失 業 率 の 上昇 と所 得 分 配 の変 化
一 雇用環境 の変化 は何 を物 語 るか
岸 野 文 雄
1.は じ め に
今か ら約20年 前,日 本経 済 は世界 の なかで わが世 を謳歌 したバ ブ ル経 済 を経験 し た。そ して1990年,バ ブ ルの崩壊 と ともに 日本 経済 は長期 的 なデ フ レ経済 に陥 った。
景 気 の低 迷 とと もにわ が 国の 失業 率 も上 昇 をは じめ,2001年 に はつ い に戦後 初 の 5.0%と い う高水 準 に達 した。 失 業率 の上昇 は労働 市場 の需 給構 造 を大 き く変 化 さ せ,豊 か な社 会 に暗 い影 を投 げか け た。
失業 率 の上昇 は単 に景気 の動 向 による変化 に とどま らず,企 業側 に も労働 者側 に も大 き く影 響 を与 えて きた。企 業 は国際経 済環境 の変化 や長 引 く景気低 迷の も とで, 急速 に雇用 調整 を進 めて きた。 リス トラ とい う名 の もとに雇用 の解 雇 を進 め,効 率 化 を図 って きた。 また大規模 な企 業合併 な どの合 従連衡 も積極 的 に展 開 し,国 際競 争 力の増 強 を図 って きた。労働 者側 に とって も若 年者 ・高齢 者 と もに失業率 が増 し,
フ リー ター の増 加 な ど就業 形態 に新 しい 問題 を引 き起 こ してい る。
この ような失業率 の増大 は,か つ て 日本 的雇用 慣行 とされて きた労働需 給 の シス テム を大 き く変 え るこ とになった。終 身雇 用,年 功序 列賃金 制度 といった 日本的雇 用 制度 は,高 度成長 期 に はそれ な りの経 済合理性 を もってわが 国の労働 市場 に適合 した シス テムで あ ったが,こ れ らの慣 行 が急速 に変化 す る と労働 市場 は大 きな混乱 が発生 す る。 アメ リカの よ うに労働 市場 が比較 的流動 的 な場 合 は,リ ス トラや倒 産 に よる失業 に対 して再雇 用 の道 も用 意 されて い るが,わ が 国 の失 業 は きわめて非流 動 的 で,そ れ だけ失業 は社会 に深刻 な影響 を与 える。
一般 的 ・短期 的 な経 済政 策 として財政 政策 ・金融 政策が わが 国の経 済 を成 長 させ るこ とに寄 与 して きた。 こ う した経 済成 長の継 続 に よって労働市 場 にけ るア ンバ ラ
ンス は これ まで比 較 的 うま く機 能 して きた わけで あ るが,90年 代 以 降の長 引 く経 済 の低迷 の もとで,失 業率 が増 大す るな ど労働市 場 の需給構 造 は長期 的 な変化 を遂 げ つつ あ る。 労働市場 の需給構 造 とい った長期 的 ・構 造的 な変化 の場合 には,従 来 型 の経済 政策 だ けは う ま く機 能 しな くなる可能性 が あ る。
この よ うな高 い失業 率 の継 続 は全 体 と しての 日本 経済 の発 展 に とって好 ま し くな い と同時 に,そ れ以上 に雇用 者 の人生 ・生活 に深刻 な影響 を及 ぼす。 この よ うなマ クロ経 済 問題 に対 して は依 然 として政府 に よる対応 は必要不 可 欠で あ る。現 行 の効
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通信 教 育 部 論 集 第7号(2004年8月)
率性 主導 型 の市場原 理主 義の も とで は,失 業率 の上昇 といった マ クロ的 な問題 を適 切 に解 消 しえない こと も事 実 であ る。
そ こで,こ の90年 代 以 降の わが 国の失業 率の上 昇 とい うマ クロ的 な経 済現象 に対 して,如 何 に解 消すべ きか とい う経済 政策 を考 え るにあた って,わ が 国の失業 率が どの ような実態 で あるの か,ま た企業 の雇用 調整 や労働 者 の労働供給 意識 の変化 と い った労働 市場 に 関す る動 向 を正 し く洞察す るこ とが大切 とな ろ う。本稿 で は,こ
う した労働市 場 の長期 的 な推 移 を見 る こ とに よって,現 在 の労 働市場 にお ける構 造 的 な変化 の実態 を見 てい きたい と思 う。
本稿 の構成 は,以 下 の ように展 開 され る。2節 で は,わ が 国の失業 率が1990年 代 以降 どの よ うに変化 して きたか を概 観す る。 その さい,フ ロー分析 に よる雇 用 と失 業 の変化 の実 態 を考察 した研 究 を見 なが ら,わ が 国の動 向 を捉 える。3節 で は,企 業側 か らみ て経済 の変動 に対 して どの ように雇用 調 整 を行 ってい るか を理論 的 な研 究 とわが 国の実態 とを明 らか にす る。4節 で は,わ が国 の労働市 場 にお け る賃金調 整 につ い て取 り上 げ る。 わが 国で は人員ベ ー スで の雇用 調整 はア メ リカ と比べ て比 較 的遅 い と され るが,賃 金 調整 は どうか とい う伸 縮性 を検討 す る。
さ らに5節 で は,労 働供 給 の変化 につ いて検討 す る なか で,と くに女性 の労 働供 給 と景気 感応 度,経 済成 長 と労 働力 の 関係 につ い て考察 を行 った。 これ には,「 人 口のボ ーナス」 と 「人 口のオー ナス」 とい う概 念 を取 り上 げ,わ が国 の将来予 測 を 行 った資料 を紹介 してい る。6節 で は,わ が国 の90年 代 以 降の失業 率 の上昇 が所 得 分配 の不平 等度 に どの よ うに関 わ ってい るか を,ジ ニ係 数 の尺 度 を検 討 す る ことに よって考察 した。 そ して7節 で,簡 単 な総括 をお こない結 び と してい る。
2、 わ が 国 の 失 業 率 は ど う変 化 した か
1990年 代 の 日本経 済 は,第2次 大 戦後初 め ての長期 の経 済停滞 を経験 した。 その 顕著 な特徴 は物価 水準 の継 続 的 な下 落か らデ フ レ経済 に入 って い った こ とで あ る。
経 済成 長が 当た り前 の 日本経 済 に とってイ ンフ レー シ ョンはたび たび発 生 して きた が,デ フ レー シ ョンは珍 しい現 象 であ りその効 果 よ り弊害 が多 く目立 った。
実体経 済 と深 く関わ る 日本 の失業 率 もこの10年 間 には急 速 に上 昇 し,2001年 に は つい に完全 失業率 が5 .0%と い う高水 準 を記録 した。欧 米諸 国の失業 率 で は5%と い う水 準 は む しろ低 い水 準 に属す るが,わ が国 に とって は初 め ての経験 で もあ り失 業 問題 は深 刻 な経済 ・社 会 問題 となって いる。
雇用 ・失業 の問題 を考 えるにあ た って,ま ず わが 国の失 業率が 統計 的 に どの よ う な推 移 を示 したか を展望 してお こ う。 日本 の完全 失業 率 の動 きを見 る と,第2次 大 戦 後か ら1990年 代初 め まで,数 値 的 に低 い水準 で推移 して きた。 これは国 際的 にみ て大 変優 れた雇 用状 況 を示 す もの であ っ た。1955年 には最 高2.5%を 示 した が,そ の後 高度 成長 期 の60年 代 にか けて趨 勢 的 に低 下 し,73年 の 石油 危 機 まで は1.3%前 後 の水 準 で推移 して きた。
第1次 石油 危機後 の76年 に は2%台 に上 昇 した あ と,低 成長 へ の移行 と ともに失
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岸野文雄 失業率の上昇 と所得分配の変化
