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〈論 説 〉
「 世 界 憲 法 案 」 と人 権 保 障 の現 状
一 田畑 茂 二 郎 『世 界 政府 の思 想 』 を通 して
中 山 雅 司
目 次 は じめ に
1.世 界 憲 法案(シ カ ゴ草 案)と 人権 規 定 (D制 定 の背 景 と経 緯
(2)世 界憲 法 案 にお け る人 権 関連 規 定 (3)人 権 の実 施 措 置
(4)世 界 政 府 構 想 の評 価 2.国 民 國家 体 系 と人 権 保 障
(D人 権 概 念 の 形成 と国 際社 会 にお け る人 権 の 位 置 (2)国 際 人権 の意 義 と性 格
(3)非 植 民 地 化 と人 権 概 念 の展 開 3.冷 戦 終 結 後 の世 界 にお け る人 権 状 況
G)「 二 つ の 世界 」 の 終 わ り と人 権 の主 流 化
(2)人 権 法 ・人 道 法 ・刑富 法 の 交錯 点 と して の人 間 の 尊厳
(3)規 範 相互 の 内部 対立 を調 整 す る原 理 と して の 「 保護 す る責 任」 論 (4)人 道 主義 的 覇 権秩 序 が もた らす問 題
4.国 際 立 憲主 義 と人権 (1)合 意原 則 、 相 互主 義 の 克服
(2)国 境 を超 え る立憲 主 義 とデ モ ク ラテ ィ ック ・ピー ス論 (3)人 権 と民 主 主 義
(4)国 際 民 主 主 義 とNGO、 国 際機 構
おわ りに 一 『世界 政 府 の 思 想』 が 問 い か け る もの 一
は じめ に
け
本 年(2010年)は 、 田 畑 茂 二 郎 著 『世 界 政 府 の 思 想 』 が 発 刊 され て よ り60 年 を迎 え る。 『世 界 政 府 の 思 想 』 が 書 か れ た 第2次 世 界 大 戦 終 結 ま もな い当 時 の 世 界 は、 す で に東 西 冷 戦 の も と にお かれ て い た。 な か で も、 核 兵 器 を め ぐ る米
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ソ を 中 心 とす る国 家 間 の 対 立 が 平 和 を危 う く して い る との 強 い危 機 感 か ら、 各 国 で は世 界 政 府 運 動 が 盛 り上 が りを み せ た 。 『世 界 政 府 の 思 想 』 で は 、 その よ う な世 界 政 府 運 動 の な か で 、 さ ま ざ まな 団 体 が 描 い た 世 界 政 府 の 思 想 と構 造 に っ い て 丹 念 な分 析 と検 討 が な さ れ て い る。 そ の な か で も最 も有 名 な も の と され る の が 、 シ カ ゴ大 学 総 長 の ロバ ー ト ・ハ ッチ ンス 博士 を 委 員 長 とす る 世界 憲 法 審 議 委 員 会 が1948年 に発 表 した 世 界 憲 法 予 備 草 案(PreliminaryDraftofn
WorldConstitution,通 称 シカ ゴ草 案 。 以下 、世 界 憲 法案 、場 合 に よっ て シ カ ゴ
z)
草 案 と呼 ぶ)で あ る。 世 界 憲 法 案 の注 目す べ き 点 は 、 正 義 と平 和 が 不 可 分 の 関 係 に あ る こ とが 強 調 され 、世 界 政 府 は 何 よ り も 「人 権 」 の 尊 重 を基 礎 と した も の で な けれ ば な らな い と述 べ て い る点 で あ る。 この こ とは 、 主 権 国 家 お よ び そ れ に 基 礎 お く主 権 国 家 体 制 が 平 和 の 阻 害 要 因 と して だ けで な く、平 和 の 基礎 と して の 人 権 の 実 現 を も妨 げ る要 因 と な っ て い る との認 識 か ら、 新 しい 世 界 秩 序 の 中核 的 価 値 に 人 権 を据 え よ う とす る もの と い え る。 す な わ ち 、 世 界 憲 法 の 中 心 に人 権 の 尊 璽 を お き、 世 界 政 府 を人 権 保 障 体 制 と して 構 想 した 点 に あ る。 主 権 国 家 体 制 に代 わ る 世界 秩 序 を人 権 を 中核 的 価 値 に す え て構 築 しよ う と した発 想 は画 期 的 で あ り、 田 畑 もそ の 理 念 性 に 注 目 して い る こ とが 伺 え る。
しか し、 そ の一 方 で 田畑 は 、 世界 憲 法 案 を含 む 世 界 政 府 論 そ の もの に む し ろ 懐 疑 的 な い し批 判 的 な見 方 を示 して い る点 が 注 目 され る。 それ は 単 に 構 想 の 実 現 可 能 性 の 問題 に対 す る批 判 だ け で はな い よ う に思 わ れ る。 そ の 後 の 歴 史 が 示 す通 り、 世 界 憲 法 の 構 想 は陽 の 目を 見 る こ とな く今 日 まで 至 っ て い る が 、 冷 戦 後 の 国 際 社 会 に お け る人 権 の 主 流 化 と普 遍 化 の 潮 流 の なか で 国 際 立 憲 主 義 が 語 られ る昨 今 の 状 況 に お い て 、 人権 を どの よ う に理 解 し、 ま た そ の 実 現 に 資 す る 世 界 秩 序 構 想 を描 い て い くか を 考 え る う えで 、 田 畑 の 見 解 は あ ら た め て 重 要 な 視 座 を提 供 して い る よ うに思 わ れ る。
本 稿 は 、 世 界 憲 法 案 に代 表 され る世 界 政 府 論 へ の 批 判 が 今 日 の 人権 状 況 を読 み 解 く上 で どの よ う な視 座 を提 供 して い る の か と い う問題 意 識 に 立 ち 、 と くに 立 憲 主 義 の 観 点 か ら、今EIの 人 権 を め ぐる諸 状 況 をふ ま えな が ら、 世 界 的 規 模 で の 人 権 保 障 を 図 っ て い く うえ で の 課 題 に っ い て 検 討 す る こ とを 目的 とす る。
最 初 に、 世 界 憲 法 案 の概 要 を人 権 規 定 を 中 心 にみ た う えで 、 国 民 国 家 体 系 に お け る人 権 保 障 につ い て 、 人 権 概 念 の 形 成 と国 際 社 会 にお け る人 権 の位 置 、 国 際
「世界 憲 法案 」 と人権 保 障 の 現状 GS
人 権 の 意 義 と性 格 につ い て 概 観 す る。 つ ぎ に、 冷 戦 終 結 が もた ら した 人 権 の主 流 化 現 象 の な か で 、 人 権 法 、 人 道 法 、 刑 事 法 が み せ る交 錯 、 お よ び 人 道 的 介 入 や 「保 護 す る責 任 」 論 を通 して み られ る国 家 主 権 と人 権 の 関 係 性 とそ の 問 題 点 に つ い て 述 べ る。 さ らに 、 国 際 立 憲 主 義 の 観 点 か ら国 際 法 が そ の合 意 原 則 と相 互 主 義 を どの よ う に克 服 し よ う と して い るか に つ い て 述 べ た う え で 、 デ モ ク ラ
テ ィ ッ ク ・ピー ス 論 を通 して 見 え て くる人 権 と民主 主 義 の 関 係 お よ び 国 際 民 主 主 義 に つ いて 検 討 した い。
1.世 界 憲 法 案(シ カ ゴ 草 案)と 人 権 規 定
(i)制 定 の 背 景 と 経 緯
まず 、 は じ め に 『世 界 政 府 の 思 想 』 を 参 考 に、 世 界 憲 法 案 が制 定 さ れ た 背 景 と経 緯 につ い て触 れ て お きた い 。 世 界 憲 法 案 は、1945年 の末 に世 界 憲 法 草 案 を 審 議 す る 目的 を もっ て 設 立 され た 世 界 憲 法 審 議 委 員 会 に よ っ て つ く られ た もの で 、 シ カ ゴ大 学 総 長 のハ ッチ ン ス 博士 を委 員長 とす る委 員 会 の メ ンバ ー11名 の 学 者 が機 関紙 コ ンモ ン ・コー ズ の1948年3月 号 に発 表 した もの で あ る。 世界 憲 法 審 議 委 員 会 は、 ア メ リカ に お け る主 要 な世 界 政 府 団体 の ひ とつ で あ る が 、 こ の 委 員 会 の 発 表 した 世界 憲 法 案 は 、 内 容 的 にか な り進 歩 的 な規 定 を含 ん で お り、
