飯 塚 和 之
生法時代においてではあるが大谷,町野両教授に1 はじめに
よって新たな性格規定が試みられている。大谷教 わが国の「法と精神医療」の歴史において,19 授は,「現在の精神衛生法という法律は,精神障 87年という年は,極めて重要な年となろう。新精 害者の医療と福祉を追求する医療法であるととも 神保健法が成立し,精神障害者に対する法的対応 に,医療と保護の追求が不当な人権侵害に至らな において,国際的な基準達成に向けての第1歩が いように人権の保護を図ろうとする人権保護法と 始まった年だからである。 しての性質をもっているということになる。」(2)
精神障害者に対する医療保障を考えるとき,1 と主張し,また,町野教授は,「精神衛生法を……
つには,その内容が,健康権を保障するものでな 医療法・人権保護法へと純化することにより,精 ければならないことであり,2つには,その手続 神医療から保安的要素を払拭し,医療による患者
きが人権を保障するものでなければならないこと の権利侵害を排除すべきだという考え方は,すで である。前者に関して言えば,国際人権規約A規 に法律家の間では一致したものとなっていると思 約(経済的,社会的及び文化的権利に関する国際 われる。」との見解を示している。(3)
規約)第12条第1項は,「この規約の締約国は, 私も,この考え方が,認識の問題ではなく,実 すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神 践の問題,すなわち,あるべき精神衛生法の内容 の健康を享受する権利を有することを認める。」 構成に関わる解釈の問題として精神衛生法・精神 と規定し,「精神の健康」に対する権利をうたっ 保健法を構築すべきである,という意味で提唱さ ている。わが国での健康権概念の検討は,緒につ れているのであれば,これに同調したい。論者の いたばかりであるが(1),「法と精神医療」の視点 なかには,精神障害犯罪者に対する刑事治療処分 からも,国民の健康権を保障した精神保健法のあ 制度の制度化なしには,精神衛生法・精神保健法
りかたが問題とされなければならない。新精神保 の「医療法」としての純化は不可能である,との 健法は,これを保障したものとなっているであろ 立場を明らかにしている者もあり(4),精神衛生法
うか。 の性格規定をめぐっては必ずしも結論を見ている 後者の人権手続に関しては,国際人権規約B規 わけではない。しかし,健康権の保障,人権手続 、 約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)が, の保障という視点からは,精神医療法制を医療法・
その第9条「身体の自由」において手続的保障を, 人権法として把握する近時の動向に賛成したい。
また,第10条「被拘禁者の処遇」において人道的 これらの方向に新精神保健法は進んだであろうか。
処遇について規定している。新精神保健法はこれ 以上の視点から,本稿は,新精神保健法の内容 らの国際的基準に到達しているであろうか。 を概観し,その問題点を検討しようとするもので 近時,精神衛生(保健)法の法的性格をめぐっ ある。その前提として,わが国における精神障害 て,それを医療法・人権法として純化すべきであ 者に対する法規制の歴史を一瞥し,いわば新精神 るとの有力な主張が見られ,法学界においては多 保健法の前史を見ておくことにしたい。
くの同意を得つつあるように思われる。旧精神衛
のまとめによれば,同法の従来の法制との違いは,
H 精神障害者に対する法規制略史 つぎのとおりである。
精神障害者に対する法規制の歴史において最初 「①精神病院法では主務大臣が命令したときだ の重要立法は,1900年(明治33年)に成立した精 け都道府県が精神病院を設置すればよかった 神病者監護法である。この法律は,精神病者に監 ことを改め,精神病院設置を都道府県に義務 護義務者を置き,この者に精神病者の監置をさせ づけ,精神障害に対する公共の責任を明らか
ることをめざしたものである。当時の権威ある教 にした。
科書においても「精神病者ヲ放任スルトキハ其ノ ②長期拘束を要する精神障害者は,精神病院,
者自身及ヒ他ノ者ノ両者二危害ヲ及ホスノ虞アル 精神科病室その他法律によって収容すること モノナルカ故二之ヲ監置スルノ必要アルコトアリ。 をもとめられている施設に収容することにし,
」「精神病者ノ監置トハ精神病者ヲ交通ヲ断タレ 私宅監置は1年間で廃止することにした。
タルー定ノ場所二抑留スルコトヲ謂フ。」と説明 ③従来は狭義の精神病者だけを対象にしてい されていた(5)。私宅監置の名目でいわゆる座敷牢 たが,こんどは精神薄弱者,精神病質者も含 制度の合法化をはかったものといわれている。 めた。
その後,1914年(大正8年)に精神病院法が定 新しく規定されたこととして,
められる。この法律は,「精神病者の保護治療の ④精神障害発生の予防,国民の精神的健康の 場所を私人の経営に委して顧みざるは不適当であ 保持向上の考え方がとりいれられ,精神衛生
るから,国家と地方公共団体と相協力して之が施 相談所や訪問指導の規定がおかれた。
設を為すの必要がある。従って本法は,療養の途 ⑤ 精神衛生審議会を新設して,関係官庁と専 なき精神病者其の他監護上必要なる精神病者を収 門家との協力による精神保健行政の推進を図っ 容せしむる為め道府県に対し精神病院の設置を命 た。
