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地域環境整備計画における産業遺産の保存 ・活用

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(1)

地域環境整備計画における産業遺産の保存 ・活用

今 尚 之

Keywords: 地域計画,地域環境整備, AHP ,合意形成,産業遺産,近代化遺産, 保存 ・活用,三弦 トラス橋

目 次

1. は じめに

2 .地域環境整備計画 における産業遺産保存の問題点 と課題点 ( 1 ) 地域環境整備計画 における産業遺産 の保存

( 2) 産業遺産保存 の問題点 ( 3 ) 産業遺産保存の課題点

3. 夕張 シューパ ロダム周辺環境整備 における三弦 トラス橋 の保存 ( 1 ) 夕張 シューパ ロ湖三弦 トラス橋

( 2 ) 産業遺産 としての夕張 シューパ ロ湖三弦 トラス橋の評価 ( 3 ) 夕張 シューパ ロダム事業 と夕張 シューパ ロ湖三弦 トラス橋

( 4) 夕張 シューパ ロ湖三弦 トラス橋の保存代替案 ( 5) AHP 手法 による保存代替案の評価

( 6) 三弦 トラス橋保存代替案の評価結果

4. ま とめ

1 .は じめに

およそ 1世紀半前, 日本 は欧米先進各国よ り近代工学技術を導入 し,産業の 近代化 を開始 した。特 に社会資本の充実が 目覚 ま しく行われ,近代国家 と して 発展す る基礎が形成 された。社会資本 の充実 は産業 の発達を もた らし,産業の 発達 は社会資本の充実,蓄積を促 した。その結果が今 日の経済的な発展 と繁栄 を もた らした ことは衆人の認め るところであ り ,21 世紀を間近 に迎え るこの時

〔 2 4 3 〕

(2)

点 において も将来の繁栄のためには新 しい視点による社会資本の充実が必要 と されているのである。

さて,近年,それ ら明治以降 に導入 された近代工学技術 によって作 られた 数 々の遺物,建築物,構造物を, 日本の近代化過程を示す歴史的資料価値のあ る産業遺産,すなわち近代化遺産 と して捉え ることへの関心、 が高 ま りつつ あ る。そのため,それ ら近代化遺産を例えば文化財 に指定 し,保存す る取 り組み が全国で見 られ る様 にな って きた 。1 99 3 ( 平成 5) 年,国の重要文化財 に指 定 された信越本線横川 一軽井沢間の旧碓氷峠の レンガ構造物群 はその一例 とい えよ う。

しか しなが ら,現時点で は近代化遺産その ものの調査 はいまだ十分 とはいえ ない。 さ らに,それ らの保存を考慮 した,地域的な環境整備計画案の作成の取 り組 み は,あま り進んでいないのが実情で あ る 1)。 この ことは,近代化遺産 が地域の生活環境を形成 し,産業文化を育んだ歴史的モニ ュメ ン トであること の認識,例 えば土木構造物 な ど規模 の大 きい もの は地域 の ラ ン ドマークであ り,地域の 自然環境 と同様 に重要 な環境財であることの認識が一部 に しかなさ れていない現状が背景 に存在す ることによるもの と指摘で きる 。

この例 として,大規模開発の事前 になされ る現在の環境 アセスメン トにおい て,一部の 自治体を除いて文化や社会,歴史的な環境 に対す る評価が行われて いない ことがあげ られ る

2) 。

このため大規模 な再開発 な どで は地域 の発展 に 貢献 した近代化遺産が何等評価 され ることな く, さ らには保存の検討 もなされ ずに解体,撤去 され ることが往 々に して見 られ るのである。近代化遺産の評価 な き撤去 は社会に不可逆的な損失を もた らす ことに もつなが る

地域の開発 に おいては,地域の生活文化環境のモニ ュメ ン トたる近代化遺産の十分 な評価 と それ らの保存を考慮 した地域環境整備計画が必要である。

本研究は,地域 の環境整備計画に近代化遺産の保存を考慮す る場合の問題点

と課題点を整理 し, さらに実際的な地域環境整備計画を提案す るためのプロセ

スの明確化を 目的 とす るものである。現在,北海道夕張市 に位置す る大夕張ダ

ムによって堰止め られた シューパ ロ湖上 に,土木技術的に高い評価を受 けてい

(3)

