車両感知器パルスデータを用いた渋滞発生時交通現象分析*
An Analysis of Traffic Flow Phenomenon at Occurrence of Congestion Using Pulse Data from Vehicle Detectors*
邢健**・鶴元史***・石田貴志****・村松栄嗣*****
By Jian XING **・Motofumi TSURU***・Takashi ISHIDA****・Eiji MURAMATSU*****
1.はじめに
渋滞が発生する直前の交通量,いわゆる渋滞発生時交 通量は,その道路が流し得る交通容量として捉えられて いる。都市間高速道路においては,渋滞発生時交通量を 渋滞に至る直前15分間のフローレートとして計測してい る1)。渋滞発生時交通量の高低は地点によって異なり,
車線数や道路線形の影響を受ける。一方で,同一地点で あっても,渋滞発生時交通量に分散があること,分散が 大きい要因は明暗や天候(降雨の有無),曜日(平日・休日) であることが既往研究において明らかとなっている1)〜
4)。しかし,これらを区分してもなお渋滞発生時交通量 の分散は大きく,渋滞発生時交通量は日々変動している。
渋滞発生時交通量の分散要因を明らかにすることは,
渋滞発生時交通量を定めることに他ならない。渋滞発生 時交通量を定めることで,地点ごとに異なる渋滞発生時 交通量と道路線形をより関連付けることができるであろ うし,ボトルネック現象をより緻密に検証・再現できる と考える。これは,今後のボトルネック分析に示唆を与 えるとともに,渋滞対策を検討する上で重要と考える。
本研究では,渋滞発生時交通量の高低に与える影響要 因を明らかにすることを目的として,車両感知器パルス データより得られる個々の車両データから,渋滞発生時 の交通特性を分析する。具体的には,渋滞発生時交通量 算出対象15分間の車頭時間や車群特性を分析するととも に,これらと渋滞発生時交通量の比較分析を行う。また,
上記分析結果を踏まえ,渋滞が発生する瞬間の車群に着
*キーワーズ:パルスデータ,渋滞発生時交通量,車群特性
** 正員,工博,(財)高速道路調査会 研究部
(東京都港区芝4-17-5田町プレイス,
TEL03-6436-2089,E-mail: jian-x@express-highway.or.jp)
*** 非会員,(財)高速道路調査会 研究部
(東京都港区芝4-17-5田町プレイス,
TEL03-6436-2089,E-mail: m_tsuru@express-highway.or.jp)
**** 正員,修(工),(株)道路計画 技術部
(東京都豊島区東池袋2-13-14 マルヤス機械ビル5階,
TEL03-5979-8855,E-mail: t_ishida@doro.co.jp)
*****非会員,東日本高速道路(株) 関東支社
(埼玉県さいたま市岩槻区加倉260,
TEL048-758-6509,E-mail:e.muramatsu.aa@e-nexco.co.jp)
目した分析の必要性を論じ,パルスデータを用いた今後 のボトルネック分析や渋滞対策検討の重要性を示す。
2.分析概要
(1)対象地点
分析対象地点は,関越道(上)花園IC付近のボトルネッ クとしている。当該ボトルネックは,片側3車線道路で,
起点である練馬ICから約55kmに位置し,花園ICより約1 km下流にあるサグである。また,パルスデータは,花 園IC合流直後にある55.95kpの車両感知器より収集して いる(図-1参照)。
(2)対象日
分析対象日は,表-1に示す渋滞が発生した休日の5日 としている。対象日には,当該サグで渋滞が発生してい ること,事故を含めた異常事象がないことを,現場所見 やVTRより判読した速度データ等から確認している。
また,渋滞発生時は全て昼過ぎから夕方にかけての時 間帯であり明暗の影響がほとんどないこと,非降雨であ り天候の影響がないことも確認している。
なお,表-1に示す渋滞発生時刻は,パルスデータより 得られた1台1台の時系列速度より判読している。
図−1 調査地点位置図
表−1 分析対象日
渋滞発生 時刻
渋滞発生時交通量 15分間フローレート
(台/時)
天候
4月19日 (日) 14:34 4,300 晴
4月26日 (日) 15:09 4,676 晴
5月03日 (日・祝) 16:05 4,552 晴 5月04日 (月・祝) 14:03 5,060 晴
5月24日 (日) 15:54 5,468 晴
日付
(3)パルスデータの概要
パルスデータは,ボトルネック1km上流に位置する55.
