論文 河川技術論文集,第17巻,2011年7月
遊水地による津波の河川遡上低減効果 に関する水理実験
A HYDRAULIC EXPERIMENT ON EFFECTS ON RIVER RUN-UP A TSUNAMI REDUCTION BY A RETARDING BASIN
矢野 雅昭
1・吉川 泰弘
2・平井 康幸
3・田中 茂信
4Masaaki YANO, Yasuhiro YOSHIKAWA, Yasuyuki HIRAI and Shigenobu TANAKA
1正会員 (独)土木研究所 寒地土木研究所 水環境保全チーム (〒062-7602 札幌市豊平区平岸1条3丁目) 2正会員 工修(独)土木研究所 寒地土木研究所 寒地河川チーム (〒062-7602 札幌市豊平区平岸1条3丁目)
3正会員 (独)土木研究所 寒地土木研究所 寒地河川チーム (〒062-7602 札幌市豊平区平岸1条3丁目) 4正会員 博(工)(独)土木研究所 水災害・リスクマネジメント国際センター 水災害研究グループ長
(〒305-8516 茨城県つくば市南原1-6)
This study proposes a retarding basin to be constructed at a downstream site of a river to allow tsunamis to flow through side-spill weirs into the retarding basin, lowering the wave height and energy as a measure of preventing river run-up during a tsunami. In order to demonstrate an effect of a retarding basin, a hydraulic model experiment was conducted. The river chosen for the experiment runs through Banda Aceh, an area devastated by the earthquake in the Indian Ocean of Sumatra. A model of the river was created on a vertical scale of 1:50 and a horizontal scale of 1:600. As a result, the retarding basin reduced the height of the tsunami by 1.5 cm (0.75 m full scale) at the point of 1.2 m upstream from the retarding basin (720 m full scale). It could also delay the arrival time of the tsunami by up to 0.35 seconds (30 seconds full scale). The duration of the tsunami’s high water level was reduced by up to 1.6 seconds (136 seconds full scale). And these reduction effects are proportional to amount of water flowed into the retarding basin.
Key Words : tsunami run up;retarding basin;hydraulic experiment
1.はじめに
2011年3月11日に三陸沖を震源とするマグニチュード 9.0の東北地方太平洋沖地震と,これに伴う津波が発生 し,東北地方の太平洋沿岸に,死者・行方不明者2万4千 人以上,建物全壊・半壊被害12万4千軒以上など甚大な 被害をもたらした1).この津波の規模は,痕跡調査によ り,浸水高が最大18mになる非常に大きなものであった と考えられている2).また,ここ数年では,太平洋,イ ンド洋に面する国々でも津波の被害があった.2004年ス マトラ島沖地震では,アジア,アフリカ地域12カ国に被 害を及ぼし,20万人以上が死者,行方不明者となり,
230万人が被害を受けたといわれている3).特にインドネ シアのスマトラ島北部に位置する都市のバンダ・アチェ では,11万人の命が犠牲となり,70万人が家を失う甚大 な被害であった4).これらの津波被害では,ライフライ ンとして重要な橋梁が多数破壊されている5,6).
津波対策の一つとして,防波堤を海岸に設置すること が考えられる.河川を遡上する津波においては,一つの 波峰が多数の波に分裂する分散波列(あるいはソリトン 分裂)により波高が増大することや7) 8),波高と漂流物 の速度に相関のあることが指摘されている9).そのため,
波高が増大した津波が落橋被害や漂流物による橋の損傷 を助長することも考えられる.また,陸上を遡上する津 波よりも伝播が速く,河川堤防が脆弱な場合,河道を遡 上した津波が先行して被害を及ぼす可能性がある.この ような河川を遡上する津波対策として,落橋防止措置を 施す他に,より効果的な対策として,津波自体の波高を 減少させることが考えられる.波高を低減できれば,津 波の遡上速度も遅延できることが考えられ,より多くの 避難時間を得ることができる.しかし,このような対策 を検討した研究は十分には行われていない.
