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第 3 章 仮説の設定と研究方法

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第 3 章  仮説の設定と研究方法

  この章では、先行研究と既存データの分析から仮説を導出し、その検証のための具体的な調査 方法を検討する。先行研究のレビューから、企業家活動における社会ネットワークの実態につい ては、諸外国で多くの研究成果があることがわかった。しかし、日本の企業家を対象とした同様 の研究は非常に少ない。同様に、企業家活動における社会ネットワークの性差についても、日本 では先行研究がない。日本の企業家が創業期に活用する社会ネットワークが、諸外国のそれと同 じであるなら、あえて日本の企業家を対象にして研究を行う必要はない。しかし、第2章で分析 した日本の事例からは、諸外国の先行研究とは異なる傾向もみられた。そこで日本の創業期企業 家の社会ネットワーク活用について仮説を設定し、検証することにより、諸外国とは異なる日本 の企業家独自のネットワーク活用とその効果を明らかにする。さらに、企業家活動における社会 ネットワーク活用において性差はあるのかについても仮説を設定し、先行研究と異なる実態があ るのかを分析する。

1.仮説の設定

  (1)社会ネットワーク活用に関する仮説

  日本の創業期企業家の企業家活動における社会ネットワークの実態を考えるとき、社会ネット ワークは静的なものではなく、Burt(1992)等で指摘されているように企業家活動自体が新たな社 会ネットワークの構築活動であるという動的な特徴を踏まえる必要がある。企業家が事業計画を 策定し、最も外部から経営資源の調達を行う可能性の高い創業期と、事業化が実現し、事業が軌 道に乗りだした創業後では、活用する社会ネットワークは異なっていることが考えられる。

  先行研究においても、直接やりとりできるパートナーのネットワークの平均サイズは、動機付 け段階が8人、事業計画段階が14.7人、起業段階が12人と変化しているという研究成果が示さ れており、事業計画段階で増加したネットワークが、起業後には絞り込まれている(Greve &

Salaff 2003)。

  創業後の新たなネットワーク構築について、Aldrichらの先行研究では、創業期には今まで知ら なかった「見知らぬ人(stranger)」よりも、家族、友人・知人、仕事上の知人など、旧知のネット ワークが役立っているとしている(Aldrich 1999)。「見知らぬ人」つまり新たに構築するネット ワークは、契約関係や市場を通じた取引関係などによる実利的な結びつきであり、資金の借り入 れなどはこうした新たなネットワークから支援を得ている(Aldrich, Brickman Elam & Reese 1997)。

  一方、第2章で分析した日本の企業家の社会ネットワークの活用事例46事例をみると、事業の 準備段階よりも、創業後に異業種交流会等で出会った人と新たなネットワークを築いたり、仕事

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に必要なネットワークを自ら主宰したり、同業者の集まりに参加したりと、社会ネットワークを 拡大する活動が見られる。

  筆者が知己を得た多くの企業家も、創業後に積極的に交流会やイベントに参加し、また自ら経 営者や知人を集めてグループをつくり、ネットワークを拡大していた。2000年前後のITバブル 期に渋谷でIT系ベンチャー企業の経営者が集まった「ビットバレー」をみても、企業家は新た なつながりを求めて交流会やイベントに参加している。

  もちろん、業界団体や商工団体への加入も、創業後に行うネットワーク活動の一つである。ニ ュービジネス協議会のような主にベンチャー企業経営者が加入している団体もある。このような 業界団体や経営者団体は諸外国にも存在するが、先行研究では団体への加入ではなく、そのメン バーとの個人間のネットワークが分析対象になっているので、創業後に新たに築いたネットワー クなのかどうかは不明である。金井(1994)が示すように、米国でも、企業家が他の企業家や支 援者、投資家等と出会う「フォーラム型」のネットワークに参加したり、他の経営者と深くつき あい、精神的サポートを得る「ダイアローグ型」のネットワークに参加するといった使い分けが されている可能性もある。だが、他の定量分析を行っている先行研究からは、同業者や他の経営 者とのネットワークを積極的に構築している、あるいは自らネットワークを主宰するといった活 動は見えてこない。

  日本の経営者は、事業を計画する段階や立ち上げる段階だけではなく、事業が軌道に乗り始め た段階でも、単に契約関係や取引関係に基づく「見知らぬ人」とのネットワークを活用するだけ ではなく、もっと強いつながりの知人、友人を新たに作り、そのネットワークから仕事を得ると いう活用の仕方を行っているのではないか。弱い紐帯の関係を強い紐帯の関係に発展させること によって、仕事の獲得など経営に役立てている。「経営には人脈が大事」という知人の企業家の言 葉には、まず人を知り信頼を得ることで、仕事がついてくるという意図が込められているように 思われる。