オ リ ジ ナ リテ ィー に も富 む もの で 、 単 行 本 と して も発 行 され た草 案 は多 くの 人 に読 まれ 、 賛 否 両 論 を含 み 多 大 な反 響 を呼 ぶ もの で あ っ た 。 この世 界 憲 法 案 を 生 み だ した の は 、 当 時 、世 界 各 地 で 広 が りを み せ て い た世 界 政 府 運 動 で あ っ た が 、 そ の 運 動 が 広 く展 開 され る よ う にな っ た 直接 の き っ か け は、 原 子 爆 弾 の 登 場 で あ り、 そ れ が 広 島 、長 崎 で 実 際 に使 用 さ れ た こ とで あ っ た 。 核 兵 器 の 使 用 に よ る人 類 破 滅 の 危 機 感 か ら、 それ を 防 ぐた め の 強 固 な世 界 機 構 を作 る こ とが 希 求 さ れ 世界 政 府 運 動 と して 盛 り上 が りをみ せ て い った 。 世 界 憲 法 案 は そ の よ うな世 界 政 府 運 動 が 目指 す新 た な世 界 機 構 の 設 計 図 で あ り、 文 字 通 り世 界 政 府 の 憲 法 と して 書 か れ た 。
と こ ろで 、 こ の よ う な世 界 政 府 運 動 の 思 想 的 根 拠 とな っ た の は 、 原 爆 投 下 の 直 前 の1945年6月 に 出 版 さ れ た 、 エ メ リー ・リー ブス(E.Reves)の 『平 和
3)
の 解 剖 』(E.Reves,TheAnatomyofPeace,1945)で あ り 、 ア メ リ カ に お け
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る 最 も大 き な 世 界 政 府 団 体 で あ る 「 世 界 連 邦 主 義 者 連 合 」 の 初 代 会 長 で あ っ た コ ー ド ・メ イ ヤ ー(C.MeyerJr.)が1947年 に 出 し た 『 平 和 か ア ナ ー キ ー か 』 (PeaceorAnarchy,1947)で あ っ た 。 エ メ リ ー ・ リ ー ブ ス や コ ー ド ・メ イ ヤ ー を は じ め 、 世 界 政 府 論 者 の 考 え 方 に 共 通 し て み ら れ る特 徴 は 、 現 代 の 危 機 、 と く に 戦 争 の 原 因 を 国 家 主 権 そ の も の に 求 め る 点 で あ る 。 し た が っ て 、 世 界 平 和 を 実 現 す る た め に は 、 国 家 が 主 権 を 放 棄 し 、 よ り高 次 の 単 位 で あ る 世 界 政 府 に
4)
結 集 す る必 要 が あ る と述 べ て い る。
しか し、 人 権 との 関係 で リー ブス の 考 え方 の なか で 注 目 さ れ るの は 、 そ の 自 由主 義 的 民 主 主 義 の 立場 、 つ ま り、 世 界 政 府 は、 単 に 戦 争 を 防 止 す る だ け で な く、 それ に よ って 人 間 の 自 由 が保 障 され 民主 主 義 が実 現 さ れ る と い う考 え 方 で
5)
あ る。 こ の 国 家 の 対 立 そ の も の が 個 人 の 自由 を制 限 す る原 因 に な って い る とい う考 え方 、 した が っ て 世 界 国 家 が 成 立 す れ ば 、 そ う した 制 限 か ら個 人 を 解 放 す る こ とが で き る とい う考 え方 は 、 世 界 政 府 論 者 に しば しば み られ る考 え 方 で も
6)
あ る。 この よ うな考 え方 の基 底 に あ る の は、 『平 和 の 解 剖 』 の 出版 と同 じ年 月 に 発足 した 国連 体 制 も平 和 を実 現 す る もの で は な い との 考 え で あ っ た。 リー ブ ス や メ イ ヤ ー が 国 際 連 盟 や 国連 に 向 け た お もな 批 判 は と くに集 団 安 全 保 障 体 制 に 対 して で あ っ た が 、 これ まで の 世 界 組 織 の計 画 に お いて は、"国 際"組 織 と個 人 との 直 接 関 係 を考 慮 に い れ た もの は一 つ も な く、 す べ て民 族 国 家 を基 本 的 な要
v)
素 と して考 えて い る と リー ブス が 述 べ る よ うに 、 国 家 を超 え な い機 関 で あ る以 .ヒ、 人 権 の 保 障 に つ い て も同 様 の 限 界 を 国 連 に 感 じて い た と い え る。
(2)世 界 憲 法 案 に お け る 人権 関 連 規 定
そ れ で は、 世 界 政 府 に どの 程 度 の権 限 を認 め るか が 次 に 問 題 とな る。 この 点 につ い て は、 世 界 政 府 論 者 の 間 に お い て もさ ま ざ ま考 え 方 が み られ るが 、 大 き く分 け る と ミニ マ リズ ム とマ キシ マ リズ ム 、 さ らに そ の 中 間形 態 と して の ミデ ィ
8)
ア リズ ム に 区別 す る こ とが で き る。
ミニ マ リズ ム は、 世 界 政 府 に認 め る権 限 を 、 戦 争 の 防 止 に直 接 必 要 な範 囲 に 限定 し、 そ れ 以 外 の 点 に つ いて は 国 家 の 権 限 を残 そ う とす る もの で あ り、 マ キ シ マ リズ ム は 、 恒 久 的 な 平 和 を確 立 す る た め に は、 軍 事 的 事 項 だ けで な く、 政 治 経 済 文 化 の広 い領 域 に わ た る権 限 を世 界 政 府 に認 め な けれ ば な らな い とす る
「 世 界憲 法 案 」 と人 権 保 障 の現 状
67考 え 方 で あ る。 ミニ マ リズ ム の立 場 を代 表 す る もの が 、 コー ド ・メ イ ヤ ー の 『平 和 か ア ナ ー キ ーか 』 で あ り、 マ キ シ マ リズ ムの 典 型 が 世 界 憲 法 案 で あ る。
世 界 憲 法 案 の著 しい 特 徴 は 、 世 界 政 府 が 何 よ り も 「人 権 」 の 尊 璽 を基 礎 と し た もの で な けれ ば な ら な い と して い る 点 に あ る。 も っ と も人 権 を重 視 す る考 え 方 は 、 リー ブ ス を は じ め とす る その 他 の世 界 政 府 論 者 に もみ られ な い わ けで は な い が 、 世 界 憲 法 案 は その な か で も際 立 っ て い た とい え る。
世 界 憲 法 案 は、 まず 前 文 で 、 「平 和 の 先 決 条 件 と して正 義 の確 立 が 必 要 」 と述 べ 、 正 義 と平 和 が 不 可 分 の 関 係 に あ る こ とを強 調 した う えで 、 「全地 球上の人民 は 、 民 族 の 時 代 が 終 わ りを つ げ 、 人 類 の 時 代 が 始 ま らな けれ ば な ら な い とい う
9)
点 で 意 見 の 一 致 を み た」 と宣 言 す る。 そ して 、前 文 に 続 く 「義 務 と権 利 のis言 」 の 冒 頭 で 「本 憲 法 に よ って 盟 約 せ られ 、 保 障 せ られ て い る正 義 に 基 づ く世 界 政 府 は 、塞 本 的 人 権 を基 礎 と して い る」 と規 定 して い る。 田 畑 は この 点 に つ い て 、
「シ カ ゴ草 案 に お い て 世 界 政 府 の第 一 の任 務 と され て い るの は人 権 の保 護 で あ っ
ン
て 、 シ カ ゴ草 案 の 中で も最 も重 要 な地 位 を与 え られ て い る」 と述 べ て い る。 個 々 の 人権 に関 す る規 定 は、 草 案 の 第28条 か ら第33条 に お か れ て い る が 、 これ ら の規 定 全 体 を通 じ て注 目さ れ る特 徴 は、 「経 済 的 平 等 と人 種 に よ る差 別 の撤 廃 の
I1)
二 点 に 比 較 的 重 点 が お か れ て い る こ とで あ る」。
そ の な か で も注 目 され るの は 、 義 務 と権 利 の 宣 言 のC項 で、 「人 間 の 生 活 に必 要 欠 くべ か らざ る四 大 要 素 、 土 地 、 水 、 空 気 、 エ ネ ル ギ ー は、 人 類 の 共1司財 産 で あ る」 と規 定 した 箇 所 で あ る。 これ は、 の ち に深 海 底 につ い て 「人 類 の共 同 の 財 産 」 と述 べ た1967年 の い わ ゆ るパ ル ド提 案 、 お よ び そ れ を受 け た 国連 海 洋 法 条 約 第136条 の 規 定 を 先 取 りす る もの で あ る。 草 案 の この 部 分 に つ い て は、
社 会 主 義 を認 め た もの との 批 判 が あ っ た 。 これ に 対 して 、 田 畑 は 、 それ に続 く 箇 所 に お いて 財 産 の 私 有 を 認 め て い る こ とか ら批 判 は必 ず しも 当 た らな い と し た うえ で 、 シ カ ゴ草 案 の人 権 に関 す る規 定 全 体 の 傾 向 と して は単 な る政 治 的 自 由 ・平 等 とい っ た 規 定 よ り も経 済 的平 等 に か な りな 比 重 が お か れ て い る こ とを
12)
指 摘 して い る。 この 点 に つ い て 、 田 畑 は、 当時 の 時 代 と環 境 の も とに お い て草 案 の 起 草 者 が有 して い た 人 権 と正 義 につ い て の考 え方 、 す な わ ち 、 「個 人 の公 民 お よ び政 治 の 権 利 に 関 す る章 典 は、 す べ て 、 経 済 的 権 利 に つ いて の適 当 な章 典
