Flora and vegetation of the abandoned cropland in and around the Natural Monument
“Komado Shitsugen Moor”, Fukushima Prefecture, Japan
KATO Saori, KANEKO Shingo, KUROSAWA Takahide 調 査 報 告
天然記念物駒止湿原(福島県南会津町および昭和村)
指定地内と周辺の開拓跡地における植物相と植生
〜植物多様性の評価と植生遷移の予想からの管理に関する提言〜
福島大学大学院共生システム理工学研究科
加 藤 沙 織
福島大学共生システム理工学類准教授
兼 子 伸 吾
福島大学共生システム理工学類教授
黒 沢 高 秀
摘 要
天然記念物駒止湿原指定地内の開拓跡地において,
2013
年から2014
年に植物相と植生の調査を行うとともに,先駆樹種および植林されたブナの成長量や先駆樹種の 陽樹が生育している範囲を調べた。その結果,開拓跡地 は植物の多様性に乏しく,保護上重要な植物がヒオウギ アヤメ以外に見られなかった。開拓跡地への木道や小規 模施設の新設に伴う植物多様性への悪影響は概して小さ いと考えられる。また,
2002
年以降ススキ型群落からシ ラカンバ型群落への遷移が進みつつあることが明らかに なり,現在ススキ型群落である場所の一部が数年から十 数年で先駆樹種の林になると予測された。これを踏まえ,開拓跡地が近いうちに先駆樹種の林になることを想定し た管理策を早急に考える必要があることを指摘した。
は じ め に
駒止湿原は,福島県南会津町の旧田島町と昭和村の 境界付近に位置する大谷地,白樺谷地,水無谷地の3
つの湿原である(図1)。駒止湿原には,湿地林から 高層湿原までの発達段階が随所に見られ,湿原から周 辺森林への推移帯の植生も良く保存される等,学術的 価値が高いことから1970年に湿原と周辺の森林が天然 記念物として指定された。当時の天然記念物の指定範 囲には564,711㎡の開拓農地が隣接していたが(駒止 湿原保存方策調査検討委員会,2004),平吹(1989)
により開拓農地から大谷地に土砂の流入等の影響が出 ていることが指摘された。湿原へのこれらの影響を軽 減させるため,開拓農地のうち3湿原の集水域が2000 年に天然記念物に追加指定された(駒止湿原保存方策 調査検討委員会,2004)。追加指定された開拓跡地は
433,291㎡と,天然記念物駒止湿原の指定地の約29%
を占めており,湿原の集水域にあるので,湿原に流入 する水質や水量に変化を与える,あるいは土壌の流入 源となりうる等,湿原の保護を考える上で重要な場所 である。
開拓前の植生はブナの原生林であるとされる(竹 原,1989a)。1947年までに大谷地の東で伐採が行わ れ(図2),さらに
1956
年に駒止開拓地として広い面 積にわたる開墾が始まり,まず大谷地の北から水無 福島大学地域創造第26巻 第2号 142〜167ページ 2015年2月
Journal of Center for Regional Affairs, Fukushima University 26 (2):142-167, Feb 2015
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図1.天然記念物駒止湿原(福島県南会津町および昭和村)指定地内の湿原と耕作跡地.
K1〜9は植生調査の際に設置した5m×5mのコドラートの位置.駒止湿原保存対策管理 計画策定専門委員会(2008)にある駒止湿原将来構想図より作成.
谷地の西にかけてが皆伐され(竹原,
1989 b)(表 1),1976年頃までに,ブナの原生林は大谷地北西部
周辺と水無谷地東側周辺に残るのみとなり,ほとん どが開拓農地と二次林になった(竹原,1989 b)(図 3)。当時の開拓農地には農道が造られ,耕作地では
ダイコンが栽培され,連作障害防止のための休閑地 は牧草地として利用されていた(竹原,1989 a)。ま
た,大谷地の東の耕作地では後にソバも栽培された(樋口ら,
2004
)。これらの大部分は,平成11
(1999
)年 度に行われた土地の公有化を経て2000年に天然記念物 へ追加指定された。平成12年度内には残りの131,420㎡も公有化され,全農地が公有地となった(駒止湿原 保存方策調査検討委員会,2004)。耕作を停止した時 期は場所ごとに異なるが,2002年には大部分がススキ 群落や牧草群落となっていた(樋口ら,
2004
;伊藤・谷本,2004;伊藤ら,2005)。農道は,白樺谷地より
図2.天然記念物駒止湿原(福島県南会津町および昭和村)
の1947年11月4日の航空写真.
黒枠は図3の範囲.米軍撮影の航空写真(USA-M627-51および USA‑M627‑366)より作成.