じ,道府県立精神病院の設置を見るに至らざる府 ⑥精神障害者を拘束することが必要かどうか 県に於ては既設の公私立精神病院を使用するの方 を決定するため精神衛生鑑定医の制度が設け 法を採ることを趣旨としたものである。」と言わ られた。従来は単に医師の診断だけに基づい れていた(6)。道府県設置病院に代わる代用精神病 て,精神障害者を拘束したり,または都道府 院を公認したことに本法の特徴がある。現在の指 県の指定医の診断だけに基づいて精神障害者 定病院制度の源流と言うこともできる。 を入院させたりしていたが,新法では厚生大 旧精神衛生法(新精神保健法と対比するために 臣の指定する鑑定医の制度を設け,強制入院 1950年精神衛生法を旧精神衛生法と呼ぶことにす その他の要否を2人以上の鑑定医に診断させ る。)の成立まで,これら2法に基づいて精神障 ることになった。これは不当な拘束による人 害者に対する法規制がなされてきた。これら2法 権侵害を防止するためである。
に対しては,今日,「監護法が,公安の要請によ ⑦医療保護の必要がある精神障害者について り監護患者の警察的取締りを主たる目的としてい は,国民のだれもが知事あてに診断及び必要 たのに対し,本法(精神病院法)は病者の保護,治 な保護を申請できるようになった。
療を主たる目的としていた。」と理解されている(7)。 ⑧精神障害の特殊性をみとめ仮入院仮退院 1950年(昭和25年)になると,改正精神保健法 という制度が設けられた。」(8)
の前身である旧精神衛生法が制定されることにな 以上のようにまとめられている旧精神衛生法の る。この法律も,基本的には治療の必要のある精 立法過程上の特徴として,最近の研究が明らかに 神障害者は原則として精神病院に入院させるとい しているのは,制定されるであろう精神衛生法に うものであった。現時点での同法に対する厚生省 おいて私立精神病院の立場・考え方が無視される
ことのないようにということで結成された「日本 国際的な批判キャンペーンにあった。問題の発端 精神病院協会」などが中心となり,議員立法とし から87年改正法の成立までの経過の概要を整理す て成立したことである(9)。このことはわが国の精 るならば次のようになろう。
神医療機関に占める私立病院の割合の多さと無関 1984年3月 宇都宮病院事件発覚
係ではないであろう。 3月28日 自由人権協会,中曽根首相あ その後,旧精神衛生法は,数次の改正を受ける てに『日本における精神障害 こととなるが,とりわけ1964年3月24日のライシャ 者の医療上の処遇と人権侵害』
ワー事件を契期としておこなわれた1965年の改正 提出(英訳を国際人権連盟に が注目される。その特徴は,これも厚生省のまと 送付)。
めによれば,つぎのようなものであつた。 4月2日 日本精神病院協会,『声明」
「①保健所を地域における精神保健行政の第一 発表(宇都宮病院問題は誠に 線機関として位置づけ,精神衛生相談員を配 遺憾)。
置できることとし,在宅精神障害者の訪問指 5月22日 日本精神神経学会評議会,『宇 導,相談事業を強化した。 都宮病院問題についての見解
②保健所に対する技術指導援助などを行う各 一精神障害者の人権擁護の 都道府県の精神保健に関する技術的中核機関 ために一』発表。
として,精神衛生センターを設けた。 5月30日 国際法律家委員会(ICJ),中
③入院中心の医療から通院中心への転換を推 曽根首相あてに書簡送付。
進し,また,在宅精神障害者の医療の確保を 6月22日 厚生省公衆衛生局長・医務局 容易にするために,通院医療費公費負担制度 長・社会局長,『精神病院に
を新設した。 対する指導監督等の強化徹底
④措置入院制度に関連した手続上の改善とし について」通知。
て病院管理者による届出の制度,緊急措置入 8月15日 国際人権連盟(ILHR),国際 院制度,入院措置の解除規定,守秘義務規定 人権小委員会(差別防止少数 などを新たに加え,適正な医療保護の充実を 者保護小委員会)で,日本政 図った。」(1°)。 府告発。
以上が,87年改正前までの,法規制の概略であ 8月20日 日本政府答弁(差別防止少数 るが,旧精神衛生法について,あえて厚生省によ 者保護小委員会),(強制入院 るまとめを引用したのは,これらの説明にもかか 患者は12.3%,精神衛生法は わらず,精神障害者に対する健康権の保障,精神 国際人権B規約に違反せず。
障害者の人権の保障という視点からは,同法およ しかし,人権擁i護の国際的傾 びその運用がきわめて不十分であり,今回の改正 向に従う。)。
に至らざるをえなかったことを明らかにしておき 10月20日 日本弁護士連合会第27回人権 たかったからである。 擁護大会,『精神病院におけ
る人権保障に関する決議』採皿 精神保健法の内容と問題点
択。
1,改正の背景・経過 1985年5月4日 国際法律家委員会,国際保健 ユ987年精神保健法の改正の直接的背景は,1984 〜16日 専門職委員会(ICHP),日本 年3月に発覚した宇都宮病院事件とそれを契機と の精神医療について調査。
して展開されたわが国の精神医療に対する国内的・ 7月31日 ICJ/ICHP調査団,「結論と
勧告」をジュネーブで公表 学会・日本「法と精神医療」学
(報告書『日本における人権 会・International Academy と精神病患者』(1986年9月 of Law and Mental Health共 公表),邦訳版・精神医療人 催)が開催され,次の5原則 権基金運営委員会訳(1986年 を決議。
10月))。 1.精神障害者 (mentally 8月12日 厚生省,精神衛生法改正の方 ill persons)は,人道的で,
針を表明。 人間としての尊厳を重視し,
8月21日 国際人権連盟,国連差別防止 かつ専門的な治療を受ける 少数者保護小委員会で発表。 べきである。
同 国際法律家委員会,同委発表。 2.精神障害者は,その精神 同 日本政府,同委で,「精神病 障害を理由に差別されては
患者の人権擁護をさらに推進 ならない。
