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柴 田 昭

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Academic year: 2022

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(1)

目次

一︑はじめに

二︑希望表現を表す漢字

三︑各漢字の訓法

四︑おわりに

本稿は︑別稿

(l

を受け︑興福寺本大慈恩寺三蔵法師伝古点︵以下︑三)

蔵法師伝古点と略称する︶における希望表現

( 2)

を解明しようとするもの

であ

る︒

大慈恩寺三蔵法師伝は三蔵法師玄契の伝記である︒南都興福寺所蔵の

古写本は十巻十軸で︑巻第一の奥に延久三年

(1

0七一︶書写の奥書が

あり︑この書の古写本の中で現存最古である︒全巻に詳密な古訓点が施

され︑国語史料として非常に有益なものである︒.

テキストには︑築島裕博士﹁興福寺本大慈恩寺三蔵法師偲の國語學的

研究・謁文篇﹂︵東京大学出版会一九六五年︶を用い︑訓読文もそれ

興福寺本大慈恩寺三蔵法師伝古点における希望表現について 一︑はじめに

欲︵八0)

庶(

‑七

乞(

‑四

願︵

八六

翼(

‑三

祈(‑)

惟︵

一︶

欽︵

五︶

尚︵

二︶

希︵

六︶

慕︵

四︶

渇︵

一︶

望︵

八︶

楽︵

四︶

興福寺本大慈恩寺三蔵法師伝古点における希望表現について

二︑希望表現を表す漢字

言うまでもなく︑三蔵法師伝は漢字を用いて漢文法に則って製作され

た古典中国文である︒従って︑如何に日本語に訓読されているかを考え

る前に︑まず︑漢文法の視点より︑原漢文において希望表現が如何に表

れているかを見る必要があろう︒そこで︑希望表現を表す漢字を抽出す

ると︑以下の十四種が確認できた︵括弧内の数字は用例数である︶︒

即ち︑三蔵法師伝においては︑希望表現を表す漢字の種類は非常に豊

富で︑表現形式はバラエティに富んでいることが言える︒これは︑伝記

という文体と関係があろう︒しかし︑それぞれの用例数を見ると︑ に

従う

仲 友

(2)

﹁オモフ﹂という訓法の用例数が最も多く︑

一例

ずっ

見ら

れる

( 1 )

法師報云欲向西国求法︵巻一

法師報︵へ︶テ云︵ハ︶ク︑

﹁オ

モフ

ヨク ス オモフ 訓法

オボ

ホス

﹁オ

ボス

一六

五行

﹁西國二法ヲ求︵メムト︶釦オ﹂ ﹁オボユ﹂の訓法 全用例数

一 一

四 一

三二

三 ﹁欲﹂﹁願﹂は八十例以上見られるが︑他の諸漢字の用例数は遥かに少ない︒言い換えれば︑﹁欲﹂﹁願﹂が希望表現の中心であり︑他の諸漢字は周辺的な存在なのである︒

三︑各漢字の訓法

ここから︑実例を通して各漢字が如何に日本語に訓読されているか︑

その訓読の実態を検討する︒

﹁オ

ボス

確実例数

二五

一 一

二七

三 ﹁欲﹂の訓法の種類及び各訓法の用例数は次の通りである︒ (

 

﹁欲

﹂の

訓法

﹁オ

ボユ

﹂は

﹁ホス﹂の訓法

( 2 )

帝因問日欲樹功徳何最饒益︵巻七

帝因︵リ︶テ問︵ヒ︶テ日︵ハク︶

何ニカ最モ饒益スル﹂

( l )

︵2

)

から見られるように︑﹁オモフ﹂と訓読される場合は

﹁ームトオモフ﹂の形をとっている︒これは︑話者が﹁仏法を求めた

い﹂﹁功徳を立てたい﹂という﹁願望﹂を直接に﹁表出﹂する用法であ

る ︒

オホスラム

( 3 ) 言久疲勒欲眠︵巻︱二九五行︶

言︵ハ︶ク︑﹁久︵シ︶ク疲勧シテ眠︵ラム︶卜甜刈ラム﹂

( 4 )

法師又云玄芙一生以来所脩福恵准斯相貌.欲似功不唐捐信知佛教

因果並不虚也︵巻十九一行︶

法師又云︵ハク︶︑﹁玄笑一生ヨリ以来所脩ノ福恵︒斯ノ相貌二

准︵スル︶二功︑唐捐二︵アラ︶不ルニ似タリト欲ユ︑信二知

︵リ︶ヌ︑佛教ノ因果並︵ヒ︶二虚︵ナラ︶不︵ルコトヲ︶

[也

]﹂

( 3 )

の﹁オボス﹂と例︵4︶の﹁オボユ﹂は︑訓読法としては基

本的には﹁オモフ﹂と同質なものである︒ただし︑敬語形式をとり一定

の待遇の差を表している︒

三蔵法師伝古点に﹁ホス﹂の訓法は二例見られ︑量的には少数である︒

'. , 

, 

! 

