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心像性の高い手がかりが自己関連記憶の気分一致再生に与える影響

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(1)

心像性の高い手がかりが自己関連記憶の 気分一致再生に与える影響

宮﨑 章夫

 気分一致再生と呼ばれる現象により、不快な気分のもとでは、快感情をともなう自己関連 記憶を想起しづらくなる。本研究の目的は、気分一致再生を防ぐ方法を明らかにすることで ある。記憶の想起しやすさを左右する要因として、記憶を引きだす手がかりに注目した。大 学生と専門学校生110名に対して、快感情を意味する抽象語、不快感情を意味する抽象語、内 容をイメージしやすく、なおかつ内容が快と評価される単語(高心像語)の

3

種類を手がか りとして提示し、それにまつわる記憶の想起を求めた。快感情を意味する抽象語を手がかり にすると、不快な気分の人は快記憶を想起するのに困難を示した。それに対して、高心像語 を手がかりにすると、不快気分のもとでも快記憶を容易に想起することができた。高心像語 が気分一致再生を回避する認知的過程について考察した。

Ke y wor ds :

自己関連記憶,気分一致再生,心像性,快感情

 自己に関する情報を含む記憶を自己関連記憶という。そのなかでも、自己にとって重要な 記憶を自伝的記憶と呼ぶこともある

( Robi ns on & Swa ns on, 1990)

。自己関連記憶は自己概念 を支える知識体系であり、本人の精神的健康とも深く関係している。近年になり、自己関連 記憶を糸口にして、青年や高齢者の精神的健康を増進させようとする実践がみられるように なった。本論は、自己関連記憶と気分との関連性について検討した基礎研究である。青年一 般を研究対象にしているが、実証的な知見にもとづき、現場での実践に資する理論を生成す ることまでを射程に入れている。

 自己関連記憶のなかでも、想起者が快と評価する内容の記憶(快記憶)には注目すべき機 能がある。従来から実験室実験では、快記憶を想起することにより、当人の不快気分が緩和 したり、生活満足度が高まることが明らかにされてきた

( Ske i e , Ske i e , & St i l e s , 1989; St r a c k,

Sc hwa r z , & Gs c hne i dnge r , 1985)

。また青年を対象とした介入研究では、快記憶の内容を筆記 することが、健康の維持に貢献するという知見が得られている

( Bur t on & Ki ng, 2004)

。さら に回想法とよばれる実践では、認知症を抱えた高齢者に、懐かしい記憶を語ってもらう取り 組みも始まっている。回想の効果としては、当人の感情が安定する、精神機能が活性化する、

社会的交流が増すことなどがある

( Kl a us ne r , Cl a r ki n, Spi e l ma n, Pupo, Abr a ms , & Al e x opoul os , 1998;

黒川,

1994)

。このように快記憶の機能は、基礎研究と実践をまたいで注目されている。

 ただし、あらゆる人が快記憶の機能を等しく活用できるわけではない。不快な気分になる

『人文コミュニケーション学科論集』

7, pp. 55- 67. © 2009

茨城大学人文学部(人文学部紀要)

(2)

と、人は快記憶を想起しづらくなってしまう。こうした現象は、気分一致再生と ばれる。

 気分一致再生とは、記憶の再生処理が気分と一致するように偏る現象である。不快気分が 自己関連記憶に与える影響は

3

つある。まず快・不快の程度、すなわち感情価への影響があ る。不快気分のもとで自己関連記憶を自由に想起すると、不快な内容の記憶(不快記憶)が 多く想起される。たとえば気分が不快になる映像を見た人は、その後に自己関連記憶を想起 するように求められると、不快記憶を想起しやすい

( Si nge r & Sa l o v e y , 1996)

。つぎに想起容 易度への影響がある。不快な気分の人が快記憶を意図的に想起するためには、多くの心的努 力を必要とする。その端的な例として、抑うつ状態にある人は、快記憶を想起するまでに長 い時間がかかる(

He a l y & Wi l l i a ms , 1999; Ya ng & Re hm, 1993)

。そして鮮明度への影響であ る。抑うつ傾向や神経質傾向というパーソナリティー特性が強い人は、不快な気分になると、

快記憶の内容を鮮明にイメージしづらくなる(

Ma r t i n & Wi l l i a ms , 1990)

