平成 12 年度 ワーキンググループ報告 (中間)
担当理事
福田 寛
日本核医学会では,その時々の必要性,緊急性に応じて機動的に研究を行うグルー プに研究費を配分して学会全体の利益に繋がるような研究を推進している.平成 12 年度は 10 のワーキンググループが活動を行ったが,そのうち 6 グループについて は第 42 回総会抄録号に掲載されている.本号では残り 4 グループの研究成果中間 報告を掲載する.
脳血流 SPECT と MRI の痴呆診断能の比較および多施設の読影者間の読影能の 変動の検討―よりよい核医学診療のために
代表 町田喜久雄 (埼玉医科大学総合医療センター放射線科学教室)
Gated SPECT の普遍化に関するガイドラインの作成
代表 西村 恒彦 (京都府立医科大学放射線医学教室)
呼吸器核医学ワーキンググループ
代表 楢林 勇 (大阪医科大学放射線医学教室)
頭頸部腫瘍患者における sentinel リンパシンチグラフィの有用性と cost-effectiveness
代表 小須田 茂 (防衛医科大学校放射線医学講座)
脳血流 SPECT と MRI の痴呆診断能の比較および多施設の 読影者間の読影能の変動の検討
よりよい核医学診療のために
代表 町田喜久雄 (埼玉医科大学総合医療センター放射線科学教室)
メンバー (50 音順)
大島 統男 (帝京大・放,現:春日部市立病院・放)
小泉 潔 (東京医大八王子医療セ・放)
小須田 茂 (防衛医大・放)
橋本 順 (慶應大・放)
細野 眞 (埼玉医大総合医療セ・放)
本田 憲業 (埼玉医大総合医療セ・放)
松田 博史 (国立精神神経セ武蔵病院・放)
松本 徹 (放医研・高度診断)
百瀬 敏光 (東京大・放)
森 豊 (慈恵医大・放)
成果:脳血流 SPECT による痴呆診断の読影実験のための症例収集と選択
ワーキンググループ設立の背景と目的
脳血流シンチグラフィは特有の集積パターンに より,臨床的な痴呆の存在とあわせ,痴呆の鑑別 診断が可能である.アルツハイマー病,多梗塞痴 呆,びまん性レビー小体痴呆,Pick 病,などの鑑 別が可能である.脳血流 SPECT の痴呆疾患の診 断能には従来からのいくつかの報告があるが,い ずれも臨床情報のない,二者択一診断 (鑑別すべ き疾患がわかっており,正常か否かを診断するの み) で,臨床的な鑑別診断能を評価しているとは いえない.さらに,読影者間変動は少数の研究が 報告されているのみである.われわれは以前脳血 管障害において脳血流 SPECT の読影者間変動と
CT 診断能を検討したが1),脳画像診断の主流は今
日では MRI である.したがって,本研究の目的 は,臨床に近い条件で脳血流 SPECT を読影した 場合の,診断の観察者間変動を測定すること,お よび,SPECT 痴呆診断能と,MRI を読影した場
合の痴呆診断能とを,比較することである.初年 度は症例の収集と読影実験用症例の選択を行い,
2 年度に読影実験を行うこととした.
症例の収集と選択
4 施設から精神科専門医による臨床的確定診断 がつけられた 99 例を収集した.正常 (22 例), ア ルツハイマー病 (61 例) とは症例数に大きな開き があったので,以下の基準により 57 例を選択し た.選択基準は,1) アルツハイマー病以外の痴呆 は検査施行施設に関わらず,すべて対象に含め る,2) 正常とアルツハイマー病の例数はできるだ け等しくする.3) 条件 1, 2) を優先するが,でき るだけ一施設から症例を拾い上げる,であった.
結果,99mTc-ECD 検査が 51 例,123I-IMP 検査が 6例,42 例は同一施設からの症例となった.
SPECT データ収集は症例最大供給源を含む 3 施設は同一で,3 検出器型ガンマカメラ装置,
360 度回転,72 方向 (24 方向/検出器), 128×
128 画素,収集時間 30–45 秒/方向,低エネル ギーファンビームコリメータ使用,であった.残 り 1 施設は 2 検出器型装置,36 方向,収集時間 60 秒/方向,以外の条件は他施設と同様であっ た.放射性医薬品投与量は,9 9 mT c - E C D 7 4 0 MBq,123I-IMP 222 MBq であった.