業 率 は再 び徐 々 に上 昇 し,円 高不 況 後 の86年 に は2.8%に 上 昇 した。 この ように90 年代 初 め まで は高 くて も3%を 超 え るこ との ない優 れ た失 業率 の推 移 を示 して きた が,バ ブル崩壊 後 の90年 代 は実体 経 済の低 迷 に よって失業率 も急 速 に上 昇 し,2001 年 にはつ い に5.0%の 水準 を記録 したわ けで ある')。
90年 代 初 め まで のわが 国 の失業率 は低 い水 準 を保 って きたた め,マ ク ロ経 済か ら みた失業 率 に関 して はそれ ほ ど大 きな問題 で はなか った。 しか し,バ ブ ル崩壊 後 の と くに90年 代 後半 か らの急 速 な失業 率 の上 昇 は,若 年 ・高齢 労働 者 の失業 や長期 失 業 者の増 加 な ど深刻 な失 業 問題 を引 き起 こ して きた。
さて,失 業 率の上 昇 とと もに国 内で は多 くの失業者 が あふれ,景 気 の低迷 の なか で,失 業 問題 の解消 を求 め る声 は 日増 しに強 くな ってい る。 テ レビや新 聞な どで報 道 され る失業 率が じわ じわ上 昇す る につ れて,景 気 の不況 感 は ます ます高 まって き てい る2)。 こ う したわ が国 の失業率 は先進 主要 国 と比 較す る と どの よ うな特徴 を持 つ ものであ ろ うか。 多 くの研 究者 の語 る標 準 的 な指摘 を示 す と次の ようにな る。
第1に,日 本失業 率 の水 準 は際 だ って低 か った ことで あ る。 これ は石 油危 機後 の 主要 国の失業 率が10%前 後 まで上昇 したの に対 して,わ が 国は2%台 を保 ってい た。
た だ し90年 代 半 ば以 降に なる と,欧 米諸 国の 中で もアメ リカや イギ リス の失業率 は む しろ低 下傾 向 を示 してい る。第2に,日 本 の失業 率 は欧 米諸 国 と比 べ て変動 が小 さい こ とで あ る。 と くに,90年 代初 め まで は きわ めて小 さい変動 で安 定 的な推移 を 辿 って きた。 と くにアメ リカ,イ ギ リス,ド イツな どでは10年 単位 で見 て も循環 的
なやや 大 きな変動 を繰 り返 しなが ら推移 してい る。
第3に,失 業期 間 につい てみ る と,ア メ リカ と比べ る と長 い ものの,ヨ ー ロ ッパ 諸 国 と比較す る と短 期 であ る こ とで ある。 しか し,バ ブル崩壊 後 の不 況期 に は長期 失業者 の割合 は上 昇 しつつ あ る。 第4に,若 年 失業 率が比 較 的低 く男性 ・高齢 失業 者が比 較 的高い ことであ る。
以上 の ようなわが 国の失業 率 の特 徴 は,90年 代初 め までの典 型 的な特徴 とみ るこ とが で きる。90年 代 中頃か らはこれ らの特徴 は次 第 に曖昧 にな りつ つあ る。 これ は わが 国の経 済が グローバ ル化 した こ とや経済成 長率 の低下 傾 向 な どの実体 経済 の動 きに労働 需給 が影響 を受 けて きた こ とに よる もの とい える。
ところで,失 業 率 の推 移 は全体 と しての失業 率 の水 準 や変動 を知 る こ とは で きる が,失 業 を構 成 して い る労働 者が どの ような就 業 ・失業 の状 態 にあるか は この単 一 の指標 か らは知 るこ とはで きない。そ こで失業率 の よ り詳 しい動態 をつ か むため に, 雇用 ・失業 の 間の動 態 を分析 す る研 究 が行 われて きた。最 近 の研 究 の一つ と して黒 田祥子[2002]に よる フローデ0タ を用 い た実 証分析 が あ る。
労働 が 可 能 な15歳 以上 の 人 口は 「労 働力 人 口」 と 「非労働 力 人 口」 に大 別 され, 前 者 は さ ら に 「就 業 者 」 と 「完 全 失 業 者 」 に分 類 され る。 そ の た め 労 働 需 給 に 関 し
て は 「就 業」,「失業 」,「非労働 力」 の3つ の状 態が存在 す る。 ここで注 目す べ きこ とは,非 労働 力 は労 働 を完全 に離 れた人 々だ けで な く,場 合 に よっては就業 の意志 のあ る人 も存在 す る。つ ま り就職活 動 を行 ってい ない とい う点 で非労働 力 に分類 さ れ るが,状 況 次第 で は再 び就 職活動 を開始 す る人 々 もあ る とい うこ とであ る。 した
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通 信 教 育 部 論 集 第7号(2004年8月)
が って,雇 用 ・失業 の動態 をつ か むため には この3者 の フローの動 きを詳 しく分析 す る必要 があ る。
黒 田 は こう した概念 に よって丁 寧 な フローに よる分析 を行 い,90年 代 の 失業率 の 上昇 にお け る動態 的変化 か ら次 の よ うな実態 を指摘 してい る3)。す な わち,
(1)就 業か ら失業へ の流 入確 率が上 昇 してい る, (2)失 業 か らの就業確 率 が大 幅 に低 下 してい る,
(3)失 業 か ら非労 働力 化 す る傾 向が弱 まっ てい るた め に失 業継 続者 が 累積 してい る,
(4)非 労働 力 か ら就業 へ の移行確 率が低 下 す る なかで,1990年 代半 ばか らは,男 性 にお いて非労働 力 か ら失 業へ の参入 が発生 してい る,
(5)1990年 代 末か ら2000年 にか けては,女 性 に もこの傾 向が 観察 され る, とい うもので ある。
以上 の ような ファク ト ・フ ァイ ンデ ィングは大変 興味深 い。 と くに(3)や(4) の よ うに非労働 力 と就業,非 労 働力 と失業 間の動 きは,デ フ レ経 済下 で雇用 の減少 が起 こってい るなかで,90年 代 の失 業率 の上昇 を押 し上 げて いる可能性 を示 唆 して い る。
マ ク ロか ら見 た失業率 を理論 的 に分析す る代 表 的な分析 手法 と しては 「UV分 析 」 と呼 ば れ る考 え方 が あ る。UV分 析 で は縦 軸 に失 業(雇 用失業率)U,横 軸 に欠 員 (欠員率)Vを とる と,ベ バ リ ッジ曲線 と呼 ばれ る右 下が りの 曲線 が描 か れ る。社 会全 体 を見 た と きの失業 は,雇 用 失業率 と欠 員率が 同時 に存 在 してい るため,U軸,
V軸 を離 れた右 下 が りの 曲線上 に位 置す る こ とにな る。
この曲線 と45度 線 との交点 が理論 的 な 「均衡 失業 率」 と呼 ばれ る もので あ る。 し
図1失 業 率 の 推 移 .Q(%)6
5.0
4.0
3.Q
2.4
1.0
0
需要 不 足失 業 率
\
完全 失 業率
/
/…
均 衡失 業 率
ジ
一一1 .0
1970197219741976197819801982198419861988199019921994199619982000
(年)
出 所:労 働 省 「労 働 白書(平 成12年 版)』 日本 労 働 研 究 機 構
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岸野文雄 失業率の上昇 と所得分 配の変化
たが って,実 際 の失業率 は均 衡失 業率 とそ れ以外 の部分 とが集計 された もの とな る。