95kpの車両感知器より「各車両の通過時刻データ」として 収集している。車両感知器はダブルループ(1つのループ の道路方向長さは1.5m,各ループ間隔は5.5m)で構成さ れており,各車両の速度はループ間の通過時刻差と距離 から算出している。本研究では2つのループの上流側同 士および下流側同士から得られる2つの速度の平均値と している(各ループ間距離は7m)。
3.対象15分間の交通状況
(1)フローレート
図-2はパルスデータより描いた対象日における追越 車線の渋滞発生前15分間の時間・台数図である。横軸に 各車両の通過時間(図中は経過時間(秒)で表示),縦軸に 累加通過台数をとったものであり,傾きはフローレート となる。傾きが大きいほどフローレートが高く,傾きが 小さいほどフローレートが低いことを表す。また,図中 の経過時間900秒(15分)にあたる累加台数が渋滞発生前1 5分間の追越車線渋滞発生時交通量に相当し,その値が 高い日は5月4日と5月24日(約2,150台/時),低い日は4月1
9日(約1,750台/時)である。なお,追越車線渋滞発生時交
通量と渋滞発生時交通量(車線計)の相関係数は0.96と高 く,5日間の両交通量順位も同様であることから,文中 では両者を同義としている。
追越車線では,渋滞発生時交通量の高低にかかわらず,
どの対象日もフローレートが同様な時間帯が多く,常時
2,000台/時以上が出現している。中には,フローレート2,
500台/時以上(例えば,5月24日経過時間360〜420秒の1
分間)も出現している。
一方で,渋滞発生時交通量が低い日には車頭時間が大 きい車両が散見される(車頭時間の大きさは図中傾き0の 経過時間で表現)。また,極めて大きな車頭時間の車両 が存在しないまでも,若干大きな車頭時間の車両を多く 含んでいる日もある。これに対して,渋滞発生時交通量 が高い日には大きな車頭時間の車両がほとんど見られず,
高密度で走行している様子が見てとれる。
走行車線においては,追越車線と異なり常時高いフロ ーレートが出現していないものの,大きな車頭時間の出 現状況と車線別渋滞発生時交通量の高低に関する傾向は,
追越車線より顕著である。
(2)車頭時間
パルスデータより得られる各車両の車頭時間と速度を みると,渋滞発生時交通量が低い4月19日は車頭時間が 大きい車両が散見され,分散が大きい傾向にある(図-3 参照)。一方,渋滞発生時交通量が高い5月24日は車頭時
間が大きい車両は存在せず,分散が小さい傾向にあるこ とが見てとれる。この傾向は,その他日,走行車線も同 様である。
図−2 渋滞発生前15分間の時間・台数図(追越車線)
図−3 各車両の車頭時間・速度図(追越車線) 4 月 19 日(日)
車頭時間 速度
0 5 10 15 20 25
14:15 14:16 14:17 14:18 14:19 14:20 14:21 14:22 14:23 14:24 14:25 14:26 14:27 14:28 14:29 14:30 14:31 14:32 14:33 14:34 14:35 14:36 14:37 14:38 14:39 14:40
時刻 車
頭 時 間︵ 秒︶
0 30 60 90 120 150
速 度︵
㎞ / h︶
速度低下開始時刻
5 月 24 日(日)
0 5 10 15 20 25
15:35 15:36 15:37 15:38 15:39 15:40 15:41 15:42 15:43 15:44 15:45 15:46 15:47 15:48 15:49 15:50 15:51 15:52 15:53 15:54 15:55 15:56 15:57 15:58 15:59 16:00
時刻 車
頭 時 間︵ 秒︶
0 30 60 90 120 150
速 度︵
㎞ / h︶
速度低下開始時刻
また,図-4に示す渋滞発生前15分間の追越車線におけ る車頭時間構成率をみると,全ての日において1.0〜1.5 秒のレンジが最も多く25〜35%を占める。0〜1秒,1.5
〜2.0秒を含めた車頭時間2秒未満の車両は各日で70%を 占める。車頭時間2秒未満の構成状況は各日で同様であ る。仮に全ての車両が車頭時間2秒で走行した場合,フ ローレートは1,800台/時であり,常時フローレート2,000 台/時以上が出現しているとした前述の結果と一致する。
しかし,車頭時間2秒以上になると,その構成状況が各 日で異なり,渋滞発生時交通量が低い日では,その構成 率が高い。
なお,走行車線では車頭時間の構成状況が各日で同様 でなく,追越車線に比べて車頭時間が大きい傾向にある が,車頭時間と車線別渋滞発生時交通量に関する傾向は 追越車線と同様である。
