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映画におけるニコライ二世の表象とその社会的受容

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Academic year: 2022

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映画におけるニコライ二世の表象とその社会的受容

-アメリカとロシアの比較-

土田 真紀子

本論文は、ロシア革命勃発後から現代までに制作されたソ連・ロシア映画と同時期にア メリカで制作された映像作品において、ニコライ二世とその家族の表象がどのようなもの であったか、またその表象にはどのような社会的背景が影響していたかを明確にすること を目的とするものである。

この研究は、2016年にロシア文化省が掲げた「2030年までの期間における国の戦略的 文化政策」のもと、ロシアが国を挙げて映画を含むロシアの伝統的・現代的文化を国際的 にアピールしようとしていることと、2017年に公開されたロシア映画『マチルダ 禁断の 恋』がその内容をめぐってロシア国内で話題を集めたことを踏まえたものである。ソ連崩 壊後のロシア映画における皇帝一家の表象には冷戦期のアメリカ映画におけるそれと類似 したものがあり、現在に至るまでロシア映画がアメリカ映画の影響を強く受けて作られて いるのではないかという仮説に基づいて論じた。

ソ連・ロシア映画との比較対象をアメリカ映画に絞るのには、まず作品数が多く時系列 に沿って対照しやすいこと、またアメリカの映画界とそこで働く亡命ロシア映画人らの目 指すものが対照的であることから、アメリカにおける「ロシア・イメージ」が欧州諸国と は一線を画す独自の発展を遂げたとみられること、そして冷戦期における米ソの二極対立 により、長きにわたって芸術文化の面でも互いの動向をうかがっていた可能性を考慮した ためである。

研究方法としては、ニコライ二世およびその家族が登場する米ロ(米ソ)の映像作品を ロシア革命勃発直後から2021年現在まで通時的にリストアップし、映画内におけるニコ ライ二世一家のイメージ変遷、もしくは画一化の過程をそれぞれの時代背景と照合しなが ら明らかにした。また、作品が制作された時代ごとに批評家および大衆の反応がどのよう なものであったかを分析し、ロシア(ソ連)およびアメリカにおけるニコライ二世一家の 社会的受容をまとめた。

本研究で分析対象とした作品はアメリカ映画が11作、ソ連・ロシア映画が10作であ る。アメリカ映画は11本のうち5本がアナスタシア・ニコラエヴナ皇女を、4本がグリゴ ーリー・ラスプーチンを主題としたものであり、ソ連・ロシア映画と比較してニコライ二 世への注目が薄いことから、映画を通じてアメリカで構築されてきた「ロシア・イメー ジ」について詳しく述べ、二国間の関係性についても通時的に追った。

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本論文は六章から構成されており、第一章ではヨーロッパで活動した後にアメリカに亡 命したロシアの映画人たちが、自らの美意識や歴史観と、ハリウッド・ビジネス的な価値 観の間に板挟みになった過程に触れつつ、アメリカ映画における「ロシア・イメージ」と スター・システムの関係性について述べた。

第二章では欧米で長きにわたって注目を集めた「アナスタシア生存伝説」を取り上げて その背景を明らかにし、また『追想』の分析を通じて、スターの社会的な影響力や映画の 内容と「雪どけ」との関係性に言及し、第一章で展開した仮説をさらに発展させた。

第三章ではソ連におけるニコライ二世表象を振り返るとともに、冷戦期のアメリカとロ シアの関係性を考慮しながら、アメリカ映画『ニコライとアレクサンドラ』へ対抗する形 でソ連が『ロマノフ王朝の最期』を制作するに至った過程を明らかにした。

第四章ではポスト冷戦時代のソ連における「ロマノフ・ブーム」とニコライ二世表象の 大きな転換について論じ、また皇帝一家の列聖が映画で描かれるイメージに与えた影響に ついても考察をした。一方で、アメリカ映画では既に定番化したアナスタシアとラスプー チンというモチーフが、それまでと異なった形で映画に登場するようになったことを明ら かにした。

第五章ではここまでのソ連とアメリカの関係性を改めて考えるために、それぞれの視点 から見たアメリカ・ソ連のイメージをまとめた。また、アメリカにおけるソ連研究が常に ハード・パワーを重視したものであったという事実が、アメリカの大衆文化においてロシ ア的なものへの知識が偏って描写された一因なのではないかと結論付けた。

第六章では2010年代後半から2020年代の映像作品を分析し、アメリカの『ラスト・ツ ァーリ』における『マチルダ』の引用など、「アメリカのニコライ二世表象をロシアが追 って取り入れる」というそれまでの構図と反対のものが現れはじめていることから、今後 の映画を通じた米ロの関係性に新たな可能性を見出した。

結果として、ソ連・ロシア映画の中のニコライ二世表象には、アメリカ映画やアメリカ と国家間の関係性が強く影響していたことが明らかとなった。一方で、同一のモチーフを 繰り返し用いてきたアメリカ映画もまた、ソ連・ロシアとの関係性に敏感に反応しながら その内容に変化を見せてきたことも確かめられた。劇場映画のみならず配信サービスも普 及した現代では、米ロ両国ともにより国際的な視点を持って映画をつくることが求められ るが、そのうえでより一層相互的に影響を与え合っていくことが予想できる。

参照

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