 以上で述べてきた先行研究を総合してみると、青年から、高齢者、臨床群まで、不快な気 分の人には何らかの気分一致再生が生じている。すでに述べたように、快記憶は想起者の感 情状態を調整する機能を持っている。その機能をとくに必要としているのは、不快な感情状 態におかれた人であろう。ところが実際には、不快な気分の人ほど、快記憶の恩恵を得づら くなってしまうのである。

 気分一致再生を回避することができれば、多くの人が快記憶の機能を利用しやすくなる。

実験場面では、気分一致再生を防ぐ ひとつの方法が見出されている。Mc

Fa r l a nd & Roge r ( 1997

・1998)によれば、想起者の注意を自己の気分へ向けさせると、不快な気分であっても 不快記憶は想起されない。自己の不快気分に気づくと、その気分を修復しようとする意図が 本人に生じるためであると考えられている。この実験が示すように、不快な気分になっても、

快記憶の痕跡そのものが消えてしまうわけではない。そのため本人が努力をすれば、快記憶 を想起することはできる。

 しかしながら気分一致再生は想起容易度にも生じる。つまり不快な気分の人が快記憶を想 起するためには、かなりの努力をせねばならない。それゆえに本人の努力に任せた方法が、

あらゆる人に使えるとは考えづらい。たとえば注意機能の低下した高齢者は、自分の認知過 程をモニターして、コントロールすることが得意ではなくなる

( Roge r s & Fi s k, 2001)

。また 年齢に関わらず、自分の感情に気づき、その状態をコントロールすることが苦手な人はいる

( Sa l o v e y , Ma ye r , Gol dma n, Tur v e y , & Pa l f a i , 1995)

。認知や感情を自己コントロールするのが 苦手な人にとって、自分の努力だけで快記憶を想起するのは難しいことである。幅広い層の 人々に快記憶を想起してもらうためには、本人に大きな負荷をかけずに記憶を引きだす方法 を考えねばならない。

 想起にともなう負荷を減らすために、本論では、記憶を引きだす手がかりに注目していく。

ふだん他者に快記憶を想起してもらうときには、しばしば“楽しかったことを思い出してく ださい”というような言葉をかける。これと同じように、実験場面で快記憶を引きだすとき

(3)

にも、感情を意味する単語を手がかりに使ってきた(神谷,

2004; Wi l l i a ms , 1995

)。この方法 は“幸せ”、“安全”などの感情語を相手に提示して、それにまつわる具体的な出来事を想い だすように求める。

 ただし長期記憶のなかで、自己関連記憶は、感情語のような抽象概念と結びついて貯蔵さ れてはいない

( Conwa y & Be ke r i a n, 1987a )

。そのため感情語を手がかりにすると、抑うつ気 分の強い人は快記憶を想起するまでに長い時間がかかる。感情語を手がかりにした検索は、

不快な気分の人に対して、多くの心的努力を強いるのである。

 感情語よりも記憶を容易に引きだす手がかりとして、内容を視覚的にイメージしやすい単 語(高心像語)がある。自己関連記憶は物語の形式で表現されることが多く、言語により構 成されていることが強調されている(例えば,

Ne i s s e r , 1994

)。それで見過ごされがちである が、実際には記憶は視覚的情報とも深く結びついている。自己関連記憶とイメージとの関連 性を示す研究は複数みられる。まず多くの自己関連記憶は視覚的情報を含んでいる。そのた め何かをイメージするだけで、本人に想起しようという意図がなくても、そのイメージを含 む記憶が引きだされることが多い

( Conwa y & Be ke r i a n, 1987b)

。また高心像語を手がかりに すると、抽象語よりも短い時間で、より具体的な自己関連記憶を想起することができる。お そらく高心像語が、記憶に含まれる視覚的情報を速やかに活性化させるためである

( Wa r r a n

& Domi ni c , 2004; Wi l l i a ms , He a l y , & El l i s , 1999)

 視覚的 イメージは記憶を想起させる有効な手がかりになる。この性質を利用して、宮﨑

( 2001a

2001b)

