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多次元共感測定尺度の構造と性格特性との関係
著者 桜井 茂男
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 30
ページ 125‑132
発行年 1994‑03‑01
その他のタイトル Factors of Multidimensional Empathy Scale and Their Relations to Personality Traits.
URL http://hdl.handle.net/10105/6857
多次元共感測定尺度の構造と性格特性との関係}
桜 井 茂 男 (心理学教室)
要旨:大学生216名(男子90名、女子126名)を対象に、Davis(1983)による多 次元共感測定尺度の日本語版(桜井,1988a・b)を実施し、多次元構造を因子 分析により検討しれ女子では原尺度通りの4因子が確認されたが・男子につ
いては1因子が少ない3因子が見いだされた。女子の4因子は原尺度と同じ① 個人的苦悩、②共感的配慮、③視点取得、④空想、男子の3因子は①空想、② 共感的配慮および視点取得・③個人的苦悩であっれ女子の一部(62名)につ いては、上記共感測定尺度とともにY−G性格検査のデータをもとに両者の関 係も検討した。個人的苦悩は回帰性傾向、劣等感が強いこと、神経質、客観的 でないことと正の相関、思考的外向および支配性と負の相関が認められた。共 感的配慮は協調的でないことと負の相関が認められた。このような結果は本共 感測定尺度が妥当な尺度であることを示している。
キーワード:多次元共感尺度、性格特性、因子分析、性差
共感(empathy)は、向社会的行動を動機づける重要な要因の一つとして活発に研究されている。
研究の発展とともに多様な共感測定尺度が作成された。代表的な尺度としては、Mehrabian&
Epstein(1972)の情動的共感(emoti㎝a工empa七hy)測定尺度がある。これは文字通り、共感の情 動的側面に焦点を当てて共感の個人差を捉えた尺度である。わが国では高木(1976)が、この日本 語版を作成している。この尺度は大学生あるいは成人用であるが、Bryant(1982)はこの子ども版 を作成している。Bryantの尺度は桜井(1986)によって邦訳され、いくつかの研究に用いられてい る。さらに、加藤・高木(1980)はMehrabian&Epstein(1972)の尺度を参考に、わが国の大学 生らにわかりやすい情動的共感測定尺度を作成してい乱
このような共感測定尺度は情動的共感の立場から作成されている。しかし、近年共感を多次元 的に捉えようとする試みが見られるようになった。Davis(1983)がこの代表であろう。彼は、共 感を認知的な側面と情動的な側面から多次元的に捉えようとした。彼は4次元の共感測定尺度を 開発した。それは、認知的側面の①視点取得(perspective−taking)尺度と②空想(fantasy)尺度、
情動的側面の③共感的配慮(empathic concem)尺度と④個人的苦悩(persona1distress)尺度で構 成されている。視点取得尺度では他者の立場になって物事が考えられる傾向(たとえば、友達を
よく理解するために、彼らの立場になって考えようとする、といった項目)を、空想尺度では小説、
*Factors of Muユtidimensiona1Empathy Sca1e and Their Reiations to Persona1ity Traits、
**Shigeo Sakurai(Department of Psycho1ogy,Nara University of Edl』cation,Nara)
映画、演劇などの架空の世界の人物と同一視しやすい傾向(たとえば、すばらしい映画を見ると、
