GM
社における大衆車市場への参入‑ 1920年代 における乗用車 シボ レ‑の製品 ・価格政策の成果 と特徴 ‑
高 田 聡
Ⅰ は じめに :対象 と課題
本稿で は,1920年代のGM (GeneralMotors)におけるシボ レー (Chev‑
rolet)事業部の経営成果 と行動,なかで も後者 における製品 ・価格政策 に注 目す る。 同事業部 はGM社 5つの完成車事業部の一角を しめ,GM 社5ライ ン中最低価格帯 に位 置す る乗 用車 シボ レーの生産 ・販売 に主 と して従事 し た1)。 周知のように,1920年代 はGM社が高度 に組織化 された新たな経営構 造を樹立 し,米国を代表す る有力企業へ成長を加速 させ始めた時期である。 こ のGM社の発展期 にシボ レー事業部 は決定的に重要な役割 を果た した と思わ れ る。一般論 として,強力な大衆車を擁す ることが業界中核企業 にとって必須 1)1920年代のGM社 の組織機構 は,全社的および長期的な経営計画 と管理 にあた る 本社諸機関の もとに,現業部門 と して,部品事業部,および シボ レー, ビュイ ック (Buick),キ ャデ ィラ ック(Cadillac),オー クラ ン ド(Oakland),オ ールズモ ー ビル(01smobile),か らなる5つの完成車の製造 ・販売事業部が配置 されていた。
20年代の前半 のGM社 においては経営改革が急であ り,組織機構 に も変化があ っ た。上 に述べた配置 は改革が一段落つ いた後の姿であ る。同社の組織機構の配置 は, AnnualReportofGeneralMotorsCorporationの各年版か ら把握で きる。
なお, シボ レー事業部 は乗用車以外の製品, トラ ックなども手掛 けていたが,主体 が乗用車にあ ったのは後述の通 りである。 また,以下本稿で は, シボ レー乗用車を
シボ レー車または単 に シボ レー と呼び煩雑 さを避 けたい。
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の要件であるはずだ し,実際,20年代のシボ レーが有力大衆車への急成長を遂 げた ことは良 く知 られている2)。
これまでのGM社研究 は本社中枢での意思決定を中心に優れた研究を積み 重ねて きた。だが,事業部における内部資料が非公開 とされているためもあっ て,現業 レベルでの経営行動 に焦点を定めた研究は少ない。 シボ レー もその例 外ではない。本稿では製品 ・価格政策 という限 られた範囲でだが, シボ レー事 業部の行動実態をできるだけ詳細 に把握 したい3) 。 この把握 によってGM社 の経営発展の事由はさらに明確になると期待 される。
シボ レー車が有力車に成長する事情 は, シボ レー事業部の経営行動を競争相 2)以上 の1920年代のGM社の動向については筆者 も次の稿などで関説 した。高 田聡
「アメ リカにおけるビッグ ・ス リー自動車産業体制の形成構造」『証券経済』第154 号,1985年。
3)1920年代の シボ レー事業部の製品 ・価格政策 に立ち入 った実証研究 は管見の限 り 見当た らないが,同政策の把握 に関 して有益な示唆を含むい くつかの文献を参看す
ることがで きた。なかで も,以下の4資料 は不可欠の ものであった。 まず,1902 年発刊の業界週刊誌,AutomotiueIndustries(以下,A.I.と略) と1925年 8 月発刊の業界 日刊紙,AutoTnOtiueDailyNeLUS (以下,A.D.N.と略)は当時 の乗用車の仕様 と価格を詳 しく伝える。次 に,2冊のクラ ッシック ・カー愛好者の 成果,GeorgeH.Dammann,75YearsofCheurolel,Sarasota,Florida:
Crestline Publishing,1986;Ray Miller, Cheurolet/The Coming of Age,AnIllustT・atedHistoryofCheurolet'SpassengeT・Cars,191111942, Oceanside,California:Evergreen Press,1976の参照 も大 いに理解 を助 け た。両著作 はともに事実関係がやや確認 しがたい難点 はあるが,豊富な写真を交え て各年のモデルの特徴を簡潔 に記 している。 また,GM経営史全般を扱 った諸研 究で は,AlfredD.Chandler,Jr.andStephenSalsbury,PierrerS.du PontandtheMakingoftheModernCorporation,New York:Harpera Row,Publishers,1971;AlfredP.Sloan,Jr.,My Yearswith General Motors,New York:Doubleday,1964.田中融二他訳 『GM とともに』ダイヤ
