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英語複合語新造に関する 制約について*

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熊本大学教養部紀要外国語・外国文学編第31号:19-35(1996) 19

英語複合語新造に関する 制約について*

松瀬憲司

1.はじめに

我々の持つ語彙目録(Lexicon)は新語の登録と廃語(Obsolete)の抹消によって常に新陳代謝を 行っている。これを、Hofmann(1993,p、24)は,'inaconstantstateofflux',と述べ、Aitchison (19942,p、167)は,,anactivesysteminwhichnewlinksareperpetuallybeingformed,'と記述し ている。しかし、その新語の生成は無制限に行われるのではない。それはある一定のルール(Aronoff

(1976),Quirketcz/、(1985),Finegan&Besnir(1989),Akmajiane'α/、(19903),Matthews

(19912),Katamba(1993)等を参照)に従って行われ、次いで、そのルールの適用もまた様々な レベルで制約を受けることになる。Quirke/α/、(”・Cit.,p、1531)は、それらの制約をまず社会言 語学的な制約と言語学的な制約とに二分し、更に後者を音韻的(Phonological)、統合的

(Syntagmatic)、語用論的(Pragmatic)制約に分けている。このようないくつものフィルターを 通していわゆる「新語」がつくられ、そして世間一般に受け入れられるのである。

次に、新語の「受け入れられ方」には二通りある。その後も辞書等に記載され半永久的に残り続 ける「制度化(Institutionalization)」を起こす場合と、ある一時期だけ使用されて姿を消していく 場合である。「流行語(Vogue-Word)」と呼ばれるものや「俗語(Slang)」の大部分は後者に属す

ることになる。更に、後者の場合、その語が使用される時間の幅に関して言えば、ある会話時にお いてのみ使用され、他の場合には現れ得ない非常に短命な語もある。これは「臨時語(NonceWord)」

と呼ばれるアド・ホックな新造語である(もちろん、その語が繰り返し使用され、他の機会にも現 れることで語彙目録に定着していくことは稀ではない)。’)

さて、そのような新語をつくるための語形成(WordFormation)だが、QuirkeM/、(0P、Cit.,

pl520)は次の四種の主要なタイプがあるとする。①接頭辞付加(Prefixation)、②接尾辞付加

(Suffixation)、③転換(Conversion)、④複合(Compounding)である。2)ただし、前二者は「接 辞付加(Affixation)」のサブタイプとも捉えられる。

小論では、④の語形成のタイプである「複合」を取り上げ、英語の母語話者でない者が既成の英 単語から全く新しい複合語(特に「複合名詞(NounCompounds)」)を「臨時語的に」または「in‐

novativeに」生成する際及び、そのような新複合語を解釈する際の心理過程を分析し、それらに関 わる制約を明らかにすることを試みる。

この心理過程には二つの着目点がある。第一の点は、新語の形態に関する「統合的」側面、つま り、新語を構成する要素の配列のさせ方.捉え方である。そして第二の点は、その新語の「意味的」

側面であり、その新語の意味をどのように規定するかである。これらの点を視点に据え、具体的な 資料を検討してみることにする。おそらくそこでは、「外国語/第二言語」としての英語と「母語」

としての曰本語との間の形態的・意味的・文化的要素の混交が現れるはずである。小論の目的は、

どの部分で混交が生じ、また、どの部分ではそれが生じないかを明らかにし、そのことが新複合語

(2)

20 松瀬憲司

の創造及び解釈の際に制約としてどのように機能しているかを探ることである。

小論の構成は次の通りである。分析対象の資料は学生に提出してもらっているので、次節では、

学生に予めこちらから提供しておいた「複合」という語形成の概略を述べ(つまり、教授された情 報の理解度によって新語創造の操作に差異が生じてくるのである)、3節では、学生に与えた新語創 造及び解釈のための材料について説明する。続く4節で資料の提示と具体的分析を行い、最後の5 節でまとめを行うことにする。

2.複合名詞の分類

複合語とは語幹(Stem)3)が二つ(以上)組み合わされることによってできる語であると定義され る。本節ではその複合語の分類法をいくつか挙げ、新複合名詞生成のための原則を捉える。

2.1.伝統的分類法

まず、複合語の意味が主要語(Head)の一部である「内心(Endocenric)複合語」とその意味が 主要語の一部ではない「外心(Exocentric)複合語」、そして、要素を重複させてつくる「重複

(Reduplicative)複合語」に分かれる。

内心複合語は更に、「限定(Determinative)複合語」、「連結(Copulative)複合語」(下例 (1))、「同格(Appositional)複合語」(下例(2))に類別され、限定複合語には「末尾限定(Final Determinative)複合語」(下例(3a))と「頭部限定(InitialDeterminative)複合語」(下例(3b))

がある(引用例は主に大塚・中島(1982)による)。

(1)

(2)

(3)

Austria-Hungary(オーストリア・ハンガリー),fighter-bomber(戦闘爆撃機)

man-servant(下男),courtyard(中庭)

a・bookcase(本箱),craftsman(職人),waste(-paper)-basket((紙)屑篭)

b・McDonald(マクドナルド),cauliflower(カリフラワー),wayout(出口)

(2)のcourtyardは特に「類語反復的(Tautological)複合語」とされる。また、(3a)のcraftsman は「属格(Genitive)複合語」と、waste-basketは「略語(Clipped)複合語」とに下位範囑化され る。(3b)は「倒置(Inversion)複合語」とも呼ばれるが、4)これは、外来語系の複合語に多くみられ

(McDonaldはケルト語系、cauliflowerはフランス語系)、wayoutのような本来語には少ないこ とから命名されたことを意味する。すなわち、英語では末尾限定の複合語が無標であり、頭部限定 の複合語は有標であるから、「倒置」と捉えられるのである。更に、このことは、大石(1988,pp l6-17)が引用するAllen(1978)の内心複合語に関する「ISA条件」(X-Yからなる複合語Zにお いて、「ZはYである」(Z"ISA,,Y)ということが当てはまる)につながる。5)従って、以下の(4)

にあるように、この条件は、意味的にみて、ZはYの下位集合をなすことを予測している(複合名 詞なので、品詞を予測することは言うまでもない)。

(4) abookcaselSAcase acraftsmanlSAman awaste-basketISAbasket

(3)

