博 士 ( 理 学 〕 古 村 美 津 子 学位論文題名
十勝平野の長周期地震応答に関する研究
学位論文内容の要旨
観測 記象 は震源 ,伝 播経 路,および観測点近傍の構造の3 つの影響を受ける.堆積 盆地では,観測点近傍の地盤構造の影響(site effects )による実体波の多重反射や 二次的な表面波の励起の現象が生じ,大振幅で継続時間の長い地震波が観測される.
特 に,
2〜3 km の 厚い 堆積 層を 有す る堆 積盆地 では 周期
1〜10 秒の長周期地震動にSl
te eff ectsが大きく現われる.この周期帯は近年増加している長大構造物の固有周期 に相当するため,堆積盆地内での長周期地震動の挙動を明らかにすることは地震防災 上の緊急の課題のーっである.しかし,このような研究は1970 年代後半に始まったば かりであり,堆積層上での地震波が長い継続時間を持つことや表面波の発生メカニズ ムにっいては十分に解明されていない.本研究の目的は,厚い堆積層を有する十勝平 野で強震動観測を行い,それをもとに,堆積盆地の長周期地震動応答を明らかにする ことである.
北海道南西部に位置する十勝平野は,南北に10 0km ,東西に50km の広さを有する.十 勝平野内の33 箇所では,松島(1990 )によって長周期微動探査からS 波速度構造が推定 されている,その結果によると,S 波速度2 . 8 〜3 .2km/s の基盤の深さは最深点で2000
mを 超 え , 基 盤 面 で の
S波 の イ ン ピ ー ダ ン ス 比 は
4.
9の 大 き さ に な っ て い る .
十勝平野の地震動応答特性を調査するため,平野のほぼ中央部の堆積層上にある帯 広(帯広畜産大学構内)と岩盤上の茂寄(北海道大学地震予知観測地域センターの観 測壕)に地震観測点を設置した.茂寄は帯広の約70 km 南に位置する.同時に,平野内 の波の伝播特性を調べるために,帯広では直径約1 . 2km の円内に5 っの地震計を群列
(アレイ)配置した.地震計には0 . 025 〜20. OHz の周波数範囲で感度特性がフラ.y ト な 広帯 域速 度型強 震計 を使 用し,上下動と水平動2 成分の地動を調査した.地震波形 記録にはデジクルレコーダを使用した.記録はイベントトリガ方式による各観測点独
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立方式 とし,定 期的にパ ソコンを 用いてデ ―タ回収を行った.このとき,各独立観測 点の時 刻の同時 性を保っ ためにレ コーダ内 蔵の時計のずれを調査し,時刻の補正を行 った. 19 91年7月から2年間の観測期間にはマグニチュードが3.6〜7.8,震源の深さ が0〜 489kmにわたる約110個の地震が記録できた.
十勝平 野の地震 動応答特 性を調べ るため, 帯広と茂寄 の観測記 象を,@S波の増幅 特性, @後続波の励起特性の二面から比較した.また,堆積盆地で励起される表面波 を実体波入射によって発生する波(ba sin−induced surface waves)と入射した表面波 の モー ド 変 換に よ って 励 起 され る 波(basin−transducedsurface waves)の2種 類 に区別するKawase and Sato(1992)の分類に従い,◎の後続波の性質にっいてこの2種 類の表面波に分けて検討を行った.
S波の 増 幅 特性 を 調べ る ために, 遠地の深 発地震に ついて茂寄 に対する 帯広のS波 部分の スペクト ル比を求 めた.こ れらの地 震では帯広と茂寄に対する震源と伝播経路 の影響 が共通に なると考 えられ, 両観測点 の観測記象のスペクトル比は十勝平野のsi te effectsを表わ すと考えられる,求められたスペクトル比はO.2〜1.OHzで4〜20と なり,S波が・大 きく増幅されることを示している,スペクトル比の形状や増幅率は地 震によ って異な り,S波の増幅特性が地震の方位に依存している可能性がある.また.
