港湾財政確立の問題
その他のタイトル On the Establishment of the Balanced Finance in port Admininistration
著者 柴田 銀次郎
雑誌名 關西大學商學論集
巻 9
号 4
ページ 269‑290
発行年 1964‑10‑30
URL http://hdl.handle.net/10112/00021589
269
︵柴 田︶
港 湾 財 政 確 立
開港は国家的存在であると共に国際的存在であり︑かつ地方的存在でもある︒すなわち︑国の関門として貨物︑
船舶および人の出入を取締まると共に︑一国の経済政策の末端の場として関税を課し︑輸出入の制約・緩衝の現場
の意味において国家的存在である︒又︑海上交通上の安全地帯として︑国際経済のクーミナルとして︑又国際市場
のカウソクーとして国際的存在である︒しかし又︑港は都市発生の源でもあり︑その市民はこれによって経済活動
を営み︑又市民によって港が維持繁栄されている点から地方的存在でもある︒凡そ︑港湾の財政はこの三つの存在
的意義に基づいて支持さるべきである︒すなわち︑港湾経営上の財源は︑この三つのルートから求めらるべきであ
り︑事実︑世界の各港はこの原則に基づいて港湾を経営している︒
現代的意義からすれば︑港湾が経済的存在であることは何人も疑うものはあるまい︒しかるに︑わが国のように
港が諸外国よりも遥かに遅れて︑政治的動機によって開港された国にあっては︑港は開港の当初から国の営造物と
してのみこれを取扱い︑教育施設や公道などと同じく︑単に公益的存在であるかのように経済を無視した財政方針
の上にその経営が行われて来た︒いわば︑国家的存在を強調する余りにその経済的意義を見失っていたようである︒
港湾財政確立の問題
港 湾 の 財 政 原 則
の 問 題
柴 田 銀 次 郎
港湾財政確立の問題
或は︑開港は関税徴収の場であって︑港湾の建設・経営はこのための財政投資と考えていたと解釈すれば︑港湾の
経済的存在を認識していたといえるかも知れない︒しかし︑それでは港湾活動の国民経済的意義を余りに軽視して
いるものといわなければならない︒
政府の支配力が民意を圧倒しており︑従ってその行政力も国民の経済活動より強かった時代にあっては︑民間の
業者は開港の直接の管理庁であった﹁税関﹂の指示に従ってのみ港湾活動が許されていた︒当時といえども︑港湾
活動に従事していた業者は無数であって︑戦時中は至上命令により作業会社は一本に集約されて政府の統制に服し
ていたけれども︑それ以前は港内においてそれぞれ経済活動を行っており︑税関はそれらの活動の自由性を一定の
規準に従って拘束していた︒このような経営形態にあっては︑港湾事業は国営事業であり︑
を目標とし︑その財政は収支を超越した国のサービス経費であるに過ぎなかった︒ しかもその経営は公益
しかるに︑昭和二十五年港湾法が布かれてからは︑各港湾には管理者が指定され︑各港湾管理者はその港湾の経
営と財政との責任を負担することとなった︒法による港湾管理者は︑その港湾の関係地方公共団体が組織した委員
会を主体とする港務局︵公法人︶か︑又はその港湾を包摂する地方公共団体である︒いずれにせよ︑国の支配を離
れて地方的に管理運営する体制となった︒これは︑主として当時の風潮であった民主化急転換の思想に基盤を置く
政治の現われではあったけれども︑今日から考えれば︑その後における国民経済の急ピッチの回復と外国貿易の未
曽有の発展速度にマッチする措置であったといわなければならない︒すなわち︑今日見るような各港の膨大かつ複
雑化した輸出入貨物を円滑に処理し︑叉各港の経済活動がそれぞれ特殊化して各港区々の性格を帯びるようになっ
て来たため︑千遍一律の国家行政では到底これらを管理することは無理であると思われるからである︒各港はそれ
︵柴
田︶
271