確定診断には,病歴・神経精神学的診察・
MMSE スコア・MRI または CT を使用した, 各施
設の精神科専門医による確定診断を採用した.本
研究対象のアルツハイマー病は NINCS-ADRDA, DSM-IV 基準で probable AD に該当した.
上記のごとく選択された症例についての読影実 験は平成 13 年度に行う予定とした.
文 献
1) 町田喜久雄,松本 徹,本田憲業,間宮敏雄,高 橋 卓,瀧島輝雄,他: 頭部専用リング型断層装 置の 123I-IMP SPECT 像による脳血管障害の診断 精度に関するグループ研究.核医学 1991; 28:
1301–1312.
Gated SPECT の普遍化に関するガイドラインの作成
代表 西村 恒彦 (京都府立医科大学放射線医学教室)
メンバー 中嶋 憲一 (金沢大・核) 中田 智明 (札幌医大・二内)
汲田伸一郎 (日医大・放) 中村 智樹 (京府医大・放)
伴 信和 (東海大・循内) 福地 一樹 (国循セ・放)
丸野 廣大 (虎の門病院・放) 山辺 裕 (加西病院・内)
疾患などアンケート調査の詳細について現在解析 中であり,日本核医学会誌に後日掲載する予定で ある.
Gated SPECT の解析ソフトウエアとしては,
QGS, 4D-MSPECT, Emory Cardiac Tool Box,
PFAST などがあるが,QGS が中心的に用いられ ている.また,心機能診断に用いるパラメータと しては,EF,EDV,ESV が中心的に用いられて いる.QGS を用いて輪郭抽出などがうまくいか ず,心機能が評価できない症例は全体の 8.12% あ り,不整脈,肥大心,高度肝集積,small heart,
大きな梗塞などがその原因であった.
[2] Gated SPECT のガイドラインの作成
現在,Gated SPECT のガイドラインの作成に関 し,基礎編は中嶋憲一 (金沢大核), 臨床編は中田 智明 (札幌医大二内) を中心に行っている.基礎編 および臨床編の目次を以下に掲げる.
基礎編目次
1. 心電図同期 SPECT の基本原理 2. 放射性医薬品と検査法 3. SPECT 機器
4. データ収集法 5. データ解析法 6. 品質管理と誤差要因 臨床編目次
1. 診断
1) 急性冠症候群 2) 慢性冠動脈疾患 Gated SPECT は,Germano らのソフトウエアの
開発と併せ,心筋血流および心機能を同時に,し かも定量的に評価できる手法として発展してき た.とりわけ,Evidence-Based Medicine 時代にお いて各種心疾患の診断のみならず,治療効果の判 定や予後評価において,その有用性から臨床的に 定着することが期待されている.しかし,Gated SPECT がどの施設でも普遍的に用いられるため には,機種,製剤の差異のみならず,データ収 集,処理においても,なお解決すべき点が残って いる.また,Gated SPECT の臨床応用に際しても 心機能諸値の精度に与える因子のみならず,どの ような病態に有用なのか十分にはコンセンサスが 得られていない.
本ワーキンググループでは,Gated SPECT のガ イドラインの作成をめざして,第 1 に Gated SPECT に関するアンケート調査を行い,その現 状を把握する.第 2 にデータ収集,処理や臨床応 用などのそれぞれの項目におけるガイドラインを 作成する.