モ ン ド社,1967年 (周知のよ うにスロー ンは1923年 に社長の座 につ き以降1950年 代 まで会社中枢 に位置 した人物である。なお,同書の作成には先のチャン ドラーが 歴史顧問 と して参加 した)が1920年代 の シボ レーの製 品 ・価格政策 について比較 的多 くの事実を含んでお り, とくに有益であった。
シボ レー事業部の経営行動 の分析 に着手す るにあた って,マーケテ ィング行動 面,なかで も製品 ・価格政策をまず取 り上げたのは,資料不足か ら製造行動に関す る分析が今の ところ著 しく困難であることをひとつ理由とす る。なお,マーケティ ング行動の各要素,製品,価格,販売経路支配,販売促進の うち今回,前二者の製 品 ・価格面の分析 に限 ったのは主 として筆者の研究進度の都合による。
GM社 にお ける大衆車市場‑の参入 97
手企業 と比較することでより鮮明になるのはいうまで もない。なかで もフォー ド(Ford)社 との対比は不可欠であろう。 シボレーの有力大衆車への成長 は, 同時にフォー ドに対す る劣勢を跳ね返す過程で もあった。 フォー ド社が1908 年に投入 した優れた低価格車‑T型車の大量生産にいちはや く成功 し,すでに
1920年代の初頭には一大 巨大企業 にの し上が っていた ことは良 く知 られる。
当時,フォー ドT型は乗用車市場の過半を制する勢いにあり,大衆車の名をひ とり欲 しいままに していた。まさに,シボ レー車の有力車への成長はフォー ド 車か ら需要をいかほど奪取できるか,つまり, シボ レー事業部がフォー ド社に 比べてどれだけ効果的な経営行動をとりうるかにかか っていたのである。幸い なことに, フォー ド社は経営史研究の蓄積に厚い企業であ り,20年代の製品 ・ 価格政策を含めて現業部門での経営行動について も情報が豊富である4)。本 稿では,フォー ド情報を整理 し,それに対応させてシボレーの製品 ・価格政策
について事実を収集 ・整理 し,両者を比較検討する作業 も試みたい。
以下,本稿では1920年代の シボ レーの製品 ・価格政策を主たる考察対象 に
4)フォー ド史研究 は,同社の開示資料の豊富 さと寄せ られる関心の高 さとか ら,蓄積 が厚 く,本稿が注 目す る1920年代の製品 ・価格政策 について も多 くの事実を明 ら かに してきている。製品 ・価格政策 に直接 に関わる文献 として とくに有益だったの は,Ray MillerandBruceMcCalley,FroTn Hereto Obscurity/AnIllu‑
stratedHistory oftheModelT Ford,Avalon,California:Evergreen Press,1971;RayMiller,Henry'sLady/AnIllzLStratedHistory ofthe ModelA For.d,Avalon,California:Evergreen Press,1972; George H. Dammann,Illustrated History of Ford,190311970, Sarasota, Florida:CrestlinePublishing,1971;FloydClymer,Henry'sWonderful ModelT,1908‑1927,New York:McGraw‑Hill,1955,以上 の4冊であ
る。いずれ も豊富な写真を備えたモデル ・ガイ ドとしての性格が濃い。またフォー ド経営史全般 についての研究書では,AllanNevinsandFrankE.Hill,Ford/
Expansionand ChallengeI1915‑1933, New York:Scribner'S,1957;
William J.Abernathy,TheProductivityDileTnTna.・RoadblochtoInTW ‑
uationtntheAutoTnObileIndustry,Baltimore:JonesHopkinsUniver‑
