数学と無限 — 無限のパラドックス
渕野 昌(中部大学,
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)2006年12月02日( 土 )/09日( 土 )【05日( 火 ):静 岡 大 学 数 学 科 に て 】 中 部 大 学2006年 秋 学 期 開 講 数学の考え方 の 補 講【 静 岡 大 学 で の 講 演 の 第 一 部 】
数 学 で は ,自 然 数 の 全 体 ,実 数 の 全 体 な ど 無 限 に 要 素 を 持 つ 対 象 が 積 極 的 に 考 察 さ れ ま す.無 限 を 考 察 の 対 象 と し て 積 極 的 に 扱 か う,と い う の が 現 代 数 学 の 一 つ の 特 徴 と 言って も い い く ら い で す.
「 無 限 」を 扱 か う 数 学 は 大 き な 成 功 を 収 め て い ま す.そ の 一 方 で ,有 限 の ア ナ ロ ジ ー( 類 推 )で 無 限 を 考 え て ゆ く と ,ひ ど く 奇 妙 な 現 象 に ぶ つ かって し ま う こ と が あ り ま す.そ う いった 奇 妙 な 現 象 の 例 や ,そ れ ら が 何 を 意 味 し て
初等数学に現われる無限
定 理 1 (三 平 方 の 定 理 — ピ タ ゴ ラ ス の 定 理) 直 角 三 角 形 の 直 角 を は さ む 二 辺 の そ れ ぞ れ の 長 さ の 2 乗 の 和 は 他 の 辺 の 長 さ の 2 乗 に 等 し い .
ピ タ ゴ ラ ス
紀 元 前 569年(?)イ オ ニ ア の サ モ ス 島 生 — 紀 元 前 475年(?)没
無限個の 異 な る 直 角 三 角 形 が 存 在 す る:
✧✧
✧✧
✧ r r r
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ピ タ ゴ ラ ス の 定 理 は ,無 限 に 存 在 す る 色々な 直 三 角 形 す べ て に 対 し て「 直 角 三 角 形 の 直 角 を は さ む 二 辺 の そ れ ぞ れ の 長 さ の 2 乗 の 和 は 他 の 辺 の 長 さ の 2 乗 の 和 に 等 し い 」と い う 性 質 が 成 り 立 つ こ と を 主 張 し て い る .
初等数学に現われる無限
定理 2 (素数の存在定理 — ユークリッド) 素 数 は 無 限 に 存 在 す る .
ユ ー ク リッド
( 紀 元 前 325年(?)生 — 紀 元 前 265年(?)ア レ ク サ ン ド リ ア 没 )
2 以上の自然数 (2, 3, 4 . . .)のうち,1 とその数自身以外の自然数で 割切れないようなものを 素数 という.2, 3, 5, 7, 11, 13 . . . は素数だが,
た と え ば 8 = 2 × 4 だ か ら 8 は 素 数 で な い .
初等数学に現われる無限
定理 2 (素数の存在定理 — ユークリッド) 素 数 は 無 限 に 存 在 す る .
証明 も し ,素 数 が 有 限 個 し か な かった と す る と ,そ れ ら を p1, p2,. . . , pn と し て ,
q = p1 · p2 · · · · ·pn + 1 と い う 数 が 考 え ら れ る .
q を p1, p2,. . . , pn のどれで割っても 1 があまる.したがって,q 自身が 素数であるか,あるいは,q は p1, p2,. . . , pn のどれとも異なる素数で 割れるかのどちらかである.いずれの場合も p1, p2,. . . , pn が素数のす べ て で あ る と い う 仮 定 に 矛 盾 す る . (証明終り)
無限のパラドックス : 部分は全体より小さい?
2つ の 物 の 集 ま り( 集 合 )の 要 素 の 間 に 一 対 一 の 対 応 が つ く と き , こ れ ら の 集 合 は 同 じ 個 数 の 要 素 を 持 つ( あ る い は濃 度 が 等 し い)と い う.
た と え ば ,集 合 {1,2,3,4,5} と 集 合 {2,4,6,8,10} は , 1 2 3 4 5
↑ ↑ ↑ ↑ ↑
↓ ↓ ↓ ↓ ↓
2 4 6 8 10
と い う 対 応 か ら 同 じ 個 数 の 要 素 を 持 つ こ と が 確 か め ら れ る .
一 方 ,有 限 の 個 数 の 物 の あ つ ま り の 要 素 は ,そ の( 真 の )部 分 の 要 素 と は 一 対 一 に 対 応 づ け る こ と が で き な い:
1 2 3 4 5
↑ ↑ ↑
↓ ↓ ↓
1 2 3
無限のパラドックス : 部分は全体より小さい?
N で 自 然 数 の 全 体 を あ ら わ す. N = {0,1,2,3, . . .} で あ る .
E を偶数の全体とする,つまりE = {0,2,4,6,8, . . .} である.E は N の 真 の 部 分 だ が ,
0 1 2 3 4 5 6 · · ·
↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑ ↑
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
0 2 4 6 8 10 12 · · ·
という対応から同じ個数の要素を持つ(濃度が等しい)ことが確か め ら れ る!
無限のパラドックス : 部分は全体より小さい?
ガ リ レ オ・ガ リ レ イ
(1564年 ピ サ( 現 在 の イ タ リ ア )生
— 1642年 フ ロ レ ン ス 近 郊( 現 在 の イ タ リ ア )没 )
ガ リ レ オ は ,1638年 の 論 文 で 上 の よ う な「 逆 理 」( パ ラ ドック ス )を とりあげて,『無限の大きさを比較する議論は無意味だ』と結論して い る .
無限のパラドックス : 部分は全体より小さい?
