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日本語中級学習者のための日本事情シラバス

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

日本語中級学習者のための日本事情シラバス

著者 澤田 田津子

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 50

号 1

ページ 147‑157

発行年 2001‑10‑15

その他のタイトル A Syllabus of NIHON‑JIJO for Intermediate Level Japanese

URL http://hdl.handle.net/10105/1384

(2)

奈良教育大学紀要 第50台 第1号(人文・社会)平成13年

Bull. Kara Univ. Educ.. Vol. 50. No. 1 (Cult. & SocJ, 2001

日本語中級学習者のための日本事情シラバス

揮田 田津子

奈良教育大学英語教育講座(日本語敦ff) (平成13年4^27Fl受理)

キーワード:現代日本文化,中級日本語教科書,日本事情教育

0. は じ め に

日本語教育は,教授法の検討やコースデザインの検討 も重要なことではあるが, R本国内における日本語学習 者の中で中級以上の学習者が占める割合が増えるにした がって,教材のトピックが重要になってきている.

いわゆるトピック・シラバスの重視である.日本語教 材においてどんなトピックを扱うか,ということを考え ると,日本語の背景となる文化を中心に扱うことになる.

したがって最近数多く出版されている日本語中級‑上級 教材においては[]本社会を怖粧しながら,同時に日本語 について学習させようという意図のもとに編集されたも のがL」に付く. 1

初級の日本語教科書の中では,本文ではまだ複雑な内 容の文化・社会習慣は扱えないので.学習者の理解言語 (上に英語)で文化ノートのようなものが岡み記事で掲載 されていることが多い. 1'

しかし初級レベルであっても.ダイアローグや文型練 習の文を詳細に調べてみると,やはりそこには日本文化 が色濃く反映されていることがわかる.このことについ ては言軍田(1999)で調査し結果をまとめた.

本稿ではその次の段階として.中級の教科書に出てく る「日本」を調べてみたいと思う.

中級というのは,学習時問が300時間を過ぎ, 600時間 まで.ということになっているがJ.日本語レベルとし ては,口1常生活にほぼ支障をきたさない程度の運用能 力」とされる.このレベルの学習者は,日本で学習した 場育も,そうでない場合も,半年から一年日本語を学習 してきておi工 挨拶の概要, R本的な物事の発想などに も.自然に慣れてきているものと思われる.

そういうレベルの学習者に提示される教科書は,文法 事項の導入も一通りすみ,このレベルでは「語糞力」を 増やすために.さまざまな工夫をして読解教材や会話敦

IEH

材が選ばれる.特に最近のコミュニカテイブな学習目標 に沿った指導では.その言語が使われている状況,すな わち言語環境‑文化的背景を重視せざるをえない状況に ある.

今回はI」本国内で使われることを想定されて書かれた 教科書と,元々は外国で使われることが前提であったが, 実際には回内の日本語教育でもよく使われている教科書 の中から以下の7種を選んで調査してみた. 」

A:文化中級日本語I,   日本語中級 I Ⅱ, C:El本譜中級J301,  D:中級の日本語, E:新I L]本譜の中級,  F:中級から学ぶ日本語 G:標準日本語中級 I. Ⅲ

圧]本l玉=句で使うことが想定してあるもの:ACEF) 以上の中級日本語教科書の調査を適して. 「日本語中 級レベルの学習者がすでに身につけていることを期待さ れている円本社会の常識」を浮かび上がらせ,その「常 識」が教育現場では果たして学習者に平等に与えられて いるのかを考えていきたい.

1.日本語中級教科書の調査結果から

7種の中級教科書に目を通し.一通りの資料を手元に 作ってみたが,それを見てわかったことは,選択された 文化的内幕のランダム性が,初級改称吉を調査した場合 と大きくは変わらないということと,中級になるとテキ ストによって文化の扱い方の比重が違いすぎる,という ことであった.

たとえば,回内で使うことを想定してある教科書 A は, R本社会の文化的背景知識がなければ埋解しづらい ような例文.練習文が当然のように何の解説もなく,多 用されている.

一一・万,海外で使われることが前提の教科書の中でも.

日本語専攻の学生用に作られたものD, Gは.将来日本

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148 浮 田 田津子

に行くということを想定してか.かなり高度な日本社会 のきまり,習慣が織り込まれている.それに対して,港 外での使用を前提としているB.国内での使用が前提で あるC.E,Fつま,できるだけ日本語そのものにフォーカ スをあてており.文化的な内容に踏み込む必要を最小限 にしてあるのではないかとも言える簡潔な内容である.

海外で日本語を学習していて,さしあたって日本に行 く予定のないものはB, Eなどを使うことが多い.この 場合は本稿で問題とする「日本事情」の授業を特に必要 としない学習者と言える.しかし反対にAやDやGをテ キストとして使う学習者には,それなりの文化的背景知 識を予め紹介しておかないと,日本語の練習そのものが スムーズに行かないのではないか,という懸念を感じる.

たとえば.初級後半のテキストの例だが,次のような 練習問題が出てくる.

例文:小さい家と大きいマンションとどちらがほし いですか     HfんきIl』第14課5 この練習文は比較構文を導入した後の「ほしい」とい う文型の定着のために出てくるものだが,ここでまとも に答えられる学習者はきわめて少ない.ここではまず

「00のほうがほしいです」と答えさせ,次に「どうし てですか」という質問があって,理由を答えさせること になっているのだが,この質問をされた学習者はまずこ の疑問文で何を基準にして「いい」のかを決めたらよい か悩む.その原因は比較構文が理解できていないのでは なくて.質問の意図がわからないことによるものだと思 われる.そしてさらに理由を答えるとなるとお手上げで :jm

おそらく日本社会に詳しい者ならば次のように答える のではないか

解答例1.小さい家の方がほしいです.