英語複合語新造に関する制約について 21

しかし、(3b)は(4)のISA条件では説明されない。(3b)では、いわゆる主要語が左側にあるからで ある(ZはXの下位集合をなしているのである)。このように、内心複合語内でも(3b)は例外的なも のと言える。6)

次に、外心複合語だが、これはその構成要素によって「動詞の命令形十名詞/副詞」型(下例(5 a))と「名詞/形容詞十名詞」型(下例(5b))に分けられる。7)

(5)a・cut-throat(殺し屋),runaway(逃亡者),fall-out(死の灰)

bpaperback(ペーパーバック版),bluebell(つりがねそう)

(5a)は語彙化によるものと考えられ(大石(⑰.c".,p、94))、(5b)はサンスクリット文法で言うと ころの「記述/所有複合語(Bahuvrihi)」と呼ばれるものである。8)

最後に重複複合語の例を(6)に挙げる。

(6)fifty-fifty(五分五分),tick-tack(コチコチ)

fifty-fiftyのような全く同じ要素の重複が見られる型とtick-tackのように母音交替(子音交替を持 つ型もある)が見られる型がある。

2.2.Quirketal.(1985)の分類法

次の(7)に述べられているように、複合語の中に「節構造(Clause-Structure)」を見るというの がこの分類法の基本的姿勢である。,)

(7) Althoughnotallcompoundsaredirectly,dirived,fromtheclause-structure functionsoftheitemsconcerned,weshaUadoptamodeofpresentationwhich

(wherepossible)linkscompoundstoasententialorclausalparaphrases.-pl570

以下、QuirkcM/、(0,.Cit.,pp、1570-1576)に従って、複合名詞の分類法をまとめてみることに する。なお、①用例、②曰本語訳、③深層の節構造、④表層に現れた節構造の要素の配列、の順に 呈示している。

(8)「主語・動詞」型(S=Subject,V=Verb)

(曰の出)

(懐中電灯)

(踊り子)

[S+V]

[V+S]

[-ingV+S]

Thesunrises Thelightflashes Thegirldances.

a・sunrlse

b・flashlight Cdancinggirl

(8a)と(8c)の型は「生産'性(Productivity)」が高いが、(8b)の型はそれほどでもない。

(9)「動詞・目的語」型(O=Object)

(血液検査)

abloodtest Xtestsblood [O+V]

(4)

22 松瀬憲司

[O+-ingV]

[O+-erAgent]

[V+O]

[-ingV+O]

(観光)

(納税者)

(吊り上げ橋)

(チューイングガム)

bsightseeing c,tax-payer ddrawbridge echewinggu、

Xseessights Xpaystax(es)

Xdrawsthebridge Xchewsgum.

(9b),(9c),(9e)の型が非常に生産性が高く、(9a)の型の生産性は中程度である。

(10)「動詞・副詞」型(Adv=Adverb)

[-ingV+Adv]

[Adv+‐ingV]

[Adv+‐erAgent]

[Adv+V]

[V+Adv]

(水泳プール)

(白昼夢を見ること)

(ベビーシッター)

(家でする仕事)

(サーチライト)

aswimmingpool bdaydreaming c・babysitter dhomework esearchlight

XswimsinthepooL Xdreamsintheday・

Xsitswiththebaby Xworksathome,

Xsearcheswithalight.

生産性が高いのは(lOa)の型である。それに対して、(10b),(10c),(10.)の型の生産性は中程度の 高さである。また、(10e)の型はアメリカ英語で好まれる型である。(10)の型のそれぞれが「場所・

道具・時間」等の副詞関係を含有している。

(11)「動詞欠如」型(N=Noun)

[N,+N2]

[N,+N2]

(風車)

(人喰い鮫)

N,powers/operatesN2 N2isN,

awindmill bkillershark

(11a)の型は表層に主語と他動詞の目的語を構成要素として持ち(すなわち、深層の節構造では、語 彙動詞を持つ)、(1lb)の型は表層に主語と主格補語または「be動詞十前置詞」の目的語を持ってい る(深層にはbe動詞がある)。目的語を伴う型で(11a)以外の節構造のタイプとしては、toyfactory

(おもちゃ工場),N2producesNl,やdoorknob(ドアの取っ手),N1hasN2,等がある。また、主 格補語や「be動詞十前置詞」の目的語を伴う型で(1lb)以外の節構造のタイプとしては、非常に生産 性の高いcatfish(なまず),N2islikeNl,や「目的」を表すashtray(灰皿),N2isforNl,等があ

る。

2.3.主要複合語と総合的複合寵(大石(1988)の解脱)

2.2.節で見てきた複合名詞は全て表層の要素の配列からその解釈が予測されるものであった

(Clark(1993,p、115)では、これを「意味の透明`性(TransparencyofMeaning)」と呼んでい る)。そして、その解釈には深層での節構造が大きな役割を果たしていた。しかし、複合語には、長 い時間を経たために変質が起こり、一見しただけでは複合語とは認識できないもの(既往複合語:

註4)参照)や、その要素のみで直接その意味を理解することが難しいもの(記述/所有複合語:

2.1.節参照)が存在する。これを「語彙的(Lexicalized)複合語」と呼ぶ。すなわち、これらは「語 彙化(Lexicalizaion)」を起こしているのである。これに対して、表層の要素のみからその意味を判 断できる複合語を「非語彙的(Non-Lexicalized)複合語」と呼ぶ(p、84)。更に、後者は複合語の主

(5)

英語複合語新造に関する制約について 23

要部が動詞から派生したものではない「主要(Primary)複合語」と主要部が動詞から派生した「総 合的(Synthetic)複合語」とに分けられる。たとえば、次の(12a)は主要複合語であり、(13a)は総 合的複合語であるとされる(pp88-89)。

(トラックを「運転する、修理する、売る、買う、…」人)

(X=drive,repair,sell,buy,etc.)

