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英国の高等教育改革と変化する大学図書館 呑海沙織 Higher education reform and changing university libraries in the United Kingdom. Saori Donkai 概要 : ラフバラ大学情報図書館学部図書館情報統計部による大学

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英国の高等教育改革と変化する大学図書館

呑海 沙織

Higher education reform and changing university libraries in the United Kingdom. Saori Donkai

概要: ラフバラ大学情報図書館学部図書館情報統計部による大学図書館の年次調査“LISU Annual Library Statistics”の統計数値を中心に,1985 年以降の英国における大学図 書館の変化について考察を行う。また,英国の大学図書館を取り巻く環境の変化のひ とつとして高等教育改革を取り上げ,あわせて論じる。

キーワード: 高等教育改革,大学図書館,英国

Keywords: Higher education reform, University libraries, United Kingdom

1. はじめに

高等教育の急激な拡大,情報通信技術の発達に よるネットワーク化やメディアの多様化など,英 国の大学図書館を取り巻く環境は,大きく変化し ている。 本稿では,統計資料をもとに,1985 年以降の大 学図書館の変化について数値から考察を行うと共 に,英国の高等教育改革とあわせて論じる。

2. 使用する統計について

本稿における高等教育及び大学図書館に関する 統計数値は,主として“LISU Annual Library Statistics”のデータを使用している。“LISU Annual Library Statistics”は,毎年,ラフバラ 大学情報図書館学部図書館情報統計部より発行さ れている統計資料である。それぞれ過去 10 年間 の統計数値が掲載されているが,過去の数値は補 正されているため,同年度の統計数値であっても 掲載年によって異なることがある。本稿では基本 的に,1985 年度から 1991 年度については“LISU Annual Library Statistics 1997” 1,1992 年度

については“LISU Annual Library Statistics 2004”2,1993 年度については“LISU Library

Statistics 2005”31994 年度から 2004 年度につ 京都大学医学図書館

いては“LISU Library Statistics 2006”4の統計

数値を使用する。

英国における高等教育は,この 20 年間,大き く変化しているが,高等教育の図書館に関する統 計を扱う機関についても変化しており,“LISU Annual Library Statistics”の統計数値の情報源 は , 大 学 財 政 審 議 会 (Universities Funding Council: UFC ) に よ る 『 大 学 統 計 記 録 (Universities Statistical Record)』,高等教育統 計 局 (Higher Education Statistics Agency: HESA ), 国 立 ・ 大 学 図 書 館 員 常 任 協 議 会 ( Standing Conference of National and University Librarians: SCONUL),ポリテクニ ク 図 書 館 員 協 議 会 (Council of Polytechnic Librarians: COPOL),高等教育カレッジ学習資 源 グ ル ー プ ( Higher Education Colleges Learning Resources Group: HCLRG)と,年代 によって異なっている。尚,1950 年に設立された 国立・大学図書館員常任協議会(SCONUL)は, 1994年にポリテクニク図書館員協議会(COPOL) を吸収合併し,更に2000 年,高等教育カレッジ 学習資源グループ(HCLRG)と合併し,名称を 大学・カレッジ・国立図書館協会(Society of College, National and University Libraries: SCONUL)と変更している。この大学・カレッジ・ 国立図書館協会(SCONUL)の設置に伴い,高等

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教育機関の図書館に関する統計データが一元管理 されることとなった。

3. 英国の高等教育機関

はじめに,英国における高等教育を概観するこ とによって,大学図書館の設置母体である高等教 育機関についての理解を深めると共に,本稿にお ける大学図書館の定義を明らかにする。 3.1. 高等教育の規模 英国において,高等教育機関で高等教育を受け る学生は,現在200 万人を超える。継続教育カレ ッジで高等教育を受ける学生を合わせると,220 万人が高等教育を受けている計算になる。高等教 育機関で高等教育を受ける学生の 87.3 パーセン トが国内からの学生であり,4.2 パーセントが欧 州共同体から,8.5 パーセントがその他の国から の学生である5 高等教育機関は全国に,169 機関設置されてい るが,表1 のとおり,78 パーセントがイングラン ドに設置されている。 高等教育機関全体の収入は155 億 6,200 万ポン ドであり,高等教育財政審議会からの収入が 39 パーセント(約61 億ポンド),他の政府機関から の収入が22 パーセント(約 34 億ポンド,授業料 や産業界からの収入,寄付などが 39 パーセント (約 61 億ポンド)となっており,政府からの財 政補助は約61 パーセントを占めている。 3.2. 高等教育資格 2001 年,高等教育品質保証機関(Quality Assurance Agency for Higher Education: QAA) によって,「イングランド,ウェールズ及び北アイ ルランドにおける高等教育資格のフレームワーク

( The framework for higher education qualifications in England, Wales and Northern Ireland: FHEQ)」6が発表された。これは,イン グランド,ウェールズ及び北アイルランドの高等 教育資格の枠組みを示したものである。 表2 のように高等教育資格は,1)サーティフィ ケート・レベル(Certificate level),2)中級レベ ル(Intermediate level),3)優等レベル(Honours level),4)修士レベル(Masters level),5)博士レ ベル(Doctoral level)の 5 段階に分類されている。 尚,優等学位とは,専門的で高度な水準の学士学 位とされるが,実際には「両者の相違は課程の内 容によるものではなく,修了試験の結果に応じて, 所定の成績を収めた者に優等学位が,優等学位の 水準に達していない者に普通学位が授与されるの が一般的」7であるとされる。 スコットランドにおいては,別途「スコットラ ンドにおけるクレジット及び資格のフレームワー ク(Scottish Credit and Qualifications