港湾経営が公共事業であることは︑世界各国がこれを認めているところである︒公共事業ということは︑営利事
港湾財政確立の問題
︵柴
田︶
る措置を講じたものといえる︒ ぞれの特殊性に即した経営方法によることが︑その港の発展を期し得る所以であり︑又ひいては国民経済の成長に
港湾管理権が地方に移ってからは︑港湾管理のための財政は港湾管理者が主管することとなった︒しかし︑港湾
管理者は従来国が行っていたように港湾を以って単に公益的存在としてのみこれを経営することは︑地方公共団体
いわんや港務局という法人の狭監な財政面から見て極めて困難である︒地方公共団体特に都市は︑既に交通︑水道
等の事業を独立経済の立て前を以って経営し︑しかも概ねこれが成功していることから考えて︑港湾についても少
なからざる諸使用料︑港湾料金を受益者から徴収している以上︑港湾運営を独立経済に移行させる気運の生じるこ
﹁港務局がその業務を行うために要する経費︵港湾工事に要する経費を除
く︒︶は︑その管理する港湾施設等の使用料及び賃貸料並びに港務局の提供する給水等の役務の料金その他港湾の管
理運営に伴う収入をもって︑
いえる︒しかし又︑同法三十一条に︑剰余金があったときは負債の償還︑欠損の補充準備にこれを積み立て︑なお
残額あるときは港務局を組織する地方公共団体に納付しなければならず︑欠損を生じたときは欠損準備金をもって
これを補い︑なお不足あるときは当該地方公共団体がこれを補填しなければならないことを規定している︒これに
よって見ると︑港湾法は港湾管理者に対して完全な独立財政を要請しているわけではなく︑都市の交通事業の程度
の独立会計を望んでいると見るべきである︒これは︑港湾経営を国から地方へ移譲するために先ず以って必要であ まかなわなければならない︒﹂と規定していることは︑一応この精神に則ったものと とは自然であろう︒港湾法二十九条に︑ 順応する所以だからである︒
いうのである︒
港湾財政確立の問題
港 湾 に お け る 資 本 的 経 費
業と対立する概念であると同時に︑公益事業とも区別さるべき概念である︒営利事業は有利なる対象を恣意的に選 択してこれとのみ取引をなし得るけれども︑公共事業は公共に害ある場合を除いては一般公衆に差別なく開放しな ければならず︑相手を恣意選択することが許されない︒しかし又︑公益事業は経済を無視しても遂行さるべき事業 であるけれども︑公共事業は必ずしも非経済的存在ではなく︑時には経営の結果として利益を収めることも許され ている︒但し︑公共事業の中には私企業経営体と︑公企業経営体とがある︒公共事業にして私企業的というのは︑
言葉として一見矛盾しているようではあるが︑例えばガス事業︑電気事業︑鉄道事業︑放送事業等がこれであり︑
収益金にして余剰があればこれを配当することもできるし︑又課税の対象ともなり得る︒しかるに︑公企業経営体 は国又は地方公共団体の設立又は投資による経営体であって︑原則として収支均衡の財政を維持すべきであり︑経 営の結果として収益することはできるけれども︑この利益金は指定された目的以外には充当することができず︑そ の代わりに︑もし欠損を生ずることがあれば︑その設立者においてこれを補填することもあり得る立て前の事業を このような概念構成から見ると︑現行の港湾法においては︑港湾事業を以って公企業経営体としての公共事業と
見ているものというべきである︒すなわち︑港湾経営上の経費はその港湾収入をもって賄なう体制でなければなら ない︒これは単に経常的費用︵管理費︑運営費等︶のみならず︑建設費︑改良費等巨額の臨時費についても︑その 一部の年賦償還金と利子は︑これを管理者収入をもって賄ない得る程度の自主経済が要請されているものと見る︒
︵柴
田︶
四
273
第1表 港湾における経済活動から生じた直接収入
昭和37年度 単位:100万円 港湾財政確立の問題
項 目
神 戸
••••
1 2 3 4
︵柴
田︶ 56. .