[1] アンケート調査概要
Gated SPECT が日常診療でどのように使われて いるのか,アンケート調査を行った.アンケート 送付施設数は 345 で,回収数は 180,回収率は 52.2% であった.Gated SPECT は心筋血流 SPECT の 56.3% を占め,これらの施設では 1 か月に平 均 25.4 件行われていた.Tl, Tc 製剤の比率,負 荷方法,プロトコール,解析ソフトウエア,対象
① 冠動脈疾患の診断と重症度評価 ② 冠動脈血行再建術の適応 ③ 冠動脈血行再建術の効果判定 3) 心不全
4) 非冠動脈疾患 ① 肥大型心筋症 ② 拡張型心筋症
③ 虚血性心筋症との鑑別 2. 病態生理・治療効果の評価 1) 虚血心筋の評価
① 冬眠心筋 (Hibernating Myocardium) ② 気絶心筋 (Stunned Myocardium) 2) 心筋生存性 (バイアビリティ) の評価
3. リスク・予後評価 4. 費用対効果
本ガイドラインの作成により,心臓核医学検査 の質的向上と日常診療への大幅な還元を図ること ができる.また,これらのガイドラインを基準に して,大規模介入試験における gold standard とし ての役割などが,今後大いに期待される.次年度 では,アンケート調査および Gated SPECT のガ イドラインに関して,最終報告書を作成する.ま た,これらの小冊子を会員諸氏に提供させていた だくことにより,Gated SPECT の普遍化に貢献す ることを願っている.
呼吸器核医学ワーキンググループ
代表 楢林 勇 (大阪医科大学放射線医学教室)
メンバー 井上登美夫 (横浜市大・放) 今井 照彦 (済生会奈良病院・内)
小倉 康晴 (大阪医大・放) 川本 雅美 (横浜市大・放)
佐藤 功 (香川医大・放) 菅 一能 (山口大・放部)
本田 憲業 (埼玉医大医療セ・放) 森 豊 (慈恵医大・放)
わち,肺塞栓症の CT 検査は胸部 CT の 1.06% で あった.
3. 肺動脈造影検査と肺塞栓症について 有効回答 186 施設中 118 施設 (63.4%) で施行さ れており,平成 12 年の平均検査数は 10.4 件で あった.肺塞栓症を初期の診断目的として行われ た平均肺動脈造影件数は平均 4.0% であり,これ は全肺動脈検査数の 38.5% であった.肺塞栓症の 肺動脈造影による経過観察は平均 1.0 件施行され ており,これは肺動脈造影検査数の 9.6% であっ た.
すなわち,肺動脈造影検査数の 48.1% が肺塞栓 症によるものであった.
4. 肺血流シンチグラフィと肺塞栓症について 有効回答 180 施設中 173 施設 (96.1%) で肺血流 シンチグラフィが施行されており,平成 12 年の 平均検査件数は 99.9 件であった.また,SPECT 併用症例は平均 9.4 件であり,これは肺血流シン チグラフィ件数の 9.4% であった.下肢深部静脈 シンチグラフィ併用症例は平均 8.7 件で,これは 肺血流シンチグラフィ件数の 8.7% であった.肺 血流シンチグラフィを肺塞栓症の初期診断目的と した平成 12 年の平均検査件数は 27.0% であり,
これは肺血流シンチグラフィ件数の 27.0% であっ た.肺血流シンチグラフィによる肺塞栓症の経過 観察は平均 9.1 件施行されており,これは肺血流 シンチグラフィ検査数の 9.1% であった.
すなわち,肺血流シンチグラフィの 36.1% が肺 塞栓症によるものであった.
I. は じ め に
呼吸器核医学ワーキンググループで検討しなけ ればならない項目は,新しい放射性医薬品による 血栓・腫瘍シンチグラフィがあり,次に未だ健康 保険に収載されていない呼吸器核医学検査の臨床 的意義の検討がある.そのほか,肺癌の FDG イ メージング,呼吸器核医学と CT との fusion im- aging や 3D imaging などがある.
今年度は,全国の核医学施設を対象として行っ た平成 12 年 1 月〜12 月における肺血栓塞栓症の 換気・血流スキャンと CT スキャンとの比較を,
平成 13 年 10 月末現在のデータによる中間報告を 行う.
II. アンケート結果
1. アンケート回収率
アンケート送付施設は,1,222 施設であり,回 答施設は 231 で,回収率は 18.9% であった.