どうしてですか.

ペットが飼えるし,庭もありますから.

解答例 2.大きいマンションの万が良いです.

どうしてですか.

外出するときに安心だし,駅に近くて便 利ですから.

この文は練習文として‑一行だけ唐突に出てくるものだ が,日本語ネイティブと同じように答えるには,現代日 本の住宅事情を把握していなければならない.

このような例はAおよびDのテキストにも多く見られ た.筆者は浮田(1999)において. 「初級テキストで紹 介される日本社会のいびつさ」について論じ, 「1本語教 育で使用される初級教科書に,どのような日本文化・日 本社会が反映されるべきか,ということについて述べた.

このことから,中級でも.引き続き日本語教材の中で.

同時に日本文化・日本事情を取り上げて教育していくべ きではないか,と思われるかもしれない.しかし.調べ

てみて分かったとおり,中級になると,口本譜教科書に よって文化の扱い方の比重に差がありすぎるのである.

また.日本以外の国にいて中級レベルを学習する場合は, 文化的内容の薄い日本語教科書を使うことも多い.その 場合はあえて学習者の負担を増やすことになる「口本事 情」の授業は行う必要がないともいえる.従って.中級 では.必要な場合は日本語の授業とは別のところで,日 本文化の背景を導入するべきなのではないかと思うので ある.日本国内において日本語の初級を終えた学習者が, さらに学習を続けていく上で必要な「文化的背景知識」

とはどのようなものかを日本語の教科書の中から考えて みることにする.なお, 2以下の項目の分類については.

教科書を調査した結果筆者が独自に分類したものであ る.

2.中級教科書に出てくる文化的内容について

211食生活

初級でも「食」に関する語義・会話はしばしば登場す るが,中級においても同様である.調査結果の詳細は紙 面の制約があってここには紹介できないが,おおよそ次 のようにまとめられる.

初級教科書の場合と比較すると,やはりメニューの種 矧ま豊富になってきている.特に口本人が日常的に食べ ている、特に高級ではない「普段の日本食,家庭料理」

に関する文が出てくるようになるのは中級からである.

また反対に,少し日本について知っている外B]人なら一 様に特異なものとして注目する「納豆」について. 「R 本人だからといって納豆が好きとは限りません」などと いう文が登場する. hこのような内容は日本事情のクラ スで予め背景を説明しておかないと,日本語の授業でい きなりこのような内容を扱った文が出てきてしまうと, その背景説明で時間がとられてしまうことになりかねな いので,注意が必要である.

中級になると,日本人が何を食べているかについては 既に学習者は知っているものとして,当然のように日本 語教科書の中にその語豪が山されるので,それまでに予 め学習者には,それらがどのようなものかを紹介してお く必要があるだろう.しかし.いわゆる「食事のマナー」

に関する記述は中級教科書には全く出てこない。初級で は「日本では箸でごほんを食べます」といった基本的な マナーと,食事の開始時,終了時の挨拶が導入されてい る.しかし中級で引き続きマナー・習慣について記述は されていない.こういった内容のことは.果たしてH本 事情の授業ではどのように扱うべきだろうか.例えば, 箸使いのタブー,手で持つ食器と,それをしてはいけな い食器,食べ方のマナー(他文化との違いを中Jmこ)など である.中級においては,このような内容に関して日本

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日本語中級学習者のための口本事情シラバス

事情のクラスで紹介し知識を深めることが必要ではない かと思われる.

2‑2衣生活

11本社会では「衣」 「着ること」についてどのような 習慣があり,最近の衣生活はどのようであるか,につい ては,初級同様,中級教朴書でも驚くほど記述が少ない.

着物が現代社会でいつ着る衣装であるか.とかブラン ド志向.制服文化について,すでに学習者が知っている ことを前提とした練習文,本文などが若干見られたのみ である.しかしながら,日本で生活してみればすぐにわ かる事だが.日本の若者は相対的に非常にプア、:/ション.

衣生活を大事に考え,話題とすることが多い.

また学生の間でも就職活動の場合の服装,卒業式・入 学式の服装などかなり共通のものがあり,留学生として はそういう内容を知りたいと思っているのである.この ような再審は. E]本譜教科書には出てきにくいトピック ではあるが.日本事情のクラスではできれば導入してお

きたいものである.

2‑二川・:'l‑ i占

住生活に関するロン稲吾教科書の中での扱いは.初級の 場合とほとんど変わっていないようである.相変わらず

「土地が高い‑職場から遠いところにしか一戸建てが買 えない‑しかし,一戸建て志向が強い」というパターン が‑一般的である.ここから, 1.で例文に出したように,

El本の集合住宅ではペットについて制限が多いこと.庭 仕事.花作りの好きな人が多いこと等.更に詳しい解説 か必要だろう.日本の住宅に特有の装置,間取りなどに ついては,すでに初級で導入ずみである.

214口本社会‑教育

初級レベルでは.口本の教育の基本的年数等について.

囲み記事等で媒介語によ咽糾トがJJ二再っれることがあった が,中級になると,もっぱら「受験がいかに大変か」

「大学に行くと反対に遊んでばかり」といったイメージ を抱かせる例文が多く登場する.こういった例文のみを 提示していると,今の若者の「二極化工 生涯教育の現 状,などが見えてこないので,日本事情において補足し ていかないと,日本の学生,教育についていびつなイメ ージを抱いてしまうのではないか,と危倶された.

2‑511本社会‑社会的慣習・社会情勢

この項目については,もともと非常に日本的な慣習と, たまたま世界的なトレンドの流れの中に日本もあって.

そのために何かがもてはやされているにすぎない,とい う内容が混在している.

前者には「部下と上司との関係」 「決定にハンコを使

149

う」など.後者には「環境問題」 「少子高齢化」などの トピックが入るだろう.

