はじめに
1936 年ソ連憲法の採択とともにソ連の連 邦構成共和国となったキルギス・ソビエト社 会主義共和国は (1) ,1991 年 8 月の「8 月クー デター」の失敗後,同年 12 月のソ連の解体 を待たずに,8 月 31 日の独立宣言でソ連から 独立した。ソ連の連邦構成共和国としてその 憲法を採択していたが,この小論で検討する のは,ソ連から独立後のキルギス共和国(以 下,キルギス)の憲法である。
ソ連から独立後の最初の憲法は,1993 年 に採択された(以下,当初憲法)。キルギス 初代大統領のアカエフの主導で,この当初憲 法は,1996 年(以下,1996 年部分改正)と 1998 年に部分改正(以下,1998 年部分改正),
2003 年に全文改正(以下,2003 年全文改正)
されている。チューリップ革命(2005 年)
後の 2007 年には,バキエフ大統領の主導で 全文改正が行われ(以下,2007 年全文改正),
2010 年 政 変 の な か で, 臨 時 政 府 の 主 導 で 2010 年に新憲法(以下,2010 年新憲法)が 制定された。2016 年に,この新憲法も部分 改正(以下,2016 年部分改正)された。憲 法変動の激しさがキルギス憲法の特徴のひと つである。ウズベキスタン,カザフスタン,
タジキスタンおよびトルクメニスタンの他の
中央アジア諸国でも新憲法制定や憲法改正が 行われ憲法変動が激しいが,そのなかでも際 立ってキルギスの憲法変動は激しく,また,
他の中央アジア諸国とは変動の方向も異なっ ている。
キルギス憲法を検討する面白さは,他の中 央アジア諸国の憲法は異なるその変動の特徴 に着目して,その意味を検討しうることにあ る。つまり,文化や歴史さらには社会の性格 が同じでも憲法の動態と内容が異なるのはな ぜかという問いが成り立つ点にある (2) 。キル ギス憲法とその変動は,他の中央アジア諸国 との関係である種の例外性がある。
一
「大統領 ― 政府 ― 議会」の関係か
ら見たキルギス憲法―1996 年部 分改正中央アジア諸国憲法の日本におけるこれま での研究は,各国の政治制度の説明 (3) または 比較のための制度論 (4) にとどまっている。制 度論だけでは十分でないので,それを超える 研究を進める必要がある。
しかし,憲法がどのような制度を定めてい るかという意味での制度論も十分ではない。
それは,二つの方向でそうである (5) 。まず,
第一に,脱社会主義国が採択した憲法に定め
「 大統領 ― 政府 ― 議会 」 の関係から見た キルギス憲法
樹 神 成
られている制度を比較検討する視点から,中 央アジア諸国憲法の特徴を検討する必要があ る。
第二に,中央アジア諸国のある国の憲法が,
憲法制定または憲法改正を通してどのように 制度変化したのか,つまり一国の憲法の制度 間の比較検討が必要である。キルギス憲法に ついて言えば,1993 年の当初憲法,1996 年 部分改正,2003 年全文改正,2007 全文改正 および 2010 年新憲法の制定とその 2016 年部 分改正,さらに,2006 年 11 月と 12 月に議会 が採択し,憲法裁判所が無効とした憲法も含 めて,これらの憲法がどのような制度を定め,
その制度にどのようなちがいがあるか明確に する必要がある。
この小論では,
「大統領 ― 議会 ― 政府」の
関係に問題を絞って検討したい。第一の脱社会主義化国間の比較について,
脱社会主義国がどのような憲法上の制度を採 用したかについての簡単な一覧表である表 1 により (6) ,問題を手短に指摘しておこう。こ の表から,ソ連および東欧の脱社会主義国の 多くで大統領が公選されているとともに,首 相(政府)が存在していることがわかる。中 央アジア諸国憲法については,キルギスを除 いて,大統領制を採用するか,大統領が首相 を選出するかであり,中央アジア諸国全体と しては大統領の地位と権限が強い。キルギス の 2010 年新憲法はその例外である。
第二のある国の憲法の制度間比較について は,何よりも,キルギス憲法は実験室の様相 を呈する。1993 年当初憲法,1996 年部分改正,
2007 年全文改正および 2010 年新憲法が定め る「大統領 ― 政府 ― 議会」の関係について分 析する必要がある (7) 。キルギス憲法は,1993
年の当初憲法ではなく,1996 年部分改正で 1993 年ロシア憲法に類似した内容となった。
では,当初憲法はどのような性格の憲法と見 たらよいのだろうか (8) 。また,2010 年新憲法 は議院内閣制を定めた点で 2007 年全文改正 と異なると評価されているが,2007 年全文 改正と 2010 年新憲法の首相候補者選出手続 には大きなちがいはないようにも見える。だ とすれば,何が,2007 年全文改正と 2010 年 新憲法とで違うのだろうか。
そこで,まず,当初憲法と 1996 年部分改 正について検討しよう。1996 年部分改正は,
大統領の地位と権限を強化し,議会を一院制 から二院制に変更した。この方向での部分改 正について,大統領は,1994 年に,その是 非を全人民投票で国民に問うた。これは,当 初憲法が予定する憲法改正手続とは異なる。
1996 年部分改正が,憲法改正の発議に大統 領の公示する全人民投票を加えたことは,
1994 年の全人民投票の事後正当化である。
ここでは,まず,二院制となった議会の各 院,つまり,立法院と代表院が,当初憲法の 議会の権限をどのように引き継いだか,ある いは引き継がなかったかという視点から,
1996 年部分改正における議会の権限を見て おきたい。この検討は,議会それ自体の権限 を見るというよりも,何が大統領の権限と なったかを明確にすることに一番の意味があ る。
その検討の前に,1996 年部分改正におけ る二院制の特徴について簡単に触れておこ う。その特徴は,第一に,それが大統領の発 案であること,第二に,
「常勤で,国民の全
体利益の代表を基本として選挙」される立法 院議員の定員が 35 人,「会期の期間で活動し,
表 1 脱社会主義国の移行の帰結
地域 国 大統領 首相
選出 議会 違憲審査 現
憲法 EU CoE 類型
ロシア等ロシア 公選 大統領 二院 憲法裁判所 1993 1996 CA ウクライナ 公選 議会 一院 憲法裁判所 1996 1995 HR
ベラルーシ 公選 大統領 二院 憲法裁判所 1994 CA
モルドバ 議会 議会 一院 憲法裁判所 1994 1995 HR
ザカフカス
アゼルバイジャン 公選 大統領 一院 憲法裁判所 1995 2001 CA アルメニア 公選 議会 一院 憲法裁判所 1995 2001 SCA
グルジア 公選 議会 一院 憲法裁判所 1995 1999 HR
中央アジア
ウズベキスタン 公選 大統領 二院 憲法裁判所 1992 CA
カザフスタン 公選 大統領 二院 憲法評議会 1995 CA
キルギスタン 公選 議会 一院 最高会議憲法院 2010 SCA
トルクメニスタン 公選 一院 議会 2008 CA
タジキスタン 公選 二院 憲法裁判所 1994 CA
バルト
エストニア 議会 議会 一院 最高裁判所 1992 2004 1993 CD ラトビア 議会 一院 憲法裁判所 1992 2004 1995 CD リトアニア 公選 大統領 一院 憲法裁判所 1992 2004 1993 CD
東欧