この増 幅率は帯 広の一次 元のS波速 度構造か ら理論的に 求められ た増幅率 よりやや高 めにな った.こ の結果は 堆積盆地 の3次元的 な地下構造 による増 幅の効果 を意味して いる.
Basin−induced surf ace wavesの励起特性を検討するため,近地のやや深発地震を 用いて 後続波水 平動成分 の周波数 特性の時 間変化を調べた.これらの地震による茂寄 の観測 記象には 後続波が ほとんど 見られな い.これに対し帯広では顕著な後続波が観 測されることが多く,O. 26〜1.OHzの周波数範囲が卓越している.後続波の継続時間は 震源の 深さに対 する震央 距離の比 (△/H) が大きくな るほど, また,十 勝平野への 入射波 の周波数 特性が低 周波側に 延びるほ ど長くなるという性質がある.後続波の励 起の強 さと入射 波の周波 数特性と の関係に は,十勝平 野の構造 においてf udamental modeのラブ 波が高周 波側にカットオフを有するというmedium responseが関係している と考え られる. また,上 下動成分 の後続波 の励起は,水平動成分よりも強い.また.
入射波 の周波数 特性と△ /Hへの依 存度は水 平動成分よ りも弱い .これら の特徴は,
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fundamental modeのレ イリー波 が低周波側にカットオフを有することに関係している と考えられる.
Basin―transduced surface wavesの励起特性を調べるために,遠地の浅発地震を用 いて 茂寄に対 する帯広 の波形全 体のスペクトル比を調査した.その結果,地震のマグ ニチュードによって地震波形は大きく異なるのに対し,スペクトル比の値が0. 2^‑1.O Hzの周 波数範囲 にわたっ て同一であることが明らかになった.解析に用いた地震群の 中で ,この伝 播経路の 影響の差 異が十分に小さいと考えられる,両観測点のほぼ南で 発生した地震群にっいて検討を行うと,十勝平野のO.2〜1. OHzの周波数範囲の増幅率 は 水 平 動 成 分 で 約10倍 , 上 下 動 成 分 で 約6倍 で あ る と い う こ と が わ か っ た . 次に ,十勝平 野内で増 幅される後続波の挙動を調べるため,アレイ観測データの解 析を 行った. 用いた地 震は近地 のやや深発地震と遠地の浅発地震である.これらの地 震に よる帯広での後続波はそれぞれBasin一induced surface wavesとBasin−transduc ed surface wavesであると考えられる.
アレ イ観測デ ータの上 下動成分に対してセンブランス解析を行い,地震波の見かけ 速度 と到来方 向を求め たところ ,レイリ一波が確認できた.波の見かけの速度は大部 分の 区間で1 ‑2km/sと なり,帯 広畜産大学におけるfundament al modeのレイリ一波 の理 論分散曲 線にほば 一致する ことを確認した.これらのレイリ一波のうち,震央方 向か ら到来す るレイリ 一波はわ ずかである.レイリ一波の到来方向はほぼ全方位にわ たっ ており, また,そ の方位は 時間の経過と共に大きく変化している,このため,レ イ リ ー 波 は 特 定 の 場 所 で 励 起 さ れ た も の で は な い こ と が 推 測 さ れ た . また ,後続波 の水平動 成分にっいてセンプランス解析を行い,ラブ波の抽出を行つ た. 純粋なラ ブ波を抽 出するた めに,直達S波部分の 振動解析の結果を参照して,水 平面内で直線的に振動している波群を選んだ.この中から,見かけ速度がf undamental mode,のラブ波の理論分散曲線と一致し,振動方向と到来方向がほぼ直行する波群を検 出し た.これ らの純粋 なラブ波 のみから構成されているものは波形全体から見るとご く僅 かであった.この他のほとんどの時刻にっいて6ま,後続波には複数の波が混在し ていることが考えられる.