する観点から,精神衛生法の 3.入院治療が必要な場合に 改正に着手することを決定し は,常に自発的入院が奨励 た」旨,発言。 されるべきである。
10月19日 厚生省保健医療局長,「精神 4.非自発的入院患者が引き 病院入院患者の通信・面会に 続き入院治療を必要とする 関するガイドラインについて』 か否かを決定するために,
通知。 入院から適当な期間内に,
12月25日 厚生省保健医療局精神保健課 独立したトライビューナル 長から,関係24団体に対して において公正かつ非形式的 意見照会,「精神衛生法改正 な聴聞がおこなわれるべき に関する意見について」(各 である。
団体の意見は,厚生省保健医 5.入院患者は,可能なかぎ 療局精神保健課編「精神衛生 り自由を享受し,他の人々 法改正に関する意見書(まと と自由にコミュニケートで め集)』として公表されてい きるようにすべきである。
る。)。 2月24日 厚生省,「精神衛生法改正案 1986年3月29日 「法と精神医療」学会第1回 〜25日 要綱」を公衆衛生審議会およ
大会(於 同志社大学)。 び社会保障制度審議会に諮問。
7月25日 公衆衛生審議会,『精神障害 2月27日 公衆衛生審議会,了承の答申。
者の社会復帰に関する意見」 3月9日 社会保障制度審議会,了承の 具申。 答申。
12月23日 公衆衛生審議会精神衛生部会, 3月13日 精神衛生法等の一部を改正す
『精神衛生法改正の基本的な る法律案を閣議決定。
方向について(中間メモ)』 3月16日 第108回国会提出。継続審議i 厚生省に提出。 案件となる。
1987年1月29日 精神衛生法改正国際フォーラ 3月29日 「法と精神医療」学会第2回
〜30日 ム(於 京都)(日本精神神経 大会(於 同志社大学)。
7月16日 衆議院本会議における趣旨説 してきているが,今般の改正においても精 明とこれに対する代表質問。 神障害の発生予防・治療という従来の目的 9月10日 衆議院社会労働委員会および の他にいわゆるポジティブ・ヘルスの観点
同本会議において一部修正の から広く国民の精神的健康の保持・増進を うえ可決。 図ることが新たに加えられたことから,
9月18日 参議院社会労働委員会および 法律の名称も新しい目的にふさわしいもの 同本会議において可決成立。 として『精神保健法』に改められた。」と 9月26日 法律第98号として官報公布。 のことであるω。日本精神病院協会(「日精 12月18日 精神保健法の省令および告示 協」),日本弁護i士連合会(「日弁連」)等もこ
に関する事項を公衆衛生審議 の名称の使用を提案しており,Mental 会に諮問。 Healthに対する最近の理解の変化に対応 12月19日 同答申。 したものであろう(12)。
1988年2月17日 厚生省保健局長,『精神障害 ②法律の目的 「この法律は,精神障害者 者社会復帰施設の設置及び運 等の医療及び保護iを行い,その社会復帰を 営について』通知。 促進し,並びにその発生の予防その他国民 3月27日 「法と精神医療」学会第3回 の精神的健康の保持及び増進に努めること
大会(於 上智大学)。 によって,精神障害者等の福祉の増進及び 4月8日 改正政省令,告示公布。 国民の精神保健の向上を図ることを目的と 7月1日 新精神保健法施行。 する。」(精神保健法第1条)。新法の目的 1989年3月26日 「法と精神医療」学会第4回 として, 精神障害者等の社会復帰の促進
大会(於 都立大学)。 が掲げられ,さらに 精神障害者等の福祉
の増進 も掲げられた。旧法では,社会復2.精神保健法の内容 帰に関する規定はまったく存在しなかった
精神保健法の内容と問題点を改正内容を中心に ところであり,遅ればせながら精神障害者 検討することにしたい。但し,精神保健法全体の 収容法的立法から精神障害者福祉法的立法 構造を見るために改正されずに残った点について に一歩を進めたことになる。精神障害者に も部分的に触れることにする。 対する健康権の保障は,狭義の医療保障に
(1)法律の名称,目的および対象 とどまらず,社会復帰の確保にまで及ぶと
①法律の名称法律の名称は「精神衛生法」 考えられるから,その点では,一定の前進 から「精神保健法」に改められた。名称変 と言えよう。
更の理由は,「中間メモ」や 「改正案要 この目的の変更に伴い,第9条に「精神 綱」において特に記述されていないし,国 障害者社会復帰施設の設置」と題して「都 会における提案理由のなかでも明示されて 道府県は精神障害者(精神薄弱者を除く。
いない。立法関係者の説明によれば,「近 次項及び次条において同じ。)の社会復帰 年,ストレス問題やアルコール関連問題, の促進を図るため,精神障害者社会復帰施 児童・思春期の心の問題等が社会問題とし 設を設置することができる。」(第9条第1 ての比重が高まりつつあり,これらの心の 項)と規定し,また,「市町村,社会福祉 健康問題を含めて広く精神的健康の保持・ 法人その他の者は精神障害者の社会復帰の 向上を包括する用語として『精神衛生』か 促進を図るため,社会福祉事業法(昭和26 ら『精神保健』へとその使われかたが変化 年法律第45号)の定めるところにより,精
神障害者社会復帰施設を設置することがで ないという保証はないであろう。公的社会 きる。」(同条第2項)とした。精神障害者 復帰施設設置の義務づけは,本法見直しの 社会復帰施設の種類は2つであり,1つは 課題の1つと言えよう。
「精神障害者生活訓練施設」であり,他は, 費用の面では,国の補助につき,わざわ
「精神障害者授産施設」である (第10条第 ざ,「予算の範囲内において」という文言 I l項)。前者は,「精神障害のため家庭にお を付け加えている点は,国の防御的,消極