は、大学生からポティブ記憶を引きだす実験をおこなった。手がかりには、

多くの人が共通して快と評価する高心像語を用いた。その結果、高心像語は、感情語よりも 短い反応時間で快記憶を引きだした。さらに心的努力の指標である瞬目反応を測定したとこ ろ、高心像語を手がかりにすると、想起時の瞬目数も少ないことが明らかになった。反応時 間と瞬目反応の結果は、高心像語が、少ない心的努力で快記憶を想起させることを示してい る。そうであるならば、高心像語を使うことにより、不快気分のもとでも容易に快記憶を引 きだすことができるであろう。このような仮説にもとづき、本研究では、宮﨑

( 2001a

2001b)

が用いた高心像語を様々な気分の人に対して提示する。そして高心像語から快記憶を 想起する際の、想起容易度を調べる。

 想起容易度を調べる手続きとしては、想起に要する反応時間を測定する方法と、容易度の 自己評定を求める方法がある。反応時間法は客観性の高いデータを集められるが、時間的圧 力を与える方法であるため、不快気分の強い人にとっては負荷が大きくなりすぎる恐れがあ る。幅広い気分の人々からデータを集めることを優先して、本論では負荷の少ない自己評定 法を用いる。

 ところで、これまで気分一致再生が存在することを証明するために、参加者の気分を人為 的に操作する実験がおこなわれてきた。厳密な実験を積み重ねることにより、気分一致再生 が存在することを示す知見は、すでに数多く示されている(レビューとして、川瀬,

1996

)。

(4)

そこで 年は、たとえば うつ状態のように、もともと不快な気分にある人の自己関連記憶 にも 目が集まっている。気分一致再生が存在することは前提として、日常 に い状態 で、現象の性 を調べることが求められているのである。こうした研究には、方法 的にみ ても長所がある。気分 作の 作用として、その手続きそのものが、参加者の認知 に影 響を与えてしまうことが されている

(a r t & e a n s , 1985)

。この 作用を るためには、

自 に生じた気分を研究対象にすればよい。生態学的 当性と方法 上の 点を して、

本 でも気分の 作は ずに、日常生活のなかで生じた気分に 目していく。

方法 対象者

 先行研究は、青年が快記憶を想起することの効用を明らかにしている(

Bu r t o n &Ki n g , 2004)

。 こうした実践研究にも役立つデータを収集することを念頭において、本研究でも、気分一致 再生について知識を有しない大学生と専門学校生110名を対象にした(性別:男性39名,女性

71

名,不明

1

名。年齢:18-

24

歳,

M =20

歳,

SD =1. 2

歳)。氏名を書く必要はなく、研究への参 加は本人の自由であること、途中でいつでも実験を止めてよいことを伝えた。欠損値のある 対象者は分析ごとに除外した。

尺度と刺激

 気分尺度 独自に作成した16項目の気分形容語を提示し、過去

1

ヶ月間に、各気分を経験 した頻度を

6

件法で評定するよう求めた(

1

:全くなかった―

6

:いつもそうだった)。

 手がかり ポジテ ィブ な感情語(ポジ語)として“活気”、“楽しみ”、“満足”、“喜び”、

“自信”の

5

項目、ネガテ ィブ な感情語(ネガ語)とし て“ イラ イラ”、“孤独”、“落ち込 み”、“不安”、“悲しみ”の

5

項目、ポジティブな感情価をもち、なおかつ視覚的にイメージ しやすい語(高心像語)として“公園”、“笑顔”、“学友”、“運動”、“遠足”の

5

項目を用い た。高心像語は以下のような

2

段階を経て決定した。まず小川・稲村

( 1974)

が心像性を調査 した399語の単語リストから、評定値が5.

5

以上の高心像語を選出した。つぎに選出した単語 リストを20名の大学生に提示し、感情価を

6

件法で評定するよう求め(

1

:非常に不快―

6

:非常に快)、平均評定値が3.

5

以上の単語を採用した。以上の15項目を無作為な順序で配列 し、先頭に練習刺激

1

項目(“食事”)を加えて、B4用紙

1

枚に印刷した。

手続き

 20-

30

名ずつの集団で一斉に実施した。まず気分尺度への回答を求めた。つぎに用紙に印刷 した以下の教示を、実験者が読みあげた。1

)

ポジ語とネガ語は、その感情を感じた記憶を、

高心像語はそれにまつわる記憶を想起する。2

)

思い出す記憶は、ささいなものでも、重要な ものでもかまわないが、大学や専門学校に入学する前に自分自身が経験した出来事とする。

3 )