(3)車群構成状況
既往文献では,車頭時間1.5〜5.0秒を車群の切れ目と 定義することが多い5)〜6)。本研究では追越車線を対象 としていることも考慮し,VTR等から主観的に車頭時間 2.0秒を車群の切れ目と定義している。
図-5に示す追越車線における渋滞発生前15分間の車頭 時間別速度をみると,車頭時間2秒以上の車両(車群の先 頭車両)は,2秒未満の車両(車群内の車両)より速度が高 い傾向にある。この傾向は対象日各々でも同様である。
追従している車両は前車の影響を受けるため,車群先頭 車両の速度より低くなったと考えられる。車群先頭車に よって後続車の速度が支配されている可能性がある。
そこで,追越車線を走行している車頭時間2秒以上の 車群先頭車両を対象に,後続車を含む車群構成台数と速 度の関係をみると(図-6参照),車群構成台数13台以下で は,車群構成台数が多くなるほど,車群先頭車の速度が 低くなる傾向にある。裏を返せば速度が低い車両ほど後 続に大きな車群を形成しており,車群先頭車によって後 続車の速度が支配されている様子がうかがえる。
4.渋滞発生時交通量との関係分析
(1)車頭時間
追越車線の車頭時間と渋滞発生時交通量(車線計)の関 係をみると,図-7に示すとおり渋滞発生時交通量が高い 場合は低い場合に比べて車頭時間の最大値が小さい。ま た,85%タイル値や平均値,標準偏差も小さい。
渋滞発生時交通量が高い場合は,全体的な車頭時間と その分散が小さい傾向にあり,渋滞発生時交通量の高低 は車頭時間とその分散によって決定されると考えられる。
この傾向は,走行車線も同様である。一方,最小値は渋 滞発生時交通量の高低にかかわらず一定である。
図−4 渋滞発生前15分間の車頭時間構成率(追越車線)
図−5 渋滞発生前15分間の車頭時間別速度の 累加構成率(対象5日間計・追越車線)
図−6 渋滞発生前15分間の車群構成台数と車群 先頭車速度の関係(対象5日間計・追越車線)
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 車頭時間(秒)
構 成 率︵
%︶
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 車頭時間(秒)
累 加 構 成 率︵
%︶
累加構成率
構成率(車頭時間は 0.5 秒ピッチ)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
40 50 60 70 80 90 100 110 120 130 140 速度(㎞/時)
累 加 構 成 率︵
%︶
車頭時間2秒未満 車頭時間2秒以上
単位:km/h 2秒未満 2秒以上 最小値 60.4 61.1 15%タイル値 84.0 90.0 平均値 97.6 103.5 85%タイル値 110.8 117.2 最大値 136.2 130.9 標準偏差 12.7 12.8
サンプル数 1803 670
項目 車頭時間
0 20 40 60 80 100 120 140
0 5 10 15 20 25 30 35
車群構成台数(台)
車 群 先 頭 車 の 速 度︵
㎞
/ 時︶
4月19日 4月26日 5月3日 5月4日 5月24日
4月19日 4月26日 5月3日 5月4日 5月24日
凡例
最大値 85%タイル 15%タイル 平均値 最小値
図−7 車頭時間(追越車線)と渋滞発生時交通量の関係
図−8 車群構成状況(追越車線)と 渋滞発生時交通量の関係
図−9 車群間ギャップと車群内車頭時間(追越車線)
(2)車群構成状況
図-8は,追越車線の車群構成状況と渋滞発生時交通量 の関係を表したものである。車頭時間2秒以上を車群と 定義していることから,単独走行車も車群としている。
渋滞発生時交通量が高いほど車群の個数が少なく,1 車群あたりの車群構成台数が多い傾向にある。渋滞発生 時交通量が高い日は,大きな車群が形成され,短い車頭 時間の車両が多い状況にある。
また,図-9に示す追越車線の車群間ギャップ(車群先 頭車両または単独走行車両と前方車群末尾との車頭時 間)および車群内車頭時間をみると,車群間ギャップは,
渋滞発生時交通量が高い日ほど小さい。渋滞発生時交通 量が高い日は大きな車群が形成され,短い車頭時間の車 両が多いのみならず,車群間ギャップも小さい。一方,
車群内の車頭時間は渋滞発生時交通量と無関係である。
5.まとめ
本研究は,渋滞発生時交通量の分散要因を明らかにす ることを目的として,渋滞発生時交通量算出対象15分に 着目し,車頭時間や車群特性を分析している。