; 

: 

: 

, 

! 

︱二

八行

﹁功

徳ヲ

樹︵

テ︶

ムト

釦オ

(3)

﹁ス

﹂の

訓法

k

( 5 ) 法師是小乗僧意復不欲居大乗寺︵巻二二

0

0行 ︶

法師是小乗ノ僧ナリ︑意復︵夕︶︑大乗ノ寺二居マクト欲セ不

( 6 ) 方堪称福田意並欲之︵巻七︱︱四行︶

方二福田卜称スル︵二︶堪︵へ︶タリ︑﹂意並︵ヒ︶二之升甜刃'

( 5 )

は﹁ーマクトホセズ﹂の形で﹁Iしたくない﹂﹁ーしないで

ほしい﹂という否定的希望を表し︑例

( 6 )

は﹁ーヲホス﹂の形で﹁I

︵事物︶を欲する﹂という意を表す︒

三蔵法師伝古点において﹁ス﹂の訓法は多数見られる︒

( 7 )

有人報亮云有僧従長安来欲向西国不知何意︵巻︱一六四行︶

有︵ル︶人亮二報シテ云︵ハク︶僧有︵リ︶︑長安従︵リ︶来

︵リ︶テ西國二向︵ハムト︶糾︑何ノ意トイフコトヲ知︵ラ︶

不 ﹂

'  

( 8 ) 帝書碑並匠嬌屹脆欲送寺︑︵巻九八

0行 ︶

︑帝︑碑ヲ書シ並匠嬌シ詑︵リ︶テ将二寺二送︵ラムト︶欲

( 7 )

︵8

)

は︑﹁ームトス﹂の形で﹁西国に行こうとするとこ

ろ﹂﹁寺に送ろうとするところ﹂の意を表し︑いわゆる有情物の﹁将

然﹂を表す用法である︒

以上の考察から分かるように︑三蔵法師伝古点における﹁欲﹂に対応

する訓法は︑表す意味によって一二つのグループに分けられる︒即ち︑

興福

寺本

大慈

恩寺

三蔵

法師

伝古

点に

おけ

る希

望表

現に

つい

﹁ーしたい﹂という﹁願望﹂の意を表す場合は﹁ームトオモフ﹂で訓

﹁オ

ボユ

﹂で

訓読

する

読し︑同じ意で待遇の差を表す場合は﹁オボス﹂

ー ク ト

﹁ーしたくない﹂という否定的願望を表す場合は﹁マホセズ﹂

﹁ー︵事物︶を欲する﹂の意を表す場合は﹁Iヲホス﹂で訓読する︒更

に︑﹁ーしようとするところ﹂という﹁将然﹂の意を表す場合は﹁ーム

トス﹂で訓読するのである︒

﹁願

﹂の

訓法

三蔵法師伝古点における﹁ネガフ﹂という訓法は︑文末における動詞

的用法と︑文頭に置いて文末の特定な結び語︵助動詞ム又は用言の命令

形︶と呼応して用いる副詞的用法とに分けられる︒

( 9 )

時迦畢試國所送使人貪其速還利馴滝留︵巻二二五七行︶

時二迦畢試國ヨリ送︵ル︶所ノ使ノ人其ノ速二還︵ラム︶

︵ リ

︶ テ 滝 留 ヲ 願

︵ ハ

︶ 不

﹁ネガフ﹂の訓法 訓法

ネガフ

ネガハクハ

コフ

グワンス

グワン ﹁願﹂の訓法の種類及び各訓法の用例数は次の通りである︒ ︵ 二 ︶

用例数一

一 一

六七 三

コト

(4)

: 

 

( 1 0 )

亦不

願師

辛苦

︵巻

七二

六︱

︱︱

行︶

亦︑師ノ辛苦︵セム︶コトヲ願︵ハ︶不

( 9 )

︵1 0

)

における﹁ーヲネガハズ﹂は動詞的用法で︑漢文の「不願」に対応する訓読語として、「—を希望しない」

を表

す︒

( 1 1 )

