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損害保険会社の経験効果:

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(1)

損害保険会社の経験効果:

火災,自動車,自賠責保険の元受契約件数と事業費を事例として

福 冨   言

目     次 はじめに

損害保険会社の経験効果 おわりに

はじめに

本稿は,販売会社あるいは企業の販売活動のオペレーション・コストにかんして,商品の取り扱 い経験の蓄積によるコスト削減効果――すなわち,経験効果の有無を検証するものである.これま での議論――自動車販売と住宅販売(拙稿,2007),生命保険(同,2008)に引き続き,今回は国内 の損害保険会社

2

社を事例として取り上げる.この

2

社とは,東京海上日動火災保険(東京海上日動)

と三井住友海上火災保険(三井住友海上)であり,それぞれの火災保険,自動車保険,および自賠 責保険の取り扱い経験と事業費との関係を明らかにしたい.

損害保険会社の経験効果

事例研究の設計

販売経験の累積に応じて,1単位あたりの販売コストあるいは販売活動のためのオペレーション・

コスト(本稿においてユニット・コストと呼ぶ)はどのような推移を見せるのであろうか.本稿は,

国内の大手損害保険会社

2

社を取り上げて,その経験曲線を描写するものである.

損害保険会社を事例とする理由として,生命保険会社の経験曲線との対比を目指していることを 挙げる.前回の生命保険会社の事例では,保険商品の取り扱い経験の蓄積と事業費との関係を,個 人保険と団体保険とを一まとめにした大まかな曲線を描くことによって確認した.しかし,これら の異質な商品の取り扱い経験を無差別に研究対象としているにも関わらず,団体保険の加入者数が 急増する時期があるなど,1単位あたりの販売コストを引き下げるような特異なイベントが存在して いた.一方,損害保険会社の事例では,火災保険や自動車保険をはじめ,取り扱い商品には損害賠 償や海上,盗難,風水害など様々なカテゴリーの保険商品が含まれ,それぞれの契約件数と事業費 について一貫したデータを入手することができた.その他,販売単位数が明確であること,無形財

1

事例として有形財との対比を見据えていることなどについては,生命保険会社の事例を取り上

研究ノート

(2)

げた理由と同じである.

本稿では,特に,火災,自動車,自賠責保険,以上

3

つのカテゴリーを取り上げる1).これらは,

損害保険会社の取り扱い商品のうち,自動車,自賠責,火災の順に,正味収入保険料の最も大きな

3

つである.経験曲線を最も長く描けるものとして火災保険,収入保険料が現在最大である自動車 保険(任意保険),さらに,法・規制的要因を反映している自賠責保険(自動車損害賠償責任保険.

政府による強制保険),それぞれの元受契約件数に注目することにより,事例内の多様性にも配慮し た.特定の損害保険会社を事例として選ぶにあたっては,その取り扱い経験の規模と長さを重視し た.現在(2007年度末.2008

3

月),正味収入保険料の規模では,東京海上日動が当該

3

カテゴリー すべてにおいて国内首位,三井住友海上は火災保険において

2

位,他の

2

カテゴリーにおいて

3

である.また,総資産について両社は国内最大規模である.昨今の経営統合以前の期間については,

それぞれの前身(東京海上火災保険と日動火災海上保険,三井海上火災保険(大正海上火災保険か ら改称)と住友海上火災保険)の損害保険会社のデータを単純に合算した.なお,経験曲線の描写 に用いるデータのうち最新のものは

2008

3

月時点のものであり,三井住友海上のあいおい損保や ニッセイ同和損保との経営統合はデータに反映されていない2)

データ・ソースとして,株式会社保険研究所『インシュアランス 損害保険統計号』の各年版を用 いる.2社の概要や各カテゴリーにおける経験曲線の描写期間などについては,付表のとおりである.

表 1 調査対象の概要

経験曲線の描写のために

次に,経験曲線の描写に用いるデータについて,その推移を確認する.保険契約数の推移には,火災,

自動車,自賠責ともに元受件数を用い,オペレーション・コストの推移として主に正味事業費を用

1) この段における記載は,後述のデータ・ソースによる.

2) この経営統合の最終合意については,日本経済新聞,2009

10

1

日付など.