本研究の目的は,河川を遡上する津波対策として,河 道下流部に遊水地を設け,遡上する津波を横越流させ,
波高とエネルギーを減少させる対策を提案し,水理実験
図-1 対象河川箇所図(Google Mapに加筆)
図-2 実験水路概要
写真-1 水路を遡上する津波の開口部からの横越流状況
により,その効果の検討を行うことである.なお本研究 の水理実験は,東北地方太平洋沖地震が起きる以前の 2011 年 1,2 月に実施したものである.
2.水理実験
(1)対象河川
本実験では,図-1に記すスマトラ島北部の都市バン ダ・アチェ東部に位置する河川を対象とし,実際の橋梁 位置を基に,実験水路上での遊水地位置,水位測定地点 の設定を行った.対象河川の河道幅,保全対象とする橋 梁位置を,Google Mapにより概略で把握した.その結果,
堤防間の距離は約300mであり,低水路幅,片岸の高水敷 幅は約100mであった.また,保全対象の橋梁は,河川両 岸の市街地を結ぶKP3.9付近の橋梁と,その一つ上流の KP8.4付近の橋梁とした.なおKP(キロポスト)とは,
河口からの距離で単位はkmである.
2004年スマトラ島沖地震において,バンダ・アチェに
襲来した津波高は海岸で6~12mであり,海岸から1.0~
1.5km内陸の市街地で4~5m程度であったことが確認され ている10).このため本実験では,対象河川のKP3.9付近 の橋梁位置に,最大5mの津波が襲来する場合を想定した.
(2)実験水路と縮尺
実験に用いた水路を図-2に示す.水路は,全長34m,
水路幅0.5mであり,水路部26m,下流端のプール部8mで 構成され,水路勾配は1/1,000とした.実験水路におけ る縦断方向の基準点は,プール部と水路部の境界とし,
この基準点から上流方向の距離をSP(単位:m)とした.
実験水路における遊水地は,水路を遡上する津波が,
水路側壁に開口部がある区間(以下,遊水地)を通過し,
横越流させることで再現した(写真-1).遊水地の位置 は,実験水路上での保全対象の橋梁位置SP6.5(KP3.9)
の下流とし,実験水路の鋼製骨組みを回避し,設置区間 SP4.8(KP2.88)~SP5.3(KP3.18)の延長0.5m(実物延長 300m)とした.実験水路における津波の造波は,プール 部で造波板を押し出すことで行った(図-2).また,遊 水地への越流水は,実験水路外の水槽(内寸 幅0.78×
奥行0.54×高0.48m)に貯留し,水槽内の波高計でその 量を計測した.なお,実験水路の側壁高は,遡上する津 波が越流しない高さである.
実験水路の水平方向の縮尺は,水路の幅が0.5mであり,
対象河川の堤防間の幅が約300mであることから,λxy= 0.5m÷300m=1/600となる.一方,鉛直方向の縮尺は,
1/600では水深が小さく,粘性の影響が大きくなり,正 確な結果が得られないことが考えられる.そのため,鉛 直・水平方向の縮尺が異なる歪み模型とした.実験水路 上の保全対象の橋梁位置SP6.5に造波できる最大波高は 0.1m程度であり,これを本実験の最大の津波規模条件の 波高5mに対応させると,鉛直方向の縮尺はλz=0.1÷
5.0m≒1/50となる.津波のフルード数は式(1)(2)に 示すとおり11),平常潮位を基準とした津波による海面変 動と水深の比率で表される.つまり,鉛直方向の縮尺を 満たせば,津波のフルード数を満たすことになる.