以上の研究成果から十勝平野の地震動の増幅特性と後続相の性質には堆積盆地の3 次 元 的 な 地 下 構 造 が 大 き く 影 響 し て い る こ と が 明 ら か に な っ た ,
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学位論文審査の要旨 主 査 ′ 教 授 岡 田 廣 副 査 助教授 森谷武男 副査 副査
助教授 講師
笠原 笹谷
学 位 論 文 題 名
稔 努
十勝平野 の長周期地震応答に関する研究
観 測 さ れ た 地 震9d象 は 、 震 源 、 伝 播 経 路 、 観 測 点 近 傍 の 構 造 、 以上 の3っの 影 響 を 受 け た 結 果 で あ る 。 多 く の 都 市 部 の 位 置 し て い る 堆 積 盆 地 で は 、 こ の 内 の観 測 点 近傍 の 構 造 の 影 響 が 強 く 、 実 体 波 の 増 幅 、 二 次 的 な 表 面 波 の 励 起 な ど の 効 果 によ り 、 大振 幅 で 継 続 時 間 の 長 い 地 震 動 が 観 測 さ れ る 。 特 に 、 厚 さ2〜3 k.mの 堆 積 層 を 有 す る 盆 地 で は 、 周 期1〜lO秒 の 長 周 期 地 麗 動 に こ の 効 果 が 大 き く 現 れ 、 そ の 周 期 帯 が 近 年 増 加 し て い る 長 大 構造 物 の 固有 周 期 に相 当 す る ため 丶 ・ 堆積 盆 地 内で の 長 周期 地 震 動の 挙 動 を 明 ら か に す る こ と は 、 地 震 防 災 上 の 緊 急 課 題 の ー っ と な っ て い る 。 本 研 究 は 、 厚 い 堆 積 層 を 有 す る 北 海 道 南 東 部 の 十 勝 平 野 を 対 象 と し て、 そ こ での 独 自 に 行 な わ れ た 強 震 動 観 測 か ら 得 ら れ た デ ー タ を も と に 、 堆 積 盆 地 の 長 周期 地 震 動応 答 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て い る 。
ま ず 、 申 言 青 者 は 、 十 勝 平 野 中 央 部 の 堆 積 層 上 に 位 置 す る 帯 広 と そ の 約70km南 の 岩 盤 上 に 位 置 す る 茂 寄 に 強 震 観 測 点 を 設 置 し た 。 さ ら に 、 帯 広 に お ぃ て は、 盆 地 内を 伝 播 す る 波 の 特 性 を 詳 細 に 調 べ る た め に 、 直 径 約1. 2kmの 円 内 に5つ の 観 測点 を 群 列
( ア レ イ ) 配 置 し た 。 こ の 観 測 に お い て 、 地 震 計 に は 、0.025〜20 Hzの 周 波 数 範 囲 で フ ラ ッ ト な 特 性 を 有 す る 広 帯 域 速 度 型 強 震 計 を 使 用 し 、 デ ジ タ ル レ コ ーダ を 用 いて
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デ ー タ を 収 録 し た 。1991年 7月 か ら 約2年 の 間 に お い て 、 約 110個 の 地 震 に よ る 言己 録 を 得て い る 。
