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竹富方言による民話テキストの一例 ―『遺老説伝』「造船の始」より―

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竹富方言による民話テキストの一例

―『遺老説伝』「造船の始」より―

An Example of Folktale Texts in the Taketomi Dialect: 

From "The Beginning of Shipbuilding" of the 

Ir    -Setsuden

 (a Ryukyu Kingdom book of folktales)

西 岡   敏

            NISHIOKA Satoshi

1.はじめに

 2011年3月に20余年の歳月をかけて編まれた『竹富方言辞典』(前新透[著]、波照 間永吉・高嶺方祐・入里照男[編著]、南山舎[刊])が出版される。この辞典編集の 後半の段階で、私(西岡)は見出し語における音声記号のチェック等を担当した。高 嶺氏の録音した見出し語の音声ファイル(MP3 形式)を聞く一方、何度か石垣島を訪 れ、竹富方言の流暢な話し手である入里照男氏に対面調査し(高嶺方祐氏にも少し調 査した)、竹富方言における基礎的な部分を調べた。しかしながら、竹富方言全体の構 造を理解するには程遠く、また、本来ならば辞典編集が実際に行われている八重山・

石垣市(本辞典の刊行元である南山舎の所在地)に編集協力および事実確認のために 行くべきところを、諸般の事情でなかなか行くことができず、特に、アクセントなど の細かい音声的事実の確認に梃摺っていた。

 そんななか、沖縄島において対面調査の形で献身的に時間を割いて音声や語彙の チェックをしてくださったのが、宜野湾市在住の崎山三郎氏(1934年生、男性)であ る。崎山氏は、竹富島字玻座間・西部落のご出身で、現在、琉球古典音楽や八重山古 典民謡などの三線教師をなさっている。たいへん音声的な感覚の鋭い方で、竹富方言 についての質問に対して正確かつ丁寧に答えてくださった。竹富方言には、曖昧母音 や鼻母音など、標準語に慣れた耳では、聞き取りおよび発音の難しいものが少なくな い。さらに、アクセント・イントネーションにおいても注意を要する現象が見られる。

崎山氏は、こちらが反芻して発音する単語・句・文などについて、アクセント・イン

(2)

−2−

トネーションも含め、厳しくチェックしてくださった。また、崎山氏への対面調査の 途中で、琉球方言の音調をテーマに研究している小川晋史氏(琉球大学法文学部PD)

の協力を得たことも大きかった。小川氏とともに聞き取り調査をすることで、音調的 な分析について多くの示唆を得ることができた。

 本稿に掲げるのは、崎山氏との対面調査の折に、後々の参考資料になると考え、竹 富方言への翻訳の形で作成していただいた竹富方言の民話テキストである。この民話 テキストを得るための対面調査は、2011年2月10日および17日に一対一の形で行っ た。翻訳元の資料として、『遺老説伝』における竹富島関連記事「80八重山武富島の 島仲、始めて船を造るのこと――造船の始」(嘉手納宗徳[編訳]1978:82, 137-138)

の「読み下し」を利用した。「原文」が漢文の『遺老説伝』には口語訳もあるが、対 面調査の際には、その口語訳も適宜参照している(琉球史料研究会19 60:151-152)。

 一文一文ずつ竹富方言に翻訳していただいたため、全体の「自然な流れ」という点 では不十分な点もあろう。また、「翻訳」には、どうしても「竹富方言らしさ」から 逸脱しないための「意訳」が必要となった場合がある。「原文」とニュアンスの異な る表現は、その点を考慮に入れてお読みいただきたい。

2.資料提示の仕方

 (第1行)に通し番号(001〜022)を付け、ある一定のまとまりごとに、『遺老説伝』

角川本「読み下し」の部分を掲げる(嘉手納1978:137-138)。(第2行)には、「読み 下し」をもとに、崎原三郎氏に翻訳していただいた竹富方言の文を音声記号(ハイフ ン付き)で提示する。(第3行)には音声記号をカナ表記に置き換えたものを掲げる。