このようなものの中から,日本と外国との違い.共通 の問題については,回による問題点の相違などを中心に きちんと解説し.学習者にも考えさせていくことが.日 本事情の授業では必要だろう.

2‑61」本の自然

日本の自然については,初級教科書にも読解教材の彬 でよくとりあげられていたが,中級でもよく練習問題な どに登場する.そのスタンスは一貫している.すなわち

「四季の区別がはっきりしている,花の美しい,小さ な島国」 「火山言昆泉が多く.山が多い」ということで ある. R本のL」鱈の代表としては.どの教科書も筆頭が

「富上山」であることも,初級と変わりはない.

日本で暮らしていれば,おおよその自然については教 えなくてもわかってくるものなので,この項目について はむしろ「日本の自然がこうであるがゆえに.日本人的 性格のこういう部分にそれが影響を与えた」という視点 で学習者に意識化させる必要があると思う.したがって,

H本事情のクラスは,単に地理的な情報を与える授業で はなく,例えば「山や用の小ささ.そこからくる日本 人の小さいものへの愛着」というようなテーマで,学 習者自身に考えてもらう授業がと、要なのではないだろう か.白熊と口本人論とは密接な関係があるということを 前提にすれば.日本文化論の基礎として非常に考えさせ

られることの多い項目であると思う.

217日本社会・ ・習慣・年中行事・価値観

この項目は,外国人学習者・特に非・アジア臥 非・

仏教国の学習者からみると,きわめてエスニックで異国 情緒あふれるものが多く, 「外国語を勉強している」と いうムードをもりたてるためか,日本語教材にもしばし ばとりあげられている.

しかしこの分野については,きちんとした解説を受け たり,または実物を体験したり.見てみたりしなければ.

本当に'.分かった'とはいえないものであるとも言える.

ただ,年中行事にしろ,習慣にしろ,どの同にもある ものなので,学習者の母国と比較させながら解説し,学 習者白身に問題意識を持ってもらうためにも,日本語と は別枠の授業で時間を割くことがぜひ必要な項目である ともいえよう.

2‑8日本社会・ ・レジャー

レジャーに関しては. 「会社員の余暇生活」が標準と なっていることが,日本に詳しいものにはすぐ分かるよ うな文章が多い.日本人がなぜ休みをとらないかとか.

なぜお土産を買うのかとか.なぜ忙しくあちこちを走り

(5)

150 荏 田 田津子

回るような旅行ばかりするのか,といった視点を加えて あるものは少ない.行き先もかなり固定されていて,東 京に在住する人の視点からしか行き先が選ばれていない ので.地方にいて学習するものにはあまり関心のもてな い内容となっている.

219伝統的な日本文化

いわゆる「R本的なイメージ」のする物や文化につい てである.かつては「「1本」といえば必ず歌舞伎,文楽, 能,茶道,等々,かなり外国の人々から見るとエキゾチ

ックなイメージのするものが好んで教科書にもとりあげ られていた.しかし,最近では日本語学習者とは言って も.そういう伝統的な日本文化についてはあまり関心の ない学習者も多い.どの教科書も.多くて一回,このよ

うな伝統文化のうちのどれか一つを話題とする文章を掲 載していたに過ぎなかった.

したがって,このような内容は「日本事情」のクラス で優先的に取り上げる必要はないだろうと思われる.学 習者のニーズに応じて.適宜実物を見に連れて行ったり, あるいは「伝統文化と現代日本社会」というテーマで学 習者自身に調査・考察させるのが効果的かと思われる.

2‑10日本社会のトレンド

ここに入るものとして,教科書の例文に出てきたのは 脳死問題(F),体外受精(F上 外国人労働問題(D,

E)などであるが,中級日本語教材に入れる話題として はやや内容が壮しく,日本語力の育成という視点が弱ま るのではないかという印象を受けた.このような.いわ ゆる社会情勢に対する考察は, 「1本事情のクラスにおい て.その時々で話題にな?ている社会問題をI一つ,二つ とりあげ,その背景を学習者と共に考察していく,とい う形が望ましいだろう.

2‑11R本吉酎こ関するトピック

日本語に関する話題で,日本事情にかかわるものとい えば. 「日本人の対人意識」白」本人の人間関係とことば」

という視点から日本語を考えるということである.すな わち,挨拶語.敬語,など.また社会変化に伴って替わ る言語の流行,つまり外来語.若者語などもここに入る.

しかし.日本語に関する話題なので,このトピックに関 しては日本事情の授業でとりあげることをせず. R本譜 の教科書の中に適宜入れていき,解説していくべき事柄 であると思われる.

3.日本事情の教科書から

「日本事情」という言葉は.あいまいで,捉えどころ がない.本稿で言う「日本事情」とは.公的な施策用語 として昭和3 7年に文部省令で通達された授業を指すこ とにする.つまり今から約40年も前から国立大学では一 般的な授業として教えられてきた科目である.当初は教 えるべき内容について.担当者もわからず,試行錯誤が 続いていたが,最近では次の二通を)が 主流のようである.