地球環境整備計画における産業遺産の保存 ・活用 2 45 る三弦 トラス構造の橋梁が存在す る。こ の橋梁は,現時点では治水および水源 開発を目的 としたダム再開発 によるダム湖の嵩上げによって水没が確定 してい る産業遺産である。本研究ではこの橋梁の保存を具体的な問題 とし,保存代替 案の評価を AHP によって行 うものである。

2. 地域環境整備計画 にお ける産業遺産保存 の問題点 と課題点 3)

( 1) 地域環境整備計画における産業遺産の保存

現在,我 々の身辺古 手は,地方 自治体の指定 による文化財か ら国指定の重要文 化財 まで数多 くの文化財が存在 している。それ らの多 くは精神文化の所産 によ るものが多 く,いわゆる物質文明の所産,特 に産業関係の遺産に関 しては相対 的に低い価値 しか認め られていない場合が多い。特 に日本においては,第二次 世界大戦後の高度経済成長時代,旧式 となった産業施設 ・設備 は,破壊 しスク

ラップ化す ることが合理的なことであ り,また経済的な発展 に必要なこととし て積極的に行われて きた

4) 。

さ らに,法的な保護の関心事項 は埋蔵文化財, 社寺, 美術工芸品などにおかれ, 近代以降の国民の生活を支えて きた「 文明財」

とで もい うべ き産業遺産保存 に付いてはほとんど留意 されて こなか った。 しか し,近年の社会の成熟 に伴 う価値観の多様化 は,産業遺産への関心を高め,そ の保存,活用への取 り組み も試み られ るよ うにな って きた 5) 。 この ことは, 生活環境の質を高め,文化的により高度な生活空間の創造につなが ることであ る。 しか しなが ら,保存,活用にあたっては解決すべき問題点,課題点が存在 す ることもまた事実であ り,特 に産業遺産の保存を考慮 した場合,地域環境整 備計画の立案時に様 々なコンフ リク トが生 じることか ら,合理的な計画案の策 定が求め られている

( 2 ) 地域環境整備計画立案における産業通産保存の問題点

( a) 評価 に関す る問題点

( 丑 産業遺産の評価

(4)

E q l l l

l l l l l

‑ I

図 1 産業遺産保存 の問題点 と課題点

保存代替 案評 価法の確立

産業遺産 その ものの評価では,その評価規準が暖味であることか ら,やや も すれば見 た目などの感覚的な部分か らの評価に終始 し,技術や社会性,地域文 化の観点を含めた総合評価がなされていない。

② 保存代替案の評価

実際の保存 において,機能の保全や安全性を調査 し,保存形態 による代替案 を作成 し,評価を行 うプロセスが確立 していない。

現在,環境影響評価で は一部の自治体を除いて歴史的な遺産の調査,評価 は 行われてお らず,歴史的な生活環境の維持や産業遺産の保存 に対す る認識が依 然 として低 いままで終 っている。

( b) 保存の形態に関す る問題点 ( 丑 機能の維持

産業遺産 について保存 あるいは撤去,解体を行 うかの議論の大部分 は,‑‑

(5)

地球環境整備計画 にお け る産業遺産の保存 ・活用 247

ド的ない しソフ ト的 に老朽化す ることによ り機能を維持で きな くなった ときに 生 じる

現在の利用形態を続 けるよ うな機能を維持 したままの保存 ( 動態的保 存)の場合,利便性の低下 はもとよ り,安全性や現行法制度 との関係が問題 と な って くる。特 に公共‑の供用を前提 と している土木構造物 の場合,厳 しい安 全基準 を ク リアす るためにかな りの補強が必要 とな ることが予想 され,結果 と

してオ リジナルを大 きく改変 させた り,莫大 な経費が必要 とな ることにつなが りかねない。また展示 な ど ( 静態的保存) のよ うに現在の機能を全 く変えて保 存す る場合 は,管理 の主体が問題 となる。 この ことは経費負担 とも密接 にかか わ る問題 である。

