究 インフレーションの理論(上)
ー﹃インフレBション景氣﹄槍討の緒としてー
高橋次邸
醐︑緒
世界的に大規模なる國際協調によつて世界恐慌を克服せんがために華々しい前景氣を以て開會せられた﹃世界
通貨及び経濟會議﹄も實質的には決裂を來し︑所期の目的は殆んど充されるところがなかつた︒而してその結果
は︑吾々が其の開會前既に豫想せる所に違はす︑①彊國による﹃経濟ブロック化﹄の傾向を只管に激成せしむる
に役立つたに過ぎなかつた︒方今の世界の政治経濟の動向は︑此のブロック形成蓮動を識る事なくしては理解の
イyフレーショyの理論一
イyプレ嘗シ目yの理論二
外に在る事柄が絵りにも多い︒(此の鮎に就いて︑私は﹃ファッシズム維濟論﹄②に於いて多少理論的な分析を與
へて置いた︒)ブロック彊化の蓮動は︑必然的にブロック間の封立及び軋礫を尖鋭化させ︑職争の危機は﹃軍縮會
議﹄を尻目にかけて積極的に軍備援張に向はしめ︑彌や増す世界経濟恐慌の猛威は劇烈なる露骨極まる維濟職を
ブロック聞に展開させるに至つた︒世界経濟會議による國際協調的統制インフレーションへの待望は破れ︑蝕に
米國・英國及び日本などによる箇別的インフレーション政策が採られる事となり︑今や世界はインフレーション
の増禍の申に投げ込まれんとするの情勢にある︒各國が各々インフレーションによつて﹃失はれたる繁榮﹄をと
り戻さんとするの秋︑インフレーションによる毒杯を過去に経瞼したドイツ其他の敏羅巴人は極端にこれを嫌悪
し︑その苦々しき維瞼に乏しい日本人などの中には双手をあげてインフレーションを歓迎するの態度に出する者
が多い︒然らば︑此の謎の如きインフレーションは果して克く本格的に好景氣を創り出し得るものであらうか︒
これこそは︑現下の・而して近き將來の景氣に關する實際上の・從つて叉理論上の最大の問題たるを失はない
であらう︒
此の問題に就いて研究の歩を進めんとするの心組の下に︑﹃ノ・ンフレーション景氣検討﹄のための緒として︑
先づその礎石たる﹃インフレーション﹄の理論的吟味から始める︒
ω拙稿﹃世界経濟恐慌と世界通貨及び繹濟會議﹄(﹃商學討究﹄第八巻上冊)
②拙稿﹃ファッシズム経濟論﹄(﹃商學討究﹄第七雀中冊)
=︑貨幣の本質と︑その諸機能
インフレーションの意義を閑明ならしめんが爲めには︑其の基礎として︑先づ貨幣から出獲して述べなければ
ならない︒
商品生産肚會に於ては︑商品は︑生産者自身の湘費の爲めにではなく︑市場を目當てに即ち費らんが爲めに生
産せられる︒從つて︑市場に見出される・雑多なる・汎ゆる商品の便格を表現し得る様な一商品(即ちそれがや
がて貨幣となる)の出現に封する要望が必然的に獲生する︒分業と私有財産とを前提とせる肚會に於ける商品の
交換は︑最初の輩純なる償値形態から次第に複雑なる貨幣形態へと獲展して來た︒諸々の商品の申で比較的交換
うぬへぬされることが多く︑且つ債値尺度となり得る性質を具有せる商品が一般的等債物として貨幣の役割を演じて來た
が︑結局それは一商品﹃金﹄(O︒5に落ちつき︑十九世紀には英國を先頭として先進資本主義國は凡て﹃金本位
制﹄を採用する様になつた︒資本主義肚會に於て貨幣が金でなければならないのは︑金が他の商品と同様にそれ
自身に於て一定の便値を有し︑叉同時に他の汎ゆる商品に封して一般的等便物として封立し︑諸商品の便値がそ
れに表現せられて居る﹃商品﹄であるからである︒即ち︑﹁金は︑その生産の場所では︑他の凡ての商品と同じ
様に︑商品である︒こ蕊では︑金の相封的債値と︑鐡叉は其他の凡ての商品の相封的債値とは︑それらが相互に
交換される分量で示される︒だが︑流通過程に於ては︑此の手績きは既に前提されて居り︑商品債格に於て金自
イyフレーシ目yの理論三
イyフレーシ監yの理論四
身の債値は既に與へられて居る︒﹂⑳斯様に︑金が債値尺度としての機能を行ひ得る課は︑金をも含めた汎ゆる
商品が或る共通物を含有する結果に過ぎない︒これらの商品は︑人闇螢働の産物であり︑而して斯くの如きもの
として便値たるのである︒即ち︑﹁債値尺度としての貨幣は︑諸商品に内在する債値尺度の・ 労働時間の・必然
的な現象形態である︒﹂②
斯様にして︑金‑未だ具艦的な貨幣ではない所の金の第一の機能は︑債値尺度であるが︑それは叉︑同時
に︑諸商晶の交換債値が金の一定量に關係せしめられ︑それに於て表現せられて居る事を意味する︒交換債値は
債格となる︒この事は︑金の一定量が尺度本位となる事の前提である︒尺度本位は便格の本位として役立つ︒此