,C (1), ℎ
ℎ
(2)
v:流速,C:波速,g:重力加速度,η:平常潮位基準で の津波による海面変動,h:水深,Fr:フルード数 (4)測定項目
水理実験における測定項目は水路内及び水槽の時系列 水位とし,波高計(KENEK CHT4-60,測定精度±3.5mm)
により測定した.測定間隔は,波高計の最小測定間隔の 0.05秒とした.波高計による水位測定地点は,水深の実 験条件を管理する位置SP1.0(KP0.6),保全対象の橋梁 位置SP6.5(KP3.9),SP14.0(KP8.4),遊水地上下流 SP4.7(KP2.88),SP5.4(KP3.18),越流水を貯留する
1000km
2km インドネシア
スマトラ島
バンダ・アチェ N対象河川
SP5.4波高計No.3 (KP3.2 遊水地上流) SP4.7波高計No.2
(KP2.8遊水地下流) SP1.0波高計No.1
(KP0.6 河口部)
※水深管理位置
側壁開口部(遊水地)
SP4.8~5.3 L=0.5m
(KP2.88~3.18)
SP6.5波高計No.4 (KP3.9橋近傍)
SP14.0波高計No.5 (KP8.4橋近傍)
造波板
水路勾配1/1,000
実験水路 延長34m、幅0.5m
橋 橋
N バンダ・アチェ 対象河川
保全対象 橋位置
SP0.0
水路部 26m プール部 8m
川の流れ
図-3 実験条件
水槽内の合計6箇所とした.なお,全ての波高計の測定 値は,SP1.0における水路床を基準点とした値である.
(5)実験条件
実験条件は,①津波規模3ケース(大,中,小),② 水路の水深3ケース(5cm,7cm,9cm),③水路床から遊 水地の越流高が異なる6ケース(10cm,11cm,12cm,
13cm,14cm,越流なし)を組み合わせ,合計54ケースの 実験を行った(図-3).津波規模の条件は,研究の基礎 段階として,波高を変化させることとし,造波板を一定 時間内に動かす距離により変化させた.試行の結果,
SP6.5において,最も波高が高くなる造波設定は,造波 板の移動時間6秒,移動距離1.476m,造波板前水深0.7m となり,これを津波_大の条件とした.津波_小の条件は,
越流高10cm,水深5cmの条件で,遊水地へ越流が生じる 大きさとし,造波板移動距離のみを変化させ0.918mとし た.津波_中の条件は,津波_大,小の中間程度の波高と なるよう,造波板移動距離のみを変化させ1.199mとした.
水深条件は,上流からの流量を等流となるように変化さ せることで設定し,水深5cm,7cm,9cmで,流量はそれ ぞれ4.4L/s,7.7L/s,12.0L/sである。
3.実験結果
(1)遊水地による河川を遡上する津波の低減効果の検討 遊水地による河川を遡上する津波の低減効果を,最高 水位,到達時間,高水位の継続時間に着目して検討した.
図-4に,津波_大,水深2ケース(5cm,9cm)の実験条件 について,水位の時系列変化を,遊水地の有無(越流高 10cm,遊水地なし)の違いにより比較した.なお,本節 における水深及び遊水地越流高の実験条件は,以降同様 である.図-4より,遊水地がある条件の方が,遊水地上 流のSP5.4~14.0で,最高水位が低くいことが確認され る.また,SP14.0において,津波の到達時間に遅れが確 認され,SP4.7では,津波の高水位の継続時間に低減が 確認される.このことについて,以降,詳細に検討する.
なお,全ての実験条件で,遊水地下流のSP1.0~4.7で砕 波が確認されている.砕波とは津波の頂部が前屈形にな り,崩れる状況である.
a)最高水位の低減効果
図-4 遊水地の有無による時系列波形の比較(越流高10cm)
図-5 遊水地の有無による最高水位の比較(越流高10cm)
津波規模2ケース(大,小)の実験条件について,最 高水位の縦断変化を,遊水地の有無の違いにより比較し た(図-5).図-5より,主に遊水地上流SP5.4~14.0で 低減されたことが確認でき,津波_大,水深5cmの条件で 0.0~0.9cm,水深9cmの条件で 0.0~1.1cm低減された.