その際、音韻の区別や文節の区切りについても配慮する。(第4行)は、翻訳された 竹富方言をもとに、そこから標準語訳したものである。(第5行)以下には、単語ご との[語釈]を載せる。音声記号のあとに示す(0)および(2)は、アクセント型の表示 である。(0)が平板型で、助詞付きで平らに進むアクセント、(2)が起伏型で、助詞付 きで2モーラ目において下がることが特徴のアクセントである。

3.竹富方言独特の発音とカナ表記

 鼻母音は、カナ表記では、長音記号「ー」の上に「〜」、あるいは、「イ」の上に

「〜」を付けて表すことにする。

(3)

−3−

     例:[ u       ] シュー〜   [肝]   [ ukuz    ki-   ] フクザキイ  〜    [福崎に]

 曖昧母音(シュヴァー)の [     ]は(崎山氏は「濁ったア」と表現)、カナ表記で は、そのままのア段で書くこととし、  広めの [  a  ]  は、小文字の「ァ」をア段の文 字直後に添えることとする。

     例:[  p i   ]  パイ  [灰]   [pai] パァイ  [鍬]

4.『遺老説伝』「造船の始」(資料)

001 往古の時、八重山武富島に、一兄一妹有り。

muk   i,ja      -nu te du   -  im -na    , itui-nu   i z  -tu,   itui-nu miduna-nu  ututu-nu  butt -tu. 

ムカシ、ヤァー〜  ヌ テードゥンシマナァー、ヒトゥイヌ シーザトゥ、ヒトゥイヌ  ミドゥナァヌ ウトゥトゥヌ ブッタトゥ。

昔、八重山の竹富島に、一人の兄と一人の妹がいたそうだ。

[語釈]muk   i(2) ムカシ 昔。 

    ja    (0) ヤァー 〜   八重山。

    -nu ヌ 〜の。格助詞。連体格。

    te  du (2) テードゥン 竹富。 

     im    (2) シマ 島。 te  du  - im    (2)テードゥンシマ 竹富島。

    -na  ナァー 〜に。格助詞。存在の場所を表す。

      itui(2) ヒトゥイ 一人。

      i z  (2) シーザ。年上の者。兄。 

    -tu トゥ あるいは -ttu ットゥ 〜と。格助詞。共格。

    miduna(2) ミドゥナァ 女。女性。

    ututu(2) ウトゥトゥ 年下の者。

    butt  (0) ブッタ いた。動詞 bu  (0)ブン(不規則類)の過去形。

    -tu 〜だって。〜だそうだ。終助詞。伝聞を表す。

002 兄は名を島仲と曰ひ、年甫めて七歳、

i   z  -nu na  -ju  idubu    i-tti  i  i,  tu i-j    n  n  i, 

(4)

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シーザヌ ナァーユ シドゥブジッティ イジ、トゥシヤ ナナチ、

兄の名をシドゥブジと言い、年は七つ、

[語釈]na (0) ナァー 名。名前。 

    -ju ユ 〜を。格助詞。対格を表す。

      idubu  i(2) シドゥブジ。男の人名。「せどおほぢ(勢頭大爺)」の転か。原 文では、「島仲」であるが、ここでは竹富島に伝わっている人名のほうを 用いた(上勢頭 亨 1976:2)。

    -ti ティ あるいは -tti ッティ 〜と。格助詞。引用格を表す。

    i  i(0) イジ 言って。動詞 izu  (0)イズン(Ⅰ類ザ行)の連用形。

    tu  i(2) トゥシ 年。

    -j   ヤ 〜は。とりたて助詞。主題などを表す。

003 妹は名を粟礼志と曰ひ、年甫めて五歳なり。

ututu-nu na  -j   p re  i-ti i    i,tu i-j    i  i  i-dett -tu. 