時代(例:中学生の頃)ではなく、ある状況で生じた特定の出来事を思い出すようにす る。4)最初に思いついた記憶を答える。

(5)

 1 回の練習試行の後、手がかりの提示順に15個の記憶を想起した。一つの手がかりから記 憶を想起したら、すぐ に想起の容易度を

6

件法で評定し(

1

:非常に大変―

6

:非常に簡 単)、その記憶を後に再び想起できるようにキーワードを

1

つメモして、次の手がかりに移っ た。すべての記憶を想起し終えた後、各記憶内容の感情価を

6

件法で評定した(

1

:非常に 不快―

6

:非常に快)。さらに各記憶内容を視覚的にイメージして、イメージの鮮明度(

1

: 非常にぼんやりしている―

6

:非常にはっきりしている)を評定した。最後に想起されたエ ピソードの期間(

1

:1 日以内の出来事、2:1 日よりも長い出来事)を

2

件法で回答した。

 想起は各自のペースでおこない、ある手がかりからど うしても記憶が想起できないときに は、次の手がかりに移ってよいことを教示した。実験終了後に、想起により気分を害した参 加者がいないことを確認した。すべての手続きの所要時間は40-

50

分であった。

結果 気分尺度

 人の日常的な気分の構造を調べた研究は、様々な気分が主要な二次元に要約されることを 一貫して示している。一方の次元は高い覚醒感をともなう快感情であり、ポジティブアフェ クト

( P A)

と呼ばれる。他方の次元は高い覚醒感をともなう不快感情であり、ネガティブア フェクト

( NA)

と呼ばれる

( Tha ye r , 1989; Wa t s on & Te l l e ge n, 1985)

。先行知見の再現性を確 認するため、バリマックス回転を伴う主成分分析により16項目の評定値を

2

つの主成分に要 約した。固有値の減衰率は3.

7, 3. 2, 1. 4, 1. 1, . 99

・・・であり、主要な

2

成分の存在を確認した。

項目の内容に基づき、第

1

主成分はNA、第

2

主成分はP

A

に相当する次元であると判断した

(

付録

1 )

 各主成分に対して絶対値が.

4

以上の寄与率を示す項目を選び、その評定値を各参加者内で 平均してP

A

得点とNA得点とした。P

A

得点の上位25%と下位25%に該当する対象者を選出し、

それぞれ高P

A

群(n=28,

P A

得点=3.

5- 5. 0

点)と低P

A

( n=30, P A

得点=1.

6- 2. 6

点)とした。ま たNA得点の上位25%と下位25%に該当する対象者を選

出し、それぞれ高NA群(n=29,

NA

得点=3.

4- 5. 0

点)と 低NA群(n

=27, NA

得点=1.

38- 2. 38

点)とした。不快な 気分状態にあるのは、高NA群と低P

A

群ということになる。

記憶の感情価

 以降では評定値

4

(やや快)以上を快記憶、評定値

3

(やや不快)以下を不快記憶とした。いずれのポジ 語も、90%以上の比率で快記憶を引きだした。また、

いずれのネガ語も、90%以上の比率で不快記憶を引き だし た。高 心 像 語が 快 記 憶 を 引 だし た比 率は66.

7-

86. 8

%であり、単語によって差があった(Ta

b . 1

)。

ŕŢţŭŦġIJġ

ࣞ૤௨ࢊ͈අ଻

ᚻ߇߆ࠅ Ყ₸ 2# 0#

㆙⿷

౏࿦

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ᵈ䋩Ყ₸䋺䊘䉳䊁䉞䊑⸥ᙘ䈏ᗐ⿠䈘䉏䈢ഀว㩿㩼䋩㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㪧㪘䋺ᗵᖱଔ䈫 㪧㪘 ᓧὐ䈫䈱⋧㑐ଥᢙ㩷 㩷 㩷 㩷 㩷 㪥㪘䋺ᗵᖱଔ䈫 㪥㪘 ᓧὐ䈫䈱⋧㑐ଥᢙ㩷

㪁㪁㪑㩷㫇㩷㪓㩷㪅㪇㪈㩷

(6)