また,津波_小,水深5cmの条件で-0.2~0.3cm,水深9cm の条件で0.1~0.8cm低減された.
b)津波到達時間の遅延効果
津波規模2ケース(大,小)の実験条件について,津 波到達時間を,遊水地の有無の違いにより比較した(図 -6).図-6より,遊水地がある条件の方が,津波到達時 間の遅延が確認された.SP14.0おいては,津波_大,水 深9cmの条件で0.25秒,津波_小,水深9cmの条件で0.3秒
実験条件③ 遊水地 越流高:
6ケース
(0.10m、0.11m、
0.12m、0.13m、
0.14m、遊水地なし)
越流
0.50m 実験条件① 津波水位
津波規模:
3ケース(大、中、小)
流れ 津波
実験条件② 水深(流量):
3ケース(5cm(4.4L/S),7cm(7.7L/S),9cm(12.0L/S))
※SP1.0で水深を管理
水路側面図
遊水池
(側面開口部)
水路断面図(遊水地位置)
水路 左側
0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 0.22 0.24
水位(m)
遊水地なし、水深9cm 遊水地あり、水深9cm 遊水地なし、水深5cm 遊水地あり、水深5cm SP1.0
0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 0.22 0.24
水位(m)
SP4.7
0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 0.22 0.24
水位(m)
SP5.4
0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 0.22 0.24
水位(m)
SP6.5
0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20
0 5 10 15 20 25
水位(m)
時間(秒)
SP14.0
津波_大
‐0.02
‐0.01 0.00 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40
0.45 最高水位の変化量(水深9cm)
最高水位の変化量(水深5cm)
最高水位(遊水地なし、水深9cm)
最高水位(遊水地あり、水深9cm)
最高水位(遊水地なし、水深5cm)
最高水位(遊水地あり、水深5cm)
津波_大
‐0.01 0.00 0.01 0.02 0.03 0.04
0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25
SP1.0 SP4.7 SP5.4 SP6.5 SP14.0 測点
津波_小
遊水地
最高水位(m) 最高水位の変化量(m) ※=(遊水地あり)-(遊水地なし)
遅延された.また,津波_大,小の水深5cmの条件ではと もに0.1秒遅延された.
c)高水位継続時間の低減効果
津波_大の実験条件について,津波の高水位継続時間 を,遊水地の有無の違いにより比較した(図-7).なお,
検討は水位14cm,16cm,18cm(SP1.0の水路床を基準)
について行った(図-8).また,高水位継続時間は,最 大25秒間までの算出とした.図-7より,水深9cmの条件 で,最も低減された地点は,遊水地直下流SP4.7であり,
水位14cm,16cmではともに1.6秒低減され,水位18cmで は0.9秒低減された.また,同条件の遊水地上流SP5.4~
SP14.0では,水位14cmで0~0.95秒,水位16cmで0.15~
1.0秒,水位18cmで0.35~0.75秒低減された.水深5cmの 条件では,SP5.4の水位14cmで低減が最大となり,0.4秒 低減された.また,同条件では水位が16cmに達した地点 はSP4.7までであり,18cmでは水位上昇は観測されてい ない.
(2)越流水量による各低減量の変化
遊水地に越流した水量による,前節で述べた低減効果 の変化について検討する.はじめに実験ケース毎の越流 水量の検討,遊水地越流部の流量係数の検討を行い,次 に越流水量による各低減量の変化の検討を行う.
a)越流水量の検討
実験ケースによる越流水量の変化を検討した(図-9).
図-9より,越流水量は津波規模,水深が大きくなるほど 多くなり,また越流高が低くなるほど多くなる.この傾 向は遊水地への越流水深の増大に伴うものと考えられる.
b)流量係数の検討
越流水量が本間公式(完全越流の場合)7)の式(3)に よると仮定して越流水量の試算を行った(図-10).越 流水深の算出は,SP4.7とSP5.4の水位を平均した値が,
遊水地越流部の中間の水位と仮定し,そこから河床高と 越流高を差し引くことにより算出した.図-10より,式
(3)により試算した越流水量は実測の越流水量よりも 大きい傾向にあり,式(3)右辺の流量係数αを0.35か ら0.26にして再度試算した.その結果,実測の越流水量 と一致し,本実験では式(3)の流量係数αは,0.26程 度であったと推察される.