表1.天然記念物駒止湿原および指定地内の開拓跡地における歴史と変遷.
年 月 事 柄
1947年 このころ大谷地の東に伐採直後の背の低い植生が広がる(竹原,1989b)
1949年 大谷地,白樺谷地を含む地域が林野庁から農政局に所属替えとなる(竹原,1989b)
1956年 駒止開拓地として開墾が始まる(竹原,1989b)
1958年 このころ大谷地の東と水無谷地の西に小規模な開墾地,白樺谷地の西に伐採直後の背の低い植生が広がる(竹原,1989b)
1963年 このころ水無谷地の西に伐採直後の背の低い植生が広がる,それまで開墾された場所は耕作が行われている様子がなく,荒
廃が始まっている(竹原,1989b)
1964年 この年までに開拓地は農政局に買い戻され,一時放棄された状態となる(竹原,1989b)
1966年 開拓地が農政局から売却される(竹原,1989b)
1967年 水無谷地周辺で皆伐が始まる(竹原,1989b)
1968年 このころまでに大谷地の東と水無谷地の西の開拓地が少し広がる(竹原,1989b)
1970年12月 湿原と周辺の森林が天然記念物に指定される(五十嵐,1989)
1976年 このころまでに駒止湿原周辺の皆伐が終了する,農地が大谷地から白樺谷地に至る農道沿いに広がる(竹原,1989b)
1989年 『国指定天然記念物駒止湿原保存対策調査報告書』(駒止湿原保存対策調査会,1989)が発行され,農地からの土砂の流入が
指摘される(平吹,1989)
1998年7月 フォーラム「駒止湿原の未来を考える」が開催され,開拓農地の公有化の方向付けがなされる(駒止湿原保存方策調査検討
委員会,2004)
1999年頃 開拓農地所有者から土地公有化および天然記念物追加指定の同意を得て,昭和村による開拓農地全域を農業振興地域から除
外する手続きがなされる(駒止湿原保存方策調査検討委員会,2004)
2000年3月 開拓農地の大部分が天然記念物に追加指定される(駒止湿原保存方策調査検討委員会,2004)
2000年 開拓跡地でブナ林復元事業が実施される(谷本・伊藤,2004)
2001〜2003年 開拓跡地を中心に植生調査,地質調査,水系調査が実地される(駒止湿原保存方策調査検討委員会,2004)
2004年 『駒止湿原保存方策報告書』(駒止湿原保存方策調査検討委員会,2004)が発行され,開拓跡地の植生が明らかになる(樋口
ら,2004;伊藤・谷本,2004)
2008年 『天然記念物「駒止湿原」保存管理計画書』(駒止湿原保存管理計画策定専門委員会,2008)が策定され,木道新ルート案が
示される
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図3.天然記念物駒止湿原(福島県南会津町および昭和村)における植生 および土地利用の変化.
1947年の航空写真は米軍撮影(USA‑M627‑51),1986年の航空写真は駒止湿原 保存対策調査会(1989),2010年の衛星写真は Google Earth による.
北部等の一部で放棄されたが,駒止湿原入り口から白 樺谷地までの部分は,管理用車道や湿原来訪者の歩道 として利用され続けている。テレビの放映による1994 年頃からの入山者の増加に伴う木道からの踏み外し による植生荒廃(駒止湿原保存方策調査検討委員会,
2004;駒止湿原保存管理計画策定専門委員会,2008)
や細長い湿原を木道が縦貫することによる乾燥化や低 木群落の拡大(駒止湿原保存管理計画策定専門委員 会,2008)が懸念されてきた。木道の湿原へのこれら の影響を軽減するために,
2008
年に木道新ルート案が 策定された(駒止湿原保存管理計画策定専門委員会,2008)。この案では,ルートの大部分が,伐採後に成
立したブナ二次林とともに,開拓跡地である耕作跡地 と旧農道を通るように設定されている(図4)。耕作跡地は天然記念物駒止湿原の大きな面積を占め るとともに,湿原の集水域にある地域であり,水の供 給や土砂の流入等によって湿原に影響を与えると考え られ,適切な保全や管理を行う必要がある。適切な管 理を行う上で,保水性,土壌の保持力,景観の変化を 伴う遷移がどのように進むかを予測することは重要と 考えられる。開拓跡地の2002年当時の植生に関しては,
樋口ら(2004)が被度と群度を,伊藤・谷本(2004)
が被度と群度に加えて種類ごとの高さ,および植生 図を掲載しており貴重な記録となっている。伊藤ら
(2005)は,伊藤・谷本(2004)の組成表や植生図を 再録しているが(ただし,群落名が多少異なる),よ
