• 検索結果がありません。

食の安全 と安心 =教 育の視点か ら一

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "食の安全 と安心 =教 育の視点か ら一"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

食の安全 と安心

=教 育の視点か ら一

日本 の食 品は世界一安全 といえるに もかかわ らず,多 くの人が不安 を感 じている。その原因 であ る食品添加物,残 留農薬,遺 伝子組 み換 え 作物 ,牛 肉な どはすべ て国が厳 しく審査 し,安 全 であることが証明 され,実 際 にこれ らによる 健康被害 は出てい ない。

不 安 を感 じる大脳 辺縁系 には自己保存 の本能 の機 能がある。危険 な相手 に出会 うと恐怖 を感 じて とっさに逃 げ出 し命が助か る。 し か し相手 が危 険なのか判断で きず,不 安 になって立 ち止 まる と,相 手がその瞬間に飛 びかかつて くるか もしれ ない。不安 で行動で きない ことは命の危 険 なのだが,本 能 は簡単 な方法で不安 を解消す る。それは安全 でない ものはすべ て危険 に分類 す る とい う白黒判 断 だ。牛 海綿状脳 症 (BSE) な どの言葉 は良 く聞 くが,そ れが どんな ものか 詳細 を知 る人は少 ない。そ して 「よ く知 らない もの は不安,だか ら危険」 と本能的に判断す る。

本 能 は 「危 険1青報」 を聞 き逃 さない。 もし聞 き逃 した ら生命の危険があるか らだ。 これ を利 用 して,新 聞や テ レビは 「この食 品 は危 ない」

とい う情報 を流 し,わ れわれはこれ を見 て不安 や恐怖 を感 じ,そ んな食品は拒否す る。 この情 報が正 しければ良いのだが,間 違 ってい ること

も多 い。 また 「得 になる情報」を聞 き逃 さない。

自分 だけ損 を しないためだ。 こうしてテ レビで

「これ を食べ れば健康 になる」 とい う話 を聞 く とその まま信 じてスーパーに走 るのは,わ れわ れの行動の多 くを本能が決めているか らだ。

人間は本能だけでな く理性 も持つ。 まわ りの 状 況が安全 と危険の 2つ ではな く,そ の中間が あ る こ とを理解 して,適 切 な対策 を立て ること がで きるのは理性 の働 きだ。 しか し理性 で安全 対 策 を考 えることはほ とん どない。危険 を一瞬

262(262〜 264)

ランチョン教育セミナー

小 児 保 健 研 究

明 ( 東京大学名誉教授1 日本学術会言義会員)

で半J 断 して行 動 しな くて は な らない の だが , 考 え るの は時 間が か か るので本 能 の 白黒 判 断 に頼 るの だ。 時間 が 十分 あ る と きに も自分 で考 え る こ とはほ とん どな く,信 頼で きる人の言 う通 り にす る。狩猟採集時代 ,危 険 に出会 った ら経験 が豊富 な群れの リー ダーが対策 を考 えて,群 れ の全員がそれに従い命が助か った。経験がない 者が判 断す るのは危険 だった。そんな歴史の中 で身につけた習性 だろ う。

現代社会 で は新 聞や テ レビが リー ダーの代 わ りを務 め,わ れわれは読 んだ ことを適 当に組み 合 わせ て 自分 の意見の ように言 う。添加物や残 留 農薬が危 ない と聞 くとその まま信 じ, この食 品 は身体 にいい と聞 くとその まま信 じる。 自分 で理性的な判断がで きるのは責任 ある立場 に立 ち, 自分がや らなけれ ばな らない ときだけだ。

また一度理性的 な判断で危険 を回避す る と,次 に同 じ危険が来た ときには以前 と同 じ方法 を使 うこ とで危険 にす ばや く対応 す る。 これが先入 観 を変 えるこ とが難 しい理 由だ。

理性 の脳 の本来の役 割 は,社 会 を作 るために 本能の欲望 を抑 える こ とだが,こ の脳 は生 まれ た ときには白い ノー トで,長 い時間 をかけて教 育 と経験 に よ り育つ。その発達が十分で ない と, 本 能 を押 さえ られない人間がで きる。 また少 し の酒 で簡単 に麻痺す る。「酒 の上 の過 ち」 はい つ の時代 に もな くな らない。