わが 国で は厚 生労働 省 がUV分 析 に よって定量化 した失業 率 を均 衡失業 率 と して試 算 してい る。 均衡 失業率 の概念 はUV分 析 で は,失 業 率が マ クロ的 には求職 と求 人 が 同数 であ る に も関 わ らず,現 実 に は求職 活動 を行 ってい る人が い る とい う意味 で 労働 需給 の ミス マ ッチ に よる失業 と解 釈 され る。
わが 国の推 定 され た均 衡失業 率 の推 移 は図1の よ うな動 きを示 してい る。 図1は 70年 代 以降 の推移 であ るが,均 衡失業 率 は完全 失業率 の上 昇傾 向 よ り緩 や か に推移
して い る。 また完全 失業 率か ら均衡 失業率 を引 い た もの を需要不足 失業 率 と してそ の推 移 を示 して いる。
ところで,2000年 第1四 半期 の実 現 され た失業 率 は4.82%で あ るの に対 して均 衡 失 業 率 は3.61%で あ る。 そ の差 は1.21ポ イ ン トとなって い る。 したが って,失 業 率 の4分 の3程 度 を しめる ミスマ ッチが発生 してい る こ とにな る。
図1で は90年 代 に均衡 失業 率が上 昇 を示 してい るため,実 現 され た失業率 を押 し 上 げてい る ように見 え る。 しか し黒 田は 「地域 別 ・年齢別 ミスマ ッチ ・イ ンデ ック ス」 を計 測 し,ど の時 点で も地域 間 ・年齢 間に多少 の ミスマ ッチが存在 す るこ とは あ る と して も ミスマ ッチの趨 勢的 な上昇傾 向は ない との結 果 を報告 して い る4)。
需 要不 足 失業率 と名 づ け られ た比 率 の推 移 を見 る と,90年 代 で は高い水準 を維 持 してい る。 これ はマ ク ロ的 にみ てわが 国の失業 率 を構 成 す る内容が 変化 して きてい るこ とが推 察 され る。 こ うした要 因 として多 く指摘 される原 因 と して,産 業 の空洞 化,長 期 的 な需 要の低 迷,国 際競 争力 の低 下 とい ったマ クロ的 な経 済事情 の変 化や, 若年層 の失 業率 の上昇,既 婚女性 のパ ー トタイマー就業,非 正規社 員雇用 の活 発化, フ リー ター の増 加 とい った就 業構 造 の変化 な どさ ま ざまな労 働 市場 の変化 が 起 こ り,失 業率 の急 速 な上 昇 を招 いてい る といった変化 に よる もので あ る。
こう した失業 率の上 昇 を招 いてい る原 因がマ ク ロ的 ・短期 的 な場合 には,や が て そ う した シ ョック解 消 と ともに失 業率 を低下 させ る可 能性 が あ る。 しか し,構 造 的 ・長期 的 な変化 の場 合 に は,失 業率 の上昇 は容易 に改 善 され ない。90年 代 の失業 の諸 要 因の変化 を見 てみ る と,構 造 的 な変化 が大 き く関係 してい る と見 られ る とこ ろか ら,わ が 国の失業 率 の水 準 は今 後 と も比 較 的高い水 準で推 移 して い く可能性 が 推察 され る。
3.企 業 は ど の よ う に雇 用 調 整 を行 っ た か
1970年 代 後半 以降,日 本 企業 の雇 用調 整行動 が大 き くク ロー ズア ップ され た。 日 本経 済 は70年 代初 め 第1次 石 油危機 に よってマ イナス成長 に陥 り,そ れ まで 「終 身 雇 用」 と考 え られて きた大企 業部 門 で も大幅 な人員 削減 が行 われ た。そ れ に続 く長 期 の不 況 の なか で 「減 量経営 」が 図 られ,構 造 不況 業種 を中心 に子会社 や 関連会社 へ の出向 な どに よって雇用 人員 の削 減 が進 め られ た。
第2次 石 油危機 にお い ては,第1次 石油 危機 時 の学習効 果 もあ って,そ の影響 は 比 較 的軽 か った。 その後 の失業 率 の上 昇 も1980年 の2.0%か ら84年 の2.7%へ とわず
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通信 教 育 部 論 集 第7号(2004年8月)
か0.7ポ イ ン ト上 昇 し た だ け で あ っ た 。 さ ら に1985年 の 円 高 不 況 の 時 期 に も失 業 率 の 上 昇 は1985年 の2.6%か ら1987年 の2.8%と0.2ポ イ ン トの 上 昇 に 過 ぎ な か っ た 。 こ
う し た 時 期 に お け る 日本 の 失 業 率 の 変 動 が 小 さ い こ と の 要 因 の ひ とつ と し て,不 況 期 に 労 働 時 間 を 短 縮 す る な ど の 方 法 よ っ て,な る べ く雇 用 人 員 を 削 減 し な い と い っ た 日 本 企 業 の 雇 用 保 蔵 行 動 が あ げ ら れ る 。
しか し,1990年 代 の バ ブ ル 崩 壊 後 の 長 期 不 況 期 に は,日 本 企 業 の 雇 用 調 整 行 動 も 大 き く 変 化 し て い っ た5>。 と く に そ れ ま で に 比 べ て,人 員 ベ ー ス(雇 用 者 数)で の 雇 用 調 整 の 速 度 が 増 し て きた と 見 ら れ る よ う に な っ て き た 。 た と え ば,1997年 の 金 融 不 況 時 に は 多 く の 企 業 が 人 員 削 減 を 行 っ て き た し,2001年 のIT不 況 時 に も大 幅 な リ ス トラ が 行 わ れ て い る 。
失 業 率 は 企 業 な ど労 働 の 需 要 側 の 要 因 と 労 働 者 の 供 給 側 の 要 因 と が あ る が,雇 用 調 整 は 前 者 の 需 要 要 因 の 変 化 で あ る 。 で は,企 業 は 雇 用 調 整 に 際 し て ど の よ う な 手 段 を 用 い て い る の で あ ろ う か 。 厚 生 労 働 省 の 「労 働 経 済 動 向 調 査 』 に よ る と,企 業 が ど の よ う な 雇 用 調 整 手 段 を 用 い て 雇 用 の 調 整 を 行 っ た か の 理 由 別 比 率 を 公 表 し て い る 。 そ れ に よ る と,2001年10月 〜12月 期 で は,「 残 業 規 制 」(24%),「 配 置 転 換 」
(14%),「 中 途 採 用 の 削 減 停 止 」(12%),「 臨 時 ・季 節,パ ー ト タ イ ム 労 働 者 の 再 契 約 停 止 ・解 雇 」(9%),「 一 時 帰 休 」(7%),「 希 望 退 職 の 募 集 ・解 雇 」(8%)と な っ て い る 。
こ う し た 調 査 結 果 を み る と,次 の よ う な 日 本 企 業 の 雇 用 調 整 の 行 動 が わ か る 。 す な わ ち,不 況 期 に は ま ず 残 業 や 休 日 出 勤 の 停 止 な ど労 働 時 間 に よ る 調 整 や 採 用 の 抑 制 に よ る 調 整 と い っ た 調 整 コ ス トの か か ら な い 雇 用 調 整 手 段 を と る 。 さ ら に 次 の 段 階 の 雇 用 調 整 と し て,パ ー ト タ イ ム 労 働 者 や 臨 時 ・季 節 労 働 者 の 再 契 約 停 止,配 置 転 換,一 ・時 帰 休 と い っ た 手 段 を と る 。 そ し て 最 後 に,希 望 退 職 の 募 集 や 解 雇 を 行
う。
こ の よ う な 雇 用 調 整 の 方 法 は わ が 国 で は 一 般 に 広 く み ら れ る 現 象 で あ る が,問 題 は こ う し た 調 整 の 程 度 と か タ イ ミ ン グ な ど が ど の よ う に 行 わ れ る か で あ る 。 ま た, こ う し た 雇 用 調 整 は 最 終 的 に は 失 業 と も 結 び つ く重 要 な 課 題 で も あ る と こ ろ か ら, 雇 用 調 整 の 速 度 に 関 し て 多 く の 理 論 的 分 析 が 進 め ら れ て き た6)。