スロバキア 公選 議会 一院 憲法裁判所 1992 2004 1993 CD チェコ 公選 議会 二院 憲法裁判所 1993 2004 1993 CD ハンガリー 議会 議会 一院 憲法裁判所 2011 2004 1990 SCD ブルガリア 公選 議会 一院 憲法裁判所 1991 2007 1992 SCD ポーランド 公選 議会 二院 憲法法廷 1997 2004 1991 CD ルーマニア 公選 議会 二院 憲法裁判所 1991 2007 1993 SCD
南欧︵旧ユーゴスラビア等︶
クロアチア 公選 議会 一院 憲法裁判所 1991 2013 1996 SCD
スロベニア 公選 議会 二院 憲法裁判所 1991 2004 1993 CD セルビア 公選 議会 一院 憲法裁判所 2006 2003 SCD ボスニア・ヘルツゴビナ (評議会) 大統領 二院 憲法裁判所 1995 2002 HR モンテネグロ 公選 議会 一院 憲法裁判所 2007 2007 SCD マケドニア 公選 議会 一院 憲法裁判所 1991 1995 HR
コソボ 議会 議会 一院 憲法裁判所 2008 SCA
アルバニア 議会 議会 一院 憲法裁判所 1998 1995 HR
地域利益の代表を基本として選挙」される代 表院議員の定員が 70 人であることである。
ただし,各院の議員の定員は,1998 年部分 改正で,立法院が 60 人,代表院が 45 人に改 正された。
「会期の期間で活動」する代表院
議員は,「政府構成員,検事,裁判および法
律が定める他の国家勤務職」と兼職できない。つまり,それ以外の国家勤務員は,代表院議 員との兼職が可能である。代表院議員の地位 は,ソ連憲法が規定した代議員のそれとの連 続性がある。ここでの問題は,連続性そのも のではなく,そのことを通して地方の国家勤 務員が代表院議員となることができたという 点である。1996 年部分改正における大統領 の地位と権限の強化は,大統領主導での地方 の政治エリートからの支持調達と表裏一体で あったと見ることができる (9) 。
さて,表 2 は,当初憲法の議会権限が 1996 年部分改正ではだれの権限になったかを示し たものである。1996 年部分改正で大統領が 有することになった権限の主なものは以下の 通りである。すなわち,憲法改正発議権,全 人民投票発議権,立法権(法律の効力をもつ 大統領令),内外政策の基本方針の決定,政 府の構造の決定と政府活動の監督(閣議の主 宰),自己発議での政府総辞職,議会による,
首相候補者の同意の拒否および不信任の再議 を理由とする議会解散権。
このなかで,当初憲法では議会の権限で あった内外政策の基本方針の決定は,1996 年部分改正では,大統領の権限を規定する第 46 条ではなく,大統領の地位と役割を規定 する第 42 条で規定されている。当初憲法の 第 42 条は,大統領の地位を国家元首である と定めた。1996 年部分改正の第 42 条は,国
家元首であるとともに最高公務員でもあると 大統領の地位を規定し(1 項),さらに,こ の二つの地位に対応して,
「人民と国家権力
の統一の象徴であり,憲法ならびに人および 市民の権利および自由の保障」(2 項)であ るばかりでなく,「内外政策の基本方針を決
定し,国の内外でキルギス共和国を代表し,主権と領土一体性を擁護する措置を採択し,
国家権力の統一性と継承性,国家機関の一致 した運営と協力および人民に対する責任を確 保」(3 項)すると大統領の役割を定めた (10) 。 当初憲法から 1996 年部分改正への基本的 特徴は,大統領が,
「最高公務員」として「内
外政策の基本方針を決定」する権限を有し,それに対応して,政府が,大統領への一元責 任を有する機関となった点にある。1996 年 部分改正では,代表院は,首相任命の同意権 と政府に対する不信任決議権を有する。しか し,大統領は,自己発議で政府を総辞職させ ることができ,そして議会が首相候補者に同 意しないことと不信任決議を再議決すること を理由に議会を解散できるから,首相の任免 は,大統領の意思で決定できる。このような
「大統領 ― 政府 ― 議会」の関係は,君主に対
する政府の一元責任を定める立憲君主制憲法 に類似している (11) 。1996 年部分改正により大統領または政府 の権限に移行した当初憲法の議会権限から考 えると,当初憲法の議会権限は,権力分立の 原則を逸脱しているとまでは言えない。確か に,例えば,6 号のように,当初憲法の定め る議会権限が,その性格上,議会権限に相応 しいかものばかりどうか議論の余地はある。
しかし,
「内外政策の基本方針の決定」
(4 号),「政府の構造の承認」
(13 号),あるいは「議表 2 1993 年憲法が定める議会権限に対応する権限を 1996 年憲法で担当する機関
1993 年憲法(当初憲法) 1996 年部分改正(部分改正)
号 議会権限(第 58 条) 権限を有する機関 関連条文
1
憲法改正立法院/代表院
大統領
第 59 条 1 項(両院での条件付多数で採択)
第 96 条 1 項(当初憲法で規定する発議権者に 加え,大統領が公示する全人民投票での憲法 改正発議を認める)
2 立法と法律執行の監督 立法院(代表院)
第 59 条 1 項,2 項(憲法的法律および国境変 更法は両院での条件付多数で採択,租税,財政,
関税,銀行活動,条約の批准および破棄,大 赦について立法院が採択した法律は,代表院 の議員定数の過半数の投票での承認が必要)
第 68 条(議会の両院は立法権を 1 年以内の期 間であれば大統領に委任でき(1 項),議会解 散の場合は大統領に立法権が移管される(2 項),法律の効力をもつ大統領令の採択を認め る(3 項))
3 有権解釈権 立法院/代表院 第 58 条 1 項 3 号,3 項 3 号
4
内外政策の基本方針の決定 大統領 第 42 条 3 項(国家元首で最高公務員である大 統領が内外政策の基本方針を決定する)5 予算および決算報告の承認 代表院 第 58 条 4 号,第 59 条 3 項(立法院の議員定数 の過半数による承認が必要)
6 通貨制度の決定 政府/国立銀行 第 73 条 3 項
7 国境の変更 立法院/代表院 第 58 条 3 項 5 号,第 59 条 1 項(国境変更法は 両院での条件付多数)
8 行政区画の決定 代表院 第 58 条 3 項 6 号,第 59 条 3 項(立法院の議員 定数の過半数による承認が必要)
9 大統領選挙の公示 代表院
10
中央選挙管理委員会の設置 大統領/立法院/代表院
第 46 条 6 項 5 号・ 第 58 条 1 項 7 号,3 項 13 号(大統領,立法院および代表院のそれぞれ が選挙・人民投票管理委員会の委員のそれぞ れ 3 分の 1 を任命(または選出),委員長は大 統領が任命)
11
大統領の提案に基づく憲法 裁判所所長,副所長および 裁判官の選任
立法院/代表院 第 58 条 1 項 6 号,3 項 11 号, 第 80 条( 罷 免 は 立法院の権限)
12
大統領の提案に基づく最高 裁判所および仲裁裁判所の 長官,副長官および裁判官 の選任
代表院 第 58 条 3 項 12 号,第 80 条
13
政府の構造の承認 大統領 第 46 条 1 項 1 号14
首相,政府構成員,検事総 長,国立銀行総裁の任命へ の同意
代表院(大統領)
