研究ノート
特別支援教育関係ボランティアの課題と解決の方途
―プロセスレコードの活用の可能性―
創価大学教職大学院 教職研究科教職専攻 土 居 正 博
要 約
本稿は,筆者の学生ボランティアの経験とアンケート調査から学生ボランティアの 現状を明らかにするとともに,課題を見出し,その解決を目指すものである。多くの 学生ボランティアは,実質的に当該校において,「特別支援教育関係ボランティア」
として扱われることが多い。特に,課題として意識されるのは,「発達障害児との関 わりの難しさ」である。本稿では,学生ボランティアが発達障害児と関わる力を高め るための方途として,自らの教育活動をリフレクションするプロセスレコードの活用 の有効性を提案する。
Ⅰ は じ め に
平成19年4月から,「特別支援教育」が学校教育法に位置づけられ,すべての学校 において,障害のある幼児児童生徒の支援をさらに充実していくこととなった。「特 別支援教育」とは,「障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取 組を支援するという視点に立ち,幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し,そ の持てる力を高め,生活や学習上の困難を改善又は克服するため,適切な指導及び必 要な支援を行うもの」1である。そして,「特別支援教育」は特別支援学校や特別支援 学級だけで行われるのではなく,通常学級でも行われることになっている。そこで重 要な役割を果たしているのが,「学生ボランティア」である。
教職を志す大学生,大学院生は,「学生ボランティア」,「学校インターンシップ」,
「学習支援ボランティア」(以下,「学生ボランティア」と表記する)など,さまざま な名称で,小・中学校のボランティアとして教育活動に関わっている。これらの学生 ボランティアにおいては,多くの場合,学校現場において,「特別支援を要する児童」
キーワード:特別支援教育関係ボランティア,プロセスレコード,スーパービジョン
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と関わることが少なくない。特別支援を要する児童に対して,正規教職員等の加配は 望めない。そこで,学生ボランティアや学習支援員などを充てることになる。そのた め,学生ボランティアの多くは,実質的に「特別支援教育関係ボランティア」(この 名称は,文部科学省初等中等教育局特別支援教育課2007による2)として扱われるの ではないだろうか。
筆者自身も約二年半,小学校で「学生ボランティア」を行っている。これまでに3 校の小学校での学生ボランティアを経験しているが,内容はほとんど同じであった。
主な内容は,特別支援を要する児童の在籍するクラスにアシスタントティーチャーと して入り,その対象児童を中心に学習支援をする,というものである。上述の「特別 支援教育関係ボランティア」としての活動である。そこでの一番の課題は,「特別支 援を要する児童との関わりが難しい」ということであった。その理由は様々である。
1,児童との関わりの経験の無さによる不安,2,発達障害教育に対する知識不 足,3,ボランティアという立場,などが挙げられる。この課題及び課題解決は学生 ボランティアに普遍的にあてはまるのではないかと考え,それを立証し,その解決策 を提案したいと考えた。
Ⅱ アンケート調査の結果と考察
1 アンケート調査の目的
「学生ボランティアが学校現場において「特別支援教育関係ボランティア」として どの程度活用されているか。」また,「学生ボランティアとしてどのようなことで悩 み,課題意識を持っているのか。」を把握することを目的とした。教職を志す本学教 育学部生及び教職大学院生計40名に,学校現場における学生ボランティアに関するア ンケートを実施した。
2 仮説
学生ボランティアは,
① 特別支援教育関係ボランティアとして扱われることが多く,特別支援を要する児 童と関わることが多い。
② 特別支援を要する児童との関わりに悩み,問題を抱えることが多い。
3 質問項目
① 学校でボランティアをしているか。(はい・いいえ二択)
② 学校現場で,何と呼ばれるボランティアなのか。(学生ボランティア・学校サ ポーター・学生サポーター・学校インターンシップなど)(複数回答可,複数の学 校に行っている可能性もあるため)
