奈良教育大学学術リポジトリNEAR
たて編布の二軸伸長理論の応用(第1報)−二軸伸 長におけるヒステリシス挙動−
著者 柳川 良樹, 川端 季雄
雑誌名 奈良教育大学紀要. 自然科学
巻 30
号 2
ページ 125‑132
発行年 1981‑11‑25
その他のタイトル Applications of the Biaxial Tensile Theory of Warp‑knitted Fabrics (Part 1) −Hysteresis Behaviour on Biaxial Tensile Deformations−
URL http://hdl.handle.net/10105/2360
たて編布の二軸伸長理論の応用(第1報)
‑二軸伸長におけるヒステリシス挙動‑
柳 川 良 樹 川 端 季 雄 (奈良教育大学家庭管理教室) (京都大学工学部高分子化学教室)
(昭和56年4月30日受理)
Applications of the Biaxial Tensile Theory of Warp‑knitted Fabrics (Part 1)
‑Hysteresis Behaviour on Biaxial Tensile Deformations‑
Yoshiki Yanagawa
{Department of Home Economics, Nara University of Education, Nara, Japan) and
Sueo Kawabata
(Department of Polymer Chemistry, Kyoto University, Kyoto, Japan) (Received April 30, 1981)
Abstract
A biaxial tensile deformation theory of warp‑knitted fabrics was developed by the authors in previous papers.
By applying this theory, a method is proposed here for calculation of the recovery property in the case where the direction of fabric‑stretching is reversed.
Using some of actual fabrics, the theoretical predictions calculated by this method are compared with experimental measurements. The result shows that this theory has enough accuracy to estimate the property.
The effects of the medlanical properties of yarn constituting the fabrics on the hyster‑
esis behaviour of the fabrics are discussed.
1 緒 昌
筆者らは別報において,たて編構造をもつ布の内, 1枚おさにより編成された編布と2枚おさ により編成された編布それぞれについて,その二軸伸長変形を解析し,伸長特性の計算式を理論 的に誘導した1‑3'.さらに,実験的にそれらの理論の精度を検証し,誤差の修正法を見出し,そ の予測計算が可能なことを示した4‑6'・しかし,これらの研究では,二軸変形の伸長増加過程の みを問題とし,伸長からの回復過程については触れていない・
一般に,たて編布に繰返し伸長を与えた場合の荷重一伸長比曲線をとると,最大伸長比1.m がかなり小さい場合でも,大きなヒステリシスが観察される・このため,本報では,二軸伸長か
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らの戻り過程の特性を,別報2・3)の理論を通用して理論的に計算する方法を示し,その計算値と 実験により求めた実測値とを比較する.そして,たて編布の二軸伸長のヒステリシスに糸の曲げ, 圧縮,伸長のヒステリシスがどのように関与しているかを検討する.研究対象としては, 2枚お
さにより編成された閉じ目の編布をとり上げる.
2 戻り過程の理論計算法
2枚おさで編成された編布の伸長過程においては,別報2,3)で述べたように,糸の曲がりが引 き伸ばされる伸長変形,ループ間の糸の滑り移動,糸交差点における横圧による糸の圧縮変形, および糸自身の伸長変形が生じる.伸長からの戻り過程では,伸長過程とは逆の変化をたどると 仮定すると, (I)糸の曲げ変形の回復特性, (I)糸の伸長変形の回復特性, (no糸の圧縮変形の 回復特性, (IV)戻り過程での糸間の摩擦の効果,が問題となる.そこで,まず,二軸伸長の戻り 過程においても,伸長過程と同様に,糸の曲げ効果値域と糸伸長効果領域の2つの領域に分け, それぞれの特性を別々に計算し,その結果をひずみ加算方式により重畳する方法7)をとる.そし て,二軸伸長理論2,3)において,曲げ効果領域では円孤状細棒の伸長変形の計算式に代り,次に 述べるように,繊維問摩擦をもつ円孤状の糸の伸長変形からの戻り過程の計算法を用い,糸仲島 効果嶺域では糸の伸長特性,圧縮特性に代りそれぞれの回復特性を用いることとする.このとき, 二軸伸長理論を用いて,任意の伸長比*1, hを与えて,最大伸長比Almax> *2maxから逆に計算し, 伸長荷重Flf F2を求めれば,戻り過程の二軸伸長特性が得られる・ここで,添字1および2は,
それぞれウェール方向,コース方向に関するものであることを示す.なお,本計算は最大伸長比
*lmax> ^2Mを出発点として行うので,糸の滑り移動の方向は伸長過程の場合と逆になる.