(トラック運転手)

(12) atruck-man

hAmanXesatruck,

atruck-driver bXdrivesatruck (13)

(12)及び(13)より、次のことが分かる。複合名詞においては、結合する名詞に見られる「(顕在的)

動詞性」の有無により、その複合語が言及する対象の幅/意味の範囲が左右されることになる。逆 に言えば、動詞性が(はっきりし)ない名詞の結合によってつくられる複合語は、その指示対象/

意味の領域が広がり、いくつもの解釈が可能になる。'0)従って、今回のような新語創造のためにあら かじめ単語を用意しておく場合には、選択枝の中に動詞由来の名詞もしくは動詞そのものが存在す ることで、指示対象が明確な(すなわち、意味が「透明な」)複合語をつくり易くなると言える(し かし、逆に、自由な連想による名詞の結合をある程度阻むとも言える)。

3.新語創造に使う単語について

今回、学生達に指定した新語創造のための材料となる単語については、AkmajianetczL(⑰.cノノ.,

p47)の練習問題を利用した。それらは以下の(14)の通りである。

(14)sidewalk(歩道),daughter(娘),laugh(笑う/笑い),cactus(サボテン),

alligator(ワニ)

この(14)を-つの集団に対して用い、それに多少単語を入れ換えた以下の(15)をもう一つ別の集団 に対して用いてみた。

(15)cactus,dance,daughter,generationsidewalk,terminator,water

(14)と(15)の材料及び提示の仕方を比較すると次の様な差異が認められる。まず、(15)の方が単語 数が多い分だけ複合語のバリエーションが増える可能性がある。更に、「顕在的動詞,性」を備えた名 詞もしくは「動詞そのもの」としては、それぞれ、laughとdanceを指定しているが、(15)の方にの み、より動詞性を読みとり易い単語、すなわちgeneration(<togenerate)とterminator(<to terminate)を混入させてある((14)の方にはそれがない)。’1)

Akmajianc/α/、が何故(14)の5つの単語を選択したのかは詳らかでないが(おそらく、既成の複 合語の組み合わせが思い浮かびにくい、従って、新しい組み合わせを創り出さざるを得ない単語を 選択したのであろう)、(15)での単語の入れ替えについてはいくつか理由がある。まず、(14)には、

cactusとalligatorという「アメリカ的」文化背景が強く現れるものが二つもあるので、それを-つ 減らしてみた。更に、(15)では「動詞'性」を受け取り易い単語を入れることによって、どの程度明

(6)

24 松瀬憲司

確ないわゆる「総合的複合語」がつくり出されるかを見ようとした。また、新語をつくることと平 行して、新語の解釈もさせる目的があったために単語の入れ替えが必要になったのである。これは、

Nishikawa(1988,p5)に言及されている、実際に『タイムズ』紙で使われた新複合語water generationを、(15)を利用してできる複合語の一つとして提示したかったという事情による。ま た、terminatorについては、映画『ターミネイター』との連想がどの程度なされるかという視点が あった。すなわち、特殊な背景的知識が複合語形成においてどの程度影響を与えるかという視点で ある。

4.結果と分析

前節で呈示した(14)と(15)の材料をもとに学生達は新複合語の創造及び解釈にチャレンジするこ とになる。新複合語創造の際には、特に条件は付加せず、「指定された単語を利用して複合語を五つ 創りなさい」という問題文のみにした。そして、次の新複合語解釈において、(14)の単語群からは、

sidewalkalligatorcactusを、’2)(15)からは、watergenerationとterminatorcactusを出題し た。参考までに述べておくと、対象の学生達は、(14)の問題が、文系学部・理系学部及び男女混合 の-年次生であり(集団A)、(15)の問題の方は、文学部英文科三年次の女性である(集団B)。ど ちらの集団に対しても、あらかじめ、2節で述べた語形成の概略を示してある。しかし、その理解 度は学生によって様々であり、また、教官側の指導の不手際があるので、語形成の規則を無視した 新複合語を答えた学生も少なくない。よって、それらは全体の統計から除外した。’3)

(16)

】L

S=Sidewalk,D=Daughter,L=Laugh,C=Cactus,A=Alligator.

(17) 1J

1J「]

C=Cactus,D、=Dance,Du=Daughter,G=Generation,S=Sidewalk,T=TerminatorW=Water.

(7)

英語複合語新造に関する制約について 25

上記(16),(17)において、横の列の単語が複合語の第二要素(すなわち、主要語)であり、縦の列 の単語がその第一要素である。また、表中の括弧内には、当該の複合語の組み合わせの中で、第一 要素を何らかの形で語形変化させているもの(後述する)の数値を表している。(17)の表に見られ る二個の*印は新語解釈の方の問題としてこれらの複合語を利用したことを示しており、学生はこ の二つ以外の新語をつくらなければならなかった。

4.1.新複合語創造

まず、新語創造の問題から分析する。集団A・Bの双方において標本数が多かった組み合わせを 五位まで挙げるとすると、次の(18)、(19)になる。なお、それぞれの複合語の意味として学生自ら が解説したもののなかでプロトティピカルなものをQuirke/czJ.式の節構造で付記しておく。

(18) acactusdaughter b・alligatordaughter claugh(ing)daughter dsidewalkdaughter e・alligatorsidewalk

acactuswater

bwaterdance c、dancegeneration dsidewalkdance

e・dance/dancingdaughter

Thedaughterislikeacactus・

Thedaughterislikeanalligator・

Thedaughterlaughs・

Thedaughterisonthesidewalk,

Thesidewalkhas/islike/isforanalligator、

Thewaterisinacactus・

Xdancesinthewater・

Xinthegenerationdances./likestodance

Xdancesonthesidewalk

Thedaughterdances./isdancing.

(19)

更に、僅かの差で六位になった複合語が、それぞれの集団で二つずつあるので、それも同じ要領で (20)~(22)に挙げておく。

(20)

(21)

(22)

Thesidewalkhas/islike(a)cactus(es)

Thealligatorlaughs・

Thecactusisinthewater・

Thedaughterislikeacactus.

cactussidewalk

alligatorlaugh

watercactus

(cactusdaughter =(18a))

ちなみに、手元にある大きめの辞書で、neRα"血沈H、`seDjc伽"α'@yq/〃Dog/杣Lα'zgzJcZgc

(19872)やリノリノ126s陀穴Mz(ノWMヒノD九ノヵ"αソey,Tノノ〃COノノ29CEZノブ肋〃(19883)には、上記の単語 は記載されていない。また、これらの新複合語の中には、英語話者にとっては全く理解されないも のや理解の仕方に差が生じるものあると思われる。このことに関しては後で触れることにする。

さて、それぞれの結果を一言で特徴付けるとすれば、(18)の方は、一位から四位までの主要語で のdaughterの圧倒的多用(全ての組み合わせ)であり、(19)の方は、第一要素・第二要素ともに dance(またはその屈折形)が多用されているところである。

