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小規模製造企業におけるマネジメント・

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1.は じ め に

中小企業白書 2019 年版によれば,日本国内の全企業 359 万者のうち,いわ ゆる中小企業や小規模企業者1)と呼ばれる企業は 358 万者あり,全企業の 99.7%を占めている。このうち,製造業では従業員数 20 名未満と定義され る小規模企業は 305 万者あり,全企業の 85.0%,中小企業や小規模企業者を 分母としても 85.20%と大多数を占めていることがわかる。

これまで国内外の管理会計研究では,こうした企業は大企業のような管理 会計実践を行うことは難しいとされてきた(Bruns and Waterhouse 1975;

Merchant 1981など)。とりわけ,ドイツにおける中小製造業を対象に研究を

行ったLohr(2012)では管理会計を行うことが費用対効果に見合わないため,

中小企業では管理会計が実践されないのだとされ,管理することそのものが

* 本稿は文部科学省科学研究費(C)「中小企業の新製品・事業開発における管理会 計システムの設計・運用に関する実証的研究」(研究代表者:飛田 努,課題番号:

19K02033)による研究成果の一部である。

1) 中小企業基本法において,製造業を主とする中小企業は,資本金の額または出資 の総額が3億円以下の会社または常時使用する従業員の数が 300 人以下の会社及び 個人とされている。この中で特に小規模企業者は従業員数 20 人以下のものを指し ている。

小規模製造企業におけるマネジメント・

コントロール・システムの設計と運用

―― アイダメカシステムの事例 ――

飛 田 努

( 1 )

(2)

高コストであることを指摘している。

税理士法人山田&パートナーズが実施した『我が国を支える中堅・中小企 業の経営実態調査 2019』2)によれば,「業績見通しが悪い,成長戦略が描けな い法人は(仕訳入力の:筆者注)外部委託の割合が高い」ことが示されてい 3)。この要因として,従業員数が少ないことによって社内における経理業 務に人員を割くことが難しく,結果として外部委託が増加するのだとしてい る。日本国内の中小企業あるいは小規模企業に区分される企業群を対象とし たアンケート調査においても,原価計算が実施されている割合は高くないこ とが報告されている(小林 1967;角谷 1967;飛田 2011b,2012)。また,綿密 な原価計算を行わずとも,過去の取引内容や経験則からいわゆる「どんぶり 勘定」と呼ばれるような計算が中小企業や小規模企業者の間で実務として行 われていることは,飲食業を営む小規模企業者4)を対象にインタビュー調査 を行った足立・岸保(2019)によって報告されている。

そもそもなぜ中小企業や小規模企業者では「どんぶり勘定」であったとし ても経営が成り立つのか。なぜ管理会計を中心とする形式的なマネジメン ト・コントロール・システム(Management Control System:以下,MCSと略 記する)が整備される必要が生まれるのか。管理会計理論の文脈から言えば,

階層化または分権化した企業組織においては戦略的計画設定(Strategic Planning),マネジメント・コントロール(Management Control),現業統制

(Task Control)が分離することによって管理会計システムが構築されること

2) 同調査の概要についてはhttps://www.yamada-partners.gr.jp/tax_account/report/r010614/

を参照されたい(2020 年4月 10 日アクセス)。

3) 従業員規模でサンプルを区分しても,サンプル全体 625 社では 83.2%の企業が

「仕訳入力(経理入力)は,自社で行っている」と回答している一方で,正規社員 数が 10 人以下では 67.1%と低く,企業規模が大きくなるほど,自社内での仕訳入 力が多くなるとしている。

4) 中小企業基本法において,商業・サービス業の場合,従業員5人以下が小規模事 業者と定義される。

( 2 )

(3)

を前提とするが,中小企業や小規模企業においては十分に分化していないた めにこれらの機能が経営者に一体化している可能性がある。近年,中小企業 を対象とした管理会計研究が多々行われるようになってきてはいるものの,

小規模企業における管理会計実務がいかなるものであるのか,管理会計理論 に基づいて検討しているものはまだまだ少ない(Lòpez and Hiebl 2015,牧野 2020)。

そこで本稿は小規模企業者における管理会計実務を手がかりに,小規模企 業者におけるMCSの構築プロセスを検討することにしたい。ここで小規模 企業者を事例とするのは,管理会計理論が前提とする組織の階層化が進んで いない可能性もあるが,経営者が組織目標を実現するためにMCSをいかに 設計するか,その設計において何に留意しているのかを観測しやすいと考え るからである。これにより,小規模企業者における管理会計実践を明らかに するとともに,MCSの設計の基礎的形態がどのようなものであるのかを明 らかにできれば幸甚である。

2.マネジメント・コントロール・システム(MCS)のデザイン:

簿記システムからMCSへの拡張

本稿は小規模企業者における管理会計実践からMCSのデザインにおける 基礎的形態を明らかにすることを目的とする。そのために,本節ではまず情 報システムのデザインに関する考察をもとに,管理会計やMCSが具備する べき機能と設計を試論的に論じる。また,情報システムのデザインに関する 考察を元に簿記システムを検討した飛田(2019b)と小規模企業における会計 実務から,同企業群におけるMCSのデザインを考察する視点を得ることと したい。