ia)
を も っ て補 足 され な け れ ば な ら な い」 との コ メ ン トを紹 介 して い る 。
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起 草 者 が 描 い て い た 正 義 に つ い て の も うひ とつ の 要 素 は 、 人 種 差 別 に つ いて の 考 え方 で あ る。 田 畑 は 、起 草 者 の一 人 で あ るハ ッチ ンス が ア メ リカ の 立 場 に っ い て述 べ た 、 「わ れ わ れ は、 この 地 球 上 に お い て 、 人 間 以 下 の 人 民 が 存 在 し、
そ う した 人 民 は 、 わ れ わ れ を 支 配 す るい か な る政 府 に も参 加 す る資 格 を もた な
ia)
い な ど とい う観 念 を 捨 て な けれ ば な らな い」 との 言 葉 を 引 用 して い るが 、 経 済 的 平 等 と人 種 に よ る差 別 の撤 廃 が 強 調 され て い る こ とは 、 世 界 憲 法 案 の特 徴 で あ る とい え る。
こ の よ う に人 権 保 障 に重 き を お き 、 そ の た め に 各 国 の主 権 を広 く世 界 政 府 に 委 譲 す べ き とす る世 界 憲 法案 に対 して 、 ミニ マ リズ ム の 立 場 に立 つ メ イ ヤ ー の
『平 和 か ア ナ ー キ ーか 』 で は、国連 を改造 して世界政 府に作 り変 え ようと考 え る。
そ こで は 、 原 子 力戦 争 を避 け る た め に 直 接 欠 くこ とが で き な い と考 え られ る権 能 の み を 国 連 に与 え、 そ れ 以 外 の事 項 に 関 して は 、 す べ て 国 家 の 行 動 の 自由 を
15)
認 め る とい う こ と に な る 。 しか し、 メ イ ヤ ー も それ だ けで 十 分 と考 え て い るわ けで は な く、 世 界 政 府 の将 来 の 課 題 と して 、 世 界 の す べ て の 人 の 生 活 水 準 を向 上 せ しめ る とい う問 題 も真 剣 に取 り上 げ な け れ ば な らな い で あ ろ う し、 世 界 全 体 に 完全 な 市 民 的 政 治 的 自由 を確 立 す る た め に 努 力 す る こ と も必 要 で あ る こ と は認 め て い る こ とを付 言 して お き た い 。
(3)人 権 の 実 施 措 置
っ ぎ に、 世 界 憲 法 案 に お け る人 権 の 実 施 措 置 につ い て み た い 。 この 点 に つ い て、 特 徴 と して あ げ られ る こ とは 、 「人 権 の規 定 を実 施 す る た め の制 度 的 な保 障
lfi)
に っ い て 、 か な り周 到 な 考 慮 が 払 わ れ て い る」 点 で あ る。 世 界 憲 法 案 が世 界 政 府 の 主 要 な機 関 と して認 め て い るの は、 連 邦 会 議 、 大 統 領 、立 法 議 会 、 内 閣 、 大 審 院 、最 高 裁 判 所 、 護 民 官 、保 安 院 な どで あ るが(第3条)、 そ こで 注 目 され る の は 、 「世 界 の人 民 」 が 「世 界 連 邦 共 和 国 の 主権 」 者 で あ る と明 記 して い る点
ユの
で あ る。 そ の 「世 界 の 人 民 」 の 立 場 を直 接 代 表 す る機 関 が 連 邦 会 議 で あ る。 こ れ は 、 国 家 また は民 族 の 人 口数 を 基 準 に人 民 の 手 で直 接 選 挙 に よ っ て選 ば れ る 代 議 員 で 構 成 され る機 関 で 、 代 議 員 は連 邦 会 議 に お い て は 、個 人 の 資 格 に お い て投 票 し、 国 家 その 他 の 集 団 を代 表 して 行 動 す る の で は な い 点 で(第4条)、 世
ta)
界 人 民 会 議 とい っ た性 格 を も っ て い る とい え る。 そ して 、 大 統 領 や 立 法 会 議 の
「 世 界憲 法 案 」 と人 権 保 障 の現 状 69
議 員 、 護 民 官 とい っ た 他 の機 関 は、 この連 邦 会 議 で の 選 挙 に よ って 選 ば れ る仕 組 み に な って い る。 この 点 は 、 国 家 の任 命 した代 表 者 に よ っ て 構 成 され る総 会 をr.1・1心とす る、 メ イ ヤ ー の提 唱 す る世 界 政 府 とは著 しい対 照 を なす もの とい え
ラ る。
さ らに 、 人 権 の制 度 的 保 障 の 観 点 か ら注 目 さ れ るの は、 一 つ は裁 判 に よ る保 障 で あ り、 も う一 つ は 護 民 官 の 制 度 で あ る。 裁 判 に よ る保 障 に つ い て は 、 個 人 また は国 内 の 団 体 が 、 国 家 の世 界 憲 法 違 反 に対 して 、 連 邦 裁 判 所 に 出訴 し う る こ とが 認 め られ て い る(第33条)。 この こ とは 、 世界 連 邦 共 和 国 の 一t.i'71XP‑0裁判 所 に 、 世 界 憲 法 に認 め られ た 人 権 の 規 定 に違 反 した 国 内 法 の無 効 を宣 言 し う る こ とが 認 め られ 、 世界 憲 法 の 各 国 国 内 法 に対 す る効 力 上 の 優 位 が ハ ッ キ リ と制 度
zo)
的 に 認 め られ て い る こ と を意 味 す る。
また 、 護 民 官 とは、 「世 界 の少 数 者 の 代表 者 」 で あ り、 人 権 の侵 害 か ら個 人 お よび 集 団 の 自然 権 お よび 公 民 権 を 擁 護 す る 「世界 共 和 国 の 世 界 検 察 官 」 と して の機 能 を果 た す 機 関 で あ る。 した が っ て、 任 用 資 格 に つ い て は厳 重 な制 限 が 設 け られ て い る。 た とえ ば 、 護 民 官 の 再 選 は認 め られ て お らず 、護 民 官 に つ い た 者 は 、 そ の 任 期 満 了後9年 を経 過 した後 で な けれ ば 、 大 統 領 、 大 統 領 補 佐 官 、 大 審 院 判 事 の 職 に つ く こ とが で き な くな っ て い る(第26条)。 この 仕 組 み は 、
「護 民 官 が 、 多数者 の立場 を代表す るそ うした機 関 に就任 しよ うとして、在任 中 に 多 数 者 に媚 び 、 少 数 者 の 立 場 を無 視 す る こ との な い よ う に とい う考 慮 か ら出
21)
た も の で あ る 」。
(4)世 界 政 府 構 想 の 評 価
ち な み に 、 中 間 的 な形 態 で あ る ミデ ィ ア リズ ム の一 つ と考 え られ 、1948年 の
「世 界 連 邦 政 府 の た め の世 界 運 動 」 第2回 総 会 に お い て 発 表 され た い わ ゆ るル ク セ ン ブル ク草 案 は 、 前 文 で 「正 義 の確 立 が 平 和 の 必 須 条 件 で あ る」 と述 べ 、世 界 憲 法 案 の 文 言 を ほ とん ど その ま ま採 用 す る と と も に 「基 本 人 権 法 」 につ い て の 規 定 が 設 け られ て い る点 で 、 人 権 へ の 配 慮 が 一 見 伺 え る。 しか し、 世界 政 府 が 国 家 の 国 内 事 項 に タ ッチ す る こ とは原 則 と して 認 め て お らず 、 世界 患 法 の 国 内 法 に対 す る効 力 上 の 優 位 の 保 障 や 護 民 官 の制 度 な ど も認 め られ て い な い点 で 、
世界 憲 法案 は 際 立 っ て い る とい っ て よ い 。
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しか し、 世界 憲 法 案 の 問題 点 は 、世 界 の 人 民 に つ い て た び た び 語 りな が ら、
そ う した 世 界 の人 民 の 意 思 を実 際 に 世界 政 府 の 上 に反 映 させ るた めの プ ロセ ス 、 す な わ ち 、 連 邦 会 議 の 代 議 員 が どの よ う に して 選 ばれ るか 、 どの よ うに して 選
ばれ れ ば 人 民 の意 思 が 正 し く反 映 され るか とい た 点 に つ い て は全 然 ふ れ て い な
22)
い こ とで あ る 。 この 点 は 世 界 憲 法 案 の 重 大 な 欠 陥 で あ る と田畑 は指 摘 す る。