  以上の考察から、日本の創業期企業家の社会ネットワークの活用方法は、諸外国の企業家と異 なる点があると考えられる。そのことに基づき、以下の仮説を設定する。

  <仮説1>

  日本の創業期企業家の社会ネットワーク活用は、創業後のネットワークの拡大と活用方法にお いて外国の企業家の社会ネットワーク活用と異なる。

  仮説1−1

    創業準備段階、創業時よりも創業後に社会ネットワークを拡大している。

  仮説1−2

    その際「知らない人」である弱い紐帯をスポット的に活用するのではなく、信頼関係に基づ く強い紐帯に変え、そこから経営にプラスとなる効果を得ている。

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  仮説1−1は、先行研究において創業後に社会ネットワークを絞り込んでいるという結果に対 して、日本の企業家はむしろ社会ネットワークを新たに構築しているのではないかという仮説で ある。仮説1−2は、創業時は強い紐帯である家族や友人、知人とのネットワークが重視されて いるが、創業後は弱い紐帯である「知らない人」とのスポット的な取引や契約関係を活用すると いう諸外国の研究成果に対して、日本の企業家はビジネス交流会等に参加して「知らない人」と の出会いを求めるが、それがスポット取引のような弱い紐帯の関係にとどまるのではなく、まず 信頼関係を築いて強い紐帯を築いてから、仕事の紹介や人の紹介につなげていくというプロセス をとるのではないかという仮説である。

  (2)社会ネットワーク活用における性差に関する仮説

先行研究においては、女性は仕事経験の不足から、仕事仲間から専門家を探すのは苦手であり、

友人や家族といったビジネスとは無関係の社会ネットワークをよく活用する傾向にある(Aldrich, Brickman Elam & Reese 1997)とされている。Greve & Salaff(2003)においても、女性企業家は 家族のネットワークを男性より活用しているという、同様の結果が紹介されている。Greve &

Salaff は、その理由を「女性は男性中心のビジネス・サークルの中で、ネットワークを拡大する

ことが困難であるから」としている(2003)。

男性企業家と女性企業家のネットワークの違いは、メンバーの性別分布にも表れている。男性 の構築しているネットワークには女性メンバーは10%程度しかいないのに対し、女性の構築して いるネットワークでは、男性は66%に上る(Aldrich, Reese, & Dubini 1989)。それでも女性が 構築しているネットワークは女性の比率が高いという傾向が見られ、女性は同性で集まりやすい というsame-sex biasが見られる(Aldrich, Brickman Elam & Reese 1997)。

  これらの先行研究から、女性企業家の構築・活用する社会ネットワークは、男性の構築するネ ットワークと多少異なる傾向を示しているといえる。特に家族とのネットワークをよく活用して いるという点と、異性のメンバーが多いネットワークに参加しているというが特徴的である。

  第2章でみた日本の企業家の事例をみると、確かに女性は家族や友人といったビジネス関係以 外のネットワークを活用しているが、同業他社の経営者や異業種交流会で知り合った人とのネッ トワークも活用している。また、女性だけのネットワークは確かに多いように思われる。

  また、第2章の事例や筆者の周りの女性経営者の話から、女性は仕事の獲得などビジネス目的 を全面に出してネットワークに参加したり、ネットワークを構築するのではなく、まずビジネス とは関係なく信頼関係を築き、そこから広がったネットワークで結果として仕事を得ているとい うパターンが見られる。男性の方が、仕事の獲得や仕事上のサポートを得ること目的として、人 の紹介や交流会への参加を行っているように見受けられる。ネットワークづくりのパターンや活 用方法においても、女性は男性と異なっていることが考えられる。

  日本の企業家が活用する社会ネットワークについて、性差の視点から分析した先行研究は皆無 である。そこで、諸外国の先行研究を参考にして、日本の企業家の社会ネットワーク活用につい ても、性差が存在することを仮説とし、検証することとする。

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<仮説2>

  日本の女性企業家の社会ネットワークは、男性企業家の社会ネットワークと種類、構造、活用 方法の点で異なる。

  仮説2−1

    女性企業家は、男性企業家より家族や友人など、ビジネス関係以外のネットワークを活用し ている。また女性企業家が構築・活用するネットワークのメンバーは同性の比率が男性より高 い。

  仮説2−2

    女性企業家はビジネス目的でネットワークを構築したり参加したりするより、まずメンバー と信頼関係を築き、結果としてビジネスに役立っている。男性企業家はビジネス目的でのネッ トワーク構築や参加が多い。

  仮説2−1は、諸外国の先行研究の成果が日本においても適用できるのかを確認するものであ る。仮説2−2は、ネットワークの構築や活用の具体的なプロセスを男女で比較した場合、事例 や身近な実例から考えられる違いを挙げたものである。

  これらの仮説を検証するために、以下の節においては、まず研究対象とする社会ネットワーク と社会関係資本、企業家活動における社会ネットワークの位置づけについて整理し、研究のフレ ームワークを提示する。

2.社会ネットワークと社会関係資本

  (1)社会関係資本

社会ネットワークそれ自体は、「アクターと呼ばれる行為者としての社会単位が、その意図的・

非意図的な相互行為の中で取り結ぶ社会的諸関係の集合」(金光 2003, p.i)であり、社会ネット ワーク構築の結果、どのような効用がもたらされるのかは規定していない。しかし、意図的、非 意図的にかかわらず、何らかの働きかけを行うのは、相手から、あるいはネットワークそのもの から、有用なものが得られるからであろう。