理 論 的 分 析 と し て は 雇 用 関 数 に よ っ て 「雇 用 調 整 速 度 」 を 実 証 的 に 分 析 す る研 究 が 精 力 的 に 行 わ れ て き た 。 こ の 雇 用 調 整 速 度 と は,人 員 ベ ー ス あ る い は 労 働 投 入 量 ベ ー ス の 雇 用 調 整 が ど の 程 度 の ス ピ ー ドで 行 わ れ る か を 示 す 指 標 で あ る 。
雇 用 と 生 産 の 関 係 を 計 量 的 に 測 定 す る 一 般 的 な 方 法 は,次 の よ う な 雇 用 関 数 を 想 定 し,調 整 速 度 や 生 産 弾 力 性 を 推 定 す る 仕 方 で あ る7)。 基 本 的 な 雇 用 関 数 と し て は, 生 産 量 と 前 期 の 雇 用 量 を 基 本 の 変 数 と し て,そ れ 以 外 に 賃 金 ・製 品 価 格 比 ま た は 賃 金 ・資 本 コ ス ト比 や ト レ ン ド項 を 加 え る 次 の よ う な タ イ プ が 用 い られ る 。
lnNt=ao+allnXt‑a21n(W/C)t‑a3T +a41nNt‑1(1}
こ こ で,Nは 雇 用 人 員,Xは 生 産 量,(W/C)は 賃 金 ・資 本 コ ス ト比,Tは ト レ ン ド項 を 示 す 。 ま た,こ の 雇 用 関 数 の 背 後 に は 次 の よ う な 調 整 モ デ ル が 想 定 さ れ
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岸野文雄 失業率 の上昇 と所得分配の変化
てい る。
lnNt‑lnNt‑1=λ(lnLt‑lnNt‑1)(2)
ここでLは,あ る生 産 量 に対 す る必 要労 働投 入 量(ま たは最適雇用量)を 示 す 。 この式 は対 数 で測 った必 要 量 との雇 用 ギ ャ ップ に対 して,雇 用調 整 速 度 λ(0<
λ<1)だ け今 期 の雇 用 人員 を調整す るこ とを意 味 して いる。
これ まで多 くの研 究 に よって こ う した雇用調 整速 度が計測 されて きた。 それ に よ って 日本 企業 の雇用 調整 に関 してい くつ かの特徴 点 が指摘 されてい る。 こ こで その 代 表 的な特徴 をみ る と次 の ような点が あげ られ る8)。
第1に,人 員ベ ース で はア メ リカ と比 較す る と日本 の雇 用調 整速 度 は遅 い とい う こ とであ る。 そ の後 の多 くの計測 で も基 本的 にこの事 実 は支持 され てい る。第1次 石 油危機 後 の雇用調 整 速度 の国際比 較 を行 った研 究 に よる と,雇 用 人員ベ ー スで は
日本 は アメ リカよ りは遅 いが,イ ギ リスや(旧)西 ドイ ツに対 して はそ れほ ど変わ ってい ない とい う結果 が報 告 されて いる。 これ らの 国際比 較 で はむ しろア メ リカだ けが調 整速 度が速 い とい う特 徴が み られ る。
第2に,労 働者 の種類 別 でみ る と,熟 練度 の高 い労働者 ほ ど雇用 調整 の速度 は遅 い とい うこ とで あ る。 またブ ルー カラー とホ ワイ トカ ラー の比 較 で は,前 者 の ほ う が雇用 調整 速度 は速 くなってい る。 この ような熟練 度 と雇 用調 整速 度の 関係 は,欧 米諸 国 に も共通 にみ られ る(且amermesh,1993)9)。
次 いで産 業別 にみ る と,女 子比 率が 高 い業種 ほ ど,ま た時 間 あた り賃 金が低 い業 種 ほ ど調整 が速 い こ とが 日米共 通で確 認 され てい る とい う。 この よ うに,労 働 者 の 種類 や業種 に よって雇 用調 整速 度が異 なって いる こ とは,産 業や企 業 の技 能特 性 と 企業 の雇用 調整 行動 との 間 に強 い 関連 が あ るこ とを示 して い る。
第3に,企 業 規模 別 に雇 用調 整速 度 をみ る と,雇 用 人員ベ ー スで は小 規模企 業 ほ ど速い とい う特徴 が み られ る。 第1次 石油危 機 の期 間 を含 む時期 を対象 に製 造業 に つ いて企 業規模 別 に雇用調 整速 度 を計 測す る と,雇 用 人員 ベー スで は小 規模 の ほ う が 速度 は速 く,労 働 時 間の調整 を含 め た労働 投入 量 ベー スで は両 者 にそれ ほ ど差 が ない こ とが指摘 されて い る。
ところで,雇 用行 動 は大企業 と中小 企業 とで は好 況 ・不 況 に よって必 ず しも同一 で はない。 た とえば,一 ・般 に失業率 が上昇 す る不 況期 には,中 小 企業 はそ れ までの 人 手不足 を解消 す る よ うに雇用 を増加 させ るこ とが あ る。 したが って,労 働 市場全 体 か らみれ ば雇 用 はむ しろ安 定的 にな る可 能性 もある。1974年以 降 につ いてみ る と, 大 企業 の雇 用 が急激 に低 下 したの に対 して,中 小 企業 で は逆 にそれ以前 よ り雇 用 は 増加 した とい う実態 が あ る。
第4に,日 本 で は人員 ベー スで の雇 用調整 速度 が緩 やか で,不 況下 で も労働 保蔵 を行 う傾 向 が 強 い とい う特 徴 が み られ る。 日本 の 労 働 市場 は 長 期 的 にみ て 人 員 ベ ー スで は雇用 調整 速度 は遅 い とい う特徴 が み られ るが,こ の こ とは景気 の変動 に対 し て失業率 の変動 を少 な く して いる要 因の ひ とつ であ る とみ られ てい る。 しか し,こ
うした点 の指摘 は と くに90年 代 以前 につ いてい え る特徴 で あ り,産 業別 ・企業 規模 別 で はか な り異 なって いる とみ られ る。
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通信 教 育 部論 集 第7号(2004年8月)
日本 の雇用 調整速 度 は歴史 的 にみ る と常 に遅 か ったわ けで はない とい う事 実 もあ る。戦前 で は雇用調 整速 度 はむ しろ速 く,高 度 成長期,石 油 危機 後 の安 定成 長期 と 時代 の推移 とと もに雇 用調 整速 度 は遅 くなっ て きてい る。 しか し,こ の5年 、10年 につ いてみ る と雇用 調整 速度 は再 び速 くな って きて い る との計測 もある。 こう した 背 景 には,雇 用 調整 速度 の速 いサ ー ビス業 の ウエ イ トが高 まってい る ことやパ ー ト
タイム労 働 者,臨 時 ・日雇 い労 働 者 な どが増 大 してい る こ との反 映 とみ られて い る。
第5に,個 別 企業 の雇用 調整 で は,赤 字 が2期 継続 す る と人員整 理が 発生 しやす い とい う経験則 がみ られ る。 これ は従 業員 の2割 程度 にお よび,か な り大規模 な削 減 となって いる。 これ まで大企業 で もあ る臨界点 を超 え る と非連続 的 で大幅 な調整 が行 わ れて きた とい う特徴 と も整 合 的で ある。
また,こ の雇用 調整 で は,雇 用 コス トの高い 中高年層 か ら解 雇 され る とい う傾 向 が あ る。 こ うした理 由 につ い ては説得 的 な定 説 は存 在 しないが,社 会 に失業 者が あ ふ れ る ようになる と高い技 能 を もつ 人 も増 え るため,解 雇 コス トが 賃金 コス トを下