荊馴照其誠懇生其福田︵巻七二五五行︶

願︵フ︶所︵ハ︶其ノ誠懇ヲ照シテ其ノ福田ヲ生 何れも原という意

︵シ

︶タ

マへ

( 1 2 )

荊卿佛光王千佛摩頂百福凝駆徳音日茂曾規胚相︵巻九三一四行︶

願︵フ︶所︵ハ︶佛光王︑千佛摩頂百福駆ヲ凝︵シ︶テ徳音日ニ

茂︵ク︶シテ曾テ胚相ヲ規トセ

A l l

( 1 1 ) ( 1 2 )

の原漢文の構文はすべて﹁所願﹂である︒この﹁所

願﹂に対応する﹁ネガフ所ハ﹂は副詞的な働きを持つ︒例

( 1 1 )

は﹁ネ

ガフ所ハータマヘ﹂の形で﹁希求﹂を直接に﹁表出﹂し︑例

( 1 2 )

﹁ネガフ所ハーム﹂の形で﹁願望﹂を直接に﹁表出﹂する︒

﹁ネガハクハ﹂という訓法は量的に最も多いが︑その用法は極めて規

則性が強い︒即ち︑副詞として文頭に置き︑文末の特定な結び語と呼応

して﹁願望﹂又は﹁希求﹂を直接に﹁表出﹂する︒例

( 1 1 )

︵1 2

)

にお

ける﹁ネガフ所ハ﹂と同じ用法である︒

( 1 3 )

  天下依蹄如適父母馴輿兄投也︵巻一九

0行 ︶

天下依帰すること父母に適クか如︵シ︶願︵ハク︶は兄輿投せ村・ ﹁ネガハクハ﹂の訓法

( 1 7 )

( 1 4 )

馴輿法師長為春属︵巻一三三四行︶

願︵ハクハ︶法師︵卜︶輿二長ク脊属卜為

( 1 5 ) 馴 自 掛 量 勿 軽 身 命

︵ 巻

︱ 九 六 行

願︵クハ︶自︵ラ︶掛量︵シ︶テ身命ヲ軽︵ムスル︶

( 1 6 )  

( 1 3 )

︵1 4 )

は﹁ネガハクハ\ム﹂で﹁願望﹂を直接に﹁表出﹂し︑

( 1 5 ) ( 1 6 )

は﹁ネガハクハ\用言命令形﹂で﹁希求﹂を直接に﹁表

出﹂する用例と解される︒

( 1 7 )

﹁グワンス﹂も以下の一例のみである︒   3 

﹁グワンス﹂の訓法

は副

詞的

用法

で︑

奉願皇太后逍遥六度神遊丹朗之前︵巻八三九七行︶

奉リ願皇太后︑六度二逍遥シ︑神丹朗ノ前二遊ヒ

﹁コフ﹂という訓法は以下の一例のみである︒

﹁コフ﹂の訓法 願師暫往観證︵巻ニ︱四

0行 ︶

願︵ハク︶ハ師暫︵ク︶往︵キ︶

[也

]

﹁希

求﹂

を表

す︒

^ 

I I

テ観幡吋卦

コト

研叶

(5)

( 1 8 )

願乞衆聖冥加使往還無梗︵巻︱一四三行︶

[願]衆聖ノ冥加ヲ乞︵ヒ︶テ往還梗無︵カラ︶使ス

︵ 三 ︶

﹁欲﹂﹁願﹂以外の諸漢字の訓法は﹁︵コヒ︶ネガフ一

ガハクハ﹂﹁ノゾム﹂﹁イノル﹂﹁コフ﹂が見られる︒

﹁︵

コヒ

︶ネ

ガフ

( 2 0 ) 亦猶古人之欽李郭突︵巻︱

10

四行

亦古人︵ノ︶李郭ヲ鉗日ジか猶し[突] 例

( 1 8 )

