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南アジア研究 第27号 012書評・夛賀 政幸「堀本武功『インド 第三の大国へ―〈戦略的自律〉外交の追求―』」

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Academic year: 2021

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全文

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本書は、タイトルの通り、米国、中国に次ぐ第三の大国として台頭 しようとしているインドの外交を「大国志向」と「戦略的自律」とい う観点を基に総攬したものである。その中で、戦略的自律性を志向す るインド外交は「階層的な三つのレベル、すなわち、グローバルなレ ベル(全世界)、リージョナルなレベル(アジアなど)、サブリージョ ンナルなレベル(南アジア)で展開されており、レベルごとの外交目 的とその政策が使い分けられている点に大きな特徴がある」(本書14 頁)ことを示したものである。本書評では、本書の概要を紹介したう えで、若干の検討を加えてみたい。 本書の構成(章立て)は、以下の通りである。 序章現代インドの対外戦略―世界の大国を志向― 第 1 章 緊密化しても同盟化しない対米関係 第 2 章 アンビバレントな印中関係―協調と警戒― 第 3 章 緊密化する日印関係と今後の課題 第 4 章 ルック・ウエスト政策とインド洋政策の模索 第 5 章 南アジア―地域覇権を目指す超大国 終章 インド大国化の展望とモディ外交― 序章では、まず、冷戦期のインド外交路線は、非同盟とその後の印 ソ同盟という2つの路線からなっていたが、「現在の戦略的自律性を志 向する外交は、(冷戦期のこの)両路線に対する反省から生まれてい る」(3頁)、また、冷戦後は、「冷戦期とは比較にならないほどのナ ショナル・パワーを備え、これを基盤とした外交を展開している」(30 頁)とする。そして、現在のインド外交の戦略的な枠組みとして、グ ローバル、リージョナル、サブリージョナルという三つのレベルにおけ

堀本武功『インド 第三の大国へ─〈戦略的自

律〉外交の追求─』

東京:岩波書店、2015年、202頁、2400円+税、ISBN978-4-00-061014-8

夛賀政幸

書 評

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る異なった志向と対応を取るとする「インド外交マトリックス」の図 表が示される(13頁)。その要点は、グローバルなレベルでは、「国際 秩序形成能力」の獲得を目指す。そのため、米国を中心とする現国際 秩序の維持を志向する国々に対しては、その修正を求めて中国やロシ アと協力を行う。リージョナルなレベルでは、中国に対する強い警戒 心を抱き、ヘッジ政策に基づく安全保障政策を進める。そして、サブ・ リージョナルなレベル、即ち、南アジアにおいては、自国の優位性を 変更させる意図はなく、優位性を確実したいという現状維持国家とし て行動する、というものである。 第1章(印米関係)では、インド外交は、「どのような対米関係を構 築するかをめぐる試行錯誤の歴史だった」(36頁)との観点から、イン ド独立以降の印米関係から説き起こし、冷戦期の疎遠な関係から冷戦 後の関係緊密化の過程とその背景について検討し、2010年代の印米関 係は「好転も悪化もしない高原状態」にあると結論付ける。しかし、経 済と安全保障の両観点から緊密な関係の継続が不可欠であるものの、 インドの「戦略的自律」志向の外交ゆえに同盟関係には進まないと展 望する。また、印米関係の歴史を振り返る中で、両国それぞれの旧ソ 連、ロシアやパキスタンとの関係が大きな影響を与えたことを示す。そ こでも、グローバルなレベルでは中国やロシアと協力して超大国の米国 に相対し、リージョナルなレベルでは米国や日本と協力して中国に相対 する「戦略的自律」の外交によりインドの対米関係が構築されている ことが強調される。 第2章(印中関係)では、国境問題を抱えつつも、経済関係の拡大 が著しい隣国中国との関係を「協調と警戒によるアンビバレントな関 係」と捉え、その適切なマネージメントに最大限の精力を傾けねばな らないインドの対中外交の基本スタンスが示されている。また、その 「アンビバレントな関係」は、経済的な協調と安全保障上の警戒という 二国間関係の側面のみならず、「グローバルなレベルでは協調し、リー ジョナルとサブリージョナルのレベルでは対抗・対立する」(69頁)と いう構図から描きだされている。中国の「一帯一路」に対する警戒的 な見方もある中、アジア投資銀行(