I 日本文化の概要を網羅的に講義形式で解説してい くもの.これは当時文部省からの通達で. R本事 情の教育内容として「一頭笠日本事情, H本の歴虹 文化,政治,経済, I二l本の自然.日本の科学技術 といったもの」という指導があったことと関係し ている.かつては,この内容に沿って大学内で各 分野の専門家が持ち回りで日本事情の講義を担当 する,という事例もよく報告されていた.しかし,

この傾向は日本事情担当者による議論の結果.良 近では主流とはいえなくなっている.

lI 現代日本社会の抱える様々な問題点の中から,留 学牛にとって関心のあるもの,関係の探そうなト

ピックを選び,それについて学習者自身で調査し, 検討を加え.何らかの結論を導き出そうとするも の.このタイプの授業の目的は.網羅的な知識の 習得ではなく, Ej本社会の中にある日本的な問題 点を一つでも二つでも学習者自身が深く考えるこ

とによって.他の項目における自国の文化との相 違点についても,学習者自らで考えることができ

るという「異文化に対する態度」を会得すること に目標があると思われる.このタイプの授業では R本人学生と共同で授業に参加し,問題に取り組 ませることもよく行われている.丁

筆者は, 「日本事情」という授業の最終目標はIIの中 にあるような. 「異文化に対する態度を日本語学習者に 身につけてもらうこと」と考えているものである.しか しそれは最終日標であって,そこに到達すべきプロセス ではIのように,教師サイドからある程度の知識の伝達 が必要なのではないかと考える.

最近の傾向を見ていると.どうもIl‑急ぐあまり. Fl 本で長く暮らすものが特に「日本固有の文化と感じてい ないもの」や,あるいは過度に「日本文化にしかないも の」と感じているものをそれぞれにイメージし,その

「前提」の上にたって.日本語教育を行っているように 思われてならない.そのことが,日本語の中級教科書に でてくる. I‑見バラバラで,きわめて任意的ともいえる

日本的発想による例文・練習問題文の提示によく現れて いるのではないだろうか.

(6)

日本語中級学習者のための日本事情シラバス

そこで.次に調べたことは「日本事情」の授業のため に作成された教科書を調べることである.このことによ って,日本事情のクラスで導入されている内界と,日本 語の授業で必要とされる内容との相違点を浮き彫りにす るためである.

3‑1 I「H付l:去再考

このテキストでは,日本社会のトビ、ソクを織り込んだ 小文を理解したあと,現代R本社会が抱える問題点を学 習者自身で考えられるようになることを目指している.

取り上げられているトピックを2章と同じ項目にわけ てまとめると以トの通り.

亘一 食f日舌

割り箸について.インスタント.ラーメン.食料 輸入.

^KSS 『

」11 白, 仕′¥‑¥占

2DK,東京の地価高騰 Li';教育

日本の学校について

:‑ Il本手hi一

過休2 L欄上人手不足と外国人労働者 カード社 会∴通信社会,宅配便,電車文化.代行ビジネス, 物価高 東京 一極集中.生まれ・死ぬ場所,アメ

リカ志向.高齢化社会.日本人の清潔好き,日本 中の都市化 非婚.少子化,女性と差別,ベビー シッター.使い捨て.ゴミ処理,近代文明に隠さ れた不便さ. *俣病はいまどこにあるか,原子力 発電

・自L,自然 なし

I?・習慣・年】再丁事 なし

・皐,余暇

野i:L テL ど. :抽ill L軒 伝統的日本文化

なし

io: h本社会とF=l本人の変化

日本人の身体の変化,変わる若者の価値観

・由1 Fl本譜の話題 なし

312 『現代日本Ir酎青』 「'

このテキストは海外技術者研修協会から発行されてい るLl本語のテキストⅢ二はんごのきそ』の副教材である.

『にほんごのきそ帖ま初級教科書であるので.そのテキ ストを終了したものを対象にしている. 『にほんごのき

151

そ』の中に現れる日本文化については,すでに別稿で述 べたとおりである.

日次は 結婚 教育 家計 住宅 職業 余暇 家族 高齢化社会 交通 食生活 交際 宗教 と12課から できている.内容をさらに詳しく調べ,本稿での分類に 合わせて整理すると以下の通り.

甘 食生活

日本人の食事の西洋化.カロリ‑摂取量の変遷.

ファミリーレストランでの会話.具体的なメニュ ー名,マナーについての記述はなし.ファースト フード,刺身定食.ハンバーグ.アイスクリーム, 焼肉J/t食.引越Lそば,

受:衣生活 なし

・阜1住生活

都市の便利なマンションと郊外の ‑戸建て,都市 と円台の住宅の違い.地価の高さ.持ち家率の日 米比較

I:す,教育

U本の教育制度の基本的解説,進学率.有名校受 験の難しさ.登校拒否.おちこぼれ

・亘・蝣 Fl本社会

学校卒業と同時の一斉就職,新入社員.入社式, 人気の職業,終身雇用意識の変化, I」本の結婚 (見合い,恋愛,離婚率).家計(収入 消費ロ

ー>

日本の家族・ ・核家族,少子化,出生率の低下 高齢化社会‑平均年齢.ノu̲lピラミッド,老後 の生活

交通‑新幹線など鉄道について 自動車産業, 満員電車,大気汚染,渋滞,防音, 11本全国の道 路網の整備(本国連絡橋)

('. 自然 なL

T 習憤.年中f/蝣‑・蝣]*

贈答・ ・引越しの挨拶.中元・歳暮 お祝い時の 贈り物

交際・ ・贈答の他に年賀状,暑中見舞い,近所の 人へのおすそ分け

日本の仏教,初詣,葬式,祖先の霊をまつる,お 彼l'r;.神道 お乱

て@HS]葛

仕事後の水泳,毎朝のジョギング,休暇中の海外 旅行,スキー,海水浴,週休二日.有給休暇,チ レビを見て過ごす,野球,映画,園芸,つり,編 物,洋裁,

・車:,伝統的日本文化 なし

(7)

152

10)日本社会とrl本人の変化 結婚スタイルの変化 ill)日本語の話題

なし

揮 田 田津子

3‑3 『円本を知る』 1‑1

次に.同じく海外技術者研修協会の副教材であるが.

レベル,が中級〜上級のテキストについて調べてみる.こ の『口本を知る』は,約一年目本譜を学習したもののた めに. H本譜の言い回しを学習しながら日本のありのま まの暮らしを知る.という目的のために編集された日本 語の「読み教材」である.

