中世末〜近世の貿易陶磁流通の課題
著者 佐々木 達夫
雑誌名 金大考古
巻 58
ページ 21‑22
発行年 2007‑10‑26
URL http://hdl.handle.net/2297/7179
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中世末~近世の貿易陶磁流通の課題
佐々木達夫 (金沢大学)
平成 18 年 9 月、 日本貿易陶磁研究会が主催した第 27 回研究集会が東京で開催された。 前回の研究集会テー マは遺跡出土の一括遺物であり、 消費遺跡でなく流通過 程を示す一括遺物の存在が話題となった。 それを受けて、
不明点が多い中世末から近世の生産地と消費地をつなぐ 商人活動に伴う貿易陶磁が、 新たな研究テーマに選ばれ ることとなった。 第 27 回研究集会の研究テーマは、 商品 の陶磁器を運び保管し販売した流通状態の検討となった。
史料から流通の組織や制度、 商人と船員、 多種多様な 生活雑貨のなかに積まれた陶磁器、 船の経路を探る。 商 品を積んで沈んだ船の陶磁器年代や種類の組み合わせ、
目指した港を考える。 商品を保管した港町で災害に遭った 倉庫、 火災で焼けた町の小売り茶碗屋の様相をみる。 タイ 陶磁壺からみる容器としての利用や転用の様相を探る。 中 国陶磁器に一時的に加わる肥前磁器の海外流通の意味を 考える。 こうした課題を明らかにしたいというテーマ設定で ある。
流通に関する文献研究では、 中国を中心とする海上貿 易のなかに占める日本の役割とさまざまな貿易品のありか たを知りたい。 戦国末~江戸初期に行われた朱印船貿易、
東南アジアに定住した日本人貿易者の鎖国以後の活躍、
その後の近世長崎貿易など、 日本とアジア双方の史料か ら陶磁器流通の実態と背景を描きたい。 中国史料から明 清時代に華人とくに福建商人が中国沿海を船で生活品を 積んで往来し、 船の安定のため陶磁器を底荷に積む状態 が推定できる。 船主と船員、 船の大きさ、 積荷価格、 出 港地や到着港なども話題としたい。 中国沿海の船は 20 名 ほどが乗り、 中国から海外向けの船は 100 名ほどと規模が 大きいが、 積荷の違いもあるのか。 清代の粗質な福建染 付が世界中の遺跡で見られるのは、 福建商人の活動を反 映しているのか。 中国船はシンガポールまでの範囲、 とく に中国沿海を往来したが、 出土陶磁器はそれを反映して いるのか。
長崎から輸出された陶磁器は華人とオランダ人の商人が 扱い、 オランダ東インド会社の文字記録から貿易状態がわ かる。 オランダ側の脇荷であっても日本では正規輸出品と 数える。 日本で陶磁器が記されるのは中国船の漂着、 幕 府提出書類などの例外的なものであり、 中国史料でさえ積
荷の陶磁器が記載されるかどうかは、 役人個人によるとこ ろが大きい。 東インド会社の詳細な記録と同様の史料を、
中国 ・ 日本に求めることはできない。 史料が偏在するなか で、 ヨーロッパと東アジアでは研究方法に違いが生まれる。
東南アジアとヨーロッパに広がる中国陶磁器は、 福建磁器 と景徳鎮磁器に分かれる。 これは船が福建を出港するか 広東を出港するかという違いであるのか。 港によって積荷 の種類が変わるのか。 東南アジアの中継地で積荷が混じ るのか。 幹線的な航路を利用する各国東インド会社の長 距離交易船は積荷入れ替えの拠点港があるのか、 地域内 交易船は各地で頻繁に積荷を入れ替えるのか。 福建磁器 に景徳鎮磁器が混じらないのは景徳鎮磁器が内陸経路で 福建より南の広東から輸出されたためか。 肥前磁器は日本 国内で中国磁器に替わるが、 海外では中国遷界令の時代 にさえ景徳鎮磁器が多く出土し、 肥前磁器は少ない。 日 本に入る中国磁器に民窯製品が多いのは日本人の好みの 反映か、 あるいは価格のためか。
陶磁器を運んだ船の船籍や商人をどのように判定するの か。スペイン船サン・ディエゴ号は中国磁器、タイ、ミャンマー 壺、 スペイン土器など各地の陶磁器を積んで沈んだが、
積荷のみから船籍を推定するのは難しい。 中国船で、 船 主が江南人で船員は福建人あるいは外国人の場合もある。
東南アジアに定住した日本人貿易者の鎖国後の活躍や長 崎港から積み出された肥前磁器の出土割合、 日本・中国・
オランダの史料と遺跡出土磁器の比較は注目される。 肥 前磁器を運んだのは日本船か、 オランダ船か、 中国船か。