船舶運航関係収入 23,196
船舶荷役関係収入:::::••::::::::::::::: 4,525
貨物関係収入…••………• 14,722 国 の 収 入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・I 28,704 内 税関収入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (28,467)
管理者収入•.......................... 1,021 そ の 他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・I 23
港
総
(註) 収
32.1
」
形 6.396 20.496 39.8彩名 古 屋 港
入•................................ 72,191
1.4飴
3,336 2,007 8,658 3,707 (3,669)
508
100.0%I 1s,215
18.3形 I1.0%
47.6%
20.4%
2.7彩
100.0彩 1, 2, 3のうち管理者収入となる項目は除かれている。
五
国が港湾によって得る直接収入の外に︑港湾に直接関係しない 0% ︵四月乃至三十八年三月︶に港湾がもたらした直接収入総額の推算 らす経済的利益に関する研究﹂の委託を受け︑先ず昭和三十七年度 ある︒日本港湾経済学会は昭和三十八年に運輸省から﹁港湾のもた 活動から生じる総収入のうち︑甚だ大きな部分を占めているからで その港に陸揚げされた輸入品から得る関税は︑港湾のあらゆる経済 を得ているのは国だからである︒少くとも重要貿易港においては︑ ことは不合理である︒何となれば︑その港によって最も大なる利益
︑名古屋港においては同じく二
0%が国の収入となっている︒
横浜港については全調査がまだ終っていなくて総収入が不明である が︑国の収入合計は五一︑三三九百万円︑うち税関収入五一︑二六 二百万円︵内︑関税三八︑七六
0百万円︶であることから察して︑
恐らく神戸港の場合を遥かに超える部分を占めているものと思われ る︒これらの詳細はいずれ学会誌に発表されることとなっている︒
第一表によると︑神戸港においてはその直接的総収入のうち約四 を行ったが︑その結果の一部を紹介すると第一表の通りである︒ 但し︑建設費︑改良費については︑その全額を管理者に負担させる
ある
︒
てい
る︒
︵第
四十
︱︱
一条
の二
︶
は他に見ることを得まい︒ 港湾財政確立の問題
般国民も︑外国貿易を通じて港湾から如何に莫大な﹁見えざる利益﹂を得ているかは論を侯たない︒これらの点か
ら考えても︑港湾の建設改良費を国民の租税によって賄なうことは当然のことであって︑国家財政から見れば極め
て現実的な財政投資であり︑関税︑貿易海運事業に対する国税等をその果実と見れば︑恐らくこれ以上の投資効果
港湾法によると︑
一︑重要港湾︵政令で指定される︶において一般公衆の利用に供する目的で︑水域施設︑外郭施設又ほ槃留施設の
建設又は改良の重要工事に対する費用は︑予算化された場合に限り︑国と港湾管理者が十分の五づつを負担する︒
︵第
四十
二条
︶
二︑国が特に必要と認めた上記以外の工事︵臨港交通施設︶の場合は︑重要港湾に対しては予算の範囲内で国庫補
助金として十分の五以内を支出することがある︒︵第四十三条の一︶
三︑地方港湾に対しても建設改良費には予算の範囲内で十分の四以内の国庫補助を行なうことができることとなっ
近年は所得倍増計画︑経済拡大政策に副うて膨大な港湾建設事業が各港において興っており︑その結果として︑
国の直轄工事として全額国庫負担の事実も生じている︒いずれも国として重要な財政投資とこれを見ているからで
この場合に︑特に注意すべきことは︑国は単なる投資者であるということである︒投資者の権限はその投資の保
全のための監督をなすに止まり︑既に法律で認めた港湾管理者の自主性を冒すべきではないということである︒
︵柴
田︶
. ....
ノ
275
港湾の資本的経費は︑第1に国の投資に侯つ.べきであるが︑第二には港湾管理者も各種港湾料金の徴収者としての
みならず︑又港湾によって直接間接の利益を得ている市民大衆や無数の商工業を擁している地方公共団体としても
資本的経費を負担すべきことは当然であるし︑更に︑第三には港湾利用者もその一部を負担するのが当然であると
考える︒但し︑この第三の負担者の負担分は︑利用の都度支払う各種港湾料金の中に算定配分するのが︑受益者負
担の理論に叶うものといわなければならない︒このことは︑直ちに港湾における経常収入乃至は港湾料金の問題に
立ち入ることとなる︒
港湾の管理運営に関する経常経費は︑その港の管理者の経常収入を以って賄なうことが原則であり︑経常収支の