・ 2 (3)
Q:越流量,α:流量係数(本間公式では0.35),
B:越流幅,g:重力加速度,h:越流水深 c)最高水位の低減
越流水量による最高水位の低減の変化について検討し た(図-11).図-11より,遊水地直下流SP4.7では明瞭 な関係は確認できないが,遊水地直上流SP5.4では模型 縮尺の回帰式の傾き0.21,決定係数0.46と概ね越流水量 との比例関係がみられる.SP6.5でも回帰式の傾き,決
図-6 津波到達時間の遊水地有無による比較(越流高10cm)
図-7 水位14,16,18cmでの高水位継続時間(越流高10cm)
図-8 高水位継続時間の概念図(水位14cm,16cm,18cm)
図-9 遊水地越流高と越流水量 図-10 流量係数の検討
定係数はSP5.4と同程度であるが,上流のSP14.0では回 帰式の傾き0.06,決定係数0.07と低下している.
このことから,遊水地による最高水位の低減効果は,
遊水地の直上流で最大となることが考えられる.遊水地 の上流ほど効果が低下する原因として,河川を遡上する につれて,波高の低減が波全体に分配されたことが考え られる(図-4).上流で決定係数が小さくなった原因に ついては,次節で検討する.
また図-11より,実験ケースの中で,最高水位の低減 が最も大きかったものは,SP6.5で1.5cmの低減であり,
実物縮尺では,遊水地の720m上流で75cmの低減となる.
‐0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
4 6 8 10 12 14 16 18
到達時間の変化量(津波_大)
到達時間の変化量(津波_小)
津波到達時間(遊水地なし、津波_大)
津波到達時間(遊水地あり、津波_大)
津波到達時間(遊水地なし、津波_小)
津波到達時間(遊水地あり、津波_小)
水深9cm
‐0.2 0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
4 6 8 10 12 14 16 18
SP1.0 SP4.7 SP5.4 SP6.5 SP14.0 測点
水深5cm
遊水地
津波到達時間(秒) 到達時間の変化量(秒) ※=(遊水地あり)-(遊水地なし)
‐1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
0 1 2 3 4 5 6
7 継続時間の変化量(水深9cm)
継続時間の変化量(水深5cm)
高水位継続時間(遊水地なし、水深9cm)
高水位継続時間(遊水地あり、水深9cm)
高水位継続時間(遊水地なし、水深5cm)
高水位継続時間(遊水地あり、水深5cm)
水位18cm
‐2.0
‐1.5
‐1.0
‐0.5 0.0 0.5
0 1 2 3 4 5 水位16cm
‐2.0
‐1.5
‐1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
0 1 2 3 4 5 6 7 8
SP1.0 SP4.7 SP5.4 SP6.5 SP14.0
水位14cm
測点(m)
遊水地
継続時間の変化量(秒) ※=(遊水地あり)-(遊水地なし)
津波_大
津波による高水位継続時間(秒)
0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 0.22
0 5 10 15 20 25
時間(秒)
高水位継続時間 水位18cm 高水位継続時間 水位16cm
高水位継続時間 水位14cm 水位(m) ※基準点SP1.0 水路床高
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14
0.10 0.11 0.12 0.13 0.14
越流水量(m3)
越流高(m)
水深9cm、津波_大 水深9cm、津波_中 水深9cm、津波_小 水深7cm、津波_大 水深7cm、津波_中 水深7cm、津波_小 水深5cm、津波_大 水深5cm、津波_中 水深5cm、津波_小
y = 1.34 x
R² = 0.99 y = 0.98x R² = 1.00
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12
計算越流水量(m3)
実測 越流水量(m3)
係数を0.35で計算 係数を0.26で計算
1:1
図-11 越流水量による最高水位の低減の変化
d)津波到達時間の遅延
越流水量による津波到達時間の遅延の変化について検 討した(図-12).図-12より,遊水地直下流SP4.7,遊水 地直上流SP5.4では,明瞭な関係は確認されない.SP6.5 では,概ね越流水量と比例関係がみられ,最上流の SP14.0では,模型縮尺の回帰式の傾き5.17,決定係数 0.62と最も高くなっている.これは,遊水地の効果によ り波高が低下し,遡上速度が低下したことによるもので,
遊水地から上流に離れた位置ほど,到達時間が遅延され ることが考えられる.