の金の﹃便格本位﹄たるの機能は︑﹃債値尺度﹄としての機能を前提として派生する︒㈲即ち︑﹁金が販費に於て
現實的な貨幣となるのは︑諸商品の交換債値が債格に於て既に観念的な金であつたからに外ならない︒﹂㈲斯様
にして︑金は︑債値尺度としての機能によつてのみ︑先づ一般的等債物即ち﹃貨幣﹄○・匡となる︒
金の﹃債値尺度﹄︑從つて又それに基く債格尺度たるの機能に基き︑それは叉商品流通に於て﹃流通手段﹄とし
ヘヘへもて機能するに至る︒債格本位たるの機能に基いて商品の便格形態が與へられる︒﹁債格形態は︑貨幣に封する商
品の譲渡可能性と︑か玉る譲渡の必然性とを含んで居る︒﹂④商品流通の直接的形態≦ーOー≦﹁の完結は︑結局︑
を﹁ミなる一商品の他商品との物質代謝(︒︒8h穿8冨①ごに聾着し︑そこでは金が物質代謝の翠なる一時的媒介に役
立つに過ぎない︒かくて︑金は流通過程によつて特徴付けられた交換手段即ち流通手段として現はれる︒﹁商品
の交換債値が此の過程に於て獲得する實在性及び金がその通用申に表はす實在性は︑た野電氣火花の實在性に過
ぎない︒金は︑假令それが現實の金であつても︑たΨ假象的金としてのみその機能を果たし︑從つて此の機能に
於てはそれ自饅の章標によつて代位され得るのである︒L⑥金は︑流通手段としての機能を果すに當つて︑この
機能に基いて特殊の形態規定をうける︒金属(金)は鑛貨(金貨O︒匡昇麟量)に鮮形せしめられる︒此の金貨は︑
﹃債値尺度と流通手段との統一﹄たる﹃固有の意味の貨幣﹄である︒ところで︑金貨が流通手段として機能する限
りに於ては︑観念化されて︑先づ磨滅減債せる金鋳貨の形態をとり︑次には補助鋳貨の形態を採り︑最後には無
債値なる紙雰の形態を採の得るのである︒
扱て︑此の﹃固有の意味に於ける貨幣﹄は︑いまや更に進んで別な諸々の機能を果す様に稜展する︒先づ︑固
有の意味に於ける貨幣は︑肉艦のま玉で︑從つて貨幣商品として現はれざるを得ない場合がある︒が︑それは︑
もへ流通を停止せる鋳貨として︑それ自身既に流通手段よりの韓形たる事を示すものである︒これ即ち貨幣の﹃蓄藏
もももヘへり手段﹄としての機能である︒此の機能を前提として︑そこから﹃支佛手段﹄としての機能が獲展する︒貨幣が軍
なる使用債値としての他の凡ての商品に封して特有なる便値の姿︑叉は交換憤値の唯一の適當なる存在として︑
換言すれば支彿手段としての絶樹的商品として定立される時には︑それは︑勿論流通を通じて現はれるが︑しか
し流通手段としてではなく︑繭般的等債物として現はれるのである︒流通手段としては︑貨幣は購買手段であつ
たが︑こ玉では非購買手段であり︑此の意味に於て支彿手段の機能は流通外に横はる所の蓄藏手段を前提とす
イyフレーシ9yの理論五
イyフレーシ目yの理論六
る︒是等の諸機能の上に︑貨幣の最後の最高段階に於ける機能の上に立つ﹃世界貨幣﹄つζ痒㈹匹eは成立する︒世
界貨幣は︑前述の諸機能を前提として︑それらの諸機能の総括として現はれる︒かくて︑﹁貨幣は︑世界市場に
於て始めて︑その自然形態が同時に抽象性に於ける人間勢働の直接に肚會的なる實現形態であるところの商品と
して︑充分なる包括さに於て機能する︒﹂ω然らば︑これに先行せる貨幣の震展段階に於ける諸機能は﹃世界貨
幣﹄のカテゴリーの中に於てそれと如何なる關聯を保つて居るか︒
﹁先づ支佛手段は︑こ玉では一般的商品流通の上に立つ世界貨幣のヨリ一般的な機能に依存し︑直接的には範
疇﹃世界貨幣﹄に包括せられる一般的支梯手段たるの機能の・特殊領域に於ける定在(例へば銀行雰)として分
析せられ得る︒支彿手段はこ曳に論理的に世界貨幣を前提する︒﹂⑤これは︑前述の貨幣の機能の獲展と全く逆
になつて居ることを示す︒次に︑蓄藏手段の支佛手段及び世界貨幣に封する關係も︑此の﹃世界貨幣﹄なる範聴
の申に於ては︑全く逆の關聯に立つて居る︒﹁致富手段として機能する抽象的形態に於ける貨幣蓄藏は︑ブルジ
ョア的生産の稜達するに俘れて減少するが︑交換過程によつて直接に必要とせられるこの貨幣蓄藏︑或はむし
ろ︑一般的商品流通の領域内で形成され支彿手段の積立準備金として吸牧されるところの蓄藏貨幣部分は︑増加
する︒﹂⑨﹁如何なる國も︑その國内の流通に樹してと同じやうに︑世界市場の流通に封しても︑或る準備金を必
要とする︒かくて蓄藏貨幣の諸機能は︑一部分は國内の流通手段及び支彿手段としての貨幣の機能から磯現し︑
一部分は世界貨幣としてのその機能から嚢現する︒﹂@斯様にして︑蓄藏手段は支佛手段の機能を前提するが︑