第 46 条 1 項 2 号,3 号,同条 2 項 1 号,2 号(大 統領は,首相との協議により政府構成員を任 命する)
※政府構成員は大統領任命となったものの,
首相,検事総長および国立銀行総裁の任命手 続に変化はない。ただし,代表院が,大統領 提案の首相候補者に同意を 3 回与えない場合,
大統領は議会解散できる(第 71 条)
15
外国および国際組織への代表の長の任命への同意 大統領 第 46 条 3 項 4 号
16
政府の任期前解任に同意を与えること 大統領
第 46 条 1 項 4 号(大統領は,自己発議で,首 相または政府の辞職の決定を採択できる。大 統領は政府構成員を解任できる)
17
議会議長の提案に基づき議 会付置監督院長官および副 長官の任命への同意
大統領
第 72 条(政府活動への監督は大統領が実施 し,大統領は政府会議を主宰する権利を有する)
※監督院廃止。会計検査院設置 18 条約の批准および破棄,戦
争と平和の問題の決定 立法院 第 58 条 1 項 9 号,同条同項 11 号 19 軍および外交官の等級なら
びに官等 立法院 第 58 条 1 項 13 号 20 国家賞および名誉称号 立法院 第 58 条 1 項 14 号 21 大赦 立法院 第 58 条 1 項 15 号
22
非常事態宣言,大統領の非 常事態に関する行為の承認 または取消
立法院
第 58 条 1 項 10 号(非常事態宣言自体は議会権 限)
※大統領は,全土について,非常事態宣言予告,
個別の地域について,予告のない非常事態を することができる(第 46 条)
23
戒厳令,戦争状態宣言およ び大統領による宣戦布告と 関連した決議の採択
立法院 第 58 条 1 項 11 号
24
国際条約による平和維持の 義務の遂行の必要と関連し た召集
立法院 第 58 条 1 項 12 号
25
議会が設置または選任した 機関の報告の聴取,政府お よび個々の政府構成員の信 任決議
代表院
第 58 条 3 項 17 号,18 号( 首 相 不 信 任, 第 71 条は 「大統領が政府を総辞職させず,代表院が,
政府不信任を 3 月以内に再議決した場合,大 統領は議会解散できる」と規定),19 号(検 事総長および国立銀行総裁からの報告聴取)
26
国家生活の問題を全人民投 票に付す
※第 68 条(30 万人の有権 者および議員定数の 3 分の 1 の議員の要求で全人民投 票を実施)
大統領 第 46 条 6 項 2 号(大統領は全人民投票を自己 の発議で実施できる)
27 大統領の弾劾,憲法裁判所
裁判官の罷免 代表院 第 51 条
会付置監督院」(17 号)については,それぞれ,
議会の国民代表機関性,行政組織法定主義,
あるいは議会付置会計検査院の例(アメリカ 会計検査院)から,必ずしも,特殊なものと 見る必要はない。仮に,当初憲法の議会権限 が権力分立の原則を侵害しており,また,現 代社会における議会のあるべき地位を反映し ていないとみなし,そうした欠点を克服する
「脱ソビエト化」の憲法であると 1996 年部分
改正を評価するとしても,その結果は,大統 領への政府の一元責任を定める立憲君主制憲 法類似の憲法であることを覚えておく必要が ある。二
「大統領 ― 政府 ― 議会」の関係か
ら見たキルギス憲法(2)―当初 憲法,改正憲法および新憲法と半 大統領制論1996 年部分改正が定めた「大統領 ― 政府
― 議会」をめぐる制度は,2003 年全文改正,
2007 年全文改正および 2010 年憲法と変化す る。ここでは,これらの全文改正または新憲 法制定がどのような事件の結果かは捨象し て (12) ,表 3 により,
「大統領 ― 政府 ― 議会」
をめぐる憲法上の制度変化を確認しよう。こ れをめぐる憲法上の制度変化としては,首相 および政府構成員の解任についての文言の変 化が注目に値する。
1996 年部分改正では明記されていた大統 領の自己発議による首相解任は,2003 年全 文改正では明記されていない。 なお,2003 年全文改正は,1996 年部分改正が導入した 二院制を一院制に戻した点に特徴がある。二 院制導入は大統領の支持調達という動機に基
づくものであったとすれば,支持調達をこの ような方法で行う必要がなくなったと解する ことができる。
2007 年全文改正は,首相候補者を議会多 数党が大統領に提案し,大統領がこの提案に 基づいて首相を任命するという手続を定めて いる。大統領が首相を任命するという観念は 残っているものの,大統領の提案に議会が同 意するのではなく,議会多数党の提案する候 補者に大統領が同意することになる。2007 年全文改正は,大統領提案の首相候補者への 同意拒否を理由とする議会解散に代わり,議 会の首相候補者の選出失敗を理由とする議会 解散を規定している。しかし,大統領は,首 相の辞職について決定権をもち,不信任決議 再議決を理由として議会解散をすることがで きる。なお,防衛,安全保障,内務および外 交の領域は,言わば,大統領の専管領域であ り,これらを所管する行政機関およびその長 は大統領が決定する。
1996 年部分改正,2003 年全文改正および 2007 年全文改正の各憲法は,大統領の地位 と役割の規定が共通する。その内容,すなわ ち 1996 年部分改正の第 42 条については前述 した。しかし,首相および政府構成員の任免 および大統領による議会解散についての規定 は,ここで見たように,それぞれで変化して いる。
2010 年新憲法では,大統領の地位と役割 についての規定が大きく変化した。大統領は 国家元首であり,人民と国家権力の統一の体 現者である(第 60 条)。このような大統領の 地位と役割のもとで,
「大統領 ― 政府 ― 議会」
の関係は変化した。議会多数会派が選出した 首相候補者を大統領が大統領令で任命する。
2010 年新憲法には,首相候補者を議会が大 統領に提案するという観念は存在せず,大統 領の任命権限は形式上のものである。首相候 補者の選出失敗および不信任決議再決議を理 由とする大統領の議会解散権も認めていな い。したがって,政府は,議会の信任にだけ 依拠すると考えることができ,この意味で,
議会と政府との関係は議院内閣制であると捉 えることができる。
しかしながら,2010 年新憲法は,不信任 決議と信任決議を区別して,議会の政府信任 拒否を理由とする議会解散権を大統領に認 め,また領域は減少したものの 2007 年憲法 と同じく大統領の専管領域を認めている(防 衛および安全保障)。この点で,2010 年憲法 が定める「政府 ― 議会」の関係を議院内閣制 と捉えるとしても,なお,それとは異質な大 統領権限が残存していることにも注意を払わ なければならない。
フランスの憲法学者,M. デヴェルジェは,
(1)公選の大統領が存在する,(2)大統領は かなりの権限を有する,(3)大統領に対峙す る首相が存在する,の 3 つの要素がそろって いる場合にそのような制度を半大統領制とみ なした。では,1993 年当初憲法,1996 年部 分改正,2007 年全文改正および 2010 年新憲 法は,デヴェルジェの定義する半大統領制に 該当するだろうか。
(1)の要素は,4 つの憲法すべてに該当する。
(2)の要素は,すべての憲法に該当すると 見 る こ と も で き る が, ⅰ ) 当 初 憲 法,
ⅱ )1996 年 部 分 改 正 と 2007 年 全 文 改 正,