Framework; SCQF)」8が定められている。スコ ットランドにおいては,高等教育資格だけでなく, 職業資格等をも包含した枠組みが提示されている。 SCQFにおける資格は12段階に分けられ,高等教 育資格にあたる部分は下記のように,「SCQF7」 から「SCQF12」とされている9 1)SCQF7:全国高等サーティフィケート (Higher National Certificate),高等教育サ ーティフィケート(Certificate in Higher Education)

2)SCQF8:全国高等ディプロマ(Hihger National Diploma),高等教育ディプロマ (Diploma in Higher Education)

3)SCQF9:普通学位(Ordinary Degree),卒 後ディプロマ・サーティフィケート

(Graduate Diploma / Certification)

大学 高等教育カレッジ 計 イングランド 91 41 132 北アイルランド 2 2 4 スコットランド 14 6 20 ウェールズ 9 4 13 計 116 53 169 表1 英国の高等教育機関数

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4)SCQF10:優等学位(Honours Degree),卒 後ディプロマ・サーティフィケート

(Graduate Diploma / Certification) 5)SCQF11:修士学位(Masters) 6)SCQF12:博士学位(Doctorates) 3.3. 高等教育機関の種類 英国の高等教育機関は,歴史的背景や規模など が大きく異なるため一概には語ることができない が,現在,下記のように大きく3 つに分類するこ とができる。 A. 古い大学(Old universities) 1992 年より前から,大学としての法人格を有す る高等教育機関を指す。かつて,大学助成金委員 会(Universities Grants Commission: UGC)よ り助成を受けていた大学と言い換えることができ る。 英国における大学の転機は,1992 年の継続・高 等教育法にみることができる。継続・高等教育法 制定以前,英国の高等教育機関は,大学セクター と,ポリテクニク等の非大学セクターから成る二 元構造(binary system)を有していた。クラー ク(B.R. Clark)が,1976 年の著書『中等後教育 の 構 造 ( Structures of Post-Secondary Education)』10において,欧米の中等後教育を1) ヨーロッパ大陸型,2)英国型,3)米国型,の 3 種 に分類しているように,当時,この二元構造は英 国独特の高等教育構造として認識されていた。 しかし,1992 年の継続・高等教育法により,一 定の条件を持つポリテクニク及び高等教育カレッ ジが大学としての法人格を持つに至り,学位授与 権を与えられることとなった。結果として,これ まで英国高等教育の特徴であった二元構造は一元 化され,大学数は倍増した。また,それまで大学 の補助金配分機関であった大学財政審議会補助金 (Universities Funding Council: UFC)11とポリ

テクニク等の補助金配分機関であったポリテクニ ク ・ カ レ ッ ジ 財 政 審 議 会 (Polytechnics and Colleges Funding Council: PCFC)が,高等教育 財 政 審 議 会 ( Higher Education Funding Councils : HEFCs)として一元化された。継続・ 高等教育法以前は,基礎的学問分野を中心に伝統 的な教育・研究を行う大学セクターと,応用的学 問分野を中心に主として高度な職業訓練を目的と した教育・訓練を行うポリテクニク等の非大学セ レベル 資格の例 1 サーティフィケート・レベル (Certificate level) 高等教育サーティフィケート

(Certificates of Higher Education)

2 中級レベル

(Intermidiate level)

・普通学士学位(ordinary [non-Honours] degree) ・基礎学位(Foundation degree)

・高等教育ディプロマ(Diplomas of Higher Education) ・他の高等ディプロマ(other Higher Diploma)など 3 優等レベル

(Honours level)

・優等学士学位(Bachelors degrees with Honours) ・卒後サーティフィケート(Graduate Certificate) ・卒後ディプロマ(Graduate Diploma) 4 修士レベル (Masters level) ・修士学位(Masters degrees) ・大学院サーティフィケート(Postgraduate Certificates) ・大学院ディプロマ(Postgraduate Diplomas) 5 博士レベル

(Doctoral level) 博士学位(Doctorates)

表2 イングランド,ウェールズ及び北アイルランドにおける高等教育資格のフレームワーク

“The framework for higher education qualifications in England, Wales and Northern Ireland - January 2001”及び吉川裕美子(2001)「イギリス高等教育の学位統一への動き:高等教育資格枠組み導 入の背景、概要、展望」学位研究,14,2001.3,pp.29-54 より作成

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クターは,いわば役割分担していたといえる。し かし,継続・高等教育法以降,この相互補完的な 役割分担が薄れ,同じ条件下で評価され,資金を 獲得するという競争環境の下におかれることにな ったということができるだろう。 このように,高等教育界に大きな変化を与えた 継続・高等教育法であるが,「古い大学(old universities)とは,同法が制定された 1992 年よ り前にすでに大学としての法人格を持っていた高 等教育機関を指すため,” Pre-1992 universities” と呼ばれることもある。オックスフォードやケン ブリッジなどの伝統的大学の他,1960 年代初頭に 設立された大学,オープン・ユニバーシティを含 むが,具体的には,英国の高等教育に関するポー タル・サイト「英国高等教育研究機会提供サイト ( Higher Education and Research Opportunities: HERO )」 12 の “ Pre-1992