まず、新語の形態に関する統合的側面に関しては、この二語複合語では全般的に「右主要部の原 則」は守られており、第一要素を主要語とした例は少なかったことを報告しておく(三語複合語に 関しては後述する)。次に、深層の節構造としては((18)~(22)の右側のパラフレーズを参照)、動 詞要素を含む総合的複合語の場合、「主語(S)+動詞(V)」((18c)や(19e))、「V+副詞句(Adv)」

(8)

26 松瀬憲司

((l9b))等があり、その表層での実現形は「V+S」及び「Adv+V」となる。また、動詞要素を 含まない主要複合語の場合、その深層の節構造は「S+補語(C)」((18a)や(20))または「S+Adv」

((18.),(19a),(22))であり、その表層形は「C+S]及び「Adv+S」である。ここで注目さ れるのは、「目的語(O)」を有する新複合語が上位にみられなかったことであるが、これは、それ ぞれの集団においてそのままで動詞と捉えられるlaughとdanceの他動詞用法が気づかれ難かっ たためであると思われる。これらの動詞は補語及び前置詞句を伴い、「Oを笑って~(の状態)にす る」、「踊ってOを〔~に〕する」という結果相(Resultative)を実現する。しかし、我々曰本人に とっては、「笑う」や「踊る」との関連から、’4)laughとdanceに対して自動詞用法の意識が強く存 在しているので、そこに他動詞用法を読み込むことはなかなか難しい。従って、日本人でも他動性 が強く感じられる単語を混入させておいたならば、「O+V」型の複合語もつくり易かったかも知れ ない。’5)

次に、意味的側面の吟味に移る。まず、(18)のdaughterの多用について検討する。呈示された五 つの単語の中で、直観的にみて、最も身近でシンプルなイメージを持つ語(他の語との組み合わせ においてという意味で)を挙げるとすれば、それはdaughter(名詞)とlaugh(名詞/動詞)にな ろう(sidewalkはそもそも複合語である点において、既に「形態の簡素性(SimplicityofForm)」

(Clark(0,.Cit.,pl20))を欠いている)。しかし、laughは、動詞と捉えた場合、それを主要語と して働かせるためには、第一要素の限定語が(まず思い浮かぶのは)、意味素性として+animate/+

animalを持たなわればならない。従って、第一要素の候補になるものとしては、daughter(かaUiga・

tor[「ワニが笑う」という比噛を認めるか否かが問題となろう])しかない。また、名詞のlaughの

場合でも、それが動詞派生であることには変わりないので、共起制限は動詞の場合と同じになる。

それに対して、daughterの場合、他の四つの単語との共起制限はそれほど明確な形では現れてこな い。むしろ、他の単語とは「ルースな感じでつなげられそうな」印象を与える。すなわち、laughと の関わりにおいては、+humanの素性を持つdaughterとの組み合わせは、何の問題も生じないし、

他の三つの名詞との関わりでは、メタファー的/シミリー的意味関係を容易に想起できる。このよ うに、今回の複合語創造におけるdaughterの多用は語の連結に関する「有標性(Markedness)」の 程度が関係しているものと思われる。

更に、このdaughterの無標性は日本語話者において顕著になる。次のjVbz(ノS/bogzzノセ"んα〃Ra"血沈 HMeE"g/応ノMZPcz"cscDic姉"α'9)ノ(19942,s.v・血z4gノi〃)(下例(23))と『講談社曰本語大辞典」

(1989,s.v、むすめ[娘・女・嬢])(下例(24))を参照されたい。

(23)1 (1)娘(→Son)、義理の娘、嫁、養女、まま娘、

(2)《古》《呼びかけ》娘さん 女の子孫

(親子のように)深く結ばれた女'性、娘に比すべき者、

(特に国・組織などに属する)女性、婦人

《比噛的》(事件などが)生みだしたもの、所産、賜物

(主に純血種の動物の)雌

[化学][物理]ドーター、娘の核種、別の同位元素の崩壊によって生じる同位元素

《古》乙女

(theDaughtersof…で)(愛国)婦人会 その家の女の子(daughter)、対義語:息子

23456781

(24)

(9)

英語複合語新造に関する制約について 27

2未婚の女性、おとめ(girl)

(23)のソースであるT/beRa"ぬmHbzlseDMo"αソC)ノcWノノcE昭/杣Lα'ZgZ‘CZgU(19872)は、lか ら4及び6の語義にしか言及していない。これらから分かることは、現代英語では、daughterには 必ずその元になるもの(親・母体となる出来事等)との「関連(relashionship)」が意味として必要 になることである。すなわち、単に+femaleや+youngという素性だけでは規定できないのであ る。’6)ところが、曰本語の場合、(24)に見られるように「関連」という意味素'性は随意的として処理 される。このことは、(24)の2の語義に,,girl,'という英訳が施してあることからも分かる。従って、

曰本語では、「むすめ」という語に血縁関係的意味は義務的に存在するわけではない(興味深いこと に、「むすこ」の場合には、義務的であるように思える)。

では、これらのことがどのように今回の新複合語創造に関与しているのであろうか。曰本語話者 が五つの単語からdaughterを選び易い状況は他の単語との相対的無標性によるものであろうが、

その無標性の「内容」が英語話者が持つであろうものとは異なっていると推測されるのである。英 語話者の場合、「血縁関係を表す語の一つ」という点(または、それが持つ+relationship,+human,

等の意味素性という点)において、他の四つの単語よりも相対的に無標であると捉えられる可能性 があるのに対し、曰本語話者はdaughterの意味の中に「血縁関係」を突き通した無標性、すなわ ち、単なる+human,+female,+youngという意味素`性の集まりのみを捉えてしまう傾向にある。

もちろん、これは母語である日本語の干渉によるものである。daughterイコール「むすめ」という

-対一対応は、この新複合語形成の場合、-relashionshipのオプションを選択し易かったのである

(それだけ、無標性が高まるからである)。従って、今回のdaughterの多用は現代英語のdaughter の語義故に多用されたわけではなく、daughterの曰本語訳である「むすめ」が持つ,,girl,young woman,'という意味の無標性に原因があったようだ。これをClark&Clark(1977,p、492)流にあ る種の「過剰拡張(Over-Extension)」と呼ぶことも可能かも知れない。なぜなら、daughterとい う語の意味の最も本質的な部分である「血縁関係」の意味素性を、日本語の「むすめ」にも同様の 意味があるにも拘らず、選択しないで+youngや+femaleといった意味素'性のみを選択し、一般化