ウトゥトゥヌ ナァーヤ アパレシティ イジ、トゥシヤ イチチデッタトゥ。

妹の名はアパレシと言い、年は五つだったそうだ。

[語釈]n n    i(2) ナナチ 七つ。

      p  re i(2) アパレシ 女の人名。「あはれ」と同根で美人の意を持つ。 

    i i  i(2) イチチ 五つ。 

    -dett  デッタ 〜であった。「du ドゥ+   tt  アッタ」の縮約した形。

004 一日、其の兄、小妹を携へ、福崎に往きて遊ぶ。

ru-b    u,unu    i   z -j   ututu-ju sa  ri,   ukuz ki-      h ri,      subi-bi  ti, 

アルバシュ、ウヌ シーザヤ ウトゥトゥユ サァーリ、フクザキイ〜   ハリ、アスビ ビーティ、

あるとき、その兄は妹を連れて、福崎に行って、遊んでいて、

[語釈]ru-b     u(2) アルバシュ あるとき。

    unu(0) その。

    sa  ri(0) サァーリ 連れて。動詞 sa  ru (0) サァールン(Ⅰ類ラ行)の連  用形。

(5)

−5−

      ukuz  ki(2) (地名)福崎。竹富島の南方にある海岸地名。この地域は、現 在、竹富方言で、k  i (2) i (カイジ、皆治)と呼ばれることが多い。「カイ ジ浜」「ブサシ御嶽」などがある所である。

    - -  イ〜

   〜に。格助詞。与格を表す。

    h ri(2) ハリ 行って。動詞 h   ru   (2)ハルン(Ⅰ類ラ行)の連用形。

     subi(0) アスビ 遊んで。動詞   subu (0)アスブン(Ⅰ類バ行)の連用形。 

    -bi  ti ビーティ 〜していて。動詞連用形に付く。bi  ti は、もとは「座る」

の意をもつ動詞 bi  ru (0)ビールン(Ⅱ類バ行)の「〜して」の形。 

005 忽ち一物の海に浮びて来るを見る。

nottinne n    tu -ju mi-kk     i,no de   g r   -nu munu-nu tum i-na     hoiri,

na  ri ku  -nu-ju mi  .

ノッティンネーナ トゥーユ ミッカシ、ノーデンガラヌ ムヌヌ トゥマイナァー  ホイリ、ナァーリ クーヌユ ミー。

何気なく沖を見ていると、何かあるものが海に浮かんで、流れてくるのを見た。

[語釈]nottinne n  (2) ノッティンネーナ 何ということもなく。何となく。何気   なく。no  -ti-  -ne  n (ノー+ティ+ン+ネーナ、何+と+も+無く)。

    tu  (0) トゥー 沖。渡。

    mi(2) ミ 見て。動詞 miru (2)ミルン(Ⅱ類マ行)の連用形。 

    -kk   i 〜ッカシ 〜すると。〜したら。動詞連用形に付く。

    no de   g r  (2) ノーデンガラ 何か。何かしら。no   -de    -g r  (ノー+デ ン+ガラ、何+だに+か)

    munu(2) ムヌ 物。

    tum  i(0) トゥマイ 海。

    hoiri(0) ホイリ 浮かぶ。動詞 hoiru (0)ホイルン(Ⅰ類ラ行)の連用形。 

    na ri(2) ナァーリ。流れて。動詞 na   riru    (2)ナァーリルン(Ⅱ類ラ行) 

の連用形。

    ku (2) クー 来る。動詞 ku    (2)クン(不規則類)の連体形。 

    -nu ヌ 〜の。〜こと。準体助詞。ここでは、準体助詞 -su(ス)も可との ことだが(ku  -su-ju、クースユ、来るのを)、-su(ス)は人を指す場合が

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多いという。

    mi  (2) ミー 見た。動詞 miru (2)ミルン(Ⅱ類マ行)の連用形。ここで  は、過去の意味で言い切りを表す。

00 6 影形、半輪月の如し。

unu k t   i-j    kki-ju h mbu    e   ru jo      i-nu munu. 