以 上 か ら、 世 界 憲 法 案 とメ イ ヤ ー の 提 唱 す る世 界 政 府 の いず れ が す ぐれ て い る とい え る で あ ろ うか 。 これ につ い て は、 両 者 の 単 純 な 比 較 に は あ ま り意 味 が
2a)
な い と田 畑 は述 べ る。 そ れ は、 世 界 政 府 実 現 の 問 題 と密 接 に か らん で い るか ら で あ る。 ミニ マ リス トの構 想 は現 段 階 に お け る実 現 可 能 性 を優 先 した とみ る こ とが で き る が 、 現 状 維 持 の た め の 抑 圧 的 な機 構 とな る可 能 性 も あ る。 一 方 、 人 権 保 障 を徹 底 し、 広 範 な 権 限 を世 界 政 府 に 認 め る マ キ シ マ リス トの 理 想 主 義 的 構 想 にっ い て は 、 そ れ が は た して 実 現 可 能 か ど うか 、 さ らに は それ が 望 ま しい の か とい う問 題 を提 起 す る こ とに な る。 い ず れ にせ よ、 両 構 想 は陽 の 目 を見 な い ま ま現 実 の 世 界 は 、 直 ち に 冷戦 とい うい わ ゆ る 「二 つ の世 界 」 の 深 刻 な イ デ オ ロ ギ ー対 立 に直 面 す る こ とに な る。
2.国 民 国 家体 系 と人権 保 障
(1)人 権 概 念 の 形 成 と国 際 社 会 に お け る 人 権 の位 置
世 界 憲 法 案 が 目指 した の は 、 人 権 の 尊 重 を基 礎 と した世 界 政 府 の 創 設 で あ っ た 。 そ こに は、 主 権 国 家 を基 軸 と した 体 制 で は 人 権 は十 分 に は保 障 さ れ な い と の 認 識 が あ っ た。 しか し、 実 際 に は主 権 国 家 体 制 は今 日 まで 変 わ る こ とな く維 持 さ れ 、 今 後 も この 体 制 が 大 き く変 容 す る こ とは 想 定 し に くい 。 した が っ て 、 命 題 は 、 現 在 の 主 権 国 家 の 枠 組 み が 存 続 す るな か で 、 人権 保 障 を め ぐっ て 世界 憲 法 案 が 描 い た 世 界 が どの 程 度 実 現 して い るの か 、 あ る い は して い な い の か に つ い て 検 討 す る作 業 へ と移 る こ とに な る。
と こ ろで 、 人 権 は文 字 通 り人 間 の 権 利 で あ る こ とか らす れ ば 、 本 来 、脱 国 家 的性 格 を有 す る概 念 で あ り価 値 で あ る。 そ の こ とは 、 世 界 人 権 宣 言 が 「す べ て 人 間 は 生 まれ な が ら に して 自 由 で あ り、 尊 厳 と権 利 に お い て平 等 で あ る」(第1 条)と 述 べ て い る通 りで あ る。 しか し、 そ の こ とは 、 人 権 の 非 国 家 性 を意 味 す
「 世 界 憲 法案 」 と人権 保 障 の 現状71
2a)
る もの で は な い 。 人 権 概 念 の成 立 の 経 緯 に鑑 み て も、 そ して 、 現 在 の 国 際 社 会 が主 権 国 家 を基 本 的 枠 組 み と して い る点 か ら して も 、 国 家 を抜 きに して 人 権 保 障 は成 り立 た な い こ とは い うま で もな い。
周 知 の 通 り、 近 代 ヨー ロ ッパ に お いて 生 まれ た 基 本 的 人 権 の思 想 は、 近 代 市 民 革 命 を経 て ア メ リカ 独 立 宣 言 や諸 州 憲 法 、 フ ラ ン ス 人 権 宣 言 に 結 実 した。 こ れ らの 人 権 宣 言 は、 自然 権 思 想 を 基 礎 と して 、 人 権 を生 来 の 前 国 家 的 な 自然 権 と して 宣 言 し、 社 会 契 約 の 原 理 に よ る社 会 の形 成 と憲 法 の 制 定 を 通 じて 人 権 が
26)
保 障 され る こ とを うた った 。 す な わ ち 、個 人 の 権 利 ・自 由 を確 保 す る た め に 国 家権 力 を制 限 す る こ と を 目 的 とす る近 代 立 憲 主 義 憲 法 に お い て 、 国 民 は 法 の 支 配 の も とで 国 家 か ら 自 由 と平 等 を 保 障 さ れ る こ とが 約 束 され た の で あ る。 も と も と人 権 の 問 題 は 、 国 内 の 政 治 体 制 の 問 題 と して専 制 的 な政 治 支 配 に抵 抗 す る
2G)
上 で の 主 張 と して もち だ さ れ た もの で あ っ て 、 そ れ は 国 内間 題 で あ る と と も に 人 権 の 法 は本 質 的 に 国 内法 的 な もの で あ っ た とい え る。
一・方、 国 際 社 会 の 観 点 か らみ る と、 人 権 に対 して どの よ うな とら え方 が な さ れ て き た の で あ ろ うか 。 この こ とは主 権 国 家 間 の 関 係 を規 律 す る国 際 法 が 「平 和 」 と 「正 義 」 の 問題 につ い て どの よ うに 考 え て きた か とい う問 題 と密 接 に関 係 す る。 少 な く と も19世 紀 まで の近 代 国 際 法 に お い て は 、 国 際 法 は最 高 独 立 の 主 権 を もつ 対 等 な 国家 間 の 権 限 の 調 整 を第 一 義 と し、 「平 和 」 とは 国 家 間 の 秩1茅 の 維 持 と安 定 を意 味 した 。 こ こか ら、 主 権 平 等 の原 則 お よ び 内 政 不 干 渉 の 原 則 が 導 き 出 され た。 す な わ ち 、秩 序 に優 位 を お く伝 統 的 国 際 法 の も とで 、 国 際 法
zv)
は人 権 を は じめ とす る正 義 の 問 題 に は 消 極 的 も し くは 冷 淡 で あ っ た の で あ る 。 領 域 国 家 を基 本 とす る国 際 社 会 に お い て 、 人 権 は 国 内 問 題 と して 国 家 主 権 の 壁
za)
の な か に 没 入 す る こ と に な っ た 。
(2)国 際 人 権 の意 義 と性 格
平 和 と人 権 が 密 接 不 可 分 な もの と して見 直 さ れ 、 人 権 が 平 和 の 基 礎 で あ る と 認 識 さ れ る よ うに な っ た の は 、 ナ チ ス に よ るユ ダ ヤ 人 に対 す る ホ ロ コー ス トの
29)
悲 劇 を 経 験 した 第2次 世 界 大 戦 後 で あ っ た こ とは よ く知 られ る と こ ろ で あ る 。 国 連 憲 章 が 国 際 の平 和 と安 全 の 維 持 と並 ぶ 目的 の 一 つ と して 、 「人種 、 性 、 言 語 又 は 宗 教 に よ る差 別 な くす べ て の 者 の た め に人 権 及 び 基 本 的 自 由 を尊 重 す る よ
う に助 長 奨 励 す る こ とに つ い て 、 国 際 協 力 を達 成 す る こ と」(第1条3項)を 掲 げた こ とは 、 正 義 を 実 現 す る秩 序 こ そ が 真 の 平 和 で あ る との 考 え方 を 端 的 に 示 して い る。 この こ と は、 国 内 法 上 の 問題 とされ た 人 権 が 国 際 化 す る こ と、 す な わ ち 国 際 法 を通 じて 人 権 が 国 際 的 に保 障 され る こ と を意 味 した 。 国 際 人 権 法 の 誕 生 は、 人権 を 国 際 社 会 の 問題 と して理 解 し対 処 す る道 を 切 り開 く こ とを意 味 した 。 そ れ まで も、 外 交 的保 護 の よ うに 国 境 を超 え た 個 人 の保 護 ・救 済 の た め の 制 度 は確 か に あ っ た 。 しか し、 そ れ は 外 国 人 を保 護 す べ き領 域 国 の 義 務 の違 反 とそれ に 対 す る 自国 民 を保 護 す る 国籍 国 の 権 利 とい う国 家 対 国 家 の 問 題 と し て とら え られ て い た 。 これ に 対 して 、 国 際 人 権 保 障 は 、 第 一 に 、 国 家 間 相 互 の 権 利 義 務 関 係 の 間 接 的 な 効 果 と して で は な く、 人 間 と して の個 人 の 人 権 を直 接 に承 認 した う えで 、 条 約 締 約 国 間 に そ の保 護 義 務 を課 す もの で あ っ た 点 、 第 二 に 、 自国 領 域 内 の 自 国 民 を主 眼 と して 「す べ て の 人 」 の 人 権 を 保 障 す る義 務 を 国 家 に課 した 点 に特 徴 が あ る。
と こ ろ で 、 と くに 田 畑 が 人 権 の 国 際 的保 護 の 実 施 措 置 に 関 して 、 人 権 が 国 際 的 に 保 護 さ れ る た め に は 、 条 約 の 中で 保 護 され る べ き人 権 に つ いて 具 体 的 に規 定 す るだ け で は な く、 さ らに そ れ が 侵 害 せ られ た場 合 、 被 害 者 た る個 人 自身 の 利益 の た め に 、 個 人 自身 の 名 に お いて 、 十 分 な国 際 的 救 済 が与 え られ る と い う 点 が 何 よ り も考 慮 さ れ ね ば な らな い と述 べ 、 実 施 措 置 の 重 要 性 につ い て 強 調 し