り詳細に方法等を記している。これらの調査で,耕作 地の放棄により2002年には大部分がススキ群落と牧草 群落となったことが確認されている(樋口ら,2004;
伊藤・谷本,
2004
;伊藤ら,2005
)。これらの群落は,ダケカンバ等の先駆樹種の林となると考えられている
(樋口ら,2004;伊藤・谷本,2004;伊藤ら,2005)。
遷移がさらに進めば,先駆的種の林は,この地域の
700〜800mより上の山地帯上部における気候的極相と
されるチシマザサ型ブナ林(樫村,1987)に移行して ゆくものと考えられる。しかし,伊藤・谷本(2004
) は,開拓の際の表層の剝ぎ取りや,草本群落による被 陰のために,ススキ群落や牧草群落から先駆樹種の林 への遷移がなかなか進まないと予想し,この予想をも とに駒止湿原保存方策調査検討委員会(2004)はブナ を中心とした植林による植生復元を提言している。先 駆樹種の林の成立は,景観の変化や草地生の生物の減 少,森林生の生物の増加等の生物多様性の変化をもた らすと考えられる。そのため,いつ頃先駆樹種の林へ の遷移が進むかを把握することは,天然記念物駒止湿 原の保全や管理を考える上で重要である。保全や管理は,保護上重要な種類への配慮を行う必 要や,侵略的外来生物による悪影響を防止する必要も あり,そのためには植物相の把握が重要である。また,
植物相が明らかになれば,生育する先駆樹種の稚樹の 種類や生育状況も知ることができ,今後先駆樹種の林 へ遷移が進むかどうかを知る手がかりが得られる。し かし,耕作跡地と旧農道の植物相は,これまで十分に 把握されてこなかった。駒止湿原の植物については,
馬場(
1964
),五十嵐・阿部(1968
),五十嵐(1973
),星(1981),野中ら(1981)が紹介しているが,主に 湿原や森林の植物についてで,耕作地の植物に関する 記述はほとんどない。竹原(
1989 c)は湿原,森林,
その他の場所に分けて植物リストを作成したが,その 他には開拓地のほかに近くの町道沿いも含まれている ため,開拓地の植物を特定するのは困難である。植物 相調査で記録された耕作跡地と旧農道の植物は,これ までのところ樋口ら(2004)にある15種類のみである。
本研究では耕作跡地と旧農道の植物相の特徴と保護 上重要な植物や侵略的外来植物,および先駆樹種の生 育状況を明らかにするために植物相調査を行った。ま た,草本群落から先駆樹種の林への遷移がいつ頃進む かを予測するために植生調査を行い,2002年の植生と 比較するとともに,草本群落に生育している木本の種 類の特定および将来林になる可能性のある範囲の記録 し,先駆樹種のダケカンバとシラカンバおよび植林さ
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図4.天然記念物駒止湿原(福島県南会津町 および昭和村)における木道新ルート 案(駒止湿原保存管理計画策定専門委 員会,2008).
れたブナの成長量を計測した。これらの結果をもとに,
植物の多様性や植生の観点から天然記念物駒止湿原の 管理に関して重要と思われる視点を指摘した。
調 査 方 法
1.植物相調査
天然記念物駒止湿原指定地内の大谷地の東の開拓 跡地と水無谷地の西の開拓跡地南部(図1)に現在 生育する維管束植物を把握するため,
2013
年5月30
日から2014年10月17日までの計17回,維管束植物の 採集を行った。シダ植物の場合は胞子囊を持つ個体,種子植物の場合は花もしくは果実等の繁殖器官を持 つ個体を採集するよう心掛けた。同定には佐竹ら
(1981,1982a,1982b,1989a,1989b)および 岩槻(
1992
)を参考にし,これらに掲載がない分類 群については,長田(1989),鈴木(1996),清水(2003),勝山(2005)を用いた。同定したさく葉標本は,証 拠標本として福島大学共生システム理工学類生物標 本室(FKSE)に保管した。本論文で保護上重要な 植物は,福島県のレッドデータブック(福島県生 活環境部環境政策課,2002;以下福島県RDB)と 環境省のレッドリスト(生物多様性情報システム http://www.biodic.go.jp/rdb/rdb̲f.html , 以 下 環境省RL)に掲載された植物とした。出現した種 類の生育形は佐竹ら(
1981
,1982 a, 1982 b, 1989 a,
1989b)および岩槻(1992),長田(1989)に従った。