 感情価の点に気分一致再生が生じていたのかを調べるため、高心像語が引きだした記憶の 感情価と、P

A

・NA得点との間でピアソンの相関係数を算出した。その結果“運動”では、

P A

得点と感情価の間に有意な正の相関が認められたことから、この項目には気分一致再生が 生じていたことが明らかになった。その他の

4

項目では有意な相関は見られなかったことか ら、気分一致再生は生じていなかったことが確認された。

 本論の目的は、快記憶を引きだす手がかりを明らかにすることである。研究目的を勘案し て、高心像語条件で不快記憶が想起された場合、そのデータを以降の分析から除外した。ま た実験教示に反するという理由から、ポジ語条件において不快記憶が想起された場合、およ びネガ語条件において快記憶が想起された場合も、データを以降の分析から除外した。

気分と記憶の関連

 感情価 ポジ語、ネガ語、高心像語のそれぞれについて、参加者ごとに感情価の評定値を 平均して代表値とした

( Fi g. 1)

。この代表値を、高P

A

群と低P

A

群との間で、t検定により比較 した。その結果、ポジ語を用いた場合、高P

A

群は低P

A

群よりも快の度合いが高い記憶を想起 する傾向があった

( t ( 55) =1. 93, p < . 10)

。一方、高心像語

( t ( 55) =1. 16, n. s . )

とネガ語

( t ( 55) =. 23,

n. s . )

を用いた場合、有意差はみられなかった。つぎに同上の指標を、高NA群と低NA群との 間 で 比 較 し た。そ の 結 果、ポ ジ 語

( t ( 53) =. 09, n. s . )

、ネ ガ 語

( t ( 53) =. 38, n. s . ) ,

高 心 像 語

( t ( 54) =. 51, n. s . )

のいずれを用いた場合でも有意差はみられなかった。

 想起容易度 ポジ語、ネガ語、高心像語のそれぞれについて、参加者ごとに想起容易度の 評定値を平均して代表値とした

( Fi g. 2)

。この代表値を、高P

A

群と低P

A

群との間で、t検定 により比較した。その結果、ポジ語を用いた場合、高P

A

群は低P

A

群よりも快記憶を想起しや すかった(

t ( 55) = 2. 18, p <. 05)

。一方、高心像語

( t ( 55) =. 53, n. s . )

とネガ語

( t ( 55) =. 26, n. s . )

を用 いた場合、有意差はみられなかった。つぎに同上の指標を高NA群と低NA群との間で比較し た。その結果、ポジ語

( t ( 53) =. 10, n. s . )

、ネガ語

( t ( 53) =1. 18, n. s . )

、高心像語

( t ( 54) =. 24, n. s . )

のいずれを用いた場合でも有意差はみられなかった。

ķġ

Ķġ

ĵġ

Ĵġ

ijġ

IJġ

ࣞ૤௨ࢊġ

ŇŪŨŶųŦġIJįġġࣞ૤௨ࢊȂεΐΞͻήۜૂࢊȪεΐΞͼήȫȂġ

ȁȁȁȁġġΥ΄ΞͻήۜૂࢊȪΥ΄Ξͻήȫ̧̦֨੄̱̹ܱ؛͈ۜૂثġ

εΐΞͻήġ

਀̦̥ͤġ

೩ őł ߲ġ

Υ΄Ξͻήġ ȁȁȁȼȇp㧨

ࣞ őł ߲ġ ೩ ŏł ߲ġ

ࣞ ŏł ߲ġ ȼġ

ບ೰౵ġ

Ķġ

ĵįĶġ

ĵġ

ĴįĶġ

IJġ

ࣞ૤௨ࢊġ

ŇŪŨŶųŦġijįġġࣞ૤௨ࢊȂεΐΞͻήۜૂࢊȪεΐΞͼήȫȂġ

ȁȁȁȁġġΥ΄ΞͻήۜૂࢊȪΥ΄Ξͻήȫͬဥ̧̞̹͈͂ேܳယօഽġ

εΐΞͻήġ

਀̦̥ͤġ

೩ őł ߲ġ

ບ೰౵ġ

ɖġ

Υ΄Ξͻήġ ȁȁȁ

ɖ

ȇp㧨

ࣞ őł ߲ġ ೩ ŏł ߲ġ

ࣞ ŏł ߲ġ

(7)

 鮮明度 ポジ語、ネガ語、高心像語のそれぞれについて、参加者ごとに鮮明度の評定値を 平均して代表値とした

( Fi g. 3)

。この代表値を、高P

A

群と低P

A

群との間で、t検定により比 較し た。そ の 結 果、ポ ジ 語 を 用 い た 場 合、高P

A

群 は 低P

A

群 よ り も 鮮 明 度 が 高 か っ た

( t ( 54) =2. 45, p <. 05)

。一方、高心像語

( t ( 54) =. 93, n. s .