( 卦 原位置,原形の維持

現地でそのまま保存す るか移設 して保存す るか, さ らには原形を完全 に維持 をす るか,一部 を現代的に改変す るかなどの諸点 も検討 されなければな らない 問題点であ る

歴史的な文化財 に対す る一般的な認識 であるオ リジナルの伝承 とい う観点か らは極力,機能 と形の原形保存が望 まれ る。 しか し,産業遺産 の 多 く,特 に土木遺産 は生活環境 に密接 な ものであることか らあ る程度の妥協点 も必要 とな り,意思決定 において複雑 な コンフ リク トが生 じることとなる

特 に再開発 な どに伴 う保存 問題で は,原位置保存,原形保存 はよ り難 しくな る。

( C) 保存 の経費 に関す る問題点

産業遺産,特 に公共性が高 く規模の大 きい土木遺産 の場合,その保存 にかか わ る経費 を誰が負担す るのかが大 きな問題 とな る 。 また,地元 の関心や愛着 も この問題 に大 き く関係す る。

( 3 ) 地域環境整備計画立案 における産業遺産保存の課題点

周辺環境整備 において産業遺産を考慮 した計画を行 うためには以下が課題 と して考え られ る。

( a) 段階的評価の実施

従来 は,産業史的な評価 と保存,活用 の評価が揮然一体 と して行われ,それ

ゆえに保存,活用 に関心が持 たれ るために,産業史的な評価す ら行 われず,揺

(6)

衰 1 保存,活用のための評価項 目と評価 内容

評価項 目 評 価 内 容

産業史 的評価 保存,活用の評価で は,歴史や文化 な ど地域 の生活環境 に意 味のあ る産 業遺産であるか否かの判断をまず行 う必要が あ る○

現状 の状態評価 現存 して い るとして も,機能の維持 は もちろんそれ 自身 の存在が 怪 しい ほど老朽化 してい るな らば,何等かの補修や改修が必要 とな るoその こ とは、場合 によ って は歴史 的な価値 を下 げ ることに もな り, また,莫大 な保存事業費 を必要 とす ることに もつ なが る

o

現位置保存 の可

能性評価 現在 甲位置 に保存 され,本来の機能を発揮す ることが一番望 ま しいが, 困難 を伴 うことが多 い○現位置での保存の可能性 を評価 し, それが不可 能 な らば歴史 的な背景 にふ さわ しい転用先を見 出すべ きであ るo

地元 におけ る関

心や愛着 ー 産業遺産 と しての価値 を見 出された構造物で あ つて も,地元 でま った く 関心や愛着 のない ものを保存 して も意 味のない もの とな る○地元が その

去,解体 もしくは廃棄がなされ ることが多か った。産業遺産の評価では史的評 価 と保存,活用評価 は段階的になされ るべ きである。

( b) 産業史的評価観点の明確化 6)

産業遺産を保存す るためには,まず以 ってその遺産が産業史的にいかなる意 味を有 しているのか評価が必要である

すなわち,開発の経緯を知 り,諸元や 工法など技術的な特徴を把握 し,他の同様 な遺産 との差異を明確 にす る必要が ある。 ここで,そのための評価項 目を大 まかに分類す るな らば,( ∋技術 に関わ る評価軸,②意匠に関わる評価軸,③機能 ( 計画)に関わ る評価軸の 3 軸が考 え られ, これ らの評価軸 に共通な基礎的な評価概念 として ; ④時間軸の存在が 指摘 され る。 さ らに実際に評価を行 うためには,現在,何が, どこに, どのよ うな状態で残 っているのかが把握できる リス トと技術的な発達史 に関す る体系 的な知識 とが必要 になる。 さらに背景 となる社会史 など周辺知識の理解 も必要 である

( C ) 保存,活用のための評価観点の明確化 7)

産業遺産を保存,活用す るためには,産業史的な評価のみな らず,保存,宿

(7)

地球環境整備計画における産業遺産の保存 ・活用 249 用を念頭に置 き,様 々な制約条件を考慮 した評価を行 う必要がある。評価の結 莱, 保存 ・活用がで きない と判断 されたな らば,で きうる限 りの資料 を収集 し,