いて日常生活を営むのに支障がある精神障 的姿勢が窺われるところである(14)。
害者が日常生活に適応することができるよ ③法律の対象精神保健法の対象となる精 うに,低額な料金で,居室その他の設備を 神障害者については,本法第3条が規定して 利用させ,必要な訓練及び指導を行うこと いる。すなわち,「この法律で『精神障害 により,その者の社会復帰の促進を図るこ 者』とは,精神病者(中毒性精神病者を含 とを目的とする施設」であり(同条第2項) む。),精神薄弱者及び精神病質者をいう。」
,後者は,「雇用されることが困難な精神 このほかに,覚せい剤の慢性中毒者につい 障害者が自活することができるように,低 ても本法が適用される。精神保健法の適用 額な料金で,必要な訓練を行い,及び職業 対象をどのような者にまで及ぼすかについ を与えることにより,その者の社会復帰の ては議論があったが,今回の改正では旧法 促進を図ることを目的とする施設」である の規定が維持された。
(同条第3項)。精神障害者社会復帰施設の (2)指定病院制度
設置・運営のための費用に関しては,まず, ①指定病院 本法は,第4条で,都道府県 都道府県は,施設設置者に対し,その費用 に精神病院の設置を義務づけているが,そ の1部を補助することができることとし の但書で第5条の規定による指定病院があ
(第10条の2第1項),さらに,国は,予算 る場合においては,その設置を延期するこ の範囲内において,都道府県に対し,その とができる,としている。第5条は,知事 設置する精神障害者社会復帰施設の設置及 は国立・都道府県立以外の病院を都道府県 び運営に要する費用並びに補助に要した費 が設置する精神病院に代わる施設として指 用の1部を補助することができるとした 定することができるとしている。これが指
(第10条の2第2項)。 定病院の制度である。この規定の趣旨は,
社会復帰施設の設置に法的根拠を与えた 「都道府県立の精神病院が設置されている 点は,積極的に評価することができるが, かどうかにかかわらず,当該都道府県管内 都道府県について, 施設を設置すること の精神障害者のうち措置症状のあるものを ができる と規定するのみで, 設置を義 収容するための病床が不足しているときは,
務づける としなかった点は問題である(13)。 精神病院を指定して,措置入院患者の収容 病院医療の側面で,都道府県病院の設置を の適確を期そうとする」ものであると説明 義務づけながら(第4条),指定病院の制 されている(15)。しかし,第4条による設置 度(第5条)に依存して精神医療に対する 義務の履行は怠られ,むしろ私立精神病院 公的責任を十分に果たしていないが,それ の建設が促進され,それを指定病院に指定
と同じことが社会復帰施策においてもとら して精神医療を施してきている。暫定的と れたことになる。また,民間施設の活用が 考えられていた指定病院制度が恒久化して 述べられているが,私立精神病院中心主義 いるのは法の趣旨に反するところであり,
の弊害が民間の社会復帰施設において生じ 「行政の怠慢」との指摘がなされているの
も頷けるところである(16)。 在しなかったため,その法定化が主張され
②指定の取消し 都道府県知事は指定病院 ていた。国際法律家委員会報告書も「入院 の運営方法がその目的遂行のために不適当 手続に関する諸問題」のトップに「自由入 であると認めたときは,その指定を取り消 院」を掲げ,次のように指摘している。
すことができる(第11条第1項)。そして, 「精神衛生法における最も重大な欠陥は,
知事は,その指定を取り消そうとするとき 治療のために精神保健施設への入院を要請 は,あらかじめ,指定病院の設置者にその することを患者に認める明示の規定が欠落 取消しの理由を通知し,弁明及び有利な証 していることである。ヨーロッパの開明的 拠の提出の機会を与えるとともに,地方精 民主国家及び米国のすべての州において,
神保健審議会の意見を聴かなければならな 個人に対する尊厳から精神病の治療は,情 い(同条第2項)。第2項は,今回の改正 報を受けた上で自由意思で求めることが勧 で加えられたもので,指定取消しの手続保 められている。調査団への情報によれば,
障規定である。 日本では本人が治療を求めている場合です
(3)入院制度 ら,29条または33条の非自発的入院すなわ 入院制度については,87年法は旧法を大幅に ち強制入院の条項を用いることが勧められ 変更してはいない。但し,任意入院制度の明文 るのである。」⑱
化,同意入院の医療保護入院への名称の変更な 日精協も任意入院制度の新設を提案して どいくつかの重要な改正が見られた。改正後の いた。新精神保健法に「精神障害者は任意 入院制度を概観しておこう。 に精神病院に入院し,又そこから退院する
① 任意入院 世界的に見て,精神障害を理 ことができる。」という条文が新設される 由とする入院形態は,大きく任意入院 べきであるとし,その解説では「任意(自
(voluntary hospitalization)と強制入院 由〉入院は,精神障害者の入院は,精神障
(involuntary hoapitalization)の2つに 害者の入院形式としてこのような形式もあ 分けることができる。そして,任意入院は, ると規定しておくことは適当であろう。」
精神医療上,強い要請となっている。任意 と述べている(19)。この解説から判断するか 入院は,強制入院に通常伴う強制,精神的 ぎりでは,必ずしも積極的意味づけがなさ 傷害,汚名を取り除き,また精神障害者に れているわけではない。「民間病院では急 身体上の疾病の患者と同じ治療の機会を与 激な導入に対する危惧の念や,法定化その えることができるからである(17)。アメリカ ものにも反対する意見も少なからずある。」