( 3 )

(4)

2.1.情報システムデザインをMCSの構造理解へ転用する

飛田(2019b)は中小製造業における簿記システムの考察をもとに「情報シ ステムとしての簿記に何を具備すべきか,記録間の連携をいかに図るか,簿 記を通じて作成される会計情報が企業内部の情報利用者(経営者・管理者・

従業員)の利用目的に適合的であるようにデザインされることの必要性」

(飛田 2019b,19)を検討しなければならないと述べている。ここでいうデ ザインとは,「与えられた環境で目的を達成するために,さまざまな制約下で,

利用可能な要素を組み合わせて,要求を満足する対象物の仕様を生み出すこ と」(Ralph and Wand 2009, 108)と定義する。

インターネット萌芽期から 21 世紀初頭にかけて,デザイン領域において 情報デザインとが議論されるようになった。渡辺(2001)は,その定義を

「情報デザインとは,(中略)人間の活動すべてにかかわる情報を,的確な

『かたち』にして表現したり,それを人から人へ伝えたり,多くの人々のあ いだで共有したりするための営為である」(渡辺 2001,p.11)としている。そ して,情報デザインにおいて,渡辺(2001)は「インタラクティブな情報メ ディアのデザインを行う場合には,自分がつくる対象だけではなく,それを 使うユーザーの『使う』という経験まで含めた『かたち』を頭に描いておく こと」(渡辺 2001,52)が重要であると指摘している。Norman(2013)の言 説を用いれば,情報システムにおいても利用者のニーズ,能力,行動に合わ せて,そのユーザーにとって適切な行動を導く概念モデルをいかに構築する とともに,アフォーダンスとそのための装置であるシグニファイアをいかに 設計するかが重要だと言える。

確かに,われわれが研究対象とする会計や簿記は,その情報を貨幣量や物 量を用いて「的確な『かたち』にして表現したり,それを人から人へ伝えた り,多くの人々のあいだで共有したりするための営為」(渡辺 2001,p.11)で はある。つまり,経営者が投資家や利害関係者へ,経営者が管理者や従業員

( 4 )

(5)

に対して情報を伝える手段の1つである。しかし,例えば管理会計を対象と して見た時に,管理会計システムは組織成員が企業目標を達成するために適 切な行動を引き出すようにデザインがなされていると言えるのであろうか。

管理会計論のテキストにおいて,会計情報は「専門経営者は企業目的を実 現するため,会計情報の『受け手』の意思と行動を説得・誘導するという明 確な意図をもって会計情報を利用している」(上總 2017,13)とされる。つま り,情報の出し手である経営者が受け手(具体的には組織成員や投資家)に 対して明確な意思を持って情報が提供されるのだとされている。その上總

(2017)では,管理会計を財務管理機能と動機づけ機能とに区分している。

財務管理機能とは「すべての企業活動は企業財務,とくに利潤分配に規定さ れ」(上總 2017,15),管理会計を用いて管理されるもので企業管理において 果たすものと定義している。また,動機づけ機能とは,目標利益を組織成員 個人の目標として転換し,彼らが受容し,これを管理基準として組織成員個 人の意思決定と行動を引き出す機能だとしている。つまり,企業内部におい て管理会計は,単に企業目標をもとに組織成員に提示するのみならず,組織 成員個人に対する動機づけに用いられるのだと述べている。

組織成員の動機づけ機能が付与された歴史的プロセスとして,上總(1989)

は大恐慌期以降の米国における大企業の管理会計システムの変化を事例に述 べている。当時,階層化された組織において企業全体の利益目標が特に管理 者に対して付与されることになり,数値による管理(財務管理機能)が行き 過ぎた。その結果,人間関係論的改革が進められるようになった。それは,

企業の要約財務諸表を管理者に公開すること,現業管理者に対する会計教育 を行うこと,そして,現業管理者の管理会計プロセスへの参加を促すことと いう3つのステップを経て行われた。これが 1940 年代から 1950 年代にかけ ての責任会計への展開へとつながっていくことになる。

すなわち,管理会計を通じた組織成員への動機づけは,企業目標を個人目 ( 5 )

(6)

標へ転換するロジック(計算構造)を持つこと,情報を社内に公開すること,

十分な教育を行うこと,目標設定や活動の成果測定といった統制プロセスに 組織成員を参画させることで成り立つ。このことをこれまでの議論を踏まえ て言えば,管理会計システムのデザインは計算構造を基礎としながら,企業 目標を達成するために組織成員の合意と納得を引き出し,動機づけをいかに 図るかまでをも含んで成されるものだと言える。

