有害メディアの影響と対策
思春期
キーワード 有害メディア、インターネット、携帯電話、子ども達、メディア対策 東邦大学医学部看護学科教授齋
さい藤
とう益
ます子
こ 前 東邦大学医学部看護学科客員教授木
き村
むら好
よし秀
ひではじめに
今日の情報化社会の進展は著しく、メディアは いまや日常生活には欠かせないもので、その影響 力は大きく一つの権力であるともいえる。特にパ ソコンや携帯電話のインターネット機能からは何 時でも、何処でも、何でも入手でき、広く一般に 普及して小学生や中学生など思春期の子ども達も 手軽に利用している。しかし、出会い系サイトの 利用で犯罪に至るケースも報告されており、文明 の利器は時に文明の凶器ともなりかねない。そ して手軽に入手できるインターネットからの情報 は、判断力の乏しい子ども達には害ともいえる悪 影響をもたらすものも少なくない。今回は「思春 期の子どもが関わるメディアで、子ども達の成長・ 発達に悪影響を及ぼすもの」を有害メディアと称 して、週刊誌やコミックなど成人対象の雑誌、携 帯電話やパソコンのインターネットを介したアダ ルトサイト、暴力や殺人などのサイト、露骨で過 激な描写の動画などの影響とその対策について述 べてみたい。1.メディアが子どもに及ぼす影響
1)高校生の性の情報源とその内容 筆者らの調査では、高校生の性情報の入手法は、 「友達や先輩」が 67%、「本、雑誌、漫画」が 58%、「テレビ」が 40%、「アダルトビデオ」が 33%、「インターネット」が 23%で、彼らがよく 読む本は、男子は漫画が 35%、雑誌が 25%、女 子では雑誌が 21%、漫画が 15%であった。その 内容は「Sex の仕方」「Sex の体験談」がそれぞ れ 31%、次いで「異性の身体」「性感染症」がそ れぞれ 26%であり、妊娠や避妊に関する情報は 僅かであった1)。子ども達は性に関する情報を身 近で簡単に入手できるメディアから得ており、科 学的で専門的な学習をする機会は少ないことが分 かる。 2)本・雑誌・漫画など印刷ベースのメディアの影響 わが国では成人向けの雑誌がコンビニ等でも容 易に入手できる。アダルト雑誌のコーナーは 18 歳未満は販売禁示と表示されているが、子ども達 の目に触れる場所に陳列されており、販売制限の ない少女向けコミック誌は、恋愛や性交を描写し ている場面が多く、女子中学生らがそれを読み、 「高校生になったらこういうことをするのか」と 考える素地を作っている。そして少年向けコミッ ク誌の暴力シーンの多さは、暴力を容認する素地 を作る危険性がある。また、痩せを美とする広告 紙面も多い。掲載されているモデルも痩せている 少女が多く、これが子ども達のダイエット志向を 助長し、摂食障害に繋がることもある。 3)テレビ、ビデオ等の映像によるメディアの影響 Benesse 教育研究開発センターの調査2)によ ると 1 日 2 時間以上テレビを視聴する子どもは、 小学生 57.6%、中学生 69.2%、高校生 58.6%であ る。多くのテレビ番組はコマーシャルベースで娯 楽性を中心に作成されており、お笑いものやバラ エティ番組が殆どである。大学生が出演している番組でも、学問の香りは全くしない話題が展開さ れ、面白おかしく制作された番組からは、むしろ 真面目さや真摯に生きることが軽くあしらわれて いる場合もある。司会者に合わせて笑ってごまか し、自分の意見は持たず議論はしない、その場に 合わせることが相手を傷つけず良いことだとする 価値観を子ども達に植えつけ、他人のために汗を 流し、お互いの意見を闘わせて切磋琢磨すること の価値を低下させている。大人になってもコミュ ニケーション能力が低く議論ができないのは、日 常の会話が乏しく受け身で一方的なテレビで育っ ており論理的思考力が身についていないからかも 知れない。数年前に「14 歳の母」というテレビ ドラマがあったが、そこでは中学生が出産するこ とをよいことであり容易なものとして印象付けた 感がある。実際には中学生が出産することは学業・ 育児をはじめ様々な問題があるが、それらの問題 は美化されたドラマからは学べないのである。 様々な価値観を持つテーマであっても、テレビ で取り扱われる際には、製作者の意図に沿った番 組構成が行われ、一つの価値観に巧妙に仕向けら れていることがあり、判断力の未熟な子どもはそ れをそのまま受け取りかねない。メディアは第 4 の権力とも言われており、このようなテレビ番組 の内容についての検討も必要である3,4)。時に生 命の神秘性や男女の性差など科学的に作成された 番組もあるが、娯楽番組に慣れ親しんだ子ども達 の視聴率は意外に低い様である。 アダルトビデオは、レンタルショップで簡単に 入手でき、子ども達の性の情報源にもなってい る。