しか るべ き機関によって資料の保存等がなされるべ きである。また,産業遺産 の保存,活用の評価項 目として,①産業史的評価,( 診対象物の状態の評価,③ 現位置保存 の可能性 の評価,④地元 にお ける関心や愛着 の 4 項 目が考 え られ

る。表 1 は産業遺産の保存,活用のための評価項 目と評価内容である 。

( d ) 環境影響評価調査の対象化

産業遺産への理解 とその評価が明確 になされ るべ きで,環境影響評価の中に 産業遺産など歴史的環境の項 目を加え ることが必要である。

( e) 保存代替案の評価法の確立

産業遺産特 に土木遺産 はその機能性や規模か ら原位置,原形保存が困難 とな るため,い くつかのオ プシ ョンの中か ら最適 な計画案 を採用 しなければな ら ず,合理的な評価,意思決定手法の導入が必要である。

( f ) 経費負担の在 り方の議論 と理解

保存 された産業遺産を維持す るための費用負担の方法の議論 と理解 もまた重 要 な課題である。 さ らに助成制度等 の新設や効率 的な運用の検討 も必要 であ る。 この場合,代替案の評価 に対 して AHP 手法の導入が有効 であ ると考え られ る。

3. 夕 張 シ ューパ ロダム周辺 環境 整備 にお ける三 弦 トラス橋 の保 存 ( 1 ) 夕張 シューパ ロ湖三弦 トラス橋 8)

夕張 シューパ ロ湖三弦 トラス橋 ( 写真 1)は,石狩川水系夕張川上流部の北 海道夕張市南部地 区 に位置す る大夕張 ダム ( 図 1,1 9 5 9 ( 昭和 3 4 ) 年完成, 堰堤 高 67 .5m) によ って堰止 め られ た シューパ ロ湖上 に,水没補 償 と して

1 9 5 8 ( 昭和 3 3 ) 年 に完成 した旧森林鉄道夕張岳線第 1 号橋梁で ある。 この橋

梁 は鉄道橋,車道橋では世界で も数例 といわれている下弦材 2 本,上弦材 1 本

か ら構成 されている三弦 トラス構造を採用 しているため,正面か ら見 ると三角

(8)

写真 1 シューパ ロ湖上 の三弦 トラス橋 の全景

( 1 9 9 4 年 9 月撮影) 形を呈す る特殊 な断面形

状 とな って い る。 さ ら に, この橋梁 はダム堰堤 近傍 において直角に湖岸 を結んでいることか ら, 橋梁延長が 3 81 . 8 0 m と森 林 鉄 道 橋 梁 で は最 長 で あ った。そ して,その特 殊な構造様式 はダム湖周 辺 に独 特 の景 観 を与 え シ ューパ ロ湖 の ナ ン ド マーク的存在 となって い

このため, シューパ

図 2 シューパ ロ湖三弦 トラス橋の位置図 ( 国土地 理 院 2 万 5 千分 の 1 図 に加筆) ロ湖上の三弦 トラス橋を

模 した図案が大夕張の観光 スタンプとして用い られ るなど,地元で も愛着が持 たれている構造物である。

この三弦 トラス橋 は完成 してか ら 5 年後 の 1 9 6 3 ( 昭和 3 8 ) 年,森林鉄道夕

(9)

地球環境整備計画 におけ る産業遺産の保存 ・活用 251

張岳線の廃止に伴い供用が停止 された。 この時,当時一般的であった林道への 転用 は建築限界の違いか らなされなか った。さらに,周辺開発の見送 りととも に周辺遊歩道への転用案 も立ち消えとな り,森林鉄道の廃止後 30 年間利用 され ることな く現在に至 っている。

( 2) 夕張 シューパ ロ湖三弦 トラス橋の産業遺産 としての評価

( a ) 夕張 シュ‑パ ロ湖三弦 トラス橋の主要諸元 9)