Social Capital(社会関係資本)とは、「社会ネットワーク構築の努力を通して獲得され、個人 や集団にリターン、ベネフィットをもたらすような創発的な関係資産」(金光 2003, p.238)であ る。金光は、これを経済における投資とリターンになぞらえて、「社会ネットワークへの投資行為 による、何らかのリターンの取得という過程」ととらえている(金光 2003 p.239)。これを図示 すると、図3−1のようになる。他者から何か有益な情報を得ようとするとき、一方的に話を聞 きだすのではなく、自分から価値のある情報を提供すると相手からも価値のある情報を引き出す ことができる。Give and Takeとはよく言ったもので、先に投資(give)しないとリターン(return)

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は得られない。自分から努力して社会ネットワークを構築する、あるいは既存のネットワークに 何らかの働きかけをすることで、自分にとって役立つ何かが得られるのである。このリターン、

ベネフィットの内容は、社会ネットワークを捉える文脈によって異なる。

図3−1  社会関係資本の概念 

(金光2003, p.239より筆者加筆)

社会ネットワークも社会関係資本も、もともと社会学の分野において創出された概念である。

たとえばコミュニティ研究の分野では、社会関係資本は「コミュニティにおいて、信頼、協力、

共同行為の基礎となるもの」(Jacobs 1965)と考えられた。階級研究の分野では、人的資本との 関係で論じられるようになった。Colemanは、社会関係資本を実体ではなく機能として定義して いる。すなわち、①ある側面の社会構造であり、それはその構造の中にある個人の特定の行為を 促進する、②他の形態の資本と同じように生産的であり、それなしでは獲得することのできない 特定の目的を実現することを可能にする、としている(Coleman 1990)。Colemanのとらえ方に は、社会関係資本は個人を超えた社会構造に規定されるという公共財的側面と、自己の利益の追 求のために利用するものという私的な側面の両方が含まれる。

公共財的側面は、コミュニティや民主主義における規範や互酬性と、その前提となるネットワ ークが結びついた形で概念化された。Putnam(2000)は、アメリカにおける市民社会の崩壊をさま ざまな統計データから浮き彫りにし、公共財的社会関係資本の必要性を唱えた。

社会ネットワークはコミュニティのメンバー間の信頼を醸成し、貧困や失業問題、健康問題の 解決という社会関係資本をもたらす。さらに開発経済学的な方向で、世界銀行等において社会ネ ットワークと社会関係資本の研究が進められている。

一方、自身の目的達成のために社会ネットワークや社会関係資本を活用するという私的側面は、

たとえば就職・昇進、移民、学歴など獲得されるベネフィットによって多様な研究がすすめられ た。Granovetter(1973)は、マネジャーの転職における「弱い紐帯」の社会ネットワークの活用を 論じた先駆的研究成果である。Granovetter は、アクターが自身の利益のために社会ネットワー クを活用しているという観点でとらえているものの、社会ネットワーク自体はそのネットワーク が存在する社会の文脈に規定され影響を受けるという「埋め込み理論」を提唱している。

これに対してBurtは合理的選択理論を拡張した概念に基づき、産業分野や市場ごとのグループ

投資行為

社会関係=

社会ネットワーク

リターン=

社会関係資本

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の間に存在する構造的空隙を埋め、それらの間にブリッジングすることによって得られる情報や 知識によって、企業家は社会的利益を得て、経済的な競争に有利な位置取りをすることができる としている(Burt 1992)。つまり、企業家は自身の目的達成やベネフィット獲得のために、自ら 有利な社会ネットワークを選択的に構築しているのである。

 

  (2)埋め込み理論

  Burtは企業家が自身の目的達成のため、あるいは競争優位を築くために、主体的に社会ネット ワークを構築するととらえた。しかし、社会ネットワークを構成する主体(アクター)のは、常 に自分にとって最も高い効用を提供してくれる相手を合理的に選択してネットワークを結んでい るわけではない。また、アクターは単一のネットワークのみ構築しているのではなく、しばしば 複数のネットワークを構築し、多重構造をなしている。そしてネットワークは、それらが存在す る社会の文脈に影響を受ける。たとえばインターネットの普及した社会では、ウェブ上の掲示板 やフォーラムなどで知り合った人同士が電子メールでやりとりを行い、一度も実際に顔を合わせ ることなく、協力して一つの仕事を行うこともある。昔の村社会では、村の外とのネットワーキ ングはごく限られた者のみに限定され、強い紐帯のネットワークを結ぶことが当たり前であった。

このように、社会ネットワークの構造や特徴は、社会の状況や人々の意識に大きく影響を受ける のである。このような考え方を、「埋め込み(embedded)理論」という。Granovetterが1970年代 からこの埋め込み理論を提唱し、転職におけるネットワークの研究から、個人の転職が社会ネッ トワークにおける情報流通に影響を受けていることを明らかにした(Granovetter 1973)。