ウヌ カタチヤ ッキヌ ハンブン シェール ヨー〜  シヌ ムヌ。

その形は月を半分にしたようなものだった。

[語釈]k  t   i(0) カタチ 形。

    kki(2) ッキ 月。 i 。 ki(ヒキ)とも言う。

    h mbu   (2) ハンブン 半分。

     e   ru(0) シェール した。してある。動詞 su (0)スン(不規則類)のシテ  アル形の連体形。

    jo      i(2) ヨー  〜  シ (〜の)ようで。(〜の)ように。jo  i(2)ヨーシという鼻  母音でない発音も可。

007 島仲、大いに怪とし、而して之を撈収す。

 idubu    i-j   de   i-nu mi  ir   -tti umui,uri-ju turi mi   . 

シドゥブジヤ デージヌ ミジラシャッティ ウムイ、ウリユ トゥリ ミー。

シドゥブジはたいへん奇怪なことだと思って、それを手に取ってみた。

[語釈]de   i-nu(2) デージヌ たいへんな。de   i-n  (2)デージナとも言う。

    mi  ir   (2) ミジラシャ 珍しさ。珍しいことだ。奇怪なことだ。形容詞  の語幹。

    umui(2) ウムイ 思って。動詞 umu (2)ウムーン(Ⅰ類ア行)の連用形。  

    uri(0) ウリ それ。

    turi(2) トゥリ 取って。動詞 turu  (2)トゥルン(Ⅰ類ラ行)の連用形。  

008 遂に之れを心に感じ、

       nu,mi  ir   ri,tin-nu    ikima    i-kk   ja   -tti umui,   

アー〜  ヌ、ミジラシャリ、ティンヌ ヒキマァーシッカヤァーッティ ウムイ、

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ああ、珍しいことよ、これぞ天の引き合わせかなと思って、

[語釈]       nu(2) アー〜  ヌ ああ。なんとまあ。感動詞。

    mi  ir   ri(2) ミジラシャリ 珍しいことだ。形容詞。余韻を残す言い方。 

    ti (0) ティン 天。

      ikima   i(0) ヒキマァーシ 引き合わせ。(天の)思し召し。

    -kk ja    ッカヤァー 〜かなあ。終助詞。疑問を示す。

009 即ち斧斤を以て山に入り、木を伐り、其の制を傚習して、始めて以て船を造る。

bu nu-ju mu    i,j m  -  pe   ri,ki   -ju to    i,tum   i-h  r   mu    i ke ru  munu-nu jo       i,h  i       ti   uni-ju kkuri.

ブーヌユ ムチ、ヤマイ〜

   ペーリ、キーユ トーシ、トゥマイハラ ムチ ケール  ムヌヌ ヨー〜  シ、ハジー〜  ティ フニユ ックリ。

斧を持ち、山に入り、木を倒し、その海から持ち帰った物に似せて、初めて船を作った。

[語釈]bu  nu(2) ブーヌ 斧。

    mu  i(2) ムチ 持って。動詞 mutsu (2)ムツン(Ⅰ類タ行)の連用形。

    j m  (2) ヤマ 山。 

    pe  ri(2) ペーリ 入って。動詞 pe  ru  (2)ペールン(Ⅰ類ラ行)の連用形。

    ki  (2) キー 木。

    to  i(2) トーシ 倒して。動詞 to    su (2)トースン(Ⅰ類サ行)の連用形。 

    -h r   ハラ から。格助詞。起点格(奪格)を表す。

    ke ru(2) ケール 動詞 ku    (0)クン(不規則類)のシテアル形の連体形。

    h  i        ti(0) ハジー〜  ティ 初めて。

     uni(2) フニ 船。 

    kkuri(2) ックリ 造った。動詞 kkuru (2)ックルン(Ⅰ類ラ行)の連用形。 

ここでは、言い切りで過去の意味を表す。語頭音は無声化音の[ i 。  ]でも可。

010 時に小妹、饋    して来る。島仲曰く、

unu-b   u,  i -ju mu    i kutt  ru ututu-nu   p  re  i-  

     idubu  i-j  ,    ウヌバシュ、イーユ ムチ クッタル ウトゥトゥヌ アパレシイ〜

  、シドゥブジヤ、

そのとき、ご飯を持ってきた妹に、シドゥブジは、

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[語釈]unu-b  u(0) ウヌバシュ そのとき。b    u(2)バシュは、もと「場所」の意。 