)とネガ語

( t ( 54) =. 99, n. s . )

を用いた場合、

有意差はみられなかった。つぎに同上の指標を、高NA群と低NA群との間で比較した。その 結果、ネガ語を用いた場合、高NA群は低NA群よりも記憶の鮮明度が高かった

( t ( 52) =2. 59, p

<. 05)

。一方、ポジ語

( t ( 52) =. 23, n. s . )

と高心像語

( t ( 53) =1. 00, n. s . )

を用いた場合、有意差は見 られなかった。

 エピソード の期間 15種類の手がかりごとに、高P

A

群と低P

A

群の間で、また高NA群と低

NA

群との間で、エピソードの期間をχ2検定により比較した。結果の量が膨大になるので詳 細は割愛するが、いずれの手がかりにも有意差はみられなかった。

考察

 本研究は、手がかりの種類が、快記憶の想起に与える影響を調べた。その結果、不快な気 分の人は、ポジティブ 感情語から快記憶を想起するのに困難を示した。それに対してポジ ティブ高心像語を用いると、不快な気分でも容易に快記憶を想起することができた。

 気分一致再生の確認 本研究では、高NA状態と低P

A

状態という

2

種類の不快気分が見出 された。高NA状態は、緊張などの気分を頻繁に体験している状態である。低P

A

状態は、活 気などの体験が欠如している状態である。はじめに、これら

2

種類の不快気分のもとで気分 一致再生が生じていたことを確認しておく。

 まず低P

A

状態に注目する。ポジティブ感情語を用いると、低P

A

群は、高P

A

群に比べて快 記憶を想起することが困難であった。また想起した記憶も鮮明ではなかった。以上の結果か ら、想起容易度と鮮明度の点において、低P

A

群には気分一致再生が認められたといえる。

 つぎに高NA状態に注目する。ネガティブ感情語を用いると、高NA群は、低NA群よりも鮮

ɖ Ķġ

ĵįĶġ

ĵġ

ĴįĶġ

IJġ

ࣞ૤௨ࢊġ

ŇŪŨŶųŦġĴįġġࣞ૤௨ࢊȂεΐΞͻήۜૂࢊȪεΐΞͼήȫȂġ

ȁȁȁȁġġΥ΄ΞͻήۜૂࢊȪΥ΄Ξͻήȫ̧͈̺̱̹ܱ֨؛͈஛ྶഽġ

εΐΞͻήġ

਀̦̥ͤġ

೩ őł ߲ġ

ບ೰౵ġ

ɖġ

Υ΄Ξͻήġ ȁȁȁ

ī

ȇp㧨

ࣞ őł ߲ġ ೩ ŏł ߲ġ

ࣞ ŏł ߲ġ

(8)

明な不快記憶を想起した。一方、想起容易度では、高NA群と低NA群との間に 的な差異 は見られなかった。ただし有 には していないものの、平均値を見ると、高NA群は低

NA

群よりも不快記憶の想起容易度が高かった。そこで今回の結果のみから、 定的な結論を だすことは避けることにする。いずれにしても、少なくとも鮮明度の点において、高NA群に は気分一致再生が認められたといえる。

 低P

A

状態と高NA状態は、自己関連記憶に与える影響が異なっていた。低P

A

状態は快記憶 に、高NA状態は不快記憶に影響を与えた。これまでも高NA状態と低P

A

状態は、認知や行動 の異なる側面に影響を与えることが指摘されている(宮﨑,

2000

)。本結果はこのような先行 理論を支持している。快記憶を想起しづらくなるのは、低P

A

状態に限られるようである。そ こで以降では、おもに低P

A

状態に焦点を当てた分析をおこなうことにする。

 高心像語の影響 注目すべき結果として、高心像語を用いると、低P

A

群でも容易に鮮明な 快記憶を想起することができた。高心像語を用いた場合、低P

A

( M =4. 5)

と高P

A

( M =4. 7)

の想起容易度には差がなく、両群の平均値はともに

4

(やや簡単)を越えていた。また鮮明 度の平均値も、低P

A

( M =4. 2)