  「埋め込み理論」においては、社会ネットワークの構造と関係の特性、アクターの数や、凝集 性や開放性、さらに紐帯の強さや流通する情報の量や内容などが、個々のアクターの行動に影響 するという視点を持つ。ネットワークの構造がアクターの行為を促進したり制約したりするので、

ネットワークの構造と関係特性が、ビジネスチャンスや経営資源へのアクセスの可能性や、可能 性の高さに影響を与えていると考える。つまりネットワークの特性が、アクターにとっての何ら かの利得=社会関係資本を生み出すことになる。

  企業家活動においては、社会ネットワークからどのような利得を得ているのか。コミュニティ 研究や市民活動論、開発経済論など多くの分野で、社会ネットワークから得られる利得として信 頼が挙げられている。信頼関係は、直接的な相互関係なくしては成り立たない。しかし、企業家 は信頼を得ることだけを期待して社会ネットワークを構築しているのだろうか。信頼は基礎とな るが、その信頼をベースとして新たな取引関係を結んだり、重要な情報を入手したり、資金を提 供してもらったりすることを期待しているのではないか。詳細な実態は調査してみないとわから ないが、具体的には、たとえば心理的サポート、取引先の紹介、経営に関する知識、専門知識、

業界動向などが考えられる。そしてそれらを獲得した結果として、事業化の実現や売上高の増加、

外部経営資源の調達などの成果を上げることができる。

  本研究では、日本の企業家が構築し、活用している社会ネットワークの構造と関係の特性を明 らかにするとともに、社会ネットワークから獲得している社会関係資本につていても明らかにし たい。

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59 3.企業家活動のプロセスと社会ネットワーク

  企業家活動とは、技術開発や新たな事業システムの開発によって新たな製品やサービスを創出 し、市場に供給することで、社会に新たな価値、あるいは付加価値を提供する活動である。企業 家は突然、事業のアイデアを思いつくのではなく、個人的な経験や環境変化に影響を受け、また 何らかのきっかけ(トリガーイベント)に背中を押されて起業する(Shane 2003)。

  企業家活動は瞬時に、一気に行われるのではなく、段階的に実行される。単純化すると、起業 機会の発見や起業意欲の喚起といった「動機付け段階」、事業アイデアを具現化し、具体的な事業 計画を策定する「事業計画段階」、そして実際に事業化に向けてアクションをおこす「起業段階」

である(Greve & Salaff 2003)。

  企業家活動の段階に応じて、企業家の社会ネットワークのサイズやメンバー、紐帯の強さやネ ットワークから得ている資源などが変化することは、平田(2002)、Greve & Salaff(2003)などで 実証されている。平田は、「起業家が常にさまざまなネットワーキングを活発に行うのは、それぞ れの発展段階でネットワーキングによって異なる成果を得ようとしているからである」として、

起業家個人が事業アイデアを温め、事業化へと進めていく段階では、対話型ネットワークによる 心理的影響を、組織形成段階では対話型ネットワークおよび資源獲得型ネットワークによって情 報収集、知識獲得、そして創業チームや優秀な人材の獲得が行われる。事業化が進んで新市場が 形成される段階では、資源獲得型ネットワークにより、他社の動向に関する生の声を収集し、ま た質疑応答によって情報の知識化も可能となる。こうした情報収集・知識獲得によって、ベンチ ャー企業は市場におけるユニークなポジショニングを確認し、自社をそのポジションにおけるよ う、成長を重ねていく(平田 2002)。

  このように、企業家活動のプロセスにおいて、構築され活用される社会ネットワークは変化す る。では、「企業家活動における社会ネットワーク」の全体像が俯瞰できるような企業家活動の段 階はどの部分だろうか。企業家が多くの経営資源や情報を必要とし、また最も困難で心理的サポ ートを必要とするような段階は、起業の実行段階であろう。ゼロから新しい事業を立ち上げるの であるから、資金、オフィス、備品、製品製造のための技術や外注先、販売先、従業員、その他 すべての経営資源を調達しなければならない。いくつかの資源は市場から(たとえば、店に行っ て買うとか、ハローワークに求人票を出すとか)調達することが可能であろう。しかし、情報の 非対称性や信頼の欠如から、創業間もない企業が市場から(質の高い、良い条件で)経営資源を 調達することは困難である。そこで、社会ネットワークを通じての調達が不可欠となる。

  さらに、社会ネットワークの変化を明らかにするため、起業後、事業が軌道に乗ってから新た に構築したネットワークについて把握する必要がある。これによって、起業時との比較が可能に なり、社会ネットワークの変化が浮かび上がる。そのため、本研究では、企業家が起業前後に活 用した社会ネットワークと、起業後に構築した社会ネットワークについて調査する。

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60 図3−2  企業家活動のプロセス(Shane のモデル) 

出典:Shane, S. (2003) A General Theory of Entrepreneurship, Edward Elgar Publishing