では,多数の州で,さらに(a)informal ⑳という指摘からも窺われるように民間病 voluntary admissionと(b)formal vol一 院の意見を代表する日精協の提案としては untary admissionに分けられている。(a) 消極的賛成提案となったものと思われる。
は,退院が即時にできるもの,(b)は,本人 この点についての日弁連の意見はどうか。
の要求後一定期間(例えば,ミシガン州法 日弁連も「自由入院の明文化」を提案して では3日間)は拘束できるものである。入 いた。すなわち,「入院治療の基本が,自 院時の申請によって区別されている。病院 由入院であることを明文化し,これに関す 管理者は後者((b))を望むため大部分の患 る手続を規定する。自由入院とは,患者自 者は後者によって入院していると言われて らの判断で入院の必要を認識し,自らの意 いる。 思で入院を承諾して,病院と入院治療につ 旧精神衛生法には,任意入院の制度が存 いての契約を結ぶことである。」としてい
た。その際,「説明と承諾の原則」(入院治 ているわけではない。任意入院への同意能 療の必要性,処遇,権利等について説明し, 力の問題,病院内での任意入院患者の処遇 患者の承諾を得る)によること,「承諾の の問題,任意入院患者の退院請求権の問題 能力」は,病識を持ち,入院治療の必要性 等々解決されなければならない課題は多 を認識しうる能力とすること,「非強制的 い㈲。今後の検討課題の1つとしたい。
処遇の原則」がとられるべきことを提案し ②措置入院措置入院は,精神障害者であ ていた(2ユ)。 り,且つ,医療及び保護のために入院させ
改正法は,第22条の2以下に「任意入院」 なければその精神障害のために自身を傷つ について規定した。 け又は他人に害を及ぼすおそれがあると認
まず,精神病院の管理者は,精神障害者 めた者を都道府県知事が精神病院に入院さ を入院させる場合においては,本人の同意 せる強制入院の制度である。この強制入院 に基づいて入院が行われるように努めなけ の実施段階は,第ユ段階として,(a)一般 ればならない(第22条の2)。ついで,精 人申請(第23条),(b)警察官通報(第24 神病院の管理者は,退院等の請求に関する 条),(c)検察官通報(第25条),(d)保護i 権利を書面で知らせ,入院の同意を書面で 観察所長通報(第25条の2),(e)矯正施 受けなければならない(第22条の3第1項)。 設長通報(第26条),(f)精神病院管理者 退院については,任意入院者からの申出が 届出(第26条の2)各制度による知事への あった場合には,原則として退院させなけ 通報体制,第2階段として,指定医による ればならない(同第2項)。但し,精神病 診察(第27条第1項)がとられる。診察を 院管理者は,指定医の診察の結果,医療及 した指定医は厚生大臣の定める基準に従い,
び保護のため入院継続を必要と認めたとき その診察をした者が精神障害者であり,か には,72時間を限り退院を制限することが つ,医療及び保護のために入院させなけれ できる(同第3項)。この退院制限の措置 ばその精神障害のために自身を傷つけ又は を採るときには,精神病院の管理者は,そ 他人に害を及ぼすおそれがあるかどうかの のことを入院者に書面で知らせ,同時に退 判断をおこなわなければならない(第28条 院等の請求に関する権利も知らせなければ の2第1項)。厚生大臣の定める基準によ ならない(第4項)。 るとの本規定は,今回の改正で導入された。
このように見てくると,新「任意入院」 「自傷他害のおそれ」という措置要件の有 制度は,アメリカにおけるformal volun一 無については,従来は,1961年の公衆衛生 tary admissionに類似した制度というこ 局長通知『精神障害者措置入院及び同意入 とができる。従来,行政は,精神病院に対 院取扱要領について』によって判断されて して,同意入院を要請していたが吻,その いたが,最終的には精神衛生鑑定医の専門 行政の方針の転換を法律上明確にしたとい 的判断によっていた。措置要件の統一の必
う点,および治療関係からなるべく強制を 要から厚生省告示による形式を採用したも 排除することが必要であるとする精神医療 のと思われる。1988年4月8日の厚生省告
の側の主張を受け入れたという点において 示「精神保健法第28条の2第1項の規定に 任意入院制度の法定化は積極的に評価する 基づき厚生大臣が定める基準』は,次のと
ことができる。もっとも,任意入院制度の おりである。
法的問題点については,わが国においては 第1
勿論のこと諸外国においても十分解明され 1 精神保健法(昭和25年法律第123号。
以下「法」という。)第29条第1項の規 を引き起こすおそれがあると認めた場合 定に基づく入院に係る精神障害者であり, に行うものとすること。
かっ,医療及び保護のために入院させな 2 自傷行為又は他害行為のおそれの認定 ければその精神障害者のために自身を傷 に当たっては,当該者の既往歴,現病歴 っけ又は他人に害を及ぼすおそれがある 及びこれらに関連する事実行為を考慮す 旨の法第18条第1項の規定により指定さ るものとすること。
れた精神保健指定医による判定は,診察 第2
を実施した者について,入院させなけれ 法第29条の2第1項の規定に基づく入院に ばその精神障害のために,次の表に示し 係る精神障害者であり,かつ,直ちに入院さ た病状又は状態像により,自殺企図等, せなければその精神障害のために自身を傷っ 自己の生命,身体を害する行為(以下 け又は他人を害するおそれが著しい旨の法第