図-12より,実験ケースの中で,津波到達時間の遅延 が最も大きなものは,SP14.0で0.35秒の遅延であり,実 物縮尺では,遊水地の5.2km上流で30秒の遅延となる.
e)津波の高水位継続時間の低減
越流水量による津波の高水位継続時間の低減の変化に ついて検討した(図-13).なお,検討は代表として水位 16cmについてのみ行った.図-13により,遊水地直下流 SP4.7では,模型縮尺での回帰式の傾き21.50,決定係数 0.90と高い値を示し,越流水量と比例関係にあることが 確認できる.遊水地直上流SP5.4では,回帰式の傾き,
決定係数が低下するが,上流に向かうにつれて上昇して いる.このことから,遊水地による高水位継続時間の低 減は,遊水地の直下流で最大となると考えられる.この 原因として,遊水地がある条件ではSP4.7で高水位の低 下が顕著に早いことから(図-4),河川を遡上する津波 の流れが,上流SP5.4に向かうものと,遊水地に向かう ものに分かれたためと考えられる.
図-13より,実験ケースの中で,高水位継続時間の低 減が最も大きなものは,SP4.7で1.6秒の遅延であり,実 物縮尺では,遊水地の60m下流で136秒の低減となる.
(3)最高水位の低減と分散波列の関係
図-12 越流水量による津波到達時間の低減の変化
図-13 越流水量による高水位継続時間の低減の変化
SP14.0において,越流水量と最高水位の低減の決定係 数が低下した原因(図-11)について検討を行う.検討 にあたっては,図-11のプロットを大きく3グループに分 け,各5つ代表を抽出した.3つのグループ分けは,図- 11の回帰式の上部に外れているもの(H①~⑤),概ね 回帰式線上に分布しているもの(M①~⑤),回帰式の 下部に外れているもの(L①~⑤)とした(図-11).
図-14により,これらの波形を詳細に観察すると,H①
~⑤は,遊水地がない実験ケースで,わずかに分散波列 が発生しており,遊水地がある実験ケースでは発生して いない.そのため,2つの実験ケースでの最高水位の差 である低減量が大きくなったと考えられる.また,M①
~⑤では,遊水地がない実験ケースとある実験ケースの 両方で分散波列が確認されるか,両方で確認されていな い(図-14).そのため,低減量が極端に大きくならな
‐0.02
‐0.01 0.00 0.01 0.02 0.03
水深5cm、津波_大 水深5cm、津波_中 水深5cm、津波_小 水深7cm、津波_大 水深7cm、津波_中 水深7cm、津波_小 水深9cm、津波_大 水深9cm、津波_中 水深9cm、津波_小
‐0.01 0.00 0.01 0.02
‐0.01 0.00 0.01 0.02
‐0.01 0.00 0.01 0.02
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 SP4.7
SP5.4
SP6.5
SP14.0 最高水位の低減(m)※遊水地なし-遊水地あり 0.50
0.00 -0.50 実物 縮尺
模型 縮尺
越流水量(m3) 0.50
0.00 -0.50 1.00
0.50 0.00 -0.50 1.00
0.50 0.00 -0.50 1.00
360千 模型縮尺
実物縮尺 0.00 720千 1,080千 1,440千 1,800千 模型縮尺 y=-0.04x,R2=-0.02 実物縮尺 y=-1.05E-07x,R2=-0.02
模型縮尺 y=-0.21x,R2=0.46 実物縮尺 y=5.82E-07x,R2=0.46
模型縮尺 y=-0.18x,R2=0.53 実物縮尺 y=4.99E-07x,R2=0.53
模型縮尺 y=-0.06x,R2=0.07 実物縮尺 y=1.58E-07x,R2=0.07 H①→
H②
↓ H③→
H④
↓
←M① M②→
←M③
←L③ ←L④
←M④
↑ L②
←L①
←M⑤
←L⑤ H⑤
↓ -1.00
‐0.10 0.00 0.10 0.20 0.30
水深5cm、津波_大 水深5cm、津波_中 水深5cm、津波_小 水深7cm、津波_大 水深7cm、津波_中 水深7cm、津波_小 水深9cm、津波_大 水深9cm、津波_中 水深9cm、津波_小
‐0.10 0.00 0.10