﹁ 欲 ﹂

﹁︵

コヒ

﹁ネガハクハ﹂と訓読されるもの ﹁願﹂以外の諸漢字の訓法

︵ メ ︶

の形で実動詞的用法である︒

﹁ー

トグ

ワン

ス﹂

以上の考察から分かるように︑三蔵法師伝古点における﹁願﹂に対応

する訓法は主に﹁ネガフ﹂と﹁ネガハクハ﹂である︒原漢文に﹁不願﹂

﹁所願﹂の場合は﹁ネガハズ﹂﹁ネガフ所ハ﹂と訓読するが︑それ以外

の﹁願﹂はすべて﹁ネガハクハ﹂で訓読する︒﹁コフ﹂﹁グワンス﹂は一例ずつのみで補助的なものといえる︒

﹁︵

コヒ

︶ネ

まず︑﹁︵コヒ︶ネガフ﹂と訓読されるものを見よう︒

希望を表す漠字形式﹁希﹂﹁欽﹂﹁慕﹂﹁楽﹂﹁尚﹂﹁渇﹂﹁翼﹂は

﹁ネガフ﹂と訓読され︑﹁庶幾﹂は﹁コヒネガフ﹂と訓読される︒

ネカフ

1 9 ) 故乃冒犯威厳敢希題目︵巻六一九二行︶

︵ 

故︵二︶乃︵シ︶威厳ヲ冒シテ犯シテ敢︵へ︶テ題目ヲ希フ

興福寺本大慈恩寺三蔵法師伝古点における希望表現について ヨト願

( 2 1 )   ( 2 2 )

 

ネヵハル︑

其 為 朝 賢 所 慕 如 是

︵ 巻 七 二 五 八 行

其ノ朝賢ノ為二[所]慕ハルヽ︵コト)是

̲L V 

有支那国僧築通大法︵巻三二六四行︶

支那国ノ僧有︵リ︶︑大法ヲ通︵セム︶

ネカフ

( 2 4 ) 高山斯仰清流是渇︵巻十二七三行︶

高山斯二清流仰ク︑是ヲ渇フ

︵ノ

︶如

︵シ

ト剣オ

( 2 3 ) 法皇立教義尚流通︵巻五ニニ行︶

﹁法皇︵ノ︶教ヲ立︵ツル︶コト義[尚]流通セムコトヲ削引[

( 2 5 )

玄契此行不求財利無劇名誉但為無上正法来耳︵巻︱二六九行︶

﹁玄芙此ノ行財利︵ヲ︶求︵メ︶不︑名誉︵ヲ︶翼︵フ︶コト無

シ︑但︵シ︶無上︵ノ︶正法ノ為二来︵ラク︶耳

( 2 6 )  

童子見佛奉土諏敢庶幾謹送片物表心具如別疏︵巻七二五四行︶

童子佛ヲ見テ土ヲ奉ル︑諏ク敢︵へ︶テ庶幾フ︑謹︵ミ︶テ片物

ヲ送︵リ︶テ心ヲ表ス︵ルコト︶具二別疏ノ如シ

右の例から見られるように︑漢文においてこれらの漢字の間に微細な意味の差が認められるが︑それに対応する訓読語はすべて﹁︵コヒ︶ネ

ガフ﹂である︒なお︑﹁︵コヒ︶ネガフ﹂と訓読される用例は動詞的用

法で

ある

次に

﹁ 惟 ﹂

﹁ネガハクハ﹂﹁コヒネガハクハ﹂と訓読されるものを見よう︒

﹁翼﹂は﹁ネガハクハ﹂︑﹁庶・庶幾﹂は﹁ネガハクハ﹂と訓読

(6)

( 3 1 )  

k ,  

一国人皆為師弟子望師講授︵巻︱︱︱

10

七行

一国ノ人ヲシテ皆師卜為令ム︑弟子︑師ノ講授︵シタマハム︶トヲ劉叫 これらの訓法で訓読される漢字は﹁望﹂のみである︒

﹁ノ

ゾム

﹁ノゾマクハ﹂と訓読されるもの

( 2 8 ) 翼保安眉壽︵巻七三二四行︶

翼ハクハ︑眉壽ヲ保安シテ

( 2 7 )

f

l

菩薩慈念群生以救苦為務︵巻︱二七

0行 ︶

仰︵キ︶テ惟︵願也︶︵ハク︶ハ菩薩群生ヲ慈念︵シ︶テ救苦︵ヲ︶

以︵テ︶務︵卜︶為

ネカハクハ

( 2 9 ) 庶延景福式資冥助︵巻八三九六行︶

庶ハクハ景福ヲ延︵へ︶テ式テ冥助ヲ資セ

A l l

( 3 0 ) 庶後之覧者無或喘焉︵巻一五三行︶

コヒネカ庶ハクハ後の[之]覧ム者ヽ或ク(ハ)

[ 焉 ]