  なお、これらの前段階となる「動機付け段階」や「事業計画段階」あるいは「起業機会の発見 段階」は、外形的な時期的特定が難しく、その時期の社会ネットワークを正確に思い出すという ことは困難である。調査対象を起業準備中の者に広げれば、現時点での社会ネットワークを確認 することができるであろうが、そうすると起業後の社会ネットワークとの比較が不可能となる。

本研究では、こうしたデータ収集上の問題から、企業家に対して起業時、および起業後の社会ネ ットワークに焦点を当てることとする。

4.アクターとネットワーク構造特性

  (1)ソシオセントリック・ネットワークとエゴセントリック・ネットワーク

  社会ネットワークの構造を分析するにあたっては、ネットワーク分析の手法を参考にする。ネ ットワーク分析の手法においては、関係の構造、関係の強さ、ネットワークの大きさ、ネットワ ーク密度(関係の緊密さ)、ネットワーク中心性、拘束度などの観点からネットワークの構造を分 析する(安田 1997)。

  ネットワーク構造を分析する際には、アクターとアクターの関係を可視化すると理解しやすい。

アクターを点、アクター間の関係を線(矢印つきで方向を示す場合もある)で結んで示す方法を グラフ理論という。

ネットワークの関係構造を把握する際には、2つのアプローチ方法がある。ネットワークの全 体像を押さえてから、個々の内部の行為者の特性を見ていく方法で、ソシオセントリック・ネッ

環境

・産業

・マクロ環境

発  見

起業機会 機会の利用

実行

・資源の組み合 わせ

・組織デザイン

・戦略 個人的特性

・心理学的要因

・人口学的要因

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トワークという。この方法は、あるネットワークに着目し、そのメンバー同士の関係がどうなっ ているのかを分析する。もひとつはエゴセントリック・ネットワークに着目する方法で、ある特 定の者が自分の周りにどのようなネットワークを構築しているのかを分析し、その人を中心とし たネットワークを浮かび上がらせていく。図3−3は、2つのネットワークをグラフ理論で表し た概念図である。

  ソシオセントリック・ネットワークを調査する際には、調査対象とするネットワークのメンバ ーの動きを把握しなくてはいけない。そのため、たとえばメンバーへのインタビュー調査やメン バーの交流を観察調査する。会話の長さや誰から誰に声をかけたかなど、観察して記録していく。

この方法だと、ひとつのネットワークについて長期的に観察しないと関係が見えてこない。また、

メンバー間の関係は客観的に把握することが可能であるが、調査者が観察していない時のコミュ ニケーションは把握できないし、会話の中身=流通している情報もインタビュー等で本人に確認 しないとわからない。

  一方、エゴセントリック・ネットワークは、特定の者からみたネットワーク構造である。その 者以外のメンバー同士の交流は不明であるが、多くの調査対象者に直接ネットワークの構造を確 認することができるため、質問紙による大量調査が可能である。

  企業家の社会ネットワークの実態や構造を明らかにするためには、できるだけ多くのネットワ ークを分析する必要がある。そのため、企業家に対して質問紙調査およびインタビュー調査を実 施し、企業家を中心としたエゴセントリック・ネットワークの構造を分析する。

  企業家を中心としたエゴセントリック・ネットワークは、どのようなネットワークにつながっ ているのであろうか。ネットワークの多様性を図る指標として、メンバーの年齢や性別、職業な どがあるが、実態的なネットワークはそれらに加えて出身大学が同じ、子供の学校のPTAの仲 間、起業前に勤務していた会社の同僚など、社会的な立場や役割が同じ人たちのネットワークで あることが多い。企業家は誰とネットワークを構築しているのか、アクターの違いによって得ら れる社会関係資本に違いはあるのか。直感的には、ネットワークごとのアクターの違いによって、

業界情報が入手できたり、心理的なサポートが得られたりと、異なるメリットが得られるように 思われる。企業家は誰とネットワークを構築しているのか、本研究ではこの点にも焦点を当てる こととする。

    (2)ネットワークの多層性とアクター

  社会ネットワークの構造分析を行う場合、ある特定のネットワークを対象として分析すること が多い。グラフ理論で表されるアクター同士の関係を結ぶ線の数は、理論上、アクターの人数×

(アクターの人数−1)÷2となる。ネットワークを構築しているアクターの数が多いほど、ア クター間の関係を観察し、やりとりを記録し、関係構造を分析するのは非常に困難である。観察 者が一度に観察できる人数にも限りがある。アクターが常に一同に会しているわけではないので、

観察者の知らないところで交わされているやりとりは見えない。一つのネットワークを対象にし てデータ収集を行うのも大変な困難が伴う。

  しかし実際のネットワーキングはもっと複雑である。一人の者が一つのネットワークだけに参

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加しているということはむしろ稀で、通常は一人が複数のネットワークに参加している。そのつ ながり方も、一つの紐帯で他のネットワークとつながっているだけではなく、自らが中心となっ ている複数のネットワークに参画している場合も多い。先行研究の多くは、企業家を中心とした