‐0.10 0.00 0.10 0.20
0.00 0.10 0.20 0.30 0.40
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10
津波到達時間の遅延(秒)※遊水地あり-遊水地なし
SP4.7
SP5.4
SP6.5
SP14.0 8.49
0.00 -8.49 8.49 実物 縮尺
模型 縮尺
越流水量(m3)
-8.49 16.97 8.49 0.00
-8.49 33.94 25.46 0.00
8.49 0.00 16.97
360千 模型縮尺
実物縮尺 0.00 720千 1,080千 1,440千 1,800千 模型縮尺 y=0.18x,R2=0.05 実物縮尺 y=8.52E-07x,R2=0.05
模型縮尺 y=0.12x,R2=0.01 実物縮尺 y=5.87E-07x,R2=0.01
模型縮尺 y=1.19x,R2=0.29 実物縮尺 y=5.61E-06x,R2=0.29
模型縮尺 y=5.17x,R2=0.62 実物縮尺 y=2.44E-05x,R2=0.62
‐0.5 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
2.5 水深5cm、津波_大 水深5cm、津波_中 水深5cm、津波_小
水深7cm、津波_大 水深7cm、津波_中 水深7cm、津波_小 水深9cm、津波_大 水深9cm、津波_中 水深9cm、津波_小
‐0.5 0.0 0.5 1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0
‐0.5 0.0 0.5 1.0 1.5
0.00 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 高水位継続時間の低減(秒)※遊水地なし-遊水地あり
SP4.7
SP5.4
SP6.5
SP14.0 42.4
0.0 -42.4 実物 縮尺
模型 縮尺
越流水量(m3)
42.4 0.0 84.9
0.0
0.0
360千 模型縮尺
実物縮尺 0.00 720千 1,080千 1,440千 1,800千 模型縮尺 y=21.50x,R2=0.90 実物縮尺 y=1.01E-04x,R2=0.90
模型縮尺 y=3.57x,R2=0.17 実物縮尺 y=1.69E-05x,R2=0.17
模型縮尺 y=8.36x,R2=0.51 実物縮尺 y=3.94E-05x,R2=0.51
模型縮尺 y=13.86x,R2=0.74 実物縮尺 y=6.54E-05x,R2=0.74 127.3
84.9
-42.4
42.4 84.9
-42.4
42.4 84.9
-42.4 127.3
図-14 分散波列の最高水位の低減への影響
かったと考えられる.L①~⑤では,遊水地がない実験 ケースでは分散波列が確認されず,遊水地がある実験 ケースでは確認されている(図-14).そのため,低減 量が小さくなったと考えられる.このことから,分散波 列の影響を受ける箇所ほど,最高水位の低減は,越流水 量との比例関係から外れると考えられる.分散波列は水 平な水域を伝播することにより,波高が高くなり,砕波 限界になるまで伝播距離に比例して発達することが知ら れている12).そのため遊水地から距離が離れている SP14.0ほど分散波列が発生しやすく,回帰式の決定係数 が低下したと考えられる.
4.まとめ
本実験における遊水地の津波低減効果として,次のこ とが確認された.
1)最高水位の低減効果は,概ね越流水量に比例し,遊水 地の直上流で最も効果が大きく,上流ほど小さくなった.
また,最大の低減水位は,遊水地1.2m上流で1.5cm(実物 縮尺:遊水地720m上流で0.75m)であった.
2)津波到達時間の遅延効果は,概ね越流水量に比例し,
遊水地上流に離れた地点ほど効果が大きかった.また,
最大の津波到達時間の遅延は,遊水地の8.7m上流で0.35 秒(実物縮尺:遊水地5.2km上流で30秒)であった.
3) 津波の高水位継続時間の低減効果は,概ね越流水量 に比例し,遊水地直下流で効果が最も大きかった.また,
最大の高水位継続時間の低減は,遊水地の0.1m下流で 1.6秒(実物縮尺:遊水地の60m下流で136秒)であった.