また,企業内部では管理会計技法が単独で組織内部で機能するとは限らず,

目標管理や生産管理,組織構造等の組み合わせの中でいかに機能するかにつ いて論じられてきた。すなわち,MCSについての議論がそれである。当然,

MCSにおいてもデザインに関する議論は行われてきた(例えば,Simons 1995,

Davila 2000,Chenhall 2003,Malmi and Brown 2008,Ferreira and Otley 2009,

Merchant and Van der Stede 2017など)。例えば,Malmi and Brown(2008)は

「目標利益を生み出すためにMCSをどのようにデザインするかを議論す る」(Malmi and Brown 2008, 208)ことが重要であると指摘している。そこで は,企業統治機構(Governance Structure)や組織構造(Organization Structure),

価値観やシンボルなどの文化的な要素などといった他の統制手段が組織に及 ぼす影響や,それぞれの要素が異なる文脈でお互いを補完したり代替したり するかどうかについて限られた理解しか得られていないと述べる。そして,

パッケージとしてMCSをより広く理解することで,組織目的の実現や統制 活動を支援し,組織のパフォーマンスを向上させるためにどのようにして MCSをデザインするかについて議論する必要があると述べている。

さらに,業績管理システム(Performance Measurement System),予算や MCSを診断的(Diagnostic)に用いるか,インタラクティブ(Interactive)に利 用するかによって,組織成員の心理的側面にいかなる影響を与えるのかにつ いての研究が進められている(代表例としてMarginson and Ogden 2005;

Chong and Mahama 2014; Marginson et al. 2014; Groen et al. 2012, 2017; van der ( 6 )

(7)

Kolk et al. 2018; Chen et al. 2019)。これらの結果によれば,予算や非財務指標 などをインタラクティブに利用することによって,ポジティブな心理的状況 を生み出し,財務業績あるいは個人目標を向上させることにつながるとの結 果が得られている。

ここにMCSや管理会計システムをいかにして設計するかを検討する意義 があると考える。ただし,デザインされるべき対象が何かという問題がある。

ある管理会計技法を導入すること,ある管理会計技法がどのような構造に なっているのかを検証するだけでは「デザイン」を検証したとは言えない。

Ralph and Wand(2009)によるデザインの定義が「要求を満足する対象物の 仕様を生み出す」ことまでを含むので,管理会計技法がどのように機能して いるのか,どのような結果が得られているのかを検証することが求められる。

つまり,管理会計システムのプロセス全体において財務管理機能と動機づけ 機能がいかにデザインされているのかを観察し,形式化することが検証課題 として浮かび上がる。

2.2.中小・小規模製造業におけるMCS

かつて岩田(1955)は,簿記の二面性に着目した。それは,決算中心主義 と管理中心主義という2つの捉え方である。ごく簡単に言えば,決算中心主 義とは財務諸表の作成を目的とする記録,計算の一連のプロセスを重視する 財務会計的視点であり,管理中心主義とは「毎日々々の日常的な管理の機能 を果すために」(岩田 1955,12)行われる簿記であり,補助簿に基づいた管理 を重視する管理会計的視点であると言えよう。こうした視点を踏まえ,飛田

(2019b)では中小製造業における簿記や経営に関する記録をいかに捕捉し,

経営管理に用いているのかを示した。

図表1は,中小製造業における利益管理手法の一連を示したものである。

ここでは受注生産を主とするメーカーを例に考えてみよう。

( 7 )

(8)

まず,受注段階において値決めを行う。この時,製品仕様に応じて必要と なる材料から材料費が決まる。そして,加工等を行うために定められた1時 間あたりの単価(時間単価)と作業に要する見積作業時間を乗じて算出され る費用が計算される。この時間単価には労務費,経費と利益がマークアップ されている。このように算出されるのが受注価格であり,納品あるいは検品 された時点で売上高として計算される。

これに対して,製造現場では受注した製品の製造が行われる。実際発生原 価が材料費,労務費,経費としてそれぞれ認識され,製造原価が計算される。

この製品が納品あるいは検品されると売上原価として認識される。

この時,利益管理という視点から見ると,粗利益は図表1に示したように

(@時間単価×見積作業時間)−労務費−経費で算出される。時間単価は社 図表1 中小製造業における利益管理手法の一例

出所)飛田(2019b)を一部改変 売上高

売上原価

粗利益

= 材料費+(@時間単価 × 見積作業時間)

≒        = 材料費+労務費+経費

= (@時間単価 × 見積作業時間)−労務費−経費

−) 製造原価

損益計算書

実際作業時間 工程管理システム 各製品の作業時間の捕捉 工程管理システムから得られる情報を

基礎として売上高,粗利益が算出される。

見積作業時間>実際作業時間

→ 粗利益増大 見積作業時間<実際作業時間

→ 粗利益減少

※同社は受注生産を基本としている。ここでは期中に仕入れたものが全て完成して払い出されると仮定する。

※同社における労務費と経費は固定費的である(インタビュー調査で確認)ため,ここでは一定額と仮定する。

※@時間単価は一定額で社内において決められている。

( 8 )

(9)