均衡は港湾経営の原則であることは前に述べた︒凡そ港湾における経済活動は︑国の出先機関︑管理者および民間
業者によって行われており︑港湾活動から生じる収入はこれら三者の手に入り︑これら三者がそれぞれの計算にお
いてその活動に必要な経費を支払っている︒︵もっとも︑国の出先機関の場合は一旦国庫を経由するけれども︒︶し
かし︑港湾の管理・運営に関する経費は︑管理者のみがこれを負担し︑この経費は管理者の収入だけから支出され
るのが原則である︒管理者の収入は︑岸壁使用料︑滞船料︑上屋・浮標・曳船・はしけ・荷役機械・給水・用地・
建物・水面等の使用料が主たる経常収入であり︑これに諸免許料・手数料が加わって収入勘定を構成している︒管
理者
支出
は︑
港湾財政確立の問題
︵柴
田︶
一般事務費︵一般港湾費︑港湾管理費などとも称されている︒︶︑前記諸事業の維持運営費︑福利厚生
費︑整備費などが主たる経常支出となるが︑経常収入と経常支出との差がマイナスの場合には︑その地方公共団体
港湾における経常収支
七
港湾財政確立の問題
以上の収支勘定は︑たとえ地方公共団体の予算決算面において港湾事業を独立会計とせず︑単に一款項目として
計上している場合でも同じであって︑かかる地方公共団体といえども︑港湾の管理は港務局に準ずべきであるから︑
港湾経営の経常勘定においては︑収支均衡をなすべき原則であることを前に述べたが︑現実はどうなっているで
あろうか︒第二表は昭和三十七年に筆者が全国市長会港湾都市協議会事務局を煩わして調査した計数を整理した結
果の一部である︒この表の中で収支の各項目︑殊に支出項目は︑各港によって解釈が異っており︑勘定の立て方が
区々である︒殊に︑港湾整備費に至っては︑経常費と見られる小規模の修繕改良費を含むものもあれば︑建設費に
組み入れる方が適当と思われる工事費を入れているところもある︒又︑港湾事業費は一部分を一般港湾費の中に入
れているところもある︒これらのうち︑明確に分離可能な費目はこの表の分類のように整理し得たが︑然らざるも
のは原分類のままにした︒殊に︑港湾整備費は一応は建設費に準ずるものと仮定して経常費から除外した︒このた
め︑最後の行に掲げた比率は精確には経常収支勘定の係数を示すとは言いきれないけれども︑しかしほぼ真相に近
い傾向を現わしているものと信ずる︒又︑この調査のときから既に三年を経過し現状を如実に示すことにはならな
いが︑調査は昭和三十一年乃至三十六年の六カ年に亘って行ったもので︑この結果から見て︑整備費︑建設費︑募
債︑国庫支出金等には年度により著しい起伏の差があることを認めるけれども︑経常収支には差程大きな突発的相
違がなく︑年々に少しづ4増進している傾向にあるので︑現在の問題に関する限り今日といえどもこれを基礎に一
応の立論をなし得るものと思う︒ この収支構成の例外をなすものではない︒ の一般会計からの繰入金によってこれを補っている︒
︵柴 田︶
八
第2表主要港湾の財政状態(昭和36年決算但し横浜は34年決算,大阪は35年決算,神戸は36年度予算)単位:1,000円
項目厨砿(市)1青、(市)1新J(県)伽砥し市)1横浜5(市)1名古贔(組)1大阪7(市)1神戸8(市)峠品(市)1門奇?市)1博i畑市)厨論そ局)
支出1. 一般港湾費31,988 21,227 23,819 94,056 457,412 545,042 211,536 217,106 25,558 43,121 79,840 54,402 2. 港湾事業費14,763 90,347 143,229 49,498 91,427 270,807 465,161 636,750 6,565 7,493 74,235
r・l86
3. 港湾整備費63,155 1,587 477,784 67,539 2,720,496 . 578,902 36,201 152,865 61,063 4.建設費29,161 483,349 740,689 8,594,063 612,864 186,824 318,201 435,720 5.その他30,206 27,318 412,827 158,066 421,161 5,029 58,066 148,428 138,640 51,151 支出合計140,112 169,640 644,832 1,107,269 1,447,594 12,551,569 676,697 2,049,651 313,214 670,108 789,498 568,739収入6. 使手用数料料・35,289 21,125 28,329 123,584 238,028 447,580 517,628 659,058 23,949 45,728 98,669 66,089