ビデオの内容は、女性を単なる性欲解消の対 象、支配の対象としており、アブノーマルな性行 動、レイプ、痴漢など女性の嫌がる性行為を強要 して、女性がそれを快感と思うという描写も多い。 これは、視聴した子ども達に、誤った性観念を植 え付ける危険性が高い。赤枝5)によれば、高校 3 年生でアダルトビデオを見たことがある者は、男 子 82%、女子 51%で、その真似をしたことがあ る者は、男子で 40%、女子では 25%であったと いう。アダルトビデオは、大人を対象に制作され ており、性衝動を煽り快楽性を追求し、性欲処理 法としても利用されるもので、性交経験のない子 ども達には、刺激が強く、女性を蔑視する誤った 価値観を植え付けることになる。中学生はアダル トビデオを見て「興奮した」、「すごいと思った」 と答えて6)おり、ビデオの世界をそのまま現実 として受け止め歪んだ性意識を形成することにも なりかねない。 4)インターネット機能を持つ電子媒体の影響 Benesse 教育研究開発センターの調査2)では、 中学 3 年生の 47.8%、高校 3 年生の 92.3%が携 帯電話を所有し、その利用法は友人へのメール 約 90%、インターネット約 50%で(図 1)、他に 音楽のダウンロード、ゲーム、動画、電子書籍 など多様な機能を利用している。木原によれば 携帯電話を所持している高校生の性交経験率は 男子 22%、女子 29%で、所持していない者の男 子 5%、女子 10%に比べて明らかに高く、出会い 系サイト利用者の、性交経験率は 63%とさらに 高いという7)。インターネットで知り合った人と 直接会ったことがある高校生は男子 7.1%、女子 12.1%2)で、子ども達はゲーム感覚で初交体験を している。高校生の性交経験率は約 40%8)であ るが、その背景には容易に異性と出会えるサイト へのアクセスがあり、インターネットが子ども達 の性行動に大きな影響を及ぼしていることは明ら かである。アダルトサイトは商業ベースの性を、 大人を対象として作成しているため歪曲されてい くことが多いが、本来の対象者ではない子ども達 が容易に視聴できることが問題である。 インターネットは、匿名・匿顔性があり、閉鎖 的である。表示されている内容は真実とは限らず、 全て虚構によって成り立っているものもある。ま た、ネットで繋がっている当事者以外にはやりと りが分からない。匿名・匿顔性を隠れ蓑にして「荒 らし」といわれる様に、わざとトラブルを発生さ せる悪意を持った人も出てくる。インターネット を介して覚醒剤や売買春などの犯罪に結びつくこ とや、脅迫や名誉毀損、営業妨害などの「サイバー 犯罪」が多発している現状もあり、子ども達がそ
れに巻き込まれることがある。 携帯から小学生でも簡単に有害サイトにアクセ スできることを保護者が認識していない場合が多 い。筆者らの調査で子どもの携帯やパソコンに フィルタリングをしている親は約 20%のみであ り、親への教育も必要である6)(図 2)。 インターネットのアダルトサイトも成人向け で、「18 歳未満は禁止」と表示されているが、年 齢確認の画面で 18 歳以上をクリックすれば容易 にアクセスできる。出会い系サイトも、18 歳未 満は利用禁止であるが、事実上誰でも利用可能で ある。女子中高生が多く利用する「お友達紹介サ イト」は、場合によっては出会い系となりうる。 中学校・高校には、それぞれ「学校裏サイト」 と呼ばれるサイトが携帯のネット上に存在するこ とが多い。主に在校生が書き込みをしているが、 書き込みが誹謗中傷の場になり、また性的な話題 を待つサイトでは、猥褻な画像がアップされるこ ともある。また残虐なものもあり、人間を撃つ シューティングゲームで、一度倒れて起き上がっ てくるところを再度撃たせるとか、なるべく遠く まで逃がしておいて、遠くから撃つほど点数が高 いものなどがある。動画で、動物のかわいいキャ ラクターを使い、楽しそうに遊んでいるシーンか ら始まり、途中で登場する動物が残酷な死に方を するというサイトもある。これは普通のアニメと 思った子ども達が残虐シーンを見せられてしま う結果となる9)。これらの残酷さを普通のことと 認識し、現実のいじめや傷害などに発展していく ことにもなりかねない。中学生はいじめの発生件 数が最も多くなっている2)(図 3)。
2.有害メディア対策