と高P

A

( M =4. 4)

はともに

4

(ややはっきりしている)を越 えていた。これらの結果から、想起容易度と鮮明度の点において、高心像語は気分一致再生 を回避したといえる。

 記憶の感情価に注目すると、高心像語である“遠足”、“公園”、“笑顔”、“学友”はいずれ も

7

割以上の比率で快記憶を想起させた。さらに

4

つの高心像語は、感情価の点でも気分一 致再生を回避したことが明らかになった

( Ta b . 1)

。これらの結果から、4 つの高心像語は、高 い頻度で快記憶を引きだしたといえる。

 ただし快記憶の想起率は10割には届かず、3 割未満ではあるが不快記憶も想起された。不 快記憶が想起された原因は、人により手がかりの評価が異なるためであろう。大多数の人が 快と評価する高心像語でも、少数の人には不快と評価されてしまう。不快と評価された高心 像語からは、不快記憶が想起されやい。万人に快と評価される高心像語を設定することは、

現実的には困難である。快記憶の想起率を今よりも上げようとするならば、快と評価される 手がかりを個人ごとに選ぶことが必要になるであろう。

 高心像語のなかで唯一、“運動”には感情価の点に気分一致再生が生じた。そのため、この 手がかりを使うと、快記憶の想起率は

7

割に満たなかった。手がかりを選ぶためにおこなっ た予備調査では、5 つの高心像語のなかで、“運動”は快の感情価が最も低かった。感情価の 低い手がかりは、快記憶と不快記憶の両方と結びついており、気分に応じて想起される記憶 が簡単に入れ替わってしまうのかもしれない。気分一致再生を完全に避けるためには、感情 価がさほど高くない手がかりを用いないように配慮すべきであろう。

 気分一致再生を回避する認知的過程 以降では、先行理論を援用しながら、高心像語が記 憶を引きだす認知過程について仮説を提起する。

 Wi

l l i a ms ( 1995)

は、記憶を構成する知識を

3

つに分類している。第

1

は期間記憶

( e xt e nde d

(9)

me mor y)

といって、数日間から数年にわたる、ある期間についての知識である。第

2

の知識 はカテゴリー記憶

( c a t e gor i c me mor y)

といって、何度もくりかえして抽象化された出来事に ついての知識である。第

3

は個別記憶

( s pe c i f i c me mor y)

といって、ある特定の出来事につい ての知識である。個別記憶の代表は、“いつ、どこで”という時空間的な情報である。“海の 青さ”というように、非言語的な感覚―知覚情報も個別記憶に含められる。

 言語的な手がかりを見たとき、初めから個別記憶にたど りつくことはめったにない。フ ラッシュバルブ記憶やトラウマティックな記憶のような例外はあるにしても(

Chr i s t i a ns on &

Enge l be r g, 1999)

、通常は、まず手がかり(例:“楽しみ”)に関連する期間記憶(例:“大学 時代は楽しかった”)やカテゴリー記憶(“よく友人A君と遊んだのは楽しかった”)を検索す る。ある期間や抽象的な出来事が想起できたら、それにまつわる個別記憶を検索する(例:

“大学2年の夏休み、親友A君と、沖縄の海へいった”)。こうした検索のサイクルを何度かく りかえして、ひとつの記憶を構成していく

( Conwa y , 1995)

。 

 感情語とは異なり、高心像語は個別記憶を直接的に引きだす性質をもっている

( Wi l l i a ms , 1995)

。その理由は、La

ng ( 1979)

が指摘しているように、おそらく視覚的イメージが非言語 的な記憶を直接的に活性化させるためである。写真が映像的な記憶を想起させることは、多 くの人が経験的に知っている。La

ng

の説は、こうした日常的経験とも合致する。

 La

ng ( 1979)

の説に従うと、高心像語は以下のようにして記憶を引きだすと考えられる。た とえば“海”という高心像語を見ると、“海の青さ”という感覚―知覚情報が想起される。そ こから連想が生じて、“沖縄”、“大学

1

年の夏”などの個別記憶が想起される。

 以降で述べることが、本論で提起する仮説の中心になる。本論では、気分一致再生は、期 間記憶やカテゴリー記憶を検索する段階で生じていると考える。つまり不快な気分になると、