30)
た 点 は重 要 で あ る。 その 背 景 に は 、 国 家 との 対 立 に お いて 把 握 され た被 支 配 者 と して の 個 人 の 国 際 法主 体 性 が認 め られ て初 め て 、 国 際 法 に お け る個 人 の 解 放
に つ い て 語 る こ とが で き る との 田畑 の 人 権 観 が あ っ た とい え る。 周 知 の 通 り、
国 際 人 権 は 、 人 権 条 約 締 約 国 が 国 内 法 の制 定 や 改 廃 、 あ る い は 国 内裁 判 所 で の 適 用 を通 じて 人 権 状 況 の 改 善 を は か る 国 内 的 実 施 措 置 、 お よび 国 家 報 告 制 度 や 国家 お よ び個 人 通 報 制 度 な どの 国 際 的 手 続 に よ る 国 際 的 実 施 措 置 を通 じて 各 国 の人 権 状 況 の 改 善 が は か られ て きた 。 そ の 意 味 で 田畑 の 描 い た 個 人 の解 放 は、
これ らの 実 施 措 置 を通 じた 人 権 状 況 の 改 善 と い う形 で あ るFS̲1̲度達 成 さ れ て きた とい え る の か も しれ な い 。 しか し、 条 約 を 批 准 した 国 家 は 、条 約 に掲 げ られ た 人 権(国 際 人 権)を 自国 民 に対 し保 障 す る義 務 を 国 民 に対 して で は な く国 際 社 会 に 対 して負 う。 しか も、 そ の 国 際 的 義 務 は 基 本 的 に 「結 果 」 に お い て 国 際 人 権 を 実 現 す べ き義 務 で あ り、 そ の 義 務 の履 行 に必 要 な 手 段 ・方 法 は 国家 が 自 由
「 世 界憲 法案 」 と人権 保 障 の現 状73
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に選 択 しう る こ とに な る 。 その 意 味 に お い て 、 国 際 人 権 も国 家 間 の 合 意 と して の国 際 法 に よ り承 認 され た もの で あ り、 国 際 法 の論 理 に拘 束 され て い るの で あ
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る 。
(3)非 植 民 地 化 と 人 権 概 念 の展 開
そ の後 、 世界 人 権 宣 言 、 国 際 人 権 規 約 を は じめ とす る人 権 諸 条 約 の作 成 と爽 施 を通 じて 人 権 の 国 際 的 保 障 が は か られ て い っ た が 、 世界 憲 法 案 で と くに 強 調 され た差 別 の 撤 廃 が 人 種 差 別 撤 廃 条 約 を は じめ とす る その 後 の 人権 条 約 の 作 成 と実 施 を通 じて あ る程 度 実 現 した こ とに つ い て は、 一 定 の 評 価 が で き る。 も う ひ とつ 世界 憲 法 案 で 比 重 が お か れ た の は、 経 済 的 平 等 の 問 題 で あ る。 これ に 関 連 して 、 戦 後 の 植 民地 地 域 の 独 立 が 人 権 概 念 の 展 開 に与 えた 影 響 は 少 な か らず 大 き い。 植 民 地 地 域 の 独 立 は 、 国 際 社 会 の 勢 力 地 図 を大 き く塗 り替 え る こ と に な っ た が 、 そ れ は単 に 国 際 社 会 お よび 国 連 の構 成 員 の数 的 な増 加 を 意 味 す る も の で は な か っ た 。 植 民 地 の 独 立 は 、 世界 人 権 宣 言 採 択 当 時 の 「世界 」 に は 「存
aa)
在 しな か っ た 」 第 三 世 界 の 参 入 で あ り、 そ の 結 果 顕 在 化 した 南 北 問題 は、 国 際 社 会 に お け る構 造 的 な経 済 格 差 で あ っ た 。 この植 民 地 独 立 の 旗 印 とな る と と も に 、植 民 地 独 立 の 潮 流 に よ って 政 治 的 原 則 か ら法 的 権 利 へ と発 展 を遂 げ た の が 人 民 の 「自決 権 」 で あ っ た 。 この 自決権 の 享 有 主 体 は,個 人 で は な く集 団(人 民)で あ る。 この こ とは個 人 だ け で は な く集 団 も人 権 享 有 の 主 体 とな り うる こ
とが 認 め られ た こ と を意 味 した 。 世 界 人権 宣 言 に は なか っ た 自決 権 が そ の 後 の 国 際 社 会 の 変 化 を反 映 して 、 国 際 人 権 規 約 の 共 通 第1条 に掲 げ られ た が 、 こ の こ とは 、 自決 権 が 人権 保 障 の 大 前 提 で あ る との 考 え 方 を示 す もの で あ っ た 。
非 植 民 地 化 が 人 権 概 念 に与 え た 影 響 と して 第2に あ げ られ るの は、 開 発 と人 権 の 問 題 で あ る。 人権 問 題 に 対 す る構 造 的 ア プ ロ ー チ とも い わ れ る 「発 展 の 権 利 」 お よ び 「第 三 世 代 の 人 権 」 論 は、 欧 米 先 進 国 に よ る植 民 地 主 義 が もた ら し た 負 の 遺 産 に 対 し途 上 国 が 人 権 の 視 点 か ら問題 提 起 し よ う と した ア ン チ テ ー ゼ で あ り、 開発 闇 題 に対 す る 国際 社 会 全 体 と して の 対 応 を 迫 る もの で あ っ た。 こ れ と も関 連 す る問 題 と して 第3に あ げ られ るの は、 自由 権 と社 会 権 の 不 可 分 性 を め ぐる問 題 で あ る。 世 界 人 権 宣 言 で も社 会 権 に関 す る規 定 は お か れ て い た。
しか し、 実 際 に 比 重 が お か れ て い た の は 自lilヨ権 で あ っ た 。 それ に 対 して 、 国 際
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人 権 規 約 は両 者 を分 け る形 で 条 約 化 した が 、 や が て 自 由権 的諸 権 利 の基 礎 に は 社 会 権 的 諸 権 利 が な くて は な らず 、 両 者 は 不 可 分 一 体 の もの で あ る との 考 え方 が主 張 され る よ うに な っ た 。 そ の 背 景 に は 南 北 格 差 の 問 題 が あ っ た。 貧 しい 国 が 多 い途 上 国 に とっ て 、 自 由権 以 前 に社 会 権 的 な正 義 の 実 現 が 重 要 で あ る との 主 張 が な され た の で あ っ た。 これ ら非 植 民 地 化 の潮 流 が 人 権 概 念 に与 え た3つ の影 響 に共 通 す るの は 、 これ まで の 人 権 論 の 背景 に あ る 「欧 米 中心 主 義 」 「自 由
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権 中 心 主 義 」 「個 人 中 心 主 義 」 に対 す る問題 提 起 で あ っ た とい う点 で あ る。 しか し、 冷 戦 期 に お け る東 西 の イ デ オ ロ ギ ー 対 立 は 同 時 に 核 を め ぐ る対 立 で も あ っ た こ とか ら、 核 戦 争 の 回 避 の た め の平 和 共 存 が 東 西 両 陣 営 に と って の 最 大 の優 先 課 題 で あ っ た。 そ の 結 果 、 人 権 尊 重 の 国 際 平 和 の 追 求 は後 景 に押 しや られ る
as) こ と に な っ た 。
3.冷 戦 終 結 後 の世 界 に お け る人 権 状 況
(1)「 二 つ の世 界 」 の終 わ りと 人権 の 主 流 化
さ て 、 冷 戦 の 終 結 は世 界 憲 法 案 作 成 に至 っ た 背 景 で あ る と同 時 に 世界 秩 序 構 想 実 現 の 障害 で も あ っ た 「二 つ の世 界 」 の 終 わ りを意 味 した。 い う まで も な く、
冷 戦 終 結 に よ っ て 世 界 憲 法 案 の 描 い た 世 界 が現 出 した わ け で は な い が 、 冷戦 終 結 が 国 際 法 秩 序 に与 え た影Sは 少 な くな い。 そ れ は人 権 分 野 に及 ぼ した影 響 に つ い て も 同様 で あ る。 そ して 、 冷戦 終 結 とあ わ せ て この 時 期 に起 きた も うひ と つ の大 きな 変 化 が グ ロー バ リゼ ー シ ョ ンで あ る。20世 紀 に 国 際 法 秩 序 形 成 に大 きな 影 響 を与 え た 現 象 の ひ とつ が 先 ほ ど述 べ た 非 植 民 地 化 で あ る とす れ ば 、 も うひ とつ が90年 代 に入 り と くに 語 られ る よ うに な っ た グ ロー バ リゼ ー シ ョンで