2. CT 検査と肺塞栓症について
有効回答 167 施設の平成 12 年の平均 CT 検査 数は,8,183.1 件であり,そのうち胸部 CT 平均検 査数は 1,904.3 件で全 CT 検査数の 23.3% であっ た.肺塞栓症を初期診断目的とした胸部 CT の平 均検査件数は 13.6 件であった.これはすべての CT 検査数の 0.17%, 胸部 CT 検査数の 0.71% で あった.肺塞栓症の胸部 CT による経過観察症例 数は平均 6.7 件であり,これは全 CT 検査数の
0.08%, 胸部 CT 検査数の 0.35% であった.すな
5. 肺換気シンチグラフィと肺塞栓症について 有効回答 180 施設中 89 施設 (49.4%) で肺換気 シンチグラフィが施行されており,平成 12 年の 平均検査件数は 42.1 件であった.使用した放射性 医薬品は 133Xe (31 施設,34.8%),81mKr (67 施 設,7 5 . 3 % ),9 9 mT c -テクネガス ( 1 7 施設,
19.1%),99mTc-DTPA エロソル (1 施設,1.1%) で あった.この場合,複数の放射性医薬品を使用し ている施設があった.肺塞栓症の初期診断目的の 肺換気シンチグラフィの平均検査数は 13.4 件であ り,これは肺換気シンチグラフィ検査数の 31.8%
であった.肺塞栓症の経過観察目的の肺換気シン チグラフィは平均 4.8 件あり,これは肺換気シン チグラフィの 11.4% であった.
すなわち,肺換気シンチグラフィの 45.2% が肺 塞栓症によるものであった.
6. 肺塞栓症の初期診断で行われているモダリ ティの組み合わせ
有効回答は 219 施設であった.
1) 胸部 X 線+肺血流シンチグラフィ
+造影 CT 107 施設 (48.9%) 2) 胸部 X 線+肺換気・血流シンチグラフィ
+造影 CT 29 施設 (13.2%) 3) 胸部 X 線+肺血流シンチグラフィ
20 施設 (9.1%) 4) 胸部 X 線+肺血流シンチグラフィ
+造影 CT+肺動脈造影 17 施設 (7.8%) 5) 胸部 X 線+肺血流シンチグラフィ
+肺動脈造影 14 施設 (6.4%) 7. 肺塞栓症の経過観察で行われているモダリ ティの組み合わせ
有効回答は 214 施設であった.
1) 胸部 X 線+肺血流シンチグラフィ 79 施設 (36.9%) 2) 胸部 X 線+肺血流シンチグラフィ
+造影 CT 58 施設 (27.1%) 3) 胸部 X 線+肺換気・血流シンチグラフィ
+造影 CT 19 施設 (8.9%) 4) 胸部 X 線+造影 CT 16 施設 (7.5%)
5) 胸部 X 線+肺換気・血流シンチグラフィ 12 施設 (5.6%) 8. 肺塞栓症の初期診断で最初に行うのは肺血 流シンチグラフィか造影 CT か? 現状と望 ましいと考えられるもの
231 施設対象,複数回答可.
1) 肺血流シンチグラフィを先行 現状 78 施設 (33.8%) 望ましい 62 施設 (26.8%) 2) 造影 CT を先行
現状 69 施設 (29.9%) 望ましい 53 施設 (22.9%)
その理由の 1 つは造影 CT は緊急時 にも対応可能
3) どちらか早くできる方を行い,診断が確定 できない場合にのみ両方を施行
現状 66 施設 (28.6%) 望ましい 101 施設 (43.7%)
9. 肺換気・血流シンチグラフィで肺塞栓症の 診断が確定できれば,造影 CT や肺動脈造影 を省略できるか?
省略可能である 現状 14 施設 (6.1%) 賛成 20 施設 (8.7%) 反対 100 施設 (43.3%) 10. 肺血流シンチグラフィによる肺塞栓症の 診断は基本的に PIOPED criteria を使用す べきか?
現在使用している 33 施設 (14.3%)
賛成 46 施設 (19.9%)
どちらともいえない 103 施設 (44.6%)
反対 20 施設 (8.7%)
11. 肺塞栓症の経過観察に利用しているのは 肺血流シンチグラフィか造影 CT か?
肺血流シンチグラフィ
現状 125 施設 (54.1%)
望ましい 139 施設 (60.2%) 造影 CT
現状 37 施設 (16.0%)
望ましい 26 施設 (11.3%)
12. 肺塞栓症の存在診断には造影 CT を,重 症度の把握には肺血流シンチグラフィを用 いるのはよいか?