多くのマスメディアは情報源として有用で利 便性も高い。発信者はメディアの公共性を認識し て倫理観や責任感を持って発信する努力をする べきである。一方、受信する側も発信者の意図を 汲み取り、情報を鵜呑みにすることなく取捨選択 して活用する必要がある。子ども達にメディアに 対するこの基本的考えを理解させていくことが 87.9 93.6 39.3 49.5 56.6 65.2 94.2 93.7 60 80 100 小学生 30.6% (n=3,148) 中学生 47.8% (n=3,298) 高校生 92.3% (n=3,823) 48 4 54.2 93.4 46.1 47.6 87.9 家族に メール インター ネット 友人に メール 中学生 (%) 28.4 27.9 24.5 31.3 42.0 45.6 29.7 34.8 0 20 40 小4 小5 小6 中1 中2 中3 高1 高2 女子 男子 33.2 47.8 . 38.3 45.8 0 20 40 60 80 100(%) 友人に 電話 家族に 電話 (n=2,061) 高校生 (n=4,769) 図 1. 中学・高校生の携帯電話所有率と利用法 「第1回子ども生活実態基本調査」 Benesse 教育研究開発センター(2008)大切で、自分でメディアを取捨選択して見る目を 養うことが有害メディア対策の基本である。しか し、今日の社会でメディア漬けになっている子ど も達に、何時、何処で、誰がその能力を獲得させ るかが大きな課題である。 1)家庭における対策 メディア対策としてまずは保護者の役割を強調 したい。子どもと生活している保護者は、メディ アの子どもに与える影響を認識して、家庭でメ ディアリテラシー教育を進めてほしい。そのため には家庭内の会話を多くし、テレビ漬けにしない ことである。例えばテレビを見ない日や見ない時 間を設けることや親子でテレビ番組に対する意見 交換をするのも有要である。そこで親の価値観に (文科省統計資料) 34.9 40.6 18.4 22.7 31.1 20.9 25 30 35 40 45 0 5 10 15 20 利用している していない わからない パソコン(n=504) 携帯電話(n=410) 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 (発生件数) いじめ行為は中学1年生 0 500 1,000 男子 132 女子 71 3 年 484 149 2 年 1,047 308 1 年 1,279 797 3 年 2,821 1,930 2 年 3,298 2,669 1 年 840 797 6 年 684 737 5 年 485 435 4 年 310 256 3 年 192 124 2 年 139 88 1 年 小学校 中学校 高等学校 岡、斎藤、木村、平成 20 年都内中学生調査 図 2. フィルタリングサービスの利用率 図 3. 学年別男女別いじめの発生件数 (調査対象平成 17 年度:公立小・中・高等学校)
触れることで、子どもの善悪良否の価値観も形成 されてくると思う。携帯電話はあくまでも電話機 能を重視し、中学生まではフィルタリングをつけ、 子ども部屋でのパソコンの使用制限をするなど約 束事を取り決める。日頃から親子が何でも話せる 関係性を築いておくことが大切である。 2)学校における対策 (1)小・中学校における情報教育 家庭内でのメディア教育には限界があり、学校 の役割も大きい。特に小・中学校では行政的指導 により実施するものや各学校独自で行うものがあ る。 小・中学生には、まずメディアに対する正しい 見方の教育が必要である。そして生徒、保護者、 教職員を対象に、ハイテク犯罪に関する講演や携 帯電話の安全で安心できる使用法の講演など啓発 活動を行う必要がある。子どもには家庭科や道徳、 ホームルームの時間などを利用してネットを安全 に利用するための教育を行う。親には子どものお かれている現状、特にネットいじめの問題や有害 なサイトへのアクセスを防ぐフィルタリングシス テム、メディアを正しく理解するために親子でメ ディア情報に関する会話をすることの大切さなど について理解させる。 (2)高校における対策 高校生には、中学生までの教育を土台にして情 報モラルについて理解させる。学習資料の検索や コミュニケーションツールとして情報を発信しあ い意見交換ができるインターネットの利点と併せ て、迷惑メールや詐欺被害、個人情報流出、セキュ リティウイルス、著作権の問題などメディアの危 険性も学ばせる。 情報の量を制限することは不可能な時代なの で、膨大な量の情報から、どの情報が自分にとっ て有益か、有害かを取捨選択する力を育てる。物 事を見るときに、肯定的に捉える力や受容、共感 する力と同時に、批判的に見る力、客観的に見る 力など多角的な思考を身につけさせる。そのため にはブレーンストーミングやディスカッション、 感想文、論文などを書くことが有効である。また インターネットからトラブルに巻き込まれる危険 性も教えて、学校での相談窓口を示しておくこと も必要である。