AIIB

)には参加するというインド の対応は、まさに、このアンビバレントな関係から説明がつくものとも

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いえよう。 第3章(日印関係)では、冷戦後に緊密化してきた日印関係を振り返 り、今日の両国関係は「まさに第二の蜜月時代にあり、終戦直後の蜜 月時代とは比較にならない程の深さや広がりを持っている」(100頁) とする。そして、「対中政策で、経済分野については関与(エンゲージ メント)を図り、安全保障分野についてはヘッジ(警戒対応)を採る という政策的なニーズが両国関係を緊密化させた」(114頁)と指摘し ている。しかし、インドから見た日印関係は、主にリージョナルな位 置づけとなり、「戦略的自律」外交からインドが日本との同盟関係を求 めることはないとする。それでも、中国の台頭を要因とする緊密化し た関係は永続する可能性が高いため、日印関係を「アジアの公共財」と して位置づけ、中国が国際社会のルールに遵守した行動をとらせるよ うに誘導するよう協働することが重要であり、そのためにも、日印が協 力して東アジア共同体の創設に注力すべきであると提言する 第4章(ルック・ウエストとインド洋政策)では、インドにとって多 数の在外インド人の存在という強みを有する中東、アフリカと戦略的 重要性を有するインド洋を合わせて、リージョナルな観点から優先度 の高い地域とし、地域諸国との二国間関係のみならず、地域全体に対 する政策を考察しようとしている。しかし、この広範な地域に対する まとまった政策は見当たらないとし、リージョナルなレベルの外交とし て手を付けづらく、順調でもない、と指摘する。また、インド洋と太 平洋を一体的に捉える「インド太平洋」という観点から、「インド太平 洋構想は、西太平洋へのプレゼンスを目指すインドには進出のために 絶好の口実となるし、海洋進出を図る中国に対抗できる意義もある」 (141頁)一方、インド洋を自国の大洋と見なす傾向があり、中国を刺 激する政策には慎重であるインドとしては、インド太平洋構想に諸手 を揚げての歓迎はしにくいだろう、と考察する。 第5章(南アジア)では、「インドの内陣である」とする南アジアを 取り上げている。そこで、インドは「南アジアの盟主としての地域の 派遣を確立したいという志向を持つ」(148頁)が、域内の超大国であ るが故に、インドに対する周辺国の警戒感や不安感を生み出す状況が あることを浮き彫りにしている。また、インド・パキスタン関係がイ ンドの大国化と南アジアの安定に大きな鍵となること、中国の経済進

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出がインドによる対応の強化を促していること、南アジア地域協力連 合(

SAARC

)の進展は、域内の貿易等経済関係による利益が如何に拡 大するかに依存していること、などを指摘し、「圧倒的なナショナル・ パワーを持つインドは、圧倒的な存在であるがゆえ、逆に域内覇権を 確立することに難行苦行しているようにも見える」と締めくくっている。 終章(モディ外交)で著者は、「現代のインドは、戦略的自律性を重 視し、同盟関係を持たず、二つの三国関係-アジア・インド太平洋で は印米日関係の強化、ユーラシア大陸東部では印中ロ関係の重視-の 一角を占めることで最大限の利益をあげる外交政策を展開してきた」 (171頁)と結論付けている。そして、モディ外交のゆくえについては、 モディ首相が外交に関わった経験がないこと、ネルー主義者でないこ と、並びに、与党インド人民党が下院で単独過半数を有していること、 シュレーシュタ・バーラト(偉大なるインド、特に秀でたインド)を 標榜していること、から「右翼中道的なプラグマティック外交」にな る可能性が高い、とする。 本書の執筆意図について、著者は、「できる限りインド外交に関する 大きな絵を描くことを目的とし、口幅ったく言えば、インド外交に関 する高度な入門書を目指した」(あとがき)という。インド外交を、グ ローバル、リージョナル、サブリージョナルという3つの異なるレベル から提示しようとした試みは、まさに、その現れと言えよう。 インドの外交や安全保障の全体を総攬する著作は、これまで複数の 研究者がそれぞれの専門の研究項目を執筆する型のものが出版されて きた。最近でも、『現代インドの国際関係』(近藤則夫編、アジア経済 研究所、2012年)や『軍事大国化するインド』(西原正・堀本武功編、 亜紀書房、2010年)などがあり、インド外交を理解、把握するうえで、 有益なものとなっている。しかし、複数の執著者によるため、インド 外交を全体的に捉え、その政策や戦略を浮かび上がらせる、という点 が弱かった。また、インドで出版されている著作も、個別のテーマや、 個別の時代を取り上げるか、インド外交全般を総攬するものでも各国 との関係を順次論じていくものが多く、インド外交の政策や戦略を大 きく描き出したものは見当たらない。その点、本書は、単独の著者に よるものであり、論旨の一貫性が高く、主要国や地域との関係を個別 に見るだけでなく、現代インド外交を全体として理解する視点が示さ