この教材は,相当日本の現代文化を広く取り扱ってお り,過不足がないようであるが,すでに少し古くなった 感がある.例えばサラリーマンが一家の主である家族の

‑口にしても,それぞれの成員の生活がいわば「典型的」

であるだけに.そういう「典型的な成員のみによって構 成される家族」が,かえって非・現実的である,という 印象を受けてしまう.この教材の前半を占める「佐藤家

の一年」という読み物も,具体的に個人名を出すことで, 現実味のあるものにしたと思われるが.むしろ逆効果だ

ったように筆者には思われる.数人の登場人物を出しな がら,職業も多様にし.住んでいる場所も多様にし.午 中行事に対する取り組みも,熱心なところと.そうでな い家族を対比させながら進行させるほうが良いのではな いだろうか.

このテキストは,今の時代に日本に暮らす日本人にと ってさえ,かなり「エキゾチック(異同的)」なものに なっているように思う.

また,すでに古くなってしまった事物,あるいは学習 者のR常生活にあまり関係してこないと思われる事物も 登場する.例えは以下の語がそういった事物にあたるだ

ろう.

春闘,ベア交渉,そろばん.ぼんさい,心づけ,ふろ しき,万歳,琴,三味線、芸者,はちまき.心中,落語.

歌舞伎

3‑4 日本事情の授業と日本語の授業

以上.日本事情のテキストを見てみたが. 2の各項目 と比してわかったことは次のようにまとめられる.

1 日本語のテキストでは,学習者が日本にいれば知っ ているはず,という著者の思い込みを前提としたダ イアローグ,練習問題がしばしば見られる.

2 日本語のテキストは,文法シラバスは吟味してある が,トピックについてはあまり配慮されていないよ うな印象をうける.テキストの著者が日常的に接し ているu木社会が, R本の代表的な社会であるとの 前提で書かれたかのような文が多い.

3 日本事情のテキストは項目の種類が少ない.いくつ かの日本的トピックを丁寧に舶JrL,そこから学習 者白身が日本文化を理解する糸口をみつけることを

目標としているようである.

4 日本社会やH本人の生活の様子を丁寧に解説してあ るLl本事情教材は.得てして典型的すぎてかえって 非現実的になっている.昔に比べれば  見多様

化している日本人の生活だが,その中に依然として 存在する何らかの共通点に迫るという視点は殆どな い.また,日本語で全て記述しようとしているもの は特に.日本語に削限があるので.紹介したい内容 が「分に書ききれているとは言えない.

以上のことを言い換えると,

「口本語の授業では,できるだけ内容を学習者の興味 あるものにするために,日本社会の様々な側面をとりあ げようとしている.一方,日本事情の授業では,文化の 紹介というよi)もむしろ''異文化に接するときの態度,

自分で異文化社会に溶け込むための力"を養成しようと している」とまとめられるだろう.つまり日本事情の教 科書は, 3で言及したI, Ⅲでいえば. Ⅱの教育のため の教科書が多いと言える.そのこと自体を批判するもの ではないが,異文化に対する態度,異文化と接触したと きにどういう態度をとるか,について学習していくより も以前に,このレベルの学習者に必要な情幸田まきちんと 酢介しておくべきだと考える.なぜなら日本語教材で扱 われる文が.日本社会の常識を知らないがために理解で きない,という事態をまねかないためである.

中級レベルの日本語学習者というのはある意味で中途 半端な立場にある.日本語の力は日常会話程度にはでき るので,日本で生活する場合.接する日本語ネイティブ からは, 「日本社会の常識」についても, 「これだけ話す 人なら当然知っているだろう」と期待されてしまうので ある.しかし,現実には必ずしもこのレベルの学習者が みなきちんとその「常識」を知っているとは限らない.

筆首の経験であるが.非常に流暢な日本語を話す上級レ ベルの学習者が,筆者と食事をした時に, H本では箸使 いのタブーときれている行為を無自覚に何度も繰り返し 行っているのを日にし,そのことに驚かされたことがあ

<J.

このような例はいくらでもある.学習者に「日本人の ように振舞え」と言っているのではないが.知らないこ とによって.学習者が何らかの不利益を被ることは避け たいと思う.

こういったことについてはこれまでなかなか議論され てこなかった. 「常識」というのはアカデミックではな いかもしれないし, 「大学教育の水準に応じた内容」と 言えないという反論も出てくるだろう.しかし,あえて

(8)

日本語中級学習者のための日本事情シラバス

筆者はこういった「常識を知ること」が,少なくとも中 級の学習者においては日本語能力の向上をサポートする 役割を果たすもの,と考えている.

日本語の中級レベル以上のテキストは 日本語の使わ れている社会に対する理解を深めながら,かつ[1本語能 力も身につける,という目標を掲げている場合がある.

上級レベルの日本語教育ならそれも良いかもしれない が.中級レベルにおいては,まだまだ日本語そのものに 集中しなければ.新しい文型の修得も進まないL.漢字

も文法的に複雑な内容も,学習しなければならないこと は山ほどある.更に. R本事情の内容に関しても,中級 で新たに紹介されるものは,初級とは違って内容が複雑 で,日本語教育と同じ場面で‑I‑緒に解説するのは無理の あるものも多い.つまり中級の日本語を教えている時に, 同時に文化的背景説明をすることは,その内容の理解の ためだけにかなり時間を取られる.したがって,このレ ベルではやはりH本事情のクラスにおいて,基本的な日 本社会の常識を導入しておきたいと筆者は考えている.

そして,上級になれば,再びR本譜教材のトピックとし て.中級で紹介した円本事情の内容を盛り込めば効果が あがるのではないか.中級時において,日本事情の授業 できちんとシラバスのたてられた「日本社会紹介」が行 われていれば.学習者間による常識の違い.知識の違い にも対処できるものと思われる.