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③ ボランティア内容について。特別支援を要する児童への支援が主なボランティア 内容だったか。(はい・いいえ二択)
④ (③で「はい」と答えた学生に対して)実際にはどのような支援をしていたか。(記 述式)
⑤ ボランティアを通して最も苦労したことは何か。(記述式)
⑥ 指導法や自らの指導の検討などについて大学の教員に相談をしたか。(はい・い いえ二択)
⑦ ボランティアの記録の取り方はどのようにしていたか。また,それを活用して,
次の指導に生かすことはできていたか。(記述式)
⑧ 関わっている児童のケース会議などには出席していたか。(はい・いいえ二択)
⑨ ボランティアを通して自分のどのようなところが成長したと思うか。(記述式)
4 アンケート結果
① 「はい」35人(87%)
「いいえ」5人
教職を志す学生のうち,約87%の学生が小・中学校でボランティアを行ってい る。
② 「学生ボランティア」18人
「学校サポーター」3人
「学校インターンシップ」20人
「その他」3人(複数回答あり)
③ 「はい」25人(71%)
「いいえ」10人
約71%の学生のボランティアが,「特別支援教育関係ボランティア」として扱わ れている。
④ 主な回答
「通常学級のアシスタントティーチャーとして入り,特別支援を要する児童を中 心に学習補助をしていく。」15人(60%)
「完全な個別対応をする。」4人(16%)
「固定の特別支援学級に入る。」2人(8%)
学生ボランティアは,アシスタントティーチャーとして学級に入ることが多い。
⑤ 主な回答
「指示の仕方やコミュニケーションの取り方,人間関係など,どのように関わっ たらいいかが分からなかった。」18人(72%)
「学習指導をどのようにしたらいいか分からなかった。」4人(16%)
⑥ 「はい」6人
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「いいえ」19人(76%)
76%の学生が指導法や自らの指導についてのフィードバックを大学教員から受け ていない。
⑦ 主な回答
「あまり記録していなかった。」6人
「記録の取り方は決まっていなかった。」5人
「日記のように書いていた。」3人(無回答7人)
⑧ 「はい」1人
「いいえ」23人(無回答1人)
1人を除いて,ケース会議等には出席していない。
⑨ 主な回答
「学校現場の実態を知ることができた。」10人(40%)
「児童との関わり方を学んだ,関わり方を考える契機になった。」6人(24%)
「忍耐を学んだ」2人
「ひたすら我慢すること」1人
5 仮説①の検証と考察
(1) 仮説①の検証
仮説①の内容を直接問う質問項目は「質問3」である。質問3では,ボランティア を行っている学生35人のうち,25人が「はい」と答え,71%の学生のボランティアが
「特別支援教育関係ボランティア」として扱われていた。しかし,この約71%という 数字は,筆者の予想より低かった。そこで,「いいえ」と答えた学生の共通項を探り,
次項において,分析・考察を加えた。
(2)「学生ボランティア」と「学校インターンシップ」の違い
質問2と質問3のクロス集計を行った。質問2においては,複数回答可としたた め,「学生ボランティア」にのみ○をつけた学生と,「学校インターンシップ」のみ○
をつけた学生,どちらにも○をつけた学生,の三つのパターンがある。それぞれの学 生が,質問3においてどのように答えたかを集計したのが以下の表である。
表1 「学生ボランティア」と「学校インターンシップ」の内容の違い 質問2で○をつけた箇所 質問3での回答 「はい」の割合
「学生ボランティア」のみ
(11人)
「はい」:10人
「いいえ」:1人 約91%
「学校インターンシップ」のみ
(13人)
「はい」:6人
「いいえ」:7人 約46%
両方(7人) 「はい」:4人
「いいえ」:3人 約57%
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表1のように,「学生ボランティア」の方が,特別支援を要する児童の支援に関わ ることが多いことが明らかになった。反対に,「学校インターンシップ」においては,
特別支援を要する児童への支援を主なボランティア内容とする学生の方が過半数を下 回る結果となった。両方に○をつけた学生に関しては,複数の学校でボランティアを 行っており,呼び名は違うが,ボランティア内容に差は見られないと判断したと推測 できる。