7.財産収入0 12,854 2,81. 2 389,585 2,989,000 184,321 874 126,521 81,000 308,082
゜
8. 国庫支出金18,618 10,853 153,814 35,513 83,155 537,649 102,148 12,233 62,678 36,316 61,049 9.公債34,000 94,200゜
70,000 615,233 2,915,000 ‑699,000 149,000 116,000 168,000゜
10.繰入金51,498 30,055 8,000 291,SQ,2 175,035 738,479 460 130,000 497 0 55,000 417,995 11. 寄負附担金金・590,342 34,781 110,857 6,485,855 9,250 6,415 112,617 6,169 13,961 12.雑収入706 49,443 122,399 49,743 7,296 140,405 1,618 279,732 69,305 17,192 13.繰越金゜
218,511 1,856,067 ‑308,646 16,889 0 56,559゜
14.その他553 47,280 39,639 1,832 収入合計140,112 169,640 830,577 1,252,858 1,346,539 16,019,373 709,705 2,049,651 337,122 697,755 798,100 576,286~
︵形︶
比率
6. 1.+2. 75.51 18.91 17.0│ 86.11 43.41 54.91 76.~I 77.21 74.61 三
卜 L N
(註)(県)は県営,(市)は市営,(組)は組合営,(局)は局営,いずれも調査当時の管理形態。一印は他項目に編入,又は不明。
裁禦益溢据料Q臣園(嵌田)
t
出が
なか
った
︶︑
港湾財政確立の問題
第二表の中で︑形式的にバランスをとっている港は︑函館︑青森︑神戸の三港であって︑他は形式を整えず過不
足分の均衡が整えられていない︒しかし︑このことは余り重要ではなく︑内容が問題なのである︒すなわち︑︵一︶
経常費は経常収入で賄なわれているか︑︵二︶建設費等を含めた総支出は主として如何なる収入で補われたか︑とい
うことが重要であり︑殊にここでは︵一︶の問題を主として観察して見ることとする︒
第二表に掲げた港の中で︑経常支出を経常収入をもって十分に賄なっている港は︱つもない︒悉く支出超過を示
している︒特に︑青森︑新潟の二港はその経常収入が経常支出の二〇彩にも足らず︑経常収入は年々に増加してほ
いるけれども︑経常支出がこれを遥かに上廻わる増加であって︑この不足分は県市の一般会計からの繰入金︑財産
寄附金・負担金︵新潟︶等をもって補っている︒他の港においては︑これらよりは良好
の事情にあるけれども︑横浜港はこの収支均衡率が五0彩に満たない︒これは横浜港の経常収入が著しく少ないた
めであって︑神戸︑大阪︑名古屋の三港に比べて二分の一又はそれ以下である︒但し︑この計数は昭和一二十四年度
に関するものであり︑港湾都市協議会によって集収された資料によるものではなく︵当時横浜港からは調査票の提
じことに帰する︒ 横浜市統計から得たもので他港と比較することは無理であるが︑その後入手した昭和三十七年度
の統計︵前記︑運輸省委託調査︶によっても︑管理者総収入ほ三七四百万円となっていることから見て︑結論は同
︵第一表参照︶これは青森\新潟二港とともに︑横浜港には管理者収入となるべき事業が少ない
ことが主たる理由であると考える︒港湾事業費が神戸︑大阪︑名古屋一二港に比べて著しく少ないことがその証左で
ある
0彩を超え︑特に門司︑川青森︑新潟︑横浜の三港に比べると︑ここに掲げた他︐の港はいずれも収支均衡率が五 ︒ 収入︵土地建物売却代︶︑
︵柴
田︶
10
279
︵柴
田︶
崎両港は均衡に近づいており︑神戸︑大阪︑函館︑下関の各港もこれに次いで均衡有望と見られる︒経費を多少と
も節約し︑使用料増加の途を計って︑経営宜しきを得ば︑均衡財政の望みなきにしもあらずである︒'但し︑建設改
良工事の投資に対する償還金︑利子を経常費の中に組み入れるとなると︑均衡財政はまだまだ幾多の困難が見出さ
れるといわなければならない︒しかし︑この表を概観して︑例外はあるにしても︑経常勘定における均衡は経営の
工夫さえすれば達せられる港が多いということは言い得ると思う︒
港湾料金の問題
港湾財政の均衡を期する最も重要な中心点は︑港湾料金︑特に港湾施設の使用料の増収ということである︒言い
換えれば︑港湾経営を支えているものは港湾料金である︒ここにいう港湾料金というのは︑港湾法にいう﹁港湾管