図3−3  ソシオセントリック・ネットワークとエゴセントリック・ネットワーク 

注:安田(1997)より筆者作成。

エゴセントリック・ネットワークの分析に際して、企業家の持つ強い紐帯の数(直近半年以内に 重要な内容について話し合った人の数など)でネットワークの大きさの代替指標としてきた(図 2−4  A)。しかし実際には、強い紐帯で結ばれている相手を通して他のネットワーククラスタ ーと関係を結んでいるであろうし、同時に強い紐帯の相手以外の他のアクターとも関係をもって ネットワークに所属しているであろう(図3−4  B)。

たとえば、一人の企業家が知人を通じて原料の供給メーカーのグループとつながり、大学の同 窓会のネットワークにも所属し、同業経営者の交流会にも参加しているという場合である。一人 の企業家の持つネットワークを多層的にとらえると、ネットワークの構造特性のとらえ方も変わ ってくる。たとえばネットワークのアクターの多様性については、Aldrichら多くの先行研究では、

企業家と直接紐帯を結んでいるアクターの性別の比率や、年齢、よく知らない人の比率、あるい はアクターの類型(家族・親戚、友人・知人、仕事上の仲間等)ごとの比率等によって分析して いる。しかし企業家が複数のネットワークに所属していることを前提とすると、そのネットワー クごとにこれらの多様性をとらえる必要がある。ネットワークの大きさや関係の強さ、中心性(凝 集性)、拘束度等の構造や特性も同様である。埋め込み理論に基づいて考えると、それぞれのネッ トワークの構造や特性によって、得られる社会関係資本も異なるはずである。

本研究では、企業家の社会ネットワークをより実態に近い形で全体像を把握することを試みる。

企業家の持つ社会ネットワークの実態と構造の全体的な傾向を把握する場合、このように企業家

<ソシオセントリック・ネットワーク> <エゴセントリック・ネットワーク>

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が所属する(あるいは紐帯をつないでいる)多層的なネットワークについてできるかぎりデータ を収集することが必要であると思われる。もちろん、多くの企業家についてそれぞれ観察を続け て客観的なデータを得ることは非常に困難であり、実現性は乏しい。エゴセントリック・ネット

図3−4  企業家の多層的ネットワークの概念図 

注:筆者作成。

ワーク的なアプローチで、企業家自身の主観に基づいて、多層的なネットワークの構造を明らか にするようなデータ収集方法を検討すべきである。このことは、企業家に対する質問紙調査の調 査票設計にかかわってくる。予備調査によってある程度企業家の持つ社会ネットワークの特徴を 把握し、それを基に適切な調査票設計を行いたい。

 

5.経営成果との関連

  企業家が社会ネットワークから得た社会関係資本は、企業家活動にどのような効果をもたらす のか。Burtは、企業家が交流のない複数の市場やグループ間の構造的空隙を埋めてブリッジを架 けることで、他社が知りえない情報を入手し、競争優位に立てると考えた(Burt 1992)。Aldrich

A:先行研究にみる企業家の     社会ネットワークモデル

企業家

B:企業家の多層的な

    社会ネットワークのモデル

同一の 企業家

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らも、創業期の企業家が強い紐帯の社会ネットワークから取引先や顧客、創業チームの人材を得 ており、弱い紐帯のネットワークからは資金調達をしていると述べている(Aldrich 1999)。

  企業家が社会ネットワークを構築することによって、これらの社会関係資本を獲得することが できたとすれば、事業化が実現し、売上高は増加することが予想される。しかし、Aldrichらが行 ったノースカロライナ州のリサーチトライアングルパーク周辺のオーナー経営者に対するパネル 調査の結果によれば、経営者のネットワーク活動(構築・維持に費やした時間)と2年間の企業 の存続率および利益に相関関係はなかった(Reese & Aldrich 1995)。2年間という短期間では存 続率や利益に大きな変化がなかったのか、あるいはネットワーク活動だけでは必ずしも社会関係 資本が得られたとは限らず、ネットワークについて別の指標を使うべきだったのか、理由はわか らない。企業家は社会ネットワークから何も得ていないのか、予備調査で確認する必要がある。

  その上で、経営成果を分析する指標として、たとえば従業員数の増加や、創業時の外部資金調 達額、創業準備期間の短縮などの量的データとともに、心理的な支えやモチベーション、他では 入手できない情報へのアクセスなど、質的なデータの収集についても試みたい。

6.社会ネットワークの性差

  女性企業家の社会ネットワークと男性企業家の社会ネットワークの間には、違いがあるのか、

ないのか。この疑問に答える先行研究は、残念ながら日本にはない。企業家の社会ネットワーク に関する性差については、諸外国ではいくつかの研究成果が見られる。

  Aldrichらは、社会ネットワークのサイズ、ネットワーク構築に費やした週当たりの時間、ネッ

トワーク維持に費やした週当たりの時間、ネットワークにおける自分と異なる性のメンバーの割 合、同様に知らない人の割合を男女企業家の間で比較している(Aldrich, Reese, & Dubini 1989)。