universities”リスト13で確認することができる。 「古い大学」には高等教育界で発言権が大きい大 学も多く,トップレベルにある 19 の研究大学で 組織されるラッセル・グループ(Russell Group) 14や比較的規模の小さい研究大学で組織される 1994 グループ(1994 Group)15が存在し,高等 教育界で主導的な役割を果たしている。 近年,大学が合併するケースもみられ,例えば 2004 年度には,ビクトリア・ユニバーシティ・マ ン チ ェ ス タ ー ( Victoria University of Manchester ) が UMIST ( University of Manchester Institute of Science and Technology)と,ウェールズ医科大学(University of Wales College of Medicine)がカーディフ大学 (Cardiff University)と統合したため,古い大学 に属する大学の数は減少している。 B. 新しい大学(New universities) 1992 年の継続・高等教育法によって大学として の法人格を取得した大学である。主として前身が ポリテクニクや高等教育カレッジであり,1992 年あるいはそれ以降に大学としての法人格を取得 した大学を指す。現在でも,規模の大きな高等教 育カレッジが大学としての法人格を取得するケー スがみられるので,この分類に属する高等教育機 関数は増加しつつある。例えば,2003 年度に3機 関,2004 年度に3機関が,新しく大学として再編 成されている。 尚,「新しい大学(new universities)」という 言葉は,1960 年代に設立された大学を指すことも あるが,本稿では“LISU Library Statistics 2006”

16の定義に従い,1992 年以降に大学としての法人 格を取得した大学を指すものとする。 C. 高 等 教 育 カ レ ッ ジ ( Higher education colleges) 高等教育財政審議会によって助成を受けている 高等教育機関であり,古い大学,新しい大学以外 の機関をいう。正式に大学としての法人格をもた ない高等教育機関である。 3.4. 本稿における大学図書館の定義 英国の高等教育機関は,1992 年の継続・高等教 育法以前から大学としての法人格を取得していた 「古い大学」,1992 年以降に大学としての法人格 を取得した「新しい大学」,それ以外の高等教育期 間である高等教育カレッジに分類することができ るが,本稿における「大学図書館」は,「古い大学」 及び「新しい大学」に設置されている図書館に限 定するものとし,高等教育カレッジに設置されて いる図書館を含まないものとする。

4. 英国の大学図書館の変化

4.1. 大学図書館数の増加 1992 年の継続・高等教育法による高等教育の一 元化に伴い,大学図書館数も1992 年を境に急増 している。図1 は,1985 年から 2004 年にかけて 大学図書館数の変化を表したグラフである。1992 年より「新しい大学」に設置される図書館が大学 図書館としてカウントされることにより,大学図 書館数は2 倍以上に増えている。尚,「古い大学」 の大学図書館も1992 年を境に 45 から 75 に増加 しているが,これは,ロンドン大学及びウェール ズ大学のカレッジに設置されている図書館を,そ れぞれ一館としてカウントすることによる変化で あり,実質的な増加ではない。 この背景にあるのは,1980 年代後半以降の高等 教育拡大政策である。1987 年の高等教育白書『高 等教育:新しい枠組み(Higher Education: A New

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Framework)』17,及び翌1988 年の教育改革法に

おける教育に関するグランドデザイン構築の志向 性の強化,1991 年の高等教育白書『高等教育:新 た な 枠 組 み (Higher Education: A New Framework)』18,及び翌1992 年の継続・高等教 育法における高等教育の一元化による高等教育の 拡大は,英国における高等教育拡大を促した。 1996 年には,高等教育を取り巻く急速な環境の変 化に対応した将来の高等教育政策の方向性を検討 することを目的とし,高等教育調査検討委員会 (National Committee of Inquiry into Higher Education)が設置され,1997 年 7 月,同委員会 によって,報告書『学習社会における高等教育 (Higher Education in Learning Society)』19

通称,『デアリング報告』が発表されている。デア リング報告では,「今後20 年間に英国は生涯学習 社会を創設する」ことを目的に,英国高等教育の 就学率を 45%に掲げており,また,「中央政府及 び地方政府が高等教育機関と一定の距離を保つ伝 統を維持し,この原則を北アイルランドにも拡大 する」としているように大学の自治を尊重する一 方で,グランドビジョンの中での高等教育の効率 的運営を強調している。 図2 は学生数(FTE)20の増加を表したグラフ である。学生数は,1985 年から 1991 年にかけて, 33 万人から 44 万人と増加しているが,1992 年の 継続・高等教育法を境に,一気に 2 倍以上の 92 万人に膨れ上がっている。その後も,学生数は増 加の一途をたどり,2004 年には 152 万人となっ ている。 0 20 40 60 80 100 120 140 new universities 0 0 0 0 0 0 0 39 42 42 42 42 42 42 42 42 43 42 45 48 old universities 45 45 45 45 45 45 45 75 75 75 72 72 69 67 67 67 67 68 68 66 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 図1 英国の大学図書館数の変化 0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 1,400,000 1,600,000 1,800,000 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 図2 英国の学生数(FTE)の変化