4)最高水位の低減効果は,分散波列が発生することによ り,越流水量との比例関係が低下することが確認された.
本実験では,スマトラ島のバンダ・アチェの河川を想 定して,模型上での遊水地位置と波高計測箇所を設定し た.本実験で得られた成果から,保全位置にどのような 津波の低減効果を望むかにより,遊水地の設置位置を検 討する必要があることが示唆された.
今回確認された低減量は劇的に大きなものではないが,
従来のソフト,ハードの津波対策とともに,遊水地によ る対策を組み合わせることで,より一層,津波被害の軽 減につながる可能性がある.今後の課題として,今回の 実験では変数としなかった,津波の波長や越流部の長さ についても,実験条件として検討する必要がある.
参考文献
1)平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震 災)について,首相官邸,2011.5.13
2)港湾空港技術研究所資料 2011年東日本大震災による 港湾・海岸・空港の地震・津波被害に関する調査報告, 港湾空港技術研究所,pp42-43,2011.4
3)International Federation of Red Cross and Red Crescent Societies, Annual Report 2004,p.10 4)Indonesia:Preliminary Damage and Loss Assessment
The December 26,2004 Natural Disaster,BAPPENAS and The International Donor Comminity,2005.
5)幸左賢二ら:スマトラ沖地震に伴う津波による橋梁の 被害分析,構造工学論文集Vol.56A,pp454-463,2010.
6)東日本大震災 第一次総合調査団 中間とりまとめ (案),土木学会・日本都市計画学会・地盤工学会 東日 本大震災 第一次総合調査団,2011.4
7)水理公式集,土木学会,1999.
8)安田浩保,渡邊康玄:1次元解析法に基づく河川を遡上 する津波の数値計算法,土木研究所寒地土木研究所月 報第638号,pp2-9,2006.
9)阿部孝章ら:津波の遡上に伴う河道内氷板の輸送過程 に関する水理実験,寒地土木研究所 月報
No.695,2011.4
10)松冨英夫ら:Banda Acehと周辺における2004年イン ド洋津波と被害想定からみた課題,海岸工学論文集,第 52巻,pp1366-1370,2005.
11)国土交通省港湾局監修港湾の施設の技術上の基準・
同解説(上巻),日本港湾協会,p238,2007.
12)安田誠宏ら:ソリトン分裂津波の変形と波力特性に 関する実験的研究,海岸工学論文集,第53巻,土木学 会,2006
(201 .5.19受付)
13 15 17 19 遊水地なし 遊水地あり
0.04 0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 0.22
7 9 11 13
13 15 17 19 8 10 12 14
13 15 17 19 0.04
0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20
8 10 12 14
8 10 12 14 0.04
0.06 0.08 0.10 0.12 0.14 0.16 0.18 0.20 0.22
8 10 12 14
8 10 12 14 13 15 17 19
13 15 17 19 14 16 18 20 7 9 11 13
9 11 13 15 7 9 11 13 H①
津波 大 水深7cm 越流高10cm
SP5.4
H⑤ 津波 大 水深7cm 越流高10cm
SP14.0 H②
津波 大 水深9cm 越流高13cm
SP6.5
L③ 津波 大 水深9cm 越流高13cm
SP14.0 H③ 津波 大 水深9cm 越流高12cm
SP6.5
M① 津波 中 水深9cm 越流高12cm
SP5.4
M③ 津波 中 水深9cm 越流高12cm
SP6.5
L① 津波 大 水深7cm 越流高12cm
SP6.5
L④ 津波 大 水深9cm 越流高12cm
SP14.0 H④ 津波 大 水深7cm 越流高11cm
SP14.0
M② 津波 大 水深9cm 越流高11cm
SP5.4
M④ 津波 中 水深9cm 越流高11cm
SP6.5
M⑤ 津波 中 水深9cm 越流高11cm
SP14.0
L② 津波 中 水深7cm 越流高11cm
SP6.5
L⑤ 津波 大 水深9cm 越流高11cm
SP14.0
水位(m)
時間(秒)
1