内で概ね定額で決められているとともに,労務費と経費は実際発生額で求め られる。すなわち,受注生産を主とする中小製造業においては見積作業時間 と実際作業時間を管理することが利益管理を行うことと同義であることがわ かる。飛田(2019b)では,徳島県鳴門市に所在する中小製造業の事例におい て作業時間の管理を行うために工程管理システムの導入を取り上げたが,こ のような作業時間をベンチマークに効率性や歩留まりを測定して作業現場を 管理することは中小製造業の現場において多く行われている。

例えば,古くは系列化が進展し,大企業と中小企業の間で発注元と下請の 関係が形作られた 1960 年代に,敷田(1964)が中小企業の経営近代化,合理 化を果たすために,日本生産性本部が『一般指針』を普及させていく過程と ともに,系列化が進展していく中での中小企業における原価管理の実情を検 討している。それによれば,自動車メーカーと下請企業との取引関係につい ては,1960 年代初頭に下請企業では品質管理の徹底を図ろうとしたが,なか なか進まなかったためにメーカー側から「量産・同期化方式」による生産を 行うための指導が入ったことを取り上げている。ここでいう「量産・同期化 方式」とは,ある製品の工程の加工時間を同じ時間に設定し,各工程が単一 基準時間(タクト)で同調化・同期化することをベースとし,これによりボ トルネックの排除,運搬時間・手持ち時間などの排除,作業の単純化と流れ 作業,ベルトコンベアのスピードアップなどを通じて原価低減を図ろうとす るものである。タクトはメーカーの利益計画から得られるメーカーが必要と する部品の量,品質,納入時期をもとに算出される(敷田 1964)。

また,長崎県佐世保市に本社を置く一般産業機械,土木建設機械や船体ブ ロックを製造する中小製造企業では,製品サイズが極めて大きく,受注生産 を主としている。よって,その製品特性上,元請企業が必要とする製品機能 を出すために材料を指定し,場合によっては元請が購入した材料を受け入れ て製造することがある。つまり,製品製造に材料費はほとんどかからず,労

( 9 )

(10)

務費と経費だけがかり,見積作業時間より実際作業時間を短くすることが見 積利益よりも多くの利益を創出する方法になる。その時,受注時点において の段取りを確認し,作業時間の見積もりをいかに行うかがポイントになる。

このことは,飛田(2019b)の事例と同様に,製造現場における時間管理や設 計時点における製造工程の簡素化が原価低減,利益管理につながっているこ とを意味している。

こうした実務は,多くの中小企業で行われている。ただ,見積もり時に経 営者の勘と経験に基づいて取引価格を決める事例もある。例えば,岡山県苫 田郡に所在する工作機械の設計・製造,産業機械部品の加工等を行う従業員 10 名程度の中小製造業では,主として経営者が取引先との交渉を行う。この 時,経営者は過去の取引を基礎として概ねの作業時間や工程を想定して受注 価格を設定する。その交渉の中でどの程度の利益が確保できるかが判断でき るし,たとえ利益が出なかったとしても取引関係を良好に維持するためや,

緊急で作業を依頼されたりすることがあるなど,状況に応じて受注価格を決 定する。このときも,重要になるのは製造現場における段取りと作業時間で あると言う。この企業経営者自身が「どんぶり勘定」と呼ぶ会計実務では,

受注価格の決定=利益の見積に大きな権限を持つ経営者が必要とする情報で あり,製造現場の組織成員にとっては期限までに決められた製品仕様を実現 できる製品を納品するために時間に着目するのだと考えられる。

以上のように,小規模製造企業のいくつか,特に受注生産を行うような中 小企業・小規模事業者の事例から明らかなことは,利益管理,原価管理にお ける作業時間管理のウェイトの大きさである。小規模企業者が多い飲食業に おける管理会計・原価計算の実践を調査した足立・岸保(2019)は,「経営者 自身は管理会計を実践していると自覚していなくとも,結果として実践され ている場合がある」(足立・岸保 2019,43)との指摘している。こうした指摘 が出てくるのも,経営者が帳簿や財務諸表などによって形式化された会計情

( 10 )

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報に直接触れることがなかったとしても,経営者自らが経営者,管理者,従 業員(現場の作業)を担うことによる物量管理,具体的には歩留まりや作業 時間の管理=現業統制(operational control)が利益管理や原価管理の具体的 実践につながっているからだと考えられよう。いわゆる「どんぶり勘定」で 行われていたとしても,一定の条件において十分に利益管理,原価管理とし て機能すると考えられる。

簿記から生み出される会計情報は企業経営を遂行するのに重要であること は言うまでもない。ただ,ここまでの検討で明らかになったように,岩田

(1955)によって簿記の二面性の 1 つ,管理中心主義において補助簿の重要 性は,とりわけ小規模事業者においては物量管理が利益管理や原価管理と同 義になっており,その記録が簿記システムの構造上補助簿に表れるものだか らだと言えよう。これらのことは管理における記録の重要性を示すものであ る。しかし,管理会計理論の文脈から言えば,階層化または分権化した企業 組織においては分けられる「記録行為の結果による管理」と「記録行為その ものによる管理」(高橋 2017)が,中小企業や小規模事業者では経営者の中で 一体化している可能性があることを意味している。その時,どのような記録,