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進学率でみると,1985 年に 22.9 パーセント21であったのが,2002 年に 63.1 パーセント22まで増加して いる。このような進学率の急増の大きな要因としては,高等教育拡大政策に伴い,入学該当年齢(18 歳) の進学者だけでなく,21 歳以上の成人学生が急増したことをあげることができる23 4.2. 学生数の増加とプロフェッショナル・ライブラリアン数 では,学生数の増加に伴って,プロフェッショナ ル・ライブラリアンの数は増加しているのだろう か。 図3 は,プロフェッショナル・ライブラリアン の数の変化をグラフにしたものである。英国にお けるプロフェッショナル・ライブラリアンとは, 英国図書館協会(Library Association1: LA), 2002 年 4 月以降は,図書館・情報専門家協会 ( Chartered Institute of Library and Information Profession: CILIP ) の 公 認 会 員 (Chartered member)となることが必要である。 古い大学では,1985 年に 1,361 人であったプロフ ェッショナル・ライブラリアンは,2004年に2,000 人と 1.5 倍に,新しい大学では,1992 年の 988 人から2004 年の 1,404 人と 1.4 倍に増加してい る。確かに増加はしているが,学生数の増加の割 合に応じたものとはなっていない。 図4 は,プロフェッショナル・ライブラリアン ひとり当りの学生数の変化を表したグラフである。 古い大学においては,プロフェッショナル・ライ ブラリアンひとりあたりの学生数が,1985 年に 245 人であったのが,2004 年には 412 人と 19 年 間で約1.7 倍に増加している。新しい大学におい ては,1992 年に 421 人であったのが,2004 年に は493 人と,1.2 倍に増加している。 図3 プロフェッショナル・ライブラリアンの数の変化 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 old universities 1,361 1,335 1,307 1,284 1,295 1,320 1,336 1,710 1,800 1,786 1,830 1,800 1,830 1,840 1,890 1,920 1,900 1,940 2,050 2,000 new universities 988 1,053 1,113 1,159 1,198 1,221 1,249 1,255 1,247 1,278 1,261 1,325 1,404 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 0 100 200 300 400 500 600 old universities 245 255 265 282 295 307 330 298 306 344 323 396 395 400 395 390 413 423 415 412 new universities 421 434 465 466 460 459 488 483 481 480 507 512 493 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 図4 プロフェッショナル・ライブラリアン一人あたりの学生数の変化

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学生数の伸び率とライブラリアン数等の伸び率 の 不 均 衡 は ,1993 年 の 図 書 館 検 討 委 員 会 (Libraries Review Group)によるフォレット報 告で指摘されている。フォレット報告書の正式名 称は,『高等教育合同財政審議会図書館検討委員会 報 告 書 (Joint Funding Council’s Libraries Review Group: Report)』24であるが,図書館検討

委員会の議長であったブライアン・フォレット卿 の名をとって,フォレット報告と呼ばれている。 フォレット報告は,1967 年に発表されたパリー報 告25以来はじめての英国高等教育における図書館 及び関連機能に関する全般的な報告書であるとい われている。高等教育合同財政審議会(Joint Funding Council)によって設置された図書館検 討委員会の当初の目的は,学生の増加に伴う大学 図書館スペースの問題を検討することであったが, 結果的に「大学図書館の発達にとって最も重要な 原動力」となった26 図5 は,フォレット報告第 3 章図 2 から抜粋し た図書館に関わるサービスや設備の変化の割合を 表したグラフである。1986 年の統計数値を基準に, 1991 年の統計数値の伸び率を表している。学生数 や貸出冊数が 40 パーセント近い伸び率を示して いるのに対し,購入雑誌数や閲覧席数の伸び率は 3 パーセントにも満たない。相互利用や図書館ス タッフ数,書架長,総床面積の伸び率も 19 パー セント前後にとどまっている。学生数の増加やそ れに伴う資料利用の増加に伴った予算措置がなさ れておらず,サービスや設備の不備が明らかにな っている。 変化したのは,学生数だけではない。その質も 変化し,多様化している。その要因としてあげら れるのは,高等教育への受益者負担主義の導入と 学生の多様化をあげることができる。 1)高等教育への受益者負担主義の導入 高等教育にかかる費用を負担する考え方には大 別して,その直接的受益者である学生またはその 保護者がその主要な部分を支払うべきであるとい う受益者負担主義と,高等教育から社会が受ける 利益を勘案した社会負担主義があるとされる27 受益者負担主義は,日本,米国,カナダ,オース トラリア等で採用されており,社会負担主義は, 西欧諸国で多く採用されている。社会負担主義は, 高等教育は特権階級のものであり,高等教育を受 ける者は公益のために選ばれた代表者であるとい うエリート型の高等教育制度に基づいている。し かし,高等教育のマス化と共に,この社会負担主 義では高等教育財政を維持できなくなる傾向にあ る。 英国ではロビンズ報告28以降,高等教育の拡大 政策が採用されてきた。しかし従来,学士課程フ ルタイム学生及びそれに相当する課程の国内学生 に対して授業料部分と生活費補助部分から成る給 与奨学金を支給してきた英国では,学生数の増加 に伴い財政を逼迫する結果となり,1994 年度から フルタイム学生数の抑制を実施していた。しかし, 生涯教育社会の創出を目指すデアリング報告では, 「学士課程フルタイム学生の抑制策を今後 2∼3 年で停止」することを勧告すると共に,財政問題 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 総 床 面 積 書 架 の 長 さ 閲 覧 席 図 書 館 ス タ ッフ数 貸 出 冊 数 受 入 冊 数 購 入 雑 誌 相 互 利 用 学 生 数 (FTE) 図5 図書館に関わる設備やサービスの変化の割合 %