「自傷行為」という。)又は殺人,傷害, 18条第1項の規定により指定された精神保健 暴行,性的問題行動,侮辱,器物破損, 指定医による判定は,診察を実施した者につ 強盗,恐喝,窃盗,詐欺,放火,弄火等 いて,第1の表に示した病状又は状態像によ 他の者の生命,身体,貞操,名誉,財産 り,自傷行為又は他害行為を引きおこすおそ 等又は社会的法益等に害を及ぼす行為 れが著しいと認めた場合に行うものとするこ
(以下「他害行為」といい,原則として と。」
刑罰法令に触れる程度の行為をいう。)
病状又は状態像 自傷行為又は他害行為のおそれの
@認定に関する事項
原因となる主な ク神障害の例示 抑うつ状態 悲哀感,焦燥感,絶望感等の一般的な抑うつ感情,思考面 躁うつ病圏
での集中困難思考制止,行動面での運動制止等がみられ, 精神分裂病圏 これに抑うつ的な内容の錯覚,幻覚,妄想を伴うことがし 病状性又は器質性 ばしばあることから,このような病状又は状態像にある精 精神障害
神障害者は,自殺念慮,自傷念慮,心中念慮等を抱く結果, 心因性精神障害 自傷行為又は他害行為を行うことがある。 等
躁状態 爽快感,易怒的,刺激的な昂揚感等の躁的感情,自我感情 躁うつ病圏 の肥大,思考面での観念奔逸,行動面での運動興奮等がみ 精神分裂病圏 られ,これに躁的な内容の誇大等の妄想を伴うことがしば 症状性又は器質性 しばあることから,このような病状又は状態像にある精神 精神障害
障害者は,思考及び運動の抑制が減弱又は欠如し,傲慢不 等 そんな態度が度を超す結果,自傷行為又は他害行為を行う ことがある。
幻覚妄想状態 幻覚,妄想がみられ,これに幻覚,妄想に対する自覚,洞 精神分裂病圏 察の欠如を伴うことがしばしばあることから,このような 中毒性精神障害 病状又は状態像にある精神障害者は,現実検討能力に欠け, 躁うつ病圏 恐慌状態や興奮状態に陥りやすい結果,自傷行為又は他害 病状性又は器質性
行為を行うことがある。 精神障害
、 等
精神運動興奮状態 欲動や意志の昂進又は抑制の減弱がみられ,これに思考の 精神分裂病圏 滅裂傾向を伴うことがしばしばあることから,このような 中毒性精神障害 病状又は状態像にある精神障害者は,多動興奮状態に陥り 躁うつ病圏 やすい結果,突発的に自傷行為又は他害行為を行うことが 心因性精神障害
ある。 症状性又は器質性
精神障害 等
昏迷状態 意志発動性が強く抑制されているために,精神的にも身体 精神分裂病圏 的にも外界にほとんど応答できない状態がみられ,このよ 心因性精神障害 うな病状又は状態像にある精神障害者は,対人接触等の日 躁うつ病圏 常社会活動のみならず,摂食,排泄,睡眠等の生命維持に 中毒性精神障害 必要な活動を行うことができない結果,又は突発的な衝動 等
行為を行う結果,自傷行為又は他害行為を行うことがある。
意識障害 周囲に対して適切な注意を払い,外界の刺激を的確に受け 中毒性精神障害 とって対象を認知し,必要な思考及び判断を行って行動に 症状性又は器質性 移し,それらのことの要点を記憶に留めておくという一連 精神障害
の能力の全般的な障害がみられ,このような病状又は状態 心因性精神障害 像にある精神障害者は,見当識の障害を伴う結果,自傷行 等
為又は他害行為を行うことがある。
知能障害 先天性若しくは幼少時発症の脳障害により知能の発達が障 精神薄弱
害された状態又は成人後に生ずる器質的脳障害により知能 病状性又は器質性 が低下している状態にあり,周囲との意志の疎通や外界に 精神障害
対する感情の表出等の障害がみられ,このような病状又は 等 状態像にある精神障害者は,突発的な衝動行為等を伴う結 果,自傷行為又は他害行為を行うことがある。
人格の病的状態 知能にほとんど欠陥はないが,人格構成要素の不均衡又は 精神病質 人格全体の異常等のために,本人が悩み又は他人が悩まさ 精神分裂病圏 れ,そのため個人あるいは社会に対し対立するに至るよう 症状性又は器質性 な人格の病的状態がみられ,このような病状又は状態像に 精神障害に伴う人 ある精神障害者は,周囲との意志の疎通や外界に対する感 格変化
情の表出又は内的葛藤の処理が障害されやすいことに起因 中毒性精神障害 する適応障害が顕著な場合,自傷行為又は他害行為を行う けいれん発作後の
ことがある。 人格変容
等
自傷他害行為の内容は旧法時代の1961年 措置入院に関して,87年法で大幅に改正 通知(前記「取扱要領』)と変わらないが, されたのは,他の入院措置についてと同様 この『取扱要領』については,すでに, に,入院措置を採る旨及び退院等の請求に
「自傷については,ある程度限定されてい 関することを当事者である入院者に書面で るが,他害については,刑罰法令に触れる 知らせなければならないとした点である 行為すべてを含むとされており,これでは, (第29条第3項)。また入院措置の解除につ あまりにも包括的かつあいまいであり,人 き,旧法では病院管理者の意見を聞き知事 身の自由を拘束するという重大な基本的人 が決定していたものを指定医の診察を要件 権の侵害と不釣合であり,適法手続の考え として決定することとした(第29条の4)。
からして,これは極めて不当である。」と ③ 緊急措置入院(第29条の2)
指摘されていたところであり㈱,新「基準」 精神障害者であって,直ちに入院させなけ にもこの指摘は妥当することになる。例え ればその精神障害のために自身を傷つけ又は ば,病院を告発するビラを撒いた者が,警 他人を害するおそれが著しいと認められる者 察官通報により,精神鑑定をうけさせられ について,急速を要し,措置入院をさせるた た事件など,名誉殿損行為までも他害行為 めの手続を採ることができない場合に,この に含ませることの問題性を示していると言 緊急措置入院を採ることができる。この場合 えよう㈲。 には,指定医1名の診察でよく,その入院期