三弦 トラス橋の総延長 は 381 .8 0m ,連数 は 7 連 ( 39m スパ ン× 1, 7 7m ス パ ン× 1 ,52mスパ ン× 5)で,すべての桁が下路 ワ‑ レン三弦 トラス構造を 採用 している。また 7 連共 に トラス高 8 .0m ,下路桁幅 6 .0m であ る

設計荷 重 は森林鉄道一級線 ( E. R. S . 1 2)で,使用鋼材量 は約45 0 t であった。また橋

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図 3 三弦 トラス橋の正面図

台,橋脚 は鉄筋 コ ンク リー ト製 で最高橋梁高 は堪水前で 68m で あ る

図 3に52m スパ ン トラス の正面 図,図 4 に橋梁側 面図 を 示す 1 0)。

( b) 三弦 トラス構造採用の理由 旧森林鉄道夕 張岳線第 一号橋 梁 が三 弦 トラス構造 を採用 した 理 由は,①鋼材量 を減 らし建設 コス トを低減す ることと同時 に 必要 な強度 を持 たせ る こと。② 周 辺 の景観 を損 ね ない,特 に夕

図 4 三弦 トラス橋の側面図

(10)

表 2 シューパ ロ湖三弦 トラス橋 の産業史 的評価点 技術 構造の初出 鉄道用橋梁 としては,我が国で初めて採用 した構造

構造の特異 三弦 トラス構造を採用 した下路橋梁の例はほとんどない 規模の大 きさ 森林鉄道用橋梁 としては最長,また,ダム湖堪水以前 は最

高 橋

派生例の存在 国道 2 3 7 号線, 日高大橋への逆三弦 トラス構造 ( 上路橋) の応用

意匠 構造様式 他に例を見ない特異な構造様式による,意匠的な美 しさ 機能 社会的な効果 夕張市の主要産業の 一 つで もあった林業において,夕張岳

山麓の森林開発に寄与 した

計画の単独性 下路橋梁 としたことにより建築限界の面か ら自動車道への I

転用ができなかったo建設当時,林野庁では伐木輸送を自 動車道による トラック輸送へ方針を切替えつつあったo 時間 現存 大 きな改修 も受 けずに現存 している構造物である○特に供

張岳の眺望を壊 さない ことを考慮 し,ダム湖が完成 した後周辺環境 にとけ込 ま せ るために背 の低 い構造を採用 した こと

の 2 点である。工事費を節減す るこ とに主眼が置かれた と同時 に,周辺環境 との調和をめざ して構造様式が決定 さ れた ことは特筆すべ き点で あ る。

( C ) 三弦 トラス橋の産業史的評価点

三弦 トラス橋 の産業史的な第一の評価点 は,その特殊な構造様式の採用で あ

三弦 トラス構造の希少 な事例であ り,規模 と して も大 き く,独特 な構造美

を生 じて い ることは高 く評価 され る。 また 日高大橋 な ど派生例 を生 じた こと

は,三弦 トラス橋が技術的 に成功 した結果であ る。 さ らに設計 に際 して工事費

の低減 と同時に周囲の 自然環境 との整合を考慮す る点 などは,現在の土木構造

物 の設計 に対 して貴重 な教訓 を与 え るものであ る。以上 よ り,第二次世界大戦

後 とい う比較的新 しい時代 に架設 された構造物であ るが,土木技術的に評価 さ

れ る部分が極 めて多 い橋梁である。

(11)

地球環境整備計画 におけ る産業遺産 の保存 ・活用 253 また,夕張市 は石炭のみな らず北海道 における有数の林産地域で もあった。

三弦 トラス橋 は夕張の産業を支えた森林鉄道の遺構であると同時に,数少ない 現存す る森林鉄道構造物であ り,貴重 な産業遺産 として高い評価が与え られ

る。

( 3) 夕張 シューパ ロダム事業 と三弦 トラス橋 1 1)