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れた好著である。 また、本書では、インド外交を総攬する中で、インド外交において 近年重要性を増した対日外交、日印関係の位置づけがしっかりと示さ れている。更に、序章から終章に至るまで、随所に中国との関係が論 じられ、インド外交に貫かれる対中要因、対中関係の要素が浮き彫り にされている。このため、本書は日印関係及び印中関係の理解にも大 きく役立つものである。 しかし、本書を通読すると、いくつか気になる点がある。 まず、第1に地域概念、リージョンとサブ・リージョンの地域的範囲 と関係である。本書では、「リージョナルなレベル」として、インドの 東側にあたるアジア・西太平洋とインドの西側にあたる中東・アフリ カ・インド洋を示し、極めて広域な地理的範囲をリージョンとしてい る。そのため、南アジア地域はリージョンではなく、サブ・リージョ ンと整理している。 しかし、この概念規定について十分な説明がなされておらず、すん なりと理解できない恐れがある。本書で示された3つのレベルでのイン ド外交をより深く、詳細に検討するにあたっては、例えば、本書の規 定する「リージョン」を「拡大された地域」(

Extended region

)とし、 南アジアを「リージョン」と規定する、即ち、グローバル、拡大リー ジョン、リージョンの3つのレベルとしてはどうであろうか。それによ り、本書ではサブ・リージョンとして南アジアだけが検討されているが、 中央アジア、湾岸諸国、東南アジア(

ASEAN

)といった地域「リージョ ン」に対する外交の検討や、南アジア(

SAARC

)の中でも、パキスタ ン、アフガニスタンへの対応やネパール、ブータン、バングラデシュへ の対応の違い等を「サブ・リージョナル」な観点から検討することも 可能となろう。実際、

SAARC

という地域機構の存在もあり、南アジア の行政実務者等は、南アジアあるいは

SAARC

を地域「リージョン」と 捉え、南アジア(

SAARC

)の一部、例えば、ブータン、インド、バン グラデシュ 3国に係る協力等を「サブリージョナル協力」としている。 また、ルック・ウエスト政策と環インド洋政策の検討についても、モー リシャスや南アフリカなどの拠点となる国との二国間関係、中東やアフ リカといった地域「リージョン」との関係の上に、「拡大された地域」 としての「インド以西(中東・アフリカ)/インド洋」への政策を位

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置付けることにより、検討に厚みが増すものと思われる。 第2に、ロシアとの関係である。本書においては、随所にソ連やロシ アへの言及はあるが、独立の章立てとはなっていない。冷戦期のソ連 がインド外交に占めていた位置づけが冷戦後に大幅に低下したことは 確かであろうが、今日でも、伝統的な友好国であったロシアが、対米、 対中バランスにおいて重要な役割を果たしており、インド国防装備の最 大パートナーであることを踏まえれば、一章立てて検討する十分な理 由があろう。また、地域全体としての存在感を増している欧州、欧州 連合(

EU

)や東南アジア諸国、

ASEAN

との関係についての検討を加え れば、インドによるグローバルなレベル及びリージョナルなレベルでの 外交の展開についての説得力が増そう。 第3に、モディ外交の展望である。終章を「インド大国化の展望とモ ディ外交」と打ち出しているが、本書で示された3つのレベルでの外交 をモディ首相、あるいはモディ政権がいかに進めていくかの展望の記述 には物足りなさを感じる。本書の執筆がモディ政権発足後数か月以内 になされており、その段階では、モディ政権が「戦略的自律」の外交 をいかに推し進めていくのかがよく見えず、多くを語れないことは理解 できる。しかし、その展望について、もう少し踏み込んだ記述ができ れば、序章で示された枠組みが、いかに洞察力に満ちたものかをより 印象付けることができたであろう。 以上の点を踏まえても、本書は、「インド外交に関する高度な入門書 を目指した」とする著者の目的を十分に満たすものであり、一般読者 やインド研究者のみならず、外交実務者にとっても座右の書となるも のである。著者によって示された、3つのレベルで展開されるインド外 交について、地域概念やモディ外交の展望についての更なる検討が加 えられ、現代インド外交に関する研究が更に深められることを期待し たい(本書評は評者の個人的な見解に基づくものであり、所属機関の 見解を示すものではない)。 たが まさゆき ●外務省

参照

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