しただけでは見られなかった、受講者の感受性の豊かさ及び思考のプロセスの詳 細さが伝わり、アクティブラーニングの効果に手応えが感じられる。
6. おわりに
本稿では、日本語とアメリカ英語における謝罪の文化的差異の理解を目的とし、
受講者の異文化理解を深めるアクティブラーニングの試みと、その効果の実践報 告をした。本調査では、アクティブラーニングを通して受講生の深い学びが達成 できたものの、振り返りが示すのは、海外在住または渡航経験がない受講者の異 文化理解をどのように導き出すか、という課題である。
今後の改善策として挙げられるのが、授業終了後の振り返りの設問方法である。
筆者が持つ前提は、アグネスのような謝罪しない考えにも理解を示すことだった。
だが、その前提を受講者に押し付けるのではなく、謝罪の方法に相違があること を受講者が客観的に認識できるためには、今回のような「なぜキクチさんは謝っ たのか?なぜアグネスは謝る必要はないと考えたのか?」のように二項対立の ニュアンスを持つ設問を見直すことが必要と思われる。そのためには、エピソー ドの共有や動画視聴以外に、Barnlund & Yoshioka (1990) などの先行研究の紹介も 含め、多角的なアプローチを取るなど検討の余地がある。それ以外に受講者が日 常生活の中でも発話行為 (例:他者に依頼する、断る、招待する、褒める等
) に
注目できるよう、Status (S), Distance (D), Imposition (I) を用いながら分析する課題
を出すなど、授業外学習にも繋がる学びを計画することも可能である。本稿で扱った『留学準備演習』におけるアクティブラーニングは、あくまでも 一つの試みである。振り返りの記述は実体験に基づくのではなくコラムの内容を 演じ、それに対する想像 (Kowner, 2002) 及び強い感情 (Cushner & Brislin, 1996) で
あると受講者が認識できれば、客観的な目を養うこともできる。今後もアクティ ブラーニングを発展させ、異文化理解にも応用できる素地を養うための学びの機 会を増やし、受講者にとり語学学習と並ぶ留学準備に繋がることが期待される。
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