2.植 生 調 査
開拓跡地に現在見られる群落の位置,範囲および 面積を把握し,2002年からの変化を明らかにするた めに,伊藤・谷本(
2004
)および伊藤ら(2005
)で 調査が行われた大谷地の東の開拓跡地と水無谷地の 西の開拓跡地南部で植生図を作成した。2013年8月30
日と2014
年9月5日,6日,10
月16
日,17
日に,伊藤ら(2005)で認められたススキ型群落の生育良 好亜型と生育不良亜型,牧草型,低木型のササ亜型,
ヨシ型の群落を現地で区分し,範囲を記録した。伊 藤ら(2005)では,草丈,株の様子および茎葉の色 で,ススキ型群落を生育良好亜型と生育不良亜型に 区分している。ススキの株が密で草丈が2m以上あ り,茎葉が濃緑色の群落を生育良好亜型,株が小さ く草丈が2m未満しかなく,茎葉が黄緑色の群落を 生育不良亜型としている(ただし,伊藤・谷本(
2004
, p.103)では,具体的な高さは記されていないが,草丈で区分したとしている)。株の様子および茎葉 の色は伊藤ら(2005)において客観的な判断基準が 示されていなかったので,本研究では主に草丈のみ でススキ型群落の生育良好亜型と生育不良亜型を区 分した。伊藤ら(2005)では草丈の定義が記されて いなかったが,本研究では生態学で一般に用いられ る,葉群の到達高を草丈とした。伊藤ら(
2005
)で 認められなかった新たな群落があった場合もこれを 区分し,範囲を記録した。作成した植生図と伊藤ら(
2005
)の植生図とを比較し,開拓跡地の植生の変 化を調べた。この時,作成した図から各群落の面積 を ImageJ(http://imagej.nih.gov/ij/)で算出し,比較した。ただし,
1989
年の航空写真(駒止湿原保 存対策調査会,1989)や2010年の Google Earth の 衛星写真(図3)において森林であるのに草本や低 木群落としている等明らかな間違いと思われる部分 は,伊藤ら(2005)の植生図を訂正した上で比較し た。水無谷地の西の開拓跡地南部の伊藤ら(2005)の植生図は,これらの航空写真や衛星写真から読み 取れる植生の状態と大きく異なるため,今回の調査 では現状を記録するのみにとどめ,比較を行わな かった。
現在の開拓跡地の植生の変化を把握するため,伊 藤ら(2005)が実施した植生調査と可能な限り同一 の方法でコドラート調査を行った。コドラートは,
伊藤ら(
2005
)で認められた群落や,今回新たに確 認された群落について各2〜5ヶ所の計9ヶ所に設 置した(図1)。コドラートのサイズは伊藤ら(2005)と同じ5m×5mとした。調査は
2013
年8月30
,31
日に行い,各コドラートの緯度経度,群落高,層ご との被度を記録するとともにコドラート内に生育す る種類ごとの被度と草丈を記録した。さらに,今 回新たに出現した群落や消失した群落は,Braun‑Blanquet の全推定法(中西ら,1983)に従って被 度を5段階で評価し,伊藤ら(
2005
)の調査結果と 比較した。なお,本稿では,伊藤ら(2005)のコド ラートにはIを,今回調査したコドラートにはKを つけて,「I1」,「K2」のように表す。また,伊 藤ら(2005)の表1で「Poaceae
」とされた,ナガ ハグサやカモガヤが優占する牧草型群落をイネ科優 占牧草型,「Artemisia princeps
」とされた,ヨモギ が優占する牧草型群落をヨモギ優占牧草型と記す。3.先駆樹種のダケカンバとシラカンバおよび植林さ
れたブナの成長量調査開拓跡地の草地に生育するダケカンバとシラカン バおよび植林されたブナの年間の成長の程度を確認 するために成長量調査を行った。調査は2013年8月
31日,9月28,29日に行った。大谷地の東の開拓跡
地のススキ型群落に生育する樹高1m程度以上のダ ケカンバとシラカンバ,および植林されたブナを無 作為にそれぞれ10個体選び,2013年,2012年,2011 年に成長した枝を芽鱗痕で判断し,それらの長さを 記録した(石田ほか,1991)。計測する枝は個体の 主軸,あるいは主軸に近い,最も上方に伸長した枝 を選んだ。4.高木になる先駆樹種の2m以上の幼木の分布調査
遷移が進んだ場合,近い将来どの範囲が先駆樹種 の林になる可能性が高いかを推定するために高木に なる先駆樹種の幼木の分布調査を行った。木道新ル ート案の範囲である大谷地の東の開拓跡地と水無谷 地の西の開拓跡地南部において,文献で先駆樹種と されている高木の2m以上の幼木が10m未満の間隔 で生育している範囲と,先駆樹種か否か,あるいは 自生か植林かにかかわらず,そこに生育している2m以上の高木樹種を記録した。