37)
あ る とい っ て よ い。 も っ と も グ ロー バ リゼ ー シ ョ ン 自体 は今 に 姶 ま っ た もの で は な く、 数 世 紀 前 か らの 現 象 と言 った 方 が 正 しい が 、 冷 戦 の終 結 が そ の 動 き を 加 速 させ た こ とは間 違 い な い。 人 権 が 国 際 化 した 戦 後 世 界 の 潮 流 を き わ め て 概 括 的 に と らえ る な らば 、 冷 戦 期 は 東 西 の イ デ オ ロ ギ ー 対 立 の も とで 、 国 際 人 権 保 障 体 制 は その 影 響 を 受 け て機 能 麻 痺 に 陥 る一 方 、 非 植 民 地 化 の 流 れ を 受 けて 台 頭 した 第 三 世 界 も し くは社 会 主 義 諸 国 が 自 由権 や個 人 とい っ た 欧 米 的 価 値 に 対 して 巻 き返 しを は か っ た 時 期 で あ っ た。 そ の 意 味 で 、 冷 戦 終 結 ま もな い1993
「 世 界 憲 法案 」 と人権 保 障 の 現状
年 、 世 界 人 権 会 議 で 採 択 され 、 人 権 の 普 遍 性 や 不 可 分 性 を確 認 した ウ ィ ー ン宣 言 は 、 これ ら南 北 間 の 一 運 の 議 論 の ひ とつ の到 達 点 と して 位 置 付 け る こ とが で
き る。
こ れ に 対 して 、 冷 戦 後 の大 き な変 化 は 、 イ デ オ ロ ギ ー対 立 の 一 方 の 当 箏 者 で あ っ た米 国 を 中心 とす る西 側 陣 営 が 勝 利 を収 め た結 果 、 人 権 、 民 主 主 渡 、 市 場 経 済 とい った 価 値 が 主 流 化 し、 普 遍 化 す る過 程 と して と らえ る こ とが で き る と
い え る。 国 連 も この よ う な認 識 を共 有 し、 ア ナ ン蕪 務 総 長(当 時)は 「主 権 に 関 す る二 つ の概 念 」 と題 す る論 文 の な か で 、 「国 家 主権 は 、と くに グ ローバ リゼ ー シ ョン と国 際 協力 の 力 に よ っ て 、 そ の もっ と も基 本 的 な 意 味 に お い て再 定 義 さ れ よ う と して い る。 今 や 国 家 は 国 民 に奉 仕 す る た め の 手 段 と して 広 く理 解 され て お り、 そ の 逆 で は な い 。 同 時 に 、 国 連 憲 章 や 国 際 人権 諸 条 約 に うた わ れ た 個 人 の 基 本 的 自由 と して の 人 権 は 、 復 活 し拡 大 しつ つ あ る個 人 の 権 利 に対 す る意
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識 に よ っ て高 め られ て き た 」 と述 べ た。 あ わ せ て、NGOや 市 民(個 人)、 国 際 機 構 、 多 国 籍 企 業 とい っ た 国 家 以 外 の ア ク タ ー が 台 頭 し、 国 家 主 権 との 緊張 関 係 もは らみ な が ら人 権 ・人 道 価 値 の 推 進 者 に な る とい っ た 場 而 も増 えて い る。
グ ロ ー バ ル化 とい う言 葉 は 、 市 民 的価 値 が 世界 の 人 々 に 共 有 され る よ う に な っ
39)
て き た現 象 を意 味 す る場 合 に も使 わ れ る こ とか らす る と、 人 権 を め ぐる最 近 の 動 き は 国 家 を は じめ とす る さ ま ざ まな 担 い手 が 主 権 の 垣 根 を 乗 り越 え よ う とす る試 み と して と ら え る こ とが で き る。
(2)人 権 法 ・人 道 法 ・刑 事 法 の 交 錯 点 と して の 人 間 の 尊 厳
その 顕 著 な 例 の ひ とつ が 、非 人 道 的 行 為 を犯 罪 と して 国 際 刑 事 法 廷 で 裁 こ う とす る最 近 の 動 き で あ る。 こ の よ うな戦 争 犯 罪 や 人 道 犯 罪 の処 罰 は、 本 来 、 人 道 法 や 国 際 刑 事 法 の領 域 の 話 で あ り、 人 権 法 の問 題 で は な い と考 え られ て きた。
周 知 の 通 り、 人 権 法 と人 道 法 は そ れ ぞ れ 別 個 の 分 野 と して 発 展 して き た もの で あ る。 人 権 法 が 基 本 的 に平 時 の 法 と して 人 間 の 権 利 に つ いて 定 め た 法 で あ るの に 対 して 、 人 道 法 は戦 時 の 法 と して 、 戦 時 に お け る人 間 の 保 護 を 定 め る と と も に特 定 の 行 動 を 制 限 す る禁 止 規 範 的 側 面 に重 点 が お か れ る法 で あ る点 で 、 成 立 の経 緯 や 性 格 お よび 適 用 され る状 況 を 異 に す る。 しか し、近 年 で は 武 力 紛 争 自 体 が 国 家 間 の 戦 争 とい う様 相 か ら種 々 の 主 体 間 の 武 力 紛 争 に 転 換 して い る こ と
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に 応 じて 、 両 法 が そ の 伝 統 的 な 範 囲 を超 え て相 互 に浸 透 し、 影 響 し あ い 、 交 錯
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す る関 係 が み られ る よ うに な っ た こ とが 指 摘 さ れ て い る。
も っ と も、 人 権 法 と人 道 法 の交 錯 は これ ま で に もみ られ た 。 た とえ ば 、1977 年 の ジ ュネ ー ヴ 第2追 加 議 定 書 の 前 文 の 「人権 に関 す る諸 文 書 が 人 間 に基 本 的 保 護 を 与 え て い る こ とを 想 起 し」 との 表 現 は 、 国 際 人 権 法 に影 響 を 受 け た もの とい う こ とが で き、 人 道 法 か ら人権 法 へ の接 近 が み られ る。 ま た 、 国 際 人権 規 約 の 自 由権 規 約 第4条 で は 、公 の 緊 急 事 態 に お け る権 利 の停 止 、 い わ ゆ る デ ロ ゲ ー シ ョ ン条 項 が お か れ 戦 時 そ の 他 の 武 力 紛 争 下 で は 人 権 保 障 の 一 時 停 止 が 認 め られ る一 方 で 、 恣 意 的 な生 命 に 対 す る権 利 の 剥 奪 や 拷 問 、 非 人 道 的取 り扱 い の 禁 止 な ど一 定 の カ テ ゴ リー の 人 権 に つ い て は い か な る状 況 下 で も停 止 が 許 さ
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れ な い との 趣 旨が 明 らか に さ れ て い る 。 す な わ ち 、 平 時 、戦 時 に か か わ らず保 障 され るべ き人 権 規 範 が あ る こ とを示 す も ので あ る。 この こ とは 、 個 別 条 約 に お い て もみ る こ とが で き る。 い わ ゆ る拷 問 等 禁 止 条 約 お よび ジ ュネ ー ヴiib条約 の共 通 第3条 、 第2追 加 議 定 書 第4条2項(a)に は 、 拷 問 また は 非 人道 的 な 取 り扱 い の 禁 止 が 規 定 さ れ て い るが 、 い か な る場 合 に お い て も拷 問 を 禁 止 す る趣
as)
旨 で あ り、 こ の 禁 止 規 範 は強 行 規 範 的 性 質 を有 す る とみ な さ れ て い る 。 ま た 、 ジ ェ ノサ イ ド条 約 は 、平 時 、 戦 時 を問 わず 集 団 殺 害 を 国 際 法 上 の 犯 罪 で あ る こ
とを 確 認 し、 その 処 罰 を 国 際 刑 事 裁 半g所で 行 うこ と も予 定 して いた 。 しか し、
この よ うな 「重 大 か つ 組 織 的 な 人 権 侵 害 」 を国 際 刑 事 法 廷 に お い て訴 追 、 処 罰 しよ う とす る動 き が本 格 化 す るの は冷 戦 後 に な っ て か らで あ る。
冷 戦 後 、 内 戦 等 の 過 程 で発 生 す る重 大 な 人 道 犯 罪 を裁 くた め の常 設 的 な 国 際 法 廷 と して 国 際 刑 事 裁 判所(ICC)が 創設 され た 。 これ らの 動 きを通 じて 人権 が