「学生ボランティア」という呼称のボランティアは約9割が特別支援教育に関わる ことになり,「学校インターンシップ」では,その割合が約5割に止まる。ボランティ ア先の学校の事情にもよるが,「学生ボランティア」は,学生が自ら個人的に学校に 働きかけて,ボランティアをするものであり,学校の必要性に応じる内容である。一 方「学校インターンシップ」は,大学と学校の提携のもと,教職を志す学生をボラン ティアとして大学が送り,学校側は学生に学校現場での様々な経験をさせる大学教育 あるいは,教員育成のプログラムとしての意味合いが強い。両者に対する学校側の捉 え方の違いであると考えられる。
今回の調査において,呼称に応じたボランティア内容の違いが見出された。
6 仮説②の検証と考察
(1) 仮説②の検証
仮説②の内容を直接問う質問は「質問5」である。質問5において,72%の学生ボ ランティアが「指示の仕方やコミュニケーションの取り方,人間関係など,どのよう に関わったらいいかが分からなかった。」という回答をしており仮説②が立証され た。また,回答者へのインタビューでも特別支援を要する児童との関わりに悩み,問 題を抱えることが多かった。
(2) 記録の取り方について
記録の取り方については,「あまり記録を取っていなかった」という回答や無回答 が多く,記録を取っている学生ボランティアはほとんどいないことが明らかになっ た。質問10の「学生ボランティアを通して自分のどのようなところが成長したと思う か」という問いに対しての,「学校現場の実態を知った」や「我慢することを学んだ」
といった回答が多かったことから,「経験を得ただけ」のような,漠然とした成長し か感じていないことが分かる。教職を志す学生ボランティアにもリフレクションが必 要であり,そのリフレクションを行なうための記録の取り方の検討が重要性を帯びて くる。千々布は,「教師の暗黙知」は,「リフレクション(反省的考察)」によって獲 得される,としている3。本稿では,学生ボランティアが発達障害児と関わる力を高 めるための方途として,自らの教育活動をリフレクションするプロセスレコードの活 用の有効性を提案する。
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7 アンケート調査から見えてきたこと
① 特に「学生ボランティア」に対して学校から求められていることは,「特別支援 教育関係ボランティア」の役割であること。
② 学生ボランティア」が特別支援教育を要する児童,特に発達障害児との関わりや 対応に苦慮しているということ。そのための具体的な手立てが必要であること。
Ⅲ プロセスレコードを用いたリフレクションとスーパービジョン
1 リフレクション(反省的思考)と暗黙知
リフレクション(反省的思考)とは,自分の考え方がよいかわるいかを吟味した り,批判したりしながら考えを進める思考法のことで,批判的思考とも呼ばれる。本 稿で用いる「リフレクション」という概念は,デューイの経験的教育思想の概念であ る。デューイは教育について「教育とは経験の意味を増加させ,その後の経験の進路 を方向づける能力を高めるように経験を改造ないし,再組織することである。」4と規 定している。教師を「反省的実践家」だとして,教師が自身の力量を高める上でこの 反省的思考が不可欠だと主張したのが,佐藤5である。その是非をここで問うことは しないが,教育実践の場において,リフレクションは重要な位置を占めてきている。
このような,教師にとって重要とされる反省的思考は,教師を志す身である学生ボ ランティアにも必要なものである。また,授業を行わない学生ボランティアにとって はより必要とも言える。それは,授業実践では,教科の知識などの言葉で明示化され た「明示知」も大きな要素となるが,学生ボランティアでは,「児童との関わり」が ほとんど唯一の内容だからである。千々布は,教師が児童とどう接するかという知識 は「暗黙知」から大部分が成り立つ6とも述べている。学生ボランティアにとっての リフレクションの必要性は非常に高い。
2 プロセスレコードとは
リフレクションをする上で有効なのが記録を取ることである。稲垣や佐藤の提唱す る「反省的実践の授業研究」においても,詳細な授業実践記録を基に「反省的考察」
を加えていくスタイルを取っている7。そのため,学生ボランティアがリフレクショ ンを出来るか出来ないかは,記録の取り方が大きな影響を与える。
プロセスレコードは,一般的には看護学実習において,患者―看護者関係における 相互作用やコミュニケーション技術を学習する技法であり,E.ウィーデンバックやE.