第3段階として,知事は,診察をさせる 間は72時間を超えることができない。旧法で に当たって,本人の保護に当たっている者 は,この入院期間は48時間となっていたが,
がいる場合には,その者に診察の場所およ 現場の状況にあわせてその期間を延長したも び日時を通知しなければならない(第28 のであろう。また,この緊急措置入院を採っ 条)。 たときは,知事は,すみやかに措置入院に移 第4段階として知事による入院措置がと 行させるかどうかを決定しなければならない。
られる。すなわち,2人以上の指定医の診 緊急措置入院患者に対しても,入院措置を採 察を経て,その者が精神障害者であり,か る旨及び退院等請求に関することを書面で知 つ,医療及び保護のために入院させなけれ らせなければならない。
ばその精神障害のために自身を傷つけ又は ④医療保護入院(第33条)
他人に害を及ぼすおそれがあると認めるこ 医療保護入院の対象となる者は,指定医に とに各指定医の診察が一致した場合には, よる診察の結果,精神障害者であると診断さ 知事は,その者を精神病院に入院させるこ れた者であり,入院の要件は,その者が医療
とができる(第29条第1項,第2項)。 及び保護のために入院の必要があると認めら 指定医所属の病院と入院先の病院を分離 れること及び入院について保護義務者の同意 することは,適正な診察を確保するために があることである(第33条第1項)。
必要な措置といえるが,日弁連の調査によ 保護義務者は,後見人,配偶者,親権者お れば,ほとんどの自治体で分離診察がおこ よび扶養義務者(配偶者,親権者以外の者か なわれていないとのことであり問題であろ ら裁判所が選任した者)である(第20条)。
う㈲。日弁連その他が主張した分離診察の 保護義務者がいないときには市町村長が保護 法定化は今回の改正では見送られた。 義務者となる(第21条)。
措置入院の期間は法定されていない。不 医療保護入院についての改正点は,名称変 定期刑と称されるゆえんである。 更のほかに,1つには,保護義務者が裁判所
によって選任されるまでの間,精神障害者の べたが,行政も旧「同意入院」の時代から,
扶養義務者の同意があれば4週間を限り,そ それを推進してきたことについては任意入院 の者を入院させることができるとした点(第 のところで述べたとおりであるが,医療の現 33条第2項),2つには,入院後10日以内に 場においてもこの入院形式にしておくことの 同意書を添えての知事への届出を義務づけた メリットがあるとされている。『ルポ精神医 点(同条第4項),3つには,医療保護i入院 療』(熊本日日新聞社編(1985年))は,熊本 者を退院させたときに,10日以内に知事への 県衛生部の証言として次のように記している。
届出を義務づけた点である(第33条の2)。 「自由入院では,患者の行動を拘束する閉鎖 当該入院措置を採る旨および退院等の請求に 病棟への入室も原則としてできない。患者の ついて,入院者に書面で知らせなければなら 希望があれば治療の途中でも退院させなけれ ないのは措置入院の場合と同じである(第33 ばならない。そんなときに十分な治療を行お 条の3)。 うとする病院側とトラブルも起こりやすい。
旧法の「同意入院」が「医療保護入院」と 強制力のある同意入院のほうが治療もスムー 改められたものであり,保護義務者の同意に ズに行える。」というものである(同書99頁)。
よることには変わりない。「日精協」案では, 保護義務者の同意を要件とするこの入院形
「代諾入院」という名称が挙げられており, 式は,国際的に見て特殊な入院形式であり,
「日弁連」案では,「誤解を招くおそれが大き その全廃の主張・提案も一部には見られた いので適切な名称に改める必要がある」㈱と が凶,存続の意見も根強く見られ,名称変更 されていたものである。「同意入院」は,「保 程度の小改正となった。存続論の論拠に関し 護義務者の同意による入院」と呼ばれていた ては存続を前提として改善案を提案した日弁 ように,本人の同意は要件とされない強制入 連の見解が参考となろう。「日弁連」意見は 院であった。措置入院,緊急措置入院が「公 次のように述べている。
的な医療及び保護の実施を目的とするもので 「現行精神衛生法の同意入院の規定について ある」のに対して,同意入院は, 「私的な医 は,その要件がかなり包括的であり,乱用さ 療及び保護の実施を目的とするものである」 れて人権侵害の結果を招く例も少なくないこ
とされていた㈱。「医療保護入院」になって とから,一部にはこの制度を全廃すべきとの もその性格・目的に変更はない。 意見もある。しかし,この制度がなければ,
この医療保護入院にも期間の制限がない。 自傷他害のおそれはないが,入院治療の必要 強制入院の主流は,この入院形式である。家 があり,しかも,本人に病識がない等,治療 族の同意により入院させることができるので, の必要性が理解できない場合であっても,一 保護義務者と患者の利害が衝突し,前者が後 切医療の手をさしのべることはできないこと 者の入院に同意したときには,患者にとって になり,これを放置するほかないことになる。
は救済手段のない入院形式となるおそれがあ このような場合にも,『治療を受ける権利』
る。前述のように市町村長が保護i義務者とな を実質化するために,同意入院の規定は当面,
る場合もあるが,この規定は,精神病者監護 以下のように要件を限定して存続すべきであ 法時代に監護義務者がいない場合に市区町村 る。」と。そして,その要件として,(イ)精 長に監護義務を負わせたのにならったものと 神障害によって入院治療が必要となっている 思われるが,まったく機械的手続であり問題 こと,(ロ)判断能力の欠如によって入院治 が多い。 療の必要性を理解できない状態であること,