    i  (2) イー 飯。御飯。

    kutt ru(2) クッタル 来た。動詞 ku    (0)クン(不規則類)の過去形の連 体形。

011 願はくは、汝早く成長し、霊神汝が身に托すれば、而ち船号を請乞せんものをと。

do  dinn  ,wa  -j   h  is  u   itu n    ri,  k   itu n    ri,  uni-nu na  -ju to      r  ri  pi  re  -tti, 

ドーディンナ、ワァーヤ ハイサ フーヒトゥ ナリ、カンヒトゥ ナリ、フニヌ  ナァーユ トー〜  ラリ ピーレーッティ、

どうかお前は早く大人になって、神人になって、船の名をいただいてくれよ、と

[語釈]do  dinn  (2) ドーディンナ どうか。お願いだから。

    wa  (0) ワァー お前。2人称単数。

    h  is (2) ハイサ 早く。副詞とも形容詞連用形とも解釈できる。 

      u   itu(2) フーヒトゥ 大人。ここでは「大人」の意だが、「(体の)大き な人」の意になることもある。「人」は itu(0)ヒトゥ。

    n  ri(2) ナリ なって。動詞 n  ru  (2)ナルン(Ⅰ類ラ行)の連用形。

    k   itu(2) カンヒトゥ 神人。カミンチュ。「神」は k    (2)カン。 

    to      r  ri(2) トー〜  リ いただいて。動詞 to      r  riru (2)トー〜  ラリルン(Ⅱ類ラ 行)の連用形。

    pi re  (0) ピーレー くれよ。動詞 pi   ru   (0)ピールン(Ⅱ類ラ行)の命令形。

012 言未だ畢らざるに、果して神小妹に托し、

i  u-tumma  i,ututu-j     k   itu n    rutt  -tu.

イジュトゥンマァーシ、ウトゥトゥヤ カンヒトゥ ナルッタトゥ。

言うやいなや、妹は神人になったそうだ。

[語釈]-tumma   i トゥンマァーシ 〜するやいなや。〜するとすぐに。動詞の連 体形に付く。

    n  rutt  (2) ナルッタ なった。動詞 n  ru (2)ナルン(Ⅰ類ラ行)の過去形。 

(9)

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013 託宣して曰く、兄造る所の船、牢実堅固にして、

k  mi-s       -j  ," i   z  -nu kkure  ru  uni-j     de   i-n   g  n  u  -g  n  u  - i  kkur ri  . 

カミサー〜  ヤ 「シーザヌ ックレール フニヤ デージナ ガンジューガンジューシ  ックラリー。

神様は「兄の作った船はたいへん強固に作られている。

[語釈]k  mi-s     (2) カミサー 〜   神様。

    kkure  ru(2) ックレール 造った。造ってある。動詞 kkuru (2)ックルン 

(Ⅰ類ラ行)のシテアル形の連体形。

    de  i-n   (2) デージナ たいへん。非常に。 

    g  n  u -g   n  u -   i(2) ガンジューガンジューシ とても強固に。g  n  u

(2)ガンジュの繰り返し形。g  n  u(2)ガンジュは、「健康」の意で多く使 われる。g  n  u- i o   ri(ガンジュシ オーリ、健康でいらっしゃる)。 

    kkur ri   (2) ックラリー 造られている。動詞 kkuru (2)ックルン(Ⅰ類  ラ行)の受身形の連用形。ここでは、状態・継続の意味で言い切りを表す。

014 誠に海を渉るに堪ふ。

uri-j  tta   tu  -  h    r  riru . 