結 果
1.開拓跡地の植物相
植物相調査の結果,開拓跡地全体から
172
種類(171
種1変種)の維管束植物が確認された(表2,付録1)。これには,標本は採取しなかったものの,目
視で確認したウダイカンバとゼンテイカを含んでい る。耕作跡地のススキ型群落(図5A,
B, C, D)
ではヒカゲノカズラ,メマツヨイグサ,ヨモギ等明 るい草地生の種やシラカンバやカラマツ等の先駆樹 種の幼木が見られたが,種類数が少なかった。旧農 道沿い(図5E)は様々な種類の木本が見られたほ か,カゼクサやミノボロスゲ等の路傍の雑草,メマ ツヨイグサ,ブタナ,セイヨウタンポポ等の帰化植 物やエゾリンドウ,ツボスミレ,ヤチスギラン等の 湿地生の植物等多様な草本が生育していた。
今回の調査で確認された172種類のうち,矮性低 木を除く木本が43種類と比較的多く含まれていた
(表3)。このうち高木の先駆樹種として知られるカ ラマツ,アカマツ,シラカンバ,ウダイカンバ,ダ ケカンバ,ヤマナラシが耕作跡地内や旧農道沿いで 確認された(図5B,E)。特にシラカンバは,旧 農道沿いに多く見られたほか,大谷地近くのブナ林 周辺で優占していた(図5E,F;後述のシラカン バ型群落)。極相林の優占種であるブナは,旧農道 沿いのブナ林縁の部分や開拓跡地の端の森林周囲部 分で確認されたほか,1〜数本の切り残された大木 が,ススキ型群落の生育不良亜型の中に見られた(図
6)。
保護上重要な植物としては,福島県RDB で注意 に指定されているヒオウギアヤメが,大谷地の東の ススキ型群落の生育不良亜型内のため池の周辺で
30
株生育しているのが確認された。開拓跡地では,保 護上重要な植物は,ほかに生育していなかった。保 護上重要な植物ではないが,旧農道沿いに成立した 小規模な湿地に,エゾリンドウ等とともに高層湿原 を特徴付けるヤチスギランが数株生育していた。帰化植物は
17
種類が確認され,そのうち外来生物 法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止 に関する法律)上の特定外来生物は含まれておらず,環境省が指定する要注意外来生物(http://www.
env.go.jp/nature/intro/)は
9種類であった(表 4)。大谷地の東の開拓跡地では17種類の帰化植物
の全てが確認され,そのうち11
種類が耕作跡地内で 生育していた。帰化植物のうち要注意外来生物であ るハリエンジュの1種類のみが木本で,14種類が多 年草,1種類が越年草,1種類が1〜2年草であっ た。表2.天然記念物駒止湿原(福島県南会津町およ び昭和村)指定地内の開拓跡地で確認され た維管束植物の種類数.
目視のゼンテイカも含む.括弧内はそのうち帰化 植物の種類数.
種 変 種 合 計
シダ植物 15 0 15
種子植物
裸子植物 3 0 3
被子植物
双子葉類 109(11) 0 109(11)
単子葉類 45( 6) 1 46( 6)
計 171(17) 1 172(17)
図5.天然記念物駒止湿原(福島県南会津町および昭和村)指定地内の開拓跡地における
2013年の植生の様子.
A:ススキ型群落の生育良好亜型(コドラートK2)で,2002年にはススキ型群落の生育不良亜型で あった場所(2013年8月31日に撮影).
B:ススキ型群落の生育不良亜型(コドラートK4)で,2002年にもススキ型群落の生育不良亜型で あった場所(2013年8月31日に撮影).ダケカンバなど先駆樹種の幼木が見られる.
C:ススキ型群落の生育不良亜型(コドラートK5)で,2002年には牧草型群落であった場所(2013 年8月30日に撮影).
D:ススキ型群落の生育不良亜型の中でヨモギが優占する場所(コドラートK7)で,2002年には牧 草型群落であった場所(2013年8月30日に撮影).
E:コドラートK9のシラカンバ型群落付近の旧農道(2013年8月8日に撮影).
F:シラカンバ型群落(コドラートK9)で2002年にはススキ型群落の生育不良亜型であった場所(2013 年8月31日に撮影).
A
C
E
B
D
F
表3.天然記念物駒止湿原(福島県南会津町および昭和村)の開拓跡地で
2013
〜2014
年に確認された矮小低 木を除く木本.本稿では,オオバクロモジとクロモジ,オニツルウメモドキとツルウメモドキを同じ種類として扱っている.