そこで,次に筆者の考える「中級学習者のための日本 事情」のクラスにおいては,どのようなシラバスが考え

られるか,について述べてみたい.

4.日本語中級レベルの学生に対する日本事情ク ラスのシラバス

前述したように,ここでいう「日本事情のクラス」と は.あくまでも I「奉語クラスがより効果的に進められ るためのクラスである.日本事情クラスと平行して行わ れることが想定される日本語授業とは以下の条件を満た すものとする.

1 日本国内で行われる日本語の中級授業.

2 学習者は日常的に日本語を使う環境にある.

3 学習者が初級レベルを日本で学習したかどうかは 不問.したがって来日して間もない学習者も含ま

れるものとする.

5 日本語の授業で使われるテキストは,日本の社会 事情を豊富に盛り込んだタイプのテキストを使う 場合とする.日本語教育で使う教科書が文化的内 容を殆ど知らなくても学習できるようなものの場 合は,あえて日本事情の授業は必要ではないと考 えられるからである.

153

4‑1食生活

a:寿司∴疋ぶらのような高級料理だけでなく,日常 的には麺類,井もの.カレーライスなど, ‑IIで 済むようなものが,特に昼食時には好んで食べら れること.カレーライスに代表されるように,も ともとは他国の料理を日本風にアレンジして,令

く新しい料理にしてしまうことがよくあること.

(2)醤油,納車,豆腐などの大豆をもとにした独特の 食品・調味料か必需品.中国から伝えられたもの ではあるが,同じものではなくなっていること.

・卓L・日本の高級料理では「視覚」が重視され.その延 長上で「もりつけ」が家庭料理でも大切である.

・卦 ファースト7‑ドが広く受け入れられているが, 受容の程度は世代間でかなり偏りがあること.

(ヰ)食事の形態,内容ともに 食の多様化が進んでい ること.

・′亘l 食に関心のあることは良いことだと考えられてい ること.宗教によるタブーが無いと言える社会な ので.食べ物に関する話題は慎みを欠くという発 想は殆どない.

・、阜〕食事時のマナー.箸の使い方のマナ‑とタブー 手で持ってよい器とそうでない器.食事時の会話 と音についてのマナー. 食器に対する感覚.

受)家庭の食事の基本  ‑vf三業. 家族の成員そ れぞれが自分の茶碗と箸を決めていることが普通 であるということ.

4‑2 衣生活

・!'制服文化(学校・職場)

受,衣替えの習慣に起関する.季節ごとに衣装を変え なければならないという感覚.それぞれの「季節 らしい」服装,また「季節先取り」の服装が良い ものとされる.

甘 口本における服装のT.P.O.特に若者について.

入学式.卒業式,結婚式.葬式の時の服装.服装 による人物の判断.

一本 u本固有の衣装,着物は規在日本社会でどうなっ ているか.

5

H O I   I

7

ホテル,旅館での客の服装.

ブランド志向

子供に薄着を奨励するのはなぜか.

413 住生活

LrIノ 「持ち家」特に一戸建てに対する願望.

E'、萱,日本の家に固有のもの. 玄関,風H場.ふすま, 畳,障子,押入れ,布川,こたつ.

(卓= ̲靴を脱いで家の中で生活することから生じる特徴 的生活と清潔意識.

(9)

154 揮 田 田津子

甘 マンション(集合住宅)とI‑戸建てに住む場合の, それぞれの問題点.

1

一′沼 ォ﹂蝣) !7:I

間取りの呼び方. LDKという概念.

日本の風土・天候と家屋 家族構成と間取り.

4‑4日本社会‑教育

P R本の教育制度の基本的理解を確認した士で,隻 験の現状を客観的に伝える.

(ぎ)大学の現状. 「勉強しない大学生」を減らす方 向で改革't>.

A . t 1

I CO )   i確 )   ︹

日本における英語教育の話題性,問題点 留学について.

学歴主義,学閥主義の現状.

4‑5口本社会・ ・社会情勢

D 政治に関する国民の無関心とその原因.

せ〕サラリーマンの生活‑通勤ラッシュ.上司と部

「.私生活も会社の仲間と.接待.

日本型経営の成功と停滞.今後の展望 (3)環境問題.リサイクル.ゴミの分別収監 (:FJ 女性に関するいろいろな問題. 共働き,専常主

婦,未婚・非婚の増加.少子化.

(享)交通機関とくに電車・鉄道・ ‑通勤,旅行.時 刻に正確.ラッシュ,便利.電車内での乗客の様 サ

・頂、)日本社会に入り込んでいる欧米文化と価値観

4‑6自然 L'亘)国L

狭い国土.小さい両つIl‑ 小さいものを愛でる 国民性.多い地震と台風.火山の多さ.温泉 豪 雪地滞.

(享)四季の変化とそれに反応する日本人の態度 桜.新緑.梅雨,盛夏,柘水浴.台風、紅葉 雪, C3) R木の名所

京都 奈良 鎌倉 日光,富士山,信州,瀬戸内 海,北海道.沖縄

(車) a;‑官凍前提にして口本人の「宗教心」 「信仰心」

を考える.

4‑7習慣・価値観 I:争 年中行事

.Il‑JJ.抽7.T.ひな祭!),叶学期.ゴールデンtlJ l'

‑ク,端午の節句.お盆,月見,春分・秋分の[上 クリスマス,大晦R

甘,贈答

中元.歳暮,冠婚葬祭の贈り物とおかえし,新築

祝い.快気祝い.金銭の贈答.お上座 や 家族に関する習慣

大家族.核家族、結婚.離婚,出産.葬儀 I:享)古いものに対する感覚. 「捨てる」ことに対する

感覚.