しているからである。

一方、(19)でのdanceの多用については次のことが言える。danceと共起可能な+animateの意 味素性を持つ可能性のある単語としては、daughterとterminatorしかないが、「場所」すなわち、+

locativeを表すwater、sidewalk、(generation)があるためにdanceとの組み合わせの範囲が広げ られたのである。一般に、動詞要素のない複合語よりも、それを要素として持つ複合語の方が生成・

解釈のためのストレスが少ないのは、このように深層での節構造において、動詞は中心的役割を果 たし、他の文要素との「組み合わせの自由度(DegreeofCombinatorialFreedom)」が高いこと による。また、有標性の程度の点から言えば、terminatorが最も有標であり、次に、cactus、gen‐

eration、sidewalkが位置し、dance、daughter、waterが最も無標ということになろう。有標性に 関しては、danceもdaughterも大差はないように思えるが、なぜ、(18)ではdaughterが多用さ れ、(19)ではdanceが多用されたのであろうか。その理由は上記の動詞要素の組み合わせの自由度 にあると思われる。laughとdanceのそれぞれの単語群における組み合わせ自由度に関しては、圧倒 的にdanceの方が高いと言える。とすれば、(18)において、相対的に組み合わせ自由度の低いlaugh よりも、日本語の「むすめ」からの連想の干渉も含めて(この点が、今回の場合、クルーシャルな のだが)、daughterが多く採用されたことは考えられることである。では、逆に、なぜ(19)ではその ような曰本語からの干渉をも抑えて、danceが採用されたのかと言うと、これも偏にdanceの組み

(10)

松瀬憲司 28

合わせ自由度の高さによるとしか言いようがない。従って、次のような複合語創造の際の制約がた てられるのではないだろうか。

動詞要素の組み合わせ自由度に関する制約:

動詞要素を探して他の要素との組み合わせ自由度を検討し、それが高ければ、そこで複合 が行われる。

(25)

(26) 動詞以外の要素の有標性に関する制約:

当該の動詞要素の組み合わせ自由度が低いと判断された場合や動詞要素そのものがない場 合は相対的に無標な要素を利用した複合も同様に行われる。

制約の適用の順序については、(25)がキャンセルされた場合にのみ(26)が適用されると考えられる。

すなわち、(25)の制約の方が(26)よりも先に適用されるということになる。

さて、ここで、これらの新複合語に対する英語話者の判断について触れておこうと思う。インフ ォーマント(アメリカ人)に(18)及び(19)の複合語について次の3段階で評価してもらった。一読 してよく理解できる語に対しては3ポイントを、想像力を働かせれば理解できる語に対しては2ポ イントを、そして全く理解できない語に対しては1ポイントを与えることにした。その結果、(18)

では、(18c)のlaughingdaughter(ただし、laughdaughterはおかしいと指摘された。同じく(l9 e)では、dancedaughterは不可)のみが3ポイントで、残りは全て2ポイントであった。他方、(19)

は全てが3ポイントの評価だった。

以上の結果から分かることがいくつかある。まず、3ポイントの語は(19a)のcactuswaterを除 いて全て動詞要素を当該の語中に含んでいることである。これは動詞要素を含む総合的複合語の持 つ「意味の透明`性」が関与しているものと思われる。では、(19a)の動詞要素を持たない主要複合語 にも3ポイント与えられているのはなぜか。ここで考えられるのは、「サボテン」と「水」の間の「意 味的関連性(SemanticRelevance)」の高さである。「サボテン」・「砂漠」・「水」といった、連想を 介した意味的に非常に結びつき易い状況が形成されていることが原因と考えられる。従って、次の 制約もまた必要になってくる。

(27)意味的関連性に関する制約:

意味的関連性の高い要素同士の複合がそうでないものよりも先に行われる。

(19a)のcactuswaterが1位を占めていることからも、この制約は上記の制約(25)や(26)よりも適 用の順序が先である、最も一般的な制約であると予測される。

次に、特に(19)において、動詞要素が第一要素に来るときは屈折形が義務的な場合((l9e))とそ うでない場合((19c))があるということである。これは(19e)が「V+S」の構造を持っているの に対して、(19c)は「V+(S)Adv」という構造になっていることが影響していると考えられる。’7)

更に、今回の新複合語の生成・解釈の問題で際だった点は先に触れたdaughterの捉え方であっ た。特に、(l8a),(18b)の解釈として、インフォーマントは「サボテンを特に取り扱っている農家 の娘」・「ワニを飼っている/訓練している家庭の娘」というように、「血縁関係」を背景にした解釈 をしたのに対して、学生たちの多くは「サボテンのように刺々しい女の子」や「ワニのように恐ろ しい女の子」という「むすめ=girl」の意味で新複合語をつくっていたのである。もう一つ興味深い

(11)

英語複合語新造に関する制約について 29

ことに、インフォーマントは(l8a),(l8b)に関して、まず「小さいサボテン(大きいものがその親 であるような)」、「小さい(娘のような)ワニ」という左主要部の解釈を示した。おそらく、これ は、上記の解釈の方がストレスがかかることを意味しているためと思われる。従って、このことは、

ストレスの大きい解釈よりも、右主要部の規則を変更する方が容易である可能性を示唆している。

また、cactusやalligatorといったアメリカ的なものの持つイメージとしては、「暑い」・「乾燥」・

「砂漠」・「南部」・「皮」等が、まず思い浮かび、「刺がある」や「危険」といったイメージは二次的 なものであることの指摘も受けた。本来的にそれらのものが「自生」している文化とそれらを人工 的に移植・移入した文化とではその受け取り方に差があるのは当然かも知れない。もちろん、たと え移入されたものであっても、実生活への定着度・親密度が高ければ高いほど本国でそれらが持つ イメージと大差なくなるというのもまた事実であろう。

4.2.新複合語の解釈

新複合語の解釈問題として出題した単語を次の(28)としてもう一度呈示しておく。

(28) asidewalkalligatorcactus b・watergeneration

cterminatorcactus

(28a)に関しては、三語複合語の問題として後で取り上げることにし、(28b)(28c)から先に考えてみ たい。まず、それぞれの深層の節構造だが、次の(29)のようになろう。ただし、(29a)は実際に使用 された解釈であるのに対し、(29b)は筆者があらかじめ想定していたものであることを付け加えて おく。

(29)a・Xinthegenerationdrinkswater(ratherthanalcoholicdrinksj

bThecactusfunctionsasaterminator.