ⅲ)2010 年新憲法で,大統領の地位と役割は 大きく異なる。ⅱ)の憲法は,大統領の権限 が大きいというだけでなく,
「内外政策の基
本方針を決定」する「最高公務員」という地 位と役割を大統領に与えている。つまり,こ こでの問題は,大統領権限の量と強さではな く,大統領に特別の性格をもつ地位と役割が 与えられていることである。これらの憲法で は,
「人民権力の最高性」は「全人民が選出
する国家元首 ― 大統領が代表し,保障する」とまで書かれている(第 7 条)。ⅲ)の 2010 年新憲法は,権限としては,大統領に,それ なりの強い権限を認めているが(大統領専管 領域としての防衛および安全保障,議会の政 府信任否決を理由とする議会解散),それを 除けば,名目的国家元首を定めたとも理解で きる規定となっている。
(3)の大統領に対峙する首相が存在すると いう要素について考えると,これも,a)当 初憲法,b)1996 年部分改正および 2007 年全 分改正,c)2010 年新憲法制定で異なる。c)
の場合,政府は議会の信任に依拠する議院内 閣制なので大統領に対峙する首相が存在する と考えることができても,b)の場合は,首 相の任免権が大統領にあることから,首相が 大統領に対峙する地位にあると言えるかどう か疑問である。
以上のように考えるとデヴェルジェの半大 統領制論は,キルギス憲法の制度変化を説明 する基本枠組み足りえるか疑問である。この 疑問は,キルギス憲法の分析だけでなく,脱 社会主義国の憲法の分析においても妥当す る。そこから,半大統領制の類型論が展開す ることになる (13) 。
この類型論は別として,
「大統領 ― 政府 ―
議会」をめぐる憲法上の制度の性格を考える うえで基本となることは,政府責任が,対大 統領一元責任,対議会一元責任または対大統領/対議会の二元責任のいずれであるかにあ る。1996 年部分改正および 2003 年全文改正 は,政府は大統領に責任を負い,議会に報告 義務を負うと規定している。大統領の首相解 任権および議会解散権を考えると 1996 年部 分改正は,すでに指摘したように,政府の対 大統領の一元責任を定めた憲法であり,2003 年全文改正も首相の自己発議解任権が憲法に 明記されていないものの,同じ性格の憲法と 考えることができる。2007 年憲法は,対大 統領/対議会の政府の二元責任を定め,首相
候補者選出手続に変化はあるものの,大統領 の地位と役割が変わらず,不信任再議決を理 由とする議会解散権も大統領がもち続けたい う点で,1996 年部分改正および 2003 年全文 改正との連続性が強い。これにたいして,
2010 年新憲法は,政府の対議会一元責任を 定めていると見ることができる。ただし,大 統領の専管領域および政府信任否決を理由と する議会解散を重視すると,対議会一元責任 性は不完全なものであり,政府の責任は,対 大統領および対議会の二元責任であると解す 表 3 2003 年全文改正,2007 全文改正および 2010 年新憲法の定める「大統領 ― 政府 ― 議会」関係
1996 年部分改正 2003 年全文改正 2007 年全文改正 2010 年新憲法 首相任命権 第 46 条 1 項 2 号:大
統領(議会:同意)
第 46 条 1 項 2 号:大 統領(議会:同意)
第 46 条 1 項 1 号:大 統領( 「憲法で定め る手続での任命」 )
第 84 条 5 項:大統領
(任命の大統領令発 布の形式的権限)
首相候補者 提案
大統領(対議会) 大統領(対議会) 第 69 条: 議 会 多 数 党(対大統領)
※ 防 衛, 安 全 保 障,
内務および外務を所 管する大臣は大統領 が任免(第 46 条第 10 項)
第 84 条: 議 会 多 数 会派
※防衛および安全保 障を所管する国家機 関の長は大統領が任 免(第 64 条 4 項 2 号)
首相解任権 第 46 条 1 項 4 号:自 己 発 議 で の 首 相 解 任
第 46 条 1 項 4 号:首 相 の 辞 職 に つ い て の決定採択
第 46 条 1 号 2 号:首 相 の 辞 職 に つ い て の決定採択 自己発議解
任権
第 46 条 1 項 4 号:首 相 お よ び 政 府 構 成 員
第 46 条 1 項 4 号:行 政機関の長
第 46 条 1 項 3 号:大 臣
第 64 条 4 項 2 号:特 定 の 大 臣( 国 防・
安全保障)
議会解散権 第 71 条:大統領(首 相候補者同意拒否,
不信任再議決)
第 72 条:大統領(首 相候補者同意拒否,
不信任再議決)
第 70 条 4 項, 第 71 条 7 項:大統領(首 相候補者選出失敗,
不信任再議決)
第 86 条:大統領(信 任決議再否決)
政府構造決 定権
第 46 条 1 項 1 号:大 統領
第 46 条 1 項 1 号:大 統領
第 58 条 1 項 9 号:議 会(首相提案)
※ 防 衛, 安 全 保 障,
内務および外務を除 く(第 69 条)
第 74 条 3 項 1 号:議 会
※防衛および安全保 障 を 除 く( 第 74 条 3 項 1 号)
政府責任 第 72 条 1 項: 大 統 領は政府を監督し,
閣 議 を 主 宰( 首 相 は年 1 回議会に政府 活動報告)
第 72 条 1 項: 対 大 統 領( 対 議 会 は 報 告義務)(大統領は 閣 議 を 主 宰 す る 権 利を有する)
第 71 条 1 項: 対 大 統 領, 対 議 会( 大 統 領 は 閣 議 で の 発 言権を有する)
第 85 条:対議会
る余地がある。どちらの説を採用するにせよ,
2010 年キルギス憲法の定める「大統領 ― 政 府 ― 議会」の憲法上の制度は,1993 年ロシ ア憲法の定めるそれとは類型として異なる。
三 制度変化とレジーム変化―立憲政 治と憲法政治のあいだ
ここまで,憲法上の制度変化を「大統領 ― 政府 ― 議会」の関係に焦点を合わせて,その 内容を検討してきた。では,このような「大 統領 ― 政府 ― 議会」の関係の制度変化は,政 治レジームの変化と連動しているのだろう か。政府の責任が,対大統領の一元責任から 対議会の一元責任へと変化したとするなら ば,それは民主化を意味するはずである。表 1 の「類型」で,民主主義(CD),半民主主 義(SCD)および異種混合レジーム(HR)
に分類されている国は,議院内閣制か政府の 対議会の一元責任,あるいは少なくとも対大 統領と対議会の二元責任を定めた憲法をもつ 国であり,対大統領の一元責任を定めた国は 無い (14) 。また,異種混合レジームに分類さ れているウクライナあるいはジョージアで は,こうした方向での憲法改正が行われた。
これに対して,中央アジア諸国は,キルギス を除くと,大統領制(ウズベキスタン,タジ キスタンおよびトルクメニスタン)または 1993 年ロシア憲法型大統領制(カザフスタ ン)を採用している。このよう見るならば,
「大統領 ― 政府 ― 議会」の憲法上の制度変化