堆 積 層 上 の 帯 広 と 岩 盤 上 の 茂 寄 , で 得ら れ た 記録 の 比 較 から 、 十 勝平 野 の 地震 動 応 答 を @S波 の 増 幅 特 性 、 @ 後 続 波 ( 二 次 的 表 面 波 ) の 励 起 特 性 の ニ っ の 面 か ら 明 ら か に し た 。 以 下 の 解 析 に お い て は 、 観 測 記 象 に 含 ま れ る 震 源 と 伝 播 経 路 に よ る 影 響 を 取 り 除 き 、 観 測 点 近 傍 の 構 造 に よ る 影 響 の み を 抽 出 す る 工 夫 が な さ れ て い る 。S波 の 増 幅 特 性 は 、3っ の 遠 地 の 深 発 地 震 に よ る 記 録 に っ い て 茂 寄 に 対 す る 帯 広 のS波 部 分 の ス ペ ク ト ル 比 か ら 求 め ら れ た 。 そ れ は 、 周 波 数o.2〜 1Hzの 範 囲 で4〜 20の 値 と な り 、 堆 積 盆 地 構 造 に よ っ て S波 が 大 き く 増 幅 さ れ る こ と を 示 し て い る 。 茂 寄 と 帯 広 の 記 録 の 大 き な 相 違 は 、 堆 積 層 上 の 帯 広 で はS波 に 続 く 後 続 波 の 励 起 が き わ め て 強 い こ と で あ る 。 こ れ ら の 後 続 波 ( 二 次 的 表 面 波 ) に っ い て は 、 @ 実 体 波 入 射 に よ っ て 励 起 さ れ る 盆 地 生 成 表 面 波 と @ 入 射 し た 表 面 波 の モ ー ド 変 換 に よ っ て 励 起 さ れ る 盆 地 転 換 表 面 波 と に 区 別 し て 解 析 し た 。 近 地 の や や 深 発 地 震 に よ っ て 励 起 さ れ る 後 続 波 が 盆 地 生 成 表 面 波 (0.25〜 1Hzの 卓 越 周 波 数 を 有 す る ) で、 そ の 励起 の 強 さ が 、 人 射 波 ( 茂 寄 に お け る 吾 己 録 が こ れに 相 当 する ) の 周 波数 特 性 と震 源 の 深さ に 対 す る 震 央 距 離 の 比 ( △ /H) に 依 存 す る こ と を 明 ら か に し た 。 低 周 波 数 に 富 ん だ 人 射 波 ほ ど 、 ま た 、 △ /Hが 大 き い ほ ど 盆 地 生 成 表 面 波 は 強 く 励 起 さ れ 、 長 い 継 続 時 間 を 有 す る こ と に な る 。 一 方 、 浅 い 地 震 の 場 合 に 帯 広 で 観 測 さ れ る 後 続 波 が 盆 地 転 換 表 面 波 で 、 茂 寄 に お け る 言 己 録 を 入 射 波 と み な し た 波 形 全 体 の ス ペ ク ト ル 比 か ら 、0.2〜1 Hzの 周 波 数 範 囲 で 水 平 動 で 約10倍 、 上 下 動 で 約6倍 励 起 ・ 増 幅 さ れ る こ と を 明 ら か に した 。
最 後 に 、 ア レ イ 観 測 デ ー タ の セ ンプ ラ ン ス解 析 か ら 、後 続 波 (二 次 的 表面 波 ) の見 か け 速 度 と 到 来 方 向 を 推 定 し た 。 見 か け速 度 は 、帯 広 直 下 の地 盤 構 造か ら 予 測さ れ る 表 面 波 の 位 相 速 度 に ー 致 し 、 ま た 、 後 続 波は 震 央 方向 の み ナ ょら ず 、 種々 の 方 向か ら 到 来 す る こ と を 明 ら か に し た 。 こ れ ま で に 述 べ た 解 析 結 果 か ら 、 堆 積 盆 地 の 地 震 応 答 を 考 え る 場 合 、 そ の 3次 元 構 造 に よ る 影 響 が 重 要 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 以 上、 申 請 者は 堆 積 盆地 構 造 をな す 十 勝 平野 の 長 周期 地 震 応答 に関 する研 究・で、 優 れ た 研 究 成 果 を 挙 げ た 。 審 査 貝 一 同 は、 申 請 者が 博 士 ( 理学 ) の 学位 を 受 ける に 十 分 な 資 格 を有 す る もの と 認 める 。