添加物や残留農薬の ような化学物質は,多 量 に食べ る と何 らかの毒性があるが,量 が少なけ れば身体 に何 の作用 もない。 これ を化学物質の

用 量作用 関係」 と呼 ぶ。 身体 に影響 が ない量 は実験動物 を使 って決定 し,これ を 「無作用量」

と呼ぶ。そ して種差や個体差 を考慮 して,無 作 用 量 の100分の 1あ るい はそ れ以下 を 「1日 摂

Presented by Medical*Online

(2)

第66巻 第 2号,2007

取許容量」 と決める。 これは 「一生涯,毎 日摂 取 し続けても,健 康に影響がない量」で,国 際 的に認め られた安全1生の考え方である。遺伝子 組み換 え作物や米国産牛肉なども同様の考 え方 であ り,こ のような制度が十分に機能 している ので,日 本の食品は安全なのだ。

現在,食 品が原因で起 こる病気は:食 物アレ ルギー と食中毒だけであ り,死 亡者は主にフグ やキノコの中毒で,添 加物や残留農薬による健 康被害 はない。 ところが消費者が最 も不安に思 うものは添加物 と残留農薬で,食 中毒 を恐れる 人はそれほど多 くない。誤解の大 きな原因は新 聞やテ レビの 「添加物 は危険,残 留農薬はこわ い」 という報道である。その根拠は何か ?

勿論,添 加物 も農薬 も多量を飲めば健康 に被 害が出るが,1日 摂取許容量以下の量なら身体 に影響がない。 この用量作用関係 を誤解 して, 少量で も多量 と同 じような効果があると思い込 んで,「添加物や残留農薬はこわい」 とい う間 違った報道をする例は非常に多い。

個 々の化学物質の安全性 は科学的に確認 さ れているが,毎 日何十種類 もの化学物質を食べ るとこれ らが体内で反応 して恐ろ しいことが起 こるか もしれない」 とい う有吉佐和子氏の著書

複合汚染」の信者 も多い。 しか しこの本が出 版 されて20数年,複 合汚染 による健康被害はな い。科学的にも身体に全 く影響がない 1日 摂取 許容量以下の量の添加物や残留農薬 を何種類一 緒 に食べて も,健 康 に影響が出るはずがない。

一方,医 薬品のように身体に影響がある量の化 学物質 を何種類か一緒に摂 ると,相 乗作用や拮 抗作用 などが現れることがある。複合汚染の恐 怖は,作 用が全 くない量 を使 う添加物や残留農 薬には当てはまらず,作 用がある量 を使 う医薬 品だけに当てはまるのであ り, これ も用量作用 関係の誤解である。

また消費者の誤解 を商売 に利用 して,食 品, 化粧品か ら ドッグフー ドまで無添加や無農薬が 広がつた。その宣伝 を見ると,添 加物や残留農 薬が恐 ろ しく,無 添加 ・無農薬が健康 にいい と い う 「印象」 を与えている。 しか しこれに科学 的な根拠 は全 くないことはすでに説明 した とお りである。 ところが消費者はこんな宣伝 を見る と,「添加物や残留農薬はこわい」 と信 じて し

263

まう。

残念なが ら,こ んな科学的な間違いや詐欺 ま がいの商法 に対 して反論す る科学者 は少 ない。

逆 に,添 加物や残留農薬だけでな くBSEや 遺 伝子組み換 え作物などについて も「やは り怖い」

と言 う研究者 もいる。科学者 も人の子で,専 門 外のことは理性 より本能で判断 しやすい。利害 関係の基づ く発言 もある。そ して新聞 もテ レビ も 「危ない」 とい う話ばか りを取 り上げ,国 が 厳重 に審査 して安全 を保証 している事実は報道 しない。だか ら正 しい情報が消費者に届 くこと はない。

添加物や農薬は事業者や生産者の利益 になる だけで,消 費者は危険なものを押 し付 けられて いるという誤解がある。 しか し添加物がなけれ ば加工食品の大量生産はで きな くな り,食 品の 質は落ちて値段 は上がる。農薬がな くては日本 の農業が成 り立たない。生産 。加工の現場 と消 費者があまりに遠 くなって しまったための誤解 だろうか。

