音響管を用いた発破消音器の開発と現場適用事例
国土交通省 八代河川国道事務所 諏訪薗 和彦 ㈱大林組 正会員 ○本田 泰大
㈱大林組 正会員 西野 俊論 ㈱大林組 正会員 松野 徹
㈱大林組 正会員 伊藤 哲 ㈱大林組 三村 聡
1.はじめに
トンネル工事の発破音は,衝撃的で大きなエネルギーを発生し,可聴音から低周波音まで広範囲に及ぶ特徴 がある.従来の発破低周波音対策にはコンクリート製や砂充填式等の防音扉があり,これらは可聴音の対策に は有効であるが,低周波音を低減するのが困難で,苦情が解消するまで扉を複数枚設置したり,昼間のみの施 工とするなど,コストや工程への影響が大きく,掘削初期段階からの早期の対応が難しかった.
そこで,通常の防音扉に併用し,低周波音を低減する新技術として音響管を用いた発破消音器を開発した.
以下に新技術の概要および山岳トンネル現場での適用事例と低周波音の低減効果について述べる.
2.音響管を用いた消音器の概要
音響管を用いた消音器は,車のマフラー等で低周波音の低減 効果があることが知られているが,発破音に適用する場合は音 響管が非常に大型化するため,これまでは適用事例がなかった.
本開発では,この音響管をトンネル断面内で収まるよう,折れ 曲がった形状で配置し,トンネル現場へ適用できる構造とした.
写真-1 にトンネル用に開発した発破消音器の設置状況,図-1 に消音器の断面図を示す.重機,車両が走行するトンネル中央 部および換気用風管部分は開口しており,開口部から断面内で 折れ曲がった形状で音響管(幅 1m×高さ 1m)を配置し,これ をトンネル縦断方向に 6 列(長さ 6m)配置して消音器を構成す
る.なお音響管の長さは,発破音の周波数にあわせて音響管仕切板により調整する.
図-2 に消音器の消音効果のイメージを示す.切羽で発生した発破音は,消音器の開口部を通過する際音響 管に入射する.音響管の長さは発破音の 1/4 波長であり,開口部からの入射波(図の実線)と,端部で跳ね返 る反射波(破線)が逆位相となるため,入射波と反射波が打ち消し合い,発破音を低減する仕組みである.な お,音響管の本数は,室内で実施した 1/32 縮尺模型実験の結果に基づき,20~63Hz 帯域の低周波数域での低 減効果が得られるよう表-1 に示すように定めた.
キーワード 発破音,低周波音,消音器,音響管,1/4 波長
連絡先 〒204-8558 東京都清瀬市下清戸 4-640 (株)大林組 技術研究所 環境技術研究部 TEL042-495-1014
重機通行用開口 換気用開口
周波数
(Hz) 63 40 36 28 25 20 18 63 45 30 18 音響管の
本数(本) 4 2 2 3 5 4 4 2 1 2 1
図-1 消音器の概要
写真-1 音響管式発破消音器
「ブラストサイレンサー」
表-1 各開口部の音響管の本数 (範囲変更可能)
送風管用開口 外周部
塞ぎパネル
②音響管で入射波と反射波が音を打ち消し合う
図-2 1/4 波長音響管による消音原理のイメージ 入射波と反射波が打ち消し合う
入射波 反射波 音響管
X
0 1/4 波長 2/4 波長 3/4 波長 1 波長 音響管
仕切板
①発破音が 開口部で 入射 車両通行用
開口部
土木学会第67回年次学術講演会(平成24年9月)
‑123‑
Ⅵ‑062
0 10 20 30
16 31.5 63 125
音圧レベル差(dB)
1/3オクターブバンド中心周波数(Hz) 広帯域衝撃性音源 Lmax 発破音 Lmax
3.適用現場の概要
実際に発破掘削で施工している山岳トンネルで消音器の効果を検証した.適用現場は、熊本 3 号津奈木トン ネル新設工事で,南九州西回り自動車道芦北から津奈木間に延長 1848m のトンネルを新設する.工事概要を表 -2 に示す.本トンネルは,写真-2 に示すように坑口周辺に民家が近接しており,発破に伴う低周波音の影響 が懸念された.消音器はトンネル坑口より 30m の地点に設置した.
工事名称 熊本3号 津奈木トンネル新設工事
工 期 平成22年3月13日~平成25年3月20日 工事場所 熊本県葦北郡山川地先~
熊本県葦北郡津奈木町千代地先 発 注 者 国土交通省 九州地方整備局
工事管理 八代河川国道事務所 工務第二課 用 途 2車線道路トンネル
工事内容 トンネル延長1,848m
(掘削断面積 74.8~96.6㎡)、坑門工2基
4.発破音の測定方法
津奈木トンネルで消音器による低周波音の低減効果の 検証を行った1).図-3 に測定時の切羽と測定点の位置関係 を示す.測定箇所は、発破音が消音器を通過して坑口部に 到達する防音ハウス内とした.騒音源は,トンネル発破音 と発破音を模した広帯域の衝撃性疑似音源 2,3)を用い,消 音器の設置前後で測定を行った.表-3 に測定時の発破諸元を示 す.切羽状況により各発破の火薬量,発破条件が異なるため,
消音器の設置前後で計 6 回測定し,バラツキの影響を排除して 低減量をもとめた.
5.測定結果
図-4 に発破音および疑似音源の各ケースにおける低周波音
の低減量を示す.なお,低周波音の低減量(消音器の低減効果)は、
消音器の設置前後の音圧レベルの差として算出した.20~63Hz 帯域 において発破音,疑似音源の両ケースで,約 15~20dB の低周波音の 低減効果が得られた.設計段階で実施した縮尺模型実験でも同様の低 減効果が確認できており,実現場でも同様の低減効果があることを検 証できた.
6.まとめ
発破低周波音対策の新技術として発破消音器を開発し,現場に適用 して約 15dB 以上の低周波音の効果を確認した.現在は,さらに広帯 域で効果のある消音器を開発中である.
参考文献
1)本田泰大,渡辺充敏,日本音響学会講演論文集(春)pp.28 1-8-1,2012 2)土肥他,騒音制御工学会講演論文集 (秋),pp185-188, 2005.
3)横田他,日本音響学会講演論文集 (春),pp819-820, 2007.
表-2 工事概要
写真-2 坑口部の状況
図-3 発破音測定点と切羽、消音器の位置 表-3 騒音測定時の発破諸元
図-4 消音器による低周波の低減効果
(疑似音源と発破音での測定結果)
低減効果 15~20dB
LSmax
LSmax
土木学会第67回年次学術講演会(平成24年9月)
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