回る こ とに よる と考 え られ る。
これ まで,わ が 国の雇用 調整 をそ の速度 とい う観点 か らの研 究 を紹介 して きたが, こ うした調 整 は もっぱ ら景気 の動 向 な どに よる労働 力 の調 整 が中心 で あっ た。 しか し,現 在 の 日本 の雇用 ・失 業 に関 して は,構 造的 な要 因に よる解 雇 の進展 も急 速 に 行 われ て い る。 そ う した原 因 と して,(1)わ が 国の生 産 が賃 金率 の低 い東 南 ア ジ ア製 品の格 安 な輸 入 に よって行 われ る ように な り,製 造現 場 での雇用 が海外 に シフ トして い った とい う影 響 が考 え られ る。(2)わ が 国 の労働 分 配率 が諸外 国 と比 べ て高 いた め,景 気 動 向に関係 な く正 規社 員 の雇 用 を減 ら し,パ ー トタイム雇用 や ブ リー ター に よる雇 用 にシ フ トして い る。(3)日 本 経済 の マ ク ロ的な総 需要 が減 退 したため,企 業 の生産 活動 が減退 しそれ に伴 っ て雇 用が削 減 され て きて い る とい う 背 景 をみ る こ とが で きる。
4.わ が 国の賃 金 調 整 の伸 縮性
前節 におい てわが 国の雇用 調整 につ いて みて きたが,雇 用 の調整速 度 とい う点で は諸外 国 と比べ て も遅 い,つ ま り景気動 向 に対 して人員ベ ー スでの雇 用量 の調 整 は 比較 的遅 い こ とが広 く確 認 され てい る こ とをみ て きた。 これ はわが 国の労働 需 給が 終 身雇 用,年 功序 列 とい う点で広 く認識 されて いる こ とと整合 的で あ る。 で は,わ が 国の労働 市場 にお け る賃 金調整 につ いて は ど うであ ろ うか。
第2次 石 油危機 後,失 業 率の上 昇 や物価 上 昇率 が第1次 石油 危機 の時 に比べ て軽 微 で あ っ た こ とか ら,日 本 の 賃 金 調 整 が 伸 縮 的 な の で は な い か との 予 想 が 高 ま っ た 。 そ のた め,わ が国の賃 金調 整の伸 縮性 を検証 す る研 究が盛 んに行 われ た。 こ うした 議論 の なかで代 表的 な論点 は,毎 年行 われ る賃金 交渉,協 調 的 な労使 関係,ボ ー ナ ス支給 に よる賃金 制度 等が伸 縮 的 な賃金 調整 を もた らした とい う もので あ った。
その一方 で,実 質賃 金 の伸 縮性 に対 して疑 問 を呈 す る研 究 も現 れて きた。さ らに,
76
岸野文雄 失業率の上昇 と所得分 配の変化
1990年 代 に デ フ レ傾 向 が 強 ま る な か で,名 目賃 金 の 下 方 硬 直 性 が 問 題 と さ れ て き た 。 日 本 の 賃 金 調 整 は 果 た し て 伸 縮 的 な の で あ ろ う か 。 ま た,最 近 の デ フ レ傾 向 の な か で 名 目賃 金 の 下 方 硬 直 性 が 失 業 の 増 大 に つ な が っ て い る の で あ ろ う か 。
賃 金 の 調 整 を 議 論 す る と き,名 目賃 金 と 実 質 賃 金 を 分 け て 考 え る 必 要 が あ る 。 た と え ば,名 目賃 金 が 硬 直 的 で あ る が 実 質 賃 金 は 伸 縮 的 で あ る と い う場 合 と
,そ の 逆 に,名 目 賃 金 が 伸 縮 的 で あ る が 実 質 賃 金 は 硬 直 的 で あ る と い う 場 合 が あ る 。 ま た , 両 者 が と も に 伸 縮 的 な い し硬 直 的 で あ る と い う ケ ー ス も あ る 。
日本 に お け る 実 質 賃 金 が 伸 縮 的 か あ る い は 硬 直 的 か に 関 し て は さ ま ざ ま な 議 論 が な さ れ て き た 。 た と え ば,Branson,W.andJ.J.Rotemberg[1980]ら の 分 析 に よ る と,ア メ リ カ は 名 目賃 金 が 硬 直 的 で あ り,実 質 賃 金 は 伸 縮 的 な 経 済 で あ る こ と 一 方 ,
,日 本 は ヨ ー ロ ッ パ と と も に 実 質 賃 金 が 硬 直 的 な 経 済 と の 指 摘 を 行 っ て い る 。 こ れ に 対 し て,Gordon,R.J .[1982]は,名 目 賃 金,実 質 賃 金 な ど の 変 化 率 の 標 準 偏 差 を 用 い て 直 接 的 に 国 際 比 較 を 行 っ た 。 そ の 結 果 は 表1に 示 さ れ る と お り で あ る 。Gordonに よ れ ば,日 本 は イ ギ リ ス と 共 に ア メ リ カ に 対 し て 名 目 賃 金 ・実 質 賃 金 と も に伸 縮 的 な 経 済 と い う結 果 を 得 て い る エo)。
表1名 目賃 金,実 質 賃 金 等 の 変 化 率 の 標 準 偏 差(四 半 期 デ ー タ)
1963:1‑1980:皿 1963:1‑1972:N
ア メ リ カ イ ギ リス 日 本 ア メ リ カ イ ギ リス 日 本
W 1.69 5.29 i;i 1.66 3.4 2.83
実 質 賃 金(w‑p) 1.46 i・ 2.78 0.82 1.74 2.5
h+e 4.78 3.22 1.09 4.06 2.7 0.91
h 1.09 1.74 1.98 1.06 1.37 1.17
e 4.05 2.18 2.03 3.39 1.95 2.15
注:wは 名 目 賃 金,pはGNPデ フ レ ー タ ー の 変 化 率,w‑pは 実 質 賃 金,hは 一 人 あ た り労 働 時 間,eは 雇 用 者 数 を 示 す 。Gordon[1982]に よ る 。
出 所:吉 川 洋[1992]p.123。
こ の よ う に 賃 金 の 伸 縮 性 に 関 す る さ ま ざ ま な 分 析 が 行 わ れ て い る が ,必 ず し もす べ て の 分 析 で 各 国 の 伸 縮 性 に 関 す る 結 果 が 一 致 し て い る わ け で は な い
。 分 析 に よ っ て 伸 縮 性 は 異 な り,ど の よ う な 定 義 を す る か に よ っ て 各 国 の 相 対 的 な 賃 金 伸 縮 性 の 大 き さ は か な り異 な っ て い る 。 し か し,広 く は 日本 の 賃 金 調 整 の 伸 縮 性 を 支 持 す る 議 論 は 多 くみ ら れ る 。
次 に,名 目 賃 金 の 硬 直 性 に つ い て は ど う で あ ろ う か 。 わ が 国 の 名 目 賃 金 の 下 方 硬 直 性 に つ い て 実 証 的 な 分 析 を 行 っ た も の と し て,黒 田 ・山 本[2003]の 研 究 が あ る 。 黒 田 ・山 本 で は,名 目賃 金 に 下 方 硬 直 性 が 存 在 す る こ と に よ っ て ,雇 用 者 の離 職 行 動 が ど の よ う な 影 響 を 受 け る か を 検 証 し た 。1998年 ま で の デ ー タ で み る 限 り,わ が 国 の 名 目 賃 金 に 下 方 硬 直 性 が 存 在 し た こ と は,KimuraandUeda[2001]や 黒 田 ・山 本[2003]に よ っ て 明 ら か に さ れ て い る 。 た と え ば,KimuraandUeda
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通信 教 育 部 論 集 第7号(2004年8月)