現在,農林水産省,北海道開発局によって,流域の治水や 港 概,水道用水の 供給および発電を 目的 とした夕張 シューパ ロダムの建設準備が進 め られてお り ,1 995 年 6 月 には環境影響評価準備書が完成 している。 このダムは現在の 大夕張ダム ( 図 1 )の直下流 1 00mの位置に建設 され る堤高1 07.0m,堰堤長4 80.0mの重力式 コンクリー トダムで,2004 ( 平成1 6 )年の完成後 は集水面積4 33.O k 乱 堪水面積1 5.1 k 琉 総貯水量433,000, 000 m3 の新 ダム湖が誕生す ること になる。新 ダム湖の堪水面 は現在よりもおよそ40m ほど嵩上げとな り,産業遺 産 として高い価値を持っ三弦 トラス橋 は水没す ることにな り,その保存が多方 面か ら望まれている。 しか し,北海道の環境影響評価条例では自然環境 と公害 のみを対象 とす るために,環境影響評価準備書では三弦 トラス橋の存在 は全 く 触れ られず,現時点のダム事業の中では保存の検討はなされていない。

図 5 三弦 トラス橋の保存代替案の評価階層図

(12)

( 4 ) 夕張 シューパ ロ湖三弦 トラス橋の保存代替案

三弦 トラス橋 は現在,供用 されてお らず橋梁本来の機能 は果た していない。

しか しなが ら,森林鉄道の廃止後 も大夕張の観光 スタ ンプの図案 に使用 され る などシューパ ロ湖の シンボル として認識 されている産業通産である。 この こと か ら三弦 トラス橋の保存では,新 しいダム湖のラ ン ドマーク機能を持たせ るこ

とが一番望 ま しい もの と思われる。

さ らに北海道 に残 る数少ない森林鉄道構造物であること,また夕張市 におい ては林業 も鉱業 と並んで主要 な産業であ った ことなどか ら,林産業のモニ ュメ ン ト的機能 も考慮すべ きであろ う

特 にダム湖周辺 は 1 9 6 2 年 に道立 自然公園 の指定を受 け,周辺 には貴重 な動植物種の存在 も報告 されてお り, 自然環境保 護 に関心を持つ人達の間で も高い評価を受 けている豊かな自然環境を有 した地 域である

これ らの ことか らも新 しいダム湖の周辺環境整備では豊かな自然環 境 に触れ ることがで きる整備計画が望まれている。 このよ うな背景を考慮す る と,三弦 トラス橋 は新 しいダム湖を渡 る自然探勝の人道橋 として保存 ・転用 さ れ ることが最 もふ さわ しい もの と提案で きよう

以上 よ り ( a ) 原位置における橋脚の継 ぎ足 し保存 , ( b) 移設 による 7 連すべての 保存 ・転用 , ( C) 移設 による一部の保存 ・転用 , ( d) 新 ダム湖周辺の公園等での展 示保存の各代替案が考え られ る。

( 5) AHP 手法 による保存代替案の評価 ( a) AHP 手法の導入

本研究 における保存代替案の評価では,その共通の尺度がな く,直感的な要 因を含み,感覚的,経験的判断に頼 らざるを得ない。 このため,保存代替案 に 対 して評価者の評価観点を明 らか とし,総合評価を行 い合意形成を図 るために

は, AHP 手法の導入が有効 と考え られ る。

( b) 保存代替案の評価基準 と階層図

保存代替案の評価基準 は,有識者 に ヒア リング調査を行 った結果を元 に決定

した。特 に,旧ダムの下流 に新 ダムを建設 し,ダム湖の湛水面を上昇 させ ると

(13)

地球環境整備計画における産業遺産の保存 ・活用 2 5 5 い う再開発事業 に伴 って生 じる保存事業であることか ら ,( a ) 保存 にあたっての 施工性 ,( b) 保存費用 ,( C) 文化財的価値 ,( d) 周辺環境内での シンボル性 , ( e) 保存, 活用時の安全性の 5 点を評価基準 と した。図 5 に AHP による評価階層図を 示す。

( 6) 三弦 トラス橋保存代替案 の評価結果

( a ) 評価基準の重要度

図 5 に示 した階層図 において AHP による評価 を行 った。 レベル 2 におけ る評価の重要度 は有識者 ヒア リングを行 った結果 に基づいて一対比較を行 い決 定 した ( 表 3) 。 シンボル性の重要度が もっとも高 くな り,ついで安全性,文 化財的価値,施工性,費用の順 となった。 この ことよ り,ダム湖周辺環境整備 において三弦 トラス橋の保存 は,産業遺産的な価値を持 たせ,地域のモニ ュメ ン トとす ることに高い関心が持たれているもの と考え られ る