︵同法第四十四条︶のことであり︑この規定によると︑理者の提供する施設又は役務の利用者から徴収する料金﹂
この料率を定め又は変更するときは施行三十日前にこれを公表することを要し︑この料率に不服ある利害関係者は
運輸大臣にその理由の事実を具申して変更を請求することができる︒この場合︑運輸大臣ほ運輸審議会をして公聴
会を開催せしめ︑その当不当を決定することになっている︒このため︑現実には港湾管理者は予じめその地方公共
団体の議会や利害関係者の予解を求め︑又運輸当局の意向をも打診して料率を定めるという方針をとっているよう
である︒すなわち︑港湾料金の料率の決定・変更は運輸省の認可事項ではないけれども︑制約事項であるといえる︒
港湾料金の主たるものは諸施設の使用料である︒施設使用料は︑施設によっては原価計算方式によってその料率
移譲又は管理委任を受けた官公施設なを定めることができるが︑既に長年月を経過した施設︵突堤︑岸壁など︶︑
港湾財政確立の問題
四
港湾財政確立の問題
どに対しては︑この方式によることができない︒のみならず︑公共施設である以上は原価計算にのみ拘泥すること
は許されず︑使用者の経済事情︑他港︵国内︑国外︶との振り合いも考慮しなければならない︒現実にはむしろこ
港湾料金における他港との振り合い︑殊に国際的比較については︑既に知られているように︑わが国のそれは著
しく低率であり︑このことについては先に﹁商学論集︑第七巻第六号︑港湾財政のあり方﹂においても統計表を示
してこれを立証しているので︑ここでは再び詳論することを避ける︒ここで問題とするのは港湾利用者の経済事情︑
言い換えれば港湾料金に対する施設利用者の負担力についてである︒
施設利用者の港湾料金負担力を算定することは極めて困難である︒すなわち︑施設利用者である業者の経営状態
と経理内容とは区々であり︑自ら倉庫︑上屋︑トラック︑はしけ︑荷役機械等を持ち︑数百の常傭労働者を擁する
大会社もあれば︑僅か数名の常傭労働者と荷役軽器具を少々しか持たない業者もある︒そのため︑港湾料金に対す
る業者の負担力を直接に見ることは困難なので︑ここでは貨物価格の荷役料金負担力︑次いで業者の収入となる荷
役料金のうち︑管理者に支払われる港湾料金の割合を標本調査によって算定し︑これを推論の基礎としようと思う︒
しかし︑多くの港についてこれを調べることは時日が許さないので︑現在は筆者として最も入手し易い立場にある
神戸港の場合について調査した結果を述べることとする︒羞し︑荷役料金にせよ港湾料金にせよ︑単位当りの額と
なると︑各港の間にさしたる相違がないように思われるからである︒
先ず︑神戸港で取扱っている重要貨物の原価に対する港湾荷役料の割合を問題とする︒これを見ることは︑荷役
業者の収入となる荷役料のうち港湾管理者の収入である港湾料金が如何なる部分を占めるか︑という次の問題を解 の方が強調されている︒
︵柴
田︶
281
であ
る︒
︵柴 田︶
く基
とな
る︒
神戸港において取扱われている貨物は原料品から精製品まで無数に上っているが︑これらの原価を一々見ること
は不可能に近く︑従ってここでは数種の最も単純な貨物についてこれを調べることとした︒神戸港荷役において価
額および数量の点から最も重要な地位を占めているものは︑輸出にあっては繊維品と雑貨とであり︑輸入にあって
は金属類︑穀類︑綿花の類である︒しかし︑これらの貨物といえども品目︑種類が甚だ多く︑特に雑貨というのは︑
公表荷役料金表では他に掲記されていない貨物を一括した名称であり︑これに含まれるものは翫具︑文房具︑
取扱
って
おり
︑
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クリ
スマス用品等祭祀用品︑身辺用品︑その他小間物︑細工品︑食器類などが主となっている︒又︑荷役料金表で繊維
ここでは︑神戸における最も典型的な某商社について実際資料を求めた関係上︑その商社において多年一貫して
かつ品質の点からいっても最も単純であり︑価格も平均に近いと目される数種の商品を選んだ︒そ
れは︑輸出雑貨としてはイースクー・バスケット︵竹・経木製籠Y竹製すだれ︑竹製熊手
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れらの品々は︑この資料を提供した商社のみならず︑神戸港を根城とする殆ど総べての商社が取扱っているもので
あって︑神戸港扱いの貨物としては最も一般的な品目である︒更に︑神戸港に輸入される貨物としては最重要貨物
である穀類を選んだが︑そのうち︑特に玉蜀黍︑大豆および小麦を選定した︒すべて同じ商社の取扱いになるもの
港湾財政確立の問題
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.