ペプロウが提唱した技法である8。看護実習において,学生が実習をリフレクション する方法として看護教育に多く取り入れられている。プロセスレコードは相互作用過 程を明らかにし,リフレクションするために,看護場面を「再構成」する方法を取る。
「再構成」とは,リフレクションを目的として,経験されたことを言語化することで
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ある。学生ボランティアで言えば,児童との関わりの場面を再構成するのである。こ れが,千々布の言う「教師の暗黙知」の獲得に繋がる。学生ボランティアに則して言 えば,児童との,特に特別支援を要する児童との関わり方に関する力量を高めること に繋がると考える。
3 再構成の対象と目的
長谷川,白波は「自分が再構成の対象として振り返ってみたい場面であれば,それ がプロセスレコードに記述する場面となりうるので,特にどの場面か限定されるもの ではない。」としている。同時に,取り上げる場面の動機として以下の10例を挙げて いる9。※( )内は筆者の付加による。
① どうしてこのような結果になってしまったのだろう。
② あの時の患者(児童)の言動が気になる。
③ 私は十分に患者(児童)の思いを受け止めていただろうか。
④ 思っていたよりうまくコミュニケーションが展開したのはなぜか。
⑤ 突然,患者(児童)の思いがけない発言に戸惑ってしまった。
⑥ 患者(児童)の病的体験(パニック状態など)にどう関わったらよかったのか。
⑦ 私のかかわり方はこれでよかったのかだろうか。
⑧ なぜ患者(児童)の思いに気付けなかったのだろうか。
⑨ 初めて患者(児童)が心を開いた応対をしたのはなぜか。
⑩ かかわりのきっかけがつかめなかった自分を反省したい。
プロセスレコードは,コミュニケーションを再構成するものであるから,自然と印 象に残っている場面を取り上げることになる。印象に残る場面というのは,上記の10 の例のどれかに当てはまると思われるので,端的に言えば,「取り上げる場面は印象 に残っている場面であればどの場面でもよい。」と言える。
また,再構成の目的として,長谷川,白波は以下の3点を挙げている10。※( ) 内は筆者の付加による。
① 患者(児童)の言動を読み取る。
② 看護者(自分)の反応の妥当性を確かめる。
③ 看護者(自分)の言動が他者に与えた影響を振り返る。
このように,長谷川,白波の観点に少し手を加えるだけで,教育に応用できる項目 になる。
4 再構成の枠組み
E.ウィーデンバックは,「構成要素を次のような3つに分解することで,看護者が 自分の思考過程における諸要素を分解するために役立ち,また事例の分析がしやすく なる」11と述べている。以下にその枠組みを示す。
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このウィーデンバックの枠組みを教育用にマイナーチェンジしたものを使用した。
以下のものである。
5 プロセスレコード実践例―主観的記録と「ゆがみ」―
筆者が通級指導教室で学習支援員をしていた頃に1年間関わった対象児である。
ADHDの診断を受けている。両親による虐待もあり,友達や教師に対しても暴力的 な言動を取ることが見られた。表4のプロセスレコード実践例1は,対象児の在籍す る小学校を訪問し,久しぶりに本人と再会した時の場面である。
児童の言動やそれに応じて自分の考えたことや自分の言動を,ありのままの形で再 構成していく。プロセスレコードの大きな特徴の一つが「観察者の主観的記録」であ る。ウィーデンバックも「再現された場面は,オリジナルな場面そのものを表すもの ではない」12と注意を促している。再現されたものが事象そのものではなく,観察者自 身の視点に基づいた「ゆがみ」や「偏り」に影響を受けた上で再構成されたものなの である。長谷川,白波は,「再構成して得られる気づきは,改めて言動に意図されて いる『本来のメッセージ』を確かめる必要があることをも示唆している。」と述べて いる13。
特別支援を要する児童には,コミュニケーションが苦手な児童が多く,自分の気持 ちをうまく伝えることができない児童が多い。それゆえに,教師(学生ボランティ ア)が自らの「ゆがみ」や「偏り」を知り,「本来のメッセージ」を踏まえて対象児 と関わることが必要になる。
筆者は,プロセスレコード実践例1の後,本学の教員よりスーパービジョンを受け た。その中で,言葉遣いの悪い対象児に対して憤りの感情を持ちながらも,注意した り叱ったりしなかったことが,ADHDの指導として,よい結果をもたらしたことの 助言・指導を受けた。また,専門的視点から対象児童の障害による経験の少なさや人 間関係などの偏りなどがあることも学んだ。そして,次の3点を確認した。
①対象児は,自分に関心を持っている。
②対象児の言葉に翻弄されない対応のよさ。
表2 E. ウィーデンバックの再構成の枠組み
私が自覚したこと 私が考えたり感じたりしたこと 私が言ったり行ったりしたこと
表3 教育用プロセスレコード
エピソード:(自分が,取り上げた理由) 月 日( ) 時 分〜 時 分
A(児童の言動) B(考えたこと・感
じたこと)
C(私のかかわり・
言動) 分析・考察
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③対象児の好きなこと(ドッチボール)の活用。
表5は,前の関わり(プロセスレコード実践例1)から一週間後の関わりである。
この関わりでは一週間前の関わりとその後のスーパービジョンを通して学んだことを 生かし,対象児の筆者への関心を感じることができ,言葉遣いなどに翻弄されずに冷 静に対応できた。また,ドッチボールを活用して,この後対象児と他の児童を交えて 遊ぶことができた。
表4 プロセスレコード実践例1
エピソード:(自分が取り上げた理由) 5月16日(月) 10時30分〜10時31分
H
との再会の場面。相変わらず言葉遣いが悪かったが,関わり自体はいい雰囲気だった気 がする。なぜ,うまくコミュニケーションをとれたのかを考えてみたいと思ったので取り 上げた。A(児童の言動) B(考えたこと・感
じたこと)
C(私のかかわり・
言動) 分析・考察
②「なんでお前この 学 校 に い ん だ よ?!なんでおお る り(通 級 の こ と)来 な い ん だ よ??」
⑤「あっそう。いつ かさ,ドッチボー ルやろうよ!!」
⑧嬉 し そ う に「う ん!」
③言葉遣いが相変わ らず悪く,お前呼 ばわりされるのは とても腹が立つ。
が,おおるりにも 来てほしい,とい うことなのかな。
⑥Hがこんなに素直 なのは珍しいな。
①「おっ!!