ウリヤッタァー トゥーン ハラリルン。

それであれば海も渡ることができる。

[語釈]uri-j tta   (0) ウリヤッタァー そうであれば。 

    h r  riru    (2) ハラリルン 行ける。渡れる。動詞 h ru   (2)ハルン(Ⅰ類ラ 行)の可能形の終止形。

015 今船号を賜ひ、五包七包と曰ふと。

unu  uni-nu na -ju gu-ku   -n  n   -ku "-ti i    o ri,unu na   -ju to        r ritt    -tu.

ウヌ フニヌ ナァーユ グクーナナクー」ティ イジョーリ、ウヌ ナァーユ トー〜  ラリッタトゥ。

その船の名を五句七句」とおっしゃって、その名をいただいたそうだ。

[語釈]gu-ku  (0)-n  n  -ku  (2)グクーナナクー 船の名。五句七句。原文では、「五

(10)

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包七包」であるが、ここでは竹富島に伝わっている船名のほうを用いた(上 勢頭 1976:3)。

    i  o ri(0) イジョーリ おっしゃって。動詞 izu    (0)イズン(Ⅰ類ザ行)の 連用形に、尊敬の助動詞 o ru  オールンの連用形が付いた形。

    to      r  ritt  (2) トー  ラリッタ いただいた。動詞 to 〜      r  riru  (2)トー  ラリル〜 ン(Ⅱ類ラ行)の過去形。

016 或る時島仲、此の舟を海浜に泛べ、以て娯楽を為す。

 ru-b     u,  idubu  i-j  unu     uni-ju tum i-na     ur     i  subi-kk     i,

アルバシュ、シドゥブジヤ ウヌ フニユ トゥマイナァーイ〜

   ウラシ アスビッカ シ、

あるとき、シドゥブジはその船を海に浮かべて遊んでいると、

[語釈]-na    ナァーイ〜   〜のところに。行われる場所を示す。

    ur  i(2) ウラシ 下ろして。動詞 ur   su   (2)ウラスン(Ⅰ類サ行)の連用  形。

017 想らずも波に随ひ風に任せて黒島に漂至す。

    -kk    i n    mi-nu ki  ,k   i-nu  uki,pu          -m  di na  s  ri h  ri.

ッシャンッカシ ナミヌ キー、カジヌ フキ、プチャー〜  マディ ナァーサリ ハリ。

知らないうちに波が来て、風が吹き、黒島まで流されていった。

[語釈]     -kk  i(0) ッシャンッカシ 知らないうちに。    nu(0)ッシャヌは「知  らない」で、  u (0)ッシュン(Ⅰ類シャ行)の否定形。

    n  mi(0) ナミ 波。

    ki  (2) キー 来て。動詞 ku (2)クン(不規則類)の連用形。 

       uki(2) フキ 吹いて。動詞 uku (2)フクン(Ⅰ類 カ行 )の連用形。 

  (注1)

    pu     (2) プチャー      〜   黒島。

    -m  di マディ 〜まで。副助詞。到達点を表す。

    na s   ri(2) ナァーサリ 流されて。動詞 na su   (2)ナァースン(Ⅰ類サ行)

の受身形の連用形。

    h  ri(2) ハリ 行った。動詞 h  ru (2)ハルン(Ⅰ類ラ行)の連用形。ここ 

(11)

−11−

では、過去の意味で言い切りを表す。

018 黒島の人、悉く其の制に倣ひて亦船隻を造り、武富に駕し至る。

pu        -nu   itu-j  unu     uni-nu ma          i  uni-ju kkuri,unu   uni-na  nu ri,te   dum-me   kutt  -tu.