天然 。自然信仰の人 も多い。例 えば一般の人 が考えるガンの原因は 1位 が添加物,2位 が残 留農薬だが,専門家が考える 1位 が普通の食事, 2位 が タバ コである。普通の食事がガンの原因 になるのは代謝過程で発生する活性酸素のため である。 さらに,す べての野菜や果物は 「天然 の農薬」 をもち,昆 虫やカビや細菌か ら自分の 身を守っているが,その多 くが発 ガン性 を示す。

そ してわれわれが野菜や果物か ら摂取する天然 化学物質の量は 1日 摂取許容量の約 1万 倍にな る。「無農薬 は安全」 とい う主張 に科学的根拠 がないことを示す事実である。野菜にはビタミ

ンなど身体に良い化学物質 も多いが,同 じ種類 の野菜 を多量 に食べ ると,同 じ種類の化学物質 を多量に食べることにな り健康に被害が出るこ とがある。昔か らの同 じ野菜 をた くさん食べて はいけない という教 えにはこのような科学的な 根拠があるのだが,自 然の食べ物にはリスクが あるという事実を現代人はいつのまにか忘れて

しまったのだ。

食品に対する消費者の不安 をな くすために銘 記すべ きは,人 間は信頼で きる人の言葉 を受入 れるけれ ど,信 用で きない相手の言葉は受入れ ないことだ。不正表示 などの続発により生産か

Presented by Medical*Online

(3)

264

ら販売 までにかかわる事業者 に対す る信頼性が な くな り,こ れ を監督す る行政へ の信頼 も薄れ て不安 を呼 んだ。不安対策の鉄則 は 「正直」で あ り,事 業者 は絶対 に違反 を しない ことだ。

現在行 われてい る安全対策す なわち健康対策 は,健 康 に被害 を及 ぼす可能性が ない レベル ま で リス クを減 らす ことであ り,健 康 に被害が な い小 さな リス クを減 らす ための無駄 な対策費 を 掛 けない こ とである。国の規制 はこの ような現 実論,あ るい は実 質安全論 に基 づ いて行 われ る。一方,わ れわれは本能的にゼ ロリス クの理 想論 あ るいは絶対安全論 に立つ。対策が不要 な 科学 的 には無視 で きる小 さな リス ク も,ゼ ロ リ ス クの立場か らは心配 になる。 この両者 の理性 的 な対立 こそが食の安全 を守 る重要 な仕組 みで あ り,ど ち らが な くて も食の安全 は守れない。

しか し,両 者の対立 は時 として理性 を超 えて

小 児 保 健 研 究

感情 の対立 にまで達す ることが多 く,そ の背景 には不信感があった。消費者,生 産者,事 業者 な どの関連 の団体が これ まで以上 に充実 して, 感情 で はな く科学の立場 に立 って食品の安全 を 議論す ることが望 まれる。

人 間 は本 能が もつ恐怖,不 安,愛 着,憎 悪, 不信,不 公平感,恨 み,欲 望 な ど多 くの感情 で 動 か されてい る。 同時 に人間は理性 で行動す る こ ともで き,科 学,哲 学,教 養 や品格 を持 って い る。現代 を生 き抜 き,子 どもたちのために安 全 な社会 を築 くためには,わ れわれは感情で行 動す るので はな く,広 い視野 に立 って理性で行 動す ることが求め られてい る。食 に対す る無用 の不安 を解消す るためには教育,医 療 ,メ デ イ ア等の関係者が連携 して,子 どもの ときか ら正

しい知識 と科学的な考 え方,そ してメデ ィア リ テ ラシー を身につけ させ ることが必要である。

Presented by Medical*Online

参照

関連したドキュメント

従来の分離教育を前提とした障害児教育専門家養成

 異なる 3 つの世界(「物語世界」「語りの世界」「現実世界」)は,異なる 3

平成 17 年度に食育基本法が成立し、食育が大きな

要約:近年、スクールカウンセラー(以下 SC)及びスクールソーシャルワーカー(以

Ⅰ.特集 小学校の英語教育の是非をめぐって 会話をこなし思考する状況の「モノリンガル」、 二つの言語で[1常会謂をするが、双方の言語

の促進が述べられている( 「朝日新聞」 平成16 年9月2日朝刊)。高度な専門性を備えた教員

る援助がもはや一時的で緊急の措置ではなかったところに大きな意義があった。1948

M(Y)によって語XとYの同一性を定義することにする。 語Xと語Yの音声が異なる場合。M(X)~