次に,本理論計算に直接用いる糸の曲げ,伸長,圧縮それぞれの回復過程の具体的な計算法と 回復過程における糸間の摩擦について述べる.
(1)糸の曲げ変形特性
多数の繊維の集合体よりなる糸は,糸内部での繊維問摩擦のため,円孤状の糸の両端を伸長す る場合と,その伸長を回復させる場合とでは,異なる挙動を示す.
繊維問摩擦をもつ糸に大たわみ変形を与えるときの変形過程および戻り過程における力と変形 の関係を川端ら8)は理論的に解析し,糸の曲げ剛性Bとそのヒステリシスの幅2HBより,両端 固定の円孤状の糸の伸長比と力の関係を誘導している.この結果によると,通常の糸がもつ程度 の繊維間摩擦は,力の増加過程においては初期特性を除いて力と変形の関係にほとんど影響が現 れないが,戻り過程においてはその影響が大きく,力と変形の関係はα値(‑2H,‑/o/B)に支 配されることを明らかにしている.ここで, Joは糸の円孤に沿う長さである.本研究においても, この川端らの理論を用いて,円弧状の糸の伸長からの戻り過程の計算を行うこととする.なお, 2HBの値は,川端9)により試作された曲げ変形測定装置(KES‑F2)により,糸の曲げ変形ヒス テリシスループを実測し,曲率ゼロにおけるヒステリシスの幅より求めた.
(2)糸の伸長特性
糸の伸長ヒステリシスの実測例を図1,図2に示す.この戻り過程の挙動は複雑で,これらの 特性を関数で表現したり, 1本の近似マスター曲線で置き換えたりするのは困難である.粘弾性
入y
図1糸伸長特性のヒステリシス(ナイロン糸100den,#1と#2試料の編糸)
入y
図2 糸伸長特性のヒステリシス(綿糸31'S, ‡4試料の編糸)
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挙動を説明するのに用いられている MaxwellモデルやEynngの三要素モデルを用いて記述す る方法10)など,多くの方法が提案されているが,適用範囲が限られたり,小変形のみの場合であ ったりして,いずれも不完全である11)このため,戻り過程の最大伸長比により回復特性をいく つかのグループに分け,そのグループ内で1本の近似マスター曲線を作る方法を用いる.この場 令,近似マスター曲線の伸長比1,と伸長荷重Tとの関係が
T ‑fQy) (1)
で表されるとするとき,回復特性の糸の伸長比もと伸長荷重Tの関係が上式にほぼ正比例する 範囲を1グループとして分割する.厳密に正比例する範囲は狭いが,本研究の理論計算に用いる 場合では, 5 グループの分割で十分である.したがって,糸伸長比),に対する回復特性の 荷重Tは,近似マスター曲線より比例計算で求められる.なお, (1)式は一般に単純な関数で表 現できないので,伸長増加過程の場合61と同様に,コンピュータによる数値計算により,編布の 戻り過程の特性を求めた.
なお,編布の伸長一回復変形に伴うヒステ7)シスには,速度依存性が少なく,糸問摩擦や繊維 間摩擦が優越しているので,繊維のレオロジー効果は大きくない.しかし,計算に用いる糸の等 速伸長一回復変形の測定では,その測定時の変形速度を編布の等速変形試験時に受ける糸のひず み速度とほぼ等しくした.このため,本計算では,データとして用いる糸の伸長特性や圧縮特性 にはレオロジー効果が含まれているので,こうした効果も含んだヒステリシスを求めていること になる.