種 類 名(科名) 種として
の生育形 確認場所 天 然 記 念 物 駒 止 湿 原 で の 生 育 環 境
サワラ(ヒノキ科) 高木 大谷地の東の道端 湿原周縁のサワラ・キタゴヨウ群落で優占するほか,湿原内低木群落のアカミノイヌツゲ群落に生育 する(竹原,1989a)
カラマツ(マツ科) 高木 大谷地の東のスス
キ草地 2002年時点の水無谷地の西の回復途上低木群落の一部で優占する(樋口ら,2004)
アカマツ(マツ科) 高木 大谷地の東のスス
キ草地 農地または道端に見られる(竹原,1989c)
ヤマナラシ(ヤナギ科) 高木 大谷地の東のスス キ草地 バッコヤナギ(ヤナギ科) 小高木ま
たは高木 大谷地の東の道端 森林内または林縁に見られる(竹原,1989c)
オオキツネヤナギ(ヤナギ科) 低木 大谷地の東の道端 森林内または林縁に見られる(竹原,1989c,オオネコヤナギとして)
イヌコリヤナギ(ヤナギ科) 低木 大谷地の東の道端 湿原内低木群落のイヌコリヤナギ群落で優占する(竹原,1989a)
オノエヤナギ(ヤナギ科) 高木 大谷地の東の道端 沢沿いのヤチダモ群落に散生する(樋口ら,2004)
ダケカンバ(カバノキ科) 高木 大谷地の東の道端 湿原周辺のダケカンバ群落で優占するほか(竹原,1989a),沢沿いのヤチダモ群落に散生し,2002 年時点の水無谷地の西の回復途上低木群落の一部で優占する(樋口ら,2004)
ウダイカンバ(カバノキ科) 高木 大谷地の東のスス
キ草地 森林に見られるほか(竹原,1989c),2002年の水無谷地の西の回復途上低木群落の低木層に侵入し ている(樋口ら,2004)
シラカンバ(カバノキ科) 高木 大 谷 地 の 東 の 道 端,ススキ草地,
ダケカンバ林縁
湿原周辺のダケカンバ群落にわずかに混生するほか(竹原,1989a),沢沿いのヤチダモ群落に散生し,
2002年時点の水無谷地の西の回復途上低木群落の一部で優占する(樋口ら,2004)
ツノハシバミ(カバノキ科) 低木 大谷地の東の道端 ブナ‑チシマザサ群落にみられる(樋口ら,2004)
ブナ(ブナ科) 高木 大谷地の東の道端 尾根斜面から上部平坦面のブナ‑チシマザサ群落で優占し,湿原周縁のサワラ・キタゴヨウ群落に混 生する(竹原,1989a)
コブシ(モクレン科) 低木 水無谷地の西のブ ナ林縁 タムシバ(モクレン科) 高木 大 谷 地 の 東 の 道
端,湿地縁 湿原および森林内または林縁に見られる(竹原,1989c)
クロモジ(クスノキ科) 低木 大 谷 地 の 東 の 道
端,湿地縁 ブナ‑チシマザサ群落で高い常在度で見られる(竹原,1989a,オオバクロモジとして)
ノリウツギ(ユキノシタ科) 小高木あ るいは高 木
水無谷地の西のブ ナ林縁および大谷 地の東のススキ草 地,サワグルミ林
ブナ‑チシマザサ群落で高い常在度で見られ(竹原,1989a;樋口ら,2004),湿原周辺のダケカン バ群落で密生し,湿原内のハイイヌツゲ・ヨシ群落で高い常在度で見られ(竹原,1989a),1986〜
1988年ごろの耕作地の空き地や農道脇に生育する(竹原,1989a)
ズミ(バラ科) 小高木 大谷地の東のダケ
カンバ林縁 湿原の大谷地に流路に堆積した土砂で優占し,群落を形成している(竹原,1989a,1989c)
ウワミズザクラ(バラ科) 高木 大谷地の東の道端 ブナ‑チシマザサ群落に混生し(竹原,1989a;樋口ら,2004),草本層でも実生の常在度が高く,湿 原周辺のダケカンバ群落にもわずかに生育し,沢沿いのヤチダモ群落にも散生し,湿原内のウワミズ ザクラ・ノリウツギ群落に出現する(竹原,1989a)
ノイバラ(バラ科) 低木 大谷地の東のスス
キ草地 農地や道端で見られる(竹原,1989c)
クマイチゴ(バラ科) 低木 大谷地の東のスス
キ草地 ヨシ・ヨモギ群落に生育し(竹原,1989a),農地または道端でも見られる(竹原,1989c)