ゲ オ ル グ・カ ン ト ル
1845年 ペ テ ル ス ブ ル ク( 現 在 ロ シ ア )生
— 1918年 ハ レ( ド イ ツ )没
19世 紀 末 に は 無 限 を よ り 積 極 的 に 考 察 に 取 り こ ん だ 数 学 の 可 能 性 や 必 要 性 が よ り 感 じ ら れ る よ う に なった .カ ン ト ル は 無 限に 関 連 し た 研 究 を 積 極 的 に 行 い ,現 在 で は集 合 論 と 呼 ば れ て い る 数 学 の 分 野 を 確 立 し た が ,無 限 を 研 究 す る こ と を 擁 護 し て 次 の 言 葉 を 残 し て い る:
『... こ れ に 対 し ,必 要 以 上 の 研 究 領 域 の 制 限 は よ り 大 き な 危 険 を は ら ん で い る よ う に 思 え る .特 に ,こ の 学 問 の 本 質 か ら ,そ の よ う な 制 限 に 対 し て 何 の 正 当 性 も 結 論 で き な い の で あ る か ら な お さ ら で あ る; つ ま り,数 学 の 本 質 は そ の 自 由 に あ る か ら で あ る .』
無限のパラドックス : 部分は全体より小さい?
ゲ オ ル グ・カ ン ト ル
1845年 ペ テ ル ス ブ ル ク( 現 在 ロ シ ア )生
— 1918年 ハ レ( ド イ ツ )没
上のガリレオの逆理に関しては,カントルは,全体と部分が同じ大 きさになりえる,というまさにそのことが,無限の本質的な性質の 1 つ で あ る ,と 読 み か え て ,無 限 の 研 究 を さ ら に 進 め た .
無限のパラドックス : ヒルベルトホテル
M.Aigner G.Ziegler 著: “Proofs from THE BOOK”のK.H.Hoffmann に よ る 挿 絵
無限のパラドックス : ヒルベルトホテル
ダ ー フィト・ヒ ル ベ ル ト
1862年 ケ ー ニ ヒ ス ベ ル ク( 現 在 の ロ シ ア ) 生 — 1943年 ゲッチ ン ゲ ン( ド イ ツ )没
バ ー ト ラ ン ド・ラッセ ル
1872年 ウェー ル ズ( イ ギ リ ス )生
— 1970年 ウェー ル ズ 没
無限のパラドックス : ヒルベルトホテル
無限のパラドックス : ラッセルのパラドックス
「 自 分 自 身 を 要 素 と し て 含 ま な い 」と い う 集 合 の 性 質 を 考 え る . 集 合 x が こ の 性 質 を 持 つ こ と は ,x 6∈ x と い う 式 で 表 現 で き る . 今 ,こ の 性 質 を 持 つ 集 合 を 全 部 集 め て で き る 集 合 A を 考 え る
A = {x : x 6∈ x} で あ る .
もし A が A の要素だとすると,これは A ∈ A とあらわせる.A の定 義 か ら A 6∈ A と な り 矛 盾 で あ る .
も し A が A の 要 素 で な い と す る と ,こ れ は A 6∈ A と あ ら わ せ る が , こ の こ と か ら A の 定 義 か ら A ∈ A と なって し ま い ,や は り 矛 盾 で
無限のパラドックス : ラッセルのパラドックス
A = { x : x 6∈ x }
はx
の範囲が限定されていない ため,集合にならない.新しい集合を作るときの作りかたをきちんと規 定する(公理的集合論)ことで,この種のパラド ックスは回避できる.
無限のパラドックス : バナッハ = タルスキーの定理
定理 (S.バ ナッハ ,A.タ ル ス キ ー , 1924 — 大 正13年)
三 次 元 空 間 で の 球 の 有 限 個 の 集 合 へ の 分 割 P で P の 要 素 を 適 当 に 回 転 ,移 動 す る こ と で 同 じ 半 径 の 球2つ に 再 構 成 で き る よ う な も の が 存 在 す る .
バ ナッハ=タ ル ス キ ー の 定 理 は ,そ こ で 存 在 の 保 証 さ れ て い る 分 割 P が物理的に実現可能なものであるとは言っていない.数学の一般 性が物理的な世界での直観を越えるものだったとしても,そのこと は 直 ち に 数 学 が 矛 盾 し て い る こ と の 証 明 と は な ら な い .
数学は本当に矛盾しないのか ?
初 等 幾 何 学 は 矛 盾 し な い (A.タ ル ス キ ー ) 帰 納 法 を 含 ま な い 数 学 は 矛 盾 し な い
( フォン・ノ イ マ ン ,小 野 勝 次 etc.)
不 完 全 性 定 理 (K. ゲ ー デ ル 1931) 帰 納 法 を 含 む 数 学 が 矛 盾 し な い こ と は 証 明 で き な い( こ と が 証 明 で き る ).
ほとんどの数学理論は矛盾しないことが,上のゲーデルの定理の仮 定 し て い る 立 場 を 弱 め る と 証 明 で き る
(G.ゲ ン ツェン ,竹 内 外 史 etc. )
参考文献
[1] 渕 野 昌 ,数 学 の 中 の 無 限 (2004)
http://fuchino.ddo.jp/chubu/infinity-LN.pdf
[2] 渕 野 昌 ,ゲ ー デ ル 以 降 の 数 学 と 数 学 基 礎 論 , 数 学 の た の し み , 2006年 秋 号 (2006).
[3] 玉 野 研 一 ,なっと く す る 無 限 の 話 ,講 談 社 (2004).
[4] こ の ス ラ イ ド:
http://fuchino.ddo.jp/chubu/method-math-WS06-hoko-inf.pdf