は,政治レジームまたはその変化と相関があ る。欧州の憲法史を振り返るなら,政府の対 一元責任が確立する過程が議院内閣制の成立 の過程であった。しかし,キルギスの場合,必ずしも,この ような方向での憲法上の制度変化が政治レ ジームの変化とは結びつかないという評価も 有力である。例えば,ロシアの比較憲法学の メドゥシェフスキーは,政府の対議会一元責 任を定めた憲法として 2010 年新憲法を見て いない。かれは,大統領の専管領域および政 府信任拒否を理由とする大統領の議会解散権 等から,2010 年新憲法は政府の対大統領お よび対議会の二元責任を定めた憲法であると 理解し,1918 年ワイマール憲法と同様の危 険性をもつと指摘している (15) 。かれによれ ば,キルギスの社会は,民族や宗教で亀裂の 大きな社会であり,そのような社会で政府の 対大統領および対議会の二元責任を定めた憲 法を採用することは不安定化を招く。不安定 化がもたらす危機は,結局のところ,議会が その権限を政府さらには大統領に委任するこ とよってのみ克服されうる。その結果は,他 の中央アジア諸国と変わらない政治レジーム がもたらされることである (16) 。
欧米の比較政治学または地域研究では,
チューリップ革命の評価は次のようなもので あった。すなわち,権力の変化を引き起こし たのは,非公式の社会関係(共同体や地域主 義,血縁関係等)とその社会関係における実 力者のネットワークであり,公式の制度,す なわち議会や政党,その指導者ではない。そ して,キルギスの非公式の社会関係は,
「オ
レンジ革命」のウクライナ,「バラ革命」の
グルジアと異なり,都市または市民社会を基 盤とするものではなく,農村の非近代性を前 提とするがゆえに,社会での動員の要因とは なりえても,公式の制度の民主化の要因とは なりえないと評価された (17) 。確かに,2007年憲法は民主化をもたらさなかった。しかし,
非近代的で市民社会が存在しないとされるキ ルギスで 2010 年新憲法のような制度変化が 起きたのかはこのような議論では説明できな い。
それは別として,ここでの整理が正しいと すると,ロシアのメドゥシェフスキーも欧米 の比較政治学または地域研究も,制度それ自 体の性格ではなくて,制度が社会に規定され て発揮する機能が重要だと考えていることに なる。このように考えると,立憲主義や自由 民主主義を実現してきた制度が脱社会主義国 で採用されても,結局それは,そのようなも のとして機能しない場合があるということに なる。そして,この論理に従うと,立憲主義 や自由民主主義は特定の社会に起源をもつと いうだけでなく,ある特定の社会でしか実現 しない地域限定のものだということになる。
ロシアのメドゥシェフスキーあるいは欧米の 比較政治学または地域研究は,決定論または 宿命論を展開しているのではなく,当面,キ ルギスには条件が無いということを強調して いると見るとしても,そのように捉えるため の枠組は積極に明示されているわけではない。
制度変化と政治レジーム変化との関係は,
脱社会主義化(体制転換)の政治学の中心問 題である。脱社会主義化の帰結は,
「第三の波」
を背景とする移行論と脱社会主義化(民主化)
に適した制度の探求をめざした制度論に疑問 を投げかけた。一方で,政治レジームの変化
(民主化)の条件または要因があらためて問 われ,他方で,変化した制度に機能不全をも たらす非公式規範の強さに注目が集まった。
この点は別に論ずべき主題である (18) 。ただ し,フリーダムハウスの政治レジームの分類
に異種混合レジームがあることには注意を要 する。これは,欧米の研究のなかには,
「民
主主義対独裁」または「民主主義対権威主義」
と い う 二 分 法 で は な く, 選 挙 制 権 威 主 義
(electoral authoritarianism) (19) または競争的 権威主義(competitive authoritarianism) (20)
といった概念が登場していることの反映であ る。つまり,脱社会主義化の政治レジームの 変容は二分法では認識しきれないという議論 が登場している。
制度変化とレジーム変化の関係をキルギス について検討する場合,キルギスの制度変化 の特徴を中央アジアの他の国との比較で分析 しておくことが必要である。中央アジア諸国 憲法の興味深い概説書の著者である S. ニュー トンは次のように指摘している。
「この地域の
他の国で起きた逆行する改正の憂鬱な行列と は異なり,キルギスでの改正は,憲法政治そ れ自体(constitutional politics itself),つまり,憲法設計(politics of constitutional design)
をめぐる政治が存在し,憲法による政治抑止
(constitutional foreclosure of politics) は 起 きていない」(21) 。つまり,制度変化の特徴と いう点では,キルギスと他の中央アジア諸国 を同一視できない。
ここで指摘されている,キルギス以外の中 央アジア諸国における「改正の陰鬱な行列」
を,中央アジア諸国の初代大統領と現大統領,
そして憲法改正または新憲法制定についての 表から説明しよう。表 4 の国名の次の「初」
の行は中央アジア各国で 1990 年に選出また は選挙された初代大統領である。この表の最 後の行の
「現」
は 2017 年現在の大統領である。カザフスタンのナザルバエフは 1990 年から 大統領であり続け,かれに対しては,初代大
表 4 中央アジア諸国の憲法制定,憲法改正および関連の全人民投票ならびに大統領
ウズベキスタン カザフスタン キルギスタン タジキスタン トルクメニスタン
初 カリモフ ナザルバエフ アカエフ マハモフ ニャゾフ
90 2 月: 最 高 会 議 選挙
3 月: 大 統 領 選 出
2 月: 最 高 会 議 選挙
4 月: 大 統 領 選 出
2 月: 最 高 会 議 選挙
10 月: 大 統 領 選 出
2 月: 最 高 会 議 選挙
11 月: 大 統 領 選 出
1 月: 最 高 会 議 選挙
10 月: 大 統 領 選 挙
91 8 月:独立宣言 12 月: 大 統 領 選 挙,全人民投票
(独 立)12 月: 大 統 領 選 挙
12 月:独立宣言
8 月:独立宣言 10 月: 大 統 領 選 挙
9 月:独立宣言 11 月: 大 統 領 選 挙
(ナビエフ)10 月: 全 人 民 投 票
( 独 立 )・ 独 立 宣言
92 12 月:新憲法
(大統領任期:2期5年)
内戦
(1997 年迄)5 月: 新 憲 法
(2 期 5 年)93 1 月:新憲法
(大統領任期:2 期 5 年)
5 月:新憲法
(大 統領任期:2 期 5 年)94 1 月: 全 人 民 投
票
(大統領信任)10 月: 全 人 民 投 票
(憲法改正・二院 制導入)11 月:新憲法 / 全 自民投票
(大統領 任期:2 期 5 年),大 統領選挙
(ラフモン)1 月: 全 人 民 投 票
(2002 年迄大統領 任期延長)95 3 月: 全 人 民 投 票
(2000 年迄任期延 長)4 月: 全 人 民 投 票
(2000 年迄任期延 長)8 月:新憲法 / 全 人民投票
(大統領 任期:2 期 5 年)96 2 月: 憲 法 改 正
( 大 統 領 権 限 強 化 お よび二院制導入)
98 10 月: 憲 法 改 正
( 代 表 院 お よ び 立 法 院の議員定数変更)
99 9 月:憲法改正 /
全人民投票
(大統 領任期:1 期 7 年)12 月:憲法改正
(2 期の制限を削除), 人 民 評 議 会 決 議
( ニ ャ ゾ フ を 終 身 大 統領と認める)
02 1 月: 全 人 民 投 票