(i)清潔志向

418レジャー

せ 旅行の時期と期間,行き先(4‑6参照) 旅行の

(cl二︑3二蝣>*]Iin一;(<﹂>)‑蝣;i'oo;!ci)

形態,旅行先での行動.

旅行の宿泊先 ホテ>K 旅館, 映画

パチンコ,マージャン,将棋,囲碁, テレビ

カラオケ 小説

スポーツ‑野球,サッカー,

武道‑剣道,弓道,合気道,空手,など.

4‑9 伝統的日本文化 甘 華道,茶道, (皇)歌舞伎.文楽,舵,

・3 r.芸品:焼き物言黍器

(この項目については学習者のニーズか低ければ割愛可 舵.ニーズのある場合も,現実の生活にどの程度反映さ れているかという視点から解説し学習者にも考察させ

る.)

4‑10 日本社会と日本人の変化 (1)若者世代の価値観の変化 し′凄)国際化と外国人労働者問題 しぎ:若者文化(カウンターカルチャー)

アニメーション,まんが,ゲーム, テレビ. CM

l

i (

<

n i 3 )

l

7

IB

! 日本語に関する話題 現代日本社会での敬語

外来語 多様な挨拶語

・‑4:文字通りではなく,含みのある表現

(この項目については. R本事情ではなく,日本語の授 業で行う)

以上の中から,日本語の授業で使われるテキストを理 解するために,とりあえず必要なものを優先させて教え ていく.その際,ただ単に「日本ではこうです」ではな

く,常に学習者の知っている国‑母国その他住んだこ とのある回・ ・と比較させることを忘れてはならない.

(10)

H本譜中級学習者のための日本事情シラバス

4‑1‑4‑10の中にはR本独特のものもあるが,他llI「と共 通する内容も多いはずである.このようにすれば, ‑n 通行の「教育」ではなく,いわゆる「多文化共生」の時 代にふさわしい態度,異文化理解の態度も知らずに会得 できるのではないか,と思われる.

5.まとめ

日本事情の授業の進め方に関しては,最近ではかなり 議論が数多くされるようになってきてはいるが,先に述 べたように「異文化に対する態度」を修得させることが

[川勺であるので, 「どう授業を進めるか」は頻繁に論じ られるが,具体的に「何を教えるべきか」はあまり問題 にならない.

どちらかといえば. u本事情というよりは「多文化共 生教育」とか「異文化理解教育」と呼んだほうがいいの ではないか,というような内容が桧準となってきている.

もちろん,参加者が主体的に問題と取り組むことは必 要であるが.日本で日本語を学習しているものの場合, さしあたってそのレベルごとに必要な,日本文化に関す る常識的知識,というものがあるのでないか.

その「常識的知識」を学習者に提示するにあたって, 各レベルごとに 次のような形態にすることを提案した い.

初級   できるだけステレオタイプにとらわれないよ うにl二夫しつつ,日本において自然な場面設'/E,人物設 定を考えて.そこに初級文型をはめていく.学習者は,

IJ本譜を学びながら.自然に「日本語が使われる社会」

の様子になじんでいくようになればよい.複雑な文化内 容は日本語の授業の中では扱わない. R本事情の授業は, このレベルでは日本語で行うことは無理なので.基本的 にはIl本語の授業ですべてカバーするためにも.場面設 定と登場人物の選択は重要である.このレベルでどうし てもR本事情を行わなければならない場合は,中級H本 事情のシラバスを援用して,学習者の理解言語(英語な ど)で行う.

中級  「i本譜学習の内容がより複雑になってくるの で,日本語の授業ではできるだけR本譜に集中できるよ う.口本事情の授業を別途設ける. rl本事情の授業にお いては.初級U本譜テキストの中でさりげなく提,T,され た「日本社会の基本的常識」を再度まとめることも含め て,このレベルの日本語を話す者が知っていることを期 待される日本社会の常識について.解説し,学習者の自 国との対比において,日本社会に自覚的に接する態度を 身に仙ナるように指導する.日本語だけの説明で理解が 十分に得られない場合は,適宜媒介語(英語など)の文

155

献,解説などを与えて, 「分な理解を求める.

上級   日本語教材は生教材が多くなるので,必然的 に日本社会を色濃く反映するものになる.しかし.中級 レベルの時に日本事情の授業できちんと情辛踊て導入され ていれば,中級で得たR本社会の事情に基づいて,生の 教材の理解も深まるものと思われる.このレベルの日本 事情の授業においては,学習者が興味を持っている内容 について,更に理解を深められるよう,能動的な関わり のできるような授業が望ましい. (学習者白身によるテ ーマ設定,調査,発表など)

山本(1998)には.著者が実際に一年間日本事情の授 業で講義した内容がまとめられている.同書によれば, 全2 0講義が次のようなテーマで行われた.

1 宗教  カミはGODではない 2 矧ril  いつ「日本」になったか 3 天皇  君臨すれども統治せず 4 権力  英雄豪傑がいらない国 5 法律  弁護士ざらいの日本人 6 経済  技術大国への長い道程 7 教育  上IFの貫せんなく学ぶ 8 治安  安全な日本へようこそ 9 文芸  言霊の幸わう同として 10 感性  美は小さきものに宿る 11精神  スポーツは「追」になる 12 極道  アウトローの心情世界 13 政治  なぜ二世議員が多いのか 14 人H  子供が段段減っていく 15 言葉  暖味が尊ばれる日本語 16 都市  世界一・住みにくい東京 17 歴史  なぜ「過去」は水に流すか 18 民族  錯誤だった「脱亜入欧」

19 文化  マンガは「文学」である 20 市民  武士道はどこへ行った

この講義録には留学生がよく質問する内容のうちの多く のものが盛り込まれており,レベルの高い日本事情の内 容になることが予想できる内容である.