そこから生まれる情報をどのように経営的な意思決定に活かすかをさらに検 討しなければならないことを示唆する。

2.3.検証課題の提示

以上のように,管理会計システムやMCSの構築は,企業目的の達成を図 るために組織成員に対して適切な情報を提供する情報システムをデザインす ることと同義であると考えられる。

企業において簿記や管理会計システムが「利用者にとって適合的な情報を 作成するために,貨幣金額計算の基礎あるいは補助するための記録を記述す るシステムをシステム設計者が意図的にいかに構築するかが重要になってい

( 11 )

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る」(飛田 2019b,19)。それは情報を生産する簿記や会計の計算構造のみな らず,経営者が経営目標(例えば目標利益)の達成のために組織成員の合 意・納得と適切な行動とを引き出すようなシステムデザインが求められる。

つまり,目標利益達成のために数値目標を組織成員に付与する財務管理機能 と組織成員の合意・納得を与える動機づけ機能をどのようにシステムに組み 込むのかである。

しかし,先に概観したように,中小企業の中でも少人数の小規模企業者に おいては,いわゆる「どんぶり勘定」によって利益管理あるいは原価管理が 行われていることもある。もちろん,それで十分にマネジメントを行うこと が可能であろう。ただ,この場合は経営者だけが目標利益や製品ごとの利益 を把握しているため,組織成員に対してそれぞれの目標を作業時間等で提示 することは可能であったとしても,管理会計の重要な機能である動機づけを 引き出すものになるのかはわからない。会計教育や適切な会計情報の提供が 組織成員の動機づけに寄与することは歴史的にも,近年の実証研究によって も示されている。

そこで以下では,小規模企業者におけるMCSがどのように整備されてい るのかに着目しながら,岡山県美作市に所在する小規模製造企業における実 践を検討する。これにより,経営者がそのシステムをデザインするにあたり どのような点に留意してきたのか,結果としてどのようなマネジメントが可 能になっているのかを示す。

3.事例研究:アイダメカシステムの事例

本稿で取り上げる小規模企業者は,岡山県美作市に本社を置く株式会社ア イダメカシステムである。1997 年に創業され,資本金 1,000 万円,従業員数 11 名(2019 年1月現在)の製造業である。現社長は2代目の丸山隆行氏である。

( 12 )

(13)

本稿の執筆にあたり,インタビュー調査は2回行った。1回目は 2018 年 3月 13 日,2回目は3月 17 日に同社で行い,いずれも代表取締役社長の丸 山隆行氏(以下,隆行氏)と事務長の丸山理恵氏(以下,理恵氏)にお話を 伺った。また,インタビューで不足する内容はメールやSNSを介して補足 的に伺った。

3.1.企業概要

同社の経営理念は「ものづくりを通じて,世界の発展に貢献する」,ミッ ションは「日本の製造業を支える仕事をする,お客様のお困りごとを解決す る」を掲げている。隆行氏いわく,「製造業の町医者」を目指したいとのこと である。

同社の事業内容は,大きく分けて2つある。1つは,顧客の困りごとを解 決する自動化装置・ロボット装置の製作,メンテナンスである。もう1つは,

船舶用エンジン部品の加工である。元々は前者を中心としてきたが,2010 年 ころから船舶用エンジン部品の切削加工を開始している。

同社が立地する美作市は岡山県北部にあり,中国自動車道が東西を貫いて いることもあり,大手製造業が多く立地している。また,南部は重工業や鉄 鋼などが盛んであるとともに,古くから県内全域で繊維業が立地している。

そのため,工場の工作機械の整備,メンテナンスや企業独自のオーダーメイ ド機械の製造には一定の需要があり,これが祖業として始まった。しかし,

2010 年に隆行氏が事業を引き継いだ直前にリーマン・ショックが起きて需要 が大きく落ち込んだこともあった。そこで,新規事業として立ち上がったば かりだった船舶用エンジン部品の切削加工を行っていたことが事業継続につ ながった。自動化装置・ロボット装置の製作はオーダーメイドで行われてい るが,近年の人手不足により取引先からの需要が高まっており,製造依頼が 増加傾向にある。他社との競合になることが少なく,取引先の希望する能力

( 13 )

(14)

が付加された装置が入手できるので顧客満足度が高く,同社の競争力の源泉 になっている。

3.2.MCSの整備に至るまで

先に述べたように,現在の経営体制には創業者の引退とともに 2010 年に 行われた。当時はリーマン・ショックの影響と厳しい財務状況に置かれてい たため,財務リストラクチャリングをいかに行うかが課題であった。また,

主として自動化装置・ロボット装置の製作,メンテナンスを中心に事業を営 んでいたが,事業内容の見直しを徐々に進めていくことにした。例えば,そ れまでは仕事があれば全国どこへでも出かけて受注していたものを,自社か ら2時間程度で行くことができる範囲内に取引先を限定して効率性を高める とともに,部品加工や修理などを請け負いながら顧客との取引関係を強固に して業績を改善していくことができた。この取り組みが功を奏し,2012 年 から黒字転換し,安定的に利益を生み出す体質に転換していく。