右の例から見られるように︑これらの﹁ネガハクハ﹂﹁コヒネガハク

ハ﹂と訓読される用例は副詞的用法であり︑何れも相手に対する﹁希

求﹂を直接に﹁表出﹂する用例である︒ さ

れる

以外

に︑

喘ルコト無︵力︶レ

﹁コヒネガハクハ﹂とも訓読される︒

右の﹁コフ﹂は動詞的用法である︒ ﹁コフ﹂と訓読されるのは﹁乞﹂の一字のみである︒

﹁コフ﹂と訓読されるもの 右の﹁イノル﹂は動詞的用法である︒ ﹁イノル﹂と訓読されるのは﹁祈﹂の一字のみである︒ 3 

﹁イノル﹂と訓読されるもの

( 3 2 )

亦劉典垂神翰林題製一序讚揚宗極︵巻六一四五行︶

亦望︵マク︶ハ典ケテ神翰ヲ垂︵リ︶テ題︵二︶一序ヲ製シテ宗

極ヲ讃揚︵シ︶タマへ

右の例から見られように︑﹁ノゾム﹂と訓読される用例は動詞的用法

である︒﹁ノゾマクハ﹂と訓読される用例は副詞的用法であり︑相手に

対する﹁希求﹂を直接に﹁表出﹂する用例である︒

( 3 3 )  

敢縁斯義冒用子祈︵巻九三八行︶

敢︵へ︶テ斯ノ義二縁リテ冒シ︵テ︶用て子キ棚叫

( 3 4 )

'願乞平安︵巻九二二三行︶願︵ヒ︶テ平安︵ナラム︶コトヲ包オ

以上の例から見られるように︑原漢文における多彩な漢字形式に対し

て︑対応する訓読語が案外に種類が少ない︒﹁望﹂﹁祈﹂﹁乞﹂を除け

(7)

ば︑他の漢字はすべて﹁︵コヒ︶ネガフ﹂﹁︵コヒ︶ネガハクハ﹂

読されている︒この訓読語の簡略化現象は注目すべきことである︒

三蔵法師伝古点においては︑希望表現を表す漢字の種類は非常に豊か

である︒しかし︑用例数から見ても意味から見ても︑その中心的なもの

は﹁欲﹂と﹁願﹂である︒

﹁欲﹂の訓法は︑﹁オモフ﹂﹁オボス﹂﹁オボユ﹂﹁ホス﹂﹁ス﹂

﹁ヨク﹂が見られるが︑﹁オモフ﹂と﹁ス﹂が中心である︒.

﹁願﹂の訓法は︑﹁ネガフ﹂﹁ネガハクハ﹂﹁コフ﹂﹁グワンス﹂

﹁グワン﹂が見られるが︑﹁ネガフ﹂と﹁ネガハクハ﹂が中心である︒

﹁欲﹂﹁願﹂以外の諸漢字の種類は多いが︑対応する訓読語は単純で

ある

︻ 注 ︒ ( ︼ 1 ) 柴田昭二︑連仲友﹁希望表現の通史的研究序説﹂︵﹁香川大 学教育学部研究報告﹂第

I部第

1 0 9 号 平 成

31 2

月︶

︒ ( 2 )

ここでいう希望表現とは︑人の願い望みに関する︑一種の心情的

表現形式である︒また︑その下位分類として︑話者自身の動作・

状態に対して向けられるものを﹁願望表現﹂︑他者の動作・状態

に対して向けられるものを﹁希求表現﹂と称する︒さらに︑希望

を直接発する場合を希望の﹁表出﹂︑それ以外の問い質しや過去

などの場合を希望の.﹁説明﹂と称する︒現代日本語においては︑

﹁願望﹂は﹁ーたい﹂の形で︑﹁希求﹂は﹁\てほしい﹂の形で

表現するのが最も一般的である︒したがって︑一人称現在形式

﹁一人称\たい﹂﹁一人称ーてほしい﹂はそれぞれ﹁願望﹂︑

﹁希求﹂の﹁表出﹂であり︑一人称の過去﹁一人称\たかった﹂

興福

寺本

大慈

恩寺

三蔵

法師

伝古

点に

おけ

る希

望表

現に

つい

て一

四︑おわりに

で訓

︵ 二 0

0三年十一月二十八日受理︶ 式は︑﹁説明﹂にあたる︒ ﹁二人称\てほしいか﹂︑三人称の﹁三人称\たがる﹂などの形 ﹁一人称\てほしかった﹂︑二人称の疑問﹁二人称\たいか﹂

︵しばたしょうじ香川大学教育学部教授︶

︵れんちゅうゅう香川大学外国人研究者︶

参照

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