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刑 法 化 した と表 さ れ る。 そ して 、ICCは 、 国 際 共 同体 に お け る コ ア ク ライ ム を 裁 こ う とす る もの で あ るが 、 裁 判 所 の 管 轄 権 は 必 ず し も武 力 紛 争 の 場 合 に 限 ら れ な い 点 は重 要 で あ る。 も っ ともICCに お け る補 完 性 の 原 則 に象 徴 さ れ る よ う に 、 これ らの試 み が 国家 主 権 との 微 妙 なバ ラ ンス の上 に成 り立 って い る こ とは 確 か で あ る。 しか し、 重 大 な人 権 侵 害 の責 任 追 及 を め ぐる人 権 法 、 人 道 法 、 刑 事 法 の 交 錯 と融 合 の基 調 に、 共 通 す る価 値 と して の 人 間 の尊 厳 の 思 想 を 読 み 取 る こ とが で き る。
「 世界 憲 法 案」 と人権 保 障 の 現 状
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(3)規 範 相 互 の 内 部 対 立 を 調 整 す る 原 理 と して の 「保 護 す る貴 任 」 論
一 方、 人 権 の 主 流 化 が 国 家 主 権 との 関 係 に お いて 緊張 関 係 を生 み だ す 問題 も 生 じて い る。 そ の 典 型 が 「人 道 的 介 入 」 の 問題 で あ る。 国 際 法 上 は 人 道 的干 渉 と して 扱 わ れ て きた この 問 題 は決 して 新 しい もの で は な い が 、 冷 戦 後 の 国 連 安 保 理 の 活 性 化 や人 権 の 主 流 化 の な か で 、 伝 統 的 な 国 家 主 権 と不 干 渉 原 則 の 論 理 を再 構 成 しよ う とす る動 きを 反 映 す る もの と して と ら え る こ とが で き る。 安 保 理 決 議 の 授 権 を え た 強 制 措 置 と して実 行 され る場 合 につ い て は 、 少 な く と も合 法 性 の 問 題 は ク リ アで き る と して も、 そ うで な い場 合 は問 題 を よ り複 雑 に す る。
コ ソ ボ に お け る人 道 的 危機 を き っか け と したNATOに よ るユ ー ゴ空 爆 を評 して な され た 「違 法 」 だ が 「正 当」 との 表 現 は 、 法 と正 義 の 乖 離 とそ こ に生 ず る ジ レ ン マ を端 的 に示 して い る と もい え る。 この よ うな 人道 的 介 入 を め ぐる 国 際 的
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規 範 秩 序 の動 揺 を三 つ の レベ ル に お い て 整 理 、 分 類 す る考 え 方 が 興 味 深 い 。 そ れ は 、 第 一 に 規 範 秩 序 を構 成 す る主 要 な規 範 相 互 の 内部 対 立 、第 二 に人 権 規 範 の もた ら す道 徳 的 葛 藤 、 第 三 に 人 道 主 義 的 覇 権 秩 序 が もた ら す規 範 秩 序 そ の も の の 存 立 危 機 で あ る。 第一 の もの は 、 主 権 と人 権 の 対 立 で あ る。 い ず れ も国 際 法 に お い て 承 認 され た 基 本 原 則 で あ るが 、 人 権 保 障 義 務 を 第 一 次 的 に 負 うは ず の 国家 が 大 規 模 な 人 権 侵 害 を実 行 な い し放 置 して い る場 合 、 他 国 が そ の 救 済 の た め に 介 入 に乗 り出 す 際 に 生 ず る主 権 規 範 との対 立 を克 服 す る理 論 的 試 み と し て 登 場 して き て い るの が 、 い わ ゆ る 「保 護 す る責 任 」 論 で あ る。 カ ナ ダ 政 府 支 援 の も とで 設 置 さ れ た 「介 入 と国 家 主 権 に 関 す る国 際 委 員 会 」 の 報 告;'Pkによれ
95)
ば 、破 綻 国 家 な ど人 権 保 護 の 第 一 次 的 責 任 者 で あ る国 家 が そ の 責 任 を全 う しな い 場 合 に は 、 国 際 社 会 が そ の責 任 を果 た す べ く行 動 を起 こ さ ね ば な らな い と さ
A6)
れ る。 この 「保 護 す る責 任 」 の 考 え方 は 、 そ の 後 の 国連 文 番 に も取 り入 れ られ
47)
る こ とに な る。
しか し、 主 権 と人 権 の 内 部 対 立 が 仮 に理 論 的 に克 服 され た と して も、 問 題 の 難 し さ は介 入 の 手 段 と して の 武 力 行 使 が 人 権 との 間 で 衝 突 す る点 で あ る。 国連 体 制 の も とで武 力 行 使 が違 法 化 さ れ た の は、 主 権 国 家 間 の安 定 的 均 衡 が 「強 者 の 論 理 」 に よ っ て 崩 され る こ とを 回避 す るた め で あ るが 、 そ の よ り根 本 的 な理 由 は、 そ れ が 人 権 に 対 す る最 大 の 脅 威 で あ る とい う点 で あ る。 に もか か わ らず 人 権 侵 害 を 排 除 す るた め に人 権 侵 害 的 な 手 段 を用 い な けれ ば な ら な い と こ ろ に
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葛 藤 が 生 ず る こ と に な る 。 この 葛 藤 は 、 合 法性 の 有 無 に か か わ らず つ き ま と う こ とに な る。
(4)人 道 主 義 的 覇 権 秩 序 が も た らす 問 題
そ して 、 そ れ 以 上 に 注 視 す る必 要 が あ るの は 、 人 道 主 義 的 覇 権 秩 序 が もた ら す規 範 秩 序 そ の も の の 存 立 危 機 の 問 題 で あ る。 た しか に、 人 権 や 人 道 、 民 主 主 義 と い っ た概 念 そ の もの は ほ とん ど否 定 の しよ うが な い も の で あ る。 そ れ だ け に、 その よ うな価 値 を 掲 げ 、 それ に反 す る行 為 を 非 難 し排 除 しよ う とす る場 合 、 合 法 性 の 体 系 を犠 牲 に して も排 除 や 憎 悪 は 貫 徹 さ れ るべ き だ とい う主 張 に転 化
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しや す い との 指 摘 は も っ と もで あ る。 この よ うな 動 き は 、 冷 戦 後 の 自 由 民主 主 義 的 価 値 体 系 の権 威 の 高 ま り と密 接 に連 動 して い る と考 え られ るが 、 その 結 果 、 国 際 的規 範 秩 序 の 存 立 そ の もの が 危 う くな らな い よ うに す る こ とが 求 め られ て
い る。
い ず れ にせ よ、 規 範 の 対 立 を 内 包 す る人 道 的 介 入 に つ い て 単 純 な 回 答 は あ り え ず 、 む し ろ個 々 の ケ ー ス に お け る葛 藤 の な か か ら答 え を見 つ け出 す こ とが 必 要 と な ろ う。 しか し、 人 権 、 人 道 とい う介 入 の 目 的 に お け る正 当 性 を テ ス トす
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る塞 準 は そ の 方 法 に お け る人 道 性 で あ ろ う。 そ の 意 味 に お い て 、 国 際 人 道 法 の 適 正 な適 用 が よ り重 要 とな る。 しか し、 これ に関 連 して 、9.11同 時 多 発 テ ロ 以 降 は テ ロ と人 権 を め ぐる新 た な 問 題 も生 じて い る。 ア フガ ニ ス タ ンで 拘 束 され グ ア ン タ ナ モ基 地 に 収 容 され て い た イ エ メ ン国 籍 の ハ ム ダ ンに つ いて 、 「敵 性 戦 闘 員 」 と して1949年 の ジ ュネ ー ヴ条 約 に お い て保 障 され た 「捕 虜 」 と して の 待 遇 を与 えず 、 米 国 連 邦 最 高 裁 で 争 わ れ た ハ ム ダ ン対 ラ ム ズ フ ェ ル ド衷 件 な ど に
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み られ る よ うに 、 米 国 の 主 導 す る 「テ ロ との 戦 争 」 に お い て人 権 、 人 道 法 の 適 用 か ら除 外 され る例 が見 受 け られ る。 ま た 、 テ ロ対 策 の 名 目 で 本 来 被 疑 者 や 被 拘 禁 者 に認 め られ る べ き権 利 が無 視 され 、 多 くの 国 に お い て市 民 的 自 由 が 制 限 され る な ど、 人 権 規 範 の 不 適 用 や 違 反 が 目立 つ よ うに な っ て い る。 問 題 は、 人 権 や 民 主 主 義 を標 榜 す る 国 が 敵 や 他 者 とみ な す者 の 人 権 に 対 して は配 慮 を欠 く 点 で あ る。 こ の よ う な傾 向 は 、 と くに最 近 顕 著 とな っ て い る。