エビガライチゴ(バラ科) 小低木 大谷地の東の道端 ヨシ・ヨモギ群落に生育し(竹原,1989a),森林でも見られる(竹原,1989c)
モミジイチゴ(バラ科) 低木 大谷地の東の道端 森林内または林縁に見られ(竹原,1989c),耕作跡地のヨシ群落でやや常在度が高い(樋口ら,
2004)
ナワシロイチゴ(バラ科) 小低木 大谷地の東のスス
キ草地 耕作跡地内で見られる(樋口ら,2004)
ナナカマド(バラ科) 高木 大谷地の東の道端 ブナ‑チシマザサ群落に見られ(樋口ら,2004),沢沿いのヤチダモ群落で散生する(竹原,1989a)
エゾユズリハ(ユズリハ科) 低木 大谷地の東の道端 ブナ‑チシマザサ群落の草本層に見られる(竹原,1989a)
ハリエンジュ(マメ科) 高木 大谷地の東の道端 開拓跡地で見られる(樋口ら,2004)
キハダ(ミカン科) 高木 大谷地の東の道端 森林内または林縁に見られる(竹原,1989c,ヒロハノキハダとして)
ヤマウルシ(ウルシ科) 小高木 大谷地の東の池縁 ブナ‑チシマザサ群落低木層で高い常在度で見られ,草本層でも実生の常在度が高く,沢沿いのヤチ ダモ群落の低木層や草本層にも出現する(竹原,1989a)
アカイタヤ(カエデ科) 高木 大谷地の東の道端 森林内または林縁に見られる(竹原,1989c)
ウリハダカエデ(カエデ科) 小高木な
いし高木 水無谷地の西のブ ナ林縁および大谷 地の東の道端
森林内または林縁に見られる(竹原,1989c)
コハウチワカエデ(カエデ科) 小高木ま
たは高木 大谷地の東の道端 森林内または林縁に見られる(竹原,1989c,イタヤメイゲツとして)
ツルウメモドキ(ニシキギ科) つる性小
高木 大谷地の東のスス
キ草地,道端 森林内または林縁に見られる(竹原,1989c,オニツルウメモドキとして)
コマユミ(ニシキギ科) 小高木 水無谷地の西のダ ケカンバ林縁および 大谷地の東の道端
森林内または林縁に見られる(竹原,1989c)
オオツリバナ(ニシキギ科) 小高木 大谷地の東の道端 森林に見られる(樋口ら,2004)
クロヅル(ニシキギ科) 藤本 水無谷地の西のブ
ナ林縁 森林内または林縁に見られる(竹原,1989c)
ヤマブドウ(ブドウ科) つる性木
本 大谷地の東のスス
キ草地,道端 森林内または林縁に見られる(竹原,1989c)
リョウブ(リョウブ科) 小高木 水無谷地の西のブ
ナ林縁 森林内または林縁に見られる(竹原,1989c)
ウラジロヨウラク(ツツジ科) 低木 大谷地の東の道端 湿原周辺のダケカンバ群落で密生し,湿原内のハイイヌツゲ・ヨシ群落で高い常在度で見られる(竹 原,1989a)
レンゲツツジ(ツツジ科) 低木 大谷地の東の道端 湿原内のズミ群落で林冠を構成し,湿原内のハイイヌツゲ・ヨシ群落で高い常在度で見られる(竹原,
1989a)
サワフタギ(ハイノキ科) 低木 大谷地の東の道端 湿原に見られる(竹原,1989c)
ケアオダモ(モクセイ科) 高木 水無谷地の西のブ
ナ林縁 ブナ‑チシマザサ群落に散生し(竹原,1989a,アオダモとして;樋口ら,アオダモとして),草本層 でも実生の常在度が高く,湿原周縁のサワラ・キタゴヨウ群落にも混生し,湿原周辺のダケカンバ群 落にわずかに生育する(竹原,1989a,アオダモとして)
オオカメノキ(スイカズラ科) 小高木 水無谷地の西のブ
ナ林縁 ブナ‑チシマザサ群落で高い常在度で見られ(竹原,1989a;樋口ら,2004),湿原内のウワミズザク ラ・ノリウツギ群落にも出現し,湿原内のアカミノイヌツゲ群落の一部にも散生する(竹原,1989a)
図6.天然記念物駒止湿原(福島県南会津町および昭和村)指定地内の 開拓跡地における
2013
〜2014
年の植生.駒止湿原保存対策管理計画策定専門委員会(2008)にある駒止湿原将来 構想図より作成.