(28b)のような複合語には、それが使用される「文脈(Context)」からの`情報が不可欠であり、それ がなければ機能しないと同時に、逆に、そのような文脈が存在することで我々はその意味を「正確 に/意図された通りに」算定できるのである。このような語をClark&Clark(1979,p、782)は

「文脈依存語(Contextuals)」と呼び、文脈に依存しない固定された外延的意味を持つ語との区別 の基準として、①意味の数の多少、②文脈への依存の有無、そして③話者(筆者)と聴者(読者)

問の協調の有無を挙げている。従って、特に、②の文脈への依存を欠いた(28b)の解釈は当然多種

多様なものにならざるを得ない。更に、(28c)には、そのことに加えて、terminatorという非常に 有標な(もし出題者の意図通りに解釈しようとすれば、特別な背景知識を必要とする)単語が含ま れていることによって、(28b)以上に意味の算定が困難になると考えられる。では、以上のような点

を念頭において結果を見てみることにする。

まず、(28b)だが、generationを「発生」と捉えるか、「世代」と捉えるかで大きく二分された。

前者が9例、後者が12例という結果である。しかも、「発生」の意味で捉えた学生はほとんどそのま ま「水を発生させること」と解釈したのに対して、「世代」で解釈した学生達は実に様々な語釈をし ている。数例を次の(30)に挙げてみる。

(12)

30 松瀬憲司

(30) a・Xinthegenerationenjoysthebenefitsofwaterservice b・Xinthegenerationisascharacterlessassavorlesswater・

cXinthegenerationdrinkswatersoldatstores.

(30a)は上水道や下水道の完備した「便利な」都会生活を享受するという解釈である。この場合、

waterに、その設備を読み込むには相当のストレスがあったと思われる。むしろ、(30b),(30c)の 方が、少ないストレスで解釈できたのではないだろうか。なぜなら、(30a)では、「水」→「上下水 道」→「便利な」というように二つのレベル移動が必要になっている。これに対して、(30b)のシミ

リー的解釈では水の「味がない」性質の連想のみから「特徴に欠ける」という'性質が導き出されて いる。また、(30c)に至っては、水そのものへの言及であり、「商品としての水」というものが非常 に今曰的なものであることからすると、『六甲のおいしい水』等をすぐに想起できた人にとっては解 釈のストレスとしては最小ではなかったかと思われる。ただ、結果としては、(30b)のシミリー的解 釈をした学生が最も多く、次いで(30a)、そして(30c)は僅かに1名であった。ここには新しい文化 的要素の定着度の問題があると思われる。つまり、複合語解釈という行為の中でどのようにして語 と語との関係を把握するかということと現実世界の文化的環境との関わり方は必ずしも一致しない のではないかと思われる。ストレスの多い解釈であっても、より文化的習熟度・一般'性が高いもの の方が想起され易く、逆に、ストレスの少ない解釈であっても、あまり馴染みのないものは想起さ れ難いと考えられるのである。更に、watergenerationの本来の意味である(29b)に非常に近い(30 c)が、「特定の文脈の支持なしに」現れたことに関しては、上記の「文化的文脈」とでもいうものが 関与しているようだ。おそらく、このwatergenerationが『タイムズ』紙で使用された1985年当時 だったら、曰本人はこの単語を見て(30c)の解釈はできなかったであろう。その頃はまだ「ミネラル・

ウォーター」のブームは曰本に到来していなかったからである。こうして見てくると、文脈依存語 はその語が使用される前後の「直接的」文脈の影響化にあることは言うまでもないが、特定の文脈 に依存していなくても、より大きな意味での文脈、すなわち、話者・聴者の持つ時代背景や文化と いったものは、あらゆる語の解釈のための意味規定にとって重要な要因と言わなければならないよ うだ。

次に、(28c)のterminatorcactusの場合を見てみよう。筆者は「最終兵器として機能するサボテ ン」というSF的な/奇妙なイメージを想定していたのだが、これも(28b)のように、大体二つの解 釈に分かれた。次の(31)を参照されたい。

(31)aThecactusterminatestheland

b・Thecactusterminatestheworld/people/earth

(31a)は「仕切る.境界となる」という解釈であり、土地の境界線としてサボテンが植えられている イメージである(3例)。これに対して、(3lb)は「終わらせる」という筆者が意図した方の解釈で ある(5例)。また、後者の中で何人かは映画「ターミネイター』を背景的知識として持っていると 判断された。この場合も、先ほどの(30c)の解釈のように、特別な知識としてこの映画のことを持ち 合わせている人にとっては、(3lb)に到達するのはさほど困難な道のりではないのかも知れない。す なわち、解釈する人にとって(その人の個人的知識を利用して)最も連想が働き易い意味(意味的 関連性が高い意味)を最初に模索し、その次に、構成要素の吟味や有標性等を考慮した(かなりの ストレスを伴う)解釈へと移って行くと考えられるからである。

(13)

英語複合語新造に関する制約について 31

最後に、(28a)の三語複合語について簡単に述べる。前節で、二語複合語の創造の際には、基本的 に「右主要部の原則」が遵守されていたことを述べたが、三語複合語に関しては異なる結果が出て いる。新語創造の問題で三語複合語をつくった学生も少なくなかったが、右主要部の原則はかなり 守られていた。ところが、(28b)の新語解釈の問題では、「右主要部」での解釈が20例に対して、「左 主要部」の解釈が14例も出てきた。つまり、「~の歩道」と解釈した学生の数がかなりあったのであ る。そもそも、この(28a)を解釈させる問題の意図は次の(32)のような複合語の構造を考えさせるた めのものであった。

(32)a.[sidewalkalligator[cactus]]

b、[sidewalk[alligatorcactus]]

(28a)は(32)のいずれの構造を採ろうとも、何らかの「サボテン」に関する記述に変わりはないこと になる。ただ、この複合語を(32a)か(32b)のどちらに認知するかが焦点だったのである。そこで、