そのようにしている
現状 16 施設 (6.9%)
賛成 16 施設 (6.9%)
どちらともいえない 61 施設 (26.4%)
反対 99 施設 (42.9%)
III. ま と め
肺塞栓症の肺換気・血流シンチグラフィと CT 検査の利用のされ方の現状と望ましく考えられて いるパターンをまとめると,
1. 肺塞栓症の CT 検査は胸部 CT の 1.06% であ る.
2. 肺動脈造影検査数の 48.1% が肺塞栓症によ るものである.
3. 肺血流シンチグラフィの 36.1% が肺塞栓症 によるものである.
4. 肺換気シンチグラフィの 45.2% が肺塞栓症 によるものである.
5. 肺塞栓症の初期診断で行われているモダリ ティの組み合わせは,胸部 X 線+肺血流シ ンチグラフィ+造影 CT が 48.9% である.
6. 肺塞栓症の経過観察で行われているモダリ ティの組み合わせは,胸部 X 線+肺血流シ
ンチグラフィが 36.9%, ついで胸部 X 線+
肺血流シンチグラフィ+造影 CT が 27.1% で ある.
7. 肺塞栓症の初期診断で最初に行うのは肺血 流シンチグラフィか造影 CT か? では,肺 血流シンチグラフィを先行が,現状では 33.8% あり,造影 CT の 29.9% より高いが,
望ましいと考えるのはどちらか早くできる 方を行い,診断が確定できない場合にのみ 両方を施行すべきであるとするものが最も 高かった.
8. 肺換気・血流シンチグラフィで肺塞栓症の 診断が確定できれば,造影 CT や肺動脈造影 を省略できるか? には,省略可能である 施設は現状では 6.1% に過ぎず,反対の施設 が 43.3% と高かった.
9. 肺血流シンチグラフィによる肺塞栓症の診 断に PIOPED criteria を使用している施設は 14.3% と少なく,反対する施設は少ないもの の,どちらともいえないと考える施設が 44.6% あった.
10. 肺塞栓症の経過観察に肺血流シンチグラ フィを利用している施設が,現状で 54.1%
もあり,60.2% の施設が望ましいとしてい た.造影 CT を望ましいとする施設は少な かった.
頭頸部腫瘍患者における sentinel リンパシンチグラフィの 有用性と cost-effectiveness
代表 小須田 茂 (防衛医科大学校放射線医学講座)
メンバー 遠藤 壮平 (日本大・耳) 中溝 宗永 (日本医大・耳)
大野 芳裕 (杏林大・耳) 木原 圭一 (防衛医大・耳)
甲能 直幸 (杏林大・耳) 吉田 知之 (東京医大八王子医療セ・耳)
小泉 潔 (東京医大八王子医療セ・放) 小泉 満 (癌研病院・放)
中村佳代子 (慶應大・放) 藤井 博史 (慶應大・放)
福喜多博義 (国立がんセ東病院・放)
I. は じ め に
センチネルリンパ節は腫瘍周囲のリンパ流が最 初に流入するリンパ節と定義され,最初に転移を 起こすリンパ節と言われている.頭頸部腫瘍にお ける頸部リンパ節転移は予後を決定する重要な因 子である.触診,超音波検査,CT, MRI,細胞 診 (fine needle aspiration cytology) による頸部リン パ節転移検出率は 95% と報告1) されている一方,
臨床的 N0 症例における微小頸部リンパ節転移 (micrometastasis) の検出率は高々 50% に過ぎな
い2,3). 頭頸部腫瘍 N0 症例における微小頸部リン
パ節転移の頻度は約 30% である4).頸部リンパ節 転移に対して,頸部廓清術や予防的放射線照射が 施行されてきたが,こうした処置は多くの頭頸部 腫瘍 N0 患者において,術後障害をもたらすほ か,不要なコスト,手術時間の延長,放射線治療 のための不要な術後通院が難点として挙げられ る.予防的放射線照射は微小リンパ節転移の有無 を不明なものとし,再発時には再照射を困難にす る.本研究により,頭頸部腫瘍におけるセンチネ ルリンパ節の概念が成立しうることが証明された とすると,術後障害が避けられ,医療費削減が期 待される.臨床研究を行う前に,本年度は基礎的 研究を中心に施行した.