Sity Press,1978; David A.Haunshell,FT・Om theAmeT・ican SysteTn to MassProduction,1809‑1932IThe DeuelopTnentOf Manufacturing TechTWlogy m theUnitedStates,Baltimore:JohnsHopkinsUniversity Press,1984,以上が製品 ・価格政策について も多 くを教え,とくに参考 となった。
す る。課題 として次の5点をあげたい。
1.GM社全体の経営成果の向上 に対す るシボ レー車 ・事業部の貢献度の 推定。周知のようにGM社 は所得階層 ごとにきめ細か く対応 させてライ ンを配置する全社的な製品政策 ‑フル ・ライ ン政策をとっていた。各ライ ンの中で シボ レー ・ライ ンがいかほどGM社全体の経営発展 を牽引 した かを吟味 したい。
2.シボ レー事業部 とフォー ド社の販売成果比較。両者の販売高の推移が紘 体 としての経営成果の在 り方にいかに影響 したかを比較 したい。
3. シボ レーのおかれたマーケテイング環境の考察。経営成果の多寡 はマー ケティング環境 に対す る行動の適合性に比例するとみなされ る。当時のシ ボ レーのマーケテイング環境 は,消費者噂好 の性質 とフォー ドの動向に よって大枠を決定されていたはずである。本稿では主 として後者 フォー ド の製品 ・価格政策の考察を通 して シボ レーのマーケティング環境の把握に 努めたい。
4.シボ レーの製品仕様 と価格の変更に関す る実状の把握,それを通 した製 品 ・価格政策の基本の析出。 シボ レーの製品仕様 と価格動向はフォー ドに 比べて網羅的な研究が少ないことか ら,詳細な検討を試みたい。
5.シボ レーにおいて製品 ・価格政策が販売成果に与えた影響の吟味。
GM社 にお ける大衆車市場への参入
Ⅱ シボ レー事業部の経営成果
1.GM社 内成果
GM 社全体 の経営成果 の推移 に ついてはすでに多 くの研究がある。
要約 して お こう5)。 同社 は,1916
‑19年 に粗有形固定 資産額 を10数 倍 に膨 らます ほどの大型合併 を経 た直後,1920年恐慌 に遭遇す る。
結 果 , 脆 弱 な企 業 体 質 が 露 わ とな り,20年末 には創業者 ‑社長更迭 を含 む経営刷新 を強 い られた。だ が,周知 の通 り,同社 は この経営 危機 を短時 に脱 し,早 くも20年代 終盤 には米 国を代表す る有力企業 の座 に君 臨 した。有力企業へ の変 身 は20年代 の うち後半 に急で あ っ
た。表 1にみ られ るよ うに,25‑26
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表1 GM社 の販売 ・利益額 (単位 :千 ドル) 年 販売額 利益額 (1) 1920 567,321 (n.a.) 1921 304,487 13,247 1922 463,707 66,782 1923 698,039 76,643 1924 568,007 55,724 1925 734,593 132,060 1926 1,058,153 222,882 1927 1,269,520 299,198 1928 1,459,763 322,487 1929 1,504,404 301,858 (荏)(1) 営業利益に相当。
(資料)AnnualReportofGeneralMotors CorpoT・ation,uaT・iousissues;U.S FederalTradeCommission,Report ontheMotorVehicleIndustry,p.
546.
年を画期 に同社の販売額 と利益額 は急増 している6) 。 また,表 2の最下欄 に おけるGM 社の自動車出荷台数合計 も25‑29年平均 は147万台で21‑25年平均 の58万台を3倍近 く上回 っている。
5) とりあえず,前掲,高田 「アメ リカにおけるビッグ ・ス リー自動車産業体制の形成 構造」,167‑168頁を参照。
6)GM社 は自動車以外の製品 も一部手がけてお り,表 1にはこの部門か らの収益 も 含む。 しか し,1920年代 におけるその社内利益 シェアは10%前後で小 さい (U.S.
FederalTradeCommission,Reporton theM otor VehicleIndLLStry, Washington,D.C.:U.S.GovernmentPrintingOffice,1939,p.530よ
り算出)0