東南アジアへ肥前磁器を運んだ日本船は鎖国後に活動を 停止し、 オランダと中国が運んだか。 スペインの植民都市 マニラまで華人が運んだ肥前磁器は、 スペインのガレオン 船でメキシコに運ばれたこともマニラ遺跡出土品で見えてき た。
16 世紀末〜 17 世紀前半の中国磁器とタイ陶器の組み 合わせと流通は、 南蛮船が活躍したマニラと堺の遺跡、 そ れらの繁栄時期と同時代の小値賀島山見沖海底遺跡から 推定される。 南蛮船が中国磁器とタイ陶器壷を大量に積ん だことはスペイン船サン ・ ディエゴ号の出土遺物から明らか で、 本拠地マニラでは 16 世紀末~ 17 世紀前半の中国磁 器がタイ陶器壷とともに大量に出土する。 大壺はそれ自体 が商品の場合の他に、 内容物を入れる容器や船員用の水 容器として使われ転売されたが、 流通圏を考えるのに有用 である。 中国壺とタイ壺の利用は広範囲にみられ、 組み合 わせて流通した。 堺から出土したタイ壺の硫黄などの中身
金大考古 58:21-22, 2007 佐々木 中世末~近世の貿易陶磁流通の課題
− − は堺で新たに入れられたのか、 タイから運んだときから入っ ていたのか。
17 ~ 18 世紀の日本の磁器流通は中国磁器から肥前磁器 へと交替するが、 その具体的な状態と流通を示す遺跡を 取り上げる。 長崎は中国磁器を輸入する一方、 日本の磁 器を積み出す港であった。 万才町遺跡の寛文大火整理土 壙、 出島和蘭商館の寛政火災に伴う整理土壙など、 流通 を具体的に示す倉庫や蔵から出土した陶磁器を検討する。
中国 ・ 日本の磁器を海外に流通させた担い手である唐船
(中国ジャンク船) や紅毛船 (オランダ船) の活躍を遺跡 出土品や博物館コレクションの陶磁器から検討し、 日本国 内の流通品と比較する。 肥前磁器の主要な消費地の一つ ベトナム、 陶磁器の集散地であったインドネシアのバンテ ン、 海商の鄭成功一派の本拠地台湾、 こうした遺跡の新 資料を、 唐船で流通を担った商人を背景に紹介する。
18 世紀以降の磁器普及については、 肥前磁器が普及 していく過程の流通に関わる遺跡の出土状況を紹介する。
枚方宿遺跡は年代が推定できる火災層から同種類の碗、
皿、 仏飯器、 香炉などが出土し、 町人に販売する小売店 としての茶碗屋で、 淀川水運の肥前磁器流通の一面を語 る。 大坂の佐賀藩蔵屋敷遺跡や広島藩蔵屋敷遺跡は藩 が経営する流通を伝えるが、 近世最大の消費地である江 戸における陶磁器流通の様相も、 陶磁器の出土状態から 蔵の存在を復元することが可能となった。
消費遺跡からは大量の陶磁器が出土し、 層位的あるい は一括品として出土する場合もある。 それらが生産地から どのように運ばれたか、 その流通過程を伝える遺跡の具体 的な様相を探ることが今回の研究テーマである。 しかし、
港湾都市でも倉庫と推定できる遺跡はきわめて少ない。 商 品としての陶磁器が流通する状態を示す遺跡を報告書と 出土品の検討のなかで再発見し、 商人の姿を浮かび上が らせ、 様々な課題に迫る発表が期待されている。
連 絡
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264-5327,5328,5950 FAX(076)264-5362 2007 年 10 � 26 �10 � 26 �� 26 �
8 月 13 日 , 勝山市平泉寺出土陶磁器見学 (勝山市史蹟 整備課 , 松村英之氏案内)。
10 月 18 日 , 考古学研究室見学会。一乗谷朝倉氏遺跡(資 料館副館長 , 岩田隆氏案内)、 国史跡王山遺跡 ・ 鯖江市 資料館 (鯖江市文化財課副課長 , 前田清彦氏案内)
◆ 2007 年 8 月 9 日 , 研究室主催講演会 「崖面に掘られ た 6 ~ 7 世紀の横穴―墓 ・ 寺院 ・ 住居 ・ 倉庫―」 金沢 大学附属図書館 AV 室
佐々木達夫 (金沢大学) 「バーミヤーンの石窟 ・ 仏教修 行と生活住居の横穴」。 伊藤雅文 (石川県埋蔵文化財セ ンター) 「北陸横穴墓の諸問題」。 中本寛 (中本鉄工総 務財務部長) 「石川県鳳凰山横穴墓群の特殊性」。 池上 悟 (立正大学教授) 「日本横穴墓の特質」
8 月 10 日 , 研究室見学会。 高岡市城ヶ平馬場横穴墓群 , 江道横穴墓群 ( 高岡市文化財課 , 栗山雅夫氏案内 )。
金沢市大乗寺前田家墓地見学。
鯖江市文化財課副課長、 前田清彦氏
石川県埋蔵文化財センター , 伊藤雅文氏。 立正大学文学 部教授、 池上悟氏
金大考古 58:21-22, 2007 佐々木 中世末~近世の貿易陶磁流通の課題