[2001]で は,わ が 国の名 目賃 金 の変動 と実 質GDPや 労働 需 給指標 との 問 に非線 形 の 関係 が あ る ことを明 らか に し,わ が 国の名 目賃 金が下 方硬 直 的であ った と述べ て い る。
こ う した分析 の結果 につ い ては,わ が 国の名 目賃金 の硬直性 につい ての計測 結果 は得 られ た ものの,そ の程 度 につ い て は必ず しも強 い もの で はない こ とを指摘 して いる。す な わち,フ ル タイ ム男性 ・女性 につい て は,本 来,名 目賃金 が引 き下 げ ら れ る局面 で も,そ の下方硬 直性 に よって名 目賃 金が据 え置 かれ る確 率 が高 くなるほ ど,離 職 が抑 制 され るこ とが 明 らか になった ことを指摘 して いる。 しか し,こ うし た影 響 の統計 的有意性 は高 くなか った ほか,パ ー トタイム女 性 につ いて は明確 な影 響 を与 えて い る との結果 は得 られ なか った。 また,名 目賃 金が 据 え置 か れ るこ とに よって生 じうる名 目賃金 ギ ャップを用 いた場合 には,フ ル タイム男性 ・女性 お よび パ ー トタイム女性 につ いて,雇 用継 続期 間 に有 意 な影響 は観察 されなか った との結
果が報告 されて い る11)。
さて,賃 金調整 が伸縮 的 であ るか どうかの判 断 を行 う場 合,賃 金調 整 の伸 縮性 を 何 で測 るか に よって異 な る。 この よ うな基準 と して大 き く3つ の指 標 が あ げ られ
る12>。
第1に,賃 金 の増減 率 の標 準偏 差 であ る。 賃金 の対前 年増 減率 の変動 が大 きい ほ ど,そ の時 々の経 済情 勢 に敏感 に反応 して お り,賃 金調 整が 柔軟 に行 われ てい る と み る見 方 で あ る。 表2は 時 間 あ た りの賃 金 の対 前 年増 減 率 の標 準 偏差 を示 して い る。
表2時 間あたり賃金の対前年増減率の標準偏差(%)
国(期 間)
調査産業計 製造業
名則 類 名 目 実質
日 本(1965‑2001) ア メ リ カ(1965‑2001) 旧 西 ド イ ツ 地 域(1961‑95)
フ ラ ン ス(1986‑2001) イ ギ リ ス(1977‑2001)
7,023.4 2,382.15
1,050.9 4,212.05
7,213.68 2,671.94 3,122.54
資 料:OECD,MainEconomicIndicators.
出 所:三 谷 直 紀[2003]437頁 よ り 。
これに よる と,日 本 の時 間あ た り賃金 の対前 年増 減率 の標 準偏 差 は名 目でみ て も 実質 で み て も他 の主 要 先進 国 と比較 して大 であ り,賃 金 は伸 縮 的 とい う こ とに な る。
第2は,失 業率 な どの賃 金の感 応度 であ る。労働 市場 の需給 状況 に よって賃 金上 昇率 が敏感 に反応 す る ほ ど,賃 金 の伸 縮性 が高 い と捉 え る見 方 であ る。 これ は賃金 上昇 率 と失業 率 の 関係 を示 す(賃 金版)フ ィ リ ップス 曲線 の傾 きの絶 対値 を見 る も の であ る。 この傾 きの絶対 値が大 きい ほ ど,失 業 率 が同 じだ け変化 して も賃 金上昇
一78
岸野文雄 失業率 の上昇 と所 得分配の変化
率 は大 き くなるわ けであ る。
実証 分析 による と,ア メ リカで は失業 率 と名 目賃 金上昇 率 の問 にはあ ま りはっ き りした相 関関係 はみ られ ない。 これ に対 して 日本 では,か な りは っ き りした負 の相 関関係 がみ られ る。 この こ とは,日 本 のほ うが 労働需 給 の状 態 に賃金 が敏 感 に反応 して変化 してい る こ とに なる。 しか し,1970年 代 か ら80年 代,90年 代 と,傾 きの絶 対値 は次 第 に小 さ くなって い るこ とが観測 され てい る。
第3の 指標 は,雇 用 と実質賃金 の均 衡点へ の収 束速 度 を測 る もの であ る。労 働市 場 で労働供 給 と労働 需要 とが均衡 す る雇用 と実 質賃金 の水準 を考 える。 実証分 析 の 結 果 に よれ ば,日 本 の実質 賃金 の均 衡 点へ の収 束速 度 は遅 く,こ の指 標 で み る と,
日本 の実 質賃金 の調整 は伸 縮的 で はない。
以上 の基 準 か ら,最 初 の2つ の指標 につ いて み る と,日 本 で は賃 金調整 の伸 縮性 が 高い とい うこ とにな るが,第3の 指標 で み る と伸 縮 的で は ない こ とにな る。1990 年代 は,デ フ レに よる影響 で さらに 日本 の賃金調 整 の伸 縮性 は低 下 した とみ られ る。
この背 景 に は,日 本経 済の長 期的 な景気低 迷 の もとで名 目賃金 も不可 避 的 に切 り下 げが行 われて いる こ とや,物 価 上昇 率 がマ イナス であ る こ とか ら実 質賃金 が下 方硬 直 的 にな っ てお り,こ の こ とが 失業 率 の さ らな る悪 化 を もた らす要 因 とな っ てい る。
5.女 性 の 労働 供 給 の 変化
少子 高齢化 が経済 面 で問題 とされ る背景 には,労 働 力供給 の減 少が予 想 され る こ とにあ る。90年 代 に はわが国 の失業率 が大 き く上 昇 したが,少 子 高齢化 とい う人 口 構造 の変化 は労働 供給 を引 き下 げ る とい う点 で需 給 ギ ャ ップ を解消 させ る可 能性 も あ る。 しか し,生 産可 能 人口が 減少す る とい う こ とは,長 い 目で 見 る と労働供 給 の 力 を弱 め るよ うに作用 す るた め,雇 用 問題 には深刻 な問題 を生 じさせ る。
ここで,女 性 の労働 力供給 の推 移 につ いてみ る と,次 の ようない くつ かの特徴 が 指摘 され る13)。
第1に,女 性 の労働力 率 は就業 者比率 の変化 に対 して伸 縮 的 に変化 し,同 調 した 推 移 を示 してい る とい うこ とで あ る。 と くに就 業者比 率が低 下 す る不 況期 に は労働 力 率が ほ ぼ同様 に低 下 し,失 業率 の上昇 を抑 えて い る とい う動 きが見 られる。 この 傾 向 は石 油危機 お よびその後 の低 成 長期 だ けでな く,高 度成 長期 に遡 っ て もはっ き りと観察 され る。1990年 代 に入 って もこの傾 向は変 わ らないが,従 業者 比率 の低下 に対 してやや労働 力 率 の低 下 幅が少 な くなって い る とい う傾 向が見 られ る。
第2に,雇 用 者比 率(=雇 用者/15歳 以上人口),自 営 業主 ・家 族従 業者 比 率(=
自営 業 主 ・家 族従 業 者/15歳 以上 人 口)の 変 化 を 見 る と,ど ち らの 変 化 も就 業 者 比 率 の変化 とほぼ 同様 な動 きを してい るこ とで ある。 この ことは ,労 働力 率 の景 気変動 が 自営業 世帯 におけ る女性 の労働供 給行動 に よって もた らされてい る こ とを物語 っ て いる。 ただ し,バ ブル期以 降 は 自営業主 ・家族 従 業者比 率の変 動 は必 ず しも就業 者比 率 の変化 の方 向 と同 じで はない とい う統 計 がみ られ る。
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通信 教 育 部 論 集 第7号(2004年8月)