まず、当初の目的に従った分析から始めると、右主要部の解釈(「~サボテン」)において(32a)の構 造で解釈した例が6例に対し、(32b)の構造で解釈した例は14例という具合に、(32b)の解釈が好ま れることが判明した。更に、興味深いことに、左主要部の解釈を示した例においても、(32a)の構造 での解釈は僅か1例であるのに対して、(32b)の構造での解釈は13例を数えた。すなわち、このこと から分かるのは、sidewalkalligatorよりもalligatorcactusの方が認知し易い/解釈するのにスト レスがかからない、ということである。'8)では、なぜ左主要部の解釈があれほど現れたのか。一つに は、「ワニやサボテンが生息するような(危険な)歩道」という解釈がいくつか見られたことからも 分かるように、alligatorとcactusを別々に捉え、どちらも危険なものであるという意味においては つながりがあると考えて、alligatorcactusという複合語としてのステイタスは拒否したことが挙げ られるだろう。更には、たとえ複合語として解釈したとしても、saidewalkとalligatorcactusを比 較した場合、非常に有標性の高い後者が主要語となる解釈が困難であったことは想像できる。より 無標の語が主要語に位置する方が、心理的「安定感」があるからである。逆に、限定語の位置こそ が本来有標な語がたつ場所なのである。その有標'性によってAという語とBという語は区別される からである。これは、ある意味では自然な認知のプロセスであるが、今回のような複合語解釈の場 合には、「右主要部」という-大原則があるために、通常あえてこの認知方法に逆行するような解釈

を余儀なくされるのである。

いずれにせよ、以上の結果より、三語複合語に関しては、その創造よりも解釈により多くのスト レスが関与する可能性が高いということが言えるだろう。

5゜まとめ

Clark(1993)は、子供がどのようにして語彙目録を獲得していくかということに関して、いくつ かの原理・原則をたてているが、その中には先に触れた「意味の透明`性」や「形態の簡素`性」の他 に、接辞に関する「生産性」、ある意味に対しては、言語共同体で使用されることを話者が期待する ある特定の形式があるという「慣習性(Conventionality)」、そして、異なる語の使用は異なる意味 の印となるという「対照(Contrast)」等が含まれている。これらの原理・原則は我々のような外国 語として英語に接する者にとっても、ある程度当てはまると言える。今回のような複合語の創造.

(14)

32 松瀬憲司

解釈をする場合、まさに我々は英語話者の子供とパラレルな位置関係にある。ただ、彼らとの最大 の違いは我々は既に英語とは別の言語共同体に属しているということであり、従って、彼らとは別 の文化に属しているということである。当然そこには、母語による(無意識の)干渉の問題が生じ てくる。daughterはその典型と言えるだろう。また、文化の干渉も当然のごとく大きいものであっ た。alligatorやcactusの持つイメージの違いにそれは反映されている。しかし、程度の差こそあ れ、複合語を創造し、解釈する際になるべくストレスのかからない仕方で望もうとする姿勢につい ては、英語話者の子供(大人もそうであろうが)も、我々も同じであるように思える。そして、そ こに関わってくるのが、本稿で提案した、動詞要素の組み合わせ自由度・有標性・意味の関連`性に 関する制約ではないかと推測されるのである。もちろん、これらの制約の記述はインフォーマルで 大ざっぱなものであるが、直観的にはある程度肯定され得るのではないかと思う。

【註】

*小論の資料を提供してくれることになった、1993年度の「外国文学(英語学)」(この授業科目名は奇妙としか言 いようがない)を受講した熊本大学1年次諸君と1994年度の「英語学セミナーI」を受講した熊本県立大学英文 科3年次諸君に対して、この場を借りてお礼を申し述べます。また、教養部英語科のアラン・ローゼン先生には、

インフォーマントとして協力していただきました。あわせて感謝の意を表したいと思います。

l)Quirketα/、(1985,p、1524)は新語を使用する際には、,,whatlmaybeallowedtocall…,'という句を添えた り、聞き手が知らないと思われている語を使用するときには、”whatsomepeoplehavecalled…,'という句を添 えるという、会話を円滑に進行させる装置を持っていることを指摘している。

2)もちろん、これらのタイプは新語を生み出す時だけでなく、既存の語を分析する際にも利用される。新造と分析 は表裏一体の関係にあるからである。

3)大石(1988,pll)では、語幹を次のように定義している。文中のいろいろな場所に生じることができる自由形

(FreeForm)で、他の自由形によって中断不可能な単位である「語(Word)」から、拘束形(BoundForm)

である屈折接辞(InflectionalAffix)を取り除いた後に残る要素である。

4)cauliflowerはフランス語のchoufleuri,'floweredcabbage,,(廃語)から取り入れられた「既往複合語(Ex‐

Compound)」である。ただし、その語形は新ラテン語のcauliflora,,cabbageflower”の部分訳となっている。

5)ノVりゆノカo/09/czz/肋zノest“"o"s,(PhDDissertation,UniversityofConnecticut,1978.)

なお、学生への提示の仕方としては、Williams(1981,p248)の「右主要部の規則(RighthandHeadRule)」

と表現した。これは、細かい議論よりも、とにかく複合語の右端に主要語が位置することを伝えたかったからで ある。

6)連結複合語や同格複合語は(4)のISA条件に当てはまるとしておいて構わない。「ZはYである」型の方が「Z はXである」型よりも圧倒的に数が多いからである。

7)Zandvoort&vanEk(19757,p278)は「動詞の命令形」ではなく「動詞の語幹」と記述している。また、(5)

のfall-outはハイフンを除いて、tofallout,toburstoutlaughing,という複合動詞として機能させることもでき る。このように第二要素が不変化詞(Particle)であるものは(特に複合動詞に多いのだが)、外心複合語とは定 義せず、「語彙素(Lexeme)+不変化詞」という新たなカテゴリーを設けるのが、Gramley&Ptitzold(1992, p29)の分類法である。

8)辻(1974,p、224)によれば、bahu-vrihi-とは「多くの米を有する」という意味である。ちなみに、サンスクリッ ト文法ではこの複合による語形成は非常に重要なもので、サンスクリット文体の-大特徴をなすという。複合名 詞については、概略次のように記述される。①Dvandva(並列複合語)、②Karmadharaya(同格限定複合 語)、③Tatpumsa(格限定複合語)、④Dvigu(数詞限定複合語)、⑤Bahuvrihi(所有複合語)、⑥Avyaybhava

(15)

英語複合語新造に関する制約について 33

(不変化複合語)、⑦Amredita(反復複合語)。

9)このようなパラフレーズを利用した分析によって、表面上は類似しているものが、構造的には異なるものである ことをうまく記述できる。Clark&Clark(1979,pp769-772)では、名詞派生動詞のtoblanketとtokennel をこの方法で説明している。

(i)aJaneblanketedthebed

bJanedidsomethingtocauseittocomeaboutthat[thebedhadoneormoreblanketsonit].