その結果、ネットワークサイズやネットワーク活動には差がなかったものの、異なる性のメンバ ーの割合は男性企業家に比べて有意に低かった。「女性は女性同士のネットワークを作る」という 特徴があることがわかったのである。

  Greve & Salaff(2003)でも同様に、ネットワークのサイズや自社のビジネスについて他者に

相談した時間(ネットワーク活動時間)には男女間で差がなかった。ただし、女性は男性よりもネッ トワークメンバーにおける家族・親戚の割合が高く、自社の起業や事業運営に関する相談相手も 家族であることが多かった。

  これらの先行研究から、社会ネットワークにおける性差を分析する場合には、ネットワークの メンバーが誰であるか、ネットワークメンバーの性別による多様性について分析する必要がある ことがわかった。さらに、こうしたネットワーク構造における男女間の相違が、社会ネットワー クから獲得する社会関係資本の内容や質に影響するかどうかも関心のあるところである。

  なぜ、企業家の性別によって社会ネットワークのメンバーやメンバーの多様性に差が生じるの か。第 2節で示したように、企業家活動には職務経験や家庭環境などが影響をおよぼす。筆者は 女性企業家の管理職経験やプロジェクト管理経験の有無、経験期間と創業後の企業規模(資本金

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額、従業員数、売上高)の関係を分析したが、管理職経験の有無ではなく、管理職経験期間が長 いほど、資本金額や従業員数が増加するという結論を得た(鹿住 2006)。このことは、管理職に なってある程度経験を積み、その間に獲得した経営知識や管理能力、そして社会ネットワークが 創業後の企業経営にプラスの影響を与えていると推察できる。特にネットワークづくりは時間が かかるため、管理職経験がある程度長くないと、ネットワークからベネフィットを得るまでに至 らないのであろう。

7.企業家のネットワーク構築過程

  企業家は企業活動の各段階において、新たな社会ネットワークを構築している。質問紙による 大量調査においては、こうしたネットワーク構築活動は、構築に費やした時間によって活動の多 寡、活発さを代替する変数としている。新たにネットワークを構築しているということを簡便に 把握しようとすれば、費やした時間が最も適切であろう。しかし、ネットワーク構築活動の中身 はわからない。

  ある人は、公的支援機関に赴いて、税理士や経営コンサルタントを紹介してもらうことで、専 門家とのネットワークを構築しているかもしれない。地域の銀行が主催する経営者の交流会に入 会して、名刺交換や自己紹介によって新たな知己を得ているかもしれない。あるいは友人の紹介 でビジネス・エンジェルのフォーラムで事業計画の発表をするかもしれない。このようなネット ワーク構築のための具体的な活動は、質問紙調査では詳細を知ることは難しい。

  起業するまでの経験(成育歴、教育、職業経験等)によって、企業家がもともと持っている社 会ネットワークも異なるであろう。そうした既存のネットワークの再活用や、起業の過程で必要 性を感じて新たにネットワークを構築することもある。各人の文脈の違いを踏まえたうえで、ネ ットワーク構築活動の内容を把握したい。多数の企業家が結果として同じような社会ネットワー クを活用しているとしても、そのネットワークを構築する過程はそれぞれ異なるのではないか。

  このような分析を行うことによって、たとえば企業家活動に必要な社会ネットワークの構築に 男女差、あるいは特定のグループ間の差があった場合、より困難性を有している者に対してネッ トワーク構築支援を講じるための基礎資料とすることができる。女性企業家が必要性を感じてい る創業支援策の中で、「経営者同士の交流の場を設けること」という項目が上位に挙がっている(21 世紀職業財団 2008)。裏返せば、経営者同士のネットワーク構築において、女性は必要性を感じ ながらも困難に直面しているということができる。

  特に女性企業家が企業家活動に際して必要な社会ネットワークをどのように構築しているのか を分析し、その実態を把握したい。

8.本研究のフレームワークの整理

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  これまで整理してきたように、特に企業間や企業家間の社会ネットワークを分析する手法とし て、企業家を中心として、ネットワークの構造を分析する方法が主流であった。具体的研究手法 としては、研究対象とする企業家や組織の構成員が、他の企業家や他の構成員とどのような接触 ややりとりをしているかを、行為の回数やそこに流れる情報の量、内容によって分析する方法が ある。ただ、直接会って会話を交わすことや、道ですれ違って挨拶することなどは、客観的にカ ウントすることは難しい。本人の記憶も正確とは言えない。そこで、アクター間の電話や電子メ ールのやりとりの回数をカウントし、ネットワークの緊密さやアクター間の関係を可視化する方 法がとられる。情報通信技術の発達により、電子メールのやり取りは、個人のプライバシーに配 慮した上で、その内容まで分析することができるようになった。しかし、この方法では、電子メ ール、あるいは電話といった記録可能なやりとり以外の接触等は、捨象されてしまう。