分析の結果,対象とした5日間における渋滞発生前15 分間の追越車線では常時高いフローレート(2,000台/時以 上)が出現し,いつでも渋滞が発生するような状況であ ること,車頭時間2秒未満(=フローレート1,800台/時)の 車両が約7割を占めていることを明らかにしている。
一方で,渋滞発生時交通量の高低は車頭時間や車群構 成状況との間に関係があり,渋滞発生時交通量が低い日 は車頭時間が大きな車両が散見されること,車頭時間の 分散が大きいことを明らかにしている。これは,渋滞発 生時交通量が低い日は車群個数が多いこと,1車群あた りの台数が少ないこと,車群間ギャップが大きいこと (車群内車頭時間は変化なし)からも確認している。また,
速度が低い車両が大きな車群を形成しており,一種のペ ースカーの役割を果たしている可能性がある。
以上より,渋滞発生時交通量の高低は,追越車線のみ ならず走行車線も含めた需要交通量とペースカー的低速 車両の到着特性に因るところが大きいとの結論を得た。
今後は,対象15分間に着目するのではなく,パルスデー タ等を用いた渋滞発生の瞬間に着目した分析が必要であ り,これに基づいた渋滞対策を検討することが重要と考 える。
参考文献
1) 岡村秀樹, 渡辺修治, 泉正行:高速道路単路部の交通 容量に関する調査研究(上), 高速道路と自動車, Vol.4 4, No.2, pp.31-38, 2001.
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4) Edward CHUNG, Osamu OHTANI, Hiroshi WARITA, Masao KUWAHARA, Hirohisa MORITA: DOES W EATHER AFFECT HIGHWAY CAPACITY?, Procee dings of the 5th International Symposium on Highway Capacity and Quality of Service, Vol.1, pp.139-146, 20 06.
5) SURASAK Taweesilp, Izumi OKURA, Fumihiko NA
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関する研究, 土木計画学研究・論文集, Vol.18, pp.90 9-918, 2001.
6) 石田友隆, 桑原雅夫, EdwardChung MajidSarvi: 都市 間高速道路における車群特性に関する研究, 土木計 画学研究・講演集, Vol.26, No.79, 2002
R2 = 0.6726
120 125 130 135 140 145
3000 3500 4000 4500 5000 5500 6000 渋滞発生時交通量(台/時)
車 群 個 数︵ 個︶
R2 = 0.1888
R2 = 0.9884 R2 = 0.5523
0 5 10 15 20 25 30 35 40
3000 3500 4000 4500 5000 5500 6000 渋滞発生時交通量(台/時)
車 群 構 成 台 数︵
台︶ 最大
85%タイル値 平均
R2 = 0.4
R2 = 0.0741 R2 = 0.3569
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
3000 3500 4000 4500 5000 5500 6000 渋滞発生時交通量(台/時)
車 群 内 車 頭 時 間︵
秒︶ 最大
85%タイル値 平均
R = ‑0.96
R = ‑0.93 R = ‑0.87
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0
3000 3500 4000 4500 5000 5500 6000 渋滞発生時交通量(台/時)
車 頭 時 間︵ 秒︶
85%タイル値 平均値 標準偏差
車群個数 車群構成台数
車群間 車群内
0 5 10 15 20 25 30
4300 4552 4676 5060 5468 渋滞発生時交通量(台/時)
車 頭 時 間︵ 秒︶
(4/19) (5/3) (4/26) (5/4) (5/24) 凡例
最大値 85%タイル 15%タイル 平均値 最小値
R2 = 0.7392
R2 = 0.8718 R2 = 0.8196
0 5 10 15 20 25 30
3000 3500 4000 4500 5000 5500 6000 渋滞発生時交通量(台/時)
車 群 間 ギャ ッ プ︵ 秒︶
最大 85%タイル値 平均