この過程の中で,隆行氏は経営状態を知るデータとして財務指標に注目す るようになったという。そもそも創業者も,現在の経営者である隆行氏も技 術者であり,一般的に見られる中小企業のように会計や経理業務は家族が 行っていた。同社の場合は,現在の事務長であり,創業者の三女である理恵 氏が主に見ていた。これと時期を一として,隆行氏は隣接する津山市役所や 岡山県の外郭団体が主催する勉強会に足繁く通い,企業経営を理論的に学ぶ ようになったという5)

しかし,この頃,営業が受注したとしても,利益が出ない「誤った価格」

(第2回インタビューより隆行氏のコメント)で受注してくることが頻発し,

5) この勉強会の1つが,津山市の外郭団体であるつやま産業支援センターが事務局 を務める津山ステンレス・メタルクラスターである。ここで,飛田(2019a)で論じ た本山合金製作所(本社:岡山県津山市)の松本秀彦社長と出会い,マネジメント における会計情報の有用性を学んだという。

( 14 )

(15)

見積もりの甘さを痛感したそうである。そこで,2015 年頃から会社の業績を 全社員に開示し始めた。当時を振り返って隆行氏は「良いとか悪いとかじゃ なくて,今の現状をみんなが知らなきゃいけないんだなというふうに覚悟が 決まりまして,試算表を見せるようにしたんです。年3回。そしたら,どう やらみんな理系の人間で数字に強かったみたいで,『数字で表してくれると わかりやすい』と言ったんですよね」(第2回インタビューより隆行氏のコメ ント)と述べている。すなわち,経営危機に際してそれまで経営陣,さらに 言えば創業家と一部しか知ることがなかった財務数値を社内で開示した。ま た,社内の経理事務を担っていた理恵氏は「忘れっぽいから記録する」(第2 回インタビューより理恵氏のコメント)と冗談っぽく述べてはいたが,財務 リストラクチャリングを契機に簿記・会計のみならず,経営に関連するあら ゆる情報を見て理解できるようにシステムを徐々に整え始めた。こうして,

経営状況を社内に開示するとともに,その基礎となる情報を捕捉する仕組み を整えることが経営改善に大きく寄与したのである。

現在ではアイダメカシステムの組織成員全員が外部研修を積極的に提供す る取り組みを進めており,意思のある組織成員であれば誰もが自律的に学ぶ 機会を提供している。また,財務リストラクチャリングを開始して6年,

2016 年に終了することができた。

3.3.利益管理・原価管理の基本的考え方

同社では2つの製品群があり,次のような方法で原価管理が行われている。

まず,自動化装置・ロボット装置の製作では,隆行氏が受注管理を行って いる。これは,企業を代表する社長自らが顧客とのコミュニケーションを綿 密に行うことでスピードアップを図るためである。製品仕様を決定する過程 で材料費や労務費等の積算を行い,見積計算シートを作成する。具体的には,

材料費+(設計時間+作業時間)×@時間単価×人数で計算される。図表1 ( 15 )

(16)

で確認したように,設計時間と作業時間の見積もりと,利益が含まれる時間 単価をどのように設定するかがポイントになる。ただし,顧客満足度を高め るために品質向上を図ることはもちろんのこと,「『お客様のお客様』が持っ ている問題を解決できるような提案を行い,直接お客様に喜んで頂く装置・

サービスの提供を行う」(第2回インタビューの隆行氏のコメント)ことを主 眼にし,納品までのスピードを向上することにより付加価値を高めることを 重要視している。これは,まさに経営理念やミッションを具現化することで ある。また,「お客様のグチを聞く」(第2回インタビューの隆行氏のコメン ト)ことで新規開拓を図るとともに,付加価値が大きい提案が可能になるの だとも述べている。

次に,船舶用エンジン部品の加工では,材料は取引先から受け入れ,加工 して払い出している。この事業では受注金額や単価,ロット数も組織成員全 員が把握している。材料を受け入れているため材料費はほとんどかからず,

工数×時間単価(チャージ)で概ね計算する。時間単価の算出は過去の実績,

経験則をもとに判断している。この場合も図表1と同様で受注時点で売上が 確定するので,歩留まり,能率向上による作業時間短縮が利益管理や原価管 理として最も適当な手法となる。これに加えて,近年では労働基準法 36 条

(いわゆる 36 協定:休日・時間外労働に対する管理/有給取得)に基づく労 使協定に基づく勤務時間の遵守が重要なポイントであり,作業時間の短縮の ための効率化をいかに図るかが課題である。

3.4.MCSの概要とその成果

アイダメカシステムの経営上の大きな特徴として,企業規模の拡大を追わ ないことが挙げられる。これは,隆行氏曰く「社員(従業員:筆者注)の努 力によって生み出された付加価値はできるだけ給与や賞与として還元した い」(第1回インタビューより)との考えからであり,売上を伸ばすことより