第3に,自 営業 部 門か ら雇 用部 門へ の女 性労働 力 の構 造 変化 が続 いて い る とい う こ とであ る。 そ して,雇 用 者比率 の プ ラスの変 化 に対 して,自 営業主 ・家族 従業者 比率 はマ イナ スの変化 が続 くとい う特徴 が見 られ る。 と くに,高 度成 長期 には農 業 人 口 の減 少 に伴 って,女 性 の家 族従 業 者 と しての労 働 力 人 口が 大幅 に減 少 して い る。
以 上 の ような女性 の労 働供 給 は,景 気 の動 向 と深 く関係 して い る こ とが わか る。
日本 の女性 の労働 力 率の景 気感応 度 の高 さが 日本 の失業 率 の変動 を抑 え,不 況期 に そ の水 準 を低 くしてい る要 因のひ とつ で あ る と指摘 されて きた。 そ こで,具 体 的 に 女性 労働 力 の景 気感 応性 を計測 した ものが,表3で あ る。 ここ に見 られ る ように, わが国 の女性 の労働 供給 は高度 成長期 には低 か ったが,石 油 危機 後の安 定成 長期 に や や上昇 し,そ してバ ブル崩壊 後 に再 び低 下傾 向 を示 して い る。
表3労 働 力 人 口 の 景 気 感 応 性(日 本,女 性) 実質GDP 女性就業者 女性 雇用者
1955‑1973年 1974‑1987年 1988‑2001年 1955‑2001年
0,156 0.46
0,239 0,229
1・i O,973 0.83 0,936
0,554 0,738 0,549 0,603 資 料:総 務 省 統 計 局 『労 働 力 調 査 』
出所:三 谷 直 紀[2003]p.443。
景気 変 動 に対 す る女性 の労働供 給 の変動 の背景 には次 の ような二つ の効 果 を見 る ことが で きる。一つ は 「求 職意欲 喪失効 果」で あ り,も う一つ は 「付加 的労働 効果 」 と呼 ばれ る もので あ る。前 者 の求職 意欲喪 失効 果 とは,景 気 が悪化 した と き,賃 金 の低 下 や雇用 機会 の減少 に よって求 職活動 をあ き らめ る ものが増加 し,労 働 力率 が 低 下す る効果 で あ る。 この効 果 は景 気 の回復期 には逆 に労働 力率 を引 き上 げ るよ う
に作用 す る。
後者 の付加 的労働 効 果 とは,景 気 が悪 化 した とき,世 帯 主 の賃 金 の低 下 や失業 に よって世帯 収入 が減少 し,こ れ を補お う として他 の世帯員,と くに女 性が働 こう と す る効果 であ る。 これ は労働 力率 を上 昇 させ る ように働 く。逆 に,景 気 回復期 に は 労働 力率 を下 げ る ように働 くこ とにな る。 この二 つ の効 果 は,互 い に逆 方向 に労働 力 率 を変化 させ る ように働 き,こ れ らの効 果の どち らが大 きいか に よって労働 力率 の規模 が決 まるこ とにな る。
さて,10数 年 にわ たる 日本経 済 の長期 的 な低 迷 は,日 本経 済 その ものが大 きく変 質 を遂 げ て き た と思 わ れ る。 こ う した な か で 労 働 市 場 に お け る 需 給 構 造 的 も大 き く 変化 を遂 げて お り,こ う した変化 の結果 がす で に失業率 の上昇 と して現 れ て いるわ
けで あ る。 この ような変化 を捉 え るキー ワー ドは何 で あろ うか。最 も基本 的 な もの を一 つあ げ る とすれ ば 「少子 高齢化 」 とい うこ とで あろ う。
少子 高齢 化 とい う現 象 は経済 の さ まざまな面 に影響 を及 ぼすが,労 働力 需給へ の
ern
岸野文雄 失業率の上昇 と所得分配 の変化
影響 は少 な くない。 労働 需 給 に対 す る典型 的 な課 題 として は次 の ような もの が あ る。
そ の一つ の課題 は,労 働力 の供給 構造 の急速 な変化 へ の対 応 をいか に行 うか とい うこ とで あ る。現 時点 にお いて も既 に少 子高齢 化 は進行 中で あ り,女 性 労働 者 の労 働 供給 は重 要 な力 とな ってい る。 しか し,制 度的 に も現状 もその対応 はい まだ十分 に満足 が い くもので は ない。一 国経済 に とって も,労 働者 が その生 活 と仕事 を両 立 させ,し か も技術 革新 ・国際化が 進展 す るなかで 高 い競争 力 を保 つ ような制度 的枠 組 みの構築 は重 要 な課 題 となるはず であ る。
い ま一 つ の課 題 は,若 年者雇用 の 問題 であ る。 わが 国の失 業 問題 で は と くに高齢 者 と若年 労働者 の失業 率 が高 く深 刻 に なってい る。若 年失業 者 の問題 は,単 に現在 の失業者 の雇用 機会 を失 うに とど まらず,仕 事 を通 じた技 能形成 の機i会を失 う とい う意味 で大 きな損 失 と され る。 さ らに技術 革新 の進展 や 国際分業 の なかで,要 求 さ れ る技 能 は ます ます高 度 な もの とな ってい る。 と くに近年急 激 に増加 して い るブ リ ー ターの存在 は,技 能形 成 の機 会 を失 うとい う点 で若年労働 者 に とって も日本経済
に とって も大 きな損失 とい え る14)。
こ こで,経 済 成長 と労働力 の 関係 につい て見 てお こ う。これ には 「人 ロ ボーナ ス」
と 「人 ロ オー ナ ス(重 荷)」 とい う概 念 が あ る'5)。国民 一 人 あ た りGDP成 長率 が 労 働 者一 人 あた りの成長 率 を超 えてい る場 合が 人 ロボー ナス期 であ り,そ の逆が 人 ロ
オーナ ス期 とな る。 この値 を計測 した ものが表4で ある。
表4一 人 あ た り実 質GDP成 長 率 と労 働 者 一 人 あ た りGDP成 長 率(%)
成 長 率
1人 当 た りGDP(A) 労 働 者1人 当 た りGDP(B) (A)‑CB)
1955‑60 47 44 3.5
60‑65 47 46 1.5
65‑70 62 59 2.5
70‑75 16 21 i・
75‑80 26 24 1.8
iti 14 12 2.1
85‑90 25 19 6
90‑95 5 3 2.6
95‑00 5 5 0.3
2000‑‑05 9.2 10.6 一1 .4
50‑10 7 !0.1 一3 .1
10‑15 3.5 8 一4.5
15‑20 4.9 6.9 一2
20‑25 o.s 1.4 一〇 .6
出 所:小 川 直 宏 『毎 日新 聞 』2004.3.11よ り。
一81一
通 信 教 育 部 論 集 第7号(2004年8月)
それ に よる と,70‑75年 のマ イ ナス4.8の 原 因 は オイル シ ョ ック,85‑90年 は プ ラス6と 非 常 に高 く,バ ブル経済 の時期 で人 口の負担 が歴 史上 一一番低 か った時期 で あ る。 表4の 下段 に は将 来の 生産 性 モ デ ル を使 っ て計 算 した もので,2000年 か ら 2025年 までマ イナス にな る ことが推 計 され てい る。将 来予 測で は2010‑15年 はマ イ ナス4.5で 人 口負荷 大 き く,経 済 の足 を引 っ張 る と見 られ る。 これ はベ ビー ブー ム 世代 が定 年期 を迎 え,労 働 力 が大 き く変化 す る時期 にあ たる。将 来推計 はいず れ も マ イナ ス となって いて人 口が重荷 に なる ことが示 されてい る。
この ような変化 のなか で,女 性 労働 につ い ては次 の ような動 向が予想 され る。