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を解決する手段のひとつとして,授業料の受益者 負担主義を導入することを勧告し,1998 年から授 業料の徴収が開始された。 高等教育における受益者負担主義の導入は,学 生及びその家庭に顧客意識を生み出し,大学,ひ いては大学図書館への要求を増大させる結果とな った。大学図書館が資料をそろえ学生がこれを利 用するという従来の形から,「利用者」としての学 生のニーズに大学図書館が応えるという形へと変 化し,「サービスの提供者」という大学図書館の役 割がより重要になった。 2)学生の多様化 1970 年代,当時の教育科学省は,1980 年代半 ばから大学への進学該当年齢人口が減少するとい う予測の下に,1990 年代半ばには学部学生数は 62 万人まで減少すると見積もっていたが,現実は これを大きく上回った。18 歳人口と共に,成人学 生やパートタイム学生といったいわゆる伝統的で ない学生の数が著しく増加したからである。例え ば,1991 年には 21 歳以上の成人学生が,学生の 55 パーセント,新入生の 45 パーセントを占める に至った。このような新しいタイプの学生は,こ れまでとは異なったニーズをもっている。 異なったバックグラウンドをもつ成人学生は, それぞれの目的意識に応じたニーズを持っている ので,大学図書館はこれらのニーズに応えるサー ビスを展開する必要がある。また,一定期間学業 から遠ざかっていた学生には,情報リテラシーに 関して手厚い支援が必要なことも多い。更に,フ ルタイム学生と比べてキャンパス滞在時間が短い パートタイム学生に対しては,来館型サービスだ けでなく,充実した非来館型サービスが必要とな る。 このように学生の多様化によって,図書館サー ビスを多様化が不可欠となり,図書館サービスの カスタマイズが必要とされるようになった。 4.3. 図書館経費の変化 表3 は,大学図書館における図書館経費・アカ デミック・サービス費,大学総経費の変化に関す る表である。尚,図書館経費については,SCONUL (国立・大学図書館員常任協議会,2000 年以降は 大学・カレッジ・国立図書館協会)の統計調査か ら,アカデミック・サービス費及び大学総計費に ついては,HESA(高等教育統計局)の『高等教 育機関の資源(Resources of Higher Education Institutions)』による。 HESA(高等教育統計局)の大学におけるアカデ ミック・サービスとは,1)図書館,2)学術コンピ ューティング・サービス,3)メディア・サービス からなる。アカデミック・サービス費は年々増加 しており,その増加率は表3 のように,大学総経 費の増加率を上回っている。 図8 は,古い大学の大学総経費における図書館 費及びアカデミック・サービス総計費の変化を表 図書館経費 アカデミック・サービス費 大学総経費 図書館経費 アカデミック・サービス費 大学総経費 1994 184 396 6,311 96 182 2,566 147.0 1995 202 435 6,859 104 208 2,790 151.2 1996 219 442 6,948 109 210 2,922 155.2 1997 229 462 7,288 113 236 2,981 160.8 1998 242 509 7,790 119 267 3,155 164.5 1999 256 538 8,368 122 291 3,298 168.1 2000 261 586 8,981 125 310 3,486 172.4 2001 272 655 9,631 132 347 3,671 174.6 2002 286 677 10,260 138 356 3,872 179.3 2003 310 742 11,116 153 424 4,362 184.2 2004 323 789 11,891 162 464 4,753 190.0

old universities new universities

RPI

表3 図書館経費を含むアカデミック・サービス費の変化(£m)

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したグラフである。アカデミック・サービス総経 費は,1994 年に 6.3 パーセントであったのが 2004 年には6.6 パーセントと増加しているのに対し, 図書館経費に限ると2.9 パーセントから 2.7 パー セントと減少している。 この傾向は,新しい大学においてより顕著であ る。図9 は,新しい大学の大学総経費における図 書館費及びアカデミック・サービス総経費の変化 を表したグラフである。アカデミック・サービス 総経費は,1994年に7.1パーセントであったのが, 2004年には9.8パーセントへと飛躍的に増加して いる。一方,図書経費は 3.7 パーセントから 3.4 パーセントに減少しているのがわかる。 4.4. 資料費の変化 大学図書館における資料費は,どのように変化 しているのであろうか。表4 は,大学図書館にお ける資料費及び,学生一人あたりの資料費の変化 を表したものである。この表における資料費 (information provision)には,図書費,雑誌費, 電子的資料費,ILL(InterLibrary Loan)費,製 本費が含まれる。 表4 によると資料費は,平均,図書館経費の 3 分の1 強を占めており,この割合は,ここ 10 年 図8 大学総経費における図書館経費及びアカデミック・サービス費の割合の変化(古い大学) 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 図書館経費 アカデミック・サービス費 % 図9 大学総経費における図書館経費及びアカデミック・サービス費の割合の変化(新しい大学) 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 図書館経費 アカデミック・サービス費 %

(10)

間比較的変わらない。古い大学及び新しい大学の 資料費の総計は,1994年の1億130万円から2004 年の1 億 7,200 円へと約 1.7 倍に増加しているが, 学生(FTE)一人あたりでみるとこの間の増加率 は1.3 倍に止まっている。 また,古い大学と新しい大学を比較すると,古 い大学における資料費の増加率は約1.8 倍,学生 一人あたりの資料費の増加率は1.3 倍であるのに 対し,新しい大学では資料費の増加率が約1.6 倍, 学生一人あたりの資料費の増加率が1.2 倍であり, 新しい大学において資料費の増加率が低いことが わかる。 図 10 は,学生一人あたりの資料費の変化を表 した図である。古い大学における学生一人あたり の資料費は,一貫して新しい大学のそれよりも多 いことがわかる。また,この格差は年々拡大する 傾向にある。1994 年に古い大学における学生一人 あたりの資料費は新しい大学の1.6 倍であったが, 2004 年には 1.9 倍となっている。

old universities new universities total £'000 £per FTE student £'000 £per FTE student £'000 £per FTE student 1994 67,865 108 33,461 65 101,326 173 1995 72,228 111 35,541 66 107,769 177 1996 76,960 108 36,709 67 113,669 175 1997 80,502 111 38,303 68 118,805 179 1998 85,399 116 40,482 66 125,881 182 1999 93,942 126 41,216 68 135,158 194 2000 99,044 132 42,135 70 141,179 202 2001 103,248 132 43,775 71 147,023 203 2002 110,626 135 44,931 70 155,557 205 2003 118,730 139 48,868 72 167,598 211 2004 119,885 145 52,447 76 172,332 221 表4 資料費の変化 0 20 40 60 80 100 120 140 160 old universities 108 111 108 111 116 126 132 132 135 139 145 new universities 65 66 67 68 66 68 70 71 70 72 76 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 図10 学生一人あたりの資料費の変化