II. 対象および方法
99mTc スズコロイド粒子サイズの測定:過テク
ネチウム酸ナトリウム注射液と注射用塩化第一ス ズ溶液との混合比を 1:1, 1:2, 1:4, 1:8 と して調製した.1:1 調製液については調製液混 合 (5 分) と調整後 30 分以内の放置時間の有無,
キット製造後 2 か月以内と以降 (3–6 か月) につ いて,検討した.ナイロン製膜フィルター (フィ ルターサイズ 0.2 µm,0.45 µm,Whatman Interna- tional Ltd.,Maidstone, England) を用いて,各調
製 99mTc スズコロイドをエアポンプで吸引して粒
子分布を測定した.
センチネルリンパ節の描出:臼後三角扁平上皮 癌 T2N0M0 (69 歳,女性) の症例に対して,術前
に 99mTc スズコロイド (過テクネチウム酸ナトリ
ウム注射液と注射用塩化第一スズ溶液の混合比は 1:1) を腫瘍周囲粘膜内に注入後,頸部の経時的 シンチグラフィをシンチカメラにて 3 方向 (全 面,両斜位) 撮像し,注入後の時間経過とリンパ 節の描出能を評価した.本研究を行うにあたり,
倫理審査委員会の許可と患者から文書による同意 を得た.
III. 結 果
過テクネチウム酸ナトリウム注射液と注射用塩 化第一スズ溶液の混合比を 1:1, 1:2, 1:4,
1:8 と増加させるにつれて,0.2 µm 以下の小さ
なコロイド粒子が増加する傾向がみられた.調製 液混合と調整後 30 分以内の放置時間の有無,お よびキット製造後 6 か月間までのキットについて は粒子径に差はみられなかった.
99mTc スズコロイド注入後,リンパシンチグラ
ム上 10 分後にはオトガイ下,顎下,中内深頸リ ンパ節の描出がみられ,1 時間後で放射能は最高 に達した.以降,放射能は漸減した.1 時間像か ら 4 時間像までシンチグラム上の差は認めなかっ た.左顎下リンパ節は他の描出リンパ節の 5 倍以 上の最高カウント数を示し,センチネルリンパ節 と思われた.頸部廓清を施行したが,微小リンパ 節転移は認めなかった.
IV. 考 察
頸部廓清術 (neck dissection: ND) は頭頸部外科 の基本術式である.ND は優れた治療法である が,術後機能障害をもたらす.主な障害は副神経 切除に起因する僧帽筋の麻痺と萎縮である (shoul- der syndrome).この障害は術後 quality of life (QOL) の低下をもたらすため,機能障害の少ない 術式や ND を省く方法が検討されてきた.放射性 コロイドを用いたセンチネルリンパ節生検法
(sentinel node navigation surgery) が確立すれば,
QOL の改善と医療費削減が期待される.
今回の基礎検討では,99mTc スズコロイド 200 nm 以下の粒子径を得るには過テクネチウム酸ナ トリウム注射液と注射用塩化第一スズ溶液の混合 比 1:4 以上が必要と思われた.しかし,頭頸部 リンパ節の場合,1:1 調製液でもセンチネルリ ンパ節は十分描出可能と思われた.99mTc スズコ ロイド注入後 30 分から 2 時間の間であれば,シ ンチグラム撮像にはほとんど差がないと思われ た.N0 頭頸部腫瘍におけるセンチネルリンパ節 の概念が成立しうるかどうかの検討と医療経済効 果の分析は,ワーキンググループの継続研究課題 とした.
文 献
1) Lenz M, Kersting-Sommerhoff B, Gross M:
Diagnosis and treatment of the N0 neck in carcinoma of the upper aerodigestive tract: current status of diagnostic procedures. Eur Arch Otorhinolaryngol 1993; 250: 432–438.
2) Kowalski LP, Medina JE: Nodal metastases;
predictive factors. Otolaryngol Clin North Am 1998;
31: 621–637.
3) Jones AS, Phillips DE, Helliwell TR, Roland NJ:
Occult nodal metastases in head and neck squamous carcinoma. Eur Arch Otorhinolaryngol 1993; 250:
446–449.
4) Robbins KT: Neck metastasis. In: Gates GA, ed.
Current Therapy in Otolaryngology—Head and Neck Surgery. Mosby, Inc., St. Louis, 1994: 309–315.