また,同時に供 用に際 しては安全性 に高い関心が持たれていることも分か った。

( b) 代替案の評価結果

AHP による評価の結果,代替案の順位 は現位置保存,展示保存,移設全部 保存,移設一部保存 とな った。現位置保存 は施工性や費用,安全性で は 4 つの

表 3 ‑対比較 の結果 と重要度

L2 の重要度 施工性 費 用 文化財的 価値 シンボル性 安全性

施工性 1 3 1/ 5 1/ 5 1/ 5

費用 1/ 3 1 ・ 1/ 5 1/ 5 1/ 5

文化財的価値 5 5 1 1/ 3 1

シンボル性 5 5 3 1 1

安全性 5 5 1 1 1

C. I .‑ 0 . 07 4 8

C.R.‑ 0 . 0 6 6 8

(14)

表 4 A HPによる三弦 トラス橋保存代替案の評価結果

評価基準 施工性 費 用 文化財的 価値 シ ンボル性 安全性 総 合点 順位 重要度 0 . 0 7 39 0 .0 4 66 0 . 23 31 0 .3 67 5 0 . 27 93

現位 置保存 0 .0 55 3 0 .0 5 53 0 .64 00 0 .3 89 9 0 .07 21 0 .31 9 3 1 移設全 部保存 0 .1 1 7 5 0.11 7 5 0 . 241 7 0 .3 89 9 0 .1 5 7 4 0 .2 577 3 移設一 一 一部保存 0 .2 6 2 2 0 .26 22 0 .07 84 0 .1 52 4 0.1 57 4 0 .1 49 8 4

代替案の中で一番低 い得点であるが, シンボル性や文化財的な価値が高 く評価 された結果,第一番 目の順位 とな った。展示保存 は,保存,活用時の安全性が 極 めて高 く評価 されたため, 第二番 目の順位 とな った。 芸術作品などと異な り, 産業遺産を供用 しなが ら保存す るためには寿命 と安全性を常 に念頭 におかなけ ればな らない。展示保存 は供用 しない ことか ら寿命 と安全性 を考慮せず にす み,保存後の維持管理での負担が大幅に減少す る。 このよ うな点か らも安全性 に対す る評価が高 くな り,展示保存が高 い得点を得 た もの と考え られ る。

4. まとめ

近代化遺産が地域の歴史的環境を作 る環境財であ り, 自然環境 と同 じように 我 々の生活 にとって重要 な ものである認識がいまだに低 い ことが,地域開発 に おける近代化遺産の保存問題の根底 に存在す る。

今後,数多 くの 自治体 において環境影響評価 に近代化遺産 の項 目が加 え ら

れ,その保存を考慮 した地域環境整備計画が立案,実行 されることが,よ り豊

かな地域社会の形成 に必要であろう 。 そのためには,保存を決定 し事業化す る

までの合意形成プロセスの明確化がよ り強 く望 まれ るであろう 。 本研究では,

地位環境整備計画 において産業遺産を保存す る場合,産業遺産 としての評価 と

保存事業の評価を別個に,段階的に評価す るプロセスを提案 し, さらに,保存

代替案の決定 に AHP 手法の導入を試 みた。そ して,具体 的事例 と して,夕

(15)

地球環境整備計画 にお け る産業遺産 の保存 ・活 用 257

張 シューパ ロ湖三弦 トラス橋の保存問題を取 り上げた。その結果,モニ ュメン ト性がより高 くなる現位置保存 と安全性の高い展示保存が高い評価を受 けるこ とが明 らか となった。

地域環境整備おける産業遺産の保存,活用問題 は今後様 々な ところで生 じる ことが予想 される

夕張 シューパ ロ湖三弦 トラス橋の問題 はそれ らの先駆的な 事例にあたるが,その保存 と周辺環境の整備に付いてより多方面か らの関心 と 議論がなされるべ きであろう