(11)

各資料費,つまり,図書費,雑誌費,電子的資 料費,ILL 費,製本費それぞれの資料費に占める 割合はどのように推移しているのであろうか。図 11 は古い大学,図 12 は新しい大学における,各 資料費の割合の変化を表したグラフである。 古い大学において,図書費は1994 年から 2004 年の10 年間で 33.6 パーセントから 23.5 パーセ ントと大幅に減少しているのに対し,雑誌費は 54.9 パーセントから 58.6 パーセントに,電子的 資料費は2.3 パーセントから 11.9 パーセントへと 増加しているのがわかる。 図書費の割合は,新しい大学においても減少し つつある。1994 年から 2004 年にかけて,図書費 は47 パーセントから 33.4 パーセントと大幅に減 少している。一方,雑誌費の割合については,1994 年の41.4 パーセントが 2002 年に 45.5 パーセン トまで増加しているが,2004 年には 41.9 パーセ ントに落ち着いている。新しい大学については, 1994 年以降,図書費の割合が雑誌費の割合をわず かに上回っていたが,1999 年を境に逆転している。 電子的資料費については,1994 年の 3.7 パーセン トから2004 年の 21.2 パーセントへと飛躍的に増 大している。但し,電子的資料については統計上 の定義やカウントの仕方が変化している。よって, 単純にこれらの数字を比較することは難しいので, 参照程度にとどめたい。 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 Books 33.6 32.0 31.3 31.9 30.4 28.7 28.4 25.8 24.8 24.5 23.5 Serials 54.9 55.5 51.4 49.5 51.8 51.7 54.7 55.5 58.0 58.5 58.6 Electronic resources 2.3 2.7 7.4 8.6 9.1 9.0 8.5 10.6 10.3 10.8 11.9 ILLs 4.5 4.9 5.0 5.2 4.7 3.8 3.4 3.3 2.8 2.6 2.4 Binding 4.8 5.0 4.9 4.7 4.1 5.1 4.9 4.7 4.1 3.7 3.6 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 図11 古い大学における各資料費の割合の変化 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 Books 47.0 44.6 41.2 40.6 40.3 39.0 37.6 35.3 33.7 33.8 33.4 Serials 41.4 43.4 37.6 37.9 38.1 40.3 42.7 44.9 45.5 42.7 41.9 Electronic resources 3.7 3.5 13.3 14.4 14.7 16.0 15.0 15.0 16.7 19.8 21.2 ILLs 5.7 6.3 5.8 5.3 4.9 3.0 3.4 3.6 3.2 2.8 2.7 Binding 2.1 2.1 2.1 1.8 2.0 1.6 1.4 1.2 1.0 0.9 0.8 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 図12 新しい大学における各資料費の割合の変化

(12)

4.5. 大学図書館における貸出冊数の変化 大学図書館の資料費における図書費の割合は, 古い大学,新しい大学を問わず,大幅に減少して いるが,その利用についてはどのように変化して いるのだろうか。図 13 は,学生一人当たりの図 書の貸出冊数の変化を表したグラフである。 古い大学においては,1992 年における学生一人 あたりの貸出冊数は49 冊であったが 2004 年には 58 冊へと増加している。一方,新しい大学におい ても増減を繰り返しながらも,1992 年の 45 冊か ら2004 年の 56 冊へと増加している。これらの統 計結果から,電子的資料は増加しているが,これ と反比例して図書の貸出,つまり印刷資料の利用 が減少しているわけではないということがわかる。 4.6. ILL 費の変化 図14 は,古い大学及び新しい大学における ILL 費の変化を表したグラフである。古い大学では, 1993 年から 1997 年にかけて,290 万ポンドから 420 万ポンドと増加しているが,その後,徐々に 減少し,2004 年には 290 万ポンドとなっている。 一方,新しい大学では,1993 年から 1995 年にか けて,180 万ポンドから 230 万ポンドへと増加し ているが,その後は減少する方向にあり,2004 年には140 万円まで落ち込んでいる。これは,ロ バートソン(V. Robertson)29やキッド(T. Kidd) 30が報告しているように,ILL の減少は,電子ジ ャーナルの普及による影響であると考えることが できる。 40 45 50 55 60 old universities 49 48 48 48 48 49 50 50 52 53 54 56 58 new universities 45 48 48 49 54 54 52 51 51 53 53 53 56 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 図13 学生一人あたりの貸出冊数の変化 冊 図14 ILL 費の変化 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 全体(£m) 4.7 4.9 5.8 6.0 6.2 6.0 4.8 4.8 5.0 4.5 4.4 4.3 old universities 2.9 3.0 3.5 3.9 4.2 4.0 3.5 3.4 3.4 3.1 3.1 2.9 new universities 1.8 1.9 2.3 2.1 2.0 2.0 1.3 1.4 1.6 1.4 1.3 1.4 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004

(13)