2.開拓跡地における2013〜2014年の植生
2013〜2014年に天然記念物駒止湿原の開拓跡地内 で確認された各群落の場所と範囲を図6,群落ごと の種構成や群落高等を表5,群落の面積を表6に示 した。今回,新たにシラカンバの疎林が確認された ので,シラカンバ型群落として区別した(図5F,
表5,コドラートK8,
9)。今回はススキ型群落の
生育良好亜型と生育不良亜型を主に草丈で区分した が,ススキの草丈が2m前後の群落が多く,概して 区分は困難であった(図5A,表5,コドラートK1, 2, 5, 6)。今回はススキ型群落の生育不良亜型
と扱った草丈が2mを下回っている場所でも,株は 密で,茎葉は濃緑色であると感じられた場所があっ た(図5C,表5,コドラートK5,6)。ススキを
全く欠く,あるいは被度が1%未満の牧草型群落は,イネ科優占牧草型,ヨモギ優占牧草型のいずれも大 谷地の東の開拓跡地には見られなかった。ただし,
ヨモギの被度が高くススキの被度が比較的低い場所 がススキ型群落の生育不良亜型に約100㎡残存して いた(図5D ,コドラートK7)。このような場所 はススキの被度が数%以上あるためにススキ型群落 に含めた。
シラカンバ型群落(図5F)は,旧農道沿いから 湿原の間,あるいは湿原の縁に9,580㎡確認された
(図6,表6)。調査をした2つのコドラートの群落 高はそれぞれ10.0mおよび15.0mであった(表5)。
植被率は高木層がそれぞれ20%および25%,草本層 がいずれも
80 %であった。出現種数はいずれも 19
種 類であった。優占種は高木層ではシラカンバ,草本 層ではススキであり,高木層は高木のシラカンバと ダケカンバのみからなり,草本層には高木のダケカ ンバや低木のイヌコリヤナギ等の幼木がそれぞれ10 および11種類確認された。一部で自生のブナや林床 植物であるベニバナイチヤクソウの生育も確認された。ススキ型群落の生育良好亜型(図5A)は,旧農 道沿いから大谷地の東の森林の林縁や低木型群落の ササ亜型の縁の間に
28
,190
㎡確認された(図6,表6)。調査した2つのコドラートそれぞれの群落高
は2.0mおよび2.1mで,草本層の植被率は50%およ び95 %だった(表5)。出現種類数は 16
種類および25種類で,高木種のアカイタヤ,つる性木本のヤマ
ブドウとオニツルウメモドキがそれぞれ1つのコド ラートに出現した。優占種はススキで,ヒカゲノカ ズラも多く見られた。アカイタヤは高さ0.6m程度 表4.天然記念物駒止湿原(福島県南会津町および昭和村)指定地内の大谷地の東の開拓跡地で2013
〜2014
年に確認された帰化植物.
和 名(科名) 生育形 生育地および生育環境 備 考
ヒメスイバ(タデ科) 多年草 耕作跡地(ススキ型群落生育良好亜型,生育不良亜型),
旧農道沿い
エゾノギシギシ(タデ科) 多年草 耕作跡地,旧農道沿い 要注意外来生物
ハリエンジュ(マメ科) 高木 旧農道沿い 要注意外来生物
タチオランダゲンゲ(マメ科) 多年草 耕作跡地,旧農道沿い
ムラサキツメクサ(マメ科) 多年草 旧農道沿い
シロツメクサ(マメ科) 多年草 耕作跡地(ススキ型群落生育良好亜型,生育不良亜型),
旧農道沿い
メマツヨイグサ(アカバナ科) 越年草 耕作跡地(ススキ型群落生育良好亜型,生育不良亜型,
牧草型群落,シラカンバ型群落)
要注意外来生物
ヘラオオバコ(オオバコ科) 多年草 耕作跡地(ススキ型群落生育良好亜型),旧農道沿い 要注意外来生物
ハルジオン(キク科) 多年草,一年
草,越年草
耕作跡地 要注意外来生物.調査地
では越年草として生育.
ブタナ(キク科) 多年草 旧農道沿い 要注意外来生物
セイヨウタンポポ(キク科) 多年草 耕作跡地(ススキ型群落生育良好亜型),旧農道沿い
コヌカグサ(イネ科) 多年草 耕作跡地(ススキ型群落生育良好亜型,生育不良亜型),
旧農道沿い
ハルガヤ(イネ科) 多年草 旧農道沿い
カモガヤ(イネ科) 多年草 耕作跡地(ススキ型群落生育良好亜型,生育不良亜型),
旧農道沿い
要注意外来生物
オオアワガエリ(イネ科) 多年草 旧農道沿い 要注意外来生物
ツルスズメノカタビラ(イネ科) 1〜2年草 旧農道沿い
ナガハグサ(イネ科) 多年草 耕作跡地