謝 辞

本研究では,北海道大学名誉教授五十嵐 日出夫先生,北海道大学工学部佐藤

馨一教授,小樽商科大学遠藤薫教授,岩手大学宮本裕教授,北海道大学林川助

教授,北海道大学小林三樹助教授,東北大学平野勝也助手,北海道大学学生河

野哲也氏,札幌営林局森企画官,夕張営林署牧野土木係長,北海道開発局札幌

開発建設部鈴木係長,夕張市青少年教育セ ンター正木英造相談員, フロンティ

ア技研前併専務, 黒田設計事務所黒田幸治氏,旧大夕張堰堤建設事務所北郷氏,

北広島町在住有江良久氏他多 くの方 々か ら資料の ご提供, ご助言を頂 きま し

た。末筆ではありますが記 して謝辞 と致 します。

(16)

参 考 文 献

1) 今 尚之,中岡良 司,佐藤馨‑ :土木構造物の史的評価モデルに関す る研究,土木 計画学講演集 No. 1 7 ,1 9 9 5

2)加藤那興,西山卯三,半谷高久,本間慎,山本剛夫共編 : 「現代環境工学概論 ( 改 訂 2 版) 」 ,pp. 1 4 8 ‑1 5 2 ,オーム社 ,1 9 9 1 年

3 )今 尚之 :歴史的社会資本 の評価 と保存事業化の課題 に関す る研究,商学討究第 4 5 券第 3 号,小樽商科大学 ,1 9 9 5 年

4 )今 尚之 : Fuzzy 測度 を用 いた社会資本の評価法 に関す る研究,商学討究第46 巻 1 号 ,1 9 9 5

5 )今 尚之 :歴史的社会資本 の評価 と保存事業化 の問題 に関す る研究,商学討究第 4 5 巻第 3 号,小樽商科大学 ,1 9 9 5 年

6 )今 尚之 :中岡良 司, 佐藤馨‑ :土木構造物 の史的評価モデルの構築 に関す る研究, 第 1 7 回土木計画学研究発表会講演集,土木学会 ,1 9 9 5 年

7) 今 尚之,中岡良 司,佐藤馨一 ・ .シューパ ロ湖三弦 トラス橋の評価 と保存 に関す る 研究 ,pp. 4 2 9 ‑4 3 2 ,土木学会北海道支部論文報告集第 51 号刷 ,1 9 9 5 年

8) 今 尚之,中岡良司,佐藤馨‑ :シューパ ロ湖三弦 トラス橋の評価 と保存 に関す る 研究 ,pp, 4 2 9 ‑4 3 2 ,土木学会北海道支部論文報告集第 5 1 号刷 ,1 9 9 5 年

9) 黒田幸治 :大夕張第一号橋梁製作架設工事,土木技術 Vol . 1 3 No. 1 2 ,1 9 5 8 年 1 0 ) 東京鉄骨橋梁製作所 :夕張岳線第 1 号橋梁架設構造計算書および設計図面

ll ) 農林水産省,北海道開発局 : 『 夕張 シューパ ロダム建設事業環境影響評価準備書』 ,

1 9 9 5 年

表 2 シューパ ロ湖三弦 トラス橋 の産業史 的評価点 技術 構造の初出 鉄道用橋梁 としては,我が国で初めて採用 した構造 構造の特異 三弦 トラス構造を採用 した下路橋梁の例はほとんどない 規模の大 きさ 森林鉄道用橋梁 としては最長,また,ダム湖堪水以前 は最 高 橋 梁 高 派生例の存在 国道 2 3 7 号線, 日高大橋への逆三弦 トラス構造 ( 上路橋) の応用 意匠 構造様式 他に例を見ない特異な構造様式による,意匠的な美 しさ 機能 社会的な効果 夕張市の主要産業の 一 つで もあった林業
表 4 A HPによる三弦 トラス橋保存代替案の評価結果 評価基準 施工性 費 用 文化財的価値 シ ンボル性 安全性 総 合点 順位 重要度 0 . 0 7 39 0 .0 4 66 0

参照

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