(ii)aKennethkenneledthedog、

bKennethdidsomethingtocauseittocomeaboutthat[thedogwasinakennel].

(ia)と(iia)は表層では同一の項構造を持っているが、深層での構造を見ると、当該の名詞派生動詞はそれぞれ、

(ib)では、「位置させられる」目的語であり、(iib)では「位置そのもの」すなわち「場所」を表していることが分

かる。

10)大石(”.cが.,p、89)では、この意味範囲を決定するのがAllen(1978)が提唱する「変項Rの条件(VariableR Condition)」であると説明されている。

11)もちろんwaterも''towater(水をやる),,という動詞として捉えられるが、laughやdanceほどには動詞として 意識に上り難いだろうと判断した。事実、waterを動詞と捉えた学生は非常に少なかった。

12)このsidewalkalligatorcactusはもともとAkmajianejα/、に練習問題として記載されていた複合語である。

13)三語を使用して複合語をつくった学生も少なくなかったが、大半の学生は主に二語の複合語をつくったので、後 者の方を分析の対象とした。

14)日本語の「~を笑わせる」や「~を踊らせる」にある「使役性(Causativity)」と同種のものをIaughやdanceの 他動詞用法としては感じにくいことが原因かも知れない。つまり、我々日本人は「他動詞性(Transitivity)」が もともと「目的語の名詞に何らかの影響を強制する」という「使役性」を持つものであるという意識が非常に薄 いのである。むしろ、「他動性」と「使役性」を分離して捉える傾向にあるように思われる。

15)深層での節構造「V+O」を持つ複合語は表層では「O+V」として実現される。これは、英語の一般的語順で ある「S+V+O」に逆行するものである(上記の「V+S」や「Adv+S」と言う表層形も参照)。英語話者の 子供がこのような複合語での「語順の入れ替え」を習得するまでには、*builder-wallや瀬dry-hairerような誤り を起こす。これを「焼き付けの錯誤(PrintOutError)」と呼ぶ(Clark(”・剛,p、258))。すなわち、深層の 語順をそのままにして表層での実現形をつくってしまうのである。従って、子供たちが複合語形成を習得するに は、このような語順の逆転という大きな概念上の転換を迫られることになる。逆に、日本語のような「S+O+

V」型の語順を持つ言語の話者にとってみれば、この「O+V」複合語はつくり易いという予測が成り立つ。こ のことに関する調査も将来行いたいと思う。

16)ただし、語義の7に見られるように、古語としては「乙女(+human,+female,+young)」が認められるよう である。これは特にそれらの意味素性を強調した用法であると思われる。2の語義としての呼びかけとして使わ れていたことからも、-kinship/-relashinshipの用法は裏付けられる。しかし、ME、(sv、dDz4g力陀γ’5.)の 語義の,'ayoungwoman"の例は僅かにウイクリフ訳の聖書からの2例に過ぎない。また、OED(s、v、dtzz`gノi蛇γ,

B、4.)でも、”agirl,maiden,youngwoman(withnoexpressreferencetorelashionship),,としては、上記 のウィクリフの例を含めて僅か4例しか挙げられていない。

17)しかし、動詞要素が主要語になる場合は、ing形はオプションとなる。ただし、その場合、意味の違いが出てくる ことになる。

(iii)aalligatorlaugh balligatorlaughing

(iiia)は人間の笑い方の描写として有効であるが、(iiib)はワニ自体の笑いとしか捉えられない(ローゼン氏の指 摘による)。

(16)

松瀬憲司 34

18)homelesshotelownerという三語複合語には次の構造が与えられる。

(iv)a.[homelesshotel[owner]]

b[homeless[hotelowner]]

認知の容易な、ストレスのかからない解釈は、もちろん(ivb)の方であろう。しかし、我々はここで「ホテルのオ ーナーがホームレスである」ことの奇妙さを感じてしまう。そこで、(iva)の方の解釈に切り替えてみる。だが、

ここでも我々は行き詰まってしまう。homelesshotelの意味規定が難しいからである。しかしそれでも、おそら く我々の判断は解釈にストレスのかかる(iva)を採ることに落ちつくであろう.一見スムーズに解釈される(ivb)

の持つ「奇妙さ」よりも、(iva)を解釈する際の高いストレスの方が優先されるためである。実際、この複合語は ある特定の文脈のもとで、(iva)の構造を持つ語として使用されたものである。このように、我々は「できれば、

少ないエネルギーで理解したいが、それがうまく行かないときには何とかして理解しようという努力」もするの である。

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(17)

英語複合語新造に関する制約について 35

ConstraintsonCoiningEnglishCompounds KenjiMATSUSE

Abstract

WhenwecoininnovativecompoundsusingagroupoflimitedEnglishwords,weinevitablyareundersome constraintsonthecoinage・TheaimofthispaperistotrytoclarifyanddefinethemAndtheresultofanalyzing thepresentdatahasenabledustoproposethefollowingthreeconstraintsonthecoinage:

(1)ConstraintonSemanticRelevance:

Firstofall,findtwowordswhicharesemanticallyrelevanteachother.

(2)COnstraintonCombinatorialFreedom:

Ifyoucannotfindsuchtwowordsata11,thenfindawordwhichhasarelativelyhighdegreeoffreedom concerningthecombinationofelements、Usuallyitisaverbalelement.

(3)ConstraintonMarkedness:

Ifthereisnoverbalelementamongthewordsdesignated,orevenifthereis,whentheverbalelement hasonlyaverylowdegreeofcombinatorialfreedom,thenalsofindarelativelyunmarkedwordwhich needsnospecialknowledgetounderstand

Althoughtheseconstraintsmaybeinformalandevennaive,theyjustshowusthatweareintrinsicallyaptto coin/interpretnewcompoundswithaslittleeffortsorstressesaspossible.

参照

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