これ まで見 た よ うな人 口の減少 が起 こった として も,社 会 の労働 力が維 持 で きれ ば人 ロ オー ナスは 回避 で きる。 そ こで女性 や高齢者 労働 の促 進,外 国人 労働者 の受 け入 れ な どが大 き く脚 光 を浴 びて くる。男女 間の教 育水準 の格 差 が縮 まった ことが 女性労 働力 の増大 に影響 を与 える と予想 され る。 た とえば,大 学 ・短大卒 の女子 の 賃金が 向上 し,30歳 未満 の男 女 の賃金格 差が接 近 して いる。 また,女 性 が結婚す る タイ ミ ングが遅 れ,勤 続 年 数が伸 びて い る。 晩婚化 が相対 賃金 の差 を埋 めて きてい る。
女性 労働 につ いて は常 用労働 者 と ともに,パ ー トタイム労働 者が急 速 に増 加 して い る。 また それ と同時 に,パ ー トタイム労働 者 の なかで も実際 には常用 的 な部分 が 増 えて お り,パ ー トタイム労働 者 の長期勤 続化 がめ ざま し く進 んで い る。パ ー トタ イム労働 者 とい って も,職 場 で は常用 労働 者 と同様 あ るいはそ れ以上 の仕事 を受 け 持 って い る場合 が少 な くない とい った実態 が観 察 され る。
6.豊 か な社 会 と不平 等度
これ まで見 て きた ように,わ が 国 の失業率 は1970年 以 降90年 代初 め まで ゆっ く り と上 昇 を続 けて きた が,そ の変 化 は1%か ら3%程 度で きわめ て安 定 して きた。 こ う した雇 用 の安 定 とと もに所 得分 配 の平 等化 も進 み,「 一億 総 中流」 との意 識 に反 映 されて きた。豊 か な社 会 の進展 は所得 分配 の平準 化 を もた らす ことを期待 させ る もの で あった。 しか し,こ の よ うな好 条件 はいつ まで も妥 当す るわけで は ない。90 年代 に入 って長期 的 な経 済 の停滞 が続 くと,失 業率 の上昇 とともに所 得分 配 の不 平 等化 も歩調 を合 わせ て進展 して きて いる。
そ こで,わ が 国の所得 分配 の平等性 が長 い 目で見 て どの よ うに推移 して きたか を 見て み よ う'6)。
戦後,1950年 代 か ら60年 代 にか け ては,所 得 の分 配 は不 平等化 して きた。高度 成 長期 の初期 にお いて は製造業 に従事 す る人の 数が増 加 し,し か もそ の人 た ちの賃 金 の伸 び率 が高か った ので あ る。就業 構造 の変化 と,製 造業 の生 産性 の伸 びが高 か っ た ためで あ る。 しか し,農 業 や商業 で は生産性 の伸 びは低 く,そ れ に従 事 す る人 の 所得 は相 対 的 に伸 び なか った。 こ う した こ とか ら社 会全体 として所得格 差 に よる分 配の不平 等 度が進行 してい った。
高度成 長 の絶頂期 で あ った1960年 代 にな る と,こ の時期 は所得 の分 配が平 等化 し
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岸野文雄 失業率 の上昇 と所 得分配の変化
てい った。そ れ は次 の よ うな要 因が寄 与 した と見 られてい る。 まず,高 度成長 期 に は主要産 業 であ る製 造業 の賃金 が上昇 し,こ れが 製造 業内 の ほ とん どすべ ての業種 に浸 透す る ことに よって,す べ て の業 種 におい て賃金 が平均 的 に上昇 した と見 られ
るこ とで ある。
また,支 払 い能 力 の点で劣 って いた 中小 企業 が,生 産性 の伸 び に よって高 い賃金 を支払 うこ とが可 能 にな った こ とであ る。 さ らに,こ の時 期 にわが 国の社会 は農村 か ら都 市 へ の労働 移動 もほぼ終 了 して,労 働 人 口 に不 足 が見 られ る ように なっ た。
相対 的 に低 い賃 金で あ った中小企 業 も,や が て高 い賃金 を出す よ うになっ たので あ る。 さ らに,こ の時期 に農 家の兼 業化 が進 み,1950年 代 に低 か った農家所 得 に兼業 に よる所得 が加 わ って,総 所得 の上昇 が み られ た。 こ う した工業化 が進展 す るなか で多 くの雇用者 の所得 が増 加 し,さ らに需要 を拡大 す る とい う好 循環 が続 くなかで, 所得 分 配の平 等度 も進 んで いった。
しか し,1970年 代 の初 め の石 油危機 を契機 に して高度成 長 は終 焉 を迎 え,そ の後 安 定成 長期 に入 った。 この時期 は所 得分 配の不 平等 度 もほ ぼ安 定 的に推 移 した。経 済成長 が比較 的安 定 して推移 した時期 なの で,所 得 分配 も大 きな変化 は起 こ らなか った。
1980年 中頃,わ が 国 はバ ブ ル好 況期 に入 った。 この 時期,土 地 と株 式 の価格 が急 騰 したが,所 得 分配へ の影響 は と りわ け財 産所 得 に表 れて きた。 す なわち,実 物資 産 や金融 資産 を多 く保 有す る人 の財 産所得 が急増 す るの に対 して,そ れ らを保 有 し ない人 の財 産所 得 は相 対 的 に低 下 してい った。 これが所 得分 配 の不 平等 化 の始 ま り であ る。 やが て90年 代 に入 る と突然 バ ブル経済 が崩壊 した。地価 と株価 の急 落 に よ って,総 所得 分配 の不 平 等 に貢 献す る財 産所得 の役割 は下 降 した。 しか し,長 期不 況 へ の突入 によ り,労 働 市場 や賃金 決定 方式 も変化 を遂 げて きた。経 済 に関す る考 え方 も,平 等 志 向の年功 序列 制か らむ しろ不平 等 を容認 す る能 力 ・実 績主 義へ の転 換 が生 じた。 こ う して高収益 企業 と不振 企業 の格 差 も拡 大 し,フ ル タイマー とパー トタイマ ーの賃 金格 差 も広 が った。 これ らは賃金格 差 の拡大 を もた らす大 きな要 因 とな った。 さ らに,高 齢 化 現象 ・単 身家 計 の増 加,家 計 内 で稼得 者(既 婚女性 の勤 労)の 増加 等 の 家 計 構 造 が 大 き く変 化 した こ とが,家 計 所 得 の 不 平 等 を助 長 し
た17)。
以上 の よ うな所得 分配 の不平等 度 を測 る理 論 的 な指標 が 「ジニ係 数」 と呼 ば れる もので あ る。 ジニ係 数 とはoと1と の 間にあ って,そ の値 が小 さい ほ うが平等 度 が 高 く,大 き くなる と不平 等 度が 大 き くな る。 通常,0.4を 超 す先 進 国 は不平 等 度 が 非 常 に大 きい と見 られ る。そ こで わが 国の ジニ係 数 をグラ フで み た ものが 図2で あ
る。 こ こで は1960年 か ら98年 にわた って数年 ご との計数 を とった もので ある。
1961年,不 平 等 度 を 表 す 日本 の ジ ニ 係 数 は0.390で あ っ た 。10年 後 の1971年 に は 0.354に 低 下 した。70年 代 初 め に は石 油 危機 を経 験 したが,経 済成 長 と平 等化 が 進
み,1980年 には0.349と さ らに低 下 した。 しか し,80年 代 に入 る と逆転 し,1990年 には0.433,98年 には0.472ま で上 昇 してい るのが見 られ る。 と くに80年 代 後 半以 降 の急速 な不 平等 度の高 ま りが顕著 となってい る。
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