( 16 )

(17)

も組織成員への還元を増やせる付加価値の獲得を重視している。そこで業績 管理は,次のように進められる。

まず,年度始めに経営方針,経営計画の発表を隆行氏が社内向けに行うと ともに,従業員からも部署や個人目標の発表が行われる。また,賞与月2回 と昇給月の年3回,組織成員全員と個別ミーティングを実施している。財務 リストラクチャリングの過程で企業の置かれている状況を理解してもらうた めに試算表を提示していたが,2018 年からは売上・支払(仕入と外注),経常 利益率といった会計情報と合わせて従業員個人の実労働時間,給料(年収)

の推移を提示するようになった。その効果について隆行氏は次のように述べ ている。すなわち,「ただ,みんなで見るようになってから,人の財布じゃな くて自分の財布っていう意識が(生まれてくる:筆者注)。(中略)会社の財 布がひとつっていうのが,何となくわかってきたと言うか。(中略)財布ひと つなので,良ければお小遣いが増えるし,悪ければ,徴収はできないにして も,締めていかなきゃいけないっていう感覚は,皆さん持ち合わせてくだ さっている」(第2回インタビューより)という。

また,これをさらにサポートするものとして,同社では理恵氏が従業員そ れぞれの「ケースワーク」を作成しているという。「ケースワーク」とは各組 織成員のカルテのようなもので,入社時からの実労働時間や給与の推移,担 当製品の売上,費用,利益の推移を把握し,業績管理に活用しているという。

これは,理恵氏が介護福祉士として勤務した経験があり,担当ごとにケース ワークを作ることが当たり前であったが,「社員1人1人のカルテがないこ とが不思議に思った」(第2回インタビューにおける理恵氏のコメント)こと を契機に社員の状況を把握するケースワークを作成し始めたという。これが 2018 年以降の個別ミーティングで組織成員に提示される基礎的なデータと して提示され,その業績管理に用いられている。

労務管理やタスク管理においては,それまで紙ベースで行われたさまざま ( 17 )

(18)

な作業を 2018 年頃からチャットツール,タスク管理ツール,共有カレン ダーなどで情報共有を進めている。それまでは社に戻って顔合わせをしなけ れば互いに情報を交換することができなかったが,事業と限られた経営資源 を活用して業績を高めるためにツールを積極活用した結果,面会しなくても 各プロジェクトの進[状況が把握できるようになっている。また,近年では 労働基準法 36 条の遵守を図るため,全ての従業員それぞれの勤務時間管理 表を掲示し,組織成員に対する注意喚起を行うようにしている。こうした MCSとは別に,理恵氏からある表を示して頂いた。

図表2は,提示された同社の社歴をまとめた一覧表をもとに再現したもの である。ここには,経営を引き継ぐ前から同社で起きた出来事を端的にまと められている。大区分としてお金(会計),人(人事),取り組み(社内にお ける活動),働き方(労務関係)の4つが設けられ,それぞれの年度ごとの概 要がA3用紙1枚にまとめられている。お金に関することであれば,売上,

利益,材料費,労務費といった社内で共有されている会計数値の推移が示さ れている。人の項目では従業員数,入社した人,退職した人の名前が表記さ れ,どの部門に配置されているかが一覧で把握可能である。理恵氏は事務長 としてこの表を常に手放さずにしている。時に重要なことがあれば見返し,

いつどのようなことがあったのかを振り返っているという。

以上のように,経営者の世代交代と財務リストラクチャリングという経営 危機に際してMCSの整備を進めてきたが,このようなシステム導入がもた らした影響はどのようなものであったのだろうか。インタビューに回答して 頂いたお2人が口をえて答えたのが次のようなことであった。

すなわち,隆行氏が事業承継後,創業者時代から勤務していた従業員が定 年を迎え,人員の入れ替わりが起きた。それとほぼ同時期に経営再建や安定 化のために数値による管理を導入した結果,リーマン・ショック以後に入社 した従業員の間でも会社の方針に付いていける人といけない人が出てくるよ

( 18 )

(19)

図表2 アイダメカシステムの社歴をまとめた一覧表

14 期 15 期 16 期 17 期 18 期 19 期 20 期 21 期 22 期 23 期 H22 H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 H30 H31 単位:千円 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年 2015 年 2016 年 2017 年 2018 年 2019 年

売上 利益(税引前) 材料費+製造経費

労務費 総製造費用

(備考)

入社(人数)

(氏名)

退職(人数)

(氏名)

期末人数 設計 資材 組立 加工 事務・資材・組立

備考

社長 現場

総務

感想

休日

(日数)

(休み方)

(備考)

感想

出所)同社より提供された資料を参考に筆者作成

( 19 )

(20)