図 15 は ,“ ARL Directory of Scholarly Electronic Journals and Academic Discussion Lists”より作成した,査読電子ジャーナル数の増 加を表わしたグラフである。1991 年当時,わずか 7 タイトルに過ぎなかった査読電子ジャーナルは, 2002 年には 5,451 タイトルと飛躍的に増加して いる。現在のところ,電子ジャーナルの増加と反 比例する形でILL費が減少しているわけではない。 しかし,年々増加する電子ジャーナルやオープ ン・アクセスの普及によって,今後,ILL は一定 の量までは減少することが想定される。 4.7.英国の大学図書館及び環境の変化 以下に,英国の大学図書館及びその環境の変化 をまとめる。 1) 高等教育拡大政策に伴う学生の増加という量 的変化だけではなく,高等教育への受益者負 担主義の導入による学生の顧客意識の増大, パートタイム学生や成人学生の増加によるニ ーズの多様化などの量的変化が起こっている。 2) プロフェッショナル・ライブラリアン一人あ たりの学生数は,増加している。古い大学で は1985 年から 2004 年にかけて 1.7 倍,新し い大学では1992 年から 2004 年にかけて 1.2 倍に増加している。また,プロフェッショナ ル・ライブラリアン一人あたりの学生数は, 古い大学より新しい大学において多い。 3) 図書館,学術コンピューティング・サービス, メディア・サービスから構成される「アカデ ミック・サービス」に係る経費は,年々増加 しており,大学総経費の増加率を上回る一方 で,図書館経費は減少している。この傾向は, 古い大学よりも新しい大学において顕著であ る。 4) 資料費は,図書館経費の約 3 分の 1 強を占め ており,この割合はこの10 年間,比較的変わ っていない。資料費の増加率,学生一人あた りの資料費の増加率とも,古い大学が新しい 大学を上回っている。また,古い大学におけ る学生一人あたりの資料費は,過去10 年間, 一貫して新しい大学のそれよりも多い。 5) 資料費のうち,図書費の割合は減少し,雑誌 費及び電子的資料費の割合が増加している。 電子的資料費の割合の伸び率は,新しい大学 においてより顕著である。 6) 学生一人あたりの図書の貸出冊数は,古い大 学において49 冊から 58 冊へ,新しい大学に おいて45 冊から 56 冊へと,過去 10 年間で 増加している。 7) ILL 費は,古い大学においては 1997 年以降, 新しい大学においては 1995 年以降減少して いる。これは,電子ジャーナルの普及による ものと考えることができる。

5. さいごに

以上,大学図書館数,学生数,プロフェッショ ナル・ライブラリアン数については1985年以降, 図書館経費及び資料費等については 1994 年以降 の高等 教育及び大学図 書館の変化につい て, “LISU Annual Library Statistics”の統計をも とに考察を行ったが,英国の高等教育及び大学図 書館は,1990 年代前半が,大きな転換点になって 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 2000 2002 図15 査読電子ジャーナルの増加(1991-2002)

(14)

いるということができる。 1991 年には,全国教育審議会が『成功をもたら す学習(Learning to Succeed)』31を発表し,教 育と職業訓練の一貫した制度の確立が提言される と共に,社会や経済に寄与する「役に立つ」高等 教育という側面が強調された。1992 年には継続・ 高等教育法が制定されることによって,高等教育 が一元化され,実質的に大学数が倍増することと なった。また,高等教育財政審議会が設立される ことにより,補助金の配分における一元化も実現 された。 同年,イングランド高等教育財政審議会,ウェ ールズ高等教育財政審議会,スコットランド高等 教育財政審議会から成る高等教育合同財政審議会 によって図書館検討委員会(Libraries Review Group)が設置され,翌 1993 年には同委員会に よって,高等教育における図書館及び図書館機能 に関する報告書「フォレット報告」が発表され, 英国の包括的電子図書館プロジェクト eLib の契 機となった。また,同1993 年には学術情報基盤 と し て の JISC ( Joint Information Systems Committee)が設置されている。 視野を広げてみると,1990 年代は,あらゆる意 味において英国再生の時期であったといえる。「揺 りかごから墓場まで」という福祉国家体制を標榜 していた英国では,1970 年代より経済が停滞し, 財政が破綻するいわゆる「英国病」といわれる状 況に陥った。しかし,サッチャー政権における「大 きな政府」から「小さな政府」へのクラッシュラ ンディングともいえる手法によって,結果的に状 況は打開された。1990 年代より失業率は低下し, GDP 成長率も改善に向かった。また,欧州共同体 が新たな経済統合・政治統合を狙って締結したマ ーストリヒト条約を批准したのは1992年である。 欧州における英国の地位や立場が再認識される時 期であったともいえる。 他方,1991 年には電子図書館の先駆けともいえ る米国議会図書館によるアメリカン・メモリー・ プロジェクトが開始され,インターネットの商用 利用が認められたのも同年である。また1993 年 に,インターネットの爆発的普及のきっかけとな ったWeb ブラウザ・ソフト Mosaic が一般リリー スされている。 このように,大規模な政策転換,高等教育改革, 情報通信技術の著しい発展などを背景に,英国の 大学図書館は変化しつつある。また,教育・学習・ 研究をサポートするアカデミック・サービスに関 する経費の割合が増加する一方で,アカデミッ ク・サービスの一構成要素である図書館の経費の 割合が減少しているという現象にみられるように, 教育・学習・研究のサポート基盤が多極化してい ることがうかがえる。高等教育を対象とする学術 情報基盤として設立されたJISC が,1999 年に継 続教育にまでその対象を拡張することによって知 識情報基盤として生まれ変わるなど,教育・学習・ 研究のサポート体制において独特の展開を見せる 英国の動向に今後も注目したい。

1 Spiller, D. and Creaser, C. LISU Annual

Library Statistics 1997: Featuring trend analysis of UK public and academic libraries 1986-96. Library & Information Statistics Unit (LISU), Department of Information and Library Studies, Loughborough University, 1997

2 Creaser, C. Maynard, S, and White, S. LISU

Annual Library Statistics 2004: Featuring trend analysis of UK public and academic libraries 1993-2003. 2004. Available from <http://www.lboro.ac.uk/departments/ls/lisu/ downloads/als04.pdf> [accessed: 2007-09-05]