調査対象 東京海上日動 三井住友海上

設立年

2004 東京海上  1879 日動火災  1898

2001 三井海上  1918 住友海上  1893 総資産

(2007年度末)

(百万円)

10,889,562 6,968,568

経験曲線の描写期間(年度)

火災保険 1951-2007

前身はともに 1951-2003

1951-2007 前身はともに 1951-2000

自動車保険

1955-2007 東京海上 1951-2003 日動火災 1955-2003

1951-2007 前身はともに 1951-2000

自賠責保険 1961-2007 前身はともに 1961-2003

1961-2007 前身はともに 1961-2000

(3)

いた.この事業費には損害調査費が含まれている.

火災保険の契約数には,長期保険(あるいは積立保険)の契約数を含まない.一方で,火災保険 の事業費には長期保険のそれも含まれている.個別に連続したデータを抽出できなかったからであ る.また,自賠責保険について,データ・ソース上,1962年度までは「事業費」とされているもの,

1963

年度以降「正味事業費」と記載のあるものを利用した.なお,データ・ソースによると,正味 事業費とは,事業費から再保険手数料を引いたものと定義されている.

それでは,東京海上日動と三井住友海上,2社(およびその前身)の火災,自動車,自賠責保険の 元受契約件数の推移,および各カテゴリーの事業費の推移を確認してみよう.図

1-1

から

1-6

を参照 されたい.

これらの図によると,東京海上と日動火災の火災保険の元受契約件数について顕著な増減が見ら れることがわかる.算出方法などの変更についてはデータ・ソース上に記載がなく,産業計や他社 のデータには顕著な増減が見られないことを確認した.本稿において問題とするのはその時々のス タティックな生産性や効率性ではなく,契約件数と事業費の累積値間の関係であるため,今回はデー タ・ソース記載の値をそのまま用いて経験曲線を描写した.

損害保険会社の経験曲線

それではここで,各社・各カテゴリーの元受契約件数と事業費との関係を確認しよう.1契約当た りの事業費,すなわち事業費のユニット・コストは,事業費の累積値を契約件数の累積値で除した ものとして定義する.なお,事業費の値は,総務省統計局「消費者物価指数 長期時系列データ  品目別価格指数 全国 総合 2005年基準」,各年

3

月の指数によって調整した.図

2-1

から

2-6

参照されたい.

まず,単純なコストの多寡についてみると,法の強制による自賠責保険の契約元受にかかる費用 が最も小さいことがわかる.一方で,ユニット・コストの推移についてみると,契約件数の累積に 応じ,漸増傾向が確認できる.コストの漸増については火災保険においても同様であり,東京海上 日動ならびにその前身企業において顕著である.

次に自動車保険をみると,火災保険や自賠責保険と比較して,その経験曲線の傾きが緩やかである ことを確認できる.保険契約数と保険料収入が最大であり,リスク分散の可能なこのカテゴリーにつ いては,費用面からもその(その他

2

つのカテゴリーに相対的な)効率性が看取できる.ただし,経 験 “ 効果 ” と名づけるようなコスト効率性や生産性の向上を見出した,と結論づけることはできない.

(4)

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図1

-

1 東京海上日動(合併前の合算値および合併後)のデータ 左から,火災,自動車,自賠責保険.(出典)株式会社保険研究所『インシュアランス 損害保険統計号』各年版より作成. 図1

-

2 三井住友海上(合併前の合算値および合併後)のデータ (出典)図

1-1

に同じ.

(5)

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図1

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3 東京海上のデータ (出典)図

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4 日動火災のデータ (出典)図

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(6)

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図1

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5 三井海上(旧・大正海上)のデータ (出典)図

1-1

に同じ. 図1

-

6 住友海上のデータ (出典)図

1-1

に同じ.

(7)

おわりに

本稿は,販売職や営業職に就く人々の経験や技能にかんする一連の研究の

1

つである.分析対象 を販売業者やサービス業者といった組織として設定し,その経験の蓄積によるコスト削減を検証す ることが目的である.これまでの自動車や住宅,生命保険の事例に引き続き,今回は損害保険会社 を取り上げた.多様な商品ラインアップを無差別に分析対象としたこれまでの議論とは異なり,火 災保険,自動車保険,自賠責保険――以上のカテゴリーごとに個別の経験曲線を描いたところ,自 動車保険契約の元受にかかるユニット・コストについてほぼフラットな曲線を確認することができ た.けれども,経験効果の検証という意味では今回も成果を上げられなかった,と結ばざるをえない.