H
く ん!久しぶり!元 気?」久しぶりに 会 っ たH
く ん に 自分から声をかけ た。④「いやー,曜日が 変 わ っ ち ゃ っ て さ。おおるりには 金曜日しか行けな くなっちゃったん だよね。」
⑦「そうだね!やろ う!H君ドッヂ得 意だもんね!」
・言葉遣いの悪さが とても気になり,
腹を立てる自分に 気づく。先生とし て尊敬されたいと いう思いがあるの だと思う。
・言葉遣いに腹を立 てながらも,聞か れたことに答えて いる。おおるりに な ん で 来 な い ん だ,と関心を示さ れたからか。
・⑤で「あっそう。」 と軽く受け流して いて,本当に伝え たかったのは一緒 に遊ぼう,という ことなのではない か。
・私 が
H
か ら 聞 か れたことに素直に 答 え,コ ミ ュ ニ ケーションを取ろ う と し た こ と に よって,Hの「一 緒に遊びたい」と いう気持ちを引き 出すことができた のではないか。−179−
プロセスレコードにおいて,特別支援を要する児童との関わりを再構成すること で,自分の関わりを「主観的に」見つめなおし,自分の「ゆがみ」や「偏り」を発見 したり,児童の言動を改めて読み取ったりすることができる。また,「客観性」と発 達障害に関する「専門知識」が不足する。そこで,筆者はプロセスレコードによる振 り返りに,スーパービジョンを組み込むことを提案する。
6 スーパービジョンの提案
(1) スーパービジョンとは
スーパービジョンとは,平たく言えば,指導・助言を受けることである。学生ボラ ンティアで言えば,実態の把握,指導計画の作成,支援の内容や実施の方法,支援の 振り返り等の指導を受けることである。既に,学生ボランティアに取り入れている大 学もある。大学と市が連携を取り,学生を特別支援教育の支援員として派遣し,その 学生が見通しを持って学習支援を行っていくための指導,振り返り等を大学教員が 行って成果を出しているとのことである。(早稲田大学・今井研究室)14学生ボラン ティアは,特に特別支援教育を専門とする大学教員から指導を受けることが望まし い。
表5 プロセスレコード実践例2
エピソード:(自分が取り上げた理由) 5月23日(月) 10時00分〜10時05分 前の関わりから一週間後の関わり。同じような話しかけ方をしてきた
H
が印象的で,取 り上げた。A(児童の言動) B(考えたこと・感
じたこと)
C(私のかかわり・
言動) 分析・考察
①「なんでお前この 教 室 に い る ん だ よ!!?」
④「なんでだよ!!