(3)糸の圧縮特性
2枚の平板で糸をはさみ,圧縮変形を与えたときの糸の圧縮特性のヒステリシスを図3,図4 に示す.これらの図においても見られるように,一般に糸の圧縮特性は,圧縮過程では低荷重域 において変形の大部分が生じ,その後は荷重にはぼ正比例してわずかに変形する.これに対し回 復過程では,荷重がかなり減少するまで変形の回復はあまりみられず,ごく低い荷重域において 変形の一部が回復する.荷重を除いた後の遅れ回復はかなり認められるが,ここでは遅れ回復は 問題にせず,瞬間回復のみを考える.回復特性は回復過程に移るときの最大荷重にあまり依存せ ず,同じような形状を示し,又大きなヒステリシスを持つ.このような糸の圧縮からの回復特性 を理論計算に用いるには,上述の糸の伸長特性の場合と同じく,回復時の最大荷重によりいくつ
図3 糸圧縮特性のヒステリシス (ナイロン糸100den)
Q.gf/nrvn
図4 糸圧縮特性のヒステリシス (綿糸31'S)
かのグループに分け,それぞれのグループ内で1つのマスター特性曲線を作る方法で行う.なお 本研究で実測する糸の圧縮特性は2平板方式によるものであるので,圧縮過程の場合と同じに, 回復過程の特性も糸内部の圧力分布を考慮して誘導された川端12'の補正式により補正した.
(4)糸間の摩擦
二軸伸長理論においては,編目交差部での糸の接触角を打とし,交差部を介して連結する2つ のループの引張力の比は,糸問の摩擦係数を〃として, e即より小さいか等しくなくてはならず, 計算の過程でe即より大きい場合は, e即に等しくなるまで糸は交差部を滑ってループ間を移動 すると考え,各ループにかかる力を決定した.この伸長過程に対し,戻り過程では糸の移動は反 対となり,摩擦力は逆に働く.したがって理論計算では摩擦の極性は反転する.
しかし,摩擦特性は特に低荷重域において著しい荷重依存性を示すことが知られている.この ため,低荷重域のヒステリシスを問題にする場合には,この糸張力に基づくものとは別の独立し た接着力あるいは摩擦係数の荷重依存性を考慮する方が,より現実の状態に近づけることができ る.しかし,ここでは残留伸びや低荷重域のヒステリシスにいくらかの誤差を伴う可能性がある が,計算の簡単化のため,摩擦係数の極性を反転させるだけで,摩擦係数は一定とする.
3 実験試料および実験方法
一方,実際のたて編布について,その二軸伸長ヒステリシスを実測した.実験に用いた試料の 構造定数および構成糸の力学定数を表1に示す.これら定数の測定法は別報4'6)の場合と同じで ある.又,二軸伸長特性は坂口,川端ら13'によって試作された大変形用二軸引張試験機を用いて
表1 実 験 試 料
試 料 番 号 ォ1 ‡ ft 3 ft 4
使
糸
3
24
10
柿
130
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測定した.なお,この測定においては,最大伸長荷重を10kgf/7.5cmと定め,ウェール方向あ るいはコース方向のどちらかの伸長荷重が10kgf/7.5cmに達した場合,そこで伸長から回復へ 変形方向を転換させた.この最大荷重は衣服が使用状態において受ける荷重で最高に近い値であ るが,最大荷重が大きいほどヒステリシスは明確となり,個々の要因の分析が容易になるため, このような使用状態での極限値に近い値を採用した.
4 実測値と計算値の比較
前述の方法により二軸伸長理論をその戻り過程の特性計算に通用して,表1の試料について, それぞれの戻り過程の二軸伸長特性を理論計算した.そして,伸長過程の特性と合せてヒステリ
シス曲線を得た.これと上記の実測値とを比較し,理論の精度を検討した.