(2 期 5 年から 2 期 7 年 へ の 大 統 領 任 期 変更・二院制導入)03 4 月:憲法改正
(2 期 7 年 へ の 大 統 領 任 期変更)2 月: 憲 法 改 正
(一院制復帰)
6 月:憲法改正 / 全人民投票
(大統 領領任期:2 期 7 年)8 月:憲法改正
(大 統領候補推薦機関と しての人民評議会)05 7 月: 大 統 領 選
挙
(バキエフ)07 2 月:憲法改正
(大統領の地位の変更:
国家元首+執行権力の 長から国家機関の活動 を調整するする元首へ)
8 月: 憲 法 改 正
( 初 代 大 統 領 へ の 任 期制限適用除外)
10 月: 憲 法 改 正
(首相選出手続変更)
(ニャゾフ死去)
2 月:大統領選挙
(ベルディムハメドフ)
統領として大統領任期制限の適用が除外され る(2007 憲法改正)。タジキスタンでは初代 大統領ではなく,1994 年に内戦下で大統領 となったラフモンが,その時から大統領であ り続けている。かれに対しても,建国の父と し て 大 統 領 任 期 制 限 の 適 用 が 除 外 さ れ る
(2016 年 憲 法 改 正 )。 ウ ズ ベ キ ス タ ン で は 1990 年に選出された初代大統領のカリモフ が 2016 年に死去することで大統領が交代し た。トルクメニスタンでは 1990 年に選出さ れた初代大統領のニャゾフが 2007 年に死去 することで大統領が交代した。ウズベキスタ ンとトルクメニスタンの大統領の交代は,初 代大統領の自然死であった。要するに,ウズ ベキスタン,カザフスタン,タジキスタンお よびトルクメニスタンでは,大統領の個人権 力が確立し,そのもとで,それを実現し維持 するため,大統領任期制限の操作あるいはそ の適用除外のための憲法改正が行われている。
「改正の陰鬱な行列」において,憲法は,
大統領の個人権力を維持する道具の機能を果
たし,そのような機能を果たすため憲法改正 の頻度が高くなっていると考えることができ る。
「改正の陰鬱な行列」においては,道具
としての憲法を操作して個人権力を維持する と い う 意 味 で, あ る 種 の 憲 法 政 治(constitutional politics)が成立していると見 ることができる。これに対して,キルギスで は,
「憲法設計をめぐる政治」という意味で
憲法政治が成立し,その帰結が 2010 年新憲 法である。「個人権力を憲法で維持するとい
う政治」と「憲法設計をめぐる政治」とを,同じく憲法政治と呼ぶとしても,前者と後者 のちがいは大きい。
しかし,
「憲法設計をめぐる政治」という
意味での憲法政治は,立憲統治(constitutional government)ということとは異なる。キル ギスの「憲法設計をめぐる政治」は,憲法が 政治対立の争点であり,政治対立の時々の帰 結が憲法に表現され反映されることを意味す るのであって,政治が憲法によって制約され ることを意味するのではない。キルギス憲法08 12 月: 憲 法 改 正
( 立 法 院 の 議 員 の 一 部を特定社会団体か ら選出)
9 月: 憲 法 改 正
(大統領任期 5 年)
10 6 月:新憲法
(議院内閣制,大統領任 期:1 期 6 年)
11 12 月:憲法改正
(2 期 5 年 へ の 大 統 領 任 期変更)10 月: 大 統 領 選 挙
(アタムバエフ)14 4 月: 憲 法 改 正
( 首 相 お よ び 大 臣 会 議の権限の明確化)
16
(カリモフ死去)12 月: 大 統 領 選 挙
(ミルジョーエフ)12 月: 憲 法 改 正
(首相権限,裁判官,
人権)
5 月:憲法改正 / 全人民投票
(初代 大統領任期制限適用 除外)9 月:憲法
(大統 領任期 7 年現 ミルジョーエフ ナザルバエフ アタムバエフ ラフモン ベルディメドフ
は,政治勢力の関係を決める対抗と競争の帰 結であってもその対抗と競争の規則を提供す るものではない。このように考えることもで きる。キルギスでは,政治権力をめぐる政治 勢力間の競争の帰結(権力配分)が憲法に反 映されるのにたいして,キルギス以外の国で は,大統領の個人権力の維持のための政治勢 力間の政治合意の結果が憲法改正に反映され るのだと捉えるとすると,実は,中央アジア 諸国において,政治と憲法との関係そのもの には大きなちがいはないということになる。
しかし,憲法政治における「憲法設計をめぐ る政治」と
「改正の陰鬱な行列」
との対照は,憲法変動の過程 (22) のちがいを示し,前者に は,立憲統治(立憲主義)への契機となる可 能性があり,後者には,非立憲統治(非立憲 主義)を強める要素があると捉えることもで きる。もし,そうであるとするならば,憲法 政治のちがいは何が生み出したか,憲法変動 の過程のちがいは何によって規定されている かを考えることが重要である。
この点で,素朴な制度選択論でも,条件ま たは歴史(政治)を理由とする機械的な決定 論または二分法でもないという点で,制度と 社会との相関という視点から問題を検討しよ うとする H. ヘールの議論が興味深い。ヘー ルによれば,旧ソ連圏の社会は恩顧関係が支 配しており欧米の社会とは異質である。恩顧 関係社会の政治は恩顧関係政治(Patronal Politics)であり,それは,恩顧関係を通し た個人または集団への財の配分であって,一 般的規則に基づく政策の実現ではない。憲法 の機能も異質で,欧米の立憲主義のように政 治を制約するものではなく,政治の結果を反 映するものである。つまり,社会,政治およ
び立憲主義のどれをとっても,旧ソ連圏と欧 米とは異なる。しかし,恩顧関係政治は,憲 法が採用する制度によって,異なる政治レ ジームに帰結しうる。半大統領制という言葉 を用いて説明するなら,対大統領一元責任の 政府で首相の地位が弱い半大統領制のもとで は,恩顧関係のネットワークは大統領を頂点 とするピラミッド型となる。これに対して,
対議会一元責任の政府で首相と大統領が拮抗 する半大統領制のもとでは,大統領と首相の 恩顧関係ネットワークが競争する。前者は,
個人権力を成立させ,後者は,ある程度の競 争政治を実現する。つまり,欧米とは異質な 社会関係をもつ社会ではあっても,政治レ ジームにおける競争性の質は社会と制度の相 関により異なりうる。ここで重要なのは,社 会が制度を規定する,または社会が制度の機 能を侵食するという捉え方に代わる,社会と 制度の相関という視点そのものである。その 相関のなかで,同一の特徴をもつ社会におい て異なる質の政治レジームが存在しうるかど うかが検討可能となる (23) 。
おわりに
制度変化と政治レジーム変化との関係が,
脱社会主義化(体制転換)の政治学の中心問 題であるとすると,脱社会主義化における憲 法を検討する場合,それに対応するのは,脱 社会主義化における新憲法制定/改正と立憲 主義の確立との関係である。その場合,脱社 会主義における新憲法制定/改正が,必ずし も,立憲主義の確立をもたらしていないこと をどう説明するかが問題となる。中央アジア 諸国についてはとくにそうである。キルギス
の場合には,
「大統領 ― 政府 ― 議会」をめぐ
る憲法上の制度とその変動が,他の中央アジ ア諸国とは異なることを踏まえて問題を考え る必要がある。この問題を,この小論では,次のように論 じた。