すぐ自分を主役の人物に置き換えてしまう、といった項目)を、共感的配慮尺度では他者に対し て同情や配慮をしやすい傾向(たとえば、自分よりも不幸な人たちにはやさしくしたいと思う、
といった項目)を、個人的苦悩尺度では援助の必要な場面で動揺しやすい傾向(たとえば、緊急 な状況ではどうしようもなく不安な気持ちになる、といった項目)を、それぞれ測定しようとし ている。いくつかの研究によってこの尺度の妥当性の高さが示されている。
鈴木(1992)は独自の共感測定尺度を分析した結果、Davis(1983)と同様な因子を見いだして いる。桜井(1988a・b)は、Davisの尺度を邦訳しているが、構造の分析はまだなされていない。さ らに、妥当性の検討も不十分である。そこで、本研究では桜井によるDavis尺度の日本語版を大 学生に実施し、多次元構造を因子分析により検討することが第一の目的である。つぎに、Y−G 性格検査のデータをもとに、多次元的共感と性格特性の関係を検討することが第二の目的である。
方 法
被調査者 公立大学の大学生216名(男子90名、女子126名)であった。
質問級ωDavis(1983)による多次元共感測定尺度(英語による尺度名は、Interpersona1Re−
activity Index;略してIRI)の桜井(ユ988a・b)による日本語版を用いた(付録参照)。これは既 に説明したように、共感を認知的側面の視点取得および空想、情動的側面の共感的配慮および個 人的苦悩から捉えようとする尺度であ孔各(下位)尺度は7項目で、合計28項目で構成されて いる。項目は4段階評定(1〜4点)で、高得点ほど共感の高いことを示す。
12〕Y−G性格検査(矢田部・園原・辻岡,1955)を性格特性の指標として用いた。これはわが 国ではポピュラーな性格検査であり、表1に示したような12の性格特性が測定できるようになっ ている。検査は120の質問項目で構成されており、3件法(はい、?、いいえ)で評定する。
表1 Y−G性格検査における12の性格特性の内容(矢田部ほか,1955)
D抑うつ性……・・・…
C 回属性傾向…・…・…
1劣等感の強いこと・・
N 神 経 質一一…
○ 客配的でないこと Co苗調的でないこと・
Ag望想の悪いこと…・・
G 一服的活動性…
Rのんきさ……
不思考的外向 A支 配 性…
S 社会的外向…
…… A気,悲観的気分,罪悪感の強い性質
…一 ?オい気分の変化,驚きやすい性質
一… ゥ信の欠乏,自己の過小評価,不適応感が強い
・ ・心配性,神経質,ノイローゼ気味
……
想的,過敏性,主観性 ・・不満が多い,人を信用しない性質
・… U撃的,社会的活動性,ただしこの性質が強すぎると社会 的不適応になりやすい
・活発な性質,身体を動かすことが好き
…気軽な,のんきな,活発,衝動的な性質
・非熟慮的,瞑想的および反省的の反対傾向
・・社会的指導性,リーダーシップのある性質
・・対人的に外向的,社交的,社会的接触を好む傾向
手僚き 上記の多次元共感測定尺度は被調査者全員に実施された。授業時間の終わりに学生の 同意を得て集団形式で実施した。Y−G性格検査は別の調査で実施したものを利用した。多次元 共感測定尺度とY−G性格検査の双方に回答していた者は女子では62名、男子では14名であった。
Y−G性格検査との関係は女子のみを分析の対象とした。
結果と考察
ω多次元共感測定尺度の構造について
男女別に因子分析を行った。主因子法により因子を抽出し、バリマックス回転を施した。男子
表2 多次元共感測定尺度の因子分析結果(バリマックス回転後,N=90;男子)
項目番号(次元)
I
子
皿
皿 パ
1 (F)
2 (E)
3 (P一)
4 (E一)
5 (F) 78 6 (D)
7 (旦二Σ......一...、週.........