3 Creaser, C. Maynard, S, and White, S. LISU

Annual Library Statistics 2004: Featuring trend analysis of UK public and academic libraries 1994-2004. 2005. Available from <http://www.lboro.ac.uk/departments/ls/lisu/ downloads/als05.pdf> [accessed: 2007-09-05]

4 Creaser, C., Maynard, S. and White, S. LISU

Annual Library Statistics 2006: Featuring trend analysis of UK public and academic libraries 1995-2005, Library & Information Statistics Unit (LISU), Department of Information and Library Studies, Loughborough University, 2006. Available from

<http://www.hefce.ac.uk/pubs/hefce/2005/05_ 10/>. [accessed: 2007-09-23]

5 本項における統計は,下記による。

British Council et al. Higher education in the United Kingdom. 2005. Available from <http://www.hefce.ac.uk/pubs/hefce/2005/05_

(15)

6 Quality Assurance Agency for Higher

Education. The framework for higher education qualifications in England, Wales and Northern Ireland - January 2001. 2001

Available from <http://www.qaa.ac.uk/academicinfrastructur e/FHEQ/EWNI/default.asp>[accessed: 2007-09-30] 7 吉川裕美子(2001)「イギリス高等教育の学位 統一への動き:高等教育資格枠組み導入の背景、 概要、展望」学位研究,14,2001.3,pp.29-54

8 The Scottish Credit and Qualification

Framework. Available from:

<http://www.scqf.org.uk/index.asp>

9 Scottish Credit and Qualifications

Framework. Table of main qualifications. 2000. Available from

<http://www.scqf.org.uk/table.htm> [accessed: 2007-09-18]

10 Clark, B.R. Structures of Post-Secondary

Education, Institution for Social and Policy Studies. Yale University, 1976

11 大学助成金委員会(UGC)の後継機関

12 英国の高等教育全般に関するポータル・サイト 13 Pre-1992 universities. Higher Education and

Research Opportunities. Available from <http://www.hero.ac.uk/uk/reference_and_su

bject_resources/groups_and_organisations/p re_1992_universities3705.cfm> [accessed: 2007-09-28]

14 Russell Group. Available from

<http://www.russellgroup.ac.uk/> [accessed: 2007-09-01]

15 1994 Group. Available from <

http://www.1994group.ac.uk/> [accessed: 2007-09-01]

16 Creaser, C., Maynard, S. and White, S. LISU

Annual Library Statistics 2006: Featuring trend analysis of UK public and academic libraries 1995-2005, Library & Information Statistics Unit (LISU), Department of Information and Library Studies, Loughborough University, 2006. Available from

<http://www.hefce.ac.uk/pubs/hefce/2005/0 5_10/>. [accessed: 2007-09-23]

17 Secretary of State for Education and Science

the Secretary of State for Scotland the Secretary for Northern Ireland the Secretary of State for Wales by Command of Her

Majesty. Higher education : A new framework. London, H.M.S.O., 1991

18 Secretary of State for Education and Science

the Secretary of State for Scotland the Secretary for Northern Ireland the Secretary of State for Wales by Command of Her

Majesty. Higher education : A new framework. London, H.M.S.O., 1991

19 National Committee of Inquiry into Higher

Education. Higher education in the learning society: report of the national committee. London, The Committee, 1997

20 full-time equivalents 21 フルタイム学生の進学率。 22 尚,19 歳以下でフルタイムの高等教育課程に 進学した者を18 歳人口で除した 2002 年の進学 率は38.0 パーセントである。 23 文部科学省生涯学習政策局「教育指標の国際比 較(平成18 年版)」2006.3

24 Joint Funding Council. (1993). Joint

Funding Council's Libraries Review Group : Report ; The Follett Report. Joint Funding Council. 1993.12

25 Committee on Libraries. University Grants

Committee. Report of the Committee on Libraries. University Grants Committee, HMSO, 1967 26 ガイ・デインズ講演・髙木和子訳.英国の図書 館:歴史的転換期となりうるか.現代の図書館. Vol.37,No.1,1999,pp.40-48. 27 喜多村和之.学費は誰が負担すべきか:国際的 な論争点.IDE 現代の高等教育.No.388, 1997, pp.65-70.

28 Robbins, Lord L. Higher Education. Report

of the Committee appointed by the Prime Minister under the Chairmanship of Lord Robbins; 1961-63. HMSO, 1963

29 Robertson, Victoria. The impact of electronic

journals on academic libraries: the changing relationship between journals, acquisitions and inter-library loans department roles and functions. Interlending & Document Supply. 31(3), 2003, pp.174-179

30 Kidd, Tony. Does electronic journal access

affect document delivery requests? Some data from Glasgow University Library.

Interlending & Document Supply. 31(4), 2003, pp.264-269

31 National Commission on Education.

(16)

Hamlyn Foundation, London, Heinemann, 1993

表 2 イングランド,ウェールズ及び北アイルランドにおける高等教育資格のフレームワーク
表 3 図書館経費を含むアカデミック・サービス費の変化(£m)
図 15 は ,“ ARL  Directory  of  Scholarly  Electronic  Journals  and  Academic  Discussion  Lists”より作成した,査読電子ジャーナル数の増 加を表わしたグラフである。 1991 年当時,わずか 7 タイトルに過ぎなかった査読電子ジャーナルは, 2002 年には 5,451 タイトルと飛躍的に増加して いる。現在のところ,電子ジャーナルの増加と反 比例する形でILL費が減少しているわけではない。 しかし,年々増加する電

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