まず,制度論としては,半大統領制と政治 レジームとの関係である。キルギス憲法の制 度変化の分析を通して,半大統領制という同 一の制度の下での政治レジームのちがいを政 治文化または法文化のちがいで説明するので はなく,半大統領制の制度類型に政治レジー ムのちがいが対応すると考えて制度変化その ものを分析した。1996 年部分改正の意義も この視点から分析している。1993 年ロシア 憲法の理解も同様である。この視点からすれ ば,1993 年ロシア憲法とフランス第 5 共和制 憲法のちがいは政治文化ではなく制度自体の ちがいである。要点は,対大統領または/お よび対議会の政府の責任という単純なもので ある。
次に,制度と社会との関係論においては,
社会の制度への一方向での規定性ではなく,
制度と社会との相関の視点から同一の社会関 係で異なる制度変化が生じうることを,アメ リカの比較政治学の成果に着目して考えよう とした。H. ヘールの立論は,率直に言って,
アメリカの民主化支援の評価と結びついてい る。しかし,問題は,広渡清吾が指摘する「制 度と文化の循環」に関係する (24) 。このよう な問題意識は,少数派であり,社会の制度へ の一方向の規定性を論証しようとする発想 が,さまざまな立場に共有されている。この 捉え方が,立憲主義の地域限定性を承認する ことにならないのかどうかも含め今後検討す
る。
それは別として,キルギス憲法の制度変化 はなお続いており,2016 年に憲法の部分改 正 が 行 わ れ た。2016 年 部 分 改 正 は,
「大 統
領 ― 政府 ― 議会」では首相の地位を強化しつ つ,「人権価値」「大統領(政府) ― 裁判所 ―
議会」という点で立憲政治への可能性に懸念 を抱かせる内容になっている。首相の地位は次のように強化されている。
まず,国と地方との関係で,首相の地方の国 家行政機関の長の任命権を強化した(第 89 条 9 項)。それだけでなく,大統領との関係で,
首相の地位を強化した。それは,首相による 大臣解任権の事実上の承認(第 89 条 9 項)に 表れている。また,議会との関係で,首相の 地位を強化した。それは,首相の提起に基づ く予算法および税法の大統領拒否権(第 81 条 2 項)や年 2 回の政府信任(第 86 条 1 項)
等に見られる。予算法および税法について大 統領は拒否権を行使できず,政府信任決議の 首相による提起は年 1 回に限定されていた。
2016 年部分改正でとくに問題なのは,目 指すべき目標が,
「人権の尊重と保護に基づ
く自由で民主的な国家の建設」から「人,そ の生命,健康ならびに権利および自由が最高 価値である自由で民主的な国家の建設」へと 変化したことである。「権利および自由」と
いう文言は残っているものの「人権」という 文言が消え,「権利および自由」も「国の最
高価値」の「ひとつ」に過ぎなくなった。こ れらは,単なる理念の変更ではなく,具体の 意味をもつ。すなわち,同姓婚違憲化(第 36 条 5 項)や国際人権機関への提訴による権 利回復または損害賠償の規定の削除(第 41 条 2 項)等と結びついている。さらに問題なのは,裁判官会議付置懲戒委 員会の設置と解任事由 (25) を憲法で明記し(第 95 条 2 項から 6 項),憲法的法律で裁判官候 補者ヘの制約の追加を認め(第 94 条 9 項),
ソ連時代の最高裁判所による「指導的説明」
(第 96 条 2 項)および検察の「一般監督」(第 104 条 1 項)を復活させたことである。ベニ ス委員会に提案された草案からすると,大き な制度上の変化が裁判所に加えられようとし ており,この点こそ,2016 年部分改正の主 な狙いであった考えることができる。それは 審議の過程で,裁判官任免の制度の変更に集
約された。
2016 年部分改正の制度変化を,
「首相の地
位の強化」「人権の概念の曖昧化と国家価値 の重視」「裁判官の独立の原則への攻撃」と 捉えれば,それ自体はどこの国でも起きる。とくに,
「人権の概念の曖昧化と国家価値の
重視」は程度の差はあれそうである。しかし,キルギスの特殊性がそれぞれにあり,尊重す べき標準からはずれた部分がある。2016 年 部分改正が定める裁判官の任免は,運用次第 では裁判官の安易な解任を可能とする。
そうした問題を抱えつつ,キルギスでは憲
表 5 2016 年部分改正の対象条項と改正要旨(ベニス委員会での審議案の改正対象条項の表記を含む)(26)
2016 年部分改正 ベニス委員会審議案
改正対象条項 2016 年 12 月全人民投票案(要旨) 2016 年案 2015 年案 前文 「人権の尊重と保護」に代わる「国の最高価値」の概念
の導入(国家価値の優位)
総則(憲法秩序の基礎)
第 1 条 第 6 条 3 項 条約および国際法の一般原則の国内での適用の手続と
条件の法律化(国際標準尊重の緩和) 〇
人および市民の権利および自由 第 16 条 1 項 「国の最高価値」のひとつとしての「人権」 (人権価値
の相対化) 〇
第 20 条 2 項 人権の制約事由に兵役その他の国家勤務を追加(制約
拡大) 〇
第 20 条 4 項 5 号 憲法が禁止する自由剥奪の事由を債務不履行から債務
無能力に変更(禁止緩和) 〇
第 24 条 2 項 第 20 条 4 項 5 号の改正と同旨 〇 第 26 条 7 項
(追加)
時効適用除外事由としての大量無差別殺人および生態
系破壊 △
第 36 条 5 項 両性の自発的結合としての家族(同姓婚の違憲化) 〇 第 41 条 2 項
(削除)
国際人権機関が人権侵害を認容した場合の権利回復と
損害賠償の部分を削除(国際標準尊重の緩和) 〇 第 50 条 2 項
(追加) 憲法的法律による国籍剥奪の容認 〇
大統領
第 64 条 3 項 1 号
裁判官選抜会議の提案により大統領は,最高裁判所お よび最高裁判所憲法院の裁判官の任命を議会に提案(最 高裁判所裁判官と最高裁判所憲法院裁判官を区別)
〇
第 64 条 3 項 2 号
裁判官会議付置懲戒委員会または裁判官会議の提案に より大統領は,最高裁判所および最高裁判所憲法院の 裁判官の解任を議会に提案(裁判官会議付置懲戒委員 会の提案による場合を追加)
〇
第 64 条 3 項 4 号 裁判官会議付置懲戒委員会または裁判官会議の提案に
より大統領は地方裁判所裁判官を解任 〇
第 64 条 4 項 1 号 大統領による検事総長解任の議会同意の要件を議員定
数の 3 分の 1 から過半数に(大統領の解任権制約) 〇
第 68 条 1 項
大統領が欠けた場合の代理としての議会議長が職務遂 行不能の場合の代理者に首相または首相代行を予定(改 正前は首相)
第 68 条 2 項
大統領の職務代理者は,議会解散および政府総辞職の 権利がないことに加え,当該の選挙で大統領候補者と なることができないことを明記
〇
立法権(議会)
第 70 条 4 項
(追加)
議会多数連立会派を会派が離脱する要件を明記。当該
会派の議員総数の 3 分の 2 以上の賛成が必要 〇
第 72 条 1 項 第 72 条 2 項 第 72 条 3 項は,議会議員の兼職禁止に該当しない場合
を規定する旨を明記 〇
第 72 条 3 項
(追加)
首相または第一副首相は議会議員の地位を維持してい
ることを明記 〇 △
第 73 条 第 74 条 4 項 1 号 第 64 条 3 項 1 号に対応する改正,裁判官解任理由を憲
法が規定することを明記(参照,第 95 条 2 項) 〇 第 74 条 4 項 8 号 第 64 条 4 項 1 号に対応する改正 〇