プチャー〜  ヌ ヒトゥヤ ウヌ フニヌ マァー〜  イ〜

   シー フニユ ックリ、ウヌ フ ニナァー ヌーリ、テードゥンメー クッタトゥ。

黒島の人は、その船の真似をして船を作り、その船に乗って、竹富島に来た。

[語釈]  itu(0) ヒトゥ 人。

    ma       (0) マァー〜  イ〜

   真似。

      i (0) シー して。動詞 su    (0)スン(不規則類)の連用形。

    nu  ri(0) ヌーリ 乗って。動詞 nu  ru (0)ヌールン(Ⅰ類ラ行)の連用形。 

    -me   メー 〜に。前に付く単語の語尾が「ン」のときの助詞「イ〜  」の交替 形。

    kutt (2) クッタ 来た。動詞 ku    (2)クン(不規則類)の過去形。

019 島仲之れを見て曰く、何ぞ我が船と相似たるやと。

 idubu    i-j   uri-ju mitti,no  ttidu ba   kkutt  ru  uni-ttu ni    ru      nu-nu    ru-kk  ja  -ti umui, 

シドゥブジヤ ウリユ ミッティ、ノーッティドゥ バァー ックッタル フニッ トゥ ニールー〜  ヌヌ アルッカヤァーティ ウムイ、

シドゥブジはそれを見てから、なんとまた自分の船と似ているものがあるのかと思っ て、

[語釈]mitti(2) ミッティ。見てから。動詞 miru (2)ミルン(Ⅱ類マ行)の連用形  に「ッティ」が付いた形。「ッティ」は「〜して」にあたる。

    no ttidu(2) ノーッティドゥ 何とまた。何でまた。nottidu(2)ノッティ  ドゥと長音が短くても可。

    ba (2) バァー 私が。b    nuju(2)バヌユ(私を)。b  nu (2)バヌン(私 に)。b  nn  (2)バンナ(私は)。ba  nu    nu バァーヌー〜  ヌ(私のもの)。

    kkutt  ru(2) ックッタル 造った。動詞 kkuru (2)ックルン(Ⅰ類ラ行)の 

(12)

−12−

過去形の連体形。

    ni  ru    nu(0) ニールー〜  ヌ 似ているもの。動詞 ni  ru (0)ニールン(Ⅰ類  ラ行)の連体形と名詞 munu ムヌ(物)が合わさった形。

     ru(2) アル 有る。動詞    (2)アン(不規則類)の連体形。

020 遂に造船の   情を問ひ、以て我が船に倣ひて製造せるを知る。

unu  uni-nu kkuri-k    t  -ju tui- iki mitta    ,ba  uni-nu ma         i   -du   kkure  ru kutu-ju   i   .

ウヌ フニヌ ックリカタユ トゥイヒキ ミッタァー、バァー フニヌ マァー〜  イ〜    シードゥ ックレール クトゥユ ッシー。

船の作り方を問いただしてみたら、自分の船の真似をして作っていることを知った。

[語釈]kkuri-k  t  (2) ックリカタ 作り方。

    tui- iki(0)  トゥイヒキ  問い質して。問い聞いて。動詞 tui-   iku   (0)トゥ  イヒクン(Ⅰ類カ行)の連用形。

    mitta (2) ミッタァー 見たら。仮定条件を表す。 

    kutu(2) クトゥ 事。

       i  (0) ッシー 知った。  u  (0)ッシュン(Ⅰ類シャ行)の連用形。ここ では、過去の意味で言い切りを表す。

021 往時の時は、必ず船を武富邑に造る。

uri-j ritti-du,muk     i-j  k    n r   i     uni-j  te   dun-na     -du kkurutt ru. 

ウリヤリッティドゥ、ムカシヤ カナラジ フニヤ テードゥンナァーイ〜

  ドゥ ック ルッタル。

そんなわけだから、昔は必ず船は竹富島で作ったのである。

[語釈]uri-j  ritti-du(0) ウリヤリッティドゥ そんなわけだから。j  ritti-du(0)ヤ リッティドゥ、j ritti(0)ヤリッティも同様の意で使用可。 

    k n  r   i (2) カナラジ 必ず。強調して k na  r   i (2)カナァーラジとな る場合もある。

    -du ドゥ こそ。ぞ。係助詞。

    kkurutt  ru(2) ックルッタル 造ったのである。動詞 kkuru (2)ックルン 

(13)

−13−

(Ⅰ類ラ行)の過去形の強意の連体形。係助詞「ドゥ」の結びの形である。

022 近世に至り、亦改めて以て船を石垣に造る。

uri-h r  ju   -nu ka   ri,in     i-na   - du   uni-j  kkuru jo        n ri-ra. 

