片側性筋収縮が対側同名筋の神経制御機構に 及ぼす影響
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(2) ヒトの随意的な筋収縮は, 随意指令によって生じる大脳一次運動野の神経細 胞の興奮が皮質脊髄路を介して脊髄へ伝わり, 脊髄 α 運動ニューロンが賦活す ることによって生じる. この皮質脊髄路の軸索の大部分は, 延髄で交叉して対 側の脊髄を下行するため, 随意的な筋の活動は主として対側の大脳皮質におけ る神経指令によって調節されることになる. 現在では, 随意筋収縮中の皮質脊髄路の興奮性が, 安静状態と比して高くな ることが広く知られている. また, トレーニングによって発揮筋力や運動の巧 緻性が向上すると, 皮質脊髄路の興奮性がトレーニング前よりも増大すること が明らかにされている. これらのことは, 皮質脊髄路の興奮性増大が, ヒトの随 意的筋力発揮や発揮筋力および運動の巧緻性向上に密接な関連があることを意 味している. 近年, 片側性筋収縮中は, 対側だけでなく同側の皮質活動も活発になり,. 安. 静状態の対側肢における同名筋の皮質脊髄路興奮性が高まるという事例が数多 く報告された. したがって, 前記した皮質脊髄路の興奮性増大と筋力や運動パ フォーマンスの向上の関連性に基づくと, 片側性筋収縮による対側同名筋の筋 力等の向上が予想される. 実際, 片側性トレーニングによって対側同名筋の筋 力や動作の加速度が向上することが, これまでに多数報告されている. また, 最 近の研究において, 脳卒中患者が両側肢でトレーニングを行うと, 患側肢だけ のトレーニングよりも機能回復が大きいことが報告された. よって, 片側性筋 収縮が対側肢の神経制御機構に及ぼす影響ついて検討することは, 神経生理学 的観点だけでなく臨床的観点に対しても重要な知見を与えると考えられる. 現時点では, 片側性の等尺性筋収縮中における安静対側同名筋の皮質脊髄路 興奮性は, 収縮強度に依存して増大すること, および, 収縮筋と安静対側同名筋 の皮質脊髄路興奮性増大には正の相関があることが報告されている. こうした 先行研究によって, 片側性筋収縮中における左右同名筋の皮質脊髄路は対称的 な興奮性修飾を受けていることが示唆され, 収縮筋において明らかにされてい る収縮様式依存性の皮質脊髄路興奮性動態が安静対側同名筋においても存在す る可能性がある. そこで本研究は, 片側性の短縮性, 伸張性および等尺性筋収縮 中の安静対側同名筋における皮質脊髄路興奮性動態の特徴を明らかにすること, およびその修飾神経レベルについて検討することを目的として, 電気生理学的.
(3) な手法を用いた 3 つの実験を行った. 第一の実験では, 収縮筋の皮質脊髄路興奮性動態における収縮様式依存性が 被検筋によって異なるという先行研究を踏まえ, 右側手関節屈筋群の短縮性, 伸張性および等尺性筋収縮中に経頭蓋磁気刺激を左側一次運動野に与え, 右側 橈側手根屈筋に生じる運動誘発電位振幅の収縮様式依存性を検討した. そして, 右側橈側手根屈筋の運動誘発電位振幅は伸張性筋収縮中において最も小さいと いう結果を得た. 第二の実験では, 上述した片側性筋収縮中に経頭蓋磁気刺激を右側一次運動 野に与え, 安静状態の対側同名筋 (左側橈側手根屈筋) に生じる運動誘発電位の 収縮様式依存性を検討した. その結果, 安静状態の運動誘発電位は右側橈側手 根屈筋の伸張性筋収縮中において最も増大することが明らかとなった. 第三の実験では, H 反射法を用いて, 上述した片側性筋収縮中における安静対 側同名筋の皮質脊髄路興奮性増大に対する脊髄レベルの興奮性修飾について検 討した. その結果, H 反射の変化には明確な収縮様式依存性が確認されなかった. よって, 安静対側同名筋の皮質脊髄路興奮性変化は脊髄より上位の中枢による 興奮性修飾を反映していた可能性が考えられた. 以上, 三つの実験系より, 収縮様式に依存した収縮筋と安静対側同名筋の皮質 脊髄路における興奮性修飾は非対称であることが示された. 加えて, 安静対側 同名筋の皮質脊髄路興奮性の修飾は脊髄より上位の神経レベルで行われている 可能性が示唆された. また, 安静対側同名筋の皮質脊髄路興奮性を修飾する皮 質内神経回路の影響を検討するという今後の課題も提示された. 本研究の成果 は, ヒトの筋収縮に関する神経制御機構だけでなくトレーニングやリハビリテ ーションプログラムの開発においても重要な資料となるであろう.. 本内容の掲載誌: Uematsu A, Obata H, Endoh T, Kitamura T, Hortobagyi T, Nakazawa K, Suzuki S: Asymmetrical modulation of corticospinal excitability in the contracting and resting contralateral wrist flexors during unilateral shortening, lengthening and isometric contractions. Experimental Brain Research, 206(1): 59-69, 2010.
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