であり︑輸出繊維品としては綿布のうち綿白ボプリンである︒こ よび履物︵ゴム底布製・化繊製・コール天製靴︑ 製品というのは各種織物︑編物一切を含んでいる︒
港湾財政確立の問題
き亘っているが︑この殆ど全部を集計した︒綿白ボプリンはアメリカ合衆国を始め︑濠洲︑
に近い件数に上っているため︑すべてIBM計算機を以って処理した︒
穀物は重 これらの資料は昭和三十四年︑三十五年︑三十六年の三ヵ年に亘る実績に基づくものであるが︑この三カ年にお
けるその商社の取引件数は各品目ともそれぞれ一千件に近い膨大な数に上っている︒雑貨の輸出先は世界各地に行
カナダ等が輸出先とな
っている︒また輸入穀類はアメリカ合衆国︑カナダ︑濠洲︑南阿連邦︑ブラジル︑クイおよびヴェトナムを積出地
としており︑これら取引の全部を対象とした︒しかし︑資料を点検して他と比較し腑に落ちない数字を示している
ものは除外した︒それでも︑積出件数は綿白ボプリソだけでも五百九十一件を算え︑その他のものもいずれも一千
荷役料と対比する商品原価は︑輸出貨物にあっては最終倉庫における価格とし︑輸入貨物にあっては到着価格と
した︒このため︑輸入単価は送状価格からそのままに算出できるけれども︑輸出価格については商社の帳簿面にお
いて売渡価格となっているため︑それぞれの送状を点検し︑これに基づいてFOB価格のときは港費を差引いた価
額をその数量を以って除するだけで単価が得られるけれども︑CIF価格のときは売渡価額から港費の外に運賃と
保険料とを差引いて単価を求める必要があった︒C&F︑C&L︑C&I等も悉くこれを一旦FOB価格に引き直
してから単価を求めた︒そして︑大部分は米ドル価格で示されているけれども︑輸出入先によってはカナダ弗︑英
ポンド︑濠ポンドも相当にあり︑これらは銀行マージンを無視して︑統制相場で換算し統一することとした︒又︑
単価は現在の調査目的からすべて荷役量単位によって算出し︑雑貨と綿布とは容積トン︵四0
立方
択︶
︑
量トン(‑千キログラム︶を以って割り出した︒
更にここに用いた港費は︑その商社と密切な提携の下にある一般港湾運送業者である某会社への支払額から算出
︵ 柴
田 ︶
一四
283
は丁度その中間である︒ が
なか
った
︒
︵柴 田︶
一五
した数字であるが︑荷役料はすべて一貫協定料率によっているようであり︑従って各荷役段階における細かい作業
別の料金は不明である︒ただ︑荷役料以外の港費が全く区々であって︑同種品目にあっても︑場合場合によって著
しく異っている︒その理由については手許の資料だけではこれを知ることができず︑そのまま使用するより外に途
ここで取扱った一貫荷役料は︑倉出しから船内積付け終了までの一切の荷役料を含んでいる︒すなわち︑積付け
までの荷役とサービス一切を元請けしている一般港湾運送会社が︑荷主から受取った全額が基礎となっている︒
第三表によると︑一貫荷役料が各品目の間で比較的に差の少ない関係上︑原価の高低によって一貫荷役料の割合
に著しい差異を生じることとなっているのは当然であろう︒すなわち︑ここに取扱っている品目のうち︑最も原価
の安いイースクー・バスケットにおいては︑その荷役料は原価の九形乃至一0形に及んでいるけれども︑雑貨でも
靴のように一トン十万円に及ぶものとなると︑その荷役料は原価の一彩内外に止まっている︒まして︑単価が三十
万円乃至四十万円に及ぶ綿ボプリソとなると、荷役料は0•四彩未満に止まっている。更に、第四表に見る輸入貨
物についても同様のことが言える︒ここに取扱った貨物は穀物だけであるけれども︑荷役料が種類によって多少の
差があるにも拘わらず︑到着価格に対する割合は全く単価によって左右されており︑ここに掲げた品目のうち︑単
価の最も高い大豆においてニ・五形程度であるに反し︑比較的に単価の安い玉蜀黍は四・六形に及んでいる︒小麦
輸出諸掛のうち︑最も重要な部分を占めているのは運賃である︒海上運賃も荷役料と同じく︑価格の高い貨物ほ
ど負担力に余裕があり︑価格の低い貨物は膜々価格と同額又はそれ以上の運賃率となることさえある︒ここに取上
港湾財政確立の問題
第3表船積貨物の原価と港費 (神戸港)
単位・ 1貨物屯につき円
品
昭 和 34年(平均)
最終倉庫に 港 費
目
おける単価一貫荷役料Iそ の 他I計
イースクー・バ 10,600 950 7.63 957.63 8.96 9.03 スケット