第 75 条 3 項
(追加)
議会多数連立会派の解消の場合に,議員定数の過半数
で議会議長の権限の確認の必要を規定 △
第 81 条 2 項
予算および租税についての法律に関して,首相の提起 がある場合に大統領の拒否権を認容(議会に対する首 相の地位の強化)
〇
行政権(政府)
第 85 条 7 項 議会多数連立会派の解消は政府総辞職を伴うことを明 記
第 86 条 1 項
首相が政府信任決議を一年以内に議会に提起できる回 数を 1 回から 2 回に(政府信任決議が大統領による議会 解散事由であることからすると首相の議会に対する地 位を強化)
△
第 87 条 1 項
第 87 条 5 項
首相提案の大臣解任の大統領令を大統領が所定の期間 に発布しない場合,首相は,議会多数会派の指導者と の協議で当該大臣を自己の決定で解任(大統領に対す る首相の地位の強化)。大臣の辞職または解任の場合,
首相提案の当該大臣候補者を議会が承認すれば,所定 の期間に大統領が大統領令を発布しなくとも,当該大 臣候補者を任命されたものとみなす(大統領に対する 首相の地位の強化)
〇
第 89 条 9 項
(削除)
「地方議会の提案による」という文言を削除し,地方の 国家行政機関の長の首相の任命権を強化(地方議会に 対する首相の地位の強化)
〇 〇
司法権(裁判所)
第 93 条 2 項
―4 項 第 94 条 8 項 第 94 条 7 項
第 94 条 9 項
裁判官の地位を定める憲法的法律は,裁判官候補者へ の要件の追加のだけでなく,制約の追加を規定できる ことを明記
〇
第 95 条 2 項から 6 項
裁判官としての職務怠慢または非行
(27)があった場合に 裁判会議付置懲戒委員会の提案で解任する(2 項)。手 続ついては,参照,第 64 条 3 項 2 号および 4 号。また,
参照,第 74 条 4 項 1 号。職務怠慢または非行を理由と しない解任(3 項),刑事事件または行政事件の当事者 であることを理由とする一時離職(4 項),憲法的法律 による地方裁判所裁判官の選抜手続(5 項),大統領に よる地方裁判所裁判官の転任(6 項)
〇
第 95 条 9 項
裁判官付置懲戒委員会の委員は,大統領,議会および 裁判官会議が 3 分の 1 を任命。委員数,委員要件その他 の問題は法律で定める。
〇
第 96 条 2 項
最高裁判所総会は,すべての裁判所および裁判官を拘 束する裁判実務の説明を採択(ソ連の時代の「指導的
説明」に相当) 〇 〇
*第 97 条 5,
8―11 項
第 97 条 削除 第 101 条 第 112 条 2 項,3 項 他の国家機関
第 104 条 1 項
法律の執行の正確と画一についての検察による監督は,
行政機関と地方自治機関だけでなく憲法的法律が規定 する他の国家機関に及ぶことを明記(司法権,立法権 へ拡大?)
〇
憲法改正
第 114 条 3 項
*ただし,この項は 3 項で,2 項に最高裁判所のすべての裁判所および裁判官に対する監督権限を規定
法が存在し,一定の機能を果たしている。そ れは,何であるのか,自由民主主義レジーム におけるそれとは全く異なるのか,共通性が あるとすれば,それは何で,何が決定的に異 なるのか。それは,キルギスの社会にどのよ うに規定され,指導者の選択の結果にどのよ うに影響を受けるのか,制度はこれまでの社 会関係にどのような影響を与えるのか,この ような視点から検討すべき課題も多い (28) 。 要するに,非自由民主主義レジームにおける 憲法とは何かを考える必要がある。
注
⑴ キルギス共和国の領土は,19 世紀半ばにロシ ア帝国に併合されるまでコーカンド汗国に属して いた。ロシア革命後はトルキスタン自治共和国の 一部となり,1924 年にロシア社会主義連邦共和 国の自治州となった。1936 年憲法の制定ととも に連邦構成共和国に「昇格」した。それは,キル ギスが基幹民族とみなされるようになったことを 意味した。ソ連においては,連邦構成共和国に名 を冠する基幹民族と,自治共和国,自治州または 自治管区に名を冠するそれ以外の民族とが区別さ れていた。
⑵ 樹神成「中央アジア諸国比較憲法序説」(
『法政
論集』第 272 号,2017 年,241 ― 264 頁)は,こう した関心から,ソ連および東欧の脱社会主義化の 帰結のなかにキルギス憲法を位置づけ,その動態 を整理しようとしたものである。⑶ 例えば,宇山智彦「政治制度と政治体制:大統 領制と権威主義」岩崎一郎・宇山智彦・小松久男
『現代中央アジア論』
日本評論社,2004 年。ただし,論文自体は,中央アジア諸国の権威主義体制を検 討したもので,制度論とどまるものではない。
「政
治制度比較」の素材として憲法が扱われている。⑷ 例えば,樹神成「中央アジア編 統治機構」稲 正樹・孝忠延夫・國分典子編著『アジアの憲法入 門』日本評論社,2010 年。この論文は,脱社会 主義をめざして制定された各国の新憲法における
「大統領 ― 政府 ― 議会」の関係,その意味での制
度を比較し,中央アジア諸国の特徴を分析しよう としている。⑸ 樹神成,前掲論文,2017 年は,
「憲法から見た
体制転換の帰結の多様性」で第一の脱社会主義化 国間の比較について,「キルギス憲法の動態と動
因」で第二のある国の憲法の制度間比較について 検討している。⑹ この表における「類型」は,フリーダムハウスの Nations in Transit の分類による政治レジームを 示す。CD(Consolidated Democracy)は民主主義,
SCD(Semi-consolidated Democracy)は半民主主 義,HR(Hybrid regime)は異種混合レジーム,
SCA(Semi-consolidated authoritarian regime)
は 半 権 威 主 義,CA(Consolidated Authoritarian regime)は権威主義を表す。ただし,この小論で 利用したのは 2016 年版での評価である。2017 年版 は,2016 年のキルギスの憲法改正は大統領が属す る社会民主党の権力維持を目的としたと強く批判 し,キルギスは権威主義に分類されている。そう であったとしても,キルギスが,半権威主義と権 威主義のあいだで揺れていること自体に注目すべ きである。2010 年憲法制定以降に限定すると2013 年版から2016 年版で半権威主義という評価だった。
⑺ 1998 年部分改正では,所有権の規定や議会の 各院の定数の見直しが行われた。2003 年全文改 正は,議会を二院制から一院制に変更したという 点で興味深い。しかし,
「大統領 ― 政府 ― 議会」
との関係には大きな変化はない。ただし,一院制 から二院制,そして二院制から一院制への変更は,
キルギスにおける議会と選挙制度の分析が重要で あることを示している。
⑻ キルギス憲法が 1996 年部分改正で 1993 年ロシ ア憲法に類似するものとなったことは,1993 年 ロシア憲法の性格の理解にも関係する。それは,
フランス第 5 共和制憲法とロシア 1993 年憲法との 比較に重要な視点を提供する。1993 年ロシア憲 法は,首相任命への議会の同意権または議会の政 府不信任制度を規定するものの,大統領提案の首 相候補者への同意拒否または政府不信任の再議を 理由とする大統領の議会解散権も定めており,そ