ただ,本稿で対象としているのは.中級レベルの学生 であるので.そのレベルの学生に,日本語のテキストに Il¥てくる内容の背景を理解してもらうための日本事情の クラスで行うには,やや高度すぎると言わざるをえない.

上記のシラバスは.生活レベルの「日本の事情」をほ ぼ理解し終わって. R本での生活に十分なものには有意 義な授業となるだろう.

また.上記シラバスと.本稿で提示した中級用日本事 情シラ‑バスとの違いの一つが「宗教」 「歴史」といった,

いわば日本社会を時間の流れで見ていく視点があるか,

(11)

156 津 田 田津子

ないかということだろう.

留学生の多くは日本人と宗教について知りたがる.し かし.この問題は複雑で,円本事情のクラスで円本事情 の担当者が軽々に論じられるものではないように思う.

したがって.日本事情の授業においては.日本人の宗教 心が形をとって表れているとも考えられる「事象」,す なわち,年中行事,冠婚葬祭.贈答.敬語、などの紹介 から.徐々に始めるべきだろう.

中級レベルで,まだ日本での生活も良くないような学 生には,普通の日本在住の若者が,普通に持っている常 識的内容の紹介が必要だろう.筆者が本稿で提案した

「日本事情のためのシラバス」は.アカデミ、ソクな内容 のものではないが,まずこういった「現代の日本社会を 成立させているバックグラウンド」つまり日本で生まれ た時から住んでいるものには,常識といわれるものがど のようなものであるか,を提示したものである.

今後更に日本語教材とのすり合わせを行い,何を優先 的に紹介していくか,について考察していきたいと考え ている.

1 主に上級の読解教材にこのタイプの教材が多い.

柿倉惰子 他(2000) 『日本語上級読解‑30の素材か ら見えてくる日本人の「いま」』アルク

架谷真知子 他(1995) 『日本を考える五つの話題』

スリーエーネットワーク

三牧陽子 他(1997) 『過渡期の日本を考える』凡人社 など

2 Pegasus Lとinguage Services (1987) 'Basic Functional

Japanese' The Japan Times

Yasu‑Hiko T〔)hsaku (1994) "Yookoso!ようこぞ'

McGraw‑Hill, In°.

など

3 石田(1988) p. 38

4 文化外国語専門学編 (1997) 『文化中級口本譜I, Ⅲ』

凡人社

川瀬生郎 他(1990) 『日本語中級I, Ⅱ』国際交流基金 R本譜国際センター

土岐哲 他(1995) 『H本譜中級 J301』スリーエー ネットワーク

Akira Miura (1994) A Integrated Approach to Intermediate Japanese 中級の日本語'r

The Jとipan Times

海外技術者研修協会編著(2000) 『新・ H本譜の中級』

スリーエーネットワーク

荒井礼子 他(1991) 『中級から学ぶ日本語』研究社 人民教育出版社・光村図書出版 編(1988) 『中日交流

標準日本語中級I, Ⅱ』人民教育山版社

5 坂野永理 他(1999) 『げんきII』 TheJapanTimピS 6 AkiraMiura(1994)の第3課の練習問題から

7 長谷川(1999) p. 9

8 佐々木瑞枝,門倉正美(1991) 『円本社会再考』北星堂 書店

9 海外技術者研修協会(1987) 『現代日本事情』スリー エーネットワーク

10 閉止昭(1992) 『日本を知る・ ・その暮らし  5U』

スリーエーネットワーク

ぢ¥C一丈献

石田敏子(1988) 『日本語教授法』大修館書店 長谷川恒雄(1999) 「円本事情‑その歴史的展開‑」

『21世紀の「日本事情」創刊号」くろしお出版 用上郁雄(1999) rn本事情教育における文化の問題」

『21世紀の r日本事情」創刊号』くろしお出版 揮田田津子(1999) 「R本譜教科書の中のHl」本r'」」 『L]本譜

の地平線』くろしお山版

山本茂(1998) 『留学生のための日本事情』大学教育出版

(12)

H li ;.'j'i骨II./"‑'・‑!・蝣描‑し,0た¥')0りL「†こ事情ニラr・( y

A Syllabus of NIHON‑JIJO for Intermediate Level Japanese

SAWADA Tazuko

{ Teaching ol JapanesピLanguage ilnd Linguistics

NaI・a unn‑ersitv of Education. Nara 030‑β'528, ]叩an) (Received April 27, 2001)

In the textbooks of Japanese for inter‑mediate level, some sentences are difficult for students to under‑

stand because they do not hこive enough knowledge abouOとtp呈mesビCL11tLiral background. Where and when

do students acquire knowledge about Jとipanese culture? Usuこilly, cultural background is taLight in

NIHON‑JIJO classes. What topics in Japこinese culture ‑‑especi之illy modern culture‑‑ should bビtこiught to stu‑

dents? Those suitとible for elementary level, have been already discussed m SAvvADA(1999). The pLirpose

of this paper is to select topics concerning modern Jこlpとmese cultLire that 1 think it is better to introduce in

NIHON‑JIJO intermediate level classes. With this aim, the following procedure is used.

Tlle cultural topics in 7 different intermediate language textbooks and 3 different NIHON‑JIJO text‑

booksとire listed and compared. This comparison shows that there are so工ne ditferences between langLIage

textbooks and NIH〔)N‑JIJO textbooks coneビrnmg cultural topics. I come t〔) the conclusion that modern

JこIP乙inese culture should be introduced to students in NIHON‑JIJO classes, and then, they will easily under‑

stand all the sentences in lとmguこ¥ge textbooks. For this purpose, a syllabus of NIHON‑JIJO for students

studying intermediate JとipanPse is introduced in this pとIpビr,

Key Words: Modern Japanese cLlltLire, Textbooks of Japanese language. Education of NIIION‑JIJO

157

参照

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