8 (P)
9 (E)
1O (D)
11 (P)
12 (F一) 44 13 (D一)
14 (E一)
15 (P一)
16 (F) .82
17 (D)
18 (E一)
19 (D一)
20 (E) .57 21 (P)
22 (E)
23 (F) .71
24 (D)
25 (P)
26 (F) .63 27 (D)
28 (P)
.50
.48
.64
.64
,67
.54
.68
.59
.50
.18 .45 .26 .57 .60 一.64 .42 19 146 .04 .06 .45 .21 .37 .55 .14 .72 一.74 .63 .50 一.66 .46 .37 ,45 .28 .08 .58 一.80 .64 114 145
一.60 .40 .31 寄与率(%) 13.05 12.98
11.49 (37.5196)注)次元のところのFは空想項目、Pは視点取得項目、Dは個人的苦悩項目、Eは共 感的配慮項目であることを示す。一(マイナス)は逆転項目を示す。因子負荷量は、
.40以上を掲載した。
では3因子による結果がもっとも解釈しやすかった。バリマックス回転後の因子負荷量が表2に 示されている。Davisらはきちんとした因子分析の結果を示していないため厳密な比較はできな
いが、もとの尺度が4因子であると仮定すると1因子少ない結果である。因子に高い負荷量を示 している項目によって因子を解釈すると、第一因子は空想因子、第二因子は共感的配慮および視 点取得因子、第三因子は個人的苦悩因子となろう。すなわち、おおまかにみると共感的配慮と視 点取得の項目が分離せずに同一因子として抽出されたと考えられる。男子にとっては、他者の立 場になって考え、他者に思いやりの気持ちを持つことは一つの過程として受け取られている可能 性が高い。視点取得は認知的過程であり、共感的配慮は情動的過程であるが一緒になってひとつ
の流れをもっているようである。男子の因子分析における累積寄与率は37.51%であった。また、
表3 多次元共感測定尺度の因子分析結果(バリマックス回転後,M:126;女子)
項目番号(次元)
I
子
皿
皿
wが
1 (F)
2 (E)
3 (P一)
4 (E一)
5 (F)
6 (D) .57
7 (F一) 8 (P) 9 (E) 10 (D) 11 (P) 12 (F一) 13 (D一) 14 (E一) 15 (P一)
.57 .69 .63 .7216 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28
(F) (D)(E一) (D一)
(E) (P) (E) (F) (D) (P) (F) (D) (P) .76 .79 .54 .82 .58 .41.22
.34
.16
,48
.66 .46
.39
.43 .31
.68 .50
.05
.18
.55 ,39
.08
144
.56
.17
.75 .65
.58
.46
.65
.07
,75 .57
.09
,63 .58
.70
.66 .46
.47 .25
.36
,61 .43
寄与率(%)
1O.47 9.749.51
8.07 (37,799も)注)次元のところのFは空想項目、Pは視点取得項目、Dは個人的苦悩項目、Eは共
感的配慮項目であることを示す。一(マイナス)は逆転項目を示す。因子負荷量は
.40以上を掲載した。
.40以上の因子負荷量を示す項目だけで見るならば、項目no.13,20,21が予想される因子に高い 負荷を示さなかった。
女子の因子分析の結果が表3に示されている。女子の場合は男子と異なり4因子がもっとも解 釈しやすかった。この結果は原尺度の4次元という仮定を支持するものであった。因子負荷量が
.40以上の項目で見ると、no.13だけが当初の予想と異なる因子に高い負荷量を示した。第一因子 は個人的苦悩因子、第二因子は共感的配慮因子、第三因子は視点取得因子、第四因子は空想因子
表4 多次元共感測定尺度の因子分析結果(バリマックス回転後,W=216;全体)
項目番号(次元) 因 子
I II 皿 1 (F)
2 (E) 一.56
3 (P一)
4(E一) 一.67
5 (F)
6 (D) 一.60 7 (F一)
8 (P)
9 (亘)
10 (D)
11 (P)
12 (F一)
13 (D一) 一.60
14 (E一) 一.74
15 (P一)
16 (F)
17 (D) 一.75 18 (E一) 一、56 19 (D一) 一.76 20 (E)
21 (P)
22 (E)
23 (F)
24 (D) 一.82 25 (P)
26 (F)
27 (D) 一.54 28 (P)
寄与率(%)
lV が
.18
.37
.19
,50
.69 .49
.39
,42 .25
.71 .53
104
,n .50 ,39
.13
.40
.59
.12
.76 .66
.57
147
.60
.16
.64 .45
103
.65 .56
.69
.54 .32
153 .29
.36
.55 ,37
9,85 9,66 9.14 7.77 (36.4296)