うになったという。

一方で,現在でも残っている従業員は方針について納得しているとも述べ ている。以前,「取引先の会長さんが,『お宅の規模の会社だったら,相撲部 屋が理想だよ』って言ってくれたことがあって」(第2回インタビューにおけ る理恵氏のコメント)とのアドバイスがあったそうだが,同社では規模の拡 大を目指すよりも小規模でありながらも心と身体とお金のバランスを鑑みる ことで「企業としての力量が高まっている実感」(第2回インタビューより)

を得られるような経営が推進されている。

3.5.インプリケーション

ここまでアイダメカシステムを事例として,小規模製造企業における MCSの整備プロセスを確認してきた。

先に述べたように,上總(1989)によれば,責任会計制度は予算統制に よって生じた企業内部の歪みを人間関係論的改革として行うことによって整 備され,会計責任と現業管理者の個人責任を紐付ける形で生まれてきたとさ れる。また,冒頭で触れたように,特に受注生産型の中小製造業においては,

取引や計算構造上,貨幣量管理よりも物量情報による管理すなわち,「記録行 為そのものによる管理」(高橋 2017)が効きやすい状況にある。

ここまで確認してきたように,経営管理に用いている仕組み,会計情報に 特徴は見られない。むしろ一般的に用いられる管理手法を導入しただけに過 ぎない。しかし,本事例で特徴的なことは,それまで経営陣のみが知ってい た会計情報を「良いとか悪いとかじゃなくて,今の現状をみんなが知らな きゃいけないんだなというふうに覚悟が決ま」(第2回インタビューにおけ る隆行氏のコメント)ったことを契機に開示したことにある。以来,同社の 経営方針として掲げられている付加価値の組織成員への総分配を掲げるとと もに,組織成員全員のケースワークを策定し,個人の業績をもとに年3回の

( 20 )

(21)

個別ミーティングを行っている。こうしたMCSの整備により,自社の経営 状態が把握できるようになるのみならず,会社としての方針を組織成員(従 業員)と共有し,彼らの同意・納得を得た経営を進めることが可能になって いる。つまり,組織成員が自らで企業目標とのリンクを取れるようなMCS のデザインが行われていると言える。

これを管理会計の2つの機能という視点から捉えると,財務管理機能と動 機づけ機能の双方が発揚していると言える。すなわち,利益管理を時間や数 量といった物量管理といった現業統制のみに意識づけするのではなく,組織 成員個々人の活動が利益目標達成のプロセスに位置づけられていることを意 識するようにシステムをデザインすることで,従業員 10 名程度の小規模企 業者であったとしても十分に機能するMCSが構築できることをこの事例は 示唆している。

4.お わ り に

本稿では,受注生産型の小規模製造企業における利益管理が,製造現場に おける時間管理と一体化していることを起点に,そのMCSをいかに設計す るかを明らかにするために,従業員数 10 名程度の小規模製造企業における 経営管理実践を調査した。これにより,小規模製造企業においても利益管理 を時間管理や物量管理に閉じ込めることなく,組織成員自らがその活動に よって利益創出に寄与していることを意識させることによって,企業目標を 受容し,それに動機づけられることが明らかになった。

アイダメカシステムでは,事業承継と財務リストラクチャリングを契機と して,会計情報に基づくMCSが徐々に整備されていった。その過程の中で 試算表を開示するという形で組織成員に経営状況を明らかにするのみならず,

情報開示を推し進めて組織成員個々人の業績をケースワークにまとめること ( 21 )

(22)

によって業績管理が行われるようになった。これも同社の状況を組織成員全 員に知らしめるとともに,生み出した付加価値を分配するという経営方針が あってのことである。結果として,企業経営に関わる情報の組織成員への開 示によってその動機づけを意識したMCSの構築へとつながっており,管理 会計の2つの機能である財務管理機能と動機づけ機能の発揚へとつながって いる。つまり,組織成員の合意・納得を引き出すために情報公開と情報共有,

企業目標と個人目標とが簡素な経営管理手法でリンクできるようにしておく ことが小規模製造業におけるMCSのデザインを行う上でのポイントになる ことを示唆している。

しかし,本稿の限界は単一ケースによってこれを明らかにしていることで ある。企業の管理会計を考察する上では,経営管理の階層化(戦略的計画設 定,マネジメント・コントロール,現業統制)が分析フレームワークとして 有用であるが,本稿で考察したような従業員 10 名程度の小規模企業者では 経営者が現業統制にも関わっている。つまり,組織が階層化され,機能分化 が明確になっている企業群とは異なり,その実務においては機能が渾然一体 となって発揮されていることが推察される。また,中小企業を観察対象とす る意義は,その経営活動が大企業に比して簡素で,経営活動とその記録,計 算,報告という情報生成プロセスと関連付けが容易であり,簿記や会計の本 質的機能を観察できると考えられる。小規模企業者の管理会計実務は,「ど んぶり勘定」という言葉に象徴されるように経営者個人に帰結することが多 く,可視化されたシステムに落とし込まれたものばかりではない。これをい かに可視化されたシステムに落とし込むか,落とし込まずとも機能している のだとすればそれは何がポイントになるのか,明らかにするべきことはまだ まだ多々あるように思われる。

( 22 )

(23)

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参照

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