どい!!なんでい る ん だ よ!ど い!!」と騒ぎ出 す。
⑦「う ん。ド ッ ヂ ボールね!!」
②「お前」は許せな いけど,Hから話 しかけてきたな。
⑤以 前 と 同 じ よ う に,関わりたいと い う 表 れ な の か な。
⑧すごく素直だな。
③「Hくんたちと一 緒に勉強させても ら お う と 思 っ て。」
⑥「いいじゃんか。
それよりさ,20分 休み一緒に遊ぼう よ!!」
⑨「よし!みんなで 遊ぼう!!」
・先週の声のかけ方 と同じであるが,
腹 を 立 て る よ り も,気持ちを受け 止めようという気 持 ち に な っ て い る。冷静に答えら れた。
・関わりたいという 気持ちを受け止め てやることに集中 した。
・先週の約束を覚え て い る こ と を ア ピールし,Hも喜 んでいる。
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(2) スーパービジョンの実際
筆者は,プロセスレコードの検討を本学の特別支援教育を専門とする指導教官から 受けるというスタイルをとった。特別支援を要する児童の発達障害名や特性などを共 有しながら,自らの関わりや言動に検討を加えていく。その中で得たことは二つあ る。
一つめが自分の「ゆがみ」に気付かされた,ということである。障害名で児童の特 性を決めつけていることを指摘された。「主観的な」プロセスレコードを自分の目か ら「主観的に」自分及び児童を見つめている段階では全く気付けなかった点である。
自分の「ゆがみ」や「偏り」に,「客観的な」指摘によって気付かされた。スーパー ビジョンの客観性は,プロセスレコードの記録者の「ゆがみ」や「偏り」の発見に大 きく寄与する。
二つめが「確かな専門知識」である。経験に裏打ちされた確かな発達障害児に対す る知識理解の必要性である。「暴力的な児童からは距離を取ること。」や「一日に一つ やりきらせることができれば十分で,それ以上欲張りはせず成就感を与えること。」 など,実際のケースに応じて,効果のある対応法を学ぶことができた。自分一人でプ ロセスレコードを書き,振り返っていた時と比べてはるかに正確な対応が出来るよう になった。
このように,スーパービジョンは,プロセスレコードでの一人でのリフレクション に「客観性」と「発達障害に対する専門知識」を付け加え,学生の関わりの軌道修正 を行うのである。それは学生にとってのみならず,学校現場に還元できるという点に おいて,児童や学校にとってもプラスであることは言うまでもない。しかし,大学教 員が全学生ボランティアのスーパービジョンを受け持つことはあまり現実的ではない かもしれない。しかし,学生同士で行うピア・スーパービジョンや集団で行うグルー プ・スーパービジョンもある。今後,これらとの併用も考えていきたい。
Ⅳ お わ り に
学校現場で,学生ボランティアとして発達障害児と関わるようになって約二年半が 経つ。発達障害児の持つ可能性には日々驚かされている。能力の凹凸が人より大き く,学校という集団の中ではその凹の部分(コミュニケーションなど)が目立ってし まいがちだが,学生ボランティアは,その意識次第では,対象児と深く関わって凸の 部分を発見できる貴重な存在だと感じている。また,学生ボランティアにとっても,
発達障害児と関わること,関わりを振り返りながらその力を高めていくことは,将来 教師になった時に必ず生きると考える。
本研究を進めるにあたって,創価大学教職大学院加藤康紀准教授には多大な尽力を いただいた。この場を借りて感謝の意を表する。また,学生ボランティア先の小学校
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の関係者やアンケート調査に協力して下さった創価大学教職大学院生と学部生に感謝 する。そして,何より関わった児童に最大の感謝をしつつ,今後も研究を進めていく 所存である。
引 用 文 献
1 文部科学省『特別支援教育の推進について』2007
2 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課『特別支援教育関係ボランティア活用事例 集』2007
3 千々布敏弥『教師の暗黙知の獲得戦略に関する考察―米国における優秀教員認定制度に 注目して―』国立教育政策研究所紀要 第134集
p.
111―p.126 2005p.
1184 ジョン・デューイ 松野安男訳『民主主義と教育(上)』岩波文庫 1975
p.
127 5 稲垣忠彦・佐藤学『授業研究入門』岩波書店 1996p.
1136 上掲論文3
p.
112 7 上掲書5p.
1318 宮本真巳編『援助技法としてのプロセスレコード 自己一致からエンパワメントへ』精 神看護出版 2003
p.
39 長谷川・白波『自己理解・対象理解を深める プロセスレコード』日総研出版 2001
p.
20―p.2110 上掲書9
p.
12―p.1311
E.
ウィーデンバック 外口玉子,池田明子訳『臨床看護の本質―患者援助の技術』現代 社 1973p.
11012 上掲書
p.
108 13 上掲書9p.
1014 今井正司『学習支援員活用マニュアル』柘植雅義監修 阿部利彦編『教師の力で明日で きる特別支援教育』明治図書 2007
p.
119―p.120参 考 文 献
1 庭野賀津子編『特別支援教育支援員ハンドブック』日本文化科学社 2010
2 山口美和『教師の自己リフレクションの一方法としてのプロセスレコード:看護教育お よび看護理論との関連から』信州大学教育学部紀要 112巻 2004
p.
133―p.144−182−