しかしながら,販売業者やサービス・セクターの経験効果を検証することが無意味であるとか,

インプリケーションがない,などと断じることはできない.この点について最後に検討したい.

経験効果や学習によるコスト削減の効果は多くの産業に適用可能な概念であると主張されることが ある.たとえば

Ghemawat(1985: 144, 147-148)は,業務の標準化の可能性,初期の技術開発リスク,

資本力によってはサービス・セクターにおいても経験効果を見出せることを主張した.しかし,そも そも初期投資額を含めて経験曲線を描いたならば,投資は(販売や生産といった)アウトプットに必 ず先行するため,曲線の下降をあえて実証する必要はなく,むしろ,日常業務やオペレーションに注 目すべきであるとされる(Henderson, 1984:6).また,Alchian(1963:684)は特定の生産設備と特定の 製品に関する経験効果(“model fascility combination”)に言及した一方で,サービス・セクターにおい てその効果を確認する試みは古くから必要視されている(Day and Montgomery, 1984:56, Chambers and

Johnston, 2000:845-846, 856-857)

.筆者の一連の研究はこのような問題意識に基づいている.

しかし,経験効果の検証にかかる困難についても報告がある.経験効果は創業や製造,発売,合 併や民営化の初期に観測される現象であるとされ,金融サービス業のオフィスワークの事例では創 業後

12

ヶ月の分析期間においてコスト削減を確認できる(同

, 845, 850, 855).他方,経験効果は長

期的な概念であり,分析期間が長期になるがゆえに製品・市場の定義や競争環境の不安定さ,ライ ンアップの変化によってその効果を見出すことは難しく,注目するコストの種類によって異なる結 果(効果の有無や効果の始まるタイミング)を見出すことになる(Henderson, 1984:6-9).本稿を含 めて,筆者のこれまでの試みも同じような問題を抱えているし,最近の研究のなかでも,価格をユニッ ト・コストの代理変数とする場合もあるなど(Brown, et al. 2007:207-208),販売業やサービス・セク ターにおける経験効果の検証は――もしそれが真に存在するのならば――非常に困難な課題である のかもしれない.

一方,組織の経験曲線を描写すること,それ自体の意義やインプリケーションについても報告が ある.一例を挙げると,Armstrong and Collopy(1996: 193)は経験曲線の情報によって組織の成員 の行動規範が影響される,と述べた.具体的にいうと,経験曲線の情報が与えられた成員は売上を 伸ばすために過度な競争志向に陥る可能性があると指摘された.以上より,経験曲線の描写それ自

(8)

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図2

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1 東京海上日動(合併前の合算値および合併後)の経験曲線(対数目盛) 左から,火災,自動車,自賠責保険. 図2

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2 三井住友海上(合併前の合算値および合併後)の経験曲線(対数目盛)

(9)

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図2

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4 日動火災の経験曲線(対数目盛)

図2

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3 東京海上の経験曲線(対数目盛)

(10)

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図2

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5 三井海上(旧・大正海上)の経験曲線(対数目盛) 図2

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6 住友海上の経験曲線(対数目盛)

(11)

体については様々な困難や課題があるけれども,今後は,組織の成員の行動規範,経験や技能意識 との関わりについて焦点を定めることを考えている.

参考文献

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The Experience Effect of the Non-Life Insurers in Japan: A Case of the Operating Expenses for Fire, Automobile, and Compulsory Automobile Liability Insurances

Gen FUKUTOMI

ABSTRACT

The author examines the decline of the experience curves of the two major non-life insurers in Japan. The curves are

drawn from data of the operating expenses for fi re, automobile, and compulsory automobile liability insurances. As a result,

for the insurers, the automobile insurance is a cost-effective business relatively to the other two categories, where we fi nd

the continuous rise in costs. Nonetheless, the curve for the automobile insurance has been shaped almost fl at.

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参照

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