ウリハラ ユーヌ カァーリ、イナシナァーイ〜

  ドゥ フニヤ ックル ヨー〜  イ〜    ナリ ラァ。

それから時代が変わって、石垣で船は作るようになったのだよ。

[語釈]uri-h r  (0) ウリハラ それから。 

    ju (0) ユー 世。世の中。 

    ka ri(0) カァーリ 変わって。動詞 ka   ru   (0)カァールン(Ⅰ類ラ行)の 連用形。

    in   i(0) イナシ 石垣。石垣島。地名。

    kkuru(2) ックル 造る。動詞 kkuru (2)ックルン(Ⅰ類ラ行)の連体形。 

    jo    (2) ヨー  〜  イ〜   ように。jo  (2)ヨーイ  〜  という、オ段のところが鼻母音で ない発音も可。

    n ri(2) ナリ なった。動詞 n   ru   (2)ナルン(Ⅰ類ラ行)の連用形。ここ では、過去の意味で言い切りを表す。

    -ra ラ ァ 〜 の だ。〜 だ よ。終 助 詞。話 し 手 の 感 動 や 同 意 を 表 す。-ra  ラァーという長音もある。

(注1)『竹富方言辞典』で文法を記述するとき、動詞の活用を整理したところで、「Ⅰ類カ行」というのを立てなかっ た。これは、カ行の k 音が脱落するという竹富方言の動詞の特徴により、もと「カ行」であった動詞がみな「ア行」

となると考えたからである。しかしながら、今回の調査で「Ⅰ類カ行」の動詞が2語も出てきたので、「Ⅰ類カ行」

を設定する必要が出てきた。その2語とは、017の uku 

 

(2)フクン(吹く)と020の tui- 

 

iku 

 

(0)トゥイヒクン(問    い聞く)である。このうち、フクン(吹く)については、k 音の脱落に関して興味深い現象が見られる。「風が吹い た」は、  k 

  i-nu  

uki(カジヌ フキ)と k 

  i-nu  ui(カジヌ フイ)の双方が、若干のニュアンスの違いと

ともに許されるのに対して、「煙草を吹く(吸う)」の場合は、t 

 

bu-ju  uki(タブユ フキ)のみ許され、t 

 

bu-ju 

*

  ui(タブユ   

フイ)とは言わないとのことである。

(14)

−14−

参考文献

上勢頭 亨 1976 『竹富島誌 民話・民俗篇』 法政大学出版局

加治工 真市 199 6 「竹富方言音韻の問題点」『音声学会会報』212:pp.16-25 嘉手納 宗徳[編訳] 1978 『球陽外巻 遺老説伝』(沖縄文化史料集成6) 角川書店 國學院大學日本文化研究所[編] 19  9  0 『琉球竹富島の方言』 國學院大學日本文化研究所

全国竹富島文化協会[編] 2003[1998]『芸能の原風景 改訂増補版』(沖縄県竹富島の種子取祭台本集) 瑞木書房 西岡 敏 2010 「竹富方言の音韻解釈―最小対立・代わり語形・アクセントの側面から―」『琉球八重山方言の言語地理

学的な研究』(平成19・20・21年度 科学研究費補助金(基盤研究B)研究成果報告書 課題番号193200 68) 高橋俊三

[研究代表者] 沖縄国際大学総合文化学部日本文化学科:pp.271-279 平山 輝男・大島 一郎・中本 正智 19 67 『琉球先島方言の総合的研究』明治書院 前新 透 2011 『竹富方言辞典』 波照間 永吉・高嶺 方祐・入里 照男[編著] 南山舎 琉球史料研究会 19 60 『琉球民話集 全巻 球陽外巻 遺老説伝口語訳』 三ツ星印刷所

ウェイン・ローレンス 1999 「竹富方言の a /について」『琉球の方言』23 法政大学沖縄文化研究所:pp.165-179

参照

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