「 世界 憲 法 案」 と人権 保 障の 現 状
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4.国 際 立 憲 主 義 と 人 権
(1)合 意 原 則 、 相 互 主 義 の 克 服
以 上 を ま とめ る な らば 、 人 権 の主 流 化 の な か で 重 大 か っ 組 織 的 な 人 権 侵 害 に つ い て は その 実 行 者 を訴 追 、 処 罰 し よ う とす る点 で 人 権 法 は 人 道 法 お よ び国 際 刑 箏 法 との 交 錯 を み せ る一 方 、 本 来 国 家 が 保 護 す べ き人 権 が 保 護 さ れ な い場 合 に国 際 社 会 が そ の 国 家 に代 わ って 責 任 を果 た そ う とす る点 で安 全 保 障 との 交 錯 もみ せ て い る。 近 年 、 国 連 安 保 理 が 「平 和 に対 す る脅 威 」 の 認 定 に あ た って 一 国 内 に お け る人 権 侵 害 に ま で概 念 を拡 大 す る傾 向 を み せ て い る こ とは そ の よ う な 動 き を 示 す もの で あ る。 ま た 、 い わ ゆ る近 年 の 「人 間 の 安 全 保 障 」 概 念 は 、 安 全 保 障 の概 念 が 自由 主 義 的価 値 観 の 広 が りを受 け て 拡 大 した こ と を物 語 る も
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の で あ る 。 しか し、 人 間 の 安 全 保 障 の 構 成 要 素 の ひ とつ と して の 「恐 怖 か らの 自由 」 の た め の 武 力 に よ る介 入 や保 護 に比Tが お か れ る場 合 、 先 に 述 べ た よ う な 緊 張 関 係 が 生 ず る。 した が っ て 、 そ の よ うな 衷 態 に な る こ とを 回 避 す る た め に も非 軍 事 的 、 予 防 的 手段 が よ り重 要 とな る。 そ の 意 味 でICCの 設 立 は箏 後 的 処 罰 だ け で は な く、 犯 罪 の 抑 止 機 能 の 観 点 か ら も意 義 を 有 す る。
一 方、 この よ うな 事 態 に い た ら な い 人 権 問 題 に つ いて 国 際 法 規 範 の もつ 合 意 原 則 や 相 互 主 義 は どの 程 度 乗 り越 え られ て い るの で あ ろ うか 。 これ に つ い て は、
た とえ ば条 約 の留 保 の 許 容 性 を め ぐる議 論 に示 さ れ る よ うに 、 国 際 人 権 条 約 は 非 相 互 主 義 的 性 格 を 有 す る とい って よ い 。 また 、 条 約 の 終 了 に つ い て 、通 常 の 条 約 は相 手 国 が 重 大 な 条 約 違 反 を した場 合 に、 条 約 関 係 を終 了 ・停 止 す る根 拠 と して 援 用 で き る こ とが 条 約 法 条 約 第60条 で 確 認 され て い る。 しか し、 同条5 項 で 人 道 的性 格 を有 す る条 約 に つ い て は適 用 され な い 旨 が 規 定 さ れ て い る。 さ
らに 、 人 権 規 範 の 一 部 が ユ ス ・コー ゲ ン ス と して 認 識 さ れ て い る 点 が あ げ られ る。 例 え ば 、侵 略 戦 争 、 ジ ェ ノサ イ ド(集 団 殺 害)、 奴隷 取 引 等 の 禁 止 な どに加 え て 、 国 際 人 道 法 や 国 際 人 権 法 の 中核 規 定 が ユ ス ・コ ー ゲ ンス に な りつ つ あ る
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とい わ れ る。 並 列 的 な主 権 国 家 関 係 か ら基 本 的 に 法 の 上 下 構 造 を もた な い国 際 法 規 範 に お い て 、 人 権 規 範 は 上 位 法 と して 位 置 づ け られ る よ う に な っ た の で あ る。 さ らに 、先 に もふ れ た が 生 命 権 、 拷 問 ・非 人道 的 刑 罰 の 禁 止 、思想 ・良心 ・ 宗 教 の 自由 な ど人 権 条 約 の デ ロゲ ー シ ョ ン条 項 に規 定 され た デ ロ ゲ ー トで き な
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い権 利(国 際 人 権B規 約 第4条2項 等)の 存 在 も 、 国 際 人権 の 優 位 性 を 表 す も の で あ る。 これ らの例 は,国 際 人権 を国 家 意 思 や 国 家 間 の 合 意 に 優 先 さ せ よ う とい う考 え 方 の 現 れ で あ り、 他 の 国 際 規 範 と異 な る国 際 人 権 の 特 殊 性 が 実 定 法 規 範 と して 示 され て い る例 とい え る。
(2)国 境 を 超 え る 立 憲 主 義 とデ モ ク ラ テ ィ ッ ク ・ピー ス論
以 上 か ら、 人 権 規 範 は 国 際 社 会 に お け る重 要 規 範 と して 、 合 意 原 則 や 相 互 主 義 を乗 り越 え よ う と して い る点 に お い て 、 そ こ に世 界 法 の 萌 芽 を認 め る こ とが で き る とい っ て よ い と考 え る。 言 い換 え る な ら ば、 人 間 の 尊 厳 を 中 核 的 価 値 と す る構 成 原 理 、 す な わ ちconstitutionが 国 際 社 会 に お い て 形 成 され っ つ あ る と い う こ とが で き る。 も し、 そ うで あ る とす る と国 境 を 超 え た立 憲 主 義 の 存 在 を そ こ に認 め る こ とが で き る こ とに な る。 国境 を超 え た 立 憲 主 義 につ い て 、 「新 し
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い 国 際 立 憲 主 義 」 とい う概 念 で説 明 す る篠 田 に よ れ ば 、 この新 しい立 憲 主 義 と は、 西 側 諸 国 の価 値 と して の 立 憲 主 義 が 冷 戦 の終 結 に伴 い東 側 諸 国 を は じめ と す る 多 くの 国 々 の 国 内憲 法 に 採 用 さ れ 普 遍 化 す る とい う意 味 で の立 憲 主 義 の グ ロ ーバ ル 化 と も、 近 代 国 際社 会 に お け る国 民 国 家 の 形 成 に 伴 う国家 の 擬 人 化 に 依 拠 した 国 際 社 会 の 立 憲 主 義 と も違 い 、 む し ろ国 家 を よ り形 式 的 に と らえ 、 冷 戦 後 の 自 由 民 主 主 義 の価 値 体 系 の 広 が りを 背 景 と して 人 間 の 価 値 規 範 に 亟 き を お くもの で あ る とす る。 この 新 し い立 憲 主 義 は、 国際 社 会 の組 織 化 原 理 に つ い て は 、 む し ろ沈 黙 し、 あ らゆ る形 態 の 組 織 に 開 か れ て い る一 方 で 、 価 値 規 範 の 面 に お け る拘 束 性 は 、 よ り直 接 的 で あ り、 人 間 の尊 厳 に関 わ る価 値 規 範 の 遵 守 を、 国境 を 超 え て 求 め る点 に 特 徴 が あ る と述 べ る。 そ して 、 こ う した 新 しい 国 際 立 憲 主 義 の 動 きが 最 も劇 的 に現 れ た の が 先 に述 べ た 「保 護 す る責 任 」 論 で あ る とい う。 さ ら に、 冷 戦 終 結 に よ る 自由 民 主 主 義 の 勝 利 が 「デ モ ク ラ テ ィ ック ・
ピー ス 」 論 、 す な わ ち 「民 主 主 義 に よ る平 和 」 論 に よ っ て 、 長 期 的 な 国 際 平 和 へ の 道 で もあ る とい う主 張 と結 び つ くこ とに な っ た と指 摘 す る。 最 近 の対 テ ロ 戦 争 の 過 程 で語 られ る民 主 化 の 名 の も とで の 体 制 変 換 の 背 景 に は この よ う な動 きが あ る と考 え られ 、 「デモ ク ラ テ ィ ッ ク ・ピー ス 」 論 が 対 外 的 な膨 張 主 義 を理
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論 的 に正 当 化 す る要 素 さ え持 っ て い る と述 べ て い る。
こ の よ う な傾 向 を 予 測 して か 、 田畑 は 人 権 の 国 際 的 保 障 に お け る実 施 措L1が