竹 す だ れ 14,731 950 34.03 984.03 6.44 6.67 竹 熊 手 13,580 950 173.26 1,123.26 7.00 8.23 靴(布・ケミカル) 121,040 1,270 44.90 1,314.90 1.05 1.08 綿ポプリン(白) 307,493 1,200 0.39
l
単価に対する比率 (%)
ほ〗荷 1 港費
昭 和 35年(平均)
イースクー・バスケット 9,699 950 11.21 961.21 9.80 9.91 竹 す だ れ 15,206 950 27.17 977.17 6.24 6.43 竹 熊 手 13,580 950 127.69 1,077.69 7.00 7.94 靴(布・ケミカル) 106,302 1,100 79.66 ‑1,179,66 1.03 1.11 綿ボプリン(白) 393,791 1,250 0.32
昭 和 36年(平均)
イースクー・バスケット 9,700 950 14.28 964.28 9.8.0 9.94 竹 す だ れ 15,444 950 6.15
竹 熊 手 14,320 950 41.70 991.70 6.63 6.93 靴(布・ケミカル) 112,943 950 77.81 1,027.81 0.84 0.91 綿ボプリン(白) 354,875 1,300 0.37
港湾財政確立の問題︵柴田︶
ーJヽ
(註) 一印は不明。某商社につき柴田調査;
285
第 4表 港湾財政確立の問題
陸揚貨物の価格と荷役料
単位・ 1貨物屯につき円 昭 和 34
品 目
蜀
︵柴
田︶
玉 大 小
一
黍 豆 麦
到 着 価 格 20,628.00 33,868.80 23,839.26
年 (平均)
I倉入までの荷役料I
790.50 790.50 815.00
比 率 (形)
3.83 2.33 3.42 昭 和
35 年 (平均)
玉 大 小
蜀 黍
豆 麦
21,549.60 32,324.40 23,717.85
898.78 898.78 879.00
4.17 2.78 3.71 昭 和
36 玉
大 小
蜀 黍
豆 麦
20,538.29 38,761.20 23,168.60
年一 (平均)
944.78 944.78 901.00
4.60 2.44 3.89
(註) 同前
一七
量が海外に輸出されている︒原価 える運賃の外に︑更に一0形の荷 て考えて見ると一層に驚異すべき
役費を支払っても︑毎年莫大な数 ケットの如きは原価の七0形を超 現実であって︑イースター・バス このことほ荷役費をこれに加え であるともいえる︒ て負担力を論ずることは認識不足 あるから︑単に諸掛の大小を以っ なお大いに輸出を行っているので ような高率の運賃を支払っても︑ 合で支払われている︒商社はこの ハスケット︑竹熊手等︶までの割 ︵靴︶から七五形︵イースクー・ に見る通り︑運賃は原価の一0%
げた雑貨についていえば︑第五表
第5表 商 品 原 価 と 海 上 運 賃
単位・ 1貨物屯につき円
船 甜 貨 物 原
昭 和
価
36
航
年 海
(平均)
上 路
9,700 {
太 平 洋 7,200 74.2 イースター・バス
太平洋・大陸目的地まで
ケット 5,670 58.4
(船賃のみ)
竹 す だ れ 15,444 太 平 洋 7,020 45.4
14細
1
太 西 洋 10,800 75.4 太 平 洋 7,650 53.4 竹 製 熊 手 太平洋・大陸目的地まで 7,020 49.0
(船賃のみ)
オーストラリア 8,608 60.1 太 西 洋 12,960 11.5 靴•履物(布靴・ 太 平 洋 12,060 10.7 ケミカルシューズ 太平洋・大陸目的地まで 12,960 11.5
等) (船賃のみ)
ョーロッ,,・ミ 13,625 12.1 中南米東岸 23,177 6.5 オーストラリア 12,334 3.4 ョーロッパ 12,552 3.5 綿ボプリン (白) 354,875
ア フ リ カ 9,500 2.7 香 港 5,140 1.4 その他東南アジア 5,339 1.5
I運 賃支払運賃 l皐雙環
港湾財政確立の問題
︵柴 田︶
一八
(註) 本表の運賃ほB/L面の実際支払運賃額を船積屯数を以って除した金額で あり,船会社の公表運賃率ではない。故に支払運賃に多少の疑問があるが,
これが資料から得た実際の数値である。 (某商社につき柴田調査)