この医療保護入院が主流となっていると述 (ハ)制限的でない方法がなく,強制入院以
外の方法がないこと,(ハ)保護義務者の同 害を担保するものとなっていた,とされるもの 意があることの4つを挙げ,これらの診断を である。
「精神衛生鑑定医と同等の資格を有する専門 ここでは最初に,問題点を明らかにするため 医」がおこなうとしていた(3°)6 に,旧法時代の行動制限について見ておこう。
改正法が,「保護i義務者の同意による入院」 この行動制限は,措置入院者,同意入院者のほ に固執したのは,日弁連のいうような「治療 か,自由入院者についても「入院中」であれば,
を受ける権利」の実質化というよりは,町野 行使しうるものであった〔⑫。行動制限の態様と 教授が指摘するように,「精神障害者の保護 しては,「院外への外出の禁止」, 「一定の病室 についての家族主義を捨て去ることができな 外への他出の禁止」,「保護室への隔離」,「保護 いと考えたためであろう。」(31)と思われる。 衣の着用」のほかに,信書,電話,面会の制限
⑤応急入院 これは,医療および保護の依 などがある。
頼があった者について,急速を要し,保護 信書については,厚生省の研究会によれば,
義務者の同意を得ることができない場合に 「信書の発信」,「受信の制限」,「内容の検閲」
おいて,指定医の診察の結果,72時間を限 は,憲法で信書の検閲を禁じている趣旨にかん り,その者を入院させることができるもの がみ,いずれもここでいう行動の制限には当た とするものである(第33条の4第1項)。 らない,とされていた(詔)。また,1957年の厚生 次の仮入院と同じく本人の同意を要しない。 省公衆衛生局長通知『精神障害者の取扱につい
この応急入院の措置を採った病院の管理者 て』も次のように述べていた。「入院中の精神 は,直ちに,その理由その他の事項を知事 障害者の発受にかかる信書の取扱にあたっては,
に届け出なければならない(第33条の4第 人権擁護上微妙な問題のおこるおそれがあるの 2項)。 で,原則として病院関係者が事前に開封するこ
⑥仮入院 これは,指定医による診察の結 とのないように留意し,もし当該精神障害者の 果,精神障害の疑いがあってその診断に相 症状等からして家庭からの通信をそのまま見せ 当の時日を要すると認める者を,その後見 ることは治療効果をそこねると考えられる場合 人,配偶者,または親権者その他の扶養義 は,家庭などからの通信はすべて当該精神病院 務者の同意がある場合には3週間を超えな の長あてに通信させるようにし,精神病院の長 い期間,仮に精神病院へ入院させることが が患者の症状等から随時連絡するような間接な できるものである(第34条)。この場合に, 方法をとらしめる等配慮されたいこと。」
本人には退院等の請求に関することを書面 しかし,現実には,手紙,電話,面会等の制 で知らせなければならず,病院の管理者は, 限が相当なされている。図1は,土居健郎氏ら 10日以内に同意者の同意書を添えて,知事 の東京都内の60の病院についての調査結果であ に届け出なければならない(第34条の2)。 る(広田伊蘇夫『精神病院一その思想と実践一』
(4>入院患者の処遇 49頁(1981年)より引用。)。
入院患者に対する行動の制限は,旧法第38条 これを見ると,いずれについても制限がなさ
(行動の制限)によって合法化されていた。す れていることがわかる。なぜ,このような制限 なわち,「精神病院の管理者は,入院中の者に がなされているのであろうか。はたして治療上 つき,その医療又は保護に欠くことのできない の要請があるのだろうか。前掲の『ルポ精神医 限度において,その行動について必要な制限を 療』は,制限の実情を次のように伝えている。
行うことができる。」となっていた。この規定 「城ケ崎病院の閉鎖病棟では一定の制限をして は,入院手続の不備とならんで入院者の人権侵 いる。患者は手紙をなるべくはがきで,封筒を
図1 あて先のみ控える
1.9%
閉 内容をチェックする その他
鎖 29.6% 53.7% 14.8%
開 患者の自由にまかせる
放 60.0% 27.5% 10.0%
(1)手紙の発信・受信について 2.5%
通話先のみチェック 家族のみ L9%
閉
7.4
職員を通じて 医師の許可 5.5 電話させない 叱鎖 % 11.1% 1&5% 18.5% % 29.6% 7.4%
開 患者の自由にまかせる
5.0
放 45.0% % 12.5% 12.5% 15.0%
(2)電話の利用について 2.5% 2.5%無回答
閉鎖
誰でも自由に面会できる
@ 40.7%
家族のみ面会
@18.5%
家族の同
モが必要13.0%
医師の判断でケースバイケース 27.8%
開
7.5
放 57.5% % 10.0% 25.0%
③面会の条件
閉 同席 面会者によって同席 同席しない 症状による
鎖 14.8% 38.9%
27.8% 18.5%
開 5.0
5.0
放 % 32.5%
45.0% 12.5%
%(4)面会時の職員同席の有無 無回答
広田伊蘇夫『精神病院』(1981年)49頁。
使うときは封をしないで看護i者詰め所に提出す 場合,看護i者が,患者に訂正を説得する。受け るように決められている。医師が文面を判断し 入れられないときは,患者の許可を得て看護者 て,不適切と思ったものは預かっておいて家族 が,手紙の中に妄想的な部分があることを書き に渡す。一部に妄想的な内容が含まれる手紙の 添えて投函する。」(同書ll8頁)また,電話に