近似法
摂動(定常状態)
系の運動を決めるハミルトニアン𝐻が以下のように与えられたとする。
𝐻 = 𝐻0+ λV … (1)
運動は主としてH0で決められ、λVの影響が小さな補正とみなしうる場合を考える。λV を摂動という。
λは補正の程度をみるためのパラメータである。λ、λ2、λ3の順に補正の程度は弱くなる。
摂動論は、H0の固有値、固有ベクトルが既知であり、λV によるそれからのずれが小さい 場合に近似計算(λのべき級数展開)によってHの固有値や固有関数を求める方法である。
固有方程式
𝐻0𝜑𝑛(0)= 𝜀𝑛(0)𝜑𝑛(0)… (2)
は解かれているとする。(|𝜑𝑛(0)> のケットベクトルの記号を省略。以下同様)
𝐻𝜑𝑛= 𝜀𝑛𝜑𝑛 … (3) の固有値と固有関数をλのべき級数に展開する。
𝜀𝑛= 𝜀𝑛(0)+ 𝜆𝜀𝑛(1)+ 𝜆2𝜀𝑛(2)+ ⋯ (4) 𝜑𝑛= 𝜑𝑛(0)+ λ𝜑𝑛(1)+ 𝜆2𝜑𝑛(2)+ ⋯ (5)
これらを(3)の両辺に代入し、両辺でλの同じべきの項を等しいとおく。λの0次の項に ついて整理すると、(2)が得られる。λの1次の項についてまとめると、
𝐻0𝜑𝑛(1)+ 𝑉𝜑𝑛(0)= 𝜀𝑛(0)𝜑𝑛(1)+ 𝜀𝑛(1)𝜑𝑛(0) … (6)
が得られる。{𝜑𝑛(0)} が完全正規直交系をつくっているとし、𝜑𝑛(1)をこれで展開する。
𝜑𝑛(1)= ∑ 𝑐𝑛𝑗(1)𝜑𝑗(0)
𝑗
… (7)
これを(6)に代入し、左からケットベクトル< 𝜑𝑖(0)|を掛ける。
𝜀𝑖(0)𝑐𝑛𝑖(1)+< 𝜑𝑖(0)|𝑉|𝜑𝑛(0)> = 𝜀𝑛(0)𝑐𝑛𝑖(1)+ 𝜀𝑛(1)𝛿𝑛𝑖 … (8) これより、縮退がない場合、𝑖 = 𝑛に対し、
𝜀𝑛(1)= < 𝜑𝑛(0)|𝑉|𝜑𝑛(0)> … (9) 𝑖 ≠ 𝑛に対し、
𝑐𝑛𝑖(1)=< 𝜑𝑖(0)|𝑉|𝜑𝑛(0)>
𝜀𝑛(0)− 𝜀𝑖(0) … (10) 二次以上の摂動についても同様に計算できる。
遷移確率
系の状態が非定常な場合、時間を含むシュレーディンガー方程式は、
HΨ = iℏ𝜕Ψ
𝜕𝑡 … (11)
ただし、Ψはq1,q2,…,tの関数である。摂動をVとし、𝐻 = 𝐻0+ 𝑉とする。(1次の摂動の み考えるので、パラメータλは省略)
𝐻0の固有値と固有関数は既知とする。
𝐻0Φ𝑛= 𝐸𝑛Φ𝑛 … (12)
ただし Φ𝑛 は、q1,q2,…の関数であり、{|Φ𝑛>}は完全正規直交系とする。
V=0の場合の一般解は、
Ψ0= ∑ 𝐶𝑛𝑒−𝑖𝐸𝑛𝑡/ℏΦ𝑛
𝑛
… (13)
であたえられる。摂動Vがある場合は、係数𝐶𝑛が時間の関数になっていると考える。
Vが時間tを含まない場合
Ψ = ∑ 𝐶𝑛(𝑡)𝑒−𝑖𝐸𝑛𝑡/ℏΦ𝑛
𝑛
… (14) を (11) に代入し、左から< Φ𝑓|を掛けると
∑ 𝐶𝑛(𝑡) 𝑒−𝑖𝐸𝑛𝑡/ℏ< Φ𝑓|𝑉|Φ𝑛>
𝑛
= iℏ𝑑𝐶𝑓
𝑑𝑡 𝑒−𝑖𝐸𝑓𝑡/ℏ … (15) 初期条件として、系はt=0においてΦ𝑖の状態にあったとする。
𝐶𝑖(0) = 1, 𝐶𝑛(0) = 0(𝑛 ≠ 𝑖) … (16)
Vの影響が小さく、t>0においてもこの関係が成り立つと仮定し、(15)に代入すると、
𝑒𝑖(𝐸𝑓−𝐸𝑖)𝑡/ℏ< Φ𝑓|𝑉|Φ𝑖> = iℏ𝑑𝐶𝑓
𝑑𝑡 … (17) f ≠ i(ゆえに、𝐶𝑓(0) = 0)とし、積分すると、
𝐶𝑓(𝑡) =1 − 𝑒𝑖(𝐸𝑓−𝐸𝑖)𝑡/ℏ
𝐸𝑓− 𝐸𝑖 < Φ𝑓|𝑉|Φ𝑖> … (18) よって、
|𝐶𝑓(𝑡)|2= [2 sin(𝐸𝑓− 𝐸𝑡)𝑡 2ℏ 𝐸𝑓− 𝐸𝑖 ]
2
|< Φ𝑓|𝑉|Φ𝑖>|2 … (19)
これはt=0においてΦ𝑖の状態(始状態)にあった系が、時間t後にΦ𝑓の状態(終状態)に 遷移する確率を表す。ディラックのデルタ関数を用いると、
|𝐶𝑓(𝑡)|2=2𝜋
ℏ 𝑡|< Φ𝑓|𝑉|Φ𝑖>|2𝛿(𝐸𝑓− 𝐸𝑖) … (20) これより、
(単位時間当たりの遷移確率)=2𝜋
ℏ |< Φ𝑓|𝑉|Φ𝑖>|2𝛿(𝐸𝑓− 𝐸𝑖) … (21)
これをすべての終状態または関心のある終状態について寄せ集めたものを、Fermi の黄金 律という。
摂動Vが周期的な振動をする場合
V = 𝑉+𝑒𝑖𝜔𝑡+ 𝑉−𝑒−𝑖𝜔𝑡 (𝑉−= 𝑉+†) … (22) という形に表され、
(単位時間当たりの遷移確率)=2𝜋
ℏ |< Φ𝑓|𝑉|Φ𝑖>|2𝛿(𝐸𝑓− 𝐸𝑖± ℏ𝜔) … (23) のようになる。