快をともなう時期や抽象的な出来事を検索しづらくなる。これは、楽しかった“とき”や

“こと”が思いうかばないという状態である。期間記憶やカテゴリー記憶は、無数の記憶を要 約した目次に例えることができる。個別記憶を探すためには、ふつうは、この目次を参照す ることからはじめる。不快気分のもとでは、この目次が不快な内容に偏ってしまう。

 一方、高心像語を用いた検索では、かならずしも期間記憶やカテゴリー記憶を参照する必 要はない。たとえ記憶の目次が不快な内容に偏っていたとしても、それをバイパスして個別 記憶にたどりつく。そのため高心像語を用いると、気分一致再生は生じづらいのであろう。

 気分一致再生を説明する主な理論に、連合ネットワーク説

( Bo we r , 1981)

と自己スキーマ活 性化説

( Br a dl e y & Ma t he ws , 1983)

がある。気分一致再生は自己に関する情報を処理するとき に生じやすいので、今のところ後者の説のほうが有力といわれている

( Pys z c z yns k y , Ha mi l t on,

He r r i ng, & Gr e e nbe r g, 1989)

。自己スキーマ活性化説によれば、不快気分は、否定的な自己ス キーマを活性化させる。否定的な自己スキーマは、否定的な自己知識を活性化して、不快記 憶を想起しやすい状態をつくりだす。

 ただし従来の説は、一部の例外を除いて

(

榊,

2006)

、活性化する自己知識の構造をほとんど

(10)

題にしてこなかった。そのため の説では、高心像語が気分一致再生を回避する理由を 説明することができない。そこで本論では、自己知 を

3

に分けることを提 した。こ の分 法は、自伝的記憶の で から提 されていた。本論では、その分 法を気分一 致再生の に 込んだことになる。自己スキー の影響を けるのは 間記憶とカテ

ー記憶であり、 別記憶は影響を けない。このように仮定すれば、高心像語の つ性質 をうまく説明することができる。

 本研究の課題と示唆 最後に、高心像語のもつ限界を踏まえながら、この手がかりの実用 性について考えてみたい。想起者にとって重要な記憶は、視覚的にも鮮明になる傾向がある

( Wr i ght & Nunn, 2000)

。ところが今回、高心像語から得られた記憶は、ポジティブ感情語か ら得られた記憶よりも鮮明ではなかった。高心像語は容易に快記憶を引きだすが、さほど重 要ではない記憶を想起させてしまうこともあるらしい。こうした性質をもつ高心像語は、い かなる場面で活用できるのであろうか。

 初めに述べた回想法は、目的によりラ イフレビューとレミニッセン スとに大別される

(Bu

r n s i d e & Ha i g h t , 1992;

回想法・ライフレビュー研究会,

2001;

小林,

2007

)。ライフレビュー は人生全体の振り返り、再評価、自我の統合など を目的としている。そのため、想起者に とって重要な記憶を系統的に想起することが促される。一方、レミニッセンスは感情の活性 化、コミュニケーションの増加、社会化の促進などを目的としている。その実践では、必ず しも重要な記憶だけではなく、日々の記憶を自発的に想起することを重視する。求められる 記憶の性質からすると、高心像語が活用できるのはレミニッセンスであろう。

 レミニッセンスのなかで高心像語を使うことには、いくつかの利点があると思われる。ま ず認知機能が低下すると、不快な気分に逆らって快記憶を想起するのは困難になるはずであ る。このとき高心像語を使えば、本人に大きな負荷をかけずに、気分一致再生を回避するこ とができるであろう。また認知症になると、感情語のような抽象語を処理することが苦手に なる。そこで回想をおこなうときには、物や風景などの現物を手がかりに使うことが推奨さ れている(中嶋,

2001

)。しかし回想を療法としてではなく、介護者との日常会話としておこ なうときには、あらゆる現物を用意できるわけではない。回想を日常のなかに埋め込んでお こなおうとするとき、高心像語は現物の代わりになるであろう。

 本論では、高心像語について仮説を提起した。今後、想起過程をプロトコル分析により調 べることで、この仮説の妥当性を検証することができるであろう。あわせて、気分操作や反 応時間の測定をおこない、本結果の再現性を確認することも必要であろう。また対象者を高 齢者に広げて、本結果の一般性を検討していくことも今後の課題としたい。

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(14)

参照

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