実測値と理論計算値の比較例として,図5に‡3試料,図6に‡4試料の場合を示す.実線が 実測値で,点線が理論計算値である.これらの図より本研究の理論計算法はかなり高い精度を持
0
∈ U
\
* 6 )
│ '
」
3 1蝣U 15
10 11 1‑5 人1
図5 二軸伸長ヒステリシスの理論値と実測値 の比較(‡3試料)
つことがわかる.伸長過程において理論計算 値と実測値との一致度が良いものは,戻り過 程においてもその一致度は高い.計算値と実 測値の間に差のある場合でも,戻り過程の両 者の形状は良く似ており,その差は主に戻り 過程の出発点,すなわち最大荷重の理論計算 値の誤差に基づくものであることがわかる.
なお,図のk,klは図中に示したように二軸 変形様式7)を示す.
1.2 13 人1
I.4 1.5
図6 二軸伸長ヒステリシスの理論値と実側値 の比較(#4試料)
5 糸の性質が二軸伸長の戻り過程の特性に及ぼす影響
上述のように,二軸伸長の戻り過程について,かなりの精度で予測計算できることが確認され た.次に理論に導入されている糸の性質がどの程度編布の二車酎中長からの戻り過程の特性に寄与
しているかを検討する.
(1 )糸の曲げ変形特性の影響
二軸伸長の戻り過程の理論計算において,曲がった糸の伸縮挙動は完全に弾性的である,すな わち糸の曲げ変形特性にヒステリシスはないと仮定して計算を行うと,図7に一点鎖線で示すよ うになる.この結果と糸の曲げヒステリシスを考慮した点線の理論計算値あるいは実線の実測値 との比較より,糸の曲げ変形特性のヒステリシスが編布の二軸伸長の戻り過程の特性に与える影 響を推定することができる.編布変形前の糸の曲がり(たるみ)の大きいものはその影響が大き
く,紡績糸の編布‡3試料のように,変形前の糸の曲がりの小さいものはその影響も小さい.す なわち糸の曲げ変形のヒステリシスの影響と同時に,変形前の糸の曲がりの程度にも依存するこ
とがわかる.
(2 )糸の伸長特性の影響
図7(a)に示した#1ナイロン100denサテン編布の場合について,最大荷重時に各編目ルー プの糸にかかる荷重または糸の伸長比を二軸伸長理論を用いて逆算すると,図1の糸の伸長特性 曲線に○印で示した値となる・ nf, SIはそれぞれフロント糸のニードルループ,シンカール‑プ の値であり,ォi.Sbはバック糸のニードルループ,シンカーループの値である.この場合の糸の 伸長比んは最大でもフロント糸のこ一ドルループでa,‑1.009前後と,小さい値である.これ より戻り過程に変形が移るので,糸に生じる伸長ヒステリシスはごく微小であるか,又は弾性限 界内にあると考えてよい.したがって,この場合,糸の伸長ヒステリシスは編布の二軸伸長のヒ
ステリシスにほとんど寄与していないといえる.
一方,紡績糸で編成きれた編布では,糸に生じる最大伸長比が小さい場合でも,例えば図2に 示したように,かなりの糸の伸長ヒステリシスが認められるので,この影響は無視できなくなる.
上述と同じ逆算をu4綿ハーフ試料について行うと,図2の○印の結果になる.この点より戻り 過程に移るものとすると,糸の伸長特性にかなりのヒステリシスが生じ,編布の二軸伸長のヒス
テリシスに大きな影響を与えることがわかる.
H Ai
a)ォ1試料
11 1.2 A,
(b) *2試料
図7 二軸伸長ヒステリシスの理論値と実測値の比較 (一点鎖線は糸の曲げヒステリシスを考慮しない場合の理論値)
(3)糸の圧縮特性の影響
編布の二軸伸長過程において糸の圧縮特性が大きな影響を持つことは,すでに別報で示した6).
図3,図4のように,戻り過程においては圧縮された糸の太さの回復があまりみられないので,
これからも編布の二軸伸長ヒステリシスに対する糸の圧縮特性ヒステリシスの寄与の大きいこと
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