  また対象とする企業家が直接交流のある人物を特定してもらい、その人物との接触頻度や時間、

回数などを調査することで、企業家を中心とするネットワーク構造を分析する手法もある。これ は、調査対象の企業家個人の主観に頼らざるを得ず、記憶違いなどによって実際の接触頻度とは 異なる回答をする可能性も考えられる。さらに、企業家が直接接触している人物との関係のみ扱 っているため、たとえばクラブなどへの所属により、直接面識がない他のメンバーに対して、一 般的な信頼よりも高い信頼を持つ場合があるが、そういった点は考慮されない。友達の友達なら、

全く知らない人より信頼は高いはずである。

  金井(1994)が行ったエスノグラフィックな調査のように、企業家が所属するクラブや会合の 場に赴き、調査対象の企業家が誰と、どのくらいの時間接触し、どのような内容の話をしたかを 詳細に記録する方法もある。調査対象となる企業家が所属するネットワークすべてにおいて、こ のような詳細な調査をおこない、加えて電話や電子メール等によるやりとりもすべて記録するこ とができれば、ある企業家の社会ネットワークについてかなり正確に構造を把握することができ よう。しかし実際には、一人の企業家のネットワーク行動をすべて把握することは困難であり、

かつ、多くの企業家について同様の調査を行うことは非常に難しい。かなりの人手と時間を要す るであろう。

  このように考えると、多くの企業家の全体像として、企業家の社会ネットワークの正確な実態 を明らかにすることは、非常に難しいと言わざるを得ない。何を重視し、何を取捨するかを検討 して、適切な方法を選択することが必要である。そこで、観察による正確性をあきらめ、企業家 の主観によるネットワーク把握を行うものの、企業家が実際に接触した人だけでなく、人を介し て接触可能であったり、容易に紹介してもらえるような関係を有しているネットワークに対象を 広げることにより、実際に活用可能な社会ネットワークの全体像をとらえることにした。図2−

4のBに示したように、企業家個人は実は複数のネットワークに所属しているが、それぞれのネ ットワークのメンバー全員と接触があるわけではない。個人間の接触頻度や時間を尋ねるだけで は、潜在的に活用可能な社会ネットワーク全体の把握ができない。

  このように企業家の社会ネットワークを活用可能性に即して把握するために、質問紙による調 査を実施し、できるだけ多くの企業家の実態を明らかにすることを目指す。

  本研究は、日本の企業家が企業家活動の初期段階(創業前後)において、どのような社会ネッ

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トワークを活用し、また構築しており、そこからどのような社会関係資本を得て、企業家活動に 役立てているのかを明らかにする。

  分析の枠組みとしては、埋め込み理論に基づき、社会ネットワークの構造や特性が社会ネット ワークから得られる社会関係資本に与える影響、その結果、企業家活動の成果に量的、質的に与 える影響を分析する。社会ネットワークの構造分析の視点としては、企業家を中心とするエゴセ ントリック・ネットワークからのアプローチを採るが、実態に即して、企業家が関係する多層的 な社会ネットワークそれぞれについて、アクターの類型や構造特性を把握することとする。

8.研究方法

  第1節で示した仮説を検証するために、上記のフレームワークに基づいて研究を行う。仮説を 再掲する。

  <仮説1>

  日本の創業期企業家の社会ネットワーク活用は、創業後のネットワークの拡大と活用方法にお いて外国の企業家の社会ネットワーク活用と異なる。

  仮説1−1

    創業準備段階、創業時よりも創業後に社会ネットワークを拡大している。

  仮説1−2

    その際「知らない人」である弱い紐帯をスポット的に活用するのではなく、信頼関係に基づ く強い紐帯に変え、そこから経営にプラスとなる効果を得ている。

<仮説2>

  日本の女性企業家の社会ネットワークは、男性企業家の社会ネットワークと種類、構造、活用 方法の点で異なる。

  仮説2−1

    女性企業家は、男性企業家より家族や友人など、ビジネス関係以外のネットワークを活用し ている。また女性企業家が構築・活用するネットワークのメンバーは同性の比率が男性より高 い。

  仮説2−2

    女性企業家はビジネス目的でネットワークを構築したり参加したりするより、まずメンバー と信頼関係を築き、結果としてビジネスに役立っている。男性企業家はビジネス目的でのネッ トワーク構築や参加が多い。

 

  まず仮説1−1および仮説2−1については、創業時および創業後に活用した社会ネットワー クについて、質問紙を用いた調査により量的分析を行う。活用したネットワークの数、誰がメン バーか、メンバーの人数、メンバーの性別、接触頻度などに関するデータを収集し、回答者の属

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性や企業属性、創業経緯、創業前のキャリアなどによって分析を行う。また社会ネットワーク活 用が経営成果に与える影響をみるため、資本金額、売上高、従業員数とそれらの増加額、利益の 有無、創業時の外部資金調達額などを調べる。

  仮説1−2および仮説2−2については、ネットワーク構築のプロセスに関する定性的な内容 を含